一夜明け。8月6日――久しぶりに朝まで愉しむことが出来て大変満足できたが、当のCクラスの女子メンバーは、下着もまともに着ないまま床に倒れていた。
経験豊富な星之宮すら撃沈している辺り、昨日の宴の激しさを物語っている。普通なら、教師と一緒など有り得ないと姫野辺りが文句を言ってもおかしくないが、昨日星之宮が参加した頃にはもう全員出来上がっていたので、全く気にせず祭りを楽しんでいた。
そんなこんなで昨日のことを振り返っていると姫野がいち早く目を覚ましたようで、改めてこの惨状を見て、予想通り「有り得ない……」と呟いている。昨日はノリではっちゃけてしまったが、普段の自分に戻ってこの異常事態を冷静に見つめ直すことが出来たのだろう。
とはいえ、このまま姫野に嫌悪感を植え付けたまま宴を終わらせるのは面白くなかった。駄目押しとばかりに、即座に姫野の傍によって、その肩を抱き寄せていく。
「ちょっ、なにす――んむっ!」
唇を押し付けて無理やり黙らせる。姫野も何とかオレを引きはがそうとしているが、姫野程度の力ではオレを押し返せない。そのまま舌を入れて口の中を掻き回し、何も考えられなくなるくらいに頭を馬鹿にさせてやると、段々と姫野の抵抗も弱くなってきた。
最初こそ無理やりだったが、一線を越えたことでガードが緩くなっている。その前に、愚痴を聞いて共感してやったことも大きいかもしれない。無理やりだけど、優しくはしたので、オレという人物のイメージが大きく変わらなかったのだろう。
Tレックスもまた、姫野の唇を味わったことで元気になっており、姫野も真っ赤になりながらも目線が反らせずにいる。
オレは何も言わない。だが、姫野はまるで責められているかのような圧を感じているようで、「……わかった」と小さく声を零した。
「……こんな大きいのが入ってたんだ」
と、姫野が小さく呟く。本人としても独り言だったのだろうが、オレ以外誰も聞いていないはずのその言葉に、「そうだよねー」と返事があった。
ビクッと慌てて姫野が振り返ると、いつの間にか起きていた小橋が笑顔でこちらに歩いてくる。姫野は咄嗟に「いや、これはちがっ」と言い訳をしようとしたが、小橋は「別にいいじゃん、そんなに恥ずかしがらなくたって。もう今更でしょ」と、姫野にくっつくくらい顔を近づけてきた。
そうして、帆波や星之宮も目を覚ましていくが、起きてすぐにオレの近くで屈んでいる姫野と小橋の姿を見て、当たり前のように乱入しようとしてくる。
星之宮は仕事があるのでは――とも思ったが、どうやら5日と6日は教師の休みに当てられているようで、必要最低限の仕事以外はしなくていいらしい。よって、このまま宴は続行となった。
止める人間が誰もいないので姫野もまたされるがままだったが、流石に体力が限界のようで、夕方にはもう半分瀕死というような状態になってしまっている。
しかし結果として、この会が解散した後も、彼女たちはオレのことを受け入れつつあった。
その証拠に、オレが彼女たちに軽いセクハラをしても、小橋は「もう、だめだよっ」と可愛く怒るだけであり、あの姫野ですら「ちょっ、こんなところで」と文句を言いながらも抵抗はしないレベルにまで気を許してしまっている。
とはいえ、姫野は小橋のように完全に絆された訳ではないようで、相変わらず態度は厳しいし、無遠慮に距離詰めようとすれば必ず一歩引いていた。それでいて雑に扱うと怒る。自分からくっついてくる小橋を少しは見習ってほしいものだ。
そんな自クラスの生徒の反応を見た星之宮は「そりゃ、こんな凄いの知っちゃったら、もう離れられる訳ないわよねぇ」と頷いている。少なくとも彼女たちにとって、オレが脅しているというのは、もう完全に形だけになってしまっているようだった。
◇◆
同じく8月6日――久しぶりに大ハッスルしてとても満足したが、当然ながら昨日のパーティで軽く菓子を摘まんだっきり何も食べていないので、かなりの空腹感に襲われていた。
既に時刻はもう夕方と言ってもおかしくない時間になりつつあるので、少し早めの夕食と言うことになるのだが、ビュッフェは丁度時間前ということでやっていなかった。
