SIDE:龍園翔
体育祭。ここで1位を取れれば、CPは600まで回復する。他のクラスとの差も詰められる上、月のPPにもかなり余裕が出て、この先の戦いもかなり楽になるだろう。
問題は、坂柳との約束でAクラスを3位以上にしないといけないという点だ。Aクラスは今、神室がBクラスに移動、戸塚が退学、葛城がうちのクラスに移動、橋本の蝙蝠野郎が退学して、クラスの人数が36人しかいない。
おまけに、坂柳も当日欠席で35人。
体育祭では、最初生徒一人に5点が与えられており、最低5つの競技に参加することが義務付けられている。また、5回目までは参加するだけで参加賞の1点が与えられる。つまり、何もしなくても一人最低10点は稼げる計算だ。
そのため、初期ポイントは一人10点とカウントし、Aクラスの最低得点は35人で350点。Bクラスは綾小路の欠席で400点。Cクラスも400点。うちのクラスは390点。10点や20点ならともかく、50点のマイナスをどうにかするというのはかなり難しかった。
しかし、坂柳も全て丸投げする気はないようで、面白い置き土産を残していっている。
「初めまして、龍園先輩。1年Bクラスでリーダーをしている、八神拓也と申します。今回は坂柳先輩に頼まれて、先輩と協力して上位を目指すことになりましたのでよろしくお願いします」
「お前が……話は聞いてる。無人島試験では随分と動いたみたいじゃねぇか」
1年の中で、綾小路を退学させたら2000万PPが貰える――なんて、ふざけた特別試験があったという話は坂柳経由で聞いていた。
こいつは、無人島試験では綾小路と個人的に戦っており、南雲と手を組んで自クラスだけでなく他の1年も上手く動かしていたらしい。能力が高く、綾小路と敵対しているというだけでも評価できるが、まだこんな面白い1年が爪を隠しているとは思わなかった。
「綾小路先輩にしてやられただけですよ。それに、綾小路先輩に勝つにはまず2年Bクラスの実力を知ることが肝要。僕としても、綾小路先輩抜きでこのクラスがどう動くのか興味があるんです」
「……坂柳からは何て言われてる?」
「主にスケジュール管理をしろと。自分たちが勝てるように、秒単位で周囲の状況を見極めて動けって……携帯も使えないのに、当たり前のように無理難題を押し付けるの止めて欲しいですよ」
と、笑顔で文句を言う八神だが、“出来ない”とは言わなかった。つまり、こいつはそれだけ自分に自信を持っているということだ。
しかも、今回は全面的に俺たちをアシストするつもりのようで、「問題がなければ、2年Aクラス、Dクラスも競技参加の指示は僕が出していいですか?」と、生意気なことを聞いてくる。
「俺達のOAAのデータは頭に入れているのか?」
「全ての学年の生徒のデータは記憶済です。お望みであれば……2年AクラスからDクラスまで、生徒の名前を言って頂ければこの場で全ての能力を口頭でお答えしますよ」
笑顔でそんなことを言ってのけてきやがった。先輩相手ならもう少しへりくだった態度を見せてもいいくらいだが――いや、これは相手が俺だからこそ、舐められないように力を見せているのか?
