8月9日――結局、昨日はボーナスゲームで楽しくデートをした後、千秋を個人的にも労ってやった。
基本的に千秋は、恵や佐藤と順番をシェアすることが多いが、たまには1対1というのも悪くないらしく、普段は出来ないような甘える感じを出してきている。
しかし、イベントが終わっても千秋に連絡が付かないことに気付いた恵と佐藤が事情を察して部屋に突撃してきたため、二人で楽しんでいられるのはそこまで長い時間ではなかった。
また、そろそろ佐藤との付き合いも長くなってきて良い感じに染まっていたのもあって、そろそろ名前で呼んでやってもいい頃合いだと判断し、これからは麻耶と呼んでやることにしている。
だが、どうやらオレが思っていた以上に名前で呼ばれるのが嬉しかったようで麻耶が泣いてしまい、千秋が「私のご褒美だったのに」と唇を尖らせる一幕もあったが、この3人はもう親友と言って良いレベルの仲良しということもあり、最後はいつもの4Pになっていた。
そんなこんなでこの豪華客船も残り二日になると、ようやく雪と鈴音が生徒会の仕事から解放されたようで、オレの部屋になだれ込んできている。
どうやら帆波は小橋や姫野と前に朝まで愉しんだことで今回は遠慮したようだが、代わりに無人島試験の影のMVPである桔梗が一緒にやってきていた。
今回に限って言えば、桔梗はもう足を向けて眠れないくらいの活躍をしている。特に大きかったのは、無人島試験前の小グループ決めだ。
帆波クラスと龍園クラスの確執、5月に起きた帆波と坂柳の騒動もあって、原作以上に殺伐としていた2年生が無事に小グループを作ることが出来たのは、桔梗が仲介して緩衝材になったからこそだった。
もし桔梗が2年全体のバランスを取っていなければ、下手をすると単独グループや自クラスのみのグループといった小グループがもっと乱立していた可能性がある。
そういう意味ではオレだけでなく、坂柳や帆波、龍園からしても、桔梗には感謝しか出来ないくらいの活躍をしたと言って良い。オレに限って言えば大グループにも混ぜて貰ってお世話までして貰っていた。
また、学年全体の情報を集め、下位に沈みそうなグループを事前にピックアップしておくなど、この試験でした桔梗の裏方の仕事は片手では数えきれない。
本当であれば、もっと早く労ってやりたい所だったが、桔梗に感謝しているのは2年全体がそうであり、この一週間の大半はいろいろなクラスからの呼び出しであっちこっちに顔を出していたようだった。
「あー……疲れた。もう駄目、これ以上は働かないからねー」
あっちこっちから呼び出されてちやほやされていた桔梗であるが、本性を出せないストレスもあって精神的には疲労のピークに来ているように見える。
「よくやってくれた、桔梗」
「お疲れ様、桔梗ちゃん」
表だけ見れば、一位という結果を出した雪や鈴音がもてはやされているが、真のMVPが桔梗であることはセフレ全員がわかっていることなので、今回は自然と桔梗を労う会となっていた。
これには雪も文句はないようで、部屋に入るなり阿吽の呼吸で桔梗の好き勝手にさせている。
「むー! むーっ、むーっ!!」
その結果が、口にギャグボールをはめ込まれ、喋ることすらまともに出来ず、制服を全て剥ぎ取られ、手錠までつけてベッドに固定された哀れな鈴音の姿だった。
もはや、完全にやりたい放題であり、昨日まで凛とした表情で生徒会活動をしていた鈴音も、今では女王様に虐められる豚となって、恐怖に怯える表情を浮かべながら悦ぶという変態性を見せている。
「こんなのが次期生徒会長とかこの学校ももう終わっているかもしれん」
――と、思わず呟くと、耳聡く話を聞いていた桔梗が「この豚が次期生徒会長ってどういうこと?」と可愛く首を傾げていた。
「えっ、このまま雪ちゃんが会長継続するんじゃないの? 多分、全員がそう思ってると思うけど」
