秋山さんとの仲は順調に深められていた。予定通り、2日に1回くらいのペースで通いながら、彼女が暇をしている時間を見計らって軽く世間話をする。
当然ながら、本来の目的であるトレーニングも忘れずにいると、たまに向こうの方から「こまめに水分を補給してくださいね」などと声をかけられることもあった。
とはいえ、秋山さんの方は今日明日に関係が進展する訳ではないので、休みの日はいつものように女子との時間を大切にしていく。
この日はたまたま白波がレンタルショップで何かの曲を聞いているのを見つけた。向こうもオレに気付いて大慌てするという一幕もあり、原作でも似たようなことあったな――と、思ったが、丁度いいので監視カメラの死角に移動して白波で遊んでいく。
誰かが来るかもしれないという背徳感と、カメラに映るギリギリに隠れて恥ずかしい恰好をさせられるという羞恥で、白波は顔を真っ赤にしながら大洪水を起こしていた。
今回、白波はスカートを履いていたからまだ良かったが、もしこれがパンツ系のズボンだったらアウトだったかもしれない。
いろいろあったが、やはり白波はオレのことがあまり好きではないようだ。しかし、命令には逆らえないようでいいように遊ばれてくれている。
オレとしても、白波は真鍋や諸藤、藪、山下のような玩具にランクインされているので、こうして遊ぶくらいが丁度いい使い方だった。
◇◆
久しぶりに椿から連絡が来た。どうやら無人島試験で手を貸したお礼をしたいということで、オレと雪、椿と宇都宮のダブルデート(?)をしている。
聞けば、八神が黒だとわかったことで、これからの1年Cクラスは八神のいる1年Bクラスを標的にしていくことを決めたらしい。うちの学年でいう、帆波クラスと龍園クラスばりに、お互いにばちばちの状況になっていると言っている。
とはいえ、宇都宮も宝泉が嫌いなのは変わらずのようで、八神は八神で敵だが、宝泉は宝泉で退学するべき相手と認識しているらしくどちらもこの学校から追い出すつもりと意気込んでいた。
椿としては、表向きのクラスリーダーである宇都宮に退学されても困るのでほどほどにするように言っていたが、そんな椿もなんだかんだ八神を退学させるつもりはあるらしい。
まぁ、こればかりは波田野を退学させた八神が悪いしな。あいつもこれからオレを狙いながら、同学年の生徒に狙われるという面倒くさい立場になりそうだった。
正直、今の所はオレから手を出すつもりもないし、仕掛けてきたら迎え撃つくらいの考えだが、もしかしたら原作通りに八神が退学させられることもあるかもしれないな。
◇◆
原作だと神崎が帆波のぬるいやり方では勝てないと反旗を翻す一幕があるが、この世界ではオレの指示に帆波がしっかり従っているので、神崎も今までと変わらず帆波に付き従っている。
それはつまり、姫野がクラスを変えようと動くイベントもないということであり、本来であれば出番を潰して関係を作りづらくなってしまうのだが、豪華客船の一件で完全に落としたおかげもあってその心配も無くなっていた。
その証拠に、唐突な呼び出しをかけると、ムスッとした顔をしながらも素直にやってきている。口では「うざ」、「キモ」と文句を言っているが、抵抗する様子はまるでなかった。
こういう口が悪くて、あまり目立つのを好まないタイプを弄るのは割と楽しいので、今日は姫野を連れ回してファッションショーと洒落込んでいる。
今、オレはいろいろあってクラス間移動ができるだけのPPを溜め込んでおり、姫野に服を買ってやるくらい大した散財ではなかった。完全に着せ替え人形にされた姫野は「私にこんな可愛いの似合わないから……」と照れながらも服を見せてくれている。
最終的には30万PP程使って姫野に似合う服を何着か買ってやった。これには姫野も文句はないようで、小さな声で「ありがと」と感謝の言葉を述べている。
そのおかげもあってか、オレの部屋への呼び出しも素直に頷いており、いつもの口の悪さはどうしたと言わんばかりにされるがままになっていた。
顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにしていて、口からは漏れそうになる声を耐えようと頑張って手で押さえている。しかし、その程度で耐えきれるはずもなく、最終的にはらしくもない甲高い声を部屋中に響かせていた。
◇◆
夏休みも残り僅かになり、少しずつ秋山さんとの仲も進展してきた。ジムに行って顔を出せば、向こうから挨拶をしてくれるし、オレからだけでなく秋山さん側からも話をしてくれることが多くなっている。
会話の回数が増えれば、自然と情報を引き出すのも難しいことではない。何回か探りを入れた結果、秋山さんは今現在、彼氏はいないと言っていた。これにはいずれ秋山さんに恋をする真嶋もにっこりだろう。
ただ、彼氏がいないのは最初からわかっていた。
もし彼氏がいるのなら、週6回もシフトを入れようとは思わないだろう。それにこの学校で働いている職員は、教師たちと同様に学外に出ることは出来ずに寮などで暮らしている。
そんな状況では、仮に彼氏が居ても長続きなどしない。勿論、この学校内の施設で働いている人の中に彼氏がいる可能性もゼロではなかったが、それも前記の理由でないとわかっていた。
