体育祭はBクラスの大敗で終わった。オレがいないことで、後手に回るであろうことは予測していたが、まさかここまで手も足も出ないとは流石に予想外と言って良い。
前にも、今のうちのクラスは原作の堀北クラスよりも弱いと評したことがあったが、弱いなんてレベルではなかった。八神を相手に負けるのは仕方ないにしろ、龍園の妨害にひたすら翻弄され続けるというのは、下手をすると原作1年時レベルかもしれない。
今まではオレが女子を食べるために実力を示していたから、結果的にCPも稼げてクラスの地位も上がっていたが、オレ抜きの実力は冗談抜きで原作Dクラス相当と言って良かった。
正直な所、もう少し戦えると思っていただけに、このままオレがこのクラスから離れてしまって大丈夫か少し不安がある。
とはいえ、獅子は我が子を千尋の谷に落とすともいう。あまりオレが手を出し過ぎるのは、クラスの成長という意味ではマイナスだろうし、ここは甘さを捨て文化祭後には帆波クラスへクラス移動することを決めた。
だが、流石にこの体育祭の結果から、桔梗や鈴音もオレがいない場合のクラスの脆さを改めて理解したようで、桔梗は少し鈴音に譲歩するようになり鈴音も少しずつではあるがなるべくクラスメイトと関わろうとする姿を見せていた。
原作では満場一致試験で、クラスメイトにも自分の本性がバレたことで鈴音との関係も前進していた桔梗だが、この世界ではまだ上手く本性を隠せていることもあって、今までの桔梗は鈴音を自分の下と位置することで自分の気持ちを律している。
鈴音もまた、自分が嫌われていることを理解しているからこそ、桔梗の領分を犯さないように常にアシストレベルの動きに留めていた節があるが、今回はその結果全てが後手に回ってクラスは敗北――二人とも、それぞれ思うことがあったのだろう。
桔梗としても、決して鈴音を受け入れた訳ではないが、クラスが上に行くためにも鈴音をもっと利用して前に進む考えを見せ――鈴音としても、桔梗を立てるのは変わらず、今まで任せっきりだったクラスメイトとの関わり合いを深めて、もう少し自分の力をクラスに浸透させられるようにしたいと考えたようだ。
こうして思うと、原作の1年生編等でクラスに敗北を経験させていたのはこのためだったのかもしれない。
勝つよりも、負けて学ぶことの方が多い――まぁ、オレとしては負けたことがないので今までこの考え方には懐疑的な部分も多かったのだが、実際に変わろうとしている二人を見て居ると、やはり格言には格言成り得る理由があるのだと納得は出来た。
――そうして現状を理解した上で、改めて体育祭で何が起きたかを再確認していく。
開幕は好調だったらしい。いや、むしろ開幕は調子よくさせられていたようにも見える。
須藤を始めとした運動能力が高い組も実力を遺憾なく発揮して得点を稼いでおり、自分たちは調子が良いのだと思わされていた。事実、調子自体は良かったのだろう。
そのまま行けば、原作のようにしっかりと1位を取れていたかもしれないが、この世界では坂柳と龍園が敵に回っている。当然、そのままで済ませてくれるはずがなかった。
動きがあったのは午後からだ。
始まりは龍園の妨害だった――毎度の如く、お得意のいちゃもんをつけて、こちらの足を止める策略。
この体育祭では、事前に参加する競技に予約することが出来る。しかし、何らかの理由でそのエントリーした競技に参加できなかった場合は、-2点というペナルティが与えられるルールとなっていた。
龍園はこれを利用して、こちらの有力選手の足止めをして、ペナルティを誘発する妨害をしてきたのだ。
予想外だったのは、2年Aクラスだけでなく、八神を始めとした1年Bクラスが龍園と協力していたことだった。
2年Dクラスだけならそこまで問題にはならないが、他クラスや他学年である2年Aクラス、1年Bクラスがその妨害をアシストすることによって、うちのクラスは完全に龍園の術中に嵌ってしまっている。
