1年生や3年生の一部は、原作通りにお祭りの屋台を模した出し物を数多く展開していた。しかし、よく見てみると、微妙に変化している部分もある。
例えば、3年Aクラス――否、体育祭で敗北した結果、3年Bクラスに降格した元南雲クラスは、原作通りにお化け屋敷の出し物をしてはいるが、場所が体育館ではなく別の場所になっていた。おそらく、南雲がいなくなった弊害だろう。
ちなみに、桐山クラスは体育祭でクラス移動チケットを手に入れたようで、オレとの約束通りになずなを自分たちのクラスに引き入れる準備を整えている。
どうやら期間ギリギリまではなずなを元南雲クラスのスパイとして使うつもりのようで、なずなとしてもオレが問題ないなら桐山たちに手を貸すつもりのようだった。
まぁ、桐山が3年を支配してくれた方がオレとしてもやりやすいので、なずなには好きにするように指示を出している。
また、3年Aクラスになった桐山クラスは、無人島で作った関係を上手く継続しているようで、CクラスとDクラスを席巻して幅を利かせていた。
もう未来がないCクラスやDクラスにPPを融通することで、この文化祭でもアトラクション系の出し物を敢えて出させ、Bクラスの出し物の近くに被せることで売り上げを下げようという狙いのようだ。
そんな中、桐山は自分たちのクラスだけ、売れるであろう食べ物系の屋台を出してポイントを稼ごうとしていた。だが、他のクラスとの兼ね合いを考えると、それで上位4組に入れるかは怪しい所だ。
どうも、この世界の桐山は、自分達が上に行くのではなく、元南雲クラスを抑えることで自分達の地位を安定させようとしているように見える。本来、桐山は無謀な攻めをするタイプではないし、原作での動きはあくまで南雲の指示あってのことなのだろう。
「おい、会長さん、綾小路パイセン。ちょっと寄っていけよ」
と、考えていると、原作通りに遊戯の屋台を出している宝泉がこちらに声をかけてきた。
宝泉の担当は射的のようだが、他にもいくつかこうした遊戯の屋台を出しているらしい。
しっかし、こいつもオレが天沢を救うために悪意のある情報を流したのはもう知っているはずなのに、欠片も気にした様子がないのは流石だった。
「一応、確認だが……この文化祭、俺は自由に動いてもいいんだよな? 文化祭は特別試験じゃなくて、体育祭と同じ『行事』だ。あんたとの契約はあくまで、特別試験での協力であって、行事での協力は含まれていない」
まるで、契約の穴を突いたかのような物言いだが、当のオレは体育祭や文化祭で宝泉を縛るつもりはない。
というより、オレと4月に結んだ正式な契約は無人島試験での協力が終わった段階でもう終わっている。宝泉がいつまでも納得していないだけだった。
「お前も律儀なやつだな。あの契約だって、正式なものはもう終わっているんだぞ?」
「だとしても、はいそうですかって終わる訳にはいかねーよ。俺は負けて、あんたは勝ったんだ。そんで、約束の期間はあんたが卒業するまでって最初に決めたのも俺。これは何を言っても覆らねぇ」
頑固なやつ――というよりは自分に厳しい男だ。
「そうか。なら、改めて許可してやる。この文化祭も、お前の好きにして問題ない。誰かと組んでオレのクラスを追い落とそうとしても文句を言うつもりはないから安心しろ」
「別にそんなことしねーよ。文化祭は負けても退学するシステムじゃねぇし、CPもマイナスになる訳じゃない。あんたをハメても特に意味もないからな」
「なのに、わざわざ清隆に確認を取りに来た……ってことは、どこかのクラスと組むつもりなんだ?」
会話の中で、宝泉の意図を察した雪が可愛く首を傾げる。宝泉の性格からして、基本的に何をしようとオレへの報告などしない。
敢えて契約についての確認を取ってきたということは、オレへの影響が出る可能性があることを危惧してのことだ。つまり、オレ以外の誰かと組むつもりなのだろう。
原作でも、宝泉は坂柳のクラスと組んで文化祭の売上を全て献上していた。おそらく、この世界でも同じような契約をしていると見て良かった。
「……お見通しって訳か。ああ、そうだよ。今回は2年Aクラスと組んでる。でも、別に契約違反じゃないなら問題ないだろ」
「さっきも言ったが、正式な契約はとっくに終わってるし、文句を言うつもりもないから安心しろ。基本的に、お前が誰と組んで何をしようと縛るつもりはない」
宝泉がいつまでも固執しているだけで、オレとしてはとっくに解放しているつもりだ。
だから、仮にここでこいつがオレに戦いを仕掛けてこようとそれはそれでいいと思っている。まぁ、そんなことをすれば宝泉は文化祭前に退学だが。
「ねぇ、清隆! ちょっと射的やってこうよ。いいでしょ、宝泉くん?」
「別に構わねぇけど、取れるようにしちゃいねーぞ」
暇を持て余した雪が遊びたいと駄々をこねるが、宝泉も純粋な雪の反応を見て少し困ったように阿漕な商売をしていると宣言する。