「私は堀北前会長のお願いで生徒会長になっただけで、別にずっと生徒会長でいたい訳じゃないんだよね。ってか、生徒会の仕事忙しすぎて清隆と一緒に居られないことの方が多いし、もう辞めたい」
「むーっ、むー、ふっ、むーっ! むーっ、むっ、んん、むーっ!!」
何を言っているのか欠片もわからないが、おそらく鈴音の性格的に「雪さんが生徒会長だからこそ、今の生徒会は回っているのよ! 私にその後を継ぐ力なんてないわ!」とでも言っているのだろう。
しかし、真面目な話をしているはずなのだが、鈴音の恰好があまりにも酷すぎてギャグと化している。そんな鈴音の反論を無視する形で、雪も当然のように話を続けた。
「鈴音ちゃんが生徒会長になれば、私が生徒会長じゃなくても生徒会のメリットは継続できるし、もし人手が足りないなら適当に誰かを生徒会入りさせればいいよ。少なくとも私は遅くても文化祭が終わった辺りか、その後くらいのタイミングで引退するつもりだから」
「堀北さんがもし跡を継がないなら、帆波ちゃんが生徒会長になっちゃう感じ?」
「まぁ、生徒会総選挙を開くことになるかなー、そうなったら生徒会長の椅子を欲しがりそうな子とかも出て来るかもね?」
「まぁ、本当は雪がこのまま会長を継続するのが一番いいんだがな」
「やだもーん! 一年間雑用したし、もう十分でしょ? 鈴音ちゃんだって、お兄さんと同じ道を歩めるんだしいいじゃんそれで」
まぁ、雪が嫌と言っている以上、雪の会長引退は既に決定事項だ。そもそも、雪はオレの命令で生徒会に入った訳だが、この一年間会長としてよく働いてくれた。
南雲から会長の座を奪ったことで堀北兄からの評価も得られたし、最終的に南雲を原作と違ってボロボロの状態に追い込めたのも、全ては雪が会長になってくれたからとも言える。その南雲ももういないし、雪の我儘を聞いても特に問題はないだろう。
「んむっ! むー、むーっ!! むぅっ、んぐっ、むーっ!」
鈴音はまだ納得できないようだが、桔梗が「豚さんに人権はありませーん」と言って、反論を拒否している。
原作ではあんなに凛々しくてリーダーをしている鈴音も、この部屋ではただの豚さんであり、桔梗に虐められて激しく体を震わせていた。
こうなってはまともな話など出来ないので、こちらもそろそろスイッチを入れていく。雪も何だかんだ無人島試験前ぶりということで、もう二週間以上もお預けだった。
最近はセフレの人数も増えて、順番待ちが多くなっているが、それでも二週間以上というのはなかなかない。そのせいか、雪もかなり積極的で、久しぶりのTレックスを堪能しているようだった。
◇◆
「わざわざ教師を経由してまで、私の所にやってくるとは……君も度胸があるというか。そういう所は父親譲りなんでしょうかね」
「生憎と会ったのは数回だけで育てられた記憶もない」
雪たちと一日遊んだ日の夜。夕食後にオレは茶柱を通じて事前に連絡を取り、月城の元にやってきていた。
原作だと、今日の夜中に茶柱が次の特別試験である満場一致試験の話や過去の自分の話をするために、オレをコンサートホールに呼び出すが、この世界でオレは個室を持っているため、わざわざコンサートホールに行く必要性がない。
しかし、原作だと最後の別れをするために、月城がコンサートホールにやってくる一幕があった。もし、万が一、個室にやって来られでもしたら面倒な事この上ないので、事前に月城とはしっかり話を付けようと思ってこうして時間を取ったのだ。
「君のことだから既に把握しているかもしれませんが、私は本日付けで理事長代理を解任されました。故に、朝になればもう二度と君と話すことも出来なくなる。だからこそ、どこかでもう一度くらい話す時間を取りたいと思っていたのですが……まさか、君の方から来てくれるとは予想外でしたよ」
