SIDE:坂柳有栖
正直、私はこの満場一致試験に何の面白さも感じていなかった。この試験前にあった学校への問答もハブにされて、どのクラスとも戦う訳ではないこの試験は退屈の極みと言って良い。人前でなければ欠伸をしていたかもしれないくらいには退屈を持て余していた。
課題⑤・クラスメイトが一人退学になる代わりに、CP100を得る(賛成が満場一致になった場合、退学になる生徒の投票を行う)。
選択肢 賛成 反対
そんな中、ようやくやってきた5つめの課題は私の目を覚まさせるには十分なものだった。
これまでの課題は適度に意見を求めながらも、適当に満場一致にさせるだけだったが、流石に退学者を出すとなれば話は別。
とりあえず予期せぬ事故を避けるため、予め私、山村さん、橋本くん、鬼頭くんの四人で票をバラバラに入れるように指示していたこともあり、この回で満場一致になることはない。まずは投票結果を確認することにした。
第1回投票結果 賛成2票 反対35票
当然ながら、予想した通りの結果となっている。コントロールした2票を除き、全員が反対に意見を表明したということだ。
「ま、こうなるよな。それでどうするよお姫さん。次の投票は全員反対で良いのか?」
「あなたはどう思いますか? 橋本くん」
まさか私に答えを求められると思っていなかったのか、橋本くんは少し驚いた様子を見せつつ、改めて自分の意見を口にしようとする。
「ノンストップで結論を出すなら反対だ。ただ、冷静に考えた時、CP100ってのは意外と馬鹿にならない気がしてる」
「そうですね。もし仮にBクラスが誰かを退学にする選択肢を取っていた場合、CPは1000を超えてうちに匹敵します。勿論、逆転はされませんが、差は100以下になりかなり詰め寄られるのは確かでしょう」
「そう考えると、軽視していいかどうかは疑問が出るな……」
これまで下位クラスとは200以上の差があったからこそ、Aクラスもある程度の余裕を見せているが、これで差が詰まれば焦りから能力が発揮できない危険もある。
とはいえ、誰かを切るというのはそう簡単なことではない。ただでさえ、うちのクラスは一人が退学し、二人がクラス移動している。総人数でいえば学年で一番少なく、これ以上は月に貰えるPPの総額も目に見えて少なくなると言って良い。
「これが競争も終盤の学校生活であったなら、やむを得ずクラスメイトを切る方針を私も打ち出したでしょう。しかし、余裕を作るためだけに1名を退学させる選択肢を選ぶのはナンセンスとも言えます」
「仮にクラスが落ちたとしても、卒業までにAに戻ればいいんだからな。ただ、この先その100ポイントに泣かされるのはごめんだぜ?」
「だとすると、少し考えないといけません。問題となってくるのは次が体育祭だという点です。去年はまだ私が実権を掌握していなかったとはいえ、私自身に運動能力がない以上、どうしてもいい結果を出すのは難しい。最悪の場合は去年の二の舞も有り得ます」
「そうなれば、まずBクラス落ちは避けられない、か」
「勿論、学校はその辺り平等です。体育祭のように運動能力がモノをいう試験もあれば、普通に学力がモノをいう試験もあるでしょう。そこで十分挽回は可能だと思っていますが、絶対とは言い切れませんね」
この先、学力を重視する試験はあると想定してはいるが、もしかしたらない可能性もある。そうなると、ここで100CPを取らなかったことで泣きを見ることはあり得なくはない――が、それは薄い可能性だ。ここが学校である以上、どうしたって学力の試験は必須。
仮に、ここで100CPを取らず、体育祭でBクラス落ちしたとしても、学力の試験があるのであればそこで逆転は十分に狙えた。
「どうするんだ? 賛成で票を纏めるのか?」
「フフ、仮に賛成で票を纏めるとして、誰を退学にするつもりですか?」
「それは……」
疑問に疑問で返すと、橋本くんは少し困ったような表情を浮かべる。もしかしたら、彼の中には何人か候補がいるのかもしれない。が、ハッキリと名前を出せば角が立つ――とはいえ、答えを返さない訳にもいかないので言葉を濁すようにして答えを返してきた。
「まぁ、あまり言いたくはないが、能力の低いやつ……ってことになんのかな……?」
「うちのお荷物担当は既に去年切り捨て済みです。それに、私に反抗的だった葛城くんも売りつけて、もううちには能力の低い人物なんていませんよ。多少の誤差はあっても、全員が高い能力を有していると私は思っています」