流石に男性経験があるかどうかまでは聞けなかったが、少なくともここしばらく彼氏がいないということは、かなりご無沙汰と考えて良いはずだ。
秋山さんくらいの年齢から、女性は子孫を残すために性欲が強くなる傾向になる。あの茶柱でさえそうだったのだ。秋山さんも自身を持て余していると見てまず間違いない。
好感度も少しずつ上がってきているし、後はキッカケとタイミングだ。流石に素直にデートに誘っても、高校生の誘いを受けはしないだろう。
何か、秋山さんがオレと一緒に外出をしてもおかしくないような用事が必要だ。
ベタな所だと、気になる女性へのプレゼントを考えているので手伝ってほしいというものか――その気になっている女性というのは実は秋山さんでした。と、いう感じで持っていければ上手く気持ちをこちらに向けることができるかもしれない。
◇◆
秋山さんをデートに誘おうと決めたものの、なかなかタイミングが見つからずに日にちばかりが過ぎていく。
今日も今日とてジムの帰り。これからどうするか――と、頭を悩ませていると、原作でも取り上げられていた、ケヤキモール外壁に沿うように設置された自販機の死角に隠れている山村を見つけた。
とはいえ、別に原作のように今現在誰かの後を追っているという感じではなく、おそらくは坂柳の指示で何かの仕事をし終わってここにいたという感じだ。原作でも言っていたが、ここは自販機も多くて隠れる場所が多いから落ち着くのだろう。
しかし、当の山村はオレを見るなり、顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
思えば、山村と最後に時間を共にしたのは、坂柳や森下と共に本年度第三回のおしがま選手権を開いたのが最後だったっけか。
まぁ、あの宴に参加したとなれば、まともな精神をしていれば恥ずかしがって当然であり、別に裸という訳でもないのに自分の身を隠そうと胸などを抑える仕草を見せていた。
あの時は坂柳や森下の空気に流されてしまったようだが、こうして再会して改めて羞恥を感じているのだろう。
とはいえ、あの時の山村も意外と楽しんでいたと思うのだが、それを指摘すると柄にもなく大声を出しそうなのでとりあえず落ち着くように声をかける。
向こうもオレが無理やりに女を襲うような野蛮人ではないとわかると、少しは落ち着いてきたようで何度か深呼吸をして自分を落ち着けようとしていた。
そのまま話を聞いてみると、どうやら坂柳の命令で何かをしていた訳ではないようで、たまたまここで涼んでいただけだという。
特に用事がないようならデートに誘ってみたが、恥ずかしがって拒否しようとしてきたので、「付き合ってくれないとオレの携帯から何かが出てしまうかもしれない」と、あの時の写真の一枚を見せると、喜んでデートを受け入れてくれた。
本人は「……喜んでません」と言っているが、オレが携帯端末を出すと、「わ、わぁ! ウレシイナー!」と、大喜びしている。
実際、オレもこの一年で場数を踏んだことも有り、エスコート力は割と鍛えられていた。山村としても、デートと言うのは名前だけですぐにホテルにでも連れていかれると思っていたようだが、ケヤキモールを回っている間はそこそこ楽しそうな笑みを浮かべている。
とはいえ、そのまま素直に終わるはずもなく、その後は流れるようにオレの部屋へ――よくある脅しの手口と同じくばらされたくなければと、山村を美味しく頂いていく。
しかし、別に坂柳と本格的に敵対したい訳ではないので、途中で坂柳にも連絡して森下も交えて第四回のおしがま選手権を開催することにした。
山村にとっては悪夢の催しだが、不参加を表明すればどうなるかわかっているため逃げられない。坂柳はいつものように強制参加だし、森下は何だかんだ負けないとタカを括っているようで余裕の参加を表明している。
だが、今回はいつもと様子が違った。いつもならばこの一年で体がそれ用になっている坂柳が余裕の優勝を見せるのだが、今回はオレとのデートからずっとトイレを我慢していたらしい山村が互角の戦いを見せている。
最終的には聞いたこともないような悲しい絶叫と共に、山村が坂柳と同時優勝を決めていた。まさかあの坂柳と互角の実力を見せるとは――と、思っていると、「山村美紀も刺激に弱いタイプなのですね」と嘲り笑われ、普段は見られないくらい顔を赤くした山村が坂柳と共に森下を噴水まで追い込み、無事におしがま三姉妹となっていた。
◇◆
「この2学期は、お前たちにとっていくつかのイベントが控えている。まずは去年も行われた10月の体育祭だ。去年と異なるルールもあるが、必要とされる能力に大きな違いはない。続いて、11月には高度育成高校初の試みとして文化祭の開催が決定した。詳細は体育祭同様改めて告知するが、これも9月から並行して時間を取っていく」
気が付けば新学期が始まり、いつものように登校を終えると、チャイムと同時にやってきた茶柱がこの後のスケジュールを告知してきた。
去年と同様なら、9月は主に体育祭に向けて体育の授業が増えるが、今年はそれに加えて文化祭に向けた話し合いの時間も1時間程設けられるらしい。