「こちらとしても、どこかで話がしたいとは思っていたんですよ。あなたにはいろいろお世話になった。この半年、良いビジネスパートナーでいられたと思っていますしね」
本当なら、こんな子供の話など聞く必要などなかったが、月城はオレの実力を把握した上で、一個人として付き合うことを選択してくれた。
もし、あの時、月城がオレの手を取らずに敵のままだったら、この数か月の学校生活はもっと息苦しいものになっていただろう。そういう意味でも月城には感謝している。
「ですが、最後の最後で私はあなたを裏切りました」
「親父殿の指示でしょう? あなたの任期の終わりが近づけば強硬策に出てくるのは読めていました。それにあなたは試験前の挨拶で、オレにそれとなく危険を匂わせてくれたじゃないですか」
そう言う所で義理を通せるから、この男は賢いのだ。素直にオレを裏切らず、裏切った後でもこうして関係を修復できる余地を残しておく。
この男の人間関係の作り方は本当に尊敬できる。真似したいとは思わないが、味方にしておいて損はないと思わせるだけの力があるのは確かだ。
「気づいてくれるとは思っていましたが、本当に君は賢いですね。それに、私に本気を出させたあの実力……正直、どれだけ優れていようと子供は子供だと思っていましたが、君は本当に底が知れない。まるで、未来でも見えているかのようだ……」
未来予知は出来ないが、原作知識があるので似たようなものかもしれない。月城も半分は冗談で言っているのだろうが、オレが理外の何かを持っているのは察しつつある感じだ。
「未来なんて不確かなものですよ。自分の意思でいくらでも変えられる」
「ふっ、何も知らない子供のような言葉ですね。ですが、君が言うと冗談に聞こえない」
冗談ではない。実際に、もうこの世界は原作である『ようこそ実力至上主義の教室へ』とは完全にかけ離れた世界になっている。この先の未来を作るのはオレたちであり、オレはその未知を知りたくて今を精一杯生きているのだ。
「表向きのあなたはオレに退学するかを聞く必要があると思うので、先に退学はしないと伝えておきます。学校のルールに則って退学処分を受けない限りは、卒業までこの学校で楽しく生活を送りたいので」
「……卒業してからはどうするつもりなんですか?」
「ホワイトルームに戻るしかないでしょう」
「心配せずとも、ここだけの話にしておきます。あなたのお父様には今の答えを返すので、本心から今の君の心中を聞かせて頂けますか?」
そう言われては素直に話すしかないだろう。
「正直、ホワイトルームには何の興味もありません。親父殿は政治家としては完全に無能ですし、オレが何もしなくてもいずれ潰されます。そうなれば、ホワイトルームも運営者が変わるか、完全に閉鎖されるか、どちらにしろオレが戻る必要性を感じない」
「ははは、ハッキリ言いますね。お父様からはホワイトルームの指導者か、政治家にすると聞かされていたのですがね」
「ホワイトルームに限らず、似たような施設はたくさんあるでしょう? わざわざホワイトルームに戻って指導者になるのも面白くないですし、政治にも全く興味がないんですよ」
「この学校での君の振る舞いを知っている身としては、どうしても血筋を感じざるを得ません」
そう言えば、親父殿も若い頃はホストで女を食べまくっていたんだっけか? そう言われると、オレの女好きも俺の意思だけじゃなくて遺伝なのかもしれないな。
「卒業後のことですが、高円寺グループの御曹司から声をかけられているんで、そっちに身を寄せようかと考えています」
「成程、高円寺の庇護下に……つまり鬼島さんの派閥に入る、と?」
「それも考慮に入れていますが、オレの現状や生い立ちを考慮すると、特に問題さえ起こさなければ、総理はオレのことを放置してくれるのではないかとも考えています」
「……確かに、清廉潔白な政策を重視する鬼島さんからすれば、綾小路くんは危険なカードですからね。触らぬ神に祟りなしではないですが、敵に回らなければ放置は十分に有り得ます」