原作でも言っていたが、この手の出し物は胴元の方が設けられるようになっていた。
例えば射的ならば、景品が倒れないような小細工をすれば最小の費用で儲けが出るし、あまりに取れなくて文句が出る場合の対策も宝泉はしっかりとしている。
原作でもそうだったが、文句が出るなら紙くず同然の参加賞に付加価値を付けて満足感を与えてやればいい。
それこそ、原作通り生徒の写真をラミネート加工してプレゼントしてやれば、参加賞としては十分に機能する。政治関係の関係者からすれば、生徒と仲良くなったというアピールは対外的にも効果が高いし、そうでなくても思い出としては十分な品と言って良かった。
それに一回っきりの文化祭ならば、多少無理にぼったくっても何も問題はないだろう。
「いいんだよ。こういうのは、取れなくても遊ぶのが楽しいんだから」
だが、雪は特に文句を言うつもりもないようで、適当に掴んだ銃を構えて引き金を引いていく。
しかし、コルクは明後日の方向に飛んでいった。どうやら、銃の性能はあまり良くないらしい。
一回の挑戦で三回撃てるようなので、弾道から狙いを調整した雪が二発目を撃っていく。
だが、二発目も的には命中しなかった。どうやら、狙っているのはぬいぐるみのようだが、残り一発を何とか当てるもビクともしない。取れるようにしていないと言っていたが、そうでなくてもこの銃の性能では少ない回数でぬいぐるみなどは取れないだろう。
「あちゃー。だめかぁ……もう一回! って、言いたいけど、お一人様一回までだもんね」
「その代わり、参加費も貰ってねぇからな」
「ざーんねん。ねっ、清隆もやってみてよ」
「まぁ、やるのは構わないが……」
いくら俺でも、この粗悪な銃で落ちないように調整された景品を取るのは無理だった。
一応、雪が狙っていたぬいぐるみを狙ってみたが、やはり弾はランダムに飛んでいき、最後の一発が何とか命中したが景品はピクリとも動かない。
「流石の綾小路パイセンも、射的は苦手ってか?」
「そうだな。オレも雪もこういう出し物の経験がない。仕組みの認識もまだ曖昧だからな」
「むしろ、初めてで弾当てたのかよ……」
宝泉の言い草からすると、どうやら初心者が弾を当てるのは意外と難しいようだった。
まぁ、確かに銃は性能の良いモノではないので、弾であるコルクも予想通りの軌道には飛ばないことが多かったし、その驚きもわからなくはない。
「本当はもっと本格的な賭場がしたかったんだがな、生憎とお堅い学校には却下を食らった」
「当然でしょ。龍園くんもカジノとか提案して来たけど、そんなの通せる訳ないから」
「ケッ、賭場はカジノよりも面白いっての。まぁ、結局、射的だろうが何だろうが、この手の出し物もギャンブルと同じさ。最終的には胴元が勝てるように出来てるんだよ」
あながち、宝泉の言うことも間違っていなかった。儲けという意味では、この手の出し物はやはりかなり強力な手札と言って良い。
それでも勝つのはオレたちか帆波クラスのメイド喫茶だとは思うが、今回は別に宝泉と敵対している訳ではないのでほどほどに楽しんだ所で射的を後にする。
見れば、うちのクラスの連中も屋台の準備を進めており、早く店の準備が出来た所は実際にモノを作っていた。
今日までの間にも寮などで出す食べ物を作る練習をしていただけあって、大きな問題はないように見える。冷やかしも兼ねて、本堂自慢のから揚げを貰ってみたが、意外にもかなり美味しかった。本堂があれだけから揚げ屋をやりたがったのもわかる味だ。
ドヤ顔の本堂に見送られながら、オレたちは次に体育館へと足を進めた。原作では、体育館は南雲クラスの出し物に利用されているが、この世界では何と龍園が確保している。
また、体育館周辺にも龍園クラスがチュロスやポテトなどの低価格で利益が出る屋台を出しており、完全に体育館周辺を独占している形だった。龍園のクラスの初期費用はお世辞にも大量という訳ではなかったはずだが、かなりのPPを使っているように見える。
実際、原作では石崎がプロテインを使った意味の分からない屋台を出していたが、この世界ではそんな屋台を出させる余裕もないようだった。
中に入ってみると、割と人が多くて賑わっている。どうやら、最近の流行りを取り入れた謎解きメインのアトラクションをしているようで、各箇所に人が集まって頭を悩ませていた。体育館全体を上手く区切っており、効率的に空間を使っているのが伺われる。
「よう、来たのはお前と雪だけか」
そんな風にオレたちが中を見ていると、まるで待っていたかのように龍園が声をかけてきた。
「なんだ、鈴音に来て貰いたかったのか?」
と、カウンターを返してやると、先程メイドの鈴音にしてやられたのを思い出したのか、龍園も「フン」と鼻を鳴らしている。
「にしても、かなり大掛かりなアトラクションを用意したみたいじゃないか。初期費用も相当かかっただろう?」
