ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯055 『では、メニュー外のスペシャルご奉仕コースを』

 放課後になると、2年Bクラスで文化祭に向けた一回目の話し合いが始まった。

 出し物は原作通りにメイド喫茶にする予定だが、原作でもメイド喫茶をメインに据えながらも、他に売店やクイズみたいな出し物をしてメインのメイド喫茶へ集客誘導をしていた記憶がある。

 

 ぶっちゃけ、メインがメイド喫茶であれば他はおまけなので何でもいいのだが、この世界が既に原作と流れが違う以上もしかしたら予想外の出し物のアイデアが出る可能性もあった。未知への興味から、クラスの話し合いにも一応耳を傾けておく。

 

「じゃあ、まずは簡単に思いつく限り、出し物の一覧を出してみる?」

 

 教室のモニターを使用する許可を貰っているようで、表向きクラスのリーダーである桔梗が、モニターとタブレットを繋いで文字を打ち込んでいった。

 文化祭と言えばこれ――ではないが、やはり食事関係やお化け屋敷、迷路、カフェ、ライブ、劇などオーソドックスで分かりやすいものが列挙されている。

 

「開催時間は午前10時から午後3時まで。飲食に関しては、来賓の方達も利用してくれることが見込めるわね。けれど、その分競争率も上がる可能性もある……」

「後は予算との兼ね合いだね。一度作ってしまえば、以降はコストが抑えられるお化け屋敷とかに比べると、機材や道具はどうしても高くなっちゃうし」

 

 鈴音や桔梗の言葉を聞きながら、他の生徒達も頭を悩ませていく。音響機材や衣装などは、レンタル費用を払うことで貸し出して貰えるようになっている。

 しかし、数に限りがある上に、早い者勝ちというルール――生徒側としては早めに手を出したいが、迂闊に手を出してマイナスを出す可能性もある以上は下手には動けなかった。

 

「僕たちのクラスは41人。つまり、今見えている予算は205000ポイント。他のクラスよりも少し多いけど、正直に言えば十分とは言えない金額だ。食べ物を作ると言っても簡単には決められないしね」

「確かに平田くんの言うように、文化祭に割ける予算は限られているわ。けれど、机上でいくら議論してもわからないことは多い。それなら、まずはクラスで案を持ち寄って、実際にテストをするべきじゃないかしら?」

「テストってどういうこと、堀北さん?」

「PPを使って、実際に試してみるということよ。仮に、屋台でたこ焼きを作るにしても、どんな材料を使うのか、どう調理するか、様々なものが必要になって来る。それらを事前に検証すれば、最終的にどれだけの費用がかかるかもわかりやすくなるでしょう?」

 

 鈴音の提案に対して、話を聞いていた多くの生徒が頷きを返す。実際、このまま口論しているよりも、いろいろ試してみた方がわかりやすいというのは間違いない。

 自腹を切ることにはなるが、うちのクラスは原作よりもCPやPPに余裕が出来ているし、それで勝利できるというなら大半の生徒は喜んで先行投資してくれるだろう。

 

「それじゃあ、ここで一つ追加意見を出そうかな。ただ自腹を切るだけだとやる気も出にくいだろうから、出し物が採用された場合は立案者に報酬を支払うっていうのはどう?」

「流石は雪さんね。それはいいアイデアだわ」

「うん。それなら、生徒間同士でのやる気にも繋がるし、出し物を考えたりプレゼンしたりするのも積極的になる。何より、頑張った人が報われ、還元されるのはとても良いことだ」

 

 雪が思い付きで原作の鈴音と同じ意見を出すと、鈴音と洋介もそれに賛同する声を上げた。

 

 文化祭で得られるCPは最大で100だ。つまり、ひと月のPPに換算するとクラス全体で最大41万PPが手に入る。これを立案者で割って報酬として渡せば、自腹を切ってトライしてくれた生徒からも文句は出ないだろう。

