ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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SIDE:13 『龍園翔の捜索:天沢一夏の退屈』

 SIDE:龍園翔

 

 

 無人島試験の結果はベストとは言えなかったが最低限の結果は出すことが出来た。宝泉が乱入してきたことで坂柳に貸しを一つ作ったのだけは予定外の損失だったが、それでもCPやPPが増えたことでクラスにも勢いが出てきている。

 

 それにPPもしっかり稼ぐことが出来た。

 

 綾小路が鈴音や雪、一之瀬を組ませようと考えていた時点で、奴らが上位三位に入ることは読めており、便乗のカードを奴らに賭けさせることで儲けを出させてもらっている。

 そして、それは坂柳も同じだった。

 俺や坂柳のグループは、綾小路とぶつかって脱落する可能性もあったので、もっとも確実に入賞するであろう鈴音たちのグループに一点賭けしている。また、俺自身も追加のカードで、そこそこの儲けも出して、ここまでなら文句もなかったのだが――

 

 無人島試験で、うちのクラスの小宮と木下が襲われた。綾小路や奴のクラスであり、小宮たちとグループを組んでいた篠原の証言によれば、事故ではなく事件だという。

 

 別に小宮には大きな期待をしていた訳ではないし、奴や木下がリタイアしても、結果的にマイナスにならなかったので問題がある訳じゃない。

 だが、舐められたまま終わらせるのは俺の主義じゃなかった。犯人がどこの誰かは知らないが、必ず見つけて相応のケジメをつけさせてやる。

 

 小宮本人は油断していた自分のミスだからそんなことはしなくていいと言っていたが、これはもう小宮の意思など関係がないのだ。俺が気に入らないから報復する。ただそれだけだった――

 

「よう龍園、この間はいろいろと世話になったな」

 

 周りが生徒会主催のゲームに盛り上がっている中、用事があってカフェテラスに向かおうとしていると、たまたま目の前から宝泉がこちらに歩いてくるのが見える。当然ながら、お互いに道を譲るつもりはなく、1メートル程手前で互いに向かい合う形となった。

 

「寝てなくて大丈夫なのか? どうせなら後一週間くらいベッドでお寝んねしてな」

「安心しろよ。こんな所でテメェを全殺ししても俺の気はもう収まらねぇからな。殺すターゲットが一人から二人に増えて忙しくなりそうだしよ」

「同じ相手に二度負けたら格好付かねぇからな。無理はやめとけ」

 

 空気こそ一触即発という感じだが、俺もこいつもこんな場所で手を出すつもりは欠片もない。宝泉にしても、探りを入れる――くらいの気持ちだろう。

 

「ハッ! それよりもテメェ、一年の数人から便乗カードの効果を内密に買い取ったんだってな。あの生徒会長に賭けさせてたらしいが、かなり儲けたんじゃねぇのか?」

「クク。お漏らししやがったのは誰だ? ちゃーんと契約書で口止めしたはずなんだけどな」

 

 本来であれば、他学年とのカードの交換は禁止されている。しかし、効果によって得たPPのやり取りが禁止されている訳ではない。

 

 故に、こちらからある程度のPPを先払いし、もし指定したグループが入賞した場合は得たポイントを全て指し出すという契約を一年の数人と交わしていた。

 何せ、誰が上位入りするかがほぼわかりきっている試験だ。こういう時に稼いでおいて損はない。結果として、こちらは差し引きで一人頭100万PPを超える報酬を追加で手に入れることに成功していた。

 

「俺の靴でも舐めたら、少しくらいおこぼれをくれてやってもいいんだぜ? ゴリラ」

 

 宝泉は何も言わずに道を譲ってくる。この程度の挑発に乗ってくるほど馬鹿ではないのはわかっていたが、顔には次はお前に譲らせてやるから覚悟しておけと書いてあった。

 

 これは、次に奴と戦う時にはこっちもかなりの損失を覚悟しないと負けかねない。実際、単純な武力だけで言えば、あいつはアルベルト一人だけでは抑えきれないだけの力がある――とはいえ、今は宝泉に用などない。

 もう向こうもこちらに用などないらしく、どこかに歩いていくようだった。直後、前から石崎が走ってきて、「龍園さん、例のヤツ、西野が足止めしてます」と報告が飛んでくる。今は何よりも、小宮たちを襲った犯人を見つけ出すこと。それが最重要事項だった。