「クク……いいだろう」
普段なら他人にクラスの手綱を預けるような真似はしない。だが、ここで八神の実力を見るのも一興だった。
何しろ、あの坂柳がオレにわざわざ存在を明かしてまで採用した程の男だ。こいつも、何かを隠していると見て良い。
「今回動くのは午後から、俺は妨害に回る。各クラスの指示は八神に、基本的な指揮は葛城に預けるから何かあれば連絡しろ。また、連絡役として、各クラスから10人を動員する予定でいる。八神、お前のクラスからも10人程動ける奴を出せ」
「了解した」
「わかりました」
葛城は元Aクラスだけあって、Aクラスのメンバーの運動能力や得意不得意も正確に把握している。AとDの協力関係で指揮を執るにおいて、こいつほど使いやすい奴は居ない。
後は、八神の実力だが――午前中は様子見のようで動く様子を見せなかった。しかし、アホみたいに情報を要求してくる。各エリアの様子、それもどの競技に誰がいて、誰が上位だったか、誰が何に参加しようとしているかなどを詳しく調べさせていた。
その情報が花開いたのは午後に入ってから。午前中で各クラス半分ほどの生徒が最低限の種目を終えて応援席に向かうのを見届けると、八神は「では、始めましょうか」と小さく呟いた。
そこからは息を吐く暇もなく情報を更新して指示を出している。その指示を各クラスに伝える全体指揮の葛城が追い付けなくなりかけるほど、八神の指示は常軌を逸したものだった。
どうやら口先だけではないようで、他のクラスや他学年の動きを見ながら、俺たちや自分のクラスが最大限得点を稼げるようにリアルタイムで指示を出すつもりらしい。
全生徒の能力を網羅しているというのもハッタリではないのか、本来なら上位に入るのが難しいような生徒ですら、組み合わせを上手く利用して高順位を稼がせている。
クク、こんなのがまだ隠れていたとはな――だから、この学校は辞められねぇんだ。
◇◆
SIDE:葛城康平
最初、こんな優男が坂柳の代わりを務められるのか――と、思った俺の想像は一瞬にして砕け散った。
午前中はまだ静かで、各クラスの連絡係からの報告に「次は、誰が何に参加していたか、何位だったかも情報下さい」、「余裕があれば、誰がどんな競技に参加しようとしていたか、どういう状況だったかも情報くれると助かります」と、細かな注文をつけており、そんな情報を知った所で何の役に立つのだと誰もが首を傾げていたくらいだ。
しかし、午前中の競技が終わり、各クラスの点差が明らかになると、八神は「お釣りが出そうですね」と呟いていた。
そのお釣りというのが何か最初はわからなかったが、今ならわかる。八神は、Aクラスを最下位から脱出させて尚、上位を取らせられるだけのお釣りが出せると言っていたのだ。
指示は的確で早かった。
誰と誰が組んでこの競技に行け。今はこの競技が空いているから即席チームでも高得点が見込める。このクラスに得点を取らせたくないから同じ競技に参加しろ――言葉数こそ少ないが、指示は速くまるで上から現場が見えているかのようだった。
だが、その異常なほどのリアルタイムモニターを支えているのは、八神の指示によって駆け回る各クラスの連絡役の生徒たちだ。
最初は八神を侮っていた奴らも、的確過ぎる指示に今では進んで情報を持ってくる。
八神はそれがどんなに小さな情報でも馬鹿にはしない。むしろ、そういう細かい情報ほど待っているかのようで、どの競技にいつ参加すればいいかの答えを導き出していた。
「葛城先輩。小宮先輩、近藤先輩、西野先輩、真鍋先輩で4人競技のアルティメットに参加させてください。2年Cクラスの精鋭が参加予定なので、勝てなくても構わないので出来る限り粘って下さい。途中、靴紐や怪我を装ってでも時間を稼ぐことを考えて。相手の後の競技参加に響きます」
「あ、ああ」
「それと、2年Bクラスは、大縄跳びで得点を狙いながら裏で堀北先輩と平田先輩がペア競技に行くつもりです。堀北先輩の名前で伊吹先輩を焚きつけて山田先輩と組ませてぶつけてください。大縄跳びの方は2年Cクラスも参加するようなので放置で構いません。ここに被せるよりも、ぶつけた方がメリットが大きいです」
「わ、わかった」