 仮に、出し物が5つになったとしても、一人辺りの報酬は82000PPにもなる。もし、立案者や協力者の数が多い場合は、もうひと月分のPPを出して割ってもいい。最終的に全員が得しかしない以上、反対意見を出す意味もないということだ。

 

「後はアイデアを盗まれないように、情報は徹底的に伏せることだ。学校、寮、ケヤキモールを問わず、発言には十分気を付けてくれ」

 

 一応、まとめとしてオレがそう声を上げる。

 

 どんなに良い出し物を用意しようとしても、企画をパクられましたでは話にならない。こちらの忠告に頷きながら、各メンバーで集まって出し物についていろいろ考えていく。

 

 最終的には、まずは出し物についての企画書を纏め、次にクラスのリーダー格である雪、桔梗、洋介、鈴音に対してプレゼンを行う。

 その中から勝ちの目が高いと判断された出し物を採用する――という、三つの工程を経て、うちのクラスの出し物は決まることになった。勿論、最終的に決めるのはオレなのだが。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 当然ながら、報酬が出るとわかれば生徒達もやる気を出す。おまけに、この学校では無理だと思っていた文化祭ということで、クラスメイト達のテンションはかなり高い。

 そんな中、放課後になると、まずはトップバッターとして、本堂が桔梗に、「やっぱり文化祭と言えばから揚げだよ! 美味いし売れるし、これしかない!」と訴えてきた。

 

 とはいえ、これしかない――と、言われても、何をどうしてそうなるのかの根拠がなかった。おまけに、まず企画書を出せと言われているのに、提案しか出さない本堂に桔梗も苦笑いを浮かべている。

 

「あのね、本堂くん。本堂くんが、から揚げに並々ならぬ熱量があるのはわかったけど、それだけじゃ意見としては受け入れられないかな」

「な、なんで、櫛田ちゃん?」

「これがただの文化祭で、みんなで楽しむだけならそれでもいいんだけど……そうだね。じゃあ、仮に本堂くんが本当にから揚げ屋さんを始めるとして、美味いし売れるし店を出そうって言うだけで出せる?」

「それは……無理……」

「なんで無理だと思うの?」

「そりゃ、本当に店を出すなら、店を立てるお金とか場所とかいるだろうし……」

「そう、この文化祭もそれと同じだよ。から揚げの出店を出すとして、原価はいくらなのか、出店場所はどこなのか、人材がどれだけいるのか、定価がいくらで客数は何人を想定しているのか、その根拠は何か、そういうのがわからないとOKは出せない」

 

 桔梗の諭すような言葉に、本堂だけでなく近くに居たクラスメイトも真面目に話を聞く様子を見せていた。

 

「厳しい言い方になるけど、CPがかかっている以上、この文化祭は遊びじゃない。勿論、お祭りだから楽しくしたいっていう気持ちはあるよ。でも、勝負でもある以上、他のクラスに負けない出し物を出さないといけないと私は思ってる」

「そっか、そうだよな。本当に店を出せるレベルの企画なら、絶対に勝てるもんな」

「そういうことで、本堂くんはまず私が今言ったことを念頭に置いて企画書を作ってみて。一人で難しいなら協力してもいい。本堂くんと同じ意見の人は少なくないと思うし、もしかしたら中にはそういう計算に強い人も居るかもしれないよ」

「ああ。ありがと、櫛田ちゃん」

 

 流石は桔梗。頭ごなしに全てを否定するのではなく、わかりやすく問題点を伝えて改善する手段を相手に理解させている。

 これで話を聞いていたクラスメイトたちは、そこそこレベルの高い企画書を考えてくるだろう。しばらくは本堂レベルのやつが数人出てくるかもしれないが、そいつらにも今と同じようなことをしていけば、最終的にはレベルの高い出し物が提出されていく。

 

