課題③・毎月CPに応じて支給されるPPが0になる代わりにクラス内のランダムな生徒3名にプロテクトポイントを与える。あるいは支給されるPPが半分になり任意の1名にプロテクトポイントを与える。そのどちらも希望しない場合、次回筆記試験の成績下位5名のPPが0になる。※どの選択肢が選ばれても、PP没収期間は半年続く。
――課題内容を見ると、クラスに失笑が起きた。
試験前にプロテクトポイントの扱いについて学校と揉めたのは生徒の記憶にもまだ新しい。
にも関わらず、こうして舌の根も乾かない内にプロテクトポイントをあたかも褒賞として扱う学校の神経を疑うが、これは原作でも元々決められていた問題だろうし仕方ない部分はある。
とはいえ、この試験でも結局プロテクトポイントは無効にされ、以後の試験でも無効にはしないと言質が取れていない以上、生徒側のプロテクトポイントへの信用度は低い。おまけに、どの選択肢を選んでもPPが減るこの課題は、今までに比べて明確にハズレと言って良い内容だった。
「投票の前に選択肢2、つまり特定の生徒に付与する選択肢で満場一致になった場合のケースを話しておく。この選択肢2で満場一致になった場合は、課題3クリアとはならず引き続き1名を決定する次の選択肢へ移行する。例題のことは覚えているな?」
インターバルの時間を含めても時間がかかる問題だ。下手をすると、ここでかなりの時間を持っていかれかねない。
「ちなみに、ここで手に入れたプロテクトポイントに対して学校側からの補填は出ない。付与されるのは試験の最中だからだ。それらを踏まえた上で1回目の投票結果を発表する」
第1回投票結果 ランダム3名に付与8票 1名を選び付与3票 付与無し30票
圧倒的に付与無しが多いが、それも仕方ないだろう。学校側のせいでプロテクトポイントの価値が低下しつつある今、わざわざPPを無駄にしてまで付与したいと思う馬鹿はそう多くない。下位5位には悪いが、犠牲になって貰った方が結果的にPPの節約になるしな。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! なんか納得いかないんだけど!?」
「私も私も! プロテクトポイントなしだと5人だけ損するじゃない!」
声を開けたのは池と麻耶だった。まず学力で下位に位置する二人からすれば、半年のPP0というのは死活問題に近いのだろう。
「うーん、今回の試験のみたいにプロテクトポイントを持っていても無効にされるケースがある以上、わざわざ全員のPPを減らすのは無駄にしかならないんだよねー……」
「そんなぁ、桔梗ちゃーん……」
「悲観するのは早いよ池くん。流石に下位5人を見捨てるのは可哀想だから、試験でボーダーラインを決めて、それ以上の点数を取れていたら下位5人の失うPPを全員で補填するっていうのはどうかな?」
「流石は雪さん、それはいい案ね。今、私たちのCPは856、この試験が無事にクリアできれば906になる。月のPPは約9万、仮に5人を救済するとして一人大体11000PP程支払えば、クラスへの貯蓄額を抜いても毎月全員40000PP近く維持できるわ」
「そうだね。今堀北さんが言ったのはあくまで最低ラインの話だし、この先CPが増えれば一人当たりのPPはもっと増える……雪ちゃんの提案が一番いいかも」
「よ、よし、桔梗ちゃんが言うならそれだ! それでいこう!」
「ただし、ボーダーラインを越えられなかったらアウト! PPが欲しかったら、死ぬ気で努力しよーねー」
雪の笑みを見ながら、池が「ハッ、ハイ」と恐怖に声を震わせる。実際、ボーダーラインを設定することで、底辺組も努力するだろうし悪くない提案だった。
「僕も意見を出していいかな? 出来れば、僕はこの課題でプロテクトポイントを獲得するべきだと思う。勿論、3人分ね」
