ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯018 『変わる者、変わらない者』

 次の日。珍しく、茶柱が朝のホームルームで「報告がある」と言って残っている。

 

 基本的には最低限の連絡を済ませれば茶柱は教室を出ていくのでクラスメイトたちも疑問の視線を送るが、当の須藤は遂に来たか――と、苦い顔をして茶柱を見つめていた。

 

「先日、学校でちょっとしたトラブルが起きた。うちのクラスの須藤と、Cクラスの生徒との間で問題が発生してな。端的に言えば喧嘩だ」

「先生! 失礼ですが、あくまでCクラスが被害を受けたと言っているだけで、須藤くん自身は関与を否定しています。喧嘩と言うには向こうの肩を持ちすぎていると思うのですが」

「お前も話を聞いていたのか櫛田……まぁ、確かに喧嘩の一言で済ますと平等では無いか。櫛田が言う通り、須藤自身は何もしていないと訴えている。その言葉を完全に信じるのなら、冤罪――つまり、Cクラスの自作自演と言ってもいい」

 

 最初はCクラスを持ち上げる意見を出しながら、今度は完全にDクラス側に立った意見を出す茶柱に、クラスメイト達が混乱している。

 

 そんな中、平田が率先して手を上げた。

 

「先生、詳しい説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「尤もな意見だな。平田の質問に答えると、訴えはCクラスからだ。呼びつけられて一方的に殴られたらしい。ところが真相を確認すると、須藤はそれを否定した。自分が呼び出したのではなく、逆に呼び出され恫喝を受けたと。無視して帰ったら、後日彼らが須藤に殴られたと訴えを出したのが今回の問題だ」

「俺は本当に何もしてねぇ。あいつらを呼び出してもなければ殴ってもない。全部、あいつらの自作自演だ」

「ただ、どちらの意見にも証拠がない。だが、須藤が特別棟でCクラスの生徒と揉めたこと、被害を受けたCクラスの生徒が実際に怪我をしていたことから被害届が受理された。このまま須藤の無実が証明できない場合、須藤は夏休みまで停学、またDクラス全体のペナルティとしてクラスポイントが削減される」

「結論が保留になっているのはどちらの意見にも証拠がないからですか?」

「そうだ。だが、訴えが通ってしまった以上、被害者の怪我には多少の証拠能力がある。このままでは須藤は停学になるだろう」

「……納得いかねぇ。何もしてないのに、何で俺が停学にならなきゃいけないんだ」

 

 質問をした平田が、何やら考えるように須藤を見ている。冤罪といじめ、多少の違いはあれど、罪のない人間が責められるという事実は同じだ。何か思うことがあるのかもしれない。しかし、改めて聞いてもあまりに理不尽な決定だな。

 

「本人はこう言っているが、真相がどうであれ今必要なのは須藤が無実だという証拠だ。須藤が言うには、現場にいた時に視線を感じたとのことで、目撃者がいるかもしれないらしい。どうだ、このクラスで目撃した者がいるなら挙手をしてもらえないか?」

 

 茶柱がそう問いかけると同時に、クラス中の様子を見回すと、佐倉がわかりやすく強張った顔をして下を向いて反応していた。

 

 成程。確かに、原作で堀北が気付いたように、これは何かあると思わせる態度だな。

 

「残念だが須藤、このクラスに目撃者はいないようだな」

「……みたいだな」

「学校側としては目撃者を探すために、今各担任の先生が詳細を話しているはずだ」

「……やっぱ、バラしたのか」

「その様子だと、お前は隠しておきたかったようだな。だが、目撃者を必要としているのはお前だろう。学校側としても、お前の意見が真実だと証明するための行動だということを理解しろ。一応、他のクラスや部活にも協力をしてもらえるようお願いはしている」

「わかってるっすよ」

「とにかく、話は以上だ。目撃者の有無、証拠の有無を含めた最終的な判断は来週の火曜日には下されるだろう。それではホームルームを終了する」

 

 そう言って茶柱が教室を出て行くと、入れ替わるように櫛田がクラスメイト全員に詳しい説明をするために教壇に上がった。

 

 原作では、いたたまれなさで教室を飛び出していた須藤だが、今回は被害者ということで席に座ったままこちらを見ている。櫛田やオレを信じてくれているのだろう。

 

「みんな、混乱していると思うから私が詳しい事情を補足するね。まず、私と綾小路くんは、昨日の段階で須藤くんから今回の件に関して相談をされてたんだ。その上で言うね、今回須藤くんは完全な被害者だよ」

「何で被害者だって断言できるの?」

「そうだよ、須藤が殴った可能性だってあるじゃんか」

 

 クラスメイトの中には須藤が変わらず暴力を振るってもおかしくないと考えている奴も多いようで、そう批判の声が飛ぶ。須藤も、これが自分への印象だとわかると、目を瞑って耐えるようにしていた。今、ここでキレたら終わりだとわかっているのだ。

 

「確かに、疑問に思う人もいるよね。でもね、実は須藤くん、バスケ部の顧問の先生からレギュラーに起用するかも知れないって声がかかってたんだ」

 

 そう話すとクラスメイトが騒然とする。まだ入学して三か月だ。夏前にレギュラーの話が来るなど普通ではない。

 

「もしみんななら、レギュラーになれるかもしれないのに問題を起こしたりなんかしないよね? それは須藤くんも同じだよ。暴力事件なんて起こすはずない。だって、もし事件を起こせば、今回のようなことになるのは目に見えてるし、停学になればレギュラーの話も白紙になっちゃう。須藤くんからすれば事件を起こすメリットがないんだよ」

 

 櫛田が理論立てて説明すると、クラスの大半が納得した様子を見せていた。ただ、残りの生徒達は須藤が我慢できずに殴ったかもしれない可能性を疑っている。

 

「勿論、呼び出された須藤くんが我慢できずに殴ったのを疑っている人もいるよね。それは、入学当初の須藤くんを知っている者なら当然の疑問だと思う。でも、須藤くんは言ったんだ。嘘をついていたらバスケ部を退部する、って」

 

 退部と聞いて、流石にクラスメイトたちも動揺した。喧嘩っ早くて、態度は良くないが、それでも須藤がバスケを真剣にやっているのは全員が知っている。

 

「須藤くんがバスケに真摯に取り組んでいるのはみんな知ってるよね。その須藤くんが退部を賭けてまで、今回の事件で自分は手を出していないと言ったの。これを私は嘘だとは思えないし、思いたくない」

 

 櫛田もクラスメイトの良心に投げかけるように言葉を紡いだ。こうなると、須藤のことを信じない層も、須藤のことを信じたくなってくるだろう。

 

「改めて聞くね。もしこのクラスに……ううん、このクラス以外でも、友達とか先輩たちの中に見たって人がいたら教えて欲しいの。いつでも連絡下さい。よろしくお願いします」

 

 櫛田がクラスの皆に頭を下げると同時に、佐倉がまた顔を伏せていた。手を上げたくても、周りの目が怖くて上げられないのだろう。

 

 原作では須藤の素行の悪さから、信じない生徒達から不満が吹き出ることがあったが、この世界ではある程度クラスポイントがあることや、須藤が態度を改める努力をしているのを知っている人もいるので、そこまで大きく不満が出ていない。むしろ、クラスのために尽力している櫛田やオレに好意的な意見があるくらいだった。

 

「俺、信じたい。そりゃ、須藤は喧嘩っ早かったし、よく相手の殴り方なんかをレクチャーしてたけど、五月に俺や山内と一緒にクラスのポイントを減らしてからは、そういう行動を止めるように努力してたの知