 まぁ、最終的にメインはメイド喫茶にするんだけどな。メイド姿のセフレ達が見たいし。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 それから企画書を纏める期間に入ったようで、しばらくクラスから意見が出ることはなかった。

 とはいえ、文化祭の前には体育祭もあるので、文化祭の企画だけを考えればいいという訳ではない。まずは少しずつ、去年の体育祭でしていた練習を思い出そうということで、リハビリがてらマラソンをして体力を戻す組の姿もちらほら見えた。

 

 啓誠もまたそんなリハビリ組の一人だったのだが、から揚げ屋を企画していた本堂は一人で企画書を作るのは無理だと判断したようで、クラスでも頭脳派の啓誠に力を貸してくれるように頼み込んでいる。

 最初は渋っていた啓誠だが、綾小路グループで特に出し物をする予定もないことや、よく考えるとから揚げは悪い提案ではないということで、本堂のから揚げ企画を手伝うことにしたらしく頭を悩ませていた。

 

 また、意外にも池がミスコンという意見を出して割とガチ目の企画書を出してきたのは予想外で驚いている。

 どうやら篠原経由で真澄の力を借りたようで、衣装にかかるお金や舞台の場所も割としっかりしており、実際の集金についても見物料や写真撮影なんかで儲ける――と、メイド喫茶に近い企画になっている。

 

 ぶっちゃけ、真澄がこういう企画に手を貸すのは意外だったが、「あんた、意外と好きでしょ? こういうの」と、俺の趣向を読んでのことだったらしい。

 

「流石は真澄、オレの好みを良くわかってるな」

「PPの都合でやらないだけで、こういう綺麗所を着飾るっていうのは私もそんなに嫌いじゃないしね」

「メイド服ですら一着2~3万PPくらいするからな。いくらなんでもそこまで数は揃えられん」

「でも、見物料として投票するためにPPを集めれば集金はできるし。全部が終わったら、衣装はこっちで回収できる。来年は多分ないから私たちで自由に使ってもOKよ」

「天才か、お前……」

 

 実際、メイド喫茶でなければ、この企画を押していたかもしれないと思うくらいには、内容も悪いものではなかった。クラスの美少女達が着飾るのは間違いなく見て居て目の保養にもなる。視力が0.5くらい上がってもおかしくなさそうなレベルだ。

 

 しかし、やはりメイド喫茶には適わない。

 

 メイド喫茶の何が良いって、最終的に文化祭が終わった後、メイド衣装を使った複数人でのメイドさんプレイを楽しむことが出来るという点だ。

 ミスコンで着飾った衣装で楽しむのも悪くないが、やはりセフレ全員をメイドさんにして接待して貰うという、男の夢は捨てがたいものがある。

 

 多分、真澄がこれを聞いたらジト目を向けてきそう――と、いうか、今も半分向けられているが、文化祭が終わった後は絶対にメイドさんとしてご奉仕させてやるぞ。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 そんなこんなで2学期が始まってから2週間程が過ぎた頃。原作通り、麻耶が自信ありげな表情で「ねぇ、清隆くん。この後、時間貰えないかな?」と声をかけてきた。

 

 基本的に表向きのクラスリーダーは桔梗や洋介だが、セフレたちはオレが陰からクラスを支配しているのを知っているので、直接オレに声をかけてきたのだろう。

 それに気づいた桔梗や洋介もこちらにやってくる。また、席が近い雪や鈴音も話を聞いていたようで、「清隆におねだりしても駄目だよ?」、「企画を通すなら、それなりのプレゼンが必要ね」と、麻耶に声をかけていた。

 

「大丈夫、わかってるから。それでね、文化祭の出し物について私たちなりにいろいろ考えたんだけど、言葉で言うよりも実際に見て貰いたくて……」

 

 どうやら、麻耶は原作通りにメイド喫茶の案をプレゼンではなく、実体験させるという形でアピールしたいらしい。

 