「半年間PPが得られないのは相当の痛手よ。日常にも強いストレスを受けるし、状況次第では特別試験にも影響を及ぼしかねないわ」
洋介が原作通りにプロテクトポイントを求める声をあげるが、鈴音がすぐに反論する。
事実、この試験の前にあった学校との問題のせいで、プロテクトポイントの信用度はかなり落ちているので、3人分というのは無駄にしか思えなかった。
「でも、不測の事態が起きても3人守ることができる。プロテクトポイントが入手できるタイミングはかなり限られているし、単純に値段のつけられないものだよ」
「その価値を学校側が崩しているけれどね」
「流石にここまで事が大きくなったんだ。学校側ももうプロテクトポイントを無効になんかしてこないさ。それに、やっぱり退学から守れるというのは大きいことだしね」
実際、限定的な条件とはいえ2000万PPの価値がある権利だ。学校側が無法をしなければもっと票は分かれていただろう。
「悪いが、俺にも意見を言わせてくれ」
洋介に続いたのは、1回目の議題でも櫛田と白熱した議論をした啓誠だった。
「櫛田。来月から、俺たちはCPを増やしていくつもりだと考えて良いんだよな?」
「勿論、そのつもりだよ。Aクラスの背中も見えて来てるしね」
「今回の特別試験で50、文化祭で上位に入れば100、体育祭でも似たようなポイントが増えるとして……2学期が終わる頃には200、状況次第じゃ300CPくらい増えている。そう考えてもいいか?」
「確約はできないけどね」
「なら俺は、2番目のプロテクトポイントを任意の生徒に付与したいと考えている。半年間PPは半減するが、CPが全体的に底上げされるならそこまで痛くはないだろう」
個人への付与は争いの元にもなる。時間もかかるし、一番ない選択肢だ。桔梗もそう思っていたようで、啓誠の意外な提案に驚いたような表情を浮かべている。
「まずは話を聞いてくれ。俺も別に自分に付与してくれと言いたい訳じゃない」
「まぁ、付与してほしいのは全員がそうだもんね」
「ああ。特定の人物を選ぶのは難しい。だが、いくらお買い得と言ってもランダムな3人では、せっかくのプロテクトポイントもどれくらいの効果を発揮するかはわからない」
「そうだね。仮に付与してもプロテクトポイントを使わずに終わったら、それは高い買い物をしただけだったってリスクもある」
「結局、使うことがなければ無価値だ。いや、勿論意図的にプロテクトポイントを消費する戦略で奇襲もかけられるが、それだって既に持っている奴らで十分だしな」
原作でも言っていたが、PPを優先させる考えは攻めの戦略。プロテクトポイントを優先する考えは守りの戦略と言って良い。
「だが、今ここで強いてプロテクトポイントを付与すべき人物がいるとすれば、俺は櫛田だと考える」
「えっ、私?」
まさかここで自分の名前があげられるとは思わなかったようで、桔梗も本気で驚いた様子を見せている。
「椿や平田、堀北、クラスの主要メンバーは前回の無人島試験でプロテクトポイントを得ている。しかし、実際にクラスのリーダーであるお前には何の防備もない。この先、坂柳や龍園みたいな奴と張り合っていく上で、リーダーはもっとも危険な役目だ」
「それは、そうだけど……」
「一之瀬以外のクラスなら、容赦なくリーダーの退学を狙ってきてもおかしくない。それならお前にプロテクトポイントを付与しておけば、他クラスの強敵相手にも臆せず戦うことが出来るはずだ」
「そう、なのかな……?」
桔梗の反応はあまりよくない。勿論、啓誠の提案が嬉しくない訳ではないだろう。褒められて内心で気持ちよくなっているのは確かだ。
しかし、桔梗が表向きのリーダーだということは、もう坂柳や龍園にはバレてる。桔梗もそれを知っているから狙われることはないと考えているし、PPを無駄にするのはどうかと内心で首を傾げているのだろう。
