SIDE:椿雪
私が起こした――否、正確には清隆が起こさせた満場一致試験のルール不備を突いた異議申し立ては学校に受け入れられず、それからさらに1日が経過して、生徒側代表と学校側との討論に持ち込まれることになった。
今、生徒会室には、生徒代表として生徒会長である私、また同じく問題提起をした各クラスのリーダーである帆波ちゃん、龍園くんが座っている。
対する学校側は、謹慎が明けて帰ってきたばかりの坂柳理事長、そして見慣れぬお付きの人が2人――さて、果たして清隆の望む結果にすることはできるだろうか。
「理事長、時間です」
「……そうだね。今から満場一致試験におけるプロテクトポイントの取り扱いについて話し合いを始めようか。では、詳しい説明を」
そう、坂柳理事長が討論の開始を宣言すると、視線を今時間について忠告した方のお付きの人に向ける。
「はい。それでは、まず生徒側からの問題提起について。今回、2年生の間で行われるはずだった『満場一致試験』において、生徒側からプロテクトポイントの使用禁止について異議申し立てが行われました。こちらとしては公平性に欠くという理由での禁止でしたが、生徒会長始めとした生徒たちからは公平性に欠くのは最初からわかっていたことだと」
そう言って、お付きの人が再び坂柳理事長に視線を向けた。同時に、坂柳理事長がこちらに向き直る。
「……椿くん。生徒会長の君から、生徒側の詳しい説明を頼んでも良いかな?」
「はい」
理事長から直々の指名が入ったので立ち上がらせて貰った。今の所、龍園くんも茶々を入れずに静観している。
まぁ、まだ状況確認の段階で騒いでも意味がないと彼もわかっているのだろう。だからこそ、その場を作ってあげるのが私の役目だ。
「学校側は公平性に欠くとおっしゃいましたが、そもそもプロテクトポイントという存在そのものが公平ではないと私は考えています。退学を取り消しできるなど、この学校で生活している生徒にとっては夢のようなポイントです。それを持つ人間と持たざる人間の間に公平性などありません。よって、学校側の理由に納得が出来ず異議申し立てをしました」
こちら側の意見を簡潔にまとめると、坂柳理事長が再びお付きの人に視線を向ける。
「君たちの言いたいことはわかる。けど、私たち学校側が言っている公平性というのは、そう言う意味ではない。今回の満場一致試験では対他学年ではなく、クラス毎で平等に試験を受けることを重要視している。そのために、例外的にプロテクトポイントの使用を禁止しているのだ。プロテクトポイントそのものに公平性があるとは言っていない」
「それは、満場一致試験だけでなく全ての特別試験に言えることだと私は考えます。プロテクトポイント制度を導入した時点で、そういう試験の公平性を取るのは不可能だと学校側も理解されていると思いますが?」
と、反論すると、今まで黙っていたお付きの人その2が被せるかのように声を上げた。
「椿生徒会長。確かに全ての特別試験は公平であるべきであり、プロテクトポイント制度がそもそも公平性に欠けるという君の意見もわかります。ですが、この特別試験はクラス内の生徒同士が平等であることがキモになっています。そこに、一人だけ絶対に助かるという条件で参加するのはルール違反だと思いませんか?」
「思いません。何故ならそれはその人に与えられた権利だからです。これがもし、学校側が特別試験の報酬などでなく、何らかの評価でプロテクトポイントを授与したならその話もわかります。ですが、学校側は試験の報酬としてプロテクトポイントを使用していますよね? それを禁止するのは、これまで結果を出してきた生徒の努力を無にする行為です」
もし、仮に定期的に学校側から評価を受けて、各クラスの代表一名ずつにプロテクトポイントを授与した――と、いうなら、学校側の言い分もわかる。
けど、試験の報酬にしたなら駄目だ。
