原作通りに、メイド喫茶のプロデュースを任せられるようになった翌日――どうやら、そろそろ本格的に満場一致試験が始まるようで、茶柱が固い表情で教室に入ってきた。
生徒たちもこれは何かあるとすぐに勘付いたようだが、もうすぐ体育祭も控えたこのタイミングで『特別試験』が行われるとは考えにくく、緊張の面持ちで茶柱の言葉を待っている。
「……10月の体育祭の前に、お前たちには新たな特別試験に挑んで貰うことになった」
「せっかく、きつい無人島試験を乗り越えたってのに、もう次の特別試験かよ……」
毎度お馴染みの池が思わずという様子で文句を漏らす。しかし、実際に文句を言いたい生徒は池だけではなかった。
もう体育祭も近いこのタイミングでの特別試験というのは、どうやっても生徒に負担しか与えない。実際、去年のこの時期に特別試験は行われなかった。
「素直に認めてしまえば、この時期に特別試験が行われるケースは少ない。事実、1年生や3年生に特別試験が実施されることはないからな」
「つまり、僕たち2年生だけが体育祭の前に特別試験をするってことですか?」
「そうだ。お前たち2年生が優秀だからこそ、学校側も相応の評価をしているということだ」
平田の問いに素直に答える茶柱だが、評価しているからこそ特別試験と言われてクラスメイトたちも首をかしげている。
「確かに特別試験は、お前たちが警戒するリスクがつきまとう。CPやPPを失ったり、時には退学処分を受けたりする生徒も出てくる。しかし、お前たちも目的としているAクラスへの昇格やその地位での卒業という意味では、特別試験の実施回数は多ければ多いほどチャンスに恵まれるということだ」
「幸福と不幸は表裏一体。リスクがあるからこそメリットがあるわけですね?」
「そういうことだ、堀北」
「成程……先生の言う通り、これはチャンスだわ。私たちは今、確実にAクラスに迫っている。残り200ちょっとの差を埋める機会が早くもやってきたということよ」
今、AクラスのCPは1068、Bクラスが856だ。その差は212であり、大型の試験なら一発で逆転が出来る。
「確かにそうだよね。不満言っても特別試験がなくなる訳じゃないもんね」
一般生徒代表として麻耶がそう声を上げた。特別試験だと、どうしても能力の低い生徒は退学の危険が付きまとい活躍もしにくいが、それでも頑張ろうという気概に他のクラスメイトたちも頷きを見せる。
「お前たちには今回、『満場一致試験』と呼ばれるものに挑んで貰う」
そう言って、モニターが点灯すると、これまでの特別試験同様に、映像と説明が流れ出した。
「今回の試験は非常にシンプルだ。特別試験の実施は明日、内容は複数の選択肢の中から満場一致になるまでクラス内で投票を繰り返し行って貰うというものだ」
「明日? ……随分と急ですね。何か理由があるんですか?」
「いや、櫛田が不安にするような理由はない。先程も言ったが、この特別試験は本当にシンプルなものだ。故に、事前に時間をかけて打ち合わせるような必要もなく、明日決行することへの問題はないと学校側は考えている」
確かにそれだけを聞けば、今までやってきた特別試験に比べて満場一致試験はとても簡単にしか見えない。
「つまり、今回は別のクラスと争う訳ではないということですね?」
「そうだ、平田。今回の特別試験はこのクラスの中で完結するものとなっているため。ライバルクラスと競い合うことはない。当日、試験が始まったら学校側からお前たちに5つの『課題』を出させて貰う。尚、課題の中身は全クラスが共通しているため差別化はない」
そう言いながら茶柱がモニターを操作していく。
「では、早速だが、理解を深めるため例題を出す」
例題・CPを5失うがクラスメイト全員が10000PPを得る。
選択肢 賛成 反対
モニターに表示された例題を見て、クラスメイトたちが怪訝そうな顔を浮かべる。
例題だからか、かなり問題自体はわかりやすくて単純なものだが、これが何故特別試験なのかがわからない――そんな感じだ。
「この課題に対し、完全な匿名で41名が提示された選択肢から選び投票する。百聞は一見にしかずだ、実際にやってみて貰おう。いろいろと疑問に感じた者も多いだろうが、まずは一度話し合いの時間を設けずにやってみて貰いたい」
賛成か反対かはタブレットから得票できるようで、視線を降ろすとタブレットにも課題の内容が表示されてボタンを押すことができるようになっていた。