さらには、直接的な妨害以外にも、わざと同じ競技に参加して勝ち負けを度外視して制限時間一杯まで時間を稼ぎ(テニスでラリーをひたすら続ける等)、こちらが次の種目に参加するための時間を削るといった妨害までされていた。
桔梗や鈴音も問題が起きてから龍園の妨害に気付き、集団行動を指示して妨害対策をしようとしたようだが、そこからは八神が2年AクラスやDクラス、自クラスの実力者をぶつける形で得点を防いでいる。帆波にも似たような策を仕掛けたようだった。
うちのクラスも遅れて事態に気付き解決しようとしたようだが、既に午後になってクラスメイトの半数以上が競技を終えて応援席に回っている状態では出来ることなど限られている。
結局、残ったメンバーで団体競技に参加して一気に逆転を図る――鈴音や桔梗に思いつける策と言えばこの辺りが限界だろう。実際、龍園の妨害は事前に予測して対策をしておかないとどうやっても後手に回される。
帆波の場合は、周囲にいる信者たちが進んで壁になることで妨害を防いでいた。他学年の生徒が見張りについていては龍園としても大きく動けない。
最終的に、龍園は2年Cクラスを放置して、妨害の全てを2年Bクラスにぶつけた。
その結果、2年の総合はDクラスが1位、Cクラスが2位、AクラスとBクラスが同率の3位――しかし、偶然得点が同じになったなんてはずがない。おそらく、これは八神が面白半分に得点を調整して、わざとAクラスとBクラスを同率にしたのだろう。
自分の力を誇示する目的か。はたまた、オレへの貸しのつもりか――どちらにしろ、この体育祭にオレは関わっていないので、貸しにするつもりはなかった。
また、結果としてクラスは敗北を喫したが、雪がオレの指示通りに高円寺と組んで個人で1位を取ってくれているので問題はない。
クラス移動チケットをしっかりと手に入れてくれたので、これでいつでもクラス移動ができる――が、雪や高円寺がクラス移動チケットを手に入れたことはクラスメイトたちも知っており、高円寺がオレに売ったことも既に周知の事実となっていた。
そのため、クラスメイトたちはオレや雪が自分たちを見捨ててクラス移動をするのではないかと不安がっている。それだけ、体育祭での敗北は大きかったようだ。
オレは敢えてクラス移動に関しては何も言わなかった。クラスメイトから質問されても適当に流して、クラス移動するかどうかは明確にしていない。
その方が危機感を煽れるしな。
ただ、セフレたちには先んじて説明しておくことにした。とはいえ、大半はもうオレとの関係はクラスが別でも関係がないと割り切っているので慌てた様子は見せていない――が、それでも中には、オレがクラス移動するのを嫌がるやつらもいる。
オレがクラス移動するのを嫌がる筆頭は、鈴音と恵、麻耶の三人で、意外にも桔梗や愛里は特別嫌がっていない。
桔梗の場合は、仮にオレが居なくなった場合、自分が帆波の立場になるだけだと理解しているし、愛里は気持ちが通じて居ればクラスが別でも仲よくできると考えている。愛里は原作と比べて大きく成長しているな。
また、別のクラスから移動してきた真澄やひよりも、関係性が変わる訳ではないしクラス移動前に戻るだけと納得している。
それに、クラス移動をする前よりも、クラスメイトとの関係性は良くなっているのでオレがそう決めたら従うと頷いていた。
しかし、恵と麻耶はまだわかるが、鈴音が嫌がるのは少し意外だ。想像していた以上に、オレという存在に依存していたらしい。
それはそれで可愛いので悪くないのだが、オレが抜けた後のクラスを任せるのであれば、やはり鈴音にも原作張りの活躍を期待したい所ではある。
やはり早めに次の生徒会長を鈴音に引き継がせて、半ば強引にでも成長を促すべきか。
ただ、体育祭の後はすぐに中間テストで、その後は文化祭。文化祭の後すぐに期末テストで、それが終わったら修学旅行――と、2年はかなり年間のスケジュールがキツキツだった。やはり12月までは生徒会の引継ぎは出来そうにない。
まぁ、原作でも鈴音が会長になったのは12月だったし、時期が同じになるのは宿命なのかもしれないな。
