時は少し戻り、満場一致試験の説明を受けた日の昼休み――オレは学校側に異議を唱えた時点で満場一致試験の延期はほぼ確定だとわかっていたが、そう思っていない桔梗と洋介は特別試験前にクラスメイトたちの意見を纏めようと動き出していた。
基本的には原作と同じく、選択肢が纏まらない場合はリーダーの意見に従うという方向で話は進み、原作とは違って桔梗がリーダーとして推薦されている。
これはこれまでの一年間、桔梗がクラスメイトからリーダーとして認められていることや、桔梗と鈴音の関係性もSである桔梗の方が強いことが理由としては大きい。
また、原作ではオレと恵が付き合っており、その関係を公にしたことでいろいろと問題が起きるが、この世界でのオレにそんな面倒事などなく、文化祭のメイドの店員も無事にスカウトを終えている。
中には恥ずかしがって断ろうとする奴もいたが、Tレックスの説得によって快く首を縦に振ってくれていた。これで文化祭もまず問題なくクリアすることができるだろう。
後は問題の満場一致試験だが、学校側がこちらの要望を聞いて結論を出すまで1日、生徒側が返答に納得できずに問題を大きくするのに1日、学校側と生徒の直接討論で1日――計3日が過ぎて、ようやく開催されることになった。
その間に、洋介、恵といったクラスでも発言権のあるメンバーには当日に上手く桔梗をサポートするように指示を飛ばし、帆波にも星之宮から聞いた情報からの推測とその立ち回りを指示している。これで問題は全て解決と言って良い。
これでもう当日を待つだけとなり、やってきた試験前日の午後10時過ぎ。流石に明日は特別試験なので、今日はTレックスもお休みにしようと思って眠る準備をしていると、携帯に登録していない見知らぬ番号から電話が入った。
「もしもし」
『夜分遅くに申し訳ないね。今、少しだけ良いかな?』
誰か――など聞くまでもなかった。
「大丈夫です。それで坂柳理事長、ご用件はなんでしょうか?」
原作では月城と相対するために、坂柳を通じて連絡を取り合った相手であるが、この世界のオレは月城と結託しているのでこの人に電話をかけたことはない。
去年、親父殿が来た時に会ったことはあるが、こうしてしっかりと話すのは割と初めてと言って良かった。
『今回の件、裏で手を引いていたのは君かい?』
「そんなことを確認するためだけにわざわざ生徒に連絡を取ったのでしょうか?」
『いいや、ただの世間話さ。上手く学校側の痛い所を突かれたからね。2年生はこれまでの高度育成高校で受け持った生徒の中でも飛びぬけた能力を持つ生徒が多いというのも納得だ』
「今回の件、もし裏で手を引いているのが自分だとしたら何か問題でもあるのでしょうか?」
『何もないよ。ただ、感心しただけだからね。それに、今回は君を責めるためではなく、むしろ謝罪するために連絡をしたんだ』
「謝罪?」
『僕が理事長を休職している間の件さ。いろいろと不安な思いをさせて申し訳なかった。君も大変だったと思うけど、あの非常に不利な戦いの中で、何事もなくこの学校に留まり続けていることには驚きを隠せないよ』
「たまたまです。もし、月城元理事長代理が本気であれば、今頃オレはここにいなかったでしょう」
実際、月城の力はまだまだ未知数だ。だからこそ、オレも原作と違って月城を自分側につけることを考えて行動していた。
『終わってみれば、僕も彼の行動にはいくつか疑問点がある……が、今日はその話はよそう。今後のことだが、僕の方でも君に対するフォローはしっかりしていこうと思っていてね。そのことを取り急ぎ伝えておこうと思ったんだ』
「フォロー、ですか?」
『本来であれば理事長である僕が一生徒を贔屓するなど有り得ない。けど、それ以上に有り得ないのが学外からのちょっかいで生徒に問題が出ることだからね。あまりこういうことは言いたくないが、君は他の生徒と違って少し事情が特別だ』
原作では一年の終わりにオレからの電話で事情を知る坂柳理事長だが、この世界では既に事が起きたからこそオレが親父殿から退学させられそうになっていたと知り、こうして謝罪と対策をしようと動き出したということか。
