体育館を後にし、そのまま他のクラスの出し物を見て回って特別棟に戻ってきた。
今回の文化祭では原作通り、特別棟の一階がうちのクラスのメイド喫茶、二階が帆波クラスの和装メイド喫茶(正確には原作だと龍園クラスが和装喫茶をしている)、三階は坂柳たち2年Aクラスの出し物だが、まだ何をするかは判明していない。
一応、様子を見に行ったが、原作通り『2年Aクラスの出し物はトラブルが発生したため、本日行われません』という張り紙が出されていた。
こうなっては残っても意味がないので、その足で帆波クラスの様子を見に行っている。公にはなっていないが、この和装メイド喫茶もオーナーはオレだ。
当然ながら、帆波たちも余裕でオレや雪のことを受け入れて笑顔で接客してくれている。やはり帆波を始め、2年Cクラスも美人が多いので和装メイド喫茶もかなり賑わっていた。
「そっちの調子はどんな感じ?」
飲み物を運んできた帆波がそう声をかけてくる。改めて、うちのクラスと帆波クラスの違いを見てみるがそこまで大きな違いはなさそうだった。
「こっちとそう差異はないな。強いて言えばメイド服が、向こうが洋風でこっちが和風だからその違いがあるくらいだ」
「でも、接客はCクラスの方が上手だよ。うちのクラスも頑張ってるけど、細かいテクニックていうのかな……あれはうちじゃまだ出来ないね」
お客として雪が素直な感想を述べる。実際、Cクラスの接客はかなり上手いというかテクニカルだった。
何というか、うちのクラスは基本を忠実に守っているという感じだが、Cクラスは接客することに余裕があり、わざと屈んだりスカートを揺らしたりと相手を意識させる動きが上手なのだ。
これも、4月の特別試験の時に1年生の男子生徒を誘惑しろといった時の経験が生きているのかもしれない。
「ありがと。一応、こっちもオーナーからのアドバイスは受けてるからね。あまり、エロティシズムを出し過ぎてはいけない。でも、完全にシャットアウトするのはダメ……ってね」
その上で、帆波クラスはエロティシズムをギリギリまで攻める選択をしたらしい。
和装というとピッチリした服のイメージがあるが、帆波クラスはわざと胸元を少し緩め、スカートの丈をしゃがんでも見えないギリギリまで短くすることで、本来なら見えないけど見えるかもしれないという思考を上手く突いていた。まさに見えるけど見えないものだ。
実際効果は抜群で、男子の視線は揺れるスカートや頭を下げる時の胸元などに集中している。
こういうのは露骨にやると逆に萎えるものだが、帆波はその辺の感覚も理解しているようで、ここぞというタイミングを上手く図るのが上手かった。
「うちも真似しようかなぁ」
「いいけど、ちょっと練習がいるよ? 見えちゃったらそれこそ大事件だし」
雪も、エロティシズムの効果の高さを見て真似したがっているが、下手に取り入れても帆波の言う通りメイド側のハプニングを誘発する危険がある。
もっと練習から意識させればよかったのかもしれないが、うちのクラスは普通に接客するのにも精一杯だったからな。こればかりは、帆波が純粋に一枚上だった。
これは強力なライバルだ――と、思いながら、飲み物を飲んでそのまま自分たちのメイド喫茶に戻る。
こちらも今の所は大きな問題はないようで、男子生徒も可愛いメイドさんたちにデレデレになっていた。
向こうが技術で攻めて来るならこちらは素材で戦うしかない。盛り上がり自体はそこまで差はないし、本番もいい勝負が出来るだろう。また、時折モラルを守らずに、メイドさんに執拗に声をかけてくる生徒に関してはボディガードの出番だった。
安全面を考慮し、須藤のように少し強面タイプの生徒には、屋台ではなくメイド喫茶の護衛をお願いしている。
元々、喧嘩自慢の須藤が相手ならば、相手が龍園や宝泉のような問題児でもない限り、客も大人しく退散するしかないだろう。このおかげで、メイドたちも安心して働けていた。
そんなこんなで2時間程が過ぎると、文化祭前日の予行演習も終わりの時間となる。
今の所は上手く回せているが、本番でこれ以上の盛り上がりを見せるようならば増員も少しは検討しないといけないかもしれない。
と、考えながらも、女子が着替えている間に、オレや須藤などの男子連中で掃除をしていると、女子のメンバーでも屋台に配備されている小野寺が顔を見せに来た。
「こっちも終わっちゃったんだ。私もみんなのメイド服ちょっと見たかったなぁ」
小野寺だけでなく、メイドに選ばれなかった女子の半分は屋台の集客係として頑張って貰っている。
そういうのは男子よりも女子ということも有り、小野寺も屋台で持て囃されて満更でもなさそうだったが、それはそれとしてメイドにも興味はあったらしい。
「お前、メイドなんて見たかったのか?」
「須藤くんはいいよね、ボディガードとしてじっくりメイド服の女子が見られるんだから……私だって可愛いものは好きだし、メイド服とか似合わないからせめて見るくらいはしたかったんだよ」