◇◆
体育祭が終わってすぐに、オレの誕生日がやってきた。龍園も同じ誕生日だが、当然ながら一緒にお祝いなんてするはずもなく、普通にセフレたちを含めた仲のいい生徒たちでファミレスを貸し切ってパーティをしている。
別の意味でのパーティは体育祭前にもうやってもらったので、今回は普通のパーティだ。
それに、もう後10日もしない内に中間テストも始まるのであまりはっちゃけても居られない。特に、須藤は体育祭の敗北を見返すつもりで勉強に励んでおり、このままいけば原作通りにクラスでも上位に名前を連ねるかもしれなかった。
ここで焦りを見せたのが、意外にも波瑠加だ。
愛里が原作よりも成長しており、今までは自分が庇護する側だったが、それももう立場が逆転しつつある。
このままオレがクラス移動したら、もう完全に今までのような影からの助けも無くなると焦りを見せた波瑠加は、愛里にかなり遅れる形で勉学や運動に関しても努力を始めた。
また、愛里同様に自分の見た目や武器を有効利用する決意をしたようで、少しずつ周りの目を気にしないように自分を魅せようとしている。アイドルの愛里ほどでなくても、自分の魅力を自在に使えるようになるのは成長だろう。
もしかしたら、この1年――オレと性的な付き合いをしたことも、そんな内心の変化の一因になっているかもしれない。また、それを証明するかのように、最近は特に去年までは恥ずかしがって嫌がっていたことも平然とするようになってきていた。
◇◆
2学期が始まってから忙しくなり、ジムに行くのが3~4日に1回くらいのペースになってしまったが、今でも変わらず秋山さんとはそれなりに交流を深めていた。
まだデートには誘えていないが、互いに軽い身の上話(オレの場合は適当だが)をするくらいの仲にはなっており、仮に今原作のように真嶋に秋山さんのことを探ってくれと頼まれたら、その場で質問に答えられる程度には話を聞けている。
まぁ、秋山さんを真嶋に譲るつもりはないがな。
それこそ、原作のように力を借りて、いろいろな借りがあるのならばまだ考えても良いが、この世界のオレと真嶋は他クラスの教師&生徒という間柄でしかない。
むしろ、まともに会話をした記憶すらなく、原作のように向こうからオレに話を振って来るかどうかすらわからない状態だった。そう考えると、もはやNTRでもBSSでも何でもないような気もするが、予定はそのままで秋山さんを攻略していこう。
確か、俺の記憶が正しければ、原作の文化祭では来賓として、この学校の運営に関わっている人物とその家族の外――普段、ケヤキモールやコンビニなどで働いている人たちも対象になっていたはずだ。
つまり、秋山さんもまた、文化祭のお客として学校に招待されるということだった。
この機会を逃すのは馬鹿のすることであり、メイド喫茶の運営がてらどこかで時間を作って秋山さんと一緒に文化祭を回れればベスト。前々から考えていたデートの機会にはもってこいだし、今の秋山さんとの距離感なら誘っても断られることはしないだろう。
いやむしろ、オレが誘わないと仕事を理由に欠席されるまである。11月に入って本格的に文化祭の準備が始まったら、何としてでも秋山さんに声をかけよう。
◇◆
満場一致試験で、次の筆記試験の成績下位者5名のPPが半年間0になるということで、あまり学力が高くない恵と麻耶が焦りを見せている。
特に麻耶の方は、このままでは間違いなく5名に入る勢いで、何とか成績下位者入りを回避するか、満場一致試験の時に決めた得点のボーダーラインを越えようと必死だった。
普段なら、オレの部屋に来ると迷わず服を脱いでTレックスに飛びついてくるのだが、今回は恵も麻耶も真面目に勉強を頑張っている。
オレとしても、1年の時は好感度稼ぎに綾小路先生としてこいつらの勉強を見て居た時期もあるし、乞われれば教えるのも吝かではなかった。
恵は千秋にいろいろ言われていることも有り、普段から少しは勉強しているようで、学力D程度の実力はある。