まぁ、それがどこまで役に立つかはわからないが、こちらのために動いてくれるというのであればあまり無下にも出来ない。
『今年行われる異例の文化祭、政府関係者とその家族が招待されているらしいことは耳に届いているね? 働きかけをされてしまった以上、僕でも止めることは出来なかった』
「理事長が謝罪することではありません。それに生徒たちも楽しみにしていると思いますよ」
本当、むしろ文化祭のようなイベントはもっと早くからやるべきだろう。そういう意味でもやはり月城は有能と言わざるを得ない。
『そのことに関してだが、実はまだ告知されていないことなんだけれど、君だけは先に教えておくべきだと思って今日は電話したんだ』
「なんでしょうか?」
『文化祭と同様に、その前段階として行われる10月の体育祭。まず、ここで一部の来賓を迎え入れることが急遽決定したんだ』
「体育祭に来賓ですか」
『元々、体育祭というのは生徒の親御さんが観に来るものだからね。そういう意味では来賓を迎えるというスタンスそのものは異質じゃないんだけれど……』
本来であればおかしなことではないとはいえ、この学校の独自性を考えれば来賓を迎えるというのは異質なこととなる。
『前代未聞のことだけに、いきなり文化祭で来賓客を自由にさせるのもセキュリティ上不安が残るという意見が出てね。体育祭でテストすることになったんだ』
「なるほど……」
『人選は全て上の人たちが決めることになっていて、もしかしたら先生……君の父上が関与している可能性も否定しきれない状態だ。そこで君に危険が迫ることを考慮し、僕としては監視役を数人君の傍に置きたいと思っている』
「それは有難いですが、流石に目立つのでは?」
『だから、君には体育祭の欠席をお願いしたい』
原作通りだな。実際、原作では体育祭を欠席したため、親父殿や親父殿の使者が来ていたかどうかはわかっていない。
この世界でも、親父殿がオレを無理に退学させるつもりはないということはわかっているが、月城との関係も変わっているし能力を図るために何かちょっかいを出して来ないとも限らなかった。
総合的に判断すれば休むのが一番いい。
何より無人島試験後から発生した悩みである、オレがいない現在のBクラスの実力を測るには、この提案はうってつけと言って良かった。
『体育祭や文化祭、そういった当日しか行えない行事に関しては、避けられない病欠が存在することは理解していると思う』
「ええ。クラスが不利にはなるものの、退学などの強制措置はありませんよね?」
『ああ、流石に退学になることはない。だが、君にはメディカルチェックを受けたという前提の病欠で、寮に籠っていて貰う。それなら僕の信頼できる監視役を堂々と寮の外に配置できるしね』
「確かに、それならあの男の手から逃れることも出来るかもしれませんね」
『勿論、別のリスクはある。君も言ったように、在籍するクラスの子たちは生徒が欠けた状態で挑むことになるから不利になるのは避けられない』
「そこは、まぁ多分問題ありません」
そもそも、今回の体育祭は仮に休まなくても最初から本気を出すような予定はなかったのだ。今は茶柱に危機感を抱かせるためにも、星之宮やCクラスを優遇しているしな。
「わかりました。体育祭は病欠でお願いします」
『無理を言って済まないね。でも、これでこちらも安心だ。では、当日は寮に信頼のおける監視役を置いておく。もし何か問題があった場合は、いつでも彼らを頼ってほしい』
「はい、お気遣いいただいてありがとうございます」
原作では保留にしていたが、わかりきっている結果を保留にする意味はないので、この世界では素直に理事長の意見に甘えさせて貰う。ついでに種を一つ撒いておくか。
「あ、それと……申し訳ないのですが、個人的に一つお願いしたいことが」
『お願いしたいこと?』
「身体的な都合で、娘さんも体育祭を休む可能性が高いですよね? 今回の件でオレとホワイトルームのトラブルに巻き込まれるといけないので、彼女には先に事情を説明しておいて欲しいんですが……」
『……ちなみに、娘は君の件をどこまで?』