それにクラスメイトを退学にするということは、単純に考えて月に貰えるPPの総量が減るということでもある。ただでさえ、うちのクラスは三人が既にクラス移動や退学でいなくなっていて、他クラスに比べても人数が少ない。
「じゃあ、反対に入れるのか?」
PPがクラス間抗争で必要な武器となる以上、それを無駄に減らすのは馬鹿のすること――しかし、それでも100CPというのは決して安いものではなかった。
「そうですね……少し考える時間を頂けますか? 他の皆さんも基本的には自由にして貰って構いませんし、次の選択肢は好きに入れてください。ですが、橋本くんは賛成に入れて票が反対で満場一致にならないようにしてくださいね」
「ああ、了解だ」
そう言って、残り時間、私は思考の海に沈む。
もし仮に退学者を出す選択肢を取るとしたら誰を退学にすべきか。人数が減るというのも明確なデメリットである以上、ここで切るなら能力の低いモノを切るべき――しかし、目に見えて能力の低い者がいない以上、考え方を変えて誰がこの中で役に立たない者、もしくは将来的に裏切りの目を孕む者を処分すべき。
で、あれば――と、考えながら橋本くんに視線を向ける。
そういえば、森下さんも橋本くんは他クラスに自分を売り込んで裏切る準備をしていると言っていたような記憶があった。もし、このままうちが下のクラスに落ちた場合、彼がうちの情報を流して裏切る可能性は十分にある。
今までなら実害があるまで放置していたが、この先控えているであろう綾小路くんとの戦いでちょっかいを出されても面白くない。彼はそこそこ優秀で使い勝手のいい駒ではあるが、最近は龍園くんとも裏で取引をしているようだし、ここで切るのも手ではあった。
とはいえ、どうやって賛成に票を纏めるか。
私が誰かを切る動きを見せれば、勘のいい彼のことです。自分が切られるということに気づくでしょう。そうなれば、間違いなくずっと反対に票を入れて時間切れまで粘るのは目に見えている。
下手な動きは見せられない。
しかし、携帯も取り上げられている今、橋本くんに内密に票を賛成で纏めるのは不可能。もし、私の内心を理解して、クラスを賛同に動かしてくれる人がいてくれれば話が早いのですが、それも流石に望み薄でしょう。
それだけ私の内心を察せられる人がいるのであれば、ここまで頭を悩ませることはしていない。
と、考えている内に、インターバルの10分が終了し、2回目の投票が始まった。とりあえず、賛成に入れておくが、何も言っていない以上、この投票で賛成が満場一致になることはまず有り得ない――
第2回投票結果 賛成37票 反対0票
――と、思っていただけに、この結果には流石の私も驚きを隠せなかった。
勿論、その驚きを素直に表情に出しはしない。あくまでも、全て予想通りという表情を浮かべる。
橋本くんがハメられたと言わんばかりの表情でこちらを見てくるが、内心私としてもこの結果は寝耳に水と言って良い結果だった。
勿論、それとなく伏線は貼っていた。
私が橋本くんへ賛成に入れるように言ったのを察して、もしかしたら私の意図を汲み取ってくれるのではないかという可能性。その僅かな望みに期待していたことも認めましょう。ですが、その可能性は限りなくゼロだと思っていました。
「賛成で満場一致になったので次に個人の特定に移行する。個人の特定は1度だけ認められた候補者かタブレットに表示される生徒の名前を選んで推薦票を投じることで行う。ただし立候補が不在、もしくはインターバル終了時に推薦が過半数を超えていない場合には事前の説明通りランダムで選出が行われ投票となる」
そう言って、二度目のインターバルとなった。
当然のように、橋本くんは疑問の声を上げる。
「ど、どういうことだ? お姫さんが賛成に纏めるように俺に隠れて指示を出したんじゃないのか!?」
「いえ、そんな指示はしていませんが……」
「じゃ、じゃあなんで一回目は反対で固まってたクラスの票がいきなり全部賛成に回るんだよ!?」
顔には出さないが、この結果は私にとっても想定外というのが本音だった。
確かに、心の中では賛成票が一致してくれれば助かると思ってはいたが、そんな内心を読み取って動いてくれるような人がいると誰が思おうか。
「私が坂柳有栖の指示で賛成票に入れるようにとクラス全体に指示を出しました」
何でもない顔でそう素直に手を上げたのは、予想外にも森下さんその人だった。