「30分後に特別棟の空き教室に来て。先生には許可貰ってるから」

「あ、佐藤さん。私たちも行って良い?」

「うん。いいんだけど、あまり目立ちたくないから3人まででお願いね」

 

 桔梗の質問に答えると、そう言って麻耶は急いで教室を出て行った。当然、オレは行くつもりだが、雪や鈴音も興味ありそうな顔をしている。

 

 ちなみに本来であれば、10月の体育祭の後に雪は生徒会長を引退して鈴音と入れ替わる予定だったのだが、文化祭で生徒会奉仕のボーナスがあると聞いて延期することになった。

 

 しかし、文化祭の後は期末、修学旅行とやることが目白押しなので、12月になるまで政権交代は難しいかもしれない。

 まぁ、雪はまだ2年なので学校側から世代交代をせっつかれることもないし、楽しい文化祭をするのにPPはあって困るものではない。雪も渋々という形だが、文化祭以降に生徒会長を引退することにし、ゆっくりと引継ぎをすることにしたのだ。

 

 と、いう訳で、今は割と時間があるので、雪も鈴音もクラスの運営に協力している。

 

「オレは行く。桔梗もクラスのリーダーなので、行くのは当然。残りの枠は1つだな」

「僕は遠慮するよ。清隆くんがいくなら大丈夫だろうし」

 

 洋介は部活もあるということで、そのまま教室を去っていった。すると、後は雪と鈴音だが、いくら雪相手とはいえ鈴音も次期生徒会長として遠慮する気はないようで、互いに真剣な表情で向き合っている。

 

「さーいしょはグー!」

「じゃんけん!!」

「「ポン!!」」

 

 雪が左のストレートを繰り出し、鈴音は右のチョキを出す――というフェイントをかけて、ギリギリ後出しにならないタイミングで右のパーを出していた。

 

「あー、負けたー!」

「雪さんの動体視力なら、私がチョキを出すのは見えるでしょうし、反対の手で勝てる手を出す対雪さん必勝法よ」

 

 前世の記憶にあるハンター漫画のようなテクニックを使って鈴音が雪を出し抜いたことで、特別棟に向かうのはオレ、桔梗、鈴音の三人に決定している。

 

 雪も特別棟までは一緒に行くということで、4人で指定された教室まで行ったのだが、原作と違って恵が見張りをしているようで、こちらに手を振ってきていた。

 

「私見張り役ね。放課後に特別棟に来る人なんていないと思うけど、情報漏洩しないためにも念には念を入れてってヤツ」

 

 原作だと、前園が仲間に居るが、この世界では恵と千秋と麻耶の仲の良さが原作よりも高いので前園の代わりに恵が仲間になったのだろう。オレとしても、将来裏切る可能性のある前園よりは恵の方が安心できた。

 

「んじゃ、私も恵ちゃんと一緒に見張りしてるね。万が一、龍園くんみたいに暴力を振るってくる人が来ても私が居れば平気だし」

 

 雪はじゃんけんに負けたので、恵同様に見張りに名乗りを上げた。恵も、「確かにそうなったら私じゃやばいかも」と、雪の提案を素直に受け入れている。

 

「でも、見張りを立てるなんて……思った以上にずっと手が込んでいるのね」

「そうだね。これはちょっと期待しちゃうかも」

「それで、もう中に入っていいのか?」

「あ、ちょっと待って。ここからは実戦形式になってるから、櫛田さんも堀北さんも清隆もお客さんとして体験してね」

 

 恵の言葉を聞いて、桔梗も鈴音も頷いていた。下手な企画書を見るよりもわかりやすいし、ここまで手が込んでいると期待も否が応にも高まる。

 

 実際、今までの意見は原価や出店場所、人材の数、定価や購入客数の想定なんかといった最低限の必須事項を満たしていない案が多く、それらの最低限の基準を抜けた案ですらこれといったものがなかったのだ。

 

 それがここまで本格的に用意をしてくれるのであれば、内容が見合ってなくても評価に値する。

 