「そこは頭の使い方だ。今年の豪華客船で生徒会が行った宝探しゲーム。あのアプリを応用して上手く使ってるから、実はそこまで金はかかってない」
船での宝探しのアプリ――バーコードを入力することで、景品がもらえるというシステムだ。あれをもし、謎解きの問題や回答に使用するのであれば確かに費用は抑えられそうだった。
しかし、あのアプリは生徒会が扱っているモノであり、入手するためにはどうしたって生徒会の伝手が必要。つまり――
「……成程、他クラスにも協力者がいるのか」
今の生徒会は3年が2人。2年は雪、鈴音、帆波、1年は八神と阿波だけで回している。雪とズブズブの関係であるメンバーから簡単に漏れるとは思えないので、実質犯人は一人だけだ。
「ああ。今回、八神は俺の協力者だ」
龍園も隠すつもりはないようで、すぐに協力者の名前を口にした。
「それと、1年BクラスとAクラス、それに3年のCクラスとDクラスは快く手を貸してくれるってよ。っていっても、たいしたことをして貰う訳じゃない。謎解きに必要な手順を踏んで貰う代わりに、こちらも向こうの出し物を紹介したり割引券を渡したりするギブアンドテイクだ」
謎解きをするのに、体育館の中だけでなく他のクラスの出し物を利用することで規模を大きくし参加者に満足感を与える。
また、他のクラスの出し物を遠回しに紹介することで、逆に向こうにもこの謎解きの存在を紹介して貰えて本番の参加者にも大いに期待が出来るという訳だ。
ただでさえ、体育館は目立つので集客が大いに見込める。後は参加費を多めに貰えば十分な見返りも期待できる訳で、途中でリタイアするくらい難易度を高くすればかかるであろう景品などの出費も最小限で済む。
「なかなか良く考えたな。お前の発案か?」
「まさか。俺はクラスの中で儲けられそうな意見を集めただけだ。提案したのは西野だよ。で、葛城が他クラスへの協力を思いついて、金田が中身を詰めた。俺は他クラスとの橋渡しをしてやっただけだ」
ここで、桐山が元南雲クラスをハメるために、3年CクラスとDクラスにアトラクション系の出し物をさせているのも大きかった。
龍園の謎解きと連動すれば、十分に話題が作れて集客も見込める。上級生からすれば、桐山からの命令であるBクラスの妨害という任務を果たすためのメリットになるので龍園の申し込みを拒絶する理由がない。
1年生の方は、おそらく八神経由で手を組んだのだろう。体育祭でも協力していたようだし、八神としても自分にメリットがあるなら龍園の提案を断ることはしないはずだ。
「わざわざクラスの屋台を近くに置いたってことは、謎解きに屋台の出し物が関係してたりして?」
「さてな。気になるなら参加してみると良い。まぁ、今回出しているのは本番と違うダウングレード版で商品も何も出ないけどな」
成程、ネタバレ対策も万全という訳か。
雪が軽く探りを入れたが、龍園も余裕の笑みを浮かべている。それに、向こうがこちらに何もしてこなかったのと同様に、本番での妨害行為が出来ない以上、こちらとしてももう対策のしようもなかった。
「鈴音に伝えておけ。明日勝つのは俺たちのクラスだってな」
性懲りもなく鈴音への挑発をしてくる辺り、龍園の鈴音スキーも相当だな――と、思いつつもこれ以上ここにいても意味がないので体育館を後にする。
雪は一応、ダウングレード版だという龍園の謎解きに挑戦したかったようだが、まだ見たい場所が残っているので、残念ながら今回は諦めて貰うことにした。
原作との変化点。
・宝泉の射的に寄って行った。
既に宝泉との契約は済んでいるのだが、当の本人は納得できずにごねている。清隆からすれば男の奴隷などいらないが、本人が飽きるまで好きにさせることにした。
・龍園の出し物。
このSSでは和風喫茶ではなく、大規模な謎解きのアトラクションをメインにしている。他学年とも連携しており、かなり手をかけていた。
・南雲クラスについて。
原作でも、南雲抜きの話し合いでお化け屋敷になっているのでそのまま。勿論、中にはもっと売り上げを狙うべきという意見も出ていたが、なら何をする? という問いに堪えられる人物がいない。リーダー不在が大きく影響している形。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
龍園が原作と全く違う動きをしているが、かなり手の込んだ出し物をしているので驚いている。
・椿雪
地味に謎解きがしたかったが、清隆優先なので諦めた。
・龍園翔
八神を始め、3年と組むことで謎解きの難易度を上げつつ、地味に前回の体育祭で気づいた帆波教に一石を投じようとしている。が、文化祭の方はともかく、そっちは上手く行っていない。
・宝泉和臣
本人はまだ清隆の協力者でいるつもり。勿論、屈した訳ではなく、虎視眈々と勝ちの目を探している。しかし、地力を付ければつける程、清隆との距離を遠く感じるようになってきている。