まぁ、単純にPP1万がすぐに欲しいというなら有りかもしれないが、CPの価値はPPに変換されるだけではない。Aクラス卒業という目標の中、自らポイントを減らす行為は自殺行為としか言いようがないだろう。
と、いう訳で、Yesをタップする。
何故なら、今はむしろCPを減らした方が有難いからだ。まぁ、これは例題だから結果が反映されないのだが――
「よし、全員の投票が終わったため、早速結果を表示させたいと思う」
第1回投票結果 賛成4票 反対37票
モニターにそういう結果が表示され、オレがイタズラした以外は原作通りでそう大きく変わっていなかった。
「あ、あのさ。5CPでチマチマ貰うよりも10000PPの方が多く貰えるよな? 俺計算間違った? なんで反対多い訳?」
「確かに池くんの言う通り、単純にPPの大小だけで言えば10000PP貰った方が得だけど、CPが下がるとクラスのランクも下がっちゃうでしょ? もし、これで5CP失ったせいでAクラスになれませんでしたーってなったら、池くんはどうする?」
桔梗がそう諭すように池に説明する。それを聞いて池も素直に「そうか、そうだよな」と納得の声を漏らした。
「各々思う所はあるだろうが話を聞いて貰おう。反対37票と圧倒的な差ではあるが、満場一致ではないためこれはやり直しとなる。本番では、次のインターバルは固定の10分間。その間は今のように自由に会話し、時には席を立って意見を交換することが認められている――が、今は省略させて貰う。再び投票を開始するように」
と、言う訳で再び『賛成』に票を投じていく。原作通りなら、鈴音も同じく賛成に入れてこの試験の内容を探りに来るはずだ。
結果、やはり第2回は賛成が2票、反対が39票となっている。クラスメイトの母数が違う以外は、原作通りの流れになったな。
「お、おいおい今の話を聞いてもまだ賛成に入れた奴がいるのかよ」
「ごめんなさい。その内の1票は私よ、須藤くん。敢えて満場一致になるのを避けてみたの。どうやら同じことを考えている人が他にもいたようだけれど……ね」
まぁ、バレるか。
「2回目の投票結果だ。ほぼ反対に固まったが、まだ賛成が2票残った。この場合、さらにインターバルを設けて10分後に投票を再開する。このように投票とインターバルを繰り返し、最終的に41票全てを賛成、あるいは反対に満場一致させるのがこの試験の内容となる。また、本番ではこの選択肢で選ばれたものは全て可決される」
今回の場合であれば、賛成の場合は10000PP貰える代わりにCPが5減り、反対の場合は課題自体が無効となり何の効果も発揮しないということだ。
「満場一致にはなっていないが、時間短縮のために次の例題に移る」
例題・クラスの1人に100万PPを付与する(賛成が満場一致になった場合、ポイントを与える生徒の特定、及び投票を行う)。
選択肢 賛成 反対
「例題に思うことはあるだろうが、本番では1回目の投票前の私語は禁じている。まずは純粋に課題に向き合い投票をする必要があるということだ」
第1回投票結果 賛成41票 反対0票
特に時間もかからずに投票が終わった。
まぁ、誰が貰えることになるかは別として、100万PPをどぶに捨てる選択肢を選ぶ馬鹿はいないということだ。そこにメリットがない限り、この手の問題で反対を選ぶのはまず無理だな。
「本番ではこのような特定の個人を指定する課題が出題された場合、賛成と反対の票を満場一致にさせるまでの流れは一つ目の例題と同じだ。反対になればその時点で課題終了だが、賛成の場合はさらに先に進み、インターバルを挟んで『誰』を推薦するかで話し合って貰う。タブレット上には自分を除く全クラスメイトの名前が表示される仕組みだ」
今回の例題では先に進んだため、タブレットの画面が切り替わって自分以外の全クラスメイトの名前が表示された。
「匿名性を徹底するため、生徒の名前の位置は投票の度に変わる。これは賛成や反対と言った選択肢も同様にランダムで入れ替わる。近くの生徒を盗み見して、指の位置からどれに投票したかを阻止するためだ」
つまり自身の意思で選択しないといけない訳だ。
「各自好きなタイミングで投票を行える。推薦したい生徒を選んでタップするだけだ。インターバルの最中であれば、繰り返し推薦する生徒の変更も認められる。10分終了時点で過半……このクラスの場合は21票以上を集めていた生徒が特定の生徒として認められる。仮に、池が大勢の推薦によって選ばれたとしよう」