 

「七瀬翼だな?」

 

 程なくして、目的の人物がいるテラスまでやってくると、狙いの女子生徒――七瀬へと声をかける。

 

「はい。私に何か御用でしょうか?」

 

 自分で言うのも何だが、いきなりガラの悪い上級生に囲まれれば、普通の女ならビビるはずなのだが、七瀬は特に慌てた様子もなくこちらを見つめ返してきた。

 流石は宝泉が目を付けている女だけのことはあるな――と、内心で七瀬の評価を少し上げたが、何故自分が声をかけられているのかは理解できていなさそうだった。

 

 とはいえ、このまま石崎と二人で下級生の女子生徒を囲んでいるのを見られるのはあまり良い状況ではないので、女子である西野も同行させる。

 

「悪いが、少し時間をもらうぜ。お前には無人島試験のことで聞きたいことがある」

「試験でのこと、ですか?」

「小宮と木下が負傷した件だ。オレはその犯人が誰かを探してんだよ」

「何故、私なのでしょうか?」

「あの時、事件現場にいち早く駆け付けたのは、綾小路、須藤、池、本堂、島崎、福山、軽井沢、そしてお前だ。その中で須藤、池、本堂、軽井沢には手掛かりを見つけるだけの頭がない」

「では、同じ二年生の綾小路先輩や、島崎先輩、福山先輩にお話をお聞きすればいいのではないでしょうか?」

「綾小路はともかく、既に島崎や福山からは話を聞いている。それらを踏まえても、お前にはいろいろと不審な点が多い。お前は無人島試験でずっと綾小路に張り付いていたようだが、その理由は?」

「事件のこととは無関係のように思えます」

「事件と無関係かどうか判断するのは俺だ」

 

 しかし、七瀬はそんな脅しにも顔色一つ変えずに首を横に振った。

 

「すみませんが、個人的な事情もありますのでお話しすることは何もありません」

「なら、違う質問をしよう。お前は小宮たちを助けに来た時、気を失っていた木下を須藤に任せて森の中に走って行ったらしいな? 助けに来た人間を放置していくなんてことはそうあることじゃない。お前は何を見つけた?」

「それは……」

「小宮から話を聞いた段階で、お前に限らずあの現場にいた綾小路以外のやつには見張りをつけた。お前以外は馬鹿みたいに遊びまわっているが、お前だけは綾小路と特定の1年を交互につけ回している。普通じゃねぇよなぁ?」

 

 本来であれば、須藤たちのように遊ぶのがこの場所では健常な行動だ。だが、こいつだけはまるで綾小路を守るかのように動いている。

 

「天沢一夏……この名前に聞き覚えは?」

「私も未熟ですね。連日、後を付けられていることに気付かないなんて。驚きました」

「先にお前に接触してやったことに感謝しろよ?」

「お見事です龍園先輩。ですが、小宮先輩とのことと天沢さんのことは無関係です」

「そうか、なら直接天沢に話を付けてやることにするか」

「別に構いませんが、多分何も出てきませんよ。何より、綾小路先輩が彼女は白だと断定していましたし」

「ハッ、何度も言わせんな。それを判断するのは俺だ」

 

 綾小路がこの件を仕組んだ犯人であり、天沢がその実行犯である――そんな可能性もゼロではない以上、ここで足を止めるつもりはない。

 

「お前があの森で見つけたのは天沢だった。これに間違いはないな?」

「おそらくとしか言えません。暗かったですし、相手の足が速くてしっかり顔を見た訳ではないので……ただ、髪の色や長さは天沢さんに近かったと思います」

「天沢一夏……身体能力A-か」

 

 OAAで天沢の能力を確認していく。

 七瀬の身体能力がB+であることを考えれば、七瀬で天沢が捕まらなかったこともおかしくない。それに、これだけの身体能力があれば、小宮たちに悟られずに突き落とすだけの能力はある訳だ。

 

「見えて来たじゃねぇか。いろいろと」

「龍園先輩は天沢さんを疑っているんですか?」

「少なくとも無関係と断ずるには疑う点が多いのは確かだ」

「……では、接触の際には私の名前は出さないようにお願いします。訳あって後を追ってはいますが、表向き彼女とは和解していることになっているので」

「クク。そっちはそっちで何か面白いことになってるみたいだな。まぁ、今はこっちも首を突っ込むつもりはねぇが……」

「ご理解いただけで有難いです。では、私はこれで」

 

