ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯059 『あまのじゃく野郎』

 高円寺が反対に回った後も、変わらない投票結果がひたすら繰り返されるだけだった。

 

 

 第6回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 第7回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 第8回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 

 既にこの課題が始まってから1時間程が過ぎている。結果が固まらない度に、茶柱は過去のトラウマを刺激されるかのように顔色が悪くなり、遂には呼吸すら荒くなって教壇から倒れそうになっていた。

 

 生徒たちからも心配の声が飛ぶが、それでもここで倒れる訳には行かないと踏ん張る様子を見せる。ぼんやりと虚ろな視線で生徒たちを見つめながら、やがて何かの決意を固めたかのように大きく息を吐いた。

 

「――本来であれば、教師が特定の選択肢に誘導することは許されてはいけない。当然、私もそのような行為はしない。しかし、一つ昔話をしても構わないだろうか? 無論、お前たちの貴重な時間を奪ってしまう……それでもかまわないのなら、だが」

「茶柱先生。教師の発言自体は禁止されていませんが、ルールに抵触するようなことがあれば、あなたもただでは済みませんよ。クラスを守るための誘導だと判断すれば――」

「はい。もし選択肢誘導への意図が見えたのなら、処分を受ける覚悟です」

 

 そこまで言われれば、監視員の教師も黙るしかない。もし、その覚悟が最初から出来ていたのなら、この試験の結果もまた違っていたかもしれないな。

 

「今、私たちはこの状況に苦しめられています。選択肢に影響を与えない範囲でいいので、先生のお話を聞かせて欲しいです」

 

 まるで、救いを求めるかのような桔梗の言葉に、茶柱は頷いて小さく口を開き始めた。

 

「……私はこの高度育成高等学校の出身だ。そして、学生時代にこの特別試験を受けたことがある」

「先生も、この満場一致試験を……?」

「そうだ。5つの課題、多少内容が異なるものも存在するが、今お前たちが直面している最後の課題は、一言一句違わず同じものだ。退学者を出してCPを得るか、仲間を守りCPを得ないか」

 

 クラスメイトたちもすっかり聞き入っているが、流石にどういう状況でどういう結果になったかまでは言えないだろう。そこまで言うと、監視員の言うルール違反に抵触する恐れがある。

 

 しかし、オレは知っていた。

 

 過去に茶柱のクラスで行われた満場一致試験は3年の3学期であり、その時Aクラスとのポイント差は73。ここでAクラスが退学者を出す選択をしていた場合、差は173CPになることから、茶柱のクラスは退学者を出す方向に意見が傾いていた。

 

 そして、とある男子生徒――原作の茶柱がいうには、洋介と池を合わせたようなクラスのリーダーが賛成で満場一致にした所で自分を退学にするように進言したのだ。洋介のように、3年間戦ってきた仲間を切り捨てることはできないと言って。

 

 しかし、その男子生徒には誤算があった。彼はこの試験の前日に茶柱佐枝という少女に告白して恋人になってしまったのだ。

 当然ながら、愛しの恋人を切り捨てられるはずもなく、茶柱は彼の退学に賛成できず、逆にそんな茶柱を守るためにその男子生徒は茶柱の退学に票を入れない――という悪循環に陥っていた。

 

 結局、満場一致試験を時間内に終わらせることが出来ず、茶柱のクラスはマイナス300CPのペナルティを受ける。そうして、Aクラスになる夢は儚く散って星之宮の恨みを買うことになったのだった。

 

「一つ確かなこと。それは悔いを残さず全てを出し切ることだ。賛成、反対、あるいは時間切れ。どの選択をお前たちが取ることになったとしても……その結果に対し後悔しない道を模索しろ。まだ時間は残されている」

 

 そんな茶柱の有難いアドバイスを受けての9回目となる投票――しかし、結果は何も変わらなかった。

 

 

 第9回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 第10回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 

 何をしても、どう声をかけても何もおきない。誰が賛成票を入れているのかもわからず、クラスには段々と重苦しい空気が生まれて沈黙が増える。

 