「え、俺っすか!? やったぜ!」
「当人である池に投票権はなく、それ以外の40人で投票を行う」
例題・池寛治に100万PPを与える。
選択肢 賛成 反対
第2回投票結果 賛成0票 反対40票
「えええっ!? ちょっ、何で誰も賛成に入れてくれないんだよー!」
「いや、お前に100万なんてやらねーだろ普通」
須藤のツッコミに全員が頷く。大体、こういう特別なことで貰えるポイントはクラス貯金に回されるため、大体は信用のある雪や桔梗、鈴音、洋介辺りに預けられることが多い。
「池を対象にしたこの投票で反対による満場一致となった場合、『池にポイントは与えない』ことが可決されるが、それは池が対象から外れるだけで100万PPがなくなる訳ではない。その場合、残った40人から再び生徒を選定して課題を続けていく。ただし、時間切れまでに対象を決められず、満場一致を成せなかった場合、試験は失敗となる」
当然、100万PPも与えられない訳だ。
「え! 今ので俺がポイントを貰える可能性はなくなったってことッスか!?」
「そういうことだ。賛成が一人でも残っていればリストから除外はされなかったがな。また、立候補者を募ることもできる。インターバル中に立候補した場合、先着で特定の生徒として受け付けるものとする。ただし、立候補は課題1つにつき一人一度までしか認められない」
「では、もし10分間で特定の生徒への推薦票が過半数集まらなかった場合や、立候補者が出ない場合はどうなりますか? そういったケースも十分考えられると思います」
「堀北の言うようなケースの場合、クラスからランダムで選出され投票することになる」
個人を指定する場合は、通常の課題よりどうしても時間がかかる。話し合えば必ず解決するとは限らない以上、事前にある程度の決めごとをしておかないとグダグダになる可能性もあった。
「最後に、もう一つだけ例題を出そう。今度は実戦形式でやって貰う」
例題・ケヤキモール内に施設を造設することが決定した。次の内、どれを希望するか(4クラスの結果を元に最多票の施設が採用される)。
選択肢 飲食店 雑貨店 娯楽施設 医療施設
今までの例題は賛成と反対の選択肢だったが、今回の例題は4択方式になっているようだ。
この文面から察するに、課題は先程までのようにすぐに反映されるものと、この例題のようにあくまでクラスの票の一つとしかカウントされないものが存在すると見て良いだろう。
ここまではやはり原作と大きな違いはないな。これなら例の件も問題なさそうだ――と、考えていると、1回目の投票が終わったようでタブレットに結果が表示された。
第1回投票結果 飲食店21票 雑貨店5票 娯楽施設15票 医療施設0票
「満場一致とはならなかったため、10分間のインターバルを行う」
モニターに10分のカウントダウンが表示される。ここから生徒たちは自由行動が許される訳だが、今回は敢えてオレから何か指示を出すことはしなかった。
やろうと思えば、クラスを掌握して意見を纏めることも不可能ではないが、今回の試験では星之宮を優遇することを決めている。オレは最低限しか動くつもりがない。
「インターバル終了の直前には席に戻り、投票の準備を行ってもらう。投票に与えられる時間は最大60秒だが、もし全員が速やかに投票を終えた場合には、制限時間を待たずして結果発表へと移る」
「では逆に60秒以内に投票が完了しなかった場合はどうなるのでしょうか?」
「その場合は容赦なく時間経過のペナルティが与えられる。個人が持つ持ち時間は試験中を通して90秒。もし仮に堀北が5つの課題をクリアする前に合計90秒の時間経過をさせてしまった場合は持ち時間が0になり退学となる」
つまり、投票しないという選択肢は取れないということだ。そのまま、第2回の投票結果が表示されるが、当然ながらクラスの意見が纏まることはなく先程と同じような結果になっている。
「ここで例題は終了となるが話の流れは理解できたはずだ。この特別試験をクリアするための条件は5時間以内に5つの課題を満場一致にさせること。もし時間内に全ての課題を終わらせることが出来なかった場合はCPマイナス300の措置を受ける」
「さ、さんびゃく!?」
「ただし時間内に終わらせることが出来れば、CPを50貰うことができる」
マイナスとプラスが釣り合っていないように見えるが、今までの例題を見れば妥当な線だろう。池も最初は驚いたようだが、すぐに落ち着いて「時間内に終わらせりゃいいだけだもんな」と余裕の表情を浮かべている。