その他にも特別試験や中間、期末のテスト、さらには修学旅行とイベントが目白押しだ。去年に比べてもかなりハードなスケジュールになるのは確かだろう。
「体育祭についてはまた後日説明するとして、まずは文化祭について説明をする。詳しくはタブレットに目を通してくれ」
どうやら文化祭についての概要が送られてきたようで、タブレットからページを開いていく。
【文化祭概要】
・2年生には各クラスに文化祭の準備のみで使用できるPPを1人5000ポイント与えられ、その範囲内で自由に活用することが認められる(1年生は5500ポイント、3年生は4500ポイントの初期費用)。
・生徒会奉仕等の社会貢献、部活動での活躍による貢献などで追加資金が与えられる(詳細は確定後改めてクラス毎に発表する)。
・1位から4位のクラスにはCP100が与えられる。5位から8位のクラスはCP50が与えられる。9位から12位のクラスのCPに変動は無し。
「文化祭は大勢の来賓を迎え入れてのものとなる。そして、お前たちは文化祭において全学年全クラスと売り上げの総額で勝負をして貰う。出し物はいくつでも申請可能だが、予算は限られているので注意しろ」
「な、なんか王道の文化祭って感じ」
篠原が思わずという感じでそう声を漏らす。実際、CPがマイナスになることはなく、退学になるようなリスクもない。現段階では夢のようなイベントにしか見えなかった。
「また敷地内において、どの場所を確保するかも重要になってくるだろう。例えば、来賓が絶対に通る正面付近に出店を希望する場合、場所代を学校に支払うことになる。詳しくは『敷地内出店可能リスト』を確認しろ」
タブレットに視線を落とし、そのリストに目を通していく。今、茶柱が口にした場所の代金は約1万PPだった。
初期資金が一人5000PPとして、一クラス約40人で20万PP。その中での1万PPというのはかなり高額と言わざるを得ない。場所も大事だが、出し物によってはPPを多く使う以上、下手に即決は出来なかった。
「出店場所を巡っては他クラスや他学年と希望が被る場合も考えられるが、被った場合は競りを行うことになる。席替えの時のように、より高い金額を付けて学校に希望を出したクラスが権利を得る仕組みだ」
あの席替えにも意味があったらしい。
「どのクラスがどのような出し物をするか、どこに出店するか、それらの情報は文化祭当日までは公開されない。だが、生徒の耳を塞ぐことは出来ないことには注意しろ。学校側が漏らすことはないが、情報が漏れた場合は容赦なく対策を打たれると思った方がいい」
どんなに良い出し物を思いついても、出し物を被せて対策してくる可能性もあるということだ。
それこそ坂柳や龍園なら容赦なく上級生や下級生のクラスを利用してこちらの出し物を潰すだろうし、同じように今の帆波も相手を潰す動きが可能と言って良い。
「必要なものが敷地内で手に入らない場合は、申請して許可が出れば外部から取り寄せることも可能だ。規約内でなら、予算はどう使っても構わない。以上が文化祭の説明とそのルールだ。具体的な準備や期間などは体育祭が終わってからスタートするが、今日から話し合いをして、出し物を決めたり予算配分を決めたりと、上手く時間を用いて行っていくように」
そう説明を終えると、茶柱が教室を去っていく。文化祭はマイナスがない以上、結果を出せばCPも得られて楽しむこともできる素敵なイベントになりそうだった。
こんないいイベントを考えてくれた月城には本当に感謝しかない。正直、坂柳の親父さんではなくて月城が理事長をしてくれた方が楽しい学校生活が送れるのではないだろうか?
原作との変化点。
・秋山さん攻略中その2。
名前と顔をしっかり覚えられてもらった。今は軽い世間話をするくらいの仲。
・白波をイジメた。
冬のイベントを再び再現した。清隆からすると、白波は良い声で鳴くオルゴール。
・桜子たちの進捗を聞いた。
八神とバチバチ状態。石上は、まだ八神がそこまで暴れていないのもあって静観中。なので、どちらにも協力しても良いと考えている。
・姫野とデートした。
澪と似たようなタイプ。澪と違って仲間を大事にしているので、命令されるとされるがままになる。
・山村と楽しんだ。
坂柳と共におしがま同時チャンプになった。
・体育祭と文化祭は同時並行。
原作通り。文化祭ではメイド喫茶をする予定。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
夏休みを満喫した。体育祭でクラスの見極めをするが、文化祭は楽しむつもりでいる。
・茶柱佐枝
文化祭の説明をした。内心は満場一致試験のことで一杯。
・椿桜子
原作と違って八神とバチバチ状態。
・白波千尋
玩具にされた。惨めな自分に喜ぶタイプ。
・姫野ユキ
何だかんだ絆されつつある。が、抵抗はしている。澪みたいな状態。
・山村美紀
偶然が重なって恥を晒した。顔を赤くしていたのは恥ずかしさと怒りが混在したような状態。原作ではまず見られないだろう。
・秋山さん
少しずつ関係性を築いているが、これまでのように簡単にはいかなくて逆に楽しんでいる。