「満場一致とならなかったため、これよりインターバルを開始する」

 

 同じ文言を何度も繰り返す茶柱の表情にも疲労の色がにじみ出ていた。もはや、こいつに出来るのはこのクラスの行く末を見守ることだけだ。

 

「どうしてなんだ……賛成に入れている奴なんて本当に要るのか?」

「信じられないのはわかるよ幸村くん。でも、現実として1票入っている……反対に入れた人、どうか挙手をして貰えないかな?」

 

 洋介が問いかける。当然ながら、これまでも何度も問いかけているが、賛成者が応えることはない。だからこそ、賛成者を探すのではなく、反対者を数える方にシフトしたのだろう。

 

 だが、手を上げたのは高円寺を除いた全員だった。まぁ、高円寺が手を上げていないのは上げるのが面倒というだけのことで、実際には雪や鈴音との契約により賛成から票を移している。

 

「手は上げないが、私は反対に投じているので心配は無用だよ」

「信じて良いのかよ高円寺。実はやっぱりお前が賛成に入れてるんじゃ……」

「もう何度目だい? その議論は……レッドヘアーくん、君も飽きないねぇ。私にはもう賛成に入れるメリットがないのだから、賛成するだけ損だというのはわかっているはずだろう?」

 

 誰が賛成に入れているかわからないからこそ、須藤も高円寺を疑うしか出来ないのだろう。その高円寺は、おそらく賛成に入れているのが誰か、直感的には理解しているような感じがするが、わざわざ口にするつもりはないようでのらりくらりしている。

 

「今、手を上げてくれた人の中に嘘を付いている人がいるなんて私は思いたくない。けど、このままじゃ何も進まないと思うの。今から私がもう一度、今度は一人ずつ目を見て直接問いかけていくから、もし賛成に投じている人が居たら次の投票で反対に入れて欲しい」

 

 そう言って、桔梗が時間を使って一人一人に向き合っていく。やがて、教室の一番後ろ窓側に座るオレに辿り着くと、周囲には聞こえないように桔梗は小さく言葉を紡いだ。

 

「賛成に入れてるのは、綾小路くんだよね?」

「……一応聞くが、なんでそう思った?」

「他のみんなは何となく嘘かどうかわかるもん。でも、高円寺くんと綾小路くんだけはわからない……で、その中の高円寺くんがこっち側な以上、もう当ては綾小路くんしかないって訳」

「根拠が微妙だが、まぁ正解にしておいてやる」

「なんでこんな無駄なことしてるの? 反対で票を纏めれば終わる話じゃないの?」

「クラスメイトにとって、今のオレの行動は全くの無意味にしか見えないだろうし、実際に無意味なことをしている」

「どういうこと?」

「さてな。少なくとも、オレはギリギリまで票を変えるつもりはない。お前も、オレが犯人だと名指しはせずに、これまで通り犯人を捜せ」

「……りょうかーい」

 

 理解出来ないという表情を浮かべながらも、振り返った時にはすぐに表情を元に戻していく。相変わらず器用な女だった。

 

 しかし、まさか桔梗に気付かれるとは――最初はオレも、高円寺の説得と同時にこの試験を終わりにしようとしていた。

 だが、一度目の投票を終え、茶柱の顔を見た時に、こいつが過去に出来なかった正解の動きを実際に見せてやろうと思ったのだ。

 

 いわば、当て付けである。

 

 とはいえ、この世界では脅される前に茶柱を奴隷にしているので、別に恨みがある訳ではない。

 ただ原作と違い、桔梗イベントもなく、このまま素直にこの試験を終えるのは何か面白くなかったのだ。むしろ、このイベントを使って茶柱のテコ入れをした方が楽しいまである。

 

 何より、ここ最近、茶柱は星之宮にしてやられてばかりで、夜のバトルもマンネリ化しつつあった。

 