洋介もまた、クラスの動揺を収めるように「慌てる必要はないよ。今回僕たちは誰と戦う訳でもなく、意見を統一するだけでいいんだからね」と声を上げていた。まぁ、原作と違って桔梗という問題要素がないのでおそらく大丈夫だろう。強いて言えば高円寺くらいか。
「どのような問題が出題されるかは我々教師も与り知らない所だ。また、今回の試験、他の生徒に対して特定の選択肢に得票先を縛るような契約等は固く禁じている。それ以外にも金銭のやり取りで他人の選択権を得るのも論外だ。これは他クラスだけでなく、自クラスでも同様だと思ってくれ」
他人の選択肢を強制は出来ないということだが、自分の意思でこちらの意思に従うなら話は別だろう。この試験の結果ももう大体見えている。
「なお、今回の特別試験では一時的に『プロテクトポイント』の効力が無効になる。本試験を行う上で、一人守られている生徒がいるだけで、公平性のある特別試験を行うことが不可能になるからだ。故に、プロテクトポイントを持つ者が何らかの形で退学処分を受けた場合、所持しているプロテクトポイントで退学処分を取り消すことが出来ないものとする」
退学処分を取り消せるのは、これまで通り2000万PPを支払った場合ということだろう。
――待っていたのは、この瞬間だった。
「異議有り」
そう言って、手を上げたのは雪だ――否、正確にはオレの指示で雪には手を上げるように命令した。
「椿か……何か問題でもあるか?」
既に雪にはメールで指示を送り終えている。茶柱も、この問答は表向き雪がしているが、裏にはオレがいるとわかっているようで静かに言葉を待っていた。
「学校側は、プロテクトポイントを持つ生徒がいると公平性のある特別試験が行えないとおっしゃいましたが、それはこの試験に限った話ではないと思います。どんな特別試験でも退学のリスクがある場合、プロテクトポイントを持つ生徒がいる以上、公平性のある特別試験など行えません」
実際に去年の学年末試験がそうだったと言える。あの試験も司令塔は負けたら退学というルールであり、本来生徒から公平に代表を選ぶはずだったが、プロテクトポイントなどというものを作ったせいで、司令塔がプロテクトポイントを持つ生徒にほぼ固定された。
まぁ、オレは別だったが。
「ですが、それはプロテクトポイントを導入すると決めた段階で考慮されていたはずです。いくら公平を期すためとはいえ、例外的にプロテクトポイントの効力を無効にしては、プロテクトポイントというシステムを作ったことに意味がなくなります。それこそ、また同じような理由でプロテクトポイントを無効にした特別試験が行われる可能性だって出てくるのではないでしょうか?」
勿論、学校側もそうそう何度も同じことはしてこないとは思うが、実際にそういう試験が行われる可能性はゼロではないので茶柱も否定は出来ないだろう。
「別のクラスと対抗するような形の特別試験ならその異議もわかるが、今回に限ってはあくまでもクラス内での問題だ。学校側もその点は考慮しているだろう」
「考慮しているのなら、プロテクトポイントを無効にする意味が理解できません。プロテクトポイントはただの飾りではなく個人に与えられた権利です。それを公平性という最初からわかりきっている問題を理由に無効にされては、これまで努力して手に入れたプロテクトポイントに価値がなくなります」
公平性といえば聞こえはいいが、それでは前回の無人島試験で頑張って1位を取った意味もなくなってくる。
勿論、学校側としてもプロテクトポイントというのは初の試みでまだ試験段階なのだろうが、それを無効にするのを簡単に受け入れてしまえばプロテクトポイントそのものの価値に疑問が出てくるのは道理だ。
「退学を無効にするというのは大きな効果です。学校側からすれば、一生徒の退学などどうでもいいのかもしれませんが、私たちにとっては自分の人生がかかった大切なことです。それを無効にするという権利を与えておきながら、学校側に不都合が出たら効果を無効にするというのは、あまりにも都合が良すぎるのではないでしょうか?」
原作でもそうだったが、プロテクトポイントという明らかに公平とは程遠いシステムを導入しておきながら、自分たちの都合が悪くなるとそのシステムが使えない特別試験をするというのはあまりにも無法が過ぎる。
