メイド喫茶の打ち合わせを終えると、オレはケヤキモールに足を運んでいた。
食材の値段調査――と、いうのが表向きの目的だが、真の狙いは秋山さんを文化祭デートに誘うことである。
とはいえ、調査もしなくてはいけないので、まずはスーパーへと足を運ぼうとすると、原作通りに須藤が何やら険しい顔をして館内マップとにらめっこをしているのが目に入ってきた。
「今日は注目の的だったな、須藤」
どうやら近づくまで気付かなかったのか、いきなり声をかけられて須藤が驚いたようにこちらに振り返る。
「なんだ、綾小路か……何だよ注目の的って」
「中間テストのことだ」
「ああ、そのことか。まぁ、嬉しいけどよ……でも、俺は体育祭でやらかしちまったからな」
随分控えめな答えだ。少し前まで池と点数を競い合っていた人物とはとても思えない。
やはり、鈴音や桔梗とは別の部分で、須藤も体育祭で宝泉に敗北したことを気にしているようだった。龍園の妨害を受けて、精神的な乱れを起こしたのを恥じているのだろう。
「終わったことを悔いるのはいいが、あまり引き摺りすぎるな。お前は確かに体育祭で結果を出せなかったかもしれないが、中間テストではしっかり結果を出している」
須藤は今のクラスにとってかなり大事な駒に成長しつつある。
鈴音や桔梗と違って、ここで折るのは勿体ないのでそれとなく励ましてやった。須藤も、オレに褒められて少しは満更ではなさそうにしている。
「そう、だな……でも何ていうか、今回のテストもこっちとしちゃ手応えの通りっつーか。そんな凄いことしたって訳じゃねぇんだよな」
「入学当初のお前からは絶対に聞けない言葉だな」
「ははは、間違いねぇ。あの頃の俺なら、単語や数式を覚えて何になるんだよ――って怒鳴ってただろうな」
「もし、過去のお前がそう言って来たら、今のお前は何て答える?」
「えっ? そうだな……単語や数式すら覚えられないお前が何になれるんだよ……とかか?」
「バスケのプロになるから問題ない。なんて返されそうだな」
「た、確かに言いそうだぜ……」
実際、原作でも似たようなことを言っていた。オレは確認していないが、この世界でも鈴音相手に似たようなことを口にしていてもおかしくはない。
「でも、後悔はねぇ。仮に、昔の俺が何て言おうが、俺は自分が間違ったことをしてるとは思わねぇよ」
「そうか……」
「ただ、それとは別にちょっと問題があってさ」
「問題?」
「最近、自覚できるくらい視力が落ちて来てんだよな。小さい頃からずっと2.0だったんだけどよ、どうも最近おかしくて」
原作に負けず劣らず勉学に励んでいる須藤だが、やはり原作通りに視力が落ちてきているらしい。
「んで、視力とか測ろうと思ってメガネ屋探してんだよ。行ったことねぇし、どこだったっけなって思ってさ」
「成程、だからここにいたのか。普段なら部活の時間なのにおかしいと思ったんだ」
「今日は休ませて貰ったんだ。でも、この先視力が落ちることになっても、俺は勉強を続けるぜ。勿論、バスケのことは死ぬほど大事だけどよ。プロを夢見る傍ら、それ以外の選択肢を持ってもいいんじゃないかって思ってさ」
「それ以外の選択肢?」
「笑わ……ねぇか。お前は……」
「少なくとも、面と向かって人のことを馬鹿にはしない」
「……なんつーか、普通に大学に進学して、じっくり将来を考えるとか、よ。Aクラスの特権で無理にプロになっても、実力がなきゃスポーツ界じゃ生きていけねぇ。それなら、進みたい大学に入って頑張るのもありだよな。って」
そう、恥ずかしそうに須藤が告げる。一瞬、馬鹿にされると思ったようだが、基本的にオレは無表情なので須藤のことを笑ったりはしない。
ただ、考え方としては八神に近かった。