 改めて、周囲に誰も人がいないのを確認して恵が扉を開いた。急いで中に入ると、まずはとても無機質な特別棟の教室とは思えないほど、明るく装飾されたカラフルになった室内の状況が目に入って来る。

 

「いらっしゃいませ~」

「メイド喫茶Maimaiでーす!」

「ご注文は何に致しますか、ご主人様?」

 

 続いてメイド服に身を包んだ麻耶と千秋、メイド服に身を包んだみーちゃんが、オレたちに丁寧な接客をしてくる。

 改めて室内を見ると、ホワイトボードにペンで可愛く店名が書かれており、席に案内されながら手作りのメニュー表を渡された。

 

「では、メニュー外のスペシャルご奉仕コースを――」

「馬鹿なこと言ってないで真面目にして」

 

 室内も室外にもセフレしかいないのでワンチャンあるかとも思ったが、あっさりと鈴音に却下されてしまう。残念。

 

「凄いね、これ用意するだけでも結構な時間とお金がかかったんじゃない?」

「そうね。装飾だけならまだしも、その衣装は……」

 

 桔梗と鈴音が真剣な表情で精査していく。原作だと鈴音だけだが、今回は桔梗も居るので下手をすると原作通りにはいかない可能性もあった。

 

「千秋ちゃん。どれくらいかかったっけ?」

「準備期間は約4日。かかった費用は全部で13200PP。ここにいる3人と恵の4人で企画して割り勘してるから、一人当たり3300PP。内約はレンタル衣装3着と、雑貨屋で折り紙やペンの装飾関係を買ったくらい。食器類は私たちの私物だから費用は無し」

「意外とリーズナブルな値段だね」

「ええ。それにインパクトとしても完璧だったわ」

 

 少なくとも、これまで見てきたどの出し物よりもレベルは高い。とはいえ、掴みだけは良くても中身が伴わなければ意味はなかった。

 

「それじゃあ、みーちゃんに質問。これ、全体の予算はもう出してる?」

「具体的なプロセスがあれば見たいわね」

「えっと、出来る限り企画書に纏めてみました……」

 

 クリアファイルを鞄から取り出して、それを桔梗に渡していく。横から鈴音も覗き込むように目を通しており、みーちゃんが書いたと思われる綺麗な字で詳細が書かれていた。

 

 衣装は、3社からそれぞれ見積もりを取り一着ずつ借りたらしく、値段とクオリティ、品ぞろえをそれぞれ比較したデータが記載されている。

 また、先程も言った最低限の事項から、予測される様々な事態にまで詳しく企画内容が書かれており、流石に原作で採用されただけはある出来となっていた。

 

「流石、みーちゃん。完璧だね。これなら確かにしっかり作りこめれば可能性はあるかも」

「ええ。これまで見たどの企画書より頭一つ抜けて完成度が高い。流石だわ」

 

 素直な賞賛を受け、みーちゃんも恥ずかしそうに笑みを浮かべる。とはいえ、これでじゃあ採用と行かないのが現実の辛い所だ。

 

「じゃあ、次に問題点を上げていこうか。衣装のレンタル代が1着4000PPで、10着で40000PP。飲食の用意にかかる費用の概算が50000PP。教室内の装飾品が5000PPで、そこに場所代もかかると、それだけでもう予算の半分を越えちゃうね」

「そうね、決して安くはない出し物だわ。それにメイド喫茶は決して珍しいと言えるジャンルではない。集客数を稼ぐにはそれなりのアピールも必要になってくる」

 

 二人の厳しい言葉を受けて、みーちゃんの表情が一転して泣きそうになっている。そんな中、麻耶は強気にアピールを続けてきた。

 