前に清隆が言っていたけど、ゲームのイベントを頑張ってクリアして手に入れた武器が、次のイベントでは強すぎなので使えませんと言っているようなものだ。通る訳がない。
「満場一致試験が平等性を大事にしているという先生方の言い分は理解できました。ですが、プロテクトポイントもまた生徒が特別試験を乗り越えて手に入れた正当な権利です。それを一方的に禁止するのは、その生徒たちに対して誠意を欠く行為ではないでしょうか?」
「気持ちは理解できます。しかし、この試験は個人の保護よりも集団での意思決定を学ぶことを重要視した試験です。数人の権利よりも全体の公平を優先して行っており、プロテクトポイント保持者を優遇する方こそが問題なのです」
「だからと言って、問答無用でこれまでの努力を無駄にしていい理由にはなりません」
「どんなものにも例外はある。例えば、停電が発生した場合は試験を延期するし、災害が発生したのならルール自体が変わることもあるだろう。プロテクトポイントが使用できないという今回のルールも、そんな例外の一つだよ」
「それならば、プロテクトポイント導入時に例外はあると宣告しておくべきでは? 商品を買って、後からこんな欠陥がありますと言われて納得するお客はいませんよね? 例外というのならば、先にそういう可能性があることを明記するのは常識だと思います」
「そこまで大げさなものではないだろう。権利には制限だってある、例えば携帯電話だって試験中は使用を禁止している。それと同じようなものだよ」
「これは制限ではなく無効化です。携帯電話は試験が終わっても使用できますが、プロテクトポイントは特別試験で使用できなければ意味がありません。一概に同じとは言えないでしょう」
学校側も手を変え品を変えこちらを納得させようとしてくるが、そもそも向こうが無法を敷いている以上、そう簡単に納得させるのは無理だった。
「特別試験のルールを決定する権限を持つのは学校側であって君たちではありません。不備があるのは認めますが、今回特例を認めれば今後の試験でも補償を求める前例となります」
「そもそも、この満場一致試験はプロテクトポイント制度が導入される前からある試験だ。プロテクトポイントの存在が前提にないのは仕方のない部分がある。それに、学校側もプロテクトポイントを取得した際、全ての試験に使用できるとは言ってないだろう?」
先程の揚げ足を取られた形だ。例外を明記すべき――しかし、学校側は何も言っていないからこそ、プロテクトポイントを使用について自由に設定できる。
けど――
「……へぇ、じゃあ次から誰が命がけでプロテクトポイントなんか取りに行くんだ?」
――ここまでずっと黙って学校側の話を聞いていた龍園くんが、遂に牙を向いた。
「確かに、学校側はプロテクトポイントを全ての試験に使用できるとは言ってねぇ。けど、それはつまり学校の言葉一つで、このプロテクトポイント制度ってのはドブに捨てるしかないゴミになり果てるってことでもある。それをわかって言ってんのか?」
「それは……」
「信用って言葉知ってるか? 学校側がこれまで特別試験で何しても許されてたのはその信用あってこそ……だが、そっちがそれを捨てるなら、こっちがそれに従う理由も無くなるんだぜ? 教育機関を無法地帯にしたいってんなら、こっちは喜んで賛成してやるがな」
信用――まさに、龍園くんから一番遠い言葉だ。清隆がここにいたら、真顔で「お前が言うな」って突っ込んでそう。
「まぁまぁ、龍園くん落ち着いて。学校側だって、本当にそんな酷いことをしようとなんてしてないよ。だって、それは一番公平性がなくなっちゃうんだから……そうですよね、先生方?」
帆波ちゃんも凄い。仲裁するフリしてトドメを刺している。あんな綺麗な笑顔で聞かれたら学校側も首を縦に振るしかないだろう。
「先生、私たちは別に特別試験を受けたくないと言っている訳ではないんです。ただ、プロテクトポイントは私たちが努力して手に入れた成果であり、それを一方的な理由で奪うことに納得がいかないだけです。学校側が、それに対してきちんとした補償をしてくれるのであれば、私たちはそれに味を占めて同じ行動を起こすことはしません」