どうせ月城は親父殿だけでなく、鬼島の派閥にも顔を利かせているはずだ。だからこそ、将来的にこの男とのコネクションを持っているのは悪いことではない。
「……成程、だから私と話をしにきてくれたんですね。本当に君は、私のことすら何でも知っているようだ」
「何でもは知らないさ。知っていることだけだ」
オレの月城に対する知識も、俺が与えてくれた原作知識から推測したモノも多い。全てが完全に当たっている訳ではないが、それっぽく匂わせるだけでも効果はある。実際に、月城は半ば自分から勝手に勘違いしてくれた。
「では、話も終わったのでオレはそろそろ戻ります」
「はい。今度こそ、これでお別れです綾小路くん。最後に握手をして頂けますか?」
そう言って、月城は原作同様に左手を差し出してくる。基本的に左手の握手は、敵意や不信感、相手への侮辱などを刺すが、原作だと月城は自身は昔ボーイスカウトだったという過去があると口にしていた。
ボーイスカウトの場合、左手の意味は変わって来る。しかし、月城は敢えてその過去を口にせずに笑みを浮かべるだけだった。どうやら、そんなヒントを与えなくてもオレなら気付くと期待しているらしい。
敢えて何も言わずに、そのまま握手をする。
「……やはり、君は気付いているようですね」
「何のことやらサッパリです」
「今回はそういうことにしておいてあげましょう」
月城は前々から、オレの予測不能な情報を疑問視していた。勿論、それが原作知識だということまではわからないだろうが、オレが通常の方法以外で月城やその周囲の情報を入手しているということは確信できたらしい。
まぁ、多少の不信感はあれど、オレの有能性を示しておけば月城は敵に回るという選択肢は取らないはずだ。
「それでは、いずれ『また』お会いしましょう」
「どちらにとっても理想的な再会を願いますよ」
「こちらもです」
「後、最終日なので今日だけは夜間外出禁止のルールを軟化してくれませんか?」
「駄目です。もし、夜間に外出した場合は、しっかりと報告させて頂きます」
こういう所はお堅いようで、月城のいつもの笑みに見送られながら部屋を後にした。
まぁいい。まだルールの抜け穴はある。今日も今日で、いろいろ楽しませて貰うさ。
原作との変化点。
・麻耶を名前呼びにした。
ついでに千秋、恵を混ぜていつもの4Pをしている。
・桔梗を労った。
ついでに、雪が生徒会長を辞めるという話を桔梗と鈴音の二人にもしている。
・七瀬と会わなかった。
そういう日もある。
・月城とお別れの挨拶をした。
夜は予定があるのでこちらから先に挨拶をしに来た。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
桔梗を労って、月城に別れを告げた。
・椿雪
何だかんだ2週間ぶりの清隆。ずっと我慢していたので、結構ハッスルしている。が、まだ少し青痣が残っている。
・堀北鈴音
豚さんとしてやられたい放題やられている。が、口ではイヤイヤ言いながらも体は楽しんでいるドM状態。
・櫛田桔梗
鈴音を甚振って、清隆や雪に可愛がってもらってスッキリ。
・軽井沢恵
千秋が戻ってこないことから抜け駆けされたことに気が付いた。
・松下千秋
久しぶりに清隆を一人で堪能していたが、割と早めに恵や麻耶がやってきた。
・佐藤摩耶
名前呼びされたことに感激している。何だかんだ勢いでずっと一緒に居るが、これからもずっと一緒に居ようと心に決めた。いい意味でおバカ枠。
・月城常成
何だかんだ最後までいいやつだった人。実は原作でも、口ではいろいろ言いながらも文化祭を追加してくれたりと有能なことしかしていない。ちなみに、ボーイスカウトの左手の握手は『敵意のない友好・信頼の証』という意味。本当に月城がボーイスカウトだったかどうかまでは不明。