あいつもオレを退学させてホワイトルームに実力を証明しようとしているが、それが出来なかった時のことを考えて、退学は無理でもオレに勝利したという実績を欲している。須藤の考えは、それとよく似ていた。
「大学進学して、卒業してからプロになってもいいしよ」
「実際、今のお前の学力なら現実的に視野に入るな」
「でもなぁ……正直、少しずつ理解が難しくなってきてる焦りはあるんだ。今までは結構コツを掴んだらスイスイ言ってたんだけどさ……」
それは、須藤が本当の意味で学力をつけた証拠だろう。これまでの須藤は言ってしまえば中学生以下のレベルだった。でも、そのレベルが高校2年生に追いついたからこそ自身の停滞を感じている。
「別にメガネかければ頭良くなるとは思ってねぇけど、何をするにも前が見えなきゃ始まらねぇよな。いろんな意味でも」
「あの須藤が知的なことを言うとは……」
「うるせぇよ……つか、お前メガネ屋どこにあるか知ってるか?」
「さてな。生憎、オレも生まれてこの方視力で困ったことはない」
「つっかえねーな……やっぱ、小野寺についてきてもらえばよかったか?」
小野寺? 予想外――ではないが、ここで須藤の口から小野寺の名前が出るとは思わず首を傾げてしまう。
体育祭でコンビを組んだのは知っているし、小野寺が須藤を意識しているのは原作知識でわかっていたが、まさかここで名前が出てくるとは。
「小野寺がどうかしたのか?」
「いやよ。最近……っつーか、体育祭辺りからよく話すようになってよ。今回、メガネ屋に行くことにしたのも小野寺に勧められたからなんだ。付いてきてくれるって言ってくれたんだけど、流石に小野寺の部活を休ませるのも悪いから遠慮したんだけどよ……」
どうやら、傷心の須藤に付け込む形で小野寺もアピールしまくっているらしい。とはいえ、当の須藤はまだ小野寺の好意に気付いてない感じか。
この世界の須藤は、鈴音に一目惚れしていないから小野寺を意識させてやれば一気にゴールインしそうではあるが、下手に突いて藪から蛇が出て来ても面白くない。
「そういう時は素直に甘えても良かったんじゃないか? 少なくとも、オレが小野寺の立場なら遠慮される方が水臭く感じる」
「そんなもんか……」
まぁ、今はこれくらいのフォローで十分だろう。
「そういえば、綾小路は何してたんだ?」
「文化祭の市場調査だ。食材一つにしても値段が違うからな。出来るだけ安く仕入れて、別の部分に金を使いたい」
「うへぇ。そういうのは俺には無理だわ……肉体労働なら喜んで手伝うからさ。俺の力が必要ならいつでも声をかけてくれよ。ってことで、じゃーな綾小路」
難しい金の話をしたら、半ば逃げるように須藤がメガネ屋探しを再開し始めた。今の須藤なら出来なくはないレベルの仕事なのだが、学力が付いても潜在的な苦手意識はそう簡単には消えないのだろう。
まぁ、須藤には当日メイド喫茶のボディガード役を任せるつもりだし、今回は見逃してやるか。
◇◆
そんなこんなでメガネ屋に向かう須藤を見送り、スーパーで売っている食材の値段を調べ終えると、その足でジムに向かっていつものように体を鍛えていくことにした。
夏休みから継続して通っているおかげもあり、半分訛っていた体もホワイトルームにいた頃の力を完全に取り戻しつつある。そのおかげか、精力も強くなっているような気がしなくもないが、その辺りはいつものことなので気にしてもあまり意味はない。
今回の目的は、秋山さんを文化祭デートに誘うこと――と、いうことで、適当な世間話をする中で、秋山さんにお誘いをかけていく。
「秋山さん。2週間後の土曜日に高度育成高校の文化祭があるのはご存知ですか?」
「はい、話は聞いています。なんでも、今年が初めてだとか……」
「そうなんですよ。それで、どうもケヤキモールで働いている人も来賓として参加が出来るようで、もしよろしければ秋山さんも来られませんか? オレで良ければ校内を案内しますよ」