ゲームのイベントで寝る間も惜しんで上位入賞して手に入れたアイテムが、次のイベントでは他の参加者が持っていないので使えませんと言われているようなものだ。なら、最初からそんな報酬を導入するなという話であり、今回はゲームではなく現実のお話だった。
原作だと、プロテクトポイントを持っているのが、坂柳と金田、それと高円寺くらいだったから何も問題はなかったのだろうが――この世界では片手では数えられないくらいの生徒がプロテクトポイントを持っているからこそ問題になっていた。
「私は今、プロテクトポイントを二つ持っています。ですがそれを無効にされ、今回の試験で退学となった場合、果たしてプロテクトポイントに意味があると言えますか?」
茶柱は答えられない。もしこれが、何の異議も唱えられていないなら何の問題にもならなかっただろうが、雪が問題を大きくしたことで事情は一変する。
仮に学校側がこちらの意見を無視して試験を強行し、雪がこの試験で退学してしまった場合、生徒がプロテクトポイントの存在に疑問を抱くのは避けられないだろう。
「私は生徒会長として、学校側が今回の試験でプロテクトポイントを無効にするというのであれば、プロテクトポイントをこれまで努力して得た生徒に対して何か補填を与えるべきだと進言します」
「補填か……」
これまで厳しい特別試験を頑張ってクリアして得たその報酬が、学校のルール一つで使えなくなるというのは明らかに問題だとオレは思っている。
それではプロテクトポイントという存在に価値がなくなり、もはや報酬としてすら成立しない。これを黙って受け入れるというのは、この先も学校側の無法を黙って受け入れろと言っているに等しかった。
学校がルールなのはわかる。しかし、相手が間違っているのであれば、それが例え学校側であっても問題を突きつけるくらいの気概を見せるべきだろう。
と、いうメールを帆波と龍園にも送っておいた。
坂柳にも送るか悩んだが、あいつはもうプロテクトポイントを去年の学年末試験で消費して持っていないので、今は連絡しても意味がないだろう。
これが2年Bクラスだけの問題提起なら、学校側もそこまで大きく取らないかもしれないが、3クラスが同時に問題を提起すれば大ごとだと理解するはずだ。
そもそもこの試験は2年から退学者を出すことを狙った試験でもある。そうでなければ、わざわざプロテクトポイントを無効にする意味がないし、こんな時期に特別試験などしない。
その無理がこちらにとっては付け入る隙だった。
学校側は自分たちがルールを敷く側だから、多少の無理は押し通せると考えているのだろうが、今回は2年3クラスと生徒会長が本格的に意義を唱えているのだ。簡単には覆せない。
下手に権力で鎮圧すれば、それこそ学校側へのヘイトが溜まり、生徒が暴動を起こす可能性もあった。
この学校は外部から見た場合、明確に問題となるシステムを抱えているし、この学校の設立を推進した現総理の鬼島や坂柳の親父さんも、学外にまで響くような問題を起こすことを良しとはしないはずだ。
つまり、こちらが訴えを起こせば、どうやっても問題を揉み消すことはできないということだった。そもそもの問題が学校側にある以上、最終的には生徒側に譲歩する形での解決を取るしかないのである。
それもこれも、オレを退学にしたいと思わせるためなのだろうが――その無理がこちらにとっては恵みの雨だ。わざわざ向こうから弱点を見せてくれているのに、そこを突かないのは馬鹿のすることだろう。
「補填というと、プロテクトポイントに相当するPP……と、いうことか?」
「そうですね。もしくは、プロテクトポイント制度自体を撤廃して、相応のPPを与えるべきと考えます。少なくとも、何の補填もなしにルールを捻じ曲げるのは問題だと異議を唱えます」
勘違いしないでほしいのだが、こちらも試験自体を受けないとストライキを起こしている訳ではない。
退学するのが嫌だというだけなら、それこそ去年の『クラス内投票』の時にもう騒ぎを起こしている。ただ、既に存在するルールを曲げてまで理不尽を受け入れさせようとするなら、それなりの誠意を見せろと言っているだけだ。
先程、雪も言っていたが、学校にしてみれば生徒の退学など数字の変化程度でしかないのだろうが、当事者であるオレたちからしてみれば大事なことだった。
この学校は当たり前に生徒を退学にしているせいで、その辺の感覚が麻痺している節がある。だからこそ、ここでもう一度、オレたちは学校の玩具ではないということを痛い教訓と共にわからせておく必要があった。