「鬼頭先輩、町田先輩、清水先輩、六角先輩、福山先輩のチームを綱引きに。3年生の先輩がいますが能力的には上なので勝てるはずです。それと、矢島先輩と木下先輩のコンビを、一之瀬先輩に貼り付けてください。全部の競技にぶつけて得点を奪います。後、龍園先輩が帰ってきたら指揮交代して葛城先輩も行ってください。得点を稼ぐだけ稼ぎましょう」
下手をすると処理速度は坂柳を超えるかもしれん。あの女は情報を精査した上で自分の推測を折り込んで状況を読むが、八神はリアルタイムで情報を全て処理して指示を出している。いくら坂柳が優秀でも、これと同じ真似が出来るとは到底思えない。
最初こそ八神の様子を見ていた龍園も、「クク、後は任せるぞ」と言って出かけて行った。
あの男が、今日始めて会った後輩の能力を認めて現場を任せた――その意味は大きい。
八神拓也。俺の中の強敵として新しい名前がまた一つ刻まれたのは、この体育祭でのことだった。
◇◆
SIDE:龍園翔
坂柳もとんだ面白い土産を持ってきたもんだ。あの八神は、Aクラスを勝たせるジョーカーであると同時に、オレに体育祭で裏切るなという釘差しでもあるのだろう。
実際、八神がいなければ、俺は事故に見せかけてAクラスを最下位にするつもりだった。
この体育祭では最下位はCP-150だ。Aクラスを落とす絶好の機会を逃す手はない――が、流石にあいつの目をくぐってAクラスを事故に見せかけて最下位に持ち込むのは不可能だった。坂柳も最低限の保険はかけて来たってことか。
葛城も、「八神の能力は下手をすれば坂柳に匹敵する」と報告しており、坂柳が自分の代理を任せようと思ったのも納得できる能力を持っていた。まぁ、Aクラスを落とす作戦は失敗でも、Dクラスが1位になりさえすればとりあえず問題はない。
それに、クラスのことを気にしなくていいのであれば、後は妨害に専念するだけで良かった。
2年Aクラス、Dクラス、そして1年Bクラスに、俺が個人的に信用している下級生の駒――これらを使えば、妨害を妨害と思わせずにやつらに仕掛けられる。
勿論、そう何度もは使えない。
学校側も馬鹿じゃねぇ。何度も騒ぎを起こせば疑いの目はこちらに向く。だからこそ、少ないチャンスを確実にモノにする。そのために、俺自身が前に出られるというのはかなり大きな状況だった。
「ってぇ……! どこ見て歩いてんだよオイ!」
まずはこの体育祭で絶対に1位を取らせてはいけない2年Bクラスを抑えていく。
特に、須藤と小野寺というBクラスでも運動能力の高い二人は注意が必要だ。だからこそ、奴らの移動中、石崎がたまたまぶつかったという体でいちゃもんをつけさせる。
「はぁ? お前が勝手にぶつかってきたんだろうが、石崎」
「お前が女と話すのに夢中で、前を向いてなかったんだろうが! ってぇ……マジ最悪だぜ」
高円寺や雪という実力者を狙う策もあったが、高円寺は多分こちらの持ち駒では止められないだろうというのは、無人島試験の前半で見せたあの驚異的な結果を見れば一目瞭然。
それに、雪は腐っても生徒会長だ。下手にいちゃもんをつけても、こちらの方が不利になりかねなかった。それならば、あの二人は放置して他を狙うのが得策というものだろう。
「おい、謝れよ」
「何言ってんの? 石崎くん、下向いてて前見てなかったじゃん」
「下なんて向いてねぇし。2人がかりで言いがかりかよ。汚ぇな」
「何が汚いだよ。いちゃもんつけてんのはテメェだろうが……いこーぜ、小野寺。こんなやつに付き合うだけ損だ」
流石に、綾小路が躾けているだけあって簡単な挑発には乗らず、須藤は石崎を無視して移動しようとする。小野寺も、頷いて後に続こうとした――が。
「……痛ぇ。興奮して気付くのが遅れたけど、今ので肩を怪我したかもしれねぇ」
――それで簡単に逃がすはずがなかった。
「はぁ? またお得意の冤罪かよ!」
「須藤くん、関わらない方がいいよ。もういこっ!」
小野寺は、このまま付き合うのがまずいとわかったようで、すぐに立ち去ろうとするがもう遅い。
「クク。随分と騒がしいじゃねぇか。どうした石崎?」
「龍園さん! 話を聞いてくださいよ! こいつら、俺にちょっかい出してきて!」
「龍園……くそ、面倒なやつがきた。また、見え見えの嘘でこっちを訴える気かよ?」