「幼い頃にホワイトルームに居たオレを見たというのが、初顔合わせの時の言葉でしたよ。それに月城が理事長代理になってからは、度々力を貸してくれました」
『事情はバッチリわかっているということか……わかった、娘には僕の方から事情を説明しておくよ』
「お手数ですが、よろしくお願いします」
さて、原作では150CPマイナスにする覚悟でオレと話をするために体育祭を休んでいた坂柳だが、この世界ではどういう動きを見せるかな。
個人的には、久しぶりに二人っきりでおしがま選手権を楽しむのも面白いのではないかと思っている。
原作通りにはなってしまうが、やはり一人で休んでも退屈なだけだし出来れば楽しみも欲しい。それに、Aクラスの動きを鈍らせれば自ずとCクラスの勝率も高くなるしな。出来れば、坂柳にはオレの所に来てほしいものだ。
◇◆
9月20日――原作から3日遅れて、満場一致試験は開始された。いろいろ問題は起きたが、結局は原作通りにプロテクトポイントの使用は出来ないことになっている。
代わりに、プロテクトポイントを持つ生徒には、この試験後にポイント一つにつき500万PPが付与されることになっていた。試験後なのは、試験前だと2000万PPでの退学免除ラインに届くと思われたからだろう。無人島試験のPPだけでもかなりの額だったからな。
原作通り、席すら完全にランダムなようで、オレはいつもの席から変わって1年時と同じく窓際の一番後ろ。隣はひよりで、前が高円寺というなかなか面白い配置となっている。
また、タブレットにも覗き見防止のフィルムが貼られており、説明の時に茶柱が言っていた通り、他者の様子を伺って投票先を決めるという優柔不断なことは不可能となっていた。
「事前に伝えていた通りだが、全ての通信機器を回収する」
時間になると、茶柱と共に試験の監視役としてオレの知らない教師がやってきて携帯等を回収していく。試験中は茶柱が前、監視役が後ろという感じで、徹底的に不正を防ぐつもりだろう。
まぁ、既に事前準備は終わっているので何も問題ない――と、思いつつ、ふと茶柱の様子を見てみると、普段と変わらないようにしようとしてはいるものの、やはり昔のことを思い出しているのか、どこか心ここにあらずというような様子だった。
そのせいか、時間になっても一向に動こうとしない茶柱に、監視役として派遣されたらしい教師も首をかしげている。
「茶柱先生。お時間です、説明を」
「あ、ああ。すまない……では、これより特別試験に移っていくが、今日は長丁場のためトイレ休憩の時間を最大4回設ける。基本的には満場一致を得て次の課題に挑む前だけ休憩可能にしている」
つまり、満場一致にならないとトイレにはいけないということだ。おまけに、休憩は1回につき最大10分で、試験時間はカウントされ続けるらしい。
「また、ここからはルールに則り進行するため、インターバル以外で席を立つことや、禁止されたタイミングでの雑談などは容赦なく注意を取っていく。心してかかれ」
茶柱の説明が終わると同時に、モニターが切り替わりカウントダウンが始まっていく。やがて、その数字が0になると表示が変わり、最初の課題が提示された。
課題①・3学期に行われる学期末試験で、どのクラスと対決するかを選択せよ(クラス階級の変動があった場合でも、今回の選択が優先される。※()内の数字は対戦時に勝利することで得られるCP)。
選択肢 Aクラス(100) Cクラス(50) Dクラス(0)
「これは2年生最後の3学期、その学期末に行われる特別試験に向けた対戦相手を決めるための選択肢となっている。補足してある通り、仮に現時点でAクラスを満場一致で選択した場合、現Aクラスが学期末までにBクラス以下に転落していようとも、対戦相手はこの時点のAクラスと追加ポイントとなる」
希望する選択肢の組み合わせが全クラス不一致だった場合には学校側がランダムに組み合わせを決めるということで、学期末試験で坂柳・帆波・龍園の誰と戦うかを決める課題となっている。
追加報酬だけを見れば坂柳一択に見えるが、負ければAクラスとの差が開くのは間違いない。かといって、現在協力関係を結んでいるCクラスを裏切るのか、それとも追加ポイントを諦めて龍園を狙うかは、かなり頭を悩ませる必要があるだろう。