「ま、それは学校側が公平性を欠かなければって話だけどな」
「龍園くん! 余計なことは言わないでいいから! せっかく、雪ちゃんが話を纏めてくれてるのに」
余計な茶々を入れた龍園くんが、帆波ちゃんにお小言を言われて明後日の方向を向いている。しかし、これで大勢は決したと言って良かった。
「……君たちの言い分は理解したよ。しかし、学校の運営上、今回の特別試験そのものを取り消すことはできない。だから、“特例”として、プロテクトポイントの代替措置として補填を提示しよう。それで、君たちも納得してくれるね?」
坂柳理事長がそう声を上げると、お付き二人もここに来て文句は言えないようで、補填について渋々受け入れている。
「理事長がそう仰るのなら仕方がありません。では、今回の満場一致試験に限り、プロテクトポイントの補填として、プロテクトポイントを持つ生徒に禁止する代替えとして100万PPを付与するものとします。それで解決ということでよろしいですね?」
「よろしくねぇわボケ。プロテクトポイントは退学を阻止できる、つまりは2000万PPに等しい価値がある。それが何をどうしたら半額以下の100万になんだよ?」
「龍園、言葉を慎め。確かにプロテクトポイントは退学を阻止できる効果があるが、あくまでも使用できるのは退学時のみだ。偏に、2000万PPそのものの価値がある訳じゃない。わかるな?」
「わからねぇなぁ。2000万PPそのものの価値がないってのはわかるが、それでも退学を阻止できる権利が100万なんてのは安すぎるだろう。仮にここで話がまとまっても、後で話を聞いた生徒だって、実際のプロテクトポイントはそんな安いもんなんだってイメージだって付く。学校側はそれでいいのか? 対外的なイメージってのは大事なんじゃねぇのか?」
龍園くんの言うことも間違ってない。プロテクトポイントは退学を防げる――それは2000万PPに等しい価値があるからこそ、重大なものだと認識されている。
けど、ここでプロテクトポイントは100万という値段を付けてしまえば、この特典は100万を支払えば手に入れられる程度のものなんだというイメージが付きかねない。実際に、買うのは無理でも、そういう値段のイメージが付くのは学校にとってもマイナスだ。
「――1000万PP。その辺りが妥当な値段だと、俺は思うがな」
とはいえ、流石にそれは吹っ掛けすぎだった。
「ふ、ふざけるな1000万PPだと!? 2つ持っている生徒はそれだけで2000万PPも入手することになる!」
「いくらなんでも法外すぎます! こちらが確認しているだけでも、プロテクトポイント所持者は君たちを含めて8名います。椿生徒会長に関しては二つも……一つの学年に9000万ものプライベートポイントを放出するなど有り得ません!」
確かに、1億近い値段は法外すぎる、しかし、ここは龍園くんに任せることにした。
こういう交渉ごとに関しては、私よりも龍園くんの方が適任だ。帆波ちゃんもそう思っているようで、先程までは龍園くんを止めていたが今ではさせるがままにしている。
「対外的なイメージを考えても300万PP。それ以上を出す必要はありません!」
「いや、700万。そこがラインだ、1/3なら生徒も納得する」
「譲歩はしません。300万。これで決まりです」
「本当に300万でいいのか? 2000万PPに相当する権利が約1/7だぞ? それに、今回の試験の不備は学校側によるものだ。それに対する誠意ってのを見せるべきじゃねぇの?」
「……400」
「もう一声。あんたら、この討論の最初、言い訳して自分たちの非を認めなかったろ? 最初から素直にこっちの条件飲んでりゃいいのに、公平性に欠けるだの例外はあるだのと、受け入れるまで時間がかかった……それはつまり、学校側は退学者を出すことを望んでいるということでもある。その事実が明るみに出てもいいのか?」