前にも少し書いたが、この船のビュッフェは無料で利用でき、味も非常に満足できるため、生徒たちからの人気も高いのだが、そのために時間制限や入場制限なども敷いており、とても混んでいるのだ。
まぁ、今回はタイミングが悪かった――と、いうことで適当にお店を探していると、昨日や一昨日と同じように、七瀬がこちらに声をかけてきた。
昨日は結局あまり話が出来なかったので、今日は七瀬の話を聞きながら適当に世間話をしていく。早めの夕食を一緒に食べないか声をかけてみたが、少し前に遅めのお昼を食べてしまったとのことで今回は遠慮されてしまった。
そのまま七瀬と別れ、食事が出来るお店の近くまで足を運ぶ――と、今度は山村と森下を連れて笑みを浮かべている坂柳の姿が目に入ってきた。
向こうも少し遅れてこちらに気付いたようで、坂柳がぺこりと頭を下げてくる。それで森下もオレの存在を意識したのか、「アナコンダ大先生ではないですか」と驚いた様子を見せようとしたみたいだが、特に表情が大きく変わったような様子はなかった。
隣にいた山村が「アナコンダ……?」と首を傾げているが、おそらく森下の言っているアナコンダ大先生とは、Tレックスのことを差していると見てほぼ間違いないだろう。
「森下、人を爬虫類扱いするのはやめてくれ」
流石に無視する訳にもいかないので、三人の方に歩きながら森下にツッコミを入れていく。
「そのあまり変わらない表情など蛇っぽくていいと思うんですけど、綾小路清隆の真価は顔ではありませんからね」
「目線を下に向けて言葉を話すな。仮にも女子だろう、お前は……」
あからさまな下ネタを余裕でぶっ込んでくる辺り、やはり森下は変な奴というべきか。坂柳も特にツッコミを入れるつもりはないようで、微笑みを浮かべているだけだった。
唯一、ほぼオレと初対面と言っていい山村だけは何が何だかわからないと言った様子を見せている。何というか、普通の女子というのがこんなに有難いと思ったことはないかもしれない。
「で、お前らは何してるんだ?」
まぁ、こんな所にいる以上、目的は同じなのはわかっているが、こういう時は話題に上げるのが会話の作法というモノだろう。
「軽く食事でもしようという話になったんですよ。そういう綾小路くんこそ、どうしてこちらに?」
「まぁ、お前らとほぼ同じだ。昼食を取るタイミングを逃してな。少し早めの夕食を取ろうと思ってきたんだ」
正確には昼だけでなく、朝も逃しているんだが、そこまで具体的に話す必要はない。
「では、これも何かの縁ですし、よろしければ一緒に食事でもどうですか?」
「それは嬉しい誘いだが……いいのか?」
主に山村が。
「どうやら、綾小路清隆は山村美紀の社交性のなさを懸念しているようですが、最近はこれでも少しずつ発言することが増えてきているんですよ。10回に1回が、10回に2回にはなっています」
「そ、そんなに少なくはないと思いますけど……」
誰とでも話が出来そうな森下はともかく、オレと山村には接点が殆どない。だからこそ、基本的にあまり他人と会話しない山村にはオレと一緒に食事をするというのはかなり負担になると思ったのだが、意外にもそこまで山村も嫌そうな表情は浮かべていなかった。
「そうだな。そちらが問題ないのであれば、一緒に食事を取らせて貰おう。こちらとしても無人島試験のことを聞きたいと思っていたしな」
「フフ、それはこちらも同じですよ。綾小路くんが、どうやってあの南雲先輩を倒したのかを聞きたい所でした」
「と、言っても、あの結果を見たのなら大体の予想は出来ているんだろう?」
「99%の確信はありますが、やはり本人の口から話は聞きたいじゃないですか」
「何をしているんですか? いつまでも二人の世界に入っていないで、早く食事にしましょう。もう藍ちゃんの空腹度が限界ギリギリです」
「で、何を食べるんだ?」
「こういう時はラーメンを食べると相場が決まっています。坂柳有栖は普段こういうものをあまり食べないようですし、いい経験になるでしょう」