「うーん、幸村くんの気持ちは嬉しいけど、私はリーダーだけど特別試験ではクラスを纏める側になることも多いし、戦う側の雪ちゃんや平田くん、堀北さんがプロテクトポイントを持っているなら無理をすることはないと思うんだよね」
「……そうか。他ならぬ櫛田自身がそういうならその方がいいかもしれないな。でも、普通はプロテクトポイントが付与されるなら喜んで受け入れそうなものだが、櫛田は心が強い」
「そうでもないよ。ただ私には分不相応だと思っただけ。それに、プロテクトポイントなんて持ってると気の緩みとかも出そうだしね」
結局は最初に提案した通り、付与無しに意見を纏めて、次の筆記試験の下位5名を全員で補助するということで話は纏まった。
ただし、クラス内で赤点とは別にボーダーラインを設定し、それをクリアできなければPPの補助はしないということにもなり、学力が低いメンバーはやる気を見せている。
第2回投票結果 ランダム3名に付与0票 1名を選び付与0票 付与無し41票
「課題3は以上で終了となる。次回の筆記試験後から半年間、成績下位5名のPPが0になるので覚悟しておくように」
成績不振の生徒たちは嫌そうな表情を浮かべているが、PPを一番消費しない選択肢を選べたのは僥倖だった。
実際、主要メンバーは既にプロテクトポイントを持っており、退学になるケースがそこまで多くない以上、PPを消費してまで誰かにプロテクトポイントを付けるのは無駄だったのでこれで良かったとオレも思っている。
課題④・2学期末筆記試験において、以下の選択したルールがクラスに採用される。
選択肢 難易度の上昇 ペナルティの増加 報酬の減少
4つめの課題も原作通りであり、ここも結果はペナルティの増加で一致させた。これまでペナルティを受けたことがないので、これまで通り真剣に取り組めば問題はないという判断である。
こうして、1時間もかからず最後の課題まで進むことが出来た。だが、今から5つめの課題に入る――と、いう所で、茶柱の顔色がこれまで以上に酷いものに変わっている。ルール違反である私語に該当するとわかっていても生徒たちから心配の声が上がるほどだ。
しかし、茶柱自身は「……そんなことはない」と、否定の声を上げている。無理をしているというよりも、自分の様子が理解できていないという感じだ。おそらく、過去の自分がこの試験を受けた時の心境が蘇っており、今と昔で心の中がぐちゃぐちゃになっているのだろう。
「では、最後の課題を表示する。投票の準備を」
茶柱が呼吸を整えながらタブレットの操作をする。しかし、手は震え、ボタンをタップするのすら苦労する有様だ。そんな状況で始まる最後の課題に、生徒たちの意識が集中する。
課題⑤・クラスメイトが一人退学になる代わりに、CP100を得る(賛成が満場一致になった場合、退学になる生徒の投票を行う)。
選択肢 賛成 反対
――やはり、原作通りの選択肢か。
この問題が表示されると共に、前に立っている茶柱が「ひゅっ」という息を飲むような音を漏らした。わかっていても、反応を隠しきれなかったのだろう。
原作であれば、ここで八神に入れ知恵された桔梗が堀北やオレを退学にさせるために賛成に票を入れ続ける場面だが、この世界の桔梗は既に鈴音を自分の玩具だと認識しており、鈴音も自身では否定しているがそんな桔梗とのやりとりを楽しんでいる節がある。
原作と違って、上下関係が明確に出来たことで桔梗は無理に鈴音を退学にさせようとはしておらず、クラスを裏切る行動も何もしていない。むしろ、イライラしたら鈴音を使ってストレス発散をするので、下手に退学されたら困ると思っているくらいだろう。
つまり、問題があるとすれば高円寺くらいだが、こいつも結局はPPが欲しいだけなので説得すれば賛成に回るはずだ。原作のように愛里を退学させるような問題になることはないはず――
第1回投票結果 賛成3票 反対38票