「……わかった。この件に関しては私から学校側に報告しておく」
「何らかの措置がされない場合はこちらも動きを見せるとお伝えください。仮にそれで退学措置を受けた場合は法的処置を取る用意もあると」
オレの奴隷である帆波はともかく、龍園も自分に利があるとわかればオレたちに協力することを拒否はしないだろう。
何せ、この意見が押し通れば、それに見合ったPPが手に入る可能性がある。CPよりもPPを重要視する龍園からしてみれば逃す手はないはずだ。
拒否すれば暴動を起こすと、暗に言葉ににじませたことで、茶柱もこれが興味本位で問題にしたことではないと理解したようで今度は真剣に頷いている。
「私の責任でしっかりと返答を要求する。だから今は話を先に進めさせてくれ。まだ説明が残っている」
「失礼しました」
言質を取ったことで、雪も素直に席に座った。
ちなみに茶柱の言う残りの説明とは、試験中は携帯や通信機器の使用を禁ずるというものだったが、使ったら退学はいつものルールなので特に気にする必要はない。
逆に茶柱は一刻も早く学校側に今の異議申し立てを伝えに行くために、説明が終わり次第速足で教室から出て行った。今頃、星之宮や坂上も同じ動きを見せているだろう。
後はPPを毟れるだけ毟り取ってやるだけだった。公平性という理由だけでは、もうこの騒動は抑えられない。
結局、明日行われるはずだった満場一致試験は延期を余儀なくされ、最終的には問題を提起した雪、帆波、龍園の三人と学校側との討論にまで事は発展した。
当然ながらこの三人が組んで負けるはずがなく、結論として学校側は今回の試験でプロテクトポイントを無効にする代わりに、プロテクトポイントを持つ生徒に補填として500万PPを試験後に付与するという権利を勝ち取っている。
ちなみに雪は二つ持っているので1000万PPだ。
後から聞いた話だと、学校側は最初100万PPと言ってきたらしいが、退学を無効にできるプロテクトポイントが100万なのは流石に少なすぎる。それでは対外的に見ても、プロテクトポイントはその程度の価値しかないものと言っているようなものだ。
龍園もすぐにその問題点に気づいたようで、他にも今回の試験で学校側がプロテクトポイントを無効にして生徒の退学を目的にしている――という本質を突いて、1000万PPを支払うように額を釣り上げさせたらしい。
しかし、流石に1000万は無理だ。プロテクトポイントを二つ持っている雪に渡す額が2000万になってしまうし、いくら生徒会長とは言え個人に学校側からクラス移動や退学を防げる2000万PPを渡すのは前代未聞だろう。
とはいえ、龍園も最初からこれが全て通るとは思っていない。あくまで吹っ掛けただけで、最終的には先にも述べた500万PPで手打ちにしている。
学校側も相手が悪すぎた。基本的には理路整然と雪が問題点を指摘し、龍園が挑発、帆波がそれを抑えるという飴と鞭で学校側を翻弄したのは想像に容易い。
本来なら200~300万PP辺りが妥当な額だっただろうが、いくら2000万の価値があるポイントとはいえ、退学しなければ使い様のない権利に500万もの価値を付けさせてくるとはオレとしても予想外の結果だった。
原作との変化点。
・満場一致試験前にストライキを起こした。
プロテクトポイント無効? なんで素直に受け入れるん? これが、学校から支給されているポイントならまだしも、クラス内投票や無人島サバイバル1位の景品なのに平等じゃないから使えませんとか通る訳なくね? 本文でも言ったけど、課金徹夜で手に入れたイベント報酬が次のイベントで使えませんって言われてるようなもん。
・500万の補填を引き出した。
雪、帆波、龍園の3人で学校側と討論。500万PPを勝ち取っている。正直、清隆もここまで毟り取って来るとは思っていなかった。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
学校側の隙を突いてPPを毟り取りに行った。坂柳はプロテクトポイントがないのでハブにされている。
・椿雪
生徒会長の権力を利用して問題を大きくした。もし、問題の中心が生徒会長じゃなかったら、もっと学校側も権力で無理やり黙らせて終わっていた。
・堀北鈴音
雪がストライキを起こすとは思わず驚いている。
・茶柱佐枝
今回は犠牲者。満場一致試験前から大波乱でもう精神的にボロボロ。