「では第1回の投票に移る。制限時間は60秒だ」
事前の取り決めで、雪、鈴音、桔梗の3人には選択肢が二つの場合は雪と鈴音が上、桔梗とオレが下を選ぶように指示して有り、選択肢が3つ以上の場合は雪が最初、鈴音が2番目、桔梗が3番目、オレが4番目を選ぶように指示してある。
何もしなくても1回目の投票で満場一致になることはないと思うが、もし万が一適当な意見で一致してしまっても困るので、1回目は必ず不一致にするようにしたのだ。
「全員の投票が終了したため、これより投票結果を発表する」
第1回投票結果 Aクラス15票 Cクラス8票 Dクラス18票
「満場一致にならなかったため、これよりインターバルを設ける」
ここからは10分間自由に時間が使える。しかし、思った以上にAとDで別れたな。やはり、原作と違って帆波クラスと協力関係を結んでいるというのが大きいようだ。
「じゃあ、まずは私の意見から聞いてくれるかな?」
桔梗が手を上げながらそう言って立ち上がる。今回はオレも事前に指示は出していないし、携帯が取り上げられているため、これから話すのは全て桔梗自身の意見だ。
「私は学期末に戦うべきはDクラス、つまり龍園くんのクラスにしたいと思っているの。確かに、追加ポイントだけで見ればAクラスかCクラスを選んだ方が得が多いけど、Cクラスとは一年の頃からずっと協力関係を結んでいるし、無人島試験でもその協力のおかげで私たちは1位を取れた。それを追加ポイント50で裏切るのは割に合わないと思う」
実際、票でもCクラスは1番少なかった。ここまでは桔梗の言い分にも納得できるようでクラスメイトたちも頷いている。
「追加ポイントだけでみればAクラスが一番良いように見えるけど、相手はあの坂柳さんが率いるAクラスだよ。去年の学期末試験ではギリギリ勝てたけど、今年最初の特別試験では負けてる。もし、学期末試験が筆記試験のように学力を競うものだった場合、私たちが勝てる確率はグッと低くなると言わざるを得ない」
「待て、櫛田。確かにお前の意見はもっともだが、学期末試験が素直に学力を競うものとは限らない。それこそ、去年のように全ての力が試される場合もある。それなら十分に勝ち目もあるだろう」
「幸村くんの言うことももっともだと思う。だから、ここで一度、今Aクラスが何を考えているかを思い浮かべて欲しいの」
「Aクラスが何を考えているか……だと?」
「今、Aクラスも私たちと同じ課題を受けている。多分、Bクラスであるうちは追加ポイントが100に設定されているはずだよ。あの坂柳さんならまず間違いなく、下のクラスとの差をつけるためにも私たちのクラスを対戦相手に指定してくる」
確かに、課題の内容自体は全て同じと事前に茶柱も言っていたし、追加ポイントの付け方も桔梗の言う通りになっている可能性は高かった。
「つまり、うちがAクラスを指定した場合、ほぼ100%で戦える。けど、万が一負けた場合、学期末試験の敗北だけでなく、追加で100CPをAクラスにプレゼントすることになりかねない」
「勝てばうちが追加で100貰える! 虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。勝った方がAクラス、わかりやすくていいだろう!?」
「私はそんなリスクを取らなくてもこのクラスならAクラスに行けると思ってる。だって、私たちは80CPから今の856CPまで1年半で稼いできたんだよ? CPの伸びは各クラスの中でも一番高い。無理に賭けに出なくても、3年生までの特別試験で十分逆転できる」
今現在ですら200のCP差である。もし、学年末試験で負けてCPがマイナスになり、さらに追加で100の差が付けば、3年生の特別試験で追いつけるかどうかは賭けになるだろう。
しかし、ここでリスクを排除して、Aクラスとの差をしっかり守っていれば、後々十分に勝つ可能性はある。ここで無理をする必要はどこにもないと、桔梗は冷静に啓誠に諭していく。