しかし、麻耶はやはり勉強が得意ではないらしく、勉強しようとしても集中が続かずにすぐにやめてしまうとのことで、池と同じく学力E相当だった。
恵はまだしも、この麻耶をワースト5から外すのは容易ではない。特に今回はマイナスを回避しようと全員が努力している。麻耶も普段より頑張ってはいるが、他も同じように頑張っているのではどうしたって結果は変わらなかった。
こういうのはあまり勧めたくないが、麻耶がこの試験でワースト5を外れたいのであればもうヤマを張るしかない。
正直、勘で試験を乗り越えてもあまり実力にならないから、ヤマを張らせるのはあまり好きではないのだが、麻耶のあまりにも泣きそうな顔を見て居るとそうも言えなかった。
流石に、原作でどんなテストをしていたかはわからないのでオレの推測になるが、日々の授業やこれまでのテストの傾向から、出て来るであろう問題を予測していく。
赤点を取るほど大きく外れることはないだろうが、もし外れていた場合はどうしても得点が低くならざるを得ない。そんな問題を作ると、麻耶は「やるっ!」と即答した。
このまま何もしないで負けるよりも、やれるだけのことをやって終わりたい――そう言って、麻耶は中間試験までの間、オレの予想したヤマの範囲だけを勉強し続けている。
結果、予想したヤマは完全に的中。麻耶は40人中23位という想像以上の高得点を叩きだし、大喜びでオレに――というか、Tレックスにお礼をしてくれていた。
原作との変化点。
・体育祭を振り返った。
もう少し抗えると思っていたが、鈴音がリーダーじゃないことでクラスの異変に気付くのが遅くなった。もし、午後になる前に気付けていればここまで酷いことにはならなかっただろう。
・波瑠加が変わろうと動き出した。
清隆がクラス移動した場合、もう自分を助けてくれる人もいなくなると理解し、遅れながら愛里の真似をし始めた。これまでは自分が庇護者であるとプライドが邪魔をしていたが、もうなりふり構っていられなくなった感じ。
・秋山さん攻略中3。
文化祭でデートに誘う予定。真嶋も最近、秋山さんを綺麗な人だと認識し始めた。
・恵、麻耶に勉強を教えた。
特に麻耶は原作でも馬鹿筆頭なこともあって、ヤマを張ることで何とか凌いでいる。流石に原作知識でもテストの内容まではわからないが、これまでの出題傾向や学習状況からの読みが当たって麻耶が珍しく高得点を取った。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
クラスが想像以上に雑魚で逆に驚いた。能力的にはもう少し戦えると思っていたが、鈴音にクラスリーダー経験がないこと、桔梗があまり好戦的なタイプではないことで完全に後手に回った形。
・堀北鈴音
自身の至らなさを学習し、前々から清隆に言われていたクラスメイトとの関係に目を向け始めた。また、清隆のクラス移動の話を聞いて、咄嗟に「嫌」と口にした自分に驚いている。
・櫛田桔梗
清隆がクラス移動するという話を聞いて、直感的に清隆が鈴音を育てようとしていることを理解した。桔梗自身、自分がリーダーの器じゃないと自覚しており、表面上は納得しているが内面では何とも言えない感情を押し殺している。
・長谷部波瑠加
勉強や運動だけでなく、少しずつ社交性なども身に付けようと動き出した。とはいえ、全部が全部上手く行く訳がなく、自分なりのやり方を模索している。
・軽井沢恵
学力的に、中の下、下の上という位置なのを自覚しており、念のために清隆に勉強を教えて貰った。ヤマについては外れた時のリスクが怖くて辞退している。
・佐藤摩耶
下位5人筆頭だと自覚しており、一か八かの賭けに出て勝っている。原作でもそうだが、見た目ギャルの割に献身的な性格をしており清隆にも深い感謝を伝えていた。
・秋山さん
攻略状況的には3割ちょっとと言った感じ。まだ向こうも仲の良い年下の男の子で、頑張っている学生くらいにしか思っていない。とはいえ、そこらの有象無象よりは仲が良く、名前や性格なども知っているし、会えば世間話をするくらいの関係ではある。