 だからこそ、ここで茶柱に過去を乗り越えさせてもう少し状況を面白くしたいと思ったのだ。

 このまま何もなく終わっては、もしかしたら茶柱は原作と違って改心せずに過去に埋もれたままかもしれない。それはそれで別にいいのだが、このままずっと星之宮にしてやられるだけの茶柱を見て居るのもつまらなかった。

 

 

 第11回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 

「あぁもう! 頭がおかしくなりそうだぜ! わけわかんねー!!」

「ね、ねぇ! でも、本当にどうするの? 残り時間も随分減ってきたよね?」

 

 

 第12回投票結果 賛成2票 反対39票

 

 

 遂に痺れを切らしたようで、誰かが賛成に移り出してきた。こうなってくると自ずと、自分は退学にならないと思っている生徒から賛成に移動し始める。

 

「な、なぁ、賛成に投じるしかないんじゃないか?」

「何言ってんのよ。そんなことしたら、誰かが退学にならなきゃいけなくなるのよ?」

「でもさ……時間切れになったら全員終わりだぜ?」

 

 

 第13回投票結果 賛成5票 反対36票

 

 

 また3票が追加で賛成に移った。結局、一度決壊したらもう止まらない。票は少しずつ、賛成へと移っていく。

 

 

 第14回投票結果 賛成11票 反対30票

 

 

 遂には1/4が賛成を超えた。そして、今の段階で、残る制限時間は約1時間半――もう終わりが見えつつある現状に、危機感ばかりが募っていく。

 

「ま、待ってほしい。ここで賛成に傾いて本当にいいと思っているなら間違いだ! 時間切れを避けなければいけないのはわかる。でも、だからって賛成で満場一致にしてもそれで解決する訳じゃないんだよ!?」

「そうだよ。この先、個人を対象にした41人から満場一致にしないといけないし……それは反対で満場一致にするよりも難しいことだよ!」

 

 洋介と桔梗がクラスメイトに呼びかける。

 

 実際、ここは分岐点――ここで流されてしまうと原作通りになり、茶柱たちが突入したバッドエンド一直線になってしまう。

 

 

 第15回投票結果 賛成19票 反対22票

 

 

 遂には賛成と反対が五分になる事態となった。ここまで来ると、もう桔梗や洋介の影響力をもってしても抑えきるのは難しいだろう。

 しかし、ここで洋介が最後のチャンスが欲しいと言って全員で反対票に固めるように呼び掛ける。逆を言えば、このチャンスを逃せばもう反対で満場一致にするのは無理――そう判断されることは間違いなかった。

 

 

 第16回投票結果 賛成1票 反対40票

 

 

 とはいえ、オレが賛成票に入れている限り票が動くことはない。桔梗が不安そうな顔でこちらを見る――それを見て、薄々雪もオレが犯人だと気付いたらしい。

 

「こうなった以上、誰かを退学させる他ないわ」

 

 鈴音はまだオレが犯人だと気付いていないようで、この結果を見て渋々賛成票に移ると口にする。

 クラスを率いるリーダー格の一人である鈴音が屈したことで、もうクラスの全員が賛成に投じる流れとなった。

 

 

 第17回投票結果 賛成40票 反対1票

 

 

 だが、ここで賛成に入れてはここまで頑張ってきた意味がなくなる。当然のように、全員の票が賛成に移ったタイミングで、オレは反対に票を投じた。とんだあまのじゃく野郎である。

 

「なっ、誰が……!?」

「オレだ」

 

 桔梗が信じられないという表情を浮かべて驚く。それはそうだろう、何せ今さっきまで頑なに賛成票を入れていた男が、全員が賛成に移るというタイミングで反対に移ったのだ。

 

 まさに何をしたいのだという話であり、事情を知らずに驚きの声を上げていた鈴音も、オレが反対に票を投じたと聞いて疑問の様子を隠せずにいる。

 

「なんで……?」

「なんで? それはオレが聞きたい。なんでお前たちは賛成の1票に屈して誰かを退学にしようと考えた?」

「それは、だって、このまま反対に投じても時間切れになっちゃうし……」

「賛成に回る以外に硬直した状況からは脱却できないわ」

「それに賛成に一致させれば、離反者を退学に出来るし」

 