「勿論、龍園くんのクラスに絶対勝てる保証がある訳じゃない。でも、少なくともこの1年半で、龍園くんとのクラスと直接対決して負けていないのは確か。ここで無理するのは、他のクラスに付け入る隙を与えるだけだと私は思うんだ」
改めて考えてみれば、確かに坂柳はうちのクラスを指定してくるだろう。そして、龍園は原作通り坂柳を指定してくると見て良い。
原作では、無人島試験で龍園が坂柳に貸しを作ってここで直接対決に持ち込んでいたが、この世界では逆に坂柳が龍園に貸しを作っている状況だ。坂柳は学期末試験でオレと戦いたいだろうし、まず原作のカードが再現されることはない。
そして、帆波もおそらくAを選ぶ――と、いうより事前の取り決めで、もし課題の中に特別試験の相手を指定できるものがあればAを選べと指示してあるので、Aクラスに票を集めようと動いているはずだ。
そうなった場合、この投票ではクラス同士の直接対決が決まることはなくランダムになる。つまり、この課題で得られる100や50CPはまず宙に浮くと考えて良いだろう。
「僕も今の話に賛成だよ櫛田さん。坂柳さんたちAクラスを倒すことによる追加報酬は大きいけど、やはり強敵であることは疑いようがないからね。それに一之瀬さんたちCクラスとは、これまで協力してきただけに不義理のようなことは僕もしたくない」
「あたしもサンセー! 龍園くんのクラスは美味しくないけど、坂柳さんの所に負けたら笑えないし、ポイント欲しさに今まで仲良くしてきた一之瀬さんたちを裏切りたくもないもんねー」
啓誠はまだ悩んでいるようだったが、洋介と恵が桔梗に賛同を示したことで、渋々意見を引き下げていた。啓誠としてもリスクが高いのは十分理解しているのだろう。
インターバルの半分以上を使ってしまったが、クラスからも反対意見はなくなったことで残り時間は静かに過ぎていく。そのまま10分が過ぎると、茶柱が進行を再開した。
「それでは2回目の投票に移る。タブレットの画面が切り替わり次第、60秒以内に投票するように。事前に説明している通り、60秒を過ぎればペナルティが累積される。注意しろ」
既に意見は纏まっているため、60秒所か10秒かからずに投票は終わっている。
第2回投票結果 Aクラス0票 Cクラス0票 Dクラス41票
「満場一致により、1つ目の課題はDクラスの選択で確定とする。学期末試験で対戦するクラスは正式に決まり次第お前達にも伝えるが、それは明日以降になるだろう」
今の所、大きな問題はなく進んでいた。まだ10分程しか経っていないこともあり、誰もトイレ休憩にはいかず、すぐに次の課題に移っていく。
「では、2つ目の課題に移らせて貰う」
課題②・11月下旬予定の修学旅行に望む旅行先を選択せよ。
選択肢 北海道 京都 沖縄
第1回投票結果 北海道18票 京都5票 沖縄18票
「満場一致とならなかったため、これよりインターバルを行う」
1回目の投票という会話禁止の時間が終わると同時に、クラスに弛緩したような空気が流れる。だが、それも仕方ないことと言って良かった。
「なぁなぁ、これって特別試験って言えるのか?」
「確かに、全然楽勝って言うか……」
当然ながら、何だこれ――と、思った生徒が多い。一つ目の課題もそうだったが、二つ目もそこまで難しい内容ではないことでクラス間の空気も緩みつつある。
「……っ」
しかし、桔梗は逆に困ったような表情を浮かべていた。そう、確かに一見するとなんでもないように見える。が、クラスの意見を統一させるとなると、これは意外と難しい課題だった。
「……うーん、これは困ったね。確かにみんなの言う通り、そう難しい問題じゃないけど、私の一言でみんなの修学旅行の行先は決められないし」
「こうなったらプレゼンだね! 文化祭の時と一緒で、どうしてこの旅行先がいいか意見を出して決め合うしかないよ」
桔梗もクラスのリーダーとはいえ、全員の希望を無視して独断では決められないので、ここは雪が代案としてクラスで修学旅行先のプレゼンをすることを提案した。
「そうね、希望する旅行先の意見を聞かせて貰うことから始めるしかないわね」
鈴音もまた同意を示したことで、待っていましたとばかりに須藤が手を上げる。