「えっ、高度育成高校の文化祭に私が……ですか?」
オレが文化祭デートのお誘いをかけると、流石の秋山さんも少し驚いた表情を見せた。
既に原作知識でわかりきっていることだが、週6で働いている秋山さんの休みは木曜日しかないので、デートのためには必然的に土曜日を無理やり休みにして貰う必要がある。オレが早めに声をかけたのもそのためだ。
「ええ。普段からこうしてお世話になっていますし、もし一緒に回れればいろいろ案内したいと思いまして」
「うーん、でもその日は仕事が……」
「どうにか出来ませんか? 来年はもう文化祭があるかどうかもわからないという話も出ていて、これが最後かもしれないんです」
これが最後かもしれないと言われると、秋山さんも少し迷う素振りを見せた。日本人あるあるの、ここだけとか限定とかいう言葉に弱いアレだ。
こうして話を聞いている感じ、抵抗があるのはその日に仕事があるからで、オレに対しての嫌悪感などは見えない。ならば、押して押して押しまくれ――
「……わかりました。せっかくの綾小路くんからのお誘いですし、少し代われる人を探してみます。もし、見つかれば文化祭にお邪魔させて頂きます」
「ありがとうございます。そうしたら、連絡先を交換しませんか? もし、参加可能であれば、当日連絡を頂ければオレが構内を案内しますので」
「でも……当日は大変じゃないですか?」
「いえ、うちのクラスの出し物は女性メインだから、そこまで男子は忙しくないんですよ」
嘘だ。勿論、忙しさはある。それでも、秋山さんとのデートに変えられる程じゃない。原作では波瑠加たちの説得に使っていた時間を丸々デートに当てるつもりだった。
「わかりました。それなら――」
オレの押しに負け、秋山さんが連絡先を教えてくれる。これがもし今突然言われたら秋山さんも警戒しただろうが、夏からの数か月で関係値が出来上がっている今、こちらを気遣う素振りは見せても拒絶することはしなかった。
よし、これで日頃から秋山さんと連絡が取れるようになった――やはり、こうしてこまめに合うのも大事だが、常日頃からアタックをかける状態を作れないとどうしても後手に回ってしまう。女を落としたいなら、どうしてもこまめな連絡は欠かせなかった。
後は、秋山さんが時間を作れるかどうか――だが、どうやら上手く代わりの人を見つけられたようで、夜には「文化祭に行けるようになりました」という連絡が入っている。
連絡先も手に入れ、デートの約束も取り付けられた。後は、当日に楽しい思い出を作って、少しでもオレの印象を『年下の子供』から『男性』に書き換える必要がある。
今のままでは子供としか見られないので、秋山さんのオレへの印象を変化させないとこれ以上先には進めない。そういう意味では普通にデートに誘うよりも自然に誘える文化祭は有難い行事だった。
後は、本番を待つばかり――事前にルートも考えて、最高のデートを秋山さんにプレゼントしてあげよう。
◇◆
次の日。いつものように学校へ行くと、朝から2年Bクラスと2年Cクラスがコンセプトカフェ対決をするという噂が流れていた。
当然ながら、オレの仕込みである。
うちのクラスでメイド喫茶のことを知っているのは、立案者の恵、千秋、麻耶、みーちゃんに、オレ、雪、桔梗、鈴音の計8人だけ。その内、6人は完全なセフレでオレを裏切ることはしないし、みーちゃんもそんなことはしない。
つまり、オレがそういう流れに誘導した――というのは、セフレたちも当然すぐ気づいた。
勿論、意図は原作通りだ。基本的に、どのクラスがどの場所で出店するのか、どんな出し物をするのかは当日まで不明というルールだが、いざフタを開けてみたらコンセプトカフェが三つも四つもあるという状況だってない訳ではない。
ただでさえ、メイド喫茶というのはそう目新しいものではないのだ。出し物が被れば、集客数や売上にも影響が出る。