「私たちのクラスなら、男子の集客が大きく見込める。その分単価もあげられると思うの!」

「紅茶1杯800PP。ケヤキモールのカフェよりもかなり高い金額よ。普通なら尻込みしてもおかしくない。そこまで男子の集客数が大きく見込める自信はなに?」

「だって、うちのクラス可愛い子が多いじゃない?」

 

 あっけらかんとそう言ったのは千秋だ。可愛いは正義と断言するかのように、容姿を集客のための武器にしている。

 

「うーん……まぁ、可愛い子が多いのは私も同感ではあるけど……」

「容姿の趣味嗜好は人それぞれで違うわ。私たちにとって可愛い、美しいと感じる人も、他の人にはそう感じられないかもしれない。それを基準にするのは危険よ」

「そう? 私はそうは思わない。可愛い人は誰が見ても可愛いし、綺麗な人は誰が見ても綺麗だよ。特にうちのクラスには男子人気の高い櫛田さんや雪ちゃんもいるし、アイドルの愛里だっている。他のクラスに比べても勝算はあると思うんだ」

 

 原作では追及されなかった、愛里がアイドルであるというポイントを千秋は取り上げてきた。この世界では一年の頃から雫の仮面を被っている愛里の人気が高いのは誰もが知る所であり、実際問題としてアイドルというポイントはアピールとして十分な武器になる。

 

「ねぇ、清隆くんはどう思う? メイド喫茶いけると思わない?」

「結局、最終的な決定権は清隆くんにあるんでしょ? 私たちじゃ力不足?」

「あ、綾小路くん。私たち、頑張ります……」

 

 麻耶、千秋、みーちゃんがオレにもアピールしてきた。原作とは違い、この世界ではオレが決定権を持っている。と、すれば答えは一つ。

 

「メイド喫茶は有りだ」

 

 むしろ、却下するなど有り得ない。何せ、この世界には雪や真澄、ひよりも同じクラスにいるのだ。むしろ10人に抑えるのが難しいくらいに可愛い処が多いのに、それをアピールしないなど、動物園にキリンやライオンがいないようなものだ。

 

「……綾小路くん、それ真面目に言ってる?」

「またスペシャルコースとか考えてる訳じゃないわよね?」

「お前たちも勝算がないとは思ってないだろう。少なくとも、これまで持ち込まれた案の中ではピカイチだったのは間違いない。仮に他のクラスが出し物を被せてきたとしても、うちのクラスなら勝てるとオレは思っている」

 

 勿論、スペシャルコースもいずれしてもらいたいと思っている。いや、してもらう。

 

「……確かに、彼女たちの案には力があったわ」

「そうだね。自分で言うのも何だけど、可愛い人が多いのも納得できるし……」

「結局、食べ物に関する店を出したとしても、どうやったってライバルは出てくる。だが、メイド喫茶なら女子のレベル次第では味以外の点でも相手を抑え込めるだろう。強みが複数あるのもメイド喫茶の良い所だ」

 

 結局、オレの一言でほぼ決定となり、桔梗と鈴音も仕方ないとばかりに頷きを見せる。

 

「改めて確認するけど、これ誰にも見られてないよね?」

「勿論、そこは抜かりなく」

「流石は松下さんね。わかったわ、私たちはこのメイド喫茶が通るように善処する。あなたたちは徹底したコスト削減を含めて、さらにこの企画書を精査して」

「は、はいっ」

「やったー!」

「喜ぶのはまだ早いわ。あくまでも検討している段階よ。もしかしたらあなたたちの意見を超える出し物が出てくる可能性もあるということを忘れないで」

 

 とはいえ、まずこれを超えるものが出ることがないのは鈴音もほぼ確信しているだろう。

 

 とりあえずプレゼンは終了ということで、部屋の片づけを始める三人を尻目に教室を出ると、恵が満面の笑みでピースサインを向けてきた。

 どうやら麻耶やみーちゃんの喜ぶ声が聞こえていたようで、これでもかというくらいドヤ顔をしている。お前にもしっかりメイド服着させるから覚悟しておけ。

 