「んじゃ、俺からいくぜ。俺は沖縄に入れたぞ。修学旅行って言ったら海だし沖縄が定番だろ? 11月でも海に入れるってサイコーじゃん?」
「ちょっと待ってよ。沖縄が定番の一つなのは認めるけど、それを言うなら北海道もそうだし。みんな、スキーとかやりたくない?」
沖縄派の須藤に対抗するように、北海道派の前園が名乗りを上げた。続くように、沖縄派と北海道派のバトルが勃発していく。
「私は断然沖縄! シュノーケリングしてみたい!」
「海はもう無人島試験で散々見たし、北海道でカニ食いたい!」
「そもそも北海道とか雪だけっしょ? 絶対つまんないしー」
「いや、それを行ったら沖縄なんて海しかなくね?」
「はーい、そこ! 自分の意見を押し通すために、相手を貶すようなことは言わない。空気が悪くなるだけし、メリットは何もないよー」
流石は雪。喧嘩の空気を察知すると、いち早く注意をして問題が大きくならないように気を使っている。これは桔梗も助かるだろう。
ま、オレが事前にちゃんと意見を出すように言ってなかったら、多分雪はずっと何も言わないで様子を見ているだけだと思うけどな。
「では2回目の投票に移る。タブレットの画面が切り替わり次第、60秒以内に投票するように」
結局、簡単に意見が纏まるはずもなく、10分インターバルは過ぎ去っていった。ちなみにオレの投票だが、原作通りなら北海道になるが敢えて沖縄をチョイスしている。水着はいつ見てもいいからな。
「では、2回目の投票が全て完了したため、結果を表示する」
第2回投票結果 北海道18票 京都5票 沖縄18票
結局、一回目と結果は変わらなかった。
しかし、京都の票が動かなかったということは、原作通りに鈴音は京都に行きたいと思っているということか。オレは別に北海道にどうしても行きたい訳ではないし、無理やり京都にしてみても面白いかもしれない。
「仕方ないわね。こうなったら、勝負で決める以外ないんじゃないかしら? 北海道を希望する3人、沖縄を希望する3人。それぞれ代表を選んでじゃんけんをして貰う。勝ち抜き戦で最後まで残っていた方の勝ち。ただし、投票数の少ない京都に関しては1人にさせて貰うわ。厳しい戦いだけれど、極力公平性を保つためよ」
「鈴音の意見で問題ないなら、オレが京都代表として名乗り出よう」
沖縄に投票した癖に飄々と京都代表と名乗り出るやつがいた。というか、オレだった。
「あなた、京都に入れたの?」
「何か問題でも?」
「いいえ、他に居ないなら京都代表は綾小路くんでいいかしら?」
ちなみにもう一人の京都狙いである啓誠も、オレが名乗りを上げるならという感じで静観している。学校側は当然、オレが沖縄に入れたのを知っているだろうが、別に沖縄に票を入れた奴が京都代表に名乗り出てはいけないルールはないので何も問題はない。
「ちょーっとまった! 清隆が出るなら私も沖縄代表として出るよ! ってか、私が出ないと多分清隆にごぼう抜きされるし!」
「なんでだよ、椿?」
「あのね須藤くん。清隆って、すごーく動体視力がいいんだよね。だから、相手の出す手の形の変化を見てから自分の手を変えられるの」
「後出しじゃねーか!?」
「タイミング的には同じだから後出しじゃないんだよ。あくまで手を見て予測してるだけだから」
パーかチョキかで悩んだらとりあえずチョキを出しておけば負けない。グーから変わらないならパーを出せば勝てる。じゃんけんは動体視力ゲーだ。
ちなみに雪も同じことができる。実際、みーちゃんたちのメイド喫茶を見に行く時のじゃんけんでは、鈴音がその裏を掻く両手じゃんけんを使って勝ちを拾っていた。
こうしてみると北海道組だけ不利ではあるが、鈴音のじゃんけん必勝法を知っている真澄が「なら、北海道は私が行くわ!」と名前を上げたことで拍手喝采を得ている。そうして、いろいろな揉め事の末――
北海道チーム 先鋒・前園 次鋒・篠原 大将・真澄
沖縄チーム 先鋒・小野寺 次鋒・須藤 大将・雪
京都チーム(沖縄) 先鋒・中堅・大将・オレ
――と、いう順番となった。