元々、雪と鈴音は賛成に投票するという話になっている。つまり、もう一人は自ずと高円寺となり、やはり桔梗が裏切ることはなかった。こうなれば後はもう意見を纏めて満場一致にするだけだ。
「茶柱先生。進行してください」
結果が表示されてから一言も言葉を発していない茶柱へ、後方の教師から注意の声が飛ぶ。
「――ッ! すみません。えー……賛成3票、反対38票。満場一致にならなかったため、インターバルに入る」
「おい誰だよ賛成なんかに投票しやがったのは! ふざけてんのか!?」
半ば茶柱の声に被せるくらいの勢いで、インターバルに入ると同時に須藤が席から立ち上がり、確実に一票を入れたであろう高円寺を睨みつけた。まぁ、この1年の高円寺のことを知っている奴ならそう考えてもおかしくはない。実際、その通りだしな。
「まぁまぁ、落ち着いて。まずは先に言っておくね。この3票のうち、2票は雪ちゃんと堀北さんに頼んで私が入れて貰ったの。どんな課題の内容にせよ、話をしない内に満場一致になって後になって悔やむような状況は避けたいと思ったから」
「……なんだそういうことかよ。けど、それなら早く教えておいてくれよ」
「そうもいかなかったのよ。1回目の投票は事前に生徒同士の会話が許されないけれど、代わりにクラスメイトの希望する選択内容を正しく知るための重要な機会だもの」
「最初から満場一致にさせない作戦を立ててるって知ったら、適当に投票する子だって出て来るでしょ? そうなったら、2つめの課題の時なんか余計な時間を使うだけだし、みんなが知らないことがこの作戦の肝でもあったんだよ」
鈴音や雪の話を聞いて、須藤は「成程な」と納得した様子を見せる。
「でもよ、それを置いても、まだ誰かが賛成に1票入れたってのは変わらないぜ! なぁ、高円寺!」
「フッフッフ、何故私に聞くのかね? レッドヘアーくん」
「お前意外に賛成に入れる奴なんかいねーからだよ!」
「決めつけは良くないねぇ。そもそも、先程のスノーガールたちの話では1回目の投票では任意のチョイスをすることを求められていたはず。どちらに入れても文句を言われる筋合いはないと思うのだが?」
その通りだ。実際、高円寺の言っていることは何も間違っていない。
「そうだね。この結果に文句はないよ。ただ、反対票がほぼ9割を占めている以上、賛成にしたいのであればそれなりの説得をして貰いたいっていうのが私の意見」
「そうだね。CPを得るためにクラスメイトを切り捨てる選択なんてするべきじゃないよ。それにそうして貰えるポイントは100だ。Aクラスに追いつけるものではないし、後で十分取り返しがつくものだと僕は思っている」
桔梗と洋介の説得を受けても、高円寺は余裕の笑みを崩さなかった。少なくとも、2回目の投票が終わり、自分の意見が本心からだということをクラス中に伝えるまでは、自身が賛成に入れたことを話すつもりはないということだろう。
まだ1回目が終わったばかりだということもあり、時間にも余裕がある。とりあえずは桔梗と洋介の説得だけでインターバルは終わりとなり、改めて2回目の投票が始まった。
第2回投票結果 賛成2票 反対39票
「えっ?」
驚きの声を漏らしたのは他ならぬ桔梗――それはそうだろう。何せ、オレたちの作戦通りなら、賛成票は高円寺の1つになる予定だったのだ。
しかし、結果を見てみれば、賛成票は予定よりも一つ多い。当然、クラスメイトたちの視線は賛成票に入れている役だった雪と鈴音の2人に向かう。
「勘違いされると困るから言うけど、私はちゃんと反対票に入れたよ」
「私もよ。ここでクラスを混乱させることをする意味なんてないもの」
疑うやつは誰もいなかった。これまでクラスにもたらしてきた貢献から、この二人が裏切るとは誰も思っていない。
「って、ことは……新しく誰かが賛成に移った。現状で賛成だと考えている人が2人はいる――ってことだね」