 桔梗、鈴音、雪がそれぞれの思惑を口にしていく。実際に言っていることは正しいし、何も間違ってはいない。原作のオレも似たような理由で賛成に票を集めたしな。

 

「仮に賛成で票を一致させたところで、離反者をどうやって見つける? もう一時間半しかないんだ。誰も当てがない今、適当に犯人を仕立て上げるつもりか?」

「それは、そう、だけど……」

 

 ずっと賛成に入れていたお前が言うな――そんな恨みがましい視線を桔梗から向けられる。すまんな、これも全て茶柱が悪い。

 

「そもそも、お前たちは本質を間違えている」

「本質……?」

「ここで注意すべきは、この賛成に投じた1票は勝利を望んでいるということだ」

「勝利を?」

「そうだ。今、オレたちは退学者を出す出さないではなく、CPを増やすかどうかで争っている。退学者が出るのはその副産物であり、本質はCPにある」

「そう、だね。CPが欲しいから、退学者を出してでも上のクラスを目指したいって意思表示してるんだもんね」

「けれど、誰も声を上げないのであれば説得すらできないわ」

「説得の必要なんてない。オレたちはこのまま待つだけでいいんだ。オレたちはあくまで勝つための意見で割れている。票が纏まらなければ、やがて時間切れによる敗北は避けられない。だが、もし時間切れになったらどうなる?」

「マイナス300CPになるね」

「そうだ。口では抵抗していても、このまま残り時間が僅かになり、最後の投票になったらどうする? 勝ちたいと願っているからこそ、マイナスになるのは避けたいはずだ。賛成にするのがもう無理だとわかれば、最低でも50CPを得る方向に移らざるを得ない――待てば勝てたんだ。なのに、お前らは現状からの脱却という誘惑に抗いきれなかった」

 

 この試験の一番嫌らしい部分――これに逆らえずに終わると、過去の茶柱のようになる。

 

 実際、これは全員に聞かせているようで、茶柱に聞かせている話だった。茶柱もそれを理解しているようで、もし自分たちがあの時この言葉を聞いていたら――と、想像したのか、何とも言えない表情を浮かべている。

 

 事実、茶柱のクラスはこの方法を見抜ければAクラスに行けたかもしれない。そもそもの問題は、茶柱たちが賛成で満場一致にして逃げ場を完全に失ったことにある。

 仮に茶柱が彼氏を切り捨てられていたとして、そいつはクラスのリーダー的ポジションだったらしいし、リーダーを欠いて勝てるほど特別試験は甘くない。最後の学年末試験で勝てる確率はかなり低かっただろう。

 

 結局は今のように賛成の誘惑を断ち切り、断固反対の意見を貫くしかなかったのだ。

 

「楽な誘惑に流されるな。誰も失いたくないと願うなら戦え。そんな意志の弱さでは、Aクラスなんて夢のまた夢だぞ」

 

 ――その言葉を聞いた瞬間、茶柱の目から涙が零れた。あの時、こうしていれば、そんなことを思い出しながら、今更意味のないことだと自嘲するかのように。

 

 結局、どうやっても過去には戻れないのだ。

 

 だが、今現在こうして戦っているクラスメイトにオレの声は届いたようで、全員が前を向いている。事情を知っている雪と桔梗や、クラスに興味のない高円寺だけは微妙な表情を浮かべていたが、もう賛成に固執する必要もないだろう。

 

 

 第18回投票結果 賛成0票 反対41票

 

 

「……反対で満場一致になったため、課題の内容は否決とする。これで特別試験は終了だ」

 

 長々と賛成に入れ続けて茶柱のトラウマを刺激し続けた甲斐はあったようで、涙をぬぐいながら茶柱は嬉しそうに特別試験の終了を宣言する。

 目元は腫れ、とても人様に見せられるような顔ではないが、その表情は今まで誰も見たことがないくらいに晴れやかで本当に美しく見えるものだった。まさに憑き物が取れたというのが正しく、その表情に監視員の教師も思わず見惚れてしまっている。