「あ? なんの話だ? 俺は騒ぎを聞きつけてここに来ただけだぜ?」
「嘘つけよ。前科あるだろお前らには、忘れたとは言わせねぇぜ」
「だから、何の話だって聞いてんだよ?」
「龍園さん、実は須藤が俺にぶつかって来て……」
「あー、そういうことか。確かに、俺たちには似たような前科があるな。だがよ、前科があったとしても、今回やったかどうかは全くの無関係だ。違うか?」
「須藤くん、言い合っても無駄だよ。先生呼んでくるからちょっと待ってて――きゃっ!」
俺が来たことで焦ったのか、小野寺が早く事態を収束させようと走り出すが、そこでタイミングよく八神の駒である1年Bクラスの生徒にわざと進路を塞がせてぶつかり合わせた。
「いたた……」
当然、この生徒もオレの仕込みだ。
「ご、ごめんね。大丈夫?」
「だ、だいじょう……ッ!」
足を捻った――と、いうような演技を見せられれば、小野寺も足を止めざるを得ない。
俺達の方はわざとに見えても、まさか同じことを二連続でするはずがないという思い込みが、この1年生の演技を本物に見せる。
「おいおい、石崎だけじゃなくて1年も巻き込むのかよ。可哀想にな、この様でよく俺たちの冤罪だ何だって言えたもんだ」
「うるせぇな。今回のはたまたまぶつかっただけだろうが」
「そのたまたまで、石崎もそこの1年も怪我をしたって訴えてるんだぞ? 本当にわざとか? 他の生徒を狙った確信的犯行じゃないのか? 仮に偶然でも、謝罪の一つもあってしかるべきじゃないのか?」
「いい加減にしろよ。何が謝罪だよ、嘘つきに下げる頭なんてねぇよ!」
「なら、教師を呼ぶか? いいぜ、俺は戦っても。やるなら徹底的にやるから安心しろよ。そうだろ、石崎?」
「うす。俺が被害者っす」
「何が被害者だ。今はお前らに関わってる暇なんてねぇんだよ。小野寺! そいつ、大丈夫そうか?」
こちらとの話し合いを無視して強引にここから立ち去りたいのだろうが、自分たちが怪我をさせた生徒を放置する訳にもいかないのだろう。
だが、ここでこいつらを逃がすつもりはなかった。ギリギリまでこちらに引き付けさせる。時間を潰して、予約していた競技に参加できないくらいにな。
クク、お前らが得点欲しさに結構無理なスケジュールを組んでるのはもう把握済みなんだよ。
「歩けないみたい……どうしよう?」
「保健室に連れていくしかないか……」
「でも、もうすぐ予約してる競技が始まっちゃうよ?」
「けど、放置も出来ないだろ。おい、肩貸すから立ってくれるか?」
そう言って、しゃがみ込んだ須藤の尻を蹴ってやる。
「ッ! 何すんだテメェ!?」
「勝手に話を終わらせるんじゃねぇよ。石崎は怪我を訴えてるだろうが、何ならこっちからセンコー呼んで訴えてやってもいいんだぜ?」
「だから! お前らと遊んでる暇はねぇんだよ!?」
「それがお前の言い分でいいんだな? 全く……謝罪の言葉の一つもあればまだ許してやったが、ここまで来れば徹底抗戦しかねぇな」
須藤も小野寺も、こちらに謝罪一つしていない。自分たちが加害者だという自覚がないのだ。しかし、俺がその事実を指摘すると、小野寺は顔色を変えた。
当然、徹底抗戦となれば、教師も介入して須藤はこれ以上競技に参加できなくなる。
こちらは隙を見て石崎に多少の怪我を負わせてやれば、最終的には喧嘩両成敗くらいで終わるだろう。それで出るマイナスはBクラスの方が明らかに大きい。
「待って! ここで揉め事を大きくするのはまずいよ、須藤くん!」
小野寺も、ここで須藤を潰された場合のマイナスが大きいのがわかったようで焦ったように止めに入る。
だが、もう遅い。キッカケがどうあれ、謝らなかったお前たちが加害者側なんだということを、ここでしっかりとわからせてやる。
「お前らは言いがかりだなんだと言ってくるがな。石崎が痛みを訴えているのは事実だ。それを、嘘だ冤罪だと喚いて謝罪の一つもなし、逆に加害者が被害者面だ。こちらが文句を言って何が悪い?」
事実、ぶつかったのは石崎だが――それが本当であれ嘘であれ、石崎は痛みを訴えており、須藤と小野寺はそれを無視した。おまけに、同じことを1年にもしておいてそちらには甘い顔を見せる。これで、石崎に納得しろという方がおかしいだろう。
「ふざけんな、お前らのは嘘だろうが!」