「似合うかどうかは着てみないとわかんねーだろ」
「いやいや、私足も太いし……それに体が大きいからサイズも合わないよ」
小野寺は水泳をやっていることもあり、他の女子よりも筋肉が多い。肩幅や足なども大きいので、本人の言う通り他の女子のサイズでは着るのは難しいだろう。
しかし、須藤はそんなこと気にした様子もなく、しゃがみ込んで小野寺の足――正確には太ももにじっくりと視線を向けていた。これには流石の小野寺も少し慌てた様子を見せる。
「ちょっ、須藤くん!?」
「鍛えられたアスリートの良い足なんだけどなぁ。まぁ、確かにメイドって言われると少し違うか……」
「もうっ、恥ずかしいってば!」
須藤は特に異性を意識した様子を見せていないが、小野寺の方はやはり原作通りに須藤に気があるようで、顔を真っ赤にして走り去っていく。
少し前までは普通の関係だったが、どうやらオレの休んでいた体育祭で少し進展があったらしい。が、当の須藤はまだ気づいていないようで、「なんだあいつ……逃げることないのによ」と、無自覚系主人公のような言動をしていた。
まぁ、この世界の須藤は鈴音に恋心を抱いていないし、恋よりも運動という年頃なのだろう。小野寺のアピール次第ではワンチャンありそうだが、この間も少しアドバイスしたばかりだし、ここで下手にちょっかいを出すのは止めておこう。
◇◆
明日が文化祭本番ということで、今日は珍しく一人で夜を過ごしていると、原作通りに坂柳から連絡が入った。
内容も特に変わりないようで、体育祭は休んだが文化祭は休まないのか――と、いうものだ。ぶっちゃけ、親父殿が本気でオレを引き戻すつもりがないことはわかっているので、本来ならば体育祭も休む必要はなかったのだが、それを坂柳に説明するつもりはなかった。
実は理事長からも、少し前に今回も休んだ方がいいと連絡を受けたが、体育祭と違いこの文化祭では秋山さんの攻略という一大目的があるので欠席する訳にはいかなかったのだ。
表向きは、残り少ない学校生活を有意義に過ごすため――と、誤魔化しながら、頭の中では明日のデートプランを考えるので必死だった。
今日の下見である程度のルートは搾れている。文化祭当日、生徒は客にはなれないので、基本的には食べ歩きをメインにしていろいろ見て回るつもりだ。
――と、そんなこんなで文化祭当日。
朝9時になりアナウンスが入ると、来賓たちが正門から足を踏み入れ、文化祭が開幕した。
基本的に、この学校は外部との接触を禁止していることもあり、生徒たちも外の人と触れ合うのは久しぶりとなる。
昨日まではまだ生徒が相手だったからどこか気楽だった雰囲気もあったが、ここからは老若男女のお客を相手にしないといけないと考えると、クラスにも緊張が生まれていた。
しかし、そこは気遣いの上手い桔梗が、クラスでも影響力の強い恵を上手く使って緊張をほぐしている。
原作では、体の傷を気にしてメイドになるのを拒否していた恵も、この世界では寮からメイド服を着てくるという荒業でその欠点を回避し、立派なメイドとしてクラスメイトたちに声をかけてやる気を促していた。
「いらっしゃいませ~」
「お席にご案内いたします」
まだ少し緊張した様子のメイドたちだが、お客を通して接客を始めると段々と動きの固さも取れてくる。立ち上がりとしては上々であり、いきなり満席とは行かないものの、席は段々と埋まってきた。
文化祭では、リアルタイムで状況が変化するため、足で情報を収集する必要がある。
そのため、メイド喫茶や屋台を運営する人員以外にも、交代要員などで時間のある何名かは学校内を走り回って情報を集めて貰っていた。
どこの出し物が人気で、逆にどこの人気がないか――売上を競う以上は、どうしたって他クラスの情報は必要不可欠だ。逆を言えば、うちのクラスにも他クラスの偵察が来ており、メイド喫茶も中の様子を探られていた。
「繁盛しているようだな、綾小路」
廊下で様子を見ていると、上の階から降りて来たらしい神崎が声をかけてくる。
「そっちはどうだ?」
「こっちもそこそこ賑わっている。やはり、同じコンセプトで対決すると銘打ったのがよかったんだろうな。こちらが賑わえばそちらも賑わい、そちらが賑わえばこちらも賑わう」
「なんか、楽しそうだな」
「ふっ、一之瀬たちは大変だろうが、やはりクラスに活気があると見ているだけでも楽しい。とはいえ、ずっと眺めている訳にもいかないからな。俺は今から他クラスの偵察だ」
原作では、自クラスではAクラスになれないといろいろもがいている神崎も、この世界ではクラスに希望を見いだせているようで顔色がとても良い。
それはつまり、オレの傀儡としてもしっかり働いてくれているということでもあり、この調子で神崎にはしっかりと帆波やクラスを支えて欲しいものだった。
「そうか、頑張ってくれ」
忙しそうに走っていく神崎を見送り、オレもメイド喫茶の運営に戻る。段々とお客が増えて忙しくなってきているが、逆にオレは秋山さんが来るのが午後からなので午前中は暇を持て余していた。
