8月8日――豪華客船のバカンスも残り3日となると、学校から全校生徒に対して一斉にメールが送られてきた。
内容は原作通りの宝探しゲームであり、参加するかどうかは自由で、参加費に1万PPが必要。参加する場合は午前10時までに5階フロアに到着していなければならず、説明を受けた後に参加を取り消すことも可能と書かれている。
原作では佐藤と一緒にゲームに参加していたオレだが、この世界では特に原作通りに動くつもりはなかった。
勿論、雪が今は亡き南雲の代わりに頑張って実施しているゲームなので参加はするが、パートナーは自由に組むつもりでいる。それこそ、学年を超えてペアを組むのも悪くないとすら考えていた。
そのまま10時に指定場所の会場に着くと、ざっと全校生徒の半分程が参加しており、人ごみに溢れている。
時間になるとすぐに生徒会長の雪がルールの説明を始めたが、基本的に原作と一緒で二次元コードの書かれたシール全100枚を船内から探し出し、専用のアプリで読み込むことでそのコードを見つけた場所の難易度に応じたPPが貰えるというモノだった。
見つけるのが難しい場所ほど高いPPが貰え、簡単な場所は安いPPとなっているということである。
とはいえ、読み込める回数は一つの携帯につき一回だけなので、いくつも数を探して儲けるということは出来ないようになっていた。
二次元コードを見つけたことにより貰えるPPは、一番低いもので5000PPが50枚。次に多いのが10000PPでこれが30枚。残る20枚の内訳は、10枚が50000PP、5枚が100000PP、3枚が300000PP、1枚が500000PP、もう1枚が1000000PPとなっていた。
当然ながら、参加する生徒は余裕で100人を超えているのでこのままでは報酬が貰えない生徒も出てくるが、原作同様にペアを組むことでその可能性も低くしているらしい。
生徒同士でペアを組めば、相方が手に入れた報酬を自分も手に入れられるので200人はまず報酬が貰えるということになる。今、ここにいるのが、200人ちょっとと考えれば、余程運が悪くなければマイナスにはならないだろう。
また、基本的にこの手の宝探しは運がモノを言うが、今回のゲームでは少しだけ実力が関係する要素があるということで参加者に妙な紙を配っていた。開くと、そこには見慣れない文面と図形が記載されている。
どうやら、この紙には三つの謎かけ問題が書かれているようで、これを解くと全部で3か所の二次元コードの隠し場所がわかるようになっているらしい。
この三つに限っては謎解きをしない限り見つからないということだが、大前提として運をメインにしているゲームで頓智を利かせる意味はあまりないので、そこまで高額なPPは設定されていないと見ていいだろう。もし、この問題に高額PPを設定したら、後でエンジョイ勢から納得できないとクレームが飛んでくるのはまず間違いないしな。
あくまでもこれはボーナスゲームであり、特別試験ではないのだ。参加者が楽しめないような要素はなるべく排除するのが鉄則だった。
ある程度ルールを確認すると、周囲の生徒がペアを組んで動き出していく。オレも誰かを捕まえないといけないが、生徒会役員は今回運営管理で参加禁止なので、自然と雪、鈴音、帆波と組むことは出来ない。
周囲を見てみると、真澄はひよりと、愛里は波瑠加と、恵は佐藤と組むようだった。オレも急いでペアを探さないと――と、考えていると、わざわざ後ろに回った千秋がオレの制服の袖を静かに引っ張ってくる。
「ペア、組も?」
「別にいいぞ」
千秋に、少し顔を赤くしながら上目遣いでお願いされて拒否できる男子などいるはずがなかった。
思えば、千秋は無人島試験でも雪や鈴音と一緒に一位になって大活躍してくれたし、ここは労いも兼ねてイベントを一緒に楽しむとしよう。
改めて、このイベント専用のアプリを携帯にダウンロードすると、参加費を払うために千秋と一緒に受付に向かった。どうやら込んでいるようで、受付に着くまで少し時間がかかっている。
「はい。ここに名前書いて、1万PP支払って」
ようやく順番が回ってくると、愛想の欠片もなく事務的に鈴音がそう声をかけてきた。どうやら不正防止のために、参加者には名簿に名前を書かなくてはいけないらしい。
まぁ、携帯での決済だけでは、携帯と生徒を結びつけることが出来ないし、最悪の場合はオレが別の携帯を使って参加することも可能になる。そういう意味だと、ここで名前を書いておけば、決済した後に携帯と本人を結び付けられるので不正をある程度防げた。
とりあえず、不正する気は欠片もないので、素直に名前を書いて参加費の1万PPを支払っていく。そのまま千秋と室内を後にしようとすると、小さな声で「楽しんで」と鈴音から声がかけられた。このツンデレめ。
◇◆
とりあえず、本格的に動く前に、互いの携帯を取り出してペア申請をすることにした。これでオレと千秋はこのイベントでは一蓮托生となる。
参加費は二人合わせて2万PPなので、3万PP以上の報酬を手に入れることが出来れば文句なくプラスとなるが、こればかりは運も絡んでくるのでどうなるかわからなかった。
「清隆くんさー、この紙どう思う?」
ペアを組み終わるなり、千秋は早速本題と言わんばかりに学校側から渡された紙をポケットから取り出して、こちらにひらひらと見せつけてくる。
「どう、とは?」
「これで二次元コードの在処が三か所わかるって話だけどさ。どのくらいに見積もってるかって話」
「まぁ、100万や50万が当たることはないだろうな」
「やっぱりそうだよねー」
千秋も頭が良い。このゲームの本質にはとっくに気付いているだろう。この会話はあくまで、オレと意見が同じかどうかを確認する作業に過ぎなかった。
「この三つのヒント、意外とそこまで難しくないんだよね。どれも似たような難易度だしさ。だとすると、どれが解けても貰える報酬に差が出るとは思えない。それなりに枚数のある10万……いや、5万が良い所かな」
「そうだな。この宝探しは完全に運を中心としたボーナスゲームの位置付けだ。本数の少ない高額のPPを報酬にしてしまうと、絶対に後から文句が出るのは間違いない」
「ゲームはあくまでゲームってことね」
「とはいえ、難易度的に5万は固いだろうし、最低限のポイントだけ貰って終わるってもの有りだが――」
そんなお堅い動きをしてもつまらないと、千秋の顔に書いてあるのでそれは却下だった。
それに、5万PP貰えるというのはあくまでも推測であって確定事項ではない。万が一、これで5000PP貰って終わり――なんてことになったら興醒めも良い所だろう。
「ま、ゲームだからな。楽しんでなんぼか」
「そゆこと」
紙の謎を解いて二次元コードを受け取るのはあくまで最終手段として、基本的には見つけるのが難しそうなコードを探していくことにする。
原作では高円寺が50万PPのコードを見つけ、オレと佐藤のペアも10万PPを入手することに成功していたが、果たしてこの世界ではどうなるか。
そう思いながら、あまり人が気づかなそうな場所を探していく。基本的に最初に見つけた二次元コードは、それがどんなに難しい場所に置かれていても最初に見つけてしまった以上、難易度が高いかどうかの判断が付かないので読み込みをし難いイメージがあった。
もしかしたら既に50万や100万のコードを手にしている可能性もあるが、それを確かめるすべがない以上は保留せざるを得ないのが現状だ。とはいえ、これはあくまでゲームであり、結果も大切だが途中経過が楽しいかどうかも割と重要だった。
今も、千秋がソファーの裏にくっついているコードを見つけて、「あったよ、清隆くんっ」と楽しそうな笑みを浮かべている。このゲームは原作でもどの二次元コードが当たりだったかが判明していないので、オレとしてもなかなか楽しむことが出来ていた。
「おはようございます、綾小路先輩っ」
「ん? ああ、おはよう七瀬」
そんなこんなでイベントを楽しんでいると、今日も今日とて七瀬がオレに声をかけてくる。
後ろから気配を感じると思ったらやはり七瀬だったか。ここ最近は毎日会っており、原作通りに連続遭遇記録を更新した形になった。
千秋は七瀬とはほぼ初対面なこともあり、「知り合い?」と声をかけてきる。ここで、土下座の子だ――と、言えば、千秋も一瞬で七瀬のことを思い出すだろうが、それは流石に七瀬が可哀想なので、「一年の七瀬だ」と軽く紹介した。
「一年Dクラスの七瀬翼と申しますっ」
「二年Bクラスの松下千秋です。よろしくね、七瀬ちゃん」
と、挨拶を交わしながら、千秋の視線が上から下に流れていく。まるで見定めるかのような視線であり、何か気が付いたようで、千秋が「この子もか」と小さくため息を吐いた。
「多分、そこそこ深い付き合いになると思うから仲良くしようね」
「そ、そうですかね? 一年生と二年生が関わる試験がこの先も続くとは限らないと思いますけど……」
「試験は続かなくても、清隆くんを通じて付き合うことになるから大丈夫」
「……え、と?」
「だって七瀬ちゃん、もう食べられちゃったでしょ?」
わかっているとばかりに、ぶっこまれた松下の言葉を聞いて七瀬が顔を真っ赤に爆発させる。
しかし、七瀬を食べたことを知っているのは、試験中に何故か気付いた真澄とひより、篠原に、報告をした雪と竿姉妹の天沢だけのはずなのだが、何でオレが食べたってわかるのだろうか?
「な、ななな、なんで……?」
「まぁ、一言で言うと私も同じ立場だから? 何となくわかるのよね。その子の清隆くんへ向ける好意の深さで、ああこの子は食べられちゃったんだなって言うのが……」
正確には、七瀬はオレに惚れている訳ではない。だが、肉体関係を持っても良いくらいには好意を抱いてくれてはいるだけだ。
とはいえ、千秋にはまた別の物差しがあるようで、真っ赤になって照れる七瀬の頭を撫でて、「おっぱいも大きいし、可愛いし、いい子ね」と呟いている。
「えっと、あの、松下先輩も……?」
「まぁ、私もっていうか、うちのクラスは半数くらいそうよ? まだ七瀬ちゃんには難しいかもしれないけど、愛の形って自由だと思うんだよね。少なくとも清隆くんに選ばれて私たちは後悔してない。七瀬ちゃんも清隆くんと関係を持って後悔はしてないんでしょ?」
「それは……はい……」
「なら、そのうちわかると思うよ。それに今更一人だけを愛せなんて言ったら暴動が起きちゃうだろうし、今の形がベストだと私は思うんだよね」
確かに、ここでオレが例えば千秋だけを好きになる――と、言い出したら、選ばれなかった奴らは間違いなく諦めようとはしないだろう。
むしろ、こちらの寵愛を得ようともっと必死になるはずだ。そうなれば、目も当てられない血で血を洗うルール無用の残虐キャットファイトが始まるのは目に見えていた。
「松下先輩は、なんていうか……大人ですね」
「多分、七瀬ちゃんもすぐに私と同じ心境になるよ。わかるんだ」
まぁ、セフレ同士が仲良くしてくれるに越したことはないが、どうやら千秋は相当に七瀬のことを気に入ったらしい。
七瀬は松下の言葉がまだ上手く飲み込めないようだが、少なくともオレを軽蔑するようなことはないようで、素直に思考の海に沈んでいた。
「そういえば、七瀬はどうしてここに? お前も宝探しか?」
下手に考えが煮詰まって、オレへのイメージが悪化しても困るので、ここいらで適用に話題を変えていく。
「え? あぁ、いえ……私は違います。何となく、今日はゆっくりしたい気分だったので」
「そうか。まぁ、何にせよ、あまり根を詰めない方が良い」
「はい。今日も綾小路先輩は元気そうで何よりです。では、私はそろそろ失礼します」
丁寧に頭を下げると、七瀬がこの場から去っていった。同時に、後を付けていると思われる中泉も七瀬の後を追って移動していく。
流石の千秋も一回だけの遭遇では、中泉が七瀬を追っているとは気づかなかったようで、オレの視線の先を見ながら「中泉くんがどうかしたの?」と首を傾げていた。
まぁ、わざわざ話すようなことでもないし、「なんでもない」と言って話を変える。原作であれば、この後七瀬は龍園に詰められるが、七瀬も七瀬で暴力には屈しないタイプなので、七瀬から何か情報が洩れるようなことはないだろう。
◇◆
七瀬との遭遇の後も、いくつか二次元コードを見つけたが、明確にポイントが高いと思えるのは1枚か2枚しかなかった。
結局、参加者が200人以上いるし、どうしたって競争率は高くなる。現に今も、視界に見える限りで、両手で数えられるくらいの人数の生徒が二次元コードを探しているようだった。
「清隆くんってさ。Cクラスをどうするつもりなの?」
そんな中、ふと千秋が世間話をするようなテンションで、そんな質問をしてきた。当然ながら、周囲に二年Cクラスのメンバーはいない。その辺は配慮してくれているのだろう。
「どうするとは?」
「今回の試験が始まる前さ……堀北さんは上手く誤魔化されちゃってたけど、普通に考えて敵のクラスのCPを増やすっておかしくない? 素直にうちで試練のカード使ってれば、Aクラスにももっと詰め寄れてたんだし」
「千秋は今すぐAクラスになりたいのか?」
「そりゃね。なれるならなりたいと思うのが普通じゃない?」
「俺はそうは思わない。今はまだBクラスで十分だ。追う立場から追われる立場になるというのは心理的なプレッシャーも変わってくる。仮に、何かの試験でオレたちがAクラスに上がれたとしてもすぐに追い落とされて無駄に勢いを殺すだけだ」
結局、このAクラス争奪ゲームは、卒業時にAクラスになれていさえすれば良いのだ。ずっとAクラスの座をキープし続けるというのは苦行でしかない。
前にもどこかで言ったと思うが、なろうと思えばAクラスにはいつでもなれる。だが、今の状況では敵を作りすぎるし、他クラスから恨まれると女を食べるのに支障も出るのでわざわざ奪いに行くメリットがないのだ。
CクラスのCPを増やしているのは星之宮との契約もあるが、Bクラスが下手に結果を出してAクラスになるのを防ぐためでもあった。故に、高円寺にも無人島試験をリタイアさせて、これ以降の試験もあまり参加しなくても良いと言ったのだ。
「それでCクラスに力を貸したの?」
「貸しを作っておけば、いつか返して貰えるからな。少なくとも、帆波は恩を仇で返すタイプじゃない。試験前、うちとCクラスは400程CPが離れていたし、ここで手を伸ばしてもたいした痛手もなく貸しが作れるだろう?」
「もし、恩を仇で返されたら?」
「それはない。一之瀬帆波という人間はもうオレに逆らえない。必然的に裏切りはない」
完全なる奴隷契約を結んでいるのだ。帆波がオレに逆らうことは万に一つも有り得ない。ちょっかいを出してきそうな南雲も退学したし、後顧も憂いも完全になくなっていた。
「断言するねぇ」
「するさ。お前と帆波じゃ立場が違うからな。帆波はオレに心から服従している。人生の全てを捧げるくらいにはな」
帆波と同じレベルでオレに忠誠を誓っているのは、それこそ雪や真澄、桔梗、愛里くらいだろう。全員初期メンバーだが、やはり付き合いが深いだけあって、オレへの依存度も深い。
「なんか、負けたみたいでムカつく」
「勝ち負けはないが、こればかりは関係性だからな。お前が自分を捨てて自らオレに尽くしたいと考えられるようになれば追いつけるかもしれないぞ?」
「清隆くんのことは大好きだけど、まだそこまでの気持ちは持てないかなー」
「まぁ、それはそれでいい。今の関係を楽しんでいるのはオレも同じだからな」
と、話しながらも手や頭は別で動かしており、少しずつ二次元コードを集めて行った。
◇◆
午後二時になると、大体のエリアは見て回ったということで、制限時間はまだあるがそろそろ集めた二次元コードを読み込んでみようと千秋が提案してくる。
手に入れた二次元コードは全部で8枚。その中で、これは難易度が高かったと客観的に思えるものは半数の4枚。この中に高額のPPがあればラッキーという感じだった。
「どれ読み込む?」
アプリを起動してカメラの読み込み機能をオンにすると、千秋がどれにするかを聞いてくる。
「お前が直感的にいいと思ったものを選んでくれればいいさ。外れても文句は言わない」
「まぁ、全部読み込まれちゃってる可能性もあるしね。駄目だったらその時考えればいいか」
と、いう訳で、難易度の高そうなものから適当に読み込んでいく。千秋が選んだのは、難易度が高い中でも一番苦戦したもので、何だかんだ言いながらも期待しているのが良くわかった。
「えっ、読み込めちゃった!?」
まさか一発で当たると思っていなかったようで、千秋が驚いたような声を出す。画面には宝箱のイラストに『TAP』の文字が表示されていた。そのまま、人差し指でボタンをタップしようとした千秋だが――その寸前で指が止まる。
「どうした?」
「どうせなら一緒にタップしたいなって」
そう言って、千秋がオレの手に指を絡めて恋人繋ぎをしてきた。続けて、上手く人差し指だけ伸ばして、見た目は忍者の印みたいな形になっている。
千秋がそうしたいというのならそのまま従おう――と、いうことで、同時にボタンをタップしていく。同時に、画面の中の宝箱が光だし、箱の中からまばゆい光が迸った。
「あっ、凄い30万だ! 3枚しかないらしいし、結構当たりじゃない!?」
「結構所か普通に大当たりだろう。二人合わせて60万、参加費を抜いても58万だぞ」
原作のオレと佐藤は10万だったので大金星と言って良い成果だ。千秋も嬉しいようで、「やった、やったっ」と喜びを隠しきれないようで嬉しそうに笑っている。
だが、これで終わりではなかった。宝探しで二次元コードを読み込んだ生徒は、学校側に報告する義務があるので、オレと千秋はスタート地点に戻り、受付にいる鈴音に結果を報告していく。
鈴音も、まさかオレたちが3枚しかない30万を当ててしまうとは思っていなかったようで、予想以上の成果に驚く仕草を見せていた。
「お疲れ様。これで手続きは終了よ」
「堀北さんもお疲れ様。ずっと仕事してて疲れたんじゃない?」
「一時間程休憩を貰ったから大丈夫よ。それにしても本当に凄いわね、参加費を除いて2人合計で58万PP。上出来すぎる結果ね」
「千秋が大分頑張ってくれたからな」
「いやいや、清隆くんの鋭い考察があってこそだよ」
お互いに謙遜し合っているが、実際に千秋の考察はかなり鋭かった。常識のないオレでは気づけないポイントなどもあったし、この30万が千秋の成果なのは間違いないだろう。
「松下さんの能力が高いというのは薄々勘付いてはいたけれど、やはり去年までは手を抜いていたのね?」
「まぁね。でも、去年の終盤からは手を抜いてないし、当然だけど今回の無人島試験も本気でやったよ。結果もそれなりに出した自信がある」
「もっと早く実力を出してくれていれば……っていうのはただの未練ね」
「私がもっと早く本気を出しても大きく結果は変わらなかったと思うよ? どの道、誰かさんは今すぐAクラスに上がる気はないみたいだし」
先程の話を蒸し返すように千秋がそう言うと、「どういうこと?」とばかりに、鈴音が鋭い視線を向けてきた。
「去年の干支試験の時にも言ったが、早々にAクラスになってもキープするだけの力がまだオレたちにはない。だから、今は仕込みをしている段階だというだけだ」
「でもあれから一年経って、私たちは今回の試験で一位を取ったわ。それでもまだ足りないと?」
「例えば、次の試験でこのクラスがAになったとして、もしオレが違うクラスに移籍したとしたら、お前たちはその座をキープしていられるか?」
「それ、は……」
「出来ると断言できないのであれば、それが今のお前たちの実力だ。それを自覚しろ」
厳しい言葉をぶつけられ、鈴音も千秋も反論できずに口を閉ざす。しかし、この程度で挫けて貰っては困るな。
それこそ、オレ程度がいなくなってもAクラスになって、Aクラスを維持できるくらいの実力を付けて欲しい。
何せこの先、オレは前言を撤回して、別のクラスに移動する予定なのだから――
原作との変化点。
・千秋と宝探しゲームをした。
原作とメンバーが変わっている。また、恵とも付き合っていないので一之瀬関連のイベントも未発生。
・クラスについて。
現状、清隆は今のクラスをAクラスにするつもりがない。むしろ、別のシナリオを考え始めている。
・七瀬と会った。
今日も頑張っている。龍園クラスの生徒の追跡も過激化している。
・クラス移動の予定。
1年生終了時にはそのつもりは全くなかったが、自クラスの女子をほぼ食い終えて、他クラスとのコネクションを持つのであればクラス移動した方がいいと考え始めた。他にも南雲の退学など理由はいろいろあるが、それはまたいずれ。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
千秋とゲームを楽しんだ。頭がいい相手は無駄な会話がなくて楽だが、無駄な会話は無駄な会話で楽しいから一長一短。
・七瀬翼
原作ではこの日に龍園に接触を受けた。
・堀北鈴音
生徒会の一員としてゲームの運営をしている。
・松下千秋
久しぶりに2人っきりで楽しんでいる。もし、清隆がクラス移動してしまったらという仮定を考えて少し怖くなった。