「だから、嘘だという証拠は? お前らが勝手に嘘だって騒いでるだけだろうが」
「待って須藤くん。これ以上、言い合っても意味はないよ」
未だに謝ろうとすらしない須藤を小野寺が止めに入る。こいつは着地点が見えてるな。
「わかった。確かに、ぶつかって謝らなかったこっちも悪い。だから、謝罪で手打ちにして欲しいんだけど?」
「最初からこっちはそう言ってんだろうが。別に、金を取ろうってんじゃない。ただ、ぶつかったことを謝罪してほしいだけだ……心からな。そうだろ、石崎」
「っす。腕の痛みも少し引いてきたんで、自分はそれで十分です」
「ってことだ。悪いことをしたら謝る。子供でも習う当たり前のことだろう?」
そう煽ると、須藤は死ぬほど嫌な顔をした。俺たちに頭を下げるなど死んでも嫌なのだろう。しかし、次の競技の時間を考えると、これ以上のタイムロスは出来ない。
「……ぶつかって悪かった」
渋々という様子で、顔を上げる須藤――だが、当然これで済ませる訳がなかった。
「龍園さん……俺、なんか腑に落ちないんですけど、なんなんすかね、これ」
「そりゃ当然だ。あれだけこっちを貶しておいて、下げたくない頭を嫌々ちょっと下げて、腹の中じゃお前に唾吐きかけてんだ。すっきり謝罪を受けたって気にはならなねぇだろ。誠意が足らねぇんだよ」
「お前ら……こっちは謝っただろうが!」
「謝った? その態度でか? 自分が悪いと思っている奴の態度にはとても見えないが? おい、小野寺。お前たちの言う謝罪ってのはこんなに軽いもんなのか?」
「それは……」
「土下座でもしろってのかよ?」
「そうだよ。本気で悪いと思ってんなら、土下座の一つや二つ心からやるべきだろ。お前らの謝罪は、早くここから立ち去りたいだけの場当たり的なモノだ。そんなもので、怪我をした相手は満足すると思ってんのか? なぁ、そこのお前もそう思うだろ?」
ここで、ずっと座って様子を見て居た1年にも声をかける。当然、第三者であるこの1年からすれば、須藤や小野寺は自分に怪我をさせて、その上もう一人のケガ人を適当にあしらっている怖い奴らだ。
こちらのサクラということもあるが、須藤や小野寺を見る目線は、自ずと冷ややかなものになる。
しかし、須藤としても俺や石崎の嘘に土下座までは出来ない。結局は平行線で、時間だけが無駄に過ぎていく――馬鹿は乗せやすくて助かるぜ。
そうして、たっぷりと時間を稼ぐと、たまたま教師が通りかかったのでここいらで話を打ちきりにする。1年Bクラスの生徒も立ち上がって、この場を去っていった。
「どうした、何かあったのか?」
「先生、実は――」
「謝罪を受け入れます」
小野寺が助かったとばかりに声を上げる。が、その瞬間、石崎がそう宣言した。
「すみません、龍園さん。俺なんかのためにいろいろ言って貰いましたが、ちょっと肩をぶつけられたくらいで大人気なかったというか……さっき須藤が謝罪したことで、チャラにしてやろうと思うんです。駄目っすか?」
「いいんじゃねぇか? お前がそれで納得してるってんなら、当事者じゃない俺が口を挟むことじゃねぇ」
「はぁ、お前ら! さっきと言ってることが全然――」
「須藤くん!」
小野寺としても、これ以上事を大きくされないならそれに越したことはないのだろう。
文句を言おうとする須藤を抑えて首を横に振る。須藤も、状況は理解できるようだが、気持ちが納得できずに苛立つような表情を見せていた。
「……話を聞く限りだと、須藤が石崎にぶつかり謝罪した。そして、それを受け入れた。と、いうことでいいのか?」
「こっちはそれで問題ありません」
「……はい。問題は解決しました」
「それならいい。今年は来客もいるんだ、体育祭中のトラブルは避けるように。いいな?」
教師の言葉に頷く形で、石崎と共にこの場を去っていく。これで、須藤たちは事前予約していた競技に不参加になり、-2点となった。
精神的にも揺さぶりをかけられ、完全に冷静になるにはかなりの時間がかかるはずだ。
後は、適当な生徒をぶつけさせて競技の時間をわざと引き延ばして遅延させてやる。それで、予定しているだろう高得点の競技への参加も邪魔できるし、まだまだ妨害はこれからだ。