とはいえ、全く仕事がない訳ではない。チェキとして撮影も売り物にしている以上、カメラマンは必須であり、ボディガードの須藤たちを始め、忙しくなってくるとオレも手伝いに駆り出されていた。
「チェキ頂きました~!」
カメラは一台9000ポイントもし、壊れた時の予備も含めて2台購入してある。しかし、あまりの繁盛ぶりに、カメラ2台は常時同時稼働しつつあった。
今の時間のボディガードは須藤のようで、オレと須藤が並んでお客とメイドのツーショットを撮影していく。が、オレは愛里とよく写真を撮るのでカメラにはなれているが、須藤や逆に撮られる側のメイドも慣れていないと上手く映らなかったりした。
ピントが合わなかったり目を閉じてしまったりと、フィルムを無駄にすることもある。
原作でも、みーちゃんがミスしていたし、こんなことなら写真の練習もさせておくんだった――とも思ったが、時間は準備や接客で目一杯だったし、夜に自主練習するにしても絶対にえっちな写真にシフトするのは目に見えているので、結局は無理だっただろう。
と、なんだかんだで2~3時間が過ぎる頃には、メイドたちも接客や撮影に慣れて来てミスもなくなってきた。
「綾小路くん、どうしよう……ダージリンが切れちゃったみたいです!」
しかし、イレギュラーは常に発生する可能性がある。原作でもそうだったが、あまりの人気ぶりに事前に用意していたダージリンが売り切れになってしまったようで、みーちゃんが慌てた様子でこちらに駆け込んできた。
原作でも、ダージリンは一つ1200ポイントと高い商品なこともあり、仕入れを搾ったことで売り切れが発生していたが、この世界では売れるとオレがごり押ししてそこそこの数を仕入れさせていたはずだ。
だが、それでも足りなかったらしい。正直、午後くらいまでは持つと思ったが、原作以上に人が来ているというのもこの問題に関係しているのかもしれなかった。とはいえ、このまま何も対策をしない訳にもいかない。
「仕方ない。すぐに全てのメニュー表のダージリンに売り切れシールを貼ってくれ。看板などには手書きで修正をしておく」
「う、うんっ」
さて、原作ではオレがダージリンの修正作業をしているのを狙ってホワイトルーム関係者が接触してくるのだが――と、思っていると、「振り向かずに受け取れ」という声と共に、スーツを着た男が二つ折りにされた白い紙をこちらに渡してきた。
そのまま、相手が立ち去ったのを見て紙の中を見てみる。すると、やはり原作通りに『迎えに来た。どうするかは自分自身で決めろ。正門で待つ』という文言と共に、電話番号まで記載されており、マジで何の意味がある行動なのか全く理解できなかった。
おそらく、オレの危機感を煽りたいのだろうが、それならそれとしてもっと上手くやれという話だ。
まぁ、あの能無しの親父殿にそういう機微を期待しても無駄か――と、紙を飲み込んで処分する。
普通なら、まず行くことはない。が、オレは元々、秋山さんを迎えに午後になったら正門に向かう予定だった。絶対に来ないと思っているオレが敢えて正門に行くことで、相手をビビらせるのも面白いかもしれないな。
原作との変化点。
・和風喫茶の様子を見に行った。
龍園クラスじゃないが、これはこれで良いと清隆も大満足。
・見えるけど見えないもの。
アニメなどではこういうのは見えないのがお約束だが、このSSはリアル準拠なので見える時は見える。なので、男子も見よう見ようと大興奮だった。やはりエロは偉大。
・須藤くんさぁ。
花より団子な年頃。彼女を欲しがる割に、そういうアピールに気付かない。自分がモテないと自覚しているから他人の好意に鈍感になっている。ただ、下手に突き過ぎても面白くないので、ここは様子を伺っている。
・文化祭が始まった。
今の所、原作通り。ダージリンは多めに買っておいたが、それでも完売した。WRからのわけわからない接触もあって、特に変化はない。
・白神崎。
原作と違ってクラスの在り方に迷っていないのでホワイト神崎状態。クラスのために自分の出来ることを頑張っている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
龍園がかなり変わっていたので、もしかしたら坂柳もと思ったが、今の所は変化がなくて拍子抜けしている。
・椿雪
見えるけど見えないテクを使おうか悩んだが、清隆が何も言っていないのでやるのを止めた。やれと言えばやるが、何も言われないなら何もしない。
・小野寺かや乃
篠原と同じく補欠メイド候補だが、今は売り子として活躍中。予想外の須藤からの接触に女の子している。
・王美雨
基本、原作と変わらず本番でも頑張っている。
・一之瀬帆波
見えるけど見えないテクを駆使している。帆波は完成度が高いが、他のクラスメイトはまだたまにチラ見せがある。帆波も気づいているが、敢えて指摘はいしていない。
・須藤健
ボディガード&カメラマンで本番も大忙し。