 

「他3クラスは既に特別試験を終えているようだが、お前たちも今日はすぐに帰宅して貰う。以上だ、全員席を立って指示に従って退室しろ」

 

 原作では、愛里を犠牲にして最悪の後味を受ける満場一致試験だが、事前にその芽を摘んでいたおかげで、特に大きな問題も起きずに終わっている。

 もし、愛里が雫の姿を受け入れて、学校に在籍し続けたらどうなるか――それは、以後のオレたちの生きる毎日を見て、確認して貰えばいいだろう。

 

 だが、マイナスがない訳ではなかった。

 

 原作でOAAの数値が一番低い愛里を切り捨てたことで、クラスが大きく成長したのは事実だ。

 それはクラスでの結束的な意味もあれば、OAAの数値的な意味もある。特に成績下位者は切り捨てられるかもしれないという強迫観念がない分、原作よりも学力の伸びは悪くなるだろう。

 

 そういう意味だと、この満場一致試験で退学者を出さなかったのは、原作よりもマイナスの要素が大きかったのかもしれない。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 約5時間かかった満場一致試験も終わり、程なくしてその結果も耳に届き始めた。

 Aクラスは橋本を退学にし、Cクラスは俺の指示通り2000万PPを使って退学者を出さずにCPを集めている。

 これで暫定だが、Aクラスが1218CP、うちが906CP、Cクラスが719CP、Dクラスが450CPとなり、再びAクラスが独走する事態となった。

 

 しかし、坂柳が今の段階で橋本を切る判断をしたのは予想外の出来事と言って良い。

 あいつは爆弾を抱えて笑っているタイプなので、原作通り実際に被害が出るまで橋本を泳がせると思っていたのだが、豪華客船で話を聞いたように山村や森下との友人付き合いで意識が変わったのかもしれないな。

 

 他に驚いたのは、坂柳のクラスが半年間CPを半分にする代わりに坂柳にプロテクトポイントをつけたことと、龍園のクラスが学年末試験でうちのクラスを指定してきたことか。

 

 正直、坂柳のクラス以外はプロテクトポイントなどいらないという結果だったが、よく考えれば坂柳は原作と違って、学年末試験でオレに負けてプロテクトポイントを奪われている。

 今回の件で価値は下がったものの、他のクラスのリーダー格が持っていて自分が持っていないという状況では、自爆戦術にも対応できなくなるし背に腹は代えられないという判断で付与したのだろう。

 

 だが、龍園がうちのクラスを学年末試験の相手に指定してきたのは、何故だかわからなかった。

 原作では龍園は坂柳との直接対決をしていたが、この世界では戦うキッカケがないのでその戦い自体が成立しない。とはいえ、龍園の性格を考えれば倒した時のメリットの多さからAクラスを指定するものだと思っていたというのが本音だ。

 

 しかし、うちのクラスが龍園クラスを対戦相手に指定したことで、BクラスとDクラスの直接対決が決まり、必然的にAクラスとCクラスの対戦カードが決定することとなっている。

 正直、帆波のクラスは坂柳のクラスにぶつけたかったので、これは有難い結果とも言えた。唯一、オレと戦えなくなった坂柳は不服だろうが、いずれその渇きも癒してやるつもりだ。

 

「お待たせして申し訳ありません。後処理に手間取りました」

「いや、いい」

 

 と、今回の試験結果を振り返っていると、こちらの姿を確認した茶柱が走るようにやってきた。

 普通、生徒を待たせても教師は焦らないが、オレと茶柱の関係性の場合、奴隷がご主人様を待たせているということになるため茶柱も焦ったのだろう。

 

 現在、放課後。オレは原作通りに茶柱からの呼び出しを受けていた。話の内容も何となくわかっているので無視しても良かったのだが、オレの今回の試験で行った無意味な行動がこいつにどんな影響を与えたかを確認するためにも呼び出しに応じている。

 

 とはいえ、いくら教師と生徒という間柄ではあっても誰かに見られるのは望ましくないので、そのまま屋上まで移動することにした。

 