それならば、予め『対決』という形で出し物を周知しておけば、どちらのコンセプトカフェが上なのか両方行ってみたいという気持ちも出るし、他のクラスが同じようなコンセプトカフェにするのを避けられるという狙いもあった。
それに、大掛かりな企画になればなるほど、どうしたって事前の準備は目立ってしまう。
それならば予め出し物を周囲に周知させてしまった方が、事前の準備から興味を引くことが出来る上、対決という形を取ればどちらかに肩入れして勝たせたいと思うのが自然だろう――と、いうことで、改めて立案者を含めたセフレ組にも作戦を周知した。
原作では文化祭が終わるまで秘密にしていたが、うちと帆波クラスが裏で繋がっているというのは、既に坂柳や龍園にもバレている。不信感や不安を与えてまで隠すほどのことでもないので、情報をリークすることで得られるメリットを語って全員を納得させた。
当然ながら、男子はメイドさんが大好きなので、クラスの男子の大半はメイド喫茶をすることになって大喜びしている。とはいえ、対決という形になる以上、勝つ――と盛り上がっており、思った以上に真面目に準備に取り組んでくれていた。
しかし、ここで話が予想外の方向に流れる。
最初はただのコンセプトカフェバトルだったのだが、気が付けば話がどんどん過激になっていき、最終的には勝った方が負けた方のクラスに一つ何でも命令できる――と、いう、思った以上の大事に発展してしまっていたのだ。
聞いた話によると、どうやら仕掛け人は星之宮と帆波のようで、この文化祭でCクラスが勝利したらクラス移動チケットを使ってCクラスにオレ(雪も一緒)を移動させるように命令する予定らしい。
元々、移動する予定ではあったが、オレとしても負けてクラス移動せざるを得ない――という状況の方が、セフレ以外の生徒への説明が楽で有難いので、Cクラスには頑張って勝利して貰いたいものだと陰ながら応援することにした。
◇◆
原作では、南雲が文化祭では戦うのを放棄して、思い出作りにお化け屋敷を企画して体育館を貸し切り、その結果から全学年で文化祭前日に予行演習を行う――という一幕があるが、この世界でも似たようなことを雪が考えていたようで、文化祭1週間と前日の計二回ほど予行演習を行う旨が生徒会から発表された。
参加の形態は自由で、実際に食べ物を提供した本格的なものでもいいし、逆に流れを確認するだけの模擬演習だけでもいい。
あくまで、次週の文化祭に向けたテストであり、費用はある程度の金額まで生徒会が負担する。と、回数以外は原作とほぼ同じ条件なのだが、意外にも各クラスからの参加申し込みは少なかった。
原作では南雲がプレオープンで結果を見せたから多数の申し込みもあったが、この世界ではそれがないため足踏みしているのだろう。
まぁ、参加する生徒がいないのであればそれに越したことはないということで、うちのクラスや帆波クラスは有難く、この事前演習を有効活用させて貰うことにした。
と、いうよりも、このためにわざわざ事前に情報をリークしたのだ。出し物が既に知れ渡っているのに、無駄にやらないという選択肢を取る理由がない。むしろ、ガンガン練習して改善点などを取り入れていくべきだろう。案ずるより産むが易しというやつだ。
「駄目だ。もっと笑顔を見せろ」
――と、言う訳で、文化祭1週間前である11月6日の土曜日。一度目の演習が行われることになった。
休日ではあるが、クラスメイト全員が出席している。とはいえ、メイド服がまだ完成していないことも有り、今回はクラス内のみの完全オフレコモードだった。
この学校にもバイトというシステムがない訳ではないのだが、うちのクラスの女子は接客の経験がほぼ全員なかったので、実際にクラスメイトの男子をお客に見立てて接客の練習をさせている。男子も可愛い女子に給仕して貰って完全にデレデレしていた。