他にも、平田のような運動能力の高い生徒にも似たようないちゃもんをつけて妨害していく。後になれば、それもわざとだとわかるだろうが、今の段階では1年Bクラスが協力して妨害しているとは奴らも気づかない。
鈴音に関しては、伊吹が勝負を仕掛けると言っていたので、それである程度の妨害にはなるだろう。俺の見立てでは、鈴音と伊吹の能力はほぼ五分。鈴音の1位を妨害できれば、それだけで得点は大きく下がる。
実際、Bクラスは須藤を始め、平田や三宅といった運動能力の高い連中の試合をわざと制限時間ギリギリまで引き延ばしたり、いちゃもんを付けて妨害したりと、やりたい放題やってやったが、奴らは何も対応が出来ていなかった。
やつらはルールに、事前に予約していた競技に参加できない場合は-2点という項目から、妨害有りという裏ルールを察知できていなかったらしい。
だが、Cクラスに関しては、どうやら一之瀬が他学年の手を借りているようで、こちらが妨害しようとすると他者の目という邪魔が多く入って上手く成果が出せなかった。
あの殺し屋のような面をしている鬼頭が接触できずに終わっている辺り、どうも一之瀬の方は事前にこっちの動きを読んでいた節がある。
とはいえ、CクラスとDクラスという対決ならば、八神やAクラスの協力があるうちの方が有利――ということで、一之瀬のクラスは遅延作戦で団体競技への参加を妨害する方向性で仕掛けることにした。
しかし、このほんの1時間の妨害によって、各クラスの順位は大きく変動している。
やはり、須藤や平田のような実力者を抑えたのが大きく響いているのだろう。鈴音や桔梗も事態に気付いたようだが、もはやこの状況を立て直すのは不可能だ。
ここからは実力者をぶつける形で、鈴音や一之瀬のクラスを妨害してやる。その間に、こちらは八神に点数を稼がせて料理する――これが今回のプランだった。
だが、仮にBクラスがこちらの策に気付いていたとしても、一之瀬のような対策が出来なければ防ぎようがない。
何せ、仮に集団でBクラスの面々を囲んでいたとしても、「たまたま話をしていた」と2年Aクラス、Dクラス、1年Bクラスの面々で証言すれば、教師としてもそれを嘘とは言えない。もし、綾小路がいたとしても、2年Bクラス単体ではどうしようもないはずだ。
結果として、この妨害が功を奏したようで、最終的にAクラスとBクラスは同率の3位となっている。
これだけの妨害をしてそれでも同率というのは、やはり高円寺と雪が高得点を取ったというのもそうだが、Aクラスの-50スタートがハンデとしてかなり大きすぎたらしい。
いや、わざとか?
15時前の段階ではAクラスもBクラスも一進一退という状況ではあった。八神くらいの能力があれば得点を合わせるのは不可能ではない。
いや、流石に考えすぎか。そんなことをしても八神にメリットがない。聞けば、今回八神はAクラスを上の順位にすればするだけ報酬が上がるとも言っていた。わざわざ同率3位を狙って、4位になるかもしれない危険を冒す意味がない。
しかし、同率とはいえ、坂柳の約束通りに3位以上には入ったし、うちのクラスも何とか1位をキープしている。結果としては最上と言って良かった
八神としても、この体育祭の結果で欲しかった情報とやらが手に入り、おまけに自クラスも上位入賞出来たようで、「ありがとうございました。また、何かの機会があれば」と頭を下げて立ち去っている。
今回は味方だったが、これだけの能力を持っている男を敵に回すのはかなり面倒だ。直接的な戦いがないのであれば、今後八神とは敵対しない方が利が大きい。
おそらく、坂柳もそう考えているはずだ。
当の八神本人も、今は綾小路をターゲットにしているようだし、触らぬ神に祟りなし――ではないが、向こうから敵対しない限り、こちらから手を出すのは止めにした方が良さそうだった。
龍園視点からの体育祭の流れ&妨害の動き。葛城視点での八神についてでした。
原作ではそもそも他学年との接触は須藤と宝泉が戦うくらいしかないけど、うちのSSでは坂柳を通して龍園が八神と組んでいる形。八神の実力の一端を見て、龍園も舌を巻いている。原作では八神が小宮たちを怪我させたのもあって組むことなどまず有り得ないけど、状況や関係性が変化しているからこその共闘。