桔梗が結論を纏める。当然ながら、最初のあの驚き方を見る限り、原作と違って賛成に票を入れたのは桔梗ではないのだろう。
さて、面白くなってきたな。
「先ほど、櫛田さんも言っていたけれど、もし賛成に投じ続けるつもりなら、ここで賛成の理由をしっかり話して貰えないかしら? 全員に賛成票を入れて貰いたいなら、それ相応のプレゼンを求めたいわ」
インターバルの時間は10分しかないということで、桔梗をサポートするように鈴音がそう声を上げる。
しかし、鈴音自身は匿名の2者に話しかけているつもりでも、クラスの視線は自ずと高円寺に向かっていた。先程の含みのある問答で、高円寺が票を入れている一人だと疑っているのは一人や二人ではない。
すると高円寺はそんな視線を受け、まるで愉快な催し物が始まったかのように楽しそうに声を出して笑い始めた。まるで、探偵に名指しされた犯人のように高円寺が立ち上がる。
「フフフ、面白くなってきたじゃないか。この投票で、てっきり私を除いて賛成意見が誰もいなくなってしまうと思っていたんだけれどねぇ……」
「お前を除いてってことは……やっぱりテメェか高円寺!」
「高円寺くん、それは本当? ここで嘘をつかれても場が混乱するから、出来ればやめてほしいんだけど……」
高円寺が興味本位でクラスを荒らすことはそう珍しいことではない。だからこそ、まずは真偽を確認しようと桔梗も疑問の声を漏らした。
「安心したまえ。1回目も2回目も、私はしっかりと賛成に票を投じさせて貰ったよ」
「……理由を聞かせて貰っても良いかな?」
「答えはシンプルさ。CPが100増えるのだろう? つまり、毎月貰えるPPが必然的に増える。反対を選ぶ必要がないのだよ」
「ふざけたこと言いやがって! 仲間よりもCPの方が大事だってのかよ!」
「君も面白いことを言うねぇ。入学当初は、とてもそんな人物には見えなかったが?」
「うるせぇ! 人間は成長するんだよ!」
実際、去年と今の須藤は別人と言ってもいいくらいに成長している。高円寺もそれをわかっていて尚、須藤を取るに足らないと判断しているのだろう。
「高円寺くん。綾小路くんとの約束で、試験には全力で取り組むことになっていたよね?」
「勿論だ。そして私は本心から、このクラスから要らない生徒をデリートしてCPを稼ぐべきだと思っている。以前行ったクラス内投票と同じだよ、マイナスもなく不要なゴミを捨てられておまけにポイントも貰える。反対に投じる理由の方が私には理解できない」
「テメェ! 仲間を何だと思ってんだ……!」
「仲間? 私は君たちを仲間だと思ったことは一度もないがね。強いて仲間だと認められるのは、ホームズとスノーガールくらいのものだ。それ以外は取るに足らない有象無象と変わらないねぇ」
「つまり、次の投票で反対に変える気はない……ってこと?」
「無論だよ、櫛田ガール。このままなら、私は賛成に投票し続けることになるだろうね。時間切れだけはクラスとしても避けたいんじゃないかな?」
「ハッ! 思い通りに行くと思うなよ高円寺。そういうつもりなら、こっちも容赦しねぇ! 全員で賛成に投票して高円寺を退学にさせてやりゃいい!」
当然ながら、高円寺も自分が賛成に入れていると周知すれば、クラスがそういう流れになるのはわかりきっていたはずだ。しかし、当然のように焦りはない。去年はあった唯一の隙である、退学の焦りはクラス内投票のミスで既に克服されてしまっている。
「全員が賛成に投じるのは願ってもないことさ。しかし、それで私を退学にさせられると思うのはやめた方がいい」
「どういうことだよ!?」
「クラス内投票で清隆がした契約だよ。あの時から、高円寺くんはクラスで実力を発揮することを条件に、この先自分が退学するようなことがあっても彼の身を回るって約束してる」
山内退学の件もあって、殆どのクラスメイトたちが忘れてしまっているようだったが、雪の言葉を聞いてその契約の存在を思い出していた。
「そ、そんなんあったっけか……でもよ、クラスを陥れる真似をするなら話は別だろ!」
「陥れるとは心外だねぇ。私は託されたチョイスの中で最善を尽くしているつもりだよ。賛成に投じるのは別に悪いことではない、そうだろう?」
そう、この課題の内容が、問答無用で退学者を出すべきかどうか――というものなら、高円寺の選択は悪だと断じてもおかしくないが、今回の課題では退学にする代わりにCPが貰える。
生徒一人を犠牲に他クラスとの差を付けられるなら、高円寺のような選択をするのも有りだろう。少なくとも、それを間違っていると否定する権利は誰にもない。
「そ、そうだ。約束なんて反故にしちまえよ! クラスメイトを仲間だと思っていない高円寺なら、退学になったって誰も困らないだろ!」
「そんな簡単に反故に出来るなら、高円寺くんだってすぐに反故にしてるでしょ? 当然、反故にした場合はその人物を退学にするって契約書で約束してる。つまり、ここで高円寺くんを切り捨てるってことは清隆も退学にするってことなんだよ」
「フフフ、私はともかく、このクラスをずっと陰から支えてきたホームズを切り捨てるなんて仲間思いの君たちには出来ないだろう? むしろ、それが出来るクラスなら、私がこうして賛成に回ることを否定はしないはずだよ」
高円寺の退学=オレの退学となれば、迂闊に高円寺を切ることはできない。流石は高円寺だ、ずっと自身を縛っていた鬱陶しい鎖を、ここにきて武器に変えていた。
「あのね、高円寺くんを除いて賛成に投じた人、出来れば名乗り出て欲しいんだけど?」
高円寺の件は一旦保留にして、もう一人の意見も聞こうとしたのだろう。しかし、桔梗の呼びかけに答える声はなく、無情にも時間は過ぎて3回目の投票時間となった。
第3回投票結果 賛成2票 反対39票
やはり結果は先程と変わらない。高円寺を含めた誰かが賛成に票を入れている。匿名とルールである以上、あぶり出すことは不可能。このまま今の調子でいけば、最悪の可能性も見えてくるだろう。
「高円寺くんも含めた、賛成票に入れている人に言うね。私たち39人はこれからも反対に投じるよ。でも、その結果待ってるのは時間切れって言う最悪の状況……CPは失われて、私たちは大きな痛手を負う。けど、私たち反対派はポイントは失っても仲間は失わずに済むんだよ」
「そうね。対する賛成派は唯一の利点を得る所か、大きな損失を受けるわ。このまま意地を張り続けるのは本末転倒よ。違うかしら?」
「確かに、時間切れになるのならそうだろうねぇ。だから賛成に回りたまえよ」
「賛成に回っても結果は変わらないと思うけど? 仮に賛成で満場一致にしても、誰を退学にするかで確実に揉めるよ。今はまだ反対って逃げ道があるけど、賛成で満場一致にしたら逃げ場もなくなる訳だしね」
「それを上手く纏めるのが、クラスを率いる君たちの役目だろう?」
桔梗や鈴音の説得も高円寺にはどこ吹く風だ。雪の意見も正しいが、高円寺は引く気はないようで余裕の笑みを浮かべている。
残る一人に関しては名乗り出ることもなく静観を示していた。結果として何も進むことはなく、4回目となる投票時間が始まる。
第4回投票結果 賛成2票 反対39票
「くそ、どうすりゃいいんだよ! ぶん殴って気絶でもさせて、こっちで勝手に投票するって方法は有りだったか!?」
「あるわけないでしょう、落ち着きなさい」
「だが、堀北。このままいけば-300CPだ。Aクラスから遠のく所か、他のクラスの結果次第ではDクラス落ちまで見えて来るぞ」
「確かに啓誠の言う通りだ。でも逆を言えば、この100ポイントにいつか泣かされることもある訳だよな?」
「んだよ三宅、それって誰か退学者を出せってことか?」
「勘違いするな須藤。俺は明確に反対の立場だ。少なくとも俺は高円寺とは違って、このクラスから誰も欠けることなくAクラスを目指すのが最適だと考えている。それは仲間が大切って言うのも勿論あるが、PP的な意味でも一人が担う力は大きいからだ」
「どういうことだよ?」
「今、俺たちは月に約85000PPも貰っている。この半分をクラス貯金として有事の際に使用するために貯蓄している訳だが、誰かを一人退学にするってことはこの貯金的な意味でも大きな損失だ。他にも、有事の際にPPを使う場面や特別試験で人数を要求される事態などを考えたら、100CP欲しさに退学者を出すのはあまり賢い選択肢とも言えない」
「そ、そうだな。お前の言う通りだ、三宅」
「だが、だからこそ100ポイントを軽視してはいけないとも思っている。卒業が近づいた時、この特別試験がターニングポイントだった、そんな未来を想像した上で反対意見を入れる必要があるんじゃないかってことだ」
珍しい明人の力説に須藤すら押されていた。実際、明人の意見も間違ってはいない。
今は周囲の状況に流されて反対意見が多いが、冷静に考えれば何人かが高円寺たちの側に回ったっておかしくないのだ。
とはいえ、やはり1年間を共にしてきたというのは、言葉にするとかなりの重みがある。
明人も、基本は反対派だということは崩していないし、ここで思い切って反対に移動する――なんて奴は流石に出てこないだろう。
「高円寺。お前が学年末試験からずっと結果を出しているのはわかってる。無人島試験も、体調不良でリタイアだったが途中までは一位だったんだしな。清隆との約束を抜きにしても賛成に入れたお前に退学の票を集めるのはおかしいことだと俺は思う」
「フフフ、続けたまえ」
「だがそれでも、いつまでも好き勝手にクラスを困らせて良いものじゃない。CPだけで関係が成り立っている訳じゃないんだ。言っている意味が分かるか?」
「フッフッフ……勿論――サッパリわからないねぇ」
「――ッ! 高円寺……」
「この学校の仕組みを考えてみたまえ。全ては獲得したポイントで成り立っている。フレンドシップやアフェクションなど関係ないのだよ。クラスの立場を決めるのはCP、個人の資産はPP。表裏一体の評価システムだ。それを優先するための賛成を私は悪いとは思わないよ」
「ぬけぬけと言いやがるぜ! 去年の大半をクラスに貢献してこなかったテメェがよ! ちょっと手柄を立てたからってそんな態度がずっと取れる訳じゃねぇぞ!」
「鏡を見た方がいいようだねぇレッドヘアーくん。私と君のクラスに対する貢献度はどちらが上か、火を見るよりも明らかだと思うがね」
須藤も改心するのが早かったが、筆記試験では手を抜かない高円寺との差は明確だった。
高円寺にしても、唯一問題だったのは去年の無人島試験のリタイアと体育祭の不参加くらいで、その他の特別試験では明らかに須藤よりも結果を残している。
いや、それこそ去年の最初に失った920CPの大半を須藤が担っていることを考えれば、むしろ須藤の方がクラスに迷惑をかけていると言っても間違いではなかった。
「まぁ、私にとって重要なのはCPの方ではないがね」
ボソリと独り言のように呟いた高円寺の言葉――これこそが賛成にずっと回っている高円寺の意見を覆す一筋の光であることを、雪と鈴音は聞き逃さなかった。
「CPが重要じゃないってことは、高円寺くんにとってこの100ポイントは、Aクラスに上がるためじゃないって考えて良いんだよね?」
「目的はあくまでもPP、そのために賛成に票を投じ続けているということ?」
「その通りだよガールたち。私はPPのために賛成にしたいのだよ。何せ、二つ前の課題で半年間もPPが減額させられることになったからね。私としては、この機を逃す訳には行かないのさ」
本来であれば、クラスメイトのPPを補填する何てことを高円寺が認めるはずがない――が、オレと高円寺の間には特別試験に真剣に取り組むという契約がある。
今のように、課題の内容で自分の意見を貫くのは問題ないが、特別試験の結果として正式にクラスの意見が決まったのなら嫌でも高円寺は従わなくてはいけない。反すれば、クラスに貢献していないと判断されてしまう危険があるからだ。
だからこそ、高円寺もPP補填のために、クラスにPPを支払わざるを得ない。その減った分のPPを回収するために、少しでもCPを稼ぎたい――これが高円寺の動機だった。
ならば、付け入る隙は十分にある。
「――わかった。じゃあ、高円寺くん。私と取引しようか。君にとっても、これは悪い話じゃないと思う」
「ほう? 面白そうな話だ。そのプレゼンテーション、聞かせて貰おうじゃないかスノーガール」
「君が今から反対票に回って、その後に反対による満場一致が認められたなら、今回の3つめの課題で決まった試験成績下位者への支援を、君の分まで私が負担する。これなら、無理にCPを稼ぎに行く理由はないでしょ?」
「そうね。確かにそれなら高円寺くんが賛成に投じる意味はなくなるわ」
「流石はスノーガール。それほど時間を要せずにその結論に辿り着いてくれたようだねぇ」
パチパチパチ――と、満足げな表情を浮かべて拍手をする高円寺を見て、最初からこの提案が出てくるのを待っていたのだと、遅まきながら桔梗も理解したようだった。
「なら、これで高円寺くんも反対に回ってくれるって考えて良いの?」
「そうだねぇ。私の1票はかなりの価値があると自負している。出来るなら、もう少し値上げしたい所だが……」
「なら、半年間、私が追加であなたに100CPに相当するPP1万円分を支払うわ。これなら、プラスになるし文句もないでしょう?」
「グッドだ、堀北ガール。その条件で手を打とうじゃないか」
わざわざ契約を書面にする必要もないということで意見が纏まる。雪は「ごめんね、私が提案したことなのに」と、鈴音に謝っていたが、「大丈夫よ、これでクラスが纏まるなら安い買い物だわ」と、首を横に振っていた。
そうして、高円寺の問題が片付いたことで迎えた5回目の投票。出来れば、これで問題が全て解決してくれればよかったのだが、そう簡単に行くのなら苦労はなかった。
第5回投票結果 賛成1票 反対40票
見えない一票が、クラスを追い込み始めていた。
原作との変化点。
・問3が原作以上にゴミ問題になった。
これだけ学校側が間抜けを晒しているのに、わざわざ金を無駄にして取りに行く理由が存在しない。
・問4も原作通り。
他にメリットがなさ過ぎるので変更なし。
・最後の問題で、桔梗以外の賛成が出てきた。
ちなみにマジで桔梗ではない。原作と関係性が全く違うので、賛成にしてクラスを混乱させる理由が存在しなかった。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
ここまで口を開いていない。あくまでクラスの総意に任せている。
・椿雪
清隆からクラスメイトとして意見を出せと指示されているのでそれなりに意見を出している。もし、何の指示もなければ清隆同様にずっと黙っていた。
・堀北鈴音
桔梗のサポートに回っている。
・櫛田桔梗
リーダーとして変わらずクラスを纏めている。原作では黒幕だが、このSSではむしろ主人公ポジ。
・茶柱佐枝
途中まで頑張って進行していたが、遂に問題の問5が来てもう限界。
・平田洋介
プロテクトポイントを欲しがったが、クラスの総意に従った。問5では退学者を出す等以ての外だと憤慨している。
・幸村輝彦
桔梗にプロテクトポイントを付与すべきと真っ当な意見を出した。が、裏の関係性を見抜けていなかったが故に却下されている。
・高円寺六助
原作通りにPP欲しさに賛成に回ったが、PPを補填して貰ったことで反対派に回っている。動き自体は原作通りであり、特に大きく変わっていない。