そんな中、オレだけはオーナーということもあって真面目に問題点を指摘していく。
接客に問題があったのは、主に真澄と鈴音、そして波瑠加だった。三人とも、狙って異性に笑顔を浮かべられないという弱点が大きい。
他は特に問題なかった。雪や桔梗は当たり前のように笑顔を振りまいているし、愛里はこの一年で取得した雫モードを駆使して上手く外面を取り繕っている。
恵、千秋、麻耶、みーちゃんの4人は企画組ということもあって接客は手慣れたものであり、ひよりは原作通りに動くのが苦手そうだったのでレジ専門にして安定させた。
恵は原作だと体の傷を気にしてメイド服に着替えるのを嫌がるという問題があったが、この世界では寮からメイド服を着たまま来させるという荒業で乗り越えさせるつもりでいる。メイドプレイをしたこともあるので、恵もメイド服を着ること自体は特に嫌がらなかった。
また、イレギュラーの時のために、篠原を始めとした他の女子たちにも接客練習はさせている。しかし、レギュラーメンバーが控えに負けていては意味がないので、ここは心を鬼にして三人に注意を飛ばしていった。
「綾小路くん。世の中には、笑顔を見せないメイドもいると聞いたわ。全員が同じコンセプトにするのではなく、そういうギャップを狙ってもいいのではないかしら?」
「そういうのは繰り返し何度も来てくれるお店だからこそのコンセプトだ。文化祭は1日勝負で、お客はお前の顔なんか知らない。不愛想なメイドが接客して満足して貰えると思うか?」
鈴音のそれらしい説得を論破して、もっと笑顔を浮かべる様に指示する。原作では不愛想でも許されていたが、オレはそんな甘えを許すつもりはなかった。
笑顔は接客の基本中の基本だ。嘘でもいいから笑みを浮かべろ――と、いうと、開き直った真澄が、普段オレたちに向けるような笑顔で上手く接客をし始める。
「よし、いいぞ。真澄は合格」
「……鈴音、それに波瑠加も。もうプライドは捨てた方が良いわよ。こいつ、こういうの頑固だから出来るまで終わらなさそうだし」
この三人が笑顔を浮かべたがらないのは、自分はそういうキャラじゃないと思っているからだ。真澄自身が言っている通り、無駄なプライドというやつだな。
「でも、笑顔って言われてもどうすれば……」
「私は相手をこいつだと思って接客したわ。そうすれば、まぁ……自然と笑顔を見せても良いと思えた」
頭を悩ませる波瑠加に真澄がアドバイスをすると、波瑠加も相手をオレや綾小路グループのメンバーだと思い込むことにしたようで、いつも仲間内で浮かべている笑顔で上手く接客することが出来ていた。
「波瑠加も合格」
これで、残るは鈴音だけ――なのだが、クラスの端の方を見ると、上手くクラスメイトの後ろに隠れた桔梗が、無様な姿を晒す鈴音を見て満面の笑みを浮かべているのが見える。
近年見た桔梗の笑顔の中では一番ではないかと思うくらい楽しそうな笑顔であり、鈴音にもあれくらい開き直った笑顔を浮かべて欲しいものだが、プライドが邪魔して笑顔を浮かべられずにいた。
何度も何度も繰り返しやらせてみるが、結局はぎごちない笑顔を浮かべるだけで、接客された男子も「うーむ」と反応が微妙だ。見た目だけならトップクラスなのに、その素材が活きないというのは、オーナーのオレとしては面白くない。
だが、どれだけやっても結果は微妙であり、気が付けば終わりの時間になりかけていた。
「……よし、こうしよう。もし、来週の二度目のテストで合格が取れなかった場合、鈴音だけは特別にエロスなメイド服を着て貰うことにする」
「ちょっと! あまり、エロティシズムを前面に出した服にはしないって――」
「文句を言える立場か? 嫌なら自然な笑顔を浮かべろ。まともな接客ができないなら、お前には客寄せパンダになって貰うくらいしか役割がないんだよ」