「長い一日だった……本当に」

 

 外の空気を吸いながら手すりにもたれかかると、茶柱が心からそう声を吐き出す。

 

「試験中にも軽く触れたと思いますが、私も高校3年生の時、同じ試験を受けました」

「知っている。星之宮から全て聞いた」

「……やはり、ご存知でしたか。と、いうことは、今回の満場一致試験で最後まで賛成票を入れていたのはご主人様なのですか?」

「そうだ。オレがお前の過去の状況を再現して、どうやれば傷を浅くして問題を解決できたかの答えを示した」

 

 茶柱のクラスは、賛成で票が集まるとなった時にオレのように止める生徒が居らず、場の状況に流されて賛成で満場一致にしてしまったことが全ての失敗の始まりだった。

 もし、あの時、オレのように耐えることを訴えてごり押しできていれば、173CPという差は出来ていても、クラス一丸となって最終試験に臨むことができ、もしかしたらAクラスという栄光を手に出来ていたかもしれない。

 

 少なくとも、クラスメイトを切り捨てる判断をした段階で、クラスの内情はボロボロになるのは想像に容易かった。実際、原作でも堀北クラスは愛里を失い、桔梗が暴走してクラス間はしばらくボロボロだったのだ。

 これが3年の3学期で、もうすぐ最後の特別試験が始まるという状況だったら目も当てられないことになっていたのは間違いないだろう。当時の茶柱クラスも、仮にCP100が稼げてもクラスが一丸になれていなければ、最終試験での勝利もまず有り得ない。

 

 そういう意味でも、やはり原作でもオレが示した通り、反対で満場一致にするのが唯一残された救いの道だった。

 

「そういえば、聞きたいことがあった。お前のクラスは失敗こそしたが、その恋人は退学せずに済んだんだろう? 今はどうなっている?」

「わかりません……満場一致試験が終わった時に私たちの関係も自然と終わりました。その後、彼とは一度も会っていませんし、今何をしているかも知りません……」

 

 まさに1日彼女って感じか。

 

 まぁ、おかげでこの年まで処女を守り抜いていた茶柱を美味しく頂けたのだからオレとしては何も文句はないけどな。

 

「……私のために、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「別に謝られることはない。実質的な褒美は星之宮にやったんだ。お前にやれたのは過去を清算する機会くらいで、他には特別変わったことはしていない」

「………………」

「なんだ?」

「いや、もしあの時、ご主人様のような生徒がいてくれたら……と」

「そんな生徒が居たら、お前を彼氏から寝取っていたかもな」

「……確かに、それはそれで問題ですね。それに、そんな考えに意味などない。過去に戻ることはどうやってもできないのだから」

 

 改めて目を閉じると、スッキリした表情で茶柱がこちらに振り返る。そして、深々と頭を下げてきた。

 

「今日は時間を割いて頂き、ありがとうございました。私は過去の選択を悔い、随分と長い間立ち止まってしまっていました。ですが、そんな暇などないというのがわかりました。自分の担当するクラスの生徒が悔いなく戦い続けられるように教師として導く、その役目を全うします」

 

 時間を割いた――と、いうのは、今こうして呼び出した他に、特別試験中にかけた時間のことも差しているのだろう。

 少なくとも、この様子を見る限り茶柱が自分自身に決着をつけたのは間違いなさそうだった。オレも、下手な芝居をしてクラスを混乱させた甲斐はあったらしい。

 

「今までも、私はAクラスを夢見たことがない訳じゃありません。考えないようにしても、つい希望を抱いてしまう。私の叶えられなかった夢を、叶えられるかもしれない――と」