開幕、前園がパー、小野寺がチョキを出してきたので、オレもチョキを出して北海道チームの先鋒が倒れる。続けて、次鋒の篠原がグー、小野寺がチョキを出そうとしていたので、こちらもグーを出して今度は沖縄チームの先鋒を倒した。
沖縄から次鋒の須藤が出て来て、須藤と篠原が同時にグーを出そうとしていたのでパーを出して即座に大将戦に移っていく。
最初は雪の言うことを信じていなかった奴らも、オレが全てに勝ち残っていることや、たった3回で有利だった北海道&沖縄チームが追い込まれていることから、まるで魔王を倒せと言わんばかりに雪や真澄を応援している。
そんな中、純粋にオレを応援しているのは京都組の鈴音と啓誠、そして隠れている残り2人だった。特に鈴音はすました顔をしながらも、小さくガッツポーズしており、気付いた桔梗がジト目を向けている。
「時間もないからすぐに決めるぞ」
「七色に変化する椿式じゃんけんの神髄を見せてあげるよ!」
「七色って、じゃんけんって三種類しかないじゃない」
と、いう訳でじゃんけんをしていく。雪は「最初はグー」の掛け声で腕を大きく上まで振り、振り下ろす中でグー、チョキ、パーを高速で入れ替えるという荒業を見せ、真澄は素直に鈴音と同じように直前で反対の手を出す必殺技を使おうとしていた。
対抗しても良いのだが、こんなアウェイでオレが勝っても喜ぶのは4人だけだし、よくよく考えなくてもオレ本当は沖縄に入れたしで、普通にチョキを出すことにした。
しかし、雪はどうやら何か深読みしたようで、オレが素直にチョキを出すはずがない。これはこちらをグーに誘導する罠だと判断したのか、何故かパーを出している。真澄はそもそもチョキを出すつもりだったようで、グーと見せかけて反対の手でチョキを出していた。
当然、パーがチョキに勝てるはずもなく、沖縄派は撃沈――雪が地面に膝を付く。
残りはオレと真澄の決勝戦だが、真澄はここで必殺技として『ひより目隠し』を使ってきて、京都派のオレも負けてしまった。
ちなみにひより目隠しとは、じゃんけんが始まった瞬間にひよりがオレを目隠しして出す手を読ませなくさせるという真澄の必殺技だ! てっきりひよりは京都派だと思っていたのだが何だかんだ北海道派だったらしい。
こうして、修学旅行の行先は原作通りに北海道で決定し、第3回目の投票で二つ目の課題も無事にクリアされた。負けた雪は顔をパーで覆っていた。雪目隠しだな。
原作との変化点。
・体育祭は予定通り欠席した。
坂柳がどう動くかはわからないが、自クラスに関してはノータッチの予定。
・満場一致試験が始まった。
茶柱の精神状態がもうやばば。開幕は簡単すぎてクラスメイトたちも余裕の表情を浮かべている。
・学年末試験で戦う相手を龍園クラスにした。
原作と違って帆波クラスとの同盟が続いており、Aクラスとの対決を避けた形。ちなみに原作では帆波クラスを指定している。
・沖縄を選んで京都代表でじゃんけんをする男。
ちなみに最後のひより目隠しは、真澄のアイコンタクトによる貸し一が発動した形。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
満場一致試験でも基本的には大きく動いていない。ただ、面白そうなのでじゃんけんには参加した。
・椿雪
清隆に対抗してじゃんけんに参加したが、深読みのし過ぎで敗北。恥ずかしさのあまり手で顔を隠している。
・堀北鈴音
地味に京都派であり、清隆を隠れて応援していた。
・櫛田桔梗
リーダーとしてクラスを纏めているが、修学旅行の行先は自主性に任せた。
・神室真澄
素直にやっても清隆に勝てないのはわかりきっていたので不意打ちした。
・椎名ひより
実は隠れ京都派だったが、真澄が視線で助けを求めてきたので友情を取った。
・軽井沢恵
平田と一緒に桔梗をサポートしている。
・茶柱佐枝
トラウマ試験が始まって顔が真っ青。最低限の進行以外は口を開いていない。
・平田洋介
清隆の指示で、桔梗をサポートしている。
・幸村輝彦
ポイントに固執するマン。しかし、リスクの高さも理解しており、今回はほどほどで引いている。
・須藤、小野寺、前園、篠原
じゃんけん敗北組。