 と、思いつつ、特別棟を後にする。

 

 雪は見張りだったので何を話したかはわかっていなかったが、桔梗や鈴音がメイド喫茶をすると話すと、「なーるほどねー」と頷いていた。

 

「清隆がゴーサイン出したならもう確定でしょ? このままプロデュースもするの?」

「そうだな。情報漏洩の観点から見ても、オレが指揮を執るのが一番だろう。多分、ほぼセフレメンバーになるのは間違いないしな」

「清隆は誰をメイドさんにしたいの?」

「そうだな。まず、あの場の4人、恵、千秋、麻耶、みーちゃんはそのまま採用で良いだろう。後はこの場の3人、雪、桔梗、鈴音……それとアイドルである愛里に、愛里の精神安定剤兼戦力として波瑠加。後は真澄とひよりに――」

「ちょーっ、綾小路くん! もう10人超えてるって!」

「余るなら私はメイドじゃなくてもいいのだけれど……」

「駄目だ。絶対にメイド服を着せる」

 

 オレの固い意志に、じと目を向けてくる鈴音だが、部屋に連れて帰ったらその態度も一変し、喜んでメイド服を着る――むしろ着させてくださいと懇願してきた。

 

 当然、雪と桔梗もオレに逆らうことをせず、メイド喫茶を楽しみにしているようにみえる。後は価格などの調整だが、その辺りは素直にこいつらに任せておけば問題ないだろう。プロデューサーはキャストに話を通す方が忙しいからな。

 

 

 




 原作との変化点。

・本堂がから揚げ屋を本気で企画しつつある。
 原作では却下されて終わったが、このSSでは啓誠を仲間に引き入れて努力中。

・池がミスコンを提案した。
 篠原経由で真澄を仲間にしての提案。真澄は清隆がこういう出し物が好きそうと見て力を貸している。

・メイド喫茶は有りだ。
 このSSでは愛里が雫モードに覚醒していることもあって、容姿を強気に売りにしている。当然ながら、却下など有り得なかった。


 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 スペシャルコースは割とガチで言った。

・椿雪
 じゃんけんで負けたので見学は出来なかったが、外で恵と普通に世間話をしていた。普段進んで話す関係ではないが、別に嫌い有っている訳でもない普通の仲。

・堀北鈴音
 文化祭は特別試験ではないが、CPがかかっているので桔梗のフォローをしている。

・櫛田桔梗
 クラスのリーダーとして、企画をまとめている。無人島に続き、苦労人ポジ。

・神室真澄
 清隆のためにミスコンを企画。メイド喫茶のアイデアが出る予定がなければ、ミスコンで決定していたかもしれない。

・軽井沢恵
 前園の代わりに、メイド喫茶の手伝いをしている。このSSだと、恵、千秋、麻耶の3人が仲良しなので前園とそこまで親しくない。

・松下千秋
 原作通り、みーちゃん、麻耶とメイド喫茶をアピールしている。恵が見張り役だったのは、お腹の傷を気にして着替えるのを嫌がったため。

・佐藤摩耶
 思い付き担当。難しいことは他に任せてやりたいことを羅列する係。千秋やみーちゃんが難しいと言っても、「でもやりたい!」でごり押し。何だかんだ恵も、麻耶の後押しをしていた。

・王美雨
 千秋だけではまとめるのが大変なのでヘルプを求められた。メイド姿を平田に見せてアピール予定。

・平田洋介
 清隆が動いているので、プレゼンは基本的にお任せ状態。みーちゃんたちの出し物にも興味をあまり示していなかった。

・池寛治
 ミスコンを企画した。チェキなども勉強して割とマジで稼げる企画になっている。

・本堂遼太郎
 から揚げ押し! 啓誠に助けを求めた。

・幸村輝彦
 綾小路グループでは出し物をしないので本堂の手伝いをしつつ、裏では体育祭に向けてリハビリを始めている。


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