ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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SIDE:18 『一之瀬帆波の選択:星之宮知恵の嘲笑』

 SIDE:一之瀬帆波

 

 

 この特別試験が始まってから、私のクラスは特に大きな問題もなく最後の課題まで進むことが出来ていた。この試験で、ご主人様から受けた指示はたった一つだけ――しかし、今の所はその指示に従う課題が出て来ておらず、何もしないでもいい状況だった。

 

 ――この課題が出題されるまでは。

 

 

 課題⑤・クラスメイトが一人退学になる代わりに、CP100を得る(賛成が満場一致になった場合、退学になる生徒の投票を行う)。

 

 選択肢 賛成 反対

 

 

 ハッキリ言おう。私は最初からこの課題が出ると、ご主人様に教えられていた。

 星之宮先生がこの学校出身だというのは本人から聞いたこともあって知っていたが、先生が通っていた頃にもこの満場一致試験が行われたらしい。

 

 そして、星之宮先生はAクラスの権利欲しさに、その情報をご主人様にリークした。

 だからこそ、私はご主人様にこの試験の攻略法を授けられている。この満場一致試験が始まる前の学校との問答――あれすらも、全てはこの試験攻略のための布石だったのだ。

 

 

 第1回投票結果 賛成1票 反対39票

 

 

 本来であれば反対に40票全部が固まって終わるはずだったが、ご主人様の命令により、私は賛成に票を入れていた。

 

「なぁ誰だよ賛成押したやつ。押し間違えてるぞー」

「押し間違えじゃないよ」

 

 のほほんとした柴田くんの意見に反論するように、そう言って立ち上がる。まさか、私が賛成票に入れたとは思わなかったようで、クラスメイト全員が驚きの表情を見せていた。

 

 実際、私もご主人様の命令がなければ、賛成に入れることなどなかったと思う。そんな私を見て、星之宮先生の口元が僅かに歓喜に染まっているように見えた。まるで、こうなることを待っていたかのように――

 

「それで一之瀬……お前が賛成に入れたのは押し間違えではないということだが?」

「そうだよ神崎くん。確かに、私たちなら反対による満場一致に成立させるのは簡単だよ。でもね、ここで100CPを得られれば、私たちは上のクラスに追いつける。そう考えたら、賛成に票を入れるのはおかしなことじゃないよね?」

「だが、そのためにクラスメイトを犠牲にするのは……」

「犠牲になんてしないよ」

 

 そう、クラスメイトを犠牲になんてしない。何故なら、私はクラスメイトの身の安全のためにご主人様に全てを捧げると決意したのだから――あくまで目的はCPであって退学ではない。

 

「しかし、実際退学者を出さないとCP100は手に入らないんだぞ?」

「そんなことはないよ。実際に退学者を出しても2000万PPを支払えば救済することができる」

「馬鹿な。そんな大金あるはず……」

「私たちは無人島試験でかなりのPPを手に入れた。私と神崎くんと柴田くんは、1位の報酬として106万PP。それに加えて、追加カードによるプラス106万PP。そして、便乗カード8枚による424万PP……合わせて1060万PP。それにクラスの報酬や宝探しで得たPPを合わせると、約1100万PP」

「だが、それは去年のクラス内試験でした借金返済に充てられたはずだ」

「そうだね、おかげでもう借金の大半は返せた。けど、私たちが上に行くにはどうしてもPPが必要だと感じて、また借りておいたんだ2000万PPを」

 

 私の独断による新たな2000万PPの借金――これでマイナスはおよそ3000万近い額になったと言える。流石に予想外だったようで、クラスメイトたちも愕然としていた。

 

 けど、夢ちゃんのようにこちらの事情を知っていると、これがご主人様を経由した指示であることに気が付いたようで、驚きながらもどこか納得したような表情を浮かべている。

 

「事前にPPを借りた? 一之瀬はこの課題が出てくることを読んでいた……と、いうことか?」

「みんなもこの試験の説明を受けた時にプロテクトポイントを無効にするって聞いておかしいと思わなかった? 他のクラスからも同じ意見が出て最終的には学校と問答になったけど、私はあれを聞いた瞬間、クラス内投票のように誰かを退学にしなきゃいけない状況になるんじゃないかって思ったの」

 

 実際、プロテクトポイントを無効にするってことは、学校側は誰かを退学にしたいと考えているとしか思えない。少なくとも学校側は犠牲者を望んでいる――そう考えれば考える程、保険はあって困るものではなかった。

 

「結果的には、PPを使わずに済む方法もあった。けどね、これはチャンスでもある。本来であれば、守りに使う2000万PPを敢えて攻めに使うことで、私たちは一歩先に進めると思うんだ」

「だが……」

「確かに、またPPがなくなってお金のやりくりは大変になる。けど、この試験で150CPを手に入れることが出来れば、569CPから719CPに増えてBクラスの背中も見えてくる。もう二年も残り半分……ここからはもっと攻めの気持ちを持たないと私たちはAクラスになれないと思うんだ」

 

 と、訴えてみたものの、やはり3000万近い借金は重いようでクラスの反応は悪い。こうなっては最後の手段を使うしかない――と、思っていると、それまで黙って話を聞いていた星之宮先生が手を上げた。

 

「あのさーみんな。ちょっと私が話をしてもいい? あ、興味ない人は無視してくれていいからね」

 

 まるで、私の背中を押すかのように、星之宮先生が声を上げる。誰もその問いを否定することはなく、星之宮先生は笑顔で話をし始めた。

 

「実は先生も学生時代、みんなと同じような経験をしたことがあるの。どうしてかっていうと、私もこの満場一致試験を受けたから。そして、5つ目の課題は今と全く一緒だったの」

「なんか珍しいね。先生がこの学校の学生だったのは聞いたことあるけど、実際に学生時代のこと話すのは初めてじゃない?」

「そうだっけ? まぁ、今はそれはおいといて――クラスの状況はまるで違うけど、この課題で足止めされたんだよね。まぁ、時期も違ったのもあるかな……私たちの時は3年の3学期、1ポイントを全力で狙いに行くタイミングだったし」

 

 今は2年の2学期が始まったばかり、そういう意味ではまだ取り返しがきくとも言える。

 

「でもさ。もし、あなたたちが後100CPあればAクラスに行けるって状況だったら、こんなのんびり構えられてた?」

「誰かを退学にするなんてできませんよ。次の特別試験で挽回するように頑張って――」

「次がないとしたら? 仮にこの特別試験が卒業最後の試験だとしたら? 仮に今、みんなは念願のAクラスに辿り着いていたとする。けど、Bクラスとの差は僅かに数10ポイント。もしここで仲間を優先することをしたらBクラスが確定します。さ、どうする?」

「どうするって……」

「勿論、Bクラスも後がない訳だし、誰かを切ってでも100ポイントを取りに来るよ。それでも反対で満場一致にする? それともBクラスがAクラスを諦めて退学者を出さないというはかない選択肢に賭けてみる?」

「星之宮先生……」

「ま、いろいろ言ったけど、後ろで厳しく見張られてるからそろそろ黙りまーす。でも、先生が言いたいことはわかるよね? Aクラスに上がりたい気持ちが少しでもあるなら、チャンスの糸は手放しちゃダメだよ」

 

 そう、星之宮先生の時と違って、今の私たちには退学者を出さずにCPをプラスに出来るチャンスがあった。

 

 確かにPPがないのは苦しいけど、Aクラスになるためなら、そのくらいの苦労は喜んで背負うべき――ここで、みんなの背中を押す最後の一押しとして、今回の件のネタ晴らしを半分することにした。

 

「今回の試験が始まる前に学校側がプロテクトポイントを持つ生徒に500万PPを補填してくれることになったでしょ? 3000万の借金って聞くと尻込みしちゃけど、私、神崎くん、柴田くんに入る500万の補填を借金に回せば1500万に減額できる」

 

 3000万が1500万になっても大金であることは変わりない。けど、ハッキリと半額になったことで、全員の心が賛成に前向きになったことは確かだった。

 

「私はここがターニングポイントだと思う。みんな、私を信じて賛成に票を入れて欲しい」

 

 改めて頭を下げると、夢ちゃんがアシストとして「謝ることなんてないよ。私たちは帆波ちゃんを信じてる」という声を上げてくれる。

 それを機に、他のクラスメイトたちからも賛同の声が上がった。「借金上等!」、「倍にして返してやるぜ!」と、流れが完全にこちらに向いたと言って良い。サクラではないが、結果として夢ちゃんの援護が決め手となったのは間違いなかった。

 

 

 第2回投票結果 賛成40票 反対0票

 

 

「じゃあ、賛成で満場一致になったから、個人の指定に移るね。個人の指定は1度だけ認められた候補者かタブレットに表示される生徒の名前を選んで推薦票を投じることで行うよ。ただし立候補が不在、もしくはインターバル終了時に推薦が過半数を超えていない場合には事前の説明通りランダムで選出が行われちゃうから注意ね」

「立候補するのは勿論私です。賛成で票を固めてね」

 

 当然、私が言い出したのだから私が立候補するのが筋である。これで万が一、何かの問題があって退学になるとしても、私が退学するだけで済む。

 

 

 問・『一之瀬帆波』を退学にさせる

 

 選択肢 賛成 反対

 

 

 実際にタブレットに表記されるとみんなも押しづらいようで、大丈夫だとわかっていても苦しそうにしている。

 しかし、押さないと先には進まない。「大丈夫だから押して」と、再びクラスメイトを説得して、何とか賛成の票を押して貰った。

 

 

 第3回投票結果 賛成40票 反対0票

 

 

「一之瀬帆波の退学に関し、賛成による満場一致で課題を終了とします。選択肢は有効となり、CPが100追加されます。最後に確認ですが、この退学を取り消す方法は一つだけ。現時点で2000万PPを持っていてそれを使用する場合に限ります。どうしますか?」

 

 星之宮先生も、最後だからか今までと違って少し真面目に進行してくれている。その目には満足感が溢れており、この結果に喜んでいるのが見て分かった。

 

「勿論、使うに決まってます!」

 

 返事をしたのは私ではなく、千尋ちゃんだった――それを皮切りに、他の生徒からも使うという声が上がり、私も「では、お願いします」と頭を下げる。

 

「2000万PPを支払うことで一之瀬帆波の退学は無効となりました。後でPPを徴収します。以上で特別試験は終了、お疲れさまでした~」

 

 結局、全ての課題が終わるまでに1時間かからなかった。どうやらAクラスとほぼ同時に試験が終わったということで、この後は寮で自習となる。

 

 全てはご主人様の望んだとおりの結果となった。PPの借金が増えたことで、またしばらくクラスも隷属化することになったが、こうして退学から誰かを守れるなら何も問題はない――だってご主人様が全部正しいんだから。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:星之宮知恵

 

 

 全てが私の思う通りに事が進んだ。もし、綾小路くんの力を借りずにこの試験を受けていたら、この仲良しクラスはきっと迷うことなく50CPを稼ぐだけで終わっただろう。退学者を出すかどうかなど議論もしなかったに違いない。

 けど、そんなのは間違っている。

 必要なら、誰かを切り捨てる選択肢をすべきなのだ。友達だ親友だって言っても、結局一番大切なのは自分自身なのだから――上辺だけの友情なんて捨てて、勝ちを望まないといけない。仮に傷ついても、そんな傷は時間の経過とともに過去になる。

 

 全ては綾小路くんの望んだ通りになった。否、私が望む結果を綾小路くんが導いてくれたというべきか。

 

 私はサエちゃんとは違う。その全てを曝け出した。ルール違反になることも厭わずに、全てを彼に伝えた。

 その結果、彼は一番いい方法を提示してくれた。退学者を2000万PPで救い、CPだけを稼ぐという素晴らしい方法を。

 

 退学者を出さないことで、あの仲良しクラスの仲にもヒビが入らず、モチベーションを保ったまま次に望むことができる。

 多少のPPの借金はしても、彼が今回の試験の問題点を指摘したことで学校から膨大なPPを得られたことで、その問題もほぼ解決できていた。

 

 当然ながら、あの学校への問題提起も、私が事前に彼に情報を伝えたことで起きたことだ。

 

 学校側は退学者を出したいが故に、プロテクトポイントを無理に無効化しに来る。その強引さや杜撰さを突いて、彼は学校から500万という譲歩を引き出した。

 この学校で500万はかなりの大金だ。

 それがプロテクトポイント所持者全員に渡される。クラス単位でカウントするなら、うちのクラスは1500万PPを学校から与えられたに等しい。それだけの見返りが期待できるなら、誰だって2000万を使ってCPを買うことを検討に入れるだろう。

 

 けど、サエちゃんのクラスはそうならない。

 

 何故なら、彼がサエちゃんに餌を与えないと決めたからだ。今回の試験で役に立ったのは私の方なので、私がご褒美を貰った。

 結局、サエちゃんは昔のことを引き摺り過ぎて今が見えていない。私たちの置かれた現状を理解できているのなら、ルールに縛られるなんて馬鹿のすることだ。

 

 だからこそ、サエちゃんは全て失う。

 

 私は既に次の体育祭のことも全て彼にリークしてあった。そして、もしうちのクラスが学年1位の報酬を得ることが出来たのなら、目に見えてわかるご褒美を渡すとも言われている。

 

 そうなれば、もうサエちゃんのあの余裕も取り繕うことも出来なくなるだろう。だって彼は、ご主人様は、私のモノになるのだから――

 

 

 

 




 一之瀬クラスは、原作と違って神崎が落ち着いているため普通にしていると反対で満場一致するが、敢えてここでCPを稼ぎながらも退学者を出さない選択肢を取らせた。これには星之宮もにっこり。
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