「で、これまでは所詮、夢は夢だと現実から逃げていた訳だ」

「ですが、もう逃げません。私は今のクラスを絶対にAクラスにすると心に決めました」

「気合を入れるのはいいが、星之宮に勝てるのか? オレはお前か星之宮、評価した方のクラスに優先してCPを与えるのをやめるつもりはないぞ」

「わかっています。ご主人様のお力無しでも頑張るつもりです――と、言いたい所ですが、この一年、あなたの力を間近で見て来て、それが如何に無謀かはわかりきっています」

「では、どうする?」

「勝ちます、チエに。今は無理でも、必ず私の方がいいとあなたに選んで貰えるように努力を重ねる。その覚悟が出来ました。今までのように状況に流されるだけの生き方は、もうおしまいにします」

 

 そう言って、茶柱が不敵な笑みを浮かべる。

 

「技術ではまず勝てない。私に出来るのは、この体を生かしてご主人様に喜んで頂くことだけです。そのために、恥は全て捨て、やれることは全てします。つきましては今日の夜、お時間を頂けると嬉しいのですが?」

「いいだろう。お前の変化を見せてみろ」

 

 思えば、茶柱を最後に食べたのは豪華客船の最後の一夜だったが、結局は星之宮が乱入してきて言い様にやられてしまっていた。

 

 茶柱の言う覚悟がどんなものか――と、思っていると、自腹を切って買ってきたと思われるバニースーツやナース服、巫女服、メイド服、スクール水着等、これまでは頑なに手を出してこなかったコスプレ衣装を持ってやってきている。

 

 文化祭前にメイド服を着せることになってしまったが、まぁここで着るのに慣れれば文化祭でも嫌がるようなことはないだろう。

 

 むしろ、これらの服を店で買う茶柱の姿を見たかったと思いつつ、恥ずかしそうにコスプレしていく茶柱――いや、佐枝を楽しんでいく。

 実際、技術で星之宮に勝てない以上、今の佐枝に出来るのはこういうシチュエーションでオレを興奮させるくらいのモノだろう。考えは間違っておらず、普段とのギャップもあって、Tレックスが久しぶりに佐枝に満足したと喜びの声を上げていた。

 

 

 




 原作との変化点。

・清隆くんのマッチポンプ教室が開催されていた。
 この無駄なやり取りも全ては茶柱に現実を見せるため。結果として、茶柱も過去を振り切って前を向き始めた。感想欄だと意外とすぐにバレてて草だった。

・坂柳がプロテクトポイントを獲得した。
 自爆戦術を受けた時に、プロテクトポイントなしだときつすぎるので苦渋の決断をした。

・龍園が学年末試験の相手として、Bクラスを指定してきた。
 去年の冬に清隆に負けなかったことで、清隆に挑む気持ちが強く残っている。その条件として、坂柳と帆波のクラスに勝つことを提示されているが、帆波のクラスには1年の学年末試験で勝っているため、2年の学年末試験までに坂柳を倒して挑戦権を得るつもりでいる。そのため、坂柳ではなく清隆を相手に指定した。


 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 犯人。そのまま終わらせるのはつまらなかったので少し遊んだ。

・椿雪
 途中で清隆が犯人かもと思ったが、一応指示通りに自分の思う通りにしている。が、お説教を受けて少しシュンとしてしまった。

・堀北鈴音
 原作と違ってクラスのリーダーではないこともあり、クラスメイトを切ることに迷いが少なかった。リーダーとしてクラスに関わっていないことで、クラスメイトとの関係性が薄いという点が強く出た形。

・櫛田桔梗
 地味にクラスメイトの顔色を見るだけで、そいつが嘘を点いているかどうかを見抜いた。原作以上に、他人の顔色を見るのが上手くなっている。

・茶柱佐枝
 清隆に正解を見せられて、今までずっと迷っていたことへの答えを出せた。原作と同じかそれ以上にスッキリしており、綺麗な茶柱になった。星之宮を沼らせて遊んでいるので、茶柱は育てる方向にシフトチェンジ。

・平田洋介
 クラスから退学者が出なかったことにホッとしている。

・須藤健
 原作以上に成長したが、その分賛成の票をどうすればいいかわからず混乱の極致だった。まさか、清隆が犯人だとは夢にも思っていない。

・高円寺六助
 原作では愛里が退学したことで契約が無効になったが、このSSでは無事にポイントを入手出来ている。


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