 こちらに丁寧に頭を下げて七瀬はこの場から立ち去って行った。さて、次のターゲットは天沢一夏か。

 

 七瀬が後を付けていると気付いた段階で、一応天沢にも監視の目はつけているが、今の所は七瀬のようにわかりやすい反応を示してはいない。とはいえ、クラスメイトと仲良く遊んでいる訳ではなく、一人で当てもなくブラブラしているという印象だ。

 

 こういう掴み所のない奴は何を考えているかわかりにくい。その点では七瀬は素直な性格をしているのでやりやすかったが――さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:天沢一夏

 

 

 ようやく綾小路先輩と一線を越えることに成功した――が、その後は先輩も忙しいようでなかなか会える時間を作ってもらえなかった。

 七瀬ちゃんは何だかんだまだあたしのことを疑っているようで遠巻きにこちらを監視している。他にも、見知らぬ視線を感じるが、正直先輩以外のことはどうでも良かった。

 

「綾小路先輩に会いたいなぁ~」

 

 私はもうホワイトルームからも追放されて行く場所がない。必然的に綾小路先輩だけが自分を受け入れてくれる存在だ。

 まぁ、それ以前に、先輩以外の人間にあまり興味がない。雪先輩は同類ってことで親近感はあるし、拓也は姉弟みたいなもんだけど、それでも先輩と一緒にいる時間に比べたら月とスッポンレベルの差があった。

 

「うぅ~、退屈過ぎて一夏ちゃん死にソ……」

「お前が、天沢一夏だな?」

 

 誰かと群れて過ごすつもりがないので、暇つぶしにデッキで海を見ていると、後ろから声をかけられる。視線だけを後ろに向けると、2年Dクラスのリーダーである龍園翔が、こちらにぶしつけな視線を向けていた。

 

「どちら様?」

 

 当然、情報など頭に入っているが、初対面なのは間違いないので首を傾げておく。

 

「2年の龍園だ」

「龍園……先輩? あたしに何か用ですかぁ?」

「ああ。無人島試験の件で、お前には少し聞きたいことがある」

 

 無人島試験――と、言われ、龍園の目的を察する。試験4日目、綾小路先輩の命令で崖から突き落とした二人は確か2年Dクラスだった。おそらくはその犯人を捜しているのだろう。

 

 何というか、顔に見合わず意外と身内思いの人だ。本当ならば、自分であたしが犯人だと自供してあげてもいいのだが、綾小路先輩にはあたしが犯人であることは内密にしろと言われている。

 

 つまり、ここで龍園先輩には私が犯人だと思わせないように立ち回らないといけない――暇つぶしには丁度いいかな?

 

「無人島試験、ねぇ? あたしはそんなに凄い結果は出してないんですけどー?」

「クク、惚けなくても良い。お前が小宮や木下が突き落とされた現場近くに居たのはわかってるんだ」

 

 成程、あたしに接触するだけはあって、もうある程度の情報は集めているという訳か。まぁ、情報源は七瀬ちゃんだろうけど。

 

「七瀬ちゃんも疑い深いなー……あたしはたまたまあそこにいただけなのに」

「たまたま腕時計が壊れて、たまたまお前があの場所の近くに居たと?」

「腕時計が壊れた?」

「クク、猿芝居は無駄だ。あの場に救助に来た教師の一人は俺のクラスの担任でな。GPS機能で、事件前後に小宮たちの傍にお前の名前がなかったことは既にわかっている。にもかかわらず、近くの森でお前と七瀬は接敵した。腕時計を壊さないと、そんなことにはなり得ないよなぁ?」

 

 腕時計が壊れた話を知っているのは先輩と七瀬ちゃんだけだと思っていたが、まさか担任とはいえ教師がその情報をお漏らしするとは思わなかった。

 

「成程、龍園先輩は私を黒にしたいんですねぇ。で、仮に私がその二人を突き落としたとして、その動機はなんなんです? ハッキリ言って顔もよく知らないんですけど?」

「一年が下位に入るのを避けるために上級生をリタイアに追い込んだ……この動機で十分だろう」

「だとしたら、その小宮先輩? のグループだけなのは変じゃないですかぁ? 下位5組までが退学ラインだったんだし、その動機なら他のグループも狙わないと意味がなくないと思いません?」