つまり、恥ずかしいメイド服で学校内を歩き、客を集める係ということだ。とはいえ、これは最後の手段でもある。
何せ、鈴音のメイド服だけ特別にするということは、それだけコストがかかるということでもあった。おまけに、前日に変更する以上、無理をするので金はかなりかかるだろう。
と、言う訳で、来週に向けて早速今日から笑顔を見せる練習をすることにした。
普段から鈴音はあまり笑顔を見せないが、全く笑わないという訳ではない。ふとした拍子に笑みを浮かべていることもあるし、それを意識的に出せるようになれば問題は解決する。
だが、女を鳴かせるのは得意ではあるが、笑わせるというのは意外と難易度が高い。真澄や波瑠加のように、特定の相手だと思わせて笑わせる――という策も、オレを意識させても笑わない上、兄を意識させると緊張するしで打つ手なしの状況だった。
全く、手がかかるやつだ――と、Tレックスでお仕置きする。鈴音はM属性が完全開花しているため、今では尻を叩かれて大喜びする変態になっていた。
その嬉しそうな顔を、少しは接客に向けろと白い桃に赤い紅葉を多数作ってやると、とても人様に見せられないような表情を浮かべて体をビクビク震わせている。変態メイドでは接客は難しいぞ。
原作との変化点。
・須藤について。
表向き気にしないようにしているが、宝泉に負けてクラスを敗北に導いたことをかなり気にしている。ただ、最近は小野寺が付きっきりで慰めてくれていることもあり、何とかメンタルを保てている感じ。
・秋山さんをデートに誘った。
愛里の退学がないため、波瑠加の裏切りもなくなり、その分の時間をデートに当てるつもりでいる。
・メイド対決をすることになった。
勝ったクラスは負けたクラスに何でも一つ命令できる権利をかけてバトルをする。とはいえ、今回清隆は公平なジャッジを心掛けているのでどちらかを贔屓するつもりはない。ただ、帆波クラスが勝った方が都合がいいが、駄目なら駄目で他の手段を考えるだけ。
・プレオープンを二回する予定。
原作では一回だけだが、思ったよりも活用されていないので前日にもう一回する予定。これも、南雲が生徒会長じゃなくなったことの変化。
・笑顔の練習をしている。
鈴音以外は成功している。無駄なプライドが邪魔して上手く笑顔を浮かべられない。最悪、エロメイドにして集客パンダにする予定。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
体育祭では動かなかったが、文化祭は楽しむ予定。総監督として、メイド喫茶を運営している。
・堀北鈴音
賭けの意味をしっかりと理解しており、Cクラスに負けたら清隆を取られるので絶対に負けられないのだが笑顔が浮かべられず開幕から躓いている。
・櫛田桔梗
鈴音のミスをこれでもかと喜んでいるが、こちらも賭けの意味をしっかりと理解している。とはいえ、清隆がクラス移動すると言った以上は仮に勝ってもいつか移動するということまで理解している。が、それはそれとして、戦う以上は負けるつもりなし。
・神室真澄
初期組だけあって、清隆のことをよく理解している。だからこそ、クラス移動されても自分が捨てられることはないと確信しており、いつもと態度を大きく変えてはいない。が、二人きりの時は甘えてくる。
・長谷部波瑠加
愛里が心配そうに見ているのを見て吹っ切れた。ちなみに、笑顔の浮かべ方は本文通りだが、それ以外の動きは愛里をトレースしている。やけくそ状態。
・秋山さん
何とかでデートに誘えた。何とか、このデートを使って、秋山さんの清隆への意識を『年下の学生』から『男性』に塗り替えられないか模索中。
・須藤健
原作通りに視力が落ちた。体育祭のことを引きづっているが、小野寺のおかげでメンタル回復中。