一応、「大丈夫か?」と目線で聞いてみると、坂柳は「食事制限がかけられている訳ではありませんから」と言うように頷いている。
「いいですか、山村美紀。あれが目で通じ合うという関係です」
「……言葉がなくても通じ合うって、物語の中以外でもあったんですね」
別に坂柳に限った話ではなく、オレのセフレたちも結構目で訴えて来るぞ。主に雪とか、鈴音とか――と、思いながらも、ツッコミを入れていては進まないので、敢えて黙ったままラーメン屋の中に入っていく。
坂柳がこういう店に入ったことがないというのは本当だったようで、「レストラン等とはまた違った趣ですね」と、興味深そうに店内を見渡していた。
まぁ、坂柳は先天性の疾患持ちで、中学までは基本的に車で移動していただろうし、家族と食事をするにしてもラーメン屋に行くようなイメージはない。当然、この学校に進学した後も、そういう店に行く機会もなかったとしてもおかしなことではなかった。
そういう意味では、やっと坂柳も気を許せる友達とラーメンを食べに行くくらいには他人に気を許し始めた――と、考えると、原作よりも成長しているのかもしれない。
「注文はタブレットなんですね。ドラマなどのラーメン屋のイメージでは店主さんに直接注文するものだと思っていましたが……」
「基本的には食券を買うか、タブレットで注文するのが最近の主流だろうな。まぁ、そういう古き良き店なら話はまた別かもしれないが……」
と、坂柳の疑問に返事をしていると、森下が『豚骨ドロドロラーメン、麺固め、チャーシュー・煮卵トッピング』を高速タイピングで4人分注文するという暴挙に出ていた。
「おいおい、まだメニューすら確認してないんだが?」
「私のおすすめです。なんですか? 綾小路清隆は私のラーメンが食べられないとでも?」
「人にも好みがあるだろう。俺は問題ないが、坂柳や山下が豚骨嫌いだったらどうする?」
「坂柳有栖と山村美紀は豚骨が嫌いなんですか?」
「食べたことがないのでわかりませんが、余程酷い味でなければ問題ないかと」
「私も豚骨は平気です……けど、ドロドロってどういう?」
「豚骨がドロドロになるくらい煮込まれた物凄くパンチの利いた味ということです。味の暴力に、山村美紀は思わず失神してしまうかもしれませんね」
「し、失神しちゃうんですか?」
「食べ物一つで失神するなどそうあることではないと思いますが……」
「どうかな? 激辛料理で、想定した以上の辛さを受けて意識を飛ばしかけるってのは見たことがあるぞ」
一昨日、天沢や七瀬と一緒に中華料理を食べに行った時、天沢が調子に乗って麻婆豆腐の辛さをマックスまで引き上げた結果、一口食って言葉を失ったのは記憶に新しい。
結局、食べきれなかったその激辛麻婆豆腐はオレが処理したが、食後に牛乳を飲んで胃を保護しなかったらやられていたかもしれないくらいにはダメージが強い食べ物だった。
「しっかし、この少しの間で随分と仲良くなったんだな。昔のお前なら、いくら誘われたからと言っても、わざわざラーメン屋に足を運ぶなんてことはしなかったんじゃないか?」
「……そうですね。私自身、別に大きく考え方が変わった訳ではありませんが、森下さんを始め、山村さんとも話をしている内に、『人』というものを良く見るようになったかもしれません」
これまでの坂柳は、人間をチェスの駒くらいにしか考えていなかった。彼女の能力を考えれば、駒が指示通りに動けば大抵のことは出来るし、それで特に困ったこともなかったのだろう。
しかし、5月に起きた帆波との一件。
人の信頼がものを言う状況で手も足も出なかったあの件は、明確に坂柳の敗北と言っていい結果だった。勿論、CPやPPが減った訳ではないので、特にAクラスが傷を負った訳ではない。
だが、あの一件があったからこそ、森下は坂柳に頼っているだけの今のAクラスの状況に不安を感じて暴走のような真似をしてしまったし、Aクラスの中にも坂柳に対する疑念の種が芽を出しつつあった。
「私と坂柳有栖は竿姉妹になりましたからね。ここまで来たら腹の内を全て明かそうと、山村美紀も巻き込んで女子会を開きました」