ここで龍園くんは、最大の武器を出してきた。
学校側がプロテクトポイントを無効にしたがっている――どんなに言い訳したって、それは学校が退学者を出すことを望んでいると取られても仕方ない。
「――500万。それで決まりだ」
学校側としては、補填を認めたくなかっただけだったのだろう。しかし、最終的に理事長が認める形になったことで、最初の話し合いが付け入る隙となった。
この話し合いで、学校側が補填もなくプロテクトポイントの無効に拘っていたのは、退学者を出したいからなんて噂が立てば生徒は学校側に大きな不信感を持つ。
そこを龍園くんは見逃さなかった。
もしかしたら、最初に口を出さずにいたのも学校側のマイナスを引き出す策だったのかもしれない。これには学校側も「そんなつもりは……」、「ただ公平性をだな……」と、言い訳しか出来ずにいる。
「500万PPなら、プロテクトポイントの1/4の値段だし生徒側も納得できますね! でも、龍園くん、少し口が過ぎるんじゃない? 先生方には敬語を使わないと駄目だよ」
「へぇへぇ、すみませんこって……」
「もう! せっかく先生方が集まって私たちの話を聞いてくれたんだから。そこはちゃんと感謝しないとだよ――本当にありがとうございます、先生方」
まだ先生たちは500万で決めたとは言っていない。だが、帆波ちゃんが龍園くんに注意を促す形で畳みかけたせいで、向こうも反論する隙を見失った。ここまでだろう。
坂柳理事長が、呻いているお付きの人たちから言葉を引き継ぐかのように姿勢を正した。
「今回の満場一致試験では、プロテクトポイントを無効にする代わり、ポイントを持つ生徒一人に対し500万PPを補填とする。ただし、ポイントを付与するのは試験が終わってから、そうじゃないとクラスによっては2000万PPによって退学者を救済できるようになる。それはクラス毎の公平性に欠ける行為だ――問題はないね?」
「ああ」
「はい。問題ありません」
坂柳理事長の決定に、龍園くんと帆波ちゃんは即答した。実際、うちのクラスは私が二つ、鈴音ちゃんと千秋ちゃん、平田くんが一つずつプロテクトポイントを持っている。
もし、試験前にPPが付与されれば、それだけで2500万PPが手に入り、プロテクトポイントを無効にしても自由に退学者を救済できてしまう。帆波ちゃんのクラスも、貯金を含めれば似たようなことが出来るし、坂柳さんや龍園くんからすれば不公平になる。
理事長の提案は間違っていない。
ただ、それは学校側が退学者を出したいという意図があるのを肯定した形だ。まぁ、この500万PPにはその口止め料も含まれているのだろう。
「椿くんも、いいかな?」
「はい。本日はお時間を取らせてしまって申し訳ございませんでした」
――こうして、満場一致試験前に行われた一つの討論は生徒側の勝利で終わった。
ただ、もし坂柳理事長が見に回らず、全面的に討論に参加していたらどうなっていたかはわからない。
あの人は最後まで口を出さず、ジッとこちらの言葉を聞いているだけだった。しかし、あの坂柳さんの父親がこんな結果を簡単に許すとも考えにくい。最初から、理事長は生徒側に立つつもりだった――そう言われた方が納得できる部分も多かったくらいだ。
龍園くんも似たような感覚なのか、ジッと坂柳理事長のことを睨んでいる。帆波ちゃんは先生方にお礼を言いながら上手く向こうの機嫌を取っているが同じような気持ちだろう。
勝ったというより、勝たせて貰ったというべきか。それでも、清隆の指示通りの結果を出せた以上、私にとっては何も問題はなかった。
どんな話し合いをしたか? こんな話し合いでしたー!
坂柳の親父さんは、最初から静観の構えで生徒たちの様子を伺っているだけで終わっている。と、いうのも、坂柳の親父さんの能力が謎なのでそうせざるを得なかったというだけでもある。メメタァ。