成程、確かに森下さんならば、この行動も納得できる。橋本くんを一番警戒していたのは彼女だからだ。
「な、なんでそんなことしたんだ! お姫さんからは何も指示はなかったはずだろ!?」
「話を聞いている感じ、坂柳有栖は迷っていました。常識なら迷う必要のない場面です。なら、誰かを切る方向に話が行くと予想し、手っ取り早く進めた方がいいと判断しました」
確かに、私は自分が考える間、クラスメイトたちにも自由に過ごしていいと言ったし、投票も適当でいいと言った――けれど、森下さんが私の内心を理解し、内密にクラスを動かしてくれるとは思わなかった。
それはきっと橋本くんも同様でしょう。彼は、私の行動に意識を向けていた。だからこそ、森下さんの動きにも全く気付けなかったのだ。
それに、今までのこのクラスであれば、私の指示なしにここまで勝手に動くことはなかった。それが私のためであったとしても、絶対にそんなことはしなかったでしょう。
私はそうやってクラスを支配していたからだ。
クラスメイトには駒としての役割以外を求めなかった。だからこそ、こうして自分以外の意思が絡んで状況が動くのは、私がこのクラスを支配してからは初めてと言って良い。
森下さんだって、去年までなら決してそんな動きを見せようとはしなかった。それこそ、私のことを信じて黙って様子を見ていたはずだ――それが、このような勝手な行動をした。
不思議な感覚だ。
かつての私ならば、自分の支配が崩れたことを怒っていただけだったでしょう。
ですが、今ならわかる。彼女たちは決して私を裏切った訳ではない。ただ、私の意を酌み、私の代わりに動こうとしてくれただけ。
それは、これまでのように支配だけでは決して辿り着けない結果――意外と悪い気分ではない。が、少し不安も感じる。果たして私に変化したこのクラスを導けるのかどうか。いえ導かないといけない。
――綾小路君に勝つためにも、私はこの新しいAクラスと共に歩む道を選ぶ。
「く、くそ、こうなったら誰かを退学にするしかないぞ。どうするお姫さん?」
「そうですね……では、退学になって貰うとしましょう。橋本くん、今までご苦労様でした」
「……やっぱり、俺を切るのか」
「薄々勘付いてはいたのでしょう?」
「ああ、でもまだ俺は明確に裏切ってない。あんたの性格なら事が起きるまでは静観してくれると思ってたんだが……」
「そうですね。実際、ついさっきまでは橋本くんを切ろうとは考えていませんでした」
それは橋本くん自身もわかっていたはずだ。実際に私が切ろうと動き出せばすぐに対応できるように、彼はずっと私のことを警戒していた。
「……まさか、森下に足を掬われるとはな」
「私はあなたがそこまで露骨に裏切り行為をするとは思っていませんでしたが、彼女は日ごろからあなたは危険だと訴えていました。そして、話をしていく内に、私と彼女の意識の違いに気づいたんですよ」
「意識の違い?」
「ハッキリ言えば、私はあなたが裏切ろうとどうでもいい。他クラスと接触して便宜を図ろうと、移籍を目論もうと、多少の火遊びだと思って見過ごすことを選んだでしょう……これまでなら」
予想外の言葉が続いたのか、橋本くんが首を傾げる。
「私は最近、クラスメイトと良く話をするようになりました。あなたともこれまで以上に話をしたはずです。ですが、今までの私は、自分以外の生徒を都合のいい駒程度にしか考えていませんでした。でも、今更ながらに彼らにも意志があり、叶えたい夢や願いがあるということを理解したんです」
森下さんや山村さんを始めとした、クラスメイトとの交流が私に新しい視点を生んだ。
「正直に言えば、これまでは私が楽しければそれでいいと、最悪はAクラスで卒業できなくても構わないと思っていました。ですが、それでは困ると言われたんですよ。私のように能力があればそれでもいいのでしょうが、全ての人間がそうであるとは限らない」
――私たちは、坂柳有栖とは違います。
そうハッキリ言われたことで、今まで右から左に受け流していた言葉を受け入れられた。だからこそ、未然に裏切りを防ぐべきだという考えに至ることが出来たのは間違いない。
「まさか、姫さんの口からそんな言葉を聞くとは思わなかった……」
「でしょうね。私自身、自分の変化に驚いている所は有ります」
「クソ……もっと姫さんを信じるべきだったか。俺が姫さんに不安を感じていたのはまさにその部分だったんだ。あんたは強い……だからこそ弱いやつの気持ちがわからない。それが唯一の欠点だと思ってた」
「否定はしません」