天沢も言っていたが、その竿姉妹20人以上いるぞ――と、いうのは、今は言わないでおこう。ちなみに山村は竿姉妹の意味がわからないようで首を傾げていた。
「山村さんには一年の時から、私の身の回りのお世話を手伝って貰っていましたからね。それは卒業まで変わらないでしょうし、どうせなら巻き込んでしまえ――と、思ったんですよ」
そう言いながら、坂柳が小さく微笑む。
原作と違ってオレが力を出していることもあり、これまでAクラスは1年の時から言い様のない不安が内部に芽吹きつつあった。それは、このまま坂柳に従っていて、本当にAクラスで卒業できるのか――と、いうものだ。
原作では、オレが途中まで手を抜いていたり、存在を隠していたりしていたから、Aクラスのメンバーも坂柳の支配に違和感を持っていなかった。
しかし、この世界ではオレがある程度の力を出してDクラスをBクラスまで上げている。それも初期80CPから700CP近くも一年で稼いだのだ。
もし、これが同じ条件であれば、自分達はとっくにAクラスじゃなくなっている。Aクラスのメンバーがそんな不安を感じるのは当然のことだろう。だが、強者である坂柳は、下の者の気持ちを理解できなかった。故に、不安が内部で漂っていたのだ。
結果、原作ではまず有り得ないであろう、森下の暴走にも繋がっている。
いや、正確には森下だけではなく、裏切りの準備をしている橋本を始め、Aクラスに存在する全員が内心でそんな不安を抱えていたのは間違いない。それこそ山村だってそうだっただろう。
最初に暴走したのが中立派の森下だったからまだ良かったが、もし坂柳派の中から暴走する生徒が出てきていたら、坂柳はこの無人島試験でまともに動けたかどうかも怪しい所だったはずだ。
だが、結果として、早い段階で坂柳が他人に心を開いたことで、Aクラスに蔓延していた不安や疑念の種も大きく芽吹くことはなかった。
正確には、坂柳が沈静化させた――これまでの坂柳なら決して気にしなかっただろうが、5月の一件や森下・山村と築いた信頼関係が、坂柳を少し成長させたに違いない。
「これまで私は人を信じたことがありませんでした。言葉では信じると言っていても、それは相手を乗せるためだけのものであり、それ以上の意味など持ち合わせていなかった。ですが、それは相手も何となく理解していたのでしょう。薄っぺらい言葉で人は付いて来ない。一之瀬さんや龍園くんの言葉には力がある。それが何となく理解できてきました」
帆波は全面的に人のことを信じるし、相手もその気持ちに応えようと全力で動く。龍園は甘い言葉こそ口にしないが、自分を信じてついて来いと人を引っ張る力を持っている。
だが、坂柳にはそういう力がなかった。原作では結果としてAクラスをキープ出来ていたから誰も逆らうことはなかったが、結果が振るわなければ人は付いて来ない。それは1年の最初に、葛城派と坂柳派でクラスが二分していたことからも証明されている。
対する帆波や龍園は、仮に負けても二人なら次はやってくれるという信頼感があった。帆波は善性、龍園は恐怖での支配だったが、それでもクラスを纏め上げていたのだ。
しかし、坂柳の場合は、このままでいいのか――と、いう不安が常に付きまとっていた。
結果を出して引っ張るという彼女のやり方は間違ってはいないが、結論としてまず自分が楽しむことを第一としているので、クラスの勝利に対するこだわりの無さが無意識にクラスメイトの不安を煽っていたのだろう。
「私は、私が楽しければそれでいいと考えていました。好敵手と戦えれば、Aクラスで卒業できなくても構わない――と」
その結果が原作の橋本の裏切りであり、他人に決して心を開かず自分だけが楽しければいいという身勝手な考えが、彼女だけでなく真澄も退学という結末へと誘っている。
だが、この世界の坂柳には変化があった。
「ですが、森下さんは素直に『それでは私が困ります』と声を上げてくださいました。今までだったら耳を貸すことはなかったかもしれません……しかし、改めて話をする中で、Aクラスで卒業するというのは、普通の人からするととても大事なものなのだということに気が付きました」
それが、ただの言葉なら原作通り坂柳の心に響くことはなかっただろう。しかし、文字通り裸の付き合いをしたことで森下も遠慮がなくなり、素直に自分の本音をぶつけられていた。
普段の坂柳ならただ切り捨てて終わりだったはずだ。だが、この時の彼女はその身一つであり、取り繕うためのプライドも相手を見下ろすための余裕も失っていた。
だからこそ坂柳も、いつものように威厳や見栄で相手を押し切ることが出来ず森下の言葉に耳を傾けざるを得なかったのだろう。結果、その関係性も大きく変化している。
「坂柳有栖のように何でもできる人間ならば将来も自由に決められるでしょうが、普通の人間はそうはいきません。進学するにしろ就職するにしろ、この学校に進学した人間の多くはAクラスで卒業することを目的に戦っています」
「そうして話をした後、クラスメイトたちの顔を見ているとふと気付いたんです。彼らが何か迷いのようなものを抱えている。と」
視野が広くなった――と、いうよりも、今まで見ていなかったものを見ることによって、坂柳の数少ない弱点だった独り善がりな点が改善されたというべきか。
坂柳は強い。だが、強いが故に、弱い人間の気持ちを理解しようとしない悪癖があった。
だからこそ、原作でも真澄を切り捨ててから後悔をしたし、橋本がもう戻れないレベルまでの裏切りだってしている。
もし、原作通りにこのまま坂柳が他者を放置して進んでいたら、Aクラスは内部から崩壊していただろう。
しかし、原作と違い、坂柳が人の気持ちに寄り添う姿勢を見せたことでAクラスは士気を持ち直しつつあった。人を駒として見るのではなく、クラスメイト一人一人と向き合ったことで、少しずつではあるが信頼を手に入れている。
それこそ橋本以外は、改めて一致団結の姿勢を見せていた。葛城を龍園のクラスに送り出したのも大きな要因の一つだろう。上に立つ者はクラスに2人もいらない。
結果として、今回の試験でAクラスもCPを稼ぎ、オレと龍園に貸しを一つ得るという大きな戦果を坂柳は見せた。
原作では作った貸しを返す前に坂柳が退学してしまったが、この世界では龍園が坂柳に貸しを作っていないこともあって、坂柳VS龍園の退学を賭けた戦いは起きない可能性が高い。
まぁ、仮に起きたとしても退学を賭けて戦わせるつもりなどないのだが、坂柳に変化が出たことで今回作った貸しを有効利用してくる可能性がとても高くなったのは確かだろう。未来の結果が未知になるのは、オレとしても楽しみが増えたと言って良い。
「お待たせしました。豚骨ドロドロラーメン、麺固め、チャーシュー・煮卵トッピング4つになります」
と、考えていると、頼んだラーメンが運ばれてきた。森下は満足げに頷きながら箸に手を伸ばしているが、坂柳と山村は目の前に置かれたラーメンを見て絶句している。
「どうしましたか、坂柳有栖、山村美紀? 早く食べないと麺が伸びてしまいますよ」
「これが……ラーメン、ですか?」
「ドロドロの上にお肉と玉子が浮いてますね……」
大盛を頼んだ記憶はないのだがとても量が多い。少なくとも、坂柳の体のサイズでこのラーメンを食べきれるかどうかはとても怪しい所だった。
坂柳と山村がジッとこちらを見てくるので、仕方なくオレが毒見役をしていく。箸を手に取り、とりあえず試しにスープを飲んでみた。
豚骨の味がとても強く、まるで殴られたかのような衝撃が口いっぱいに広がった。美味いのは間違いないが、何というか挑戦的な味だ。
続いて麺をすする。濃厚なスープが絡んだ麺は絶品だがパンチが強い。チャーシューや味玉も味の主張が強く、普通なら強い味同士で喧嘩してもおかしくないのだが、美味いことバランスを取ってどれも自分の良さを舌にぶつけてくる――と、それっぽい食レポをしてやると、坂柳と山村も意を決したように、まずはスープを口にした。
その瞬間、二人の目が見開かれる。
そのまま、ちゅるちゅるとなるべく音を立てないように二人が麺を少しすすっていく。どうやら味に文句はないようで、もくもくと箸を動かし始めた。
「……凄いですね。普通ならこうも味の強いもの同士は喧嘩してしまうものですが、ここまで調和が取れているとは」
と、坂柳が感想を口にすると、隣の山村もこくこく頷いて同意を示していた。褒められた森下は、どや顔でラーメンをすすっている。
「よく料理は引き算と言われますが、これは足し算に足し算を重ねた感じですね。どの食材も引かずに、互いの良い所をぶつけてくる……下手な料理よりも難しい味の造りをしています」
しっかし、ラーメンを食べる坂柳というのはなかなか見ない絵面だった。絵本の中にいそうなお嬢様がオレの隣でラーメンをすすっているのだ。違和感がとてつもない。
森下はある程度麺を食べると、半ライスを追加注文し、チャーシューと味玉を乗せてスープをかけたミニお茶漬けのようなものを作って食べ始めていた。
流石に真似をする余力はないようで、山村は何とか注文したものを食べきっていたが、坂柳は予想通りに半分程食べた所で手が止まっている。この小さい体で全てを食べ切れというのはやはり無理があった。
仕方ないので、自分の分を食べ終わると、オレが坂柳の分まで引き受ける。坂柳も最初は食べかけだからと遠慮していたが、もう遠慮するような仲じゃないだろうと足を撫でてやると恥ずかしそうに頷いた。
そのまま、早めの夕食を終えると、そういう気分だったようで森下がオレの個室に興味を示したので三人を連れて部屋に戻っていく。
完全に山村は巻き込まれてしまった形だが、基本的に気の弱い性格をしている山村がこちらの押しに食い下がれるはずもなく、見事に竿姉妹の三女になっていた。森下としてもこうなって満足のようで、うんうん頷きながら三人でおしがま選手権を始めている。
当然ながら一年訓練された坂柳に勝てるはずもなく、今年度三連覇を果たしたことで、改めて二人との仲を深め合っていた。
原作との変化点。
・夕方までさらに追加で遊んだ。
結果、小橋、姫野共に清隆に抵抗できなくなっている。姫野は口だけは抵抗する澪と同じような枠になった。
・七瀬に会った。
原作ではサンドイッチを食べている所に鉢合わせるが、このSSではその後に会っている。
・坂柳と会った。
原作では清隆と1対1で、その後に天沢に会っているが、このSSでは森下・山村とラーメンを食べに行った。その後、山村含めて美味しく頂かれ、第三回のおしがま選手権が開催されている。山村は完全に流れに乗せられて断り切れなかった形。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
予定外ではあったが、小橋を攻略しその流れで姫野も頂いている。最近は甘々作戦が多かったので久しぶりの脅しである。
・七瀬翼
変わらず清隆の周りをウロチョロしている。当然ながら、清隆の情報は月城経由で手に入れており、女性関係についても把握しているが表向きは何も知らないことにしている。
・一之瀬帆波
小橋、姫野という仲間が増えて気が楽になった。
・小橋夢
新しい駒その1。デレ派。
・姫野ユキ
新しい駒その2。ツン派。
・星之宮知恵
清隆の部屋から出た後、月城にそれとなく釘を刺された。清隆からも事前にその可能性があると示唆されていたのでそれとなくぼかして誤魔化している。
・坂柳有栖
5月のパラドックス事件と、森下との関係変化によって、クラスメイトとの関係が少しずつ改善されている。半恐怖政治を敷いていたが、今は個人の意思を認めつつ自分のやり方を押し通す形になっている。だが、それでも橋本は清隆の方が能力が上だと感じている。
・森下藍
原作よりも人とつるんでいる。とはいえ、本人的には仲良しになったのではなく、必要だから一緒に居るだけであり、毎回ずっと一緒にいる訳ではない。
・山村美紀
今回の被害者枠。というよりも、基本的に被害者枠。実は、これまでも台詞がないだけで坂柳が出る時はどこかしらにいる。原作と違って1年時から坂柳のお世話をしているので少し情もある。