 

 物的証拠がない以上、龍園先輩としては状況証拠を積み上げてあたしを自白に追い込みたいのだろう。けど、残念ながら先輩の命令がある以上、どんなに苦しくても私が首を縦に振ることはなかった。

 

「あたしを犯人だと断定したいなら、決定的な証拠ってやつを出してくださいよー」

「……確かにな。今はまだお前を犯人だと断定するだけの証拠はない」

「あらら、ハッキリ認めちゃうんですね」

「事実だからな。だが、状況証拠はお前が黒だと言っている。他に新しい情報が出てこない限り、俺の中ではお前が犯人の最有力候補だ」

「まぁ、迂闊な行動をしていたから文句は言えませんねー……」

 

 やはりこうなったか。結果として、証拠がない以上、学校側からあたしに下せる罰はない。

 しかし、私しか疑える人間がいない以上、個人的に龍園先輩の恨みは買うのは致し方ないことだった。

 

「あくまで今はまだ疑いの段階だが、黒だと断定したら即報復に移させてもらう」

「犯人じゃないんで出来れば遠慮してほしいなー、めんどうくさいしー」

「まぁ、今回はあくまで顔見せの段階だ。逆に自分の疑いを晴らしたいなら、お前も頑張って小宮と木下を襲った真犯人を見つけ出すんだな」

 

 成程ね。あたしが犯人じゃないなら、疑いを晴らすために真犯人を探すはず――そうなれば、仮にあたしが犯人じゃなくても、龍園先輩は新しい情報を入手できる。こうしてあたしを脅してきたのも、あたしを利用するための一手でもあるってことか。やるねぇ。

 

「それなりに頑張ります……あ、でも龍園先輩。あたしを見張らせるのはここで止めにしてくださいよ。ただでさえ、七瀬ちゃんがしつこいのに、他の監視なんてウザいだけなんで」

「……見つからないように指示を出していたはずだがな」

「あははは、アレで隠れてたつもりなんだ? 可愛いなぁ」

「いいだろう。お前に監視を付けてもボロを出すことはなさそうだしな。精々、俺の我慢できなくなる前に結果を出してみろ」

「もしそうなった時は遠慮なく先輩でもぶん殴るので、女の子に負ける準備をしてから来てくださいね~」

 

 軽く挑発してみたが、鼻で笑うだけで龍園先輩はこの場から立ち去って行った。まぁ、あの先輩も自分に自信があるタイプだし、あたしに負けるとは思っていないのだろう。

 実際、この学校で私を抑えられる生徒なんて、綾小路先輩や拓也――後は雪先輩くらいで、仮に宝泉くんが相手でも負ける気はしない。もし、本当に龍園先輩とバチバチにやりあうことになったら、綾小路先輩の指示がない限り負けてあげるつもりもなかった。

 

 あーあ、それにしても面倒な先輩に目を付けられたなぁ。監視するのはやめるって言っていたけど、まだ監視しているし、口先だけで約束を守る気など無いのだろう。

 

 せめてこちらに気付かせないレベルならまだ文句も言わないが、あまりにもわかりやすすぎてイライラするのだ。

 かくれんぼをしていて、柱の影から普通に体がはみ出ている子を見つけた時のような何とも言えない感覚――七瀬ちゃんはまだマシだけど、龍園先輩の使いの方はかなりひどい。

 

 暇だし、ウザいし、面倒だしで、本当に最悪。

 

 せめて綾小路先輩が遊んでくれればストレス発散にもなるのだが、今日は学校のイベントに参加しているみたいだし、その後の予定も埋まっていると言っていた。

 あたしだけを見てもらうには、まだ先輩の好感度が足りていない。もっともっと頑張って、いつかは雪先輩よりも頼られるようになって、先輩にはあたしを好きになってもらわないと!

 

 

 




 七瀬との会話は原作と微妙に変化しています。また、天沢と接触するのは本来なら坂柳で、日にちが違いますが、そこも龍園に変わっています。他はほぼ原作通り(犯人が八神じゃないこと以外は)
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