「俺はこのクラスに勝ちの目はないんじゃないかと思い始めていた。あんたは確かに強いけど、それだけだ。生徒の個々の能力は、入学時からそんなに変わってない。事実、去年一年を通して、俺たちのCPはたいして変化を見せていないだろ?」
確かに、去年の最初は葛城くんを追い落とすためにわざとCPを落とす動きをしていたし、私が実権を握ってからも混合合宿で上手く立ち回ったくらいで、学年末試験では綾小路くんに敗北した。どうやら、それが橋本くんの不安につながってしまったらしい。
「私の能力に不満があったと?」
「いや……言っただろう、このクラスだって。Aクラスは強いさ。入学当初から優秀な奴が集まってんだから。けどな、それは伸びしろがないってことでもある。事実、去年1年を通して、俺たちのCPはたいして変化を見せていない」
「ですが、Aクラスであることは事実です」
「結果としてAクラスなだけさ。実際、去年退学者を救って勝手に落ちて行った一之瀬や龍園はともかくとして、現Bクラスは80CPから1000近いCPを稼いで俺たちに追いつきつつある。もし、スタートラインがもっと上だったら俺たちはとっくに負けていた」
「そんなものはたられば、の話です。クラスとしての前提条件も変わってきますし、もしもを恐れすぎて現実が見えていません」
「だが、奴らに勢いがあるのは確かだ。でも、別に俺はこのクラスが憎い訳じゃない。むしろ、好きだからこそ勝つ方法を模索していた。それはあんたには再三伝えたはずだ」
確かに、ここ最近は嫌という程聞かされ続けていましたね。
「綾小路くんを引き抜けという話ですか……確かにあなたの熱弁は耳にタコが出来るくらい聞かされましたっけ」
「俺は本気だった。あいつはあんたに匹敵する頭脳を持ちながら運動能力もあって周囲への影響力も強い。手に入れられればうちに負けはなくなる。Aクラスで卒業する一番確率の高い戦略、それが姫さんと綾小路が同じクラスになることさ」
「それは龍園くんを引き抜けと言っているに等しいことですよ? あなたは私ではAクラスで卒業できないと本気で考えつつあるようですね」
「姫さんが優秀であることは認める。それでも近い将来、綾小路クラスの猛追を止めることは出来ないと俺は考えている。あんたも言っていたように、体育祭辺りでAとBの立場は逆転、その先で俺たちが抜き返すチャンスがあるかどうかは怪しいものだ」
去年の学年末試験での敗北。今年初めの筆記試験での全教科満点。そして無人島試験で仲間に1位を取らせた手腕――それらが橋本くんの中で綾小路くんという存在を彼に盲信させている。ここで切ることにしたのはやはり正解でしたね。
「なぁ、姫さん。森下の忠告は聞いて、なんで俺の忠告は聞いてくれなかったんだ。俺はこれでも俺なりに必死に働いてきた……俺の働きに何か文句でもあったのか?」
「いえ、あなたはよく働いてくれましたよ。ですが、その盲信は頂けませんね。確かに、綾小路くんの能力の高さは認めましょう。ですが、それもやり方次第で封じるのも難しくありません。あなたは他クラスを脅威に思うあまりに足元を疎かにし過ぎました」
「認められないのか? 俺の考えは合ってると思うんだけどな」
「認める認めない以前の話ですよ。敵に恐れを成して自クラスを売ろうとする人物の話を信じようと誰が思いますか? あなたの言っていることは妄言に等しい」
何よりも腹立たしいのは、この男は綾小路くんのことを何も知らない癖に知ったような口を聞くことだ。彼の実力を誰よりも知っているのは私であり、私が戦えると判断しているのを彼は自分の身可愛さに信じない。
他人の想像する幻影以下と言われて、それを認める人間などどこにも居はしなかった。
「あなたは自分で自分の敵を大きくし過ぎて、恐れのあまり自クラスを信じられなくなっている。随分と綾小路くんに入れ込んだようですが、自分が盲信的な発言しかしていないことにお気づきですか?」
「うぐ……」
「それに、そんなに綾小路くんを盲信しているなら、私のクラスに彼を引き抜くのではなく、あなたが彼のいるBクラスに移動すればいいだけの話です」
「ク、クラス移動には2000万PPかかる……そんな簡単には……」
「では、どうやって綾小路くんを引き抜こうとしていたんですか? あなたの話は前提から破綻しています。それに、仮に2000万を用意してクラス移動が出来たとしても、あなたは決してクラス移動などしなかったでしょう」
「……どうしてだ?」
「あなたの本心など透けています。将来的には不透明でも、今はAの座にいるこのクラスを捨てたくはない。でも綾小路くんは怖い。クラス移動をしたいけれど、Bクラスに行った後の保証はどこにもない。だから綾小路くんを引き抜くように私に頼んだ」
しかし、受け入れられなかったからこそ、裏切りの準備を始めていた。この先の体育祭や文化祭の結果次第で、きっと橋本くんは動きを見せていたでしょう。
「もういいでしょう。これ以上は話の無駄です。もし、クラスの皆さんの中に、他に有力な生徒がいないなら橋本くんに推薦票を入れて下さい」
当然のように推薦票は集まり、橋本くんが退学の対象となり投票が開始される。橋本くんもここまで来て抵抗する気はないようで、すっかり意気消沈してしまっていた。
第3回投票結果 賛成36票 反対0票
「橋本正義の退学に関し、賛成による満場一致で課題を終了とする。選択肢は有効となり、CPが100追加される。最後に、この退学を取り消す方法は一つだけ。現時点で2000万PPを持っていてそれを使用する場合に限るが――」
「PPは使いません」
「では終了だ。特別試験をクリアしたのはCクラスとほぼ同じ時間らしい。他のクラスはまだ特別試験の最中のため、先生の指示に従って退出するように。残りの時間は予定通り寮での自習となる。橋本に関しては、この後私と共に職員室に来て貰うために教室に残れ」
「はい……」
橋本くんを除いてクラスメイトが退出していく。私は最後まで残った。足の件もあるが、彼にお世話になったのは確かだし、最後に言いたいこともあるだろう。
「……気を使ってくれなくても結構だ。俺は動き方を間違えた。もっとあんたを信じるべきだったのかもしれないな」
「我ながら、か弱い姿をしていますからね。あなたが不安になる気持ちもわからなくはありません」
「こんな試験じゃなければな……いや、もっと積極的に反対に票を入れるように進言すべきだったか。まさか、あんな簡単に票が集まるとは予想外も良い所だ。いや、俺がクラスを見てなさ過ぎただけか……もう少し、このクラスの行く末を見て居たかったんだけどな」
ああすればよかった。こうすればよかった――そんな後悔の想いが湯水のように出てくるようで、橋本くんの独白は止まらない。
でも、最後である以上、私にはこの話をしっかり聞く義務があると思った。打算だけの関係ではあったものの、彼が一年間私に尽くしてくれたのは嘘ではない。
「……すまなかったな。でも、聞いて貰えてスッキリしたぜ。陰ながら、このクラスのことを応援してるから頑張ってくれ」
時間にしてみれば、そんなに長い時間ではなかったけれど、一通りのことを言い終えたからか、橋本くんも空元気のようなものを浮かべる余裕が出来たようだった。
そろそろ時間も時間なので、私も教室を去る。
「さようなら橋本くん。私はあなたのこと、そんなに嫌いではなかったですよ」
「俺もさ。あんたにこき使われるのは疲れるが、そんなに嫌じゃなかった」
そう言って、私も教室から外に出ていく。入れ違いになるように真嶋先生が橋本くんに声をかけた。
教室から出ると、待っていろとは言っていなかったが、山村さんと森下さんが私のことを待っている。山村さんは心配そうに、森下さんは暇そうにしていて、随分と対照的に見えた。
何となく、普通の友達というのはこういうものか――と、自問する。今まで、私は小学校、中学校と義務教育を過ごしてきた中で、友人というものを作ったことがなかった。思考レベルが低く、稚拙な存在に、どうしても歩調を合わせることが出来なかったからだ。
ですが、この学校で一年を過ごして、その心境も変化しつつある。橋本くんや鬼頭くんはただの手足、山村さんは都合のいい付き人、それ以外の何物でもないはずだったのに――今では、私の中でこの二人は、いやこの二人以外の人たちも少しずつ友人になりつつあった。
もしかすると、もう少しの時間があれば、橋本くんとも分かり合うことが出来たのかもしれませんね。なんていうのは、私らしくないことでしょうか?
実は、この満場一致試験一番の山場は、ストライキとこのAクラスの話だったりする。
当然、原作とはまるで動きが違い、橋本が退学する結果となった。原作では、橋本が生き残っているがまるで違う流れになっている。これも、坂柳の心境の変化や森下や山村との関わりが大きく変化したが故。実は、橋本が退学せずに釘を刺すだけに終わる話もあったんだけど、お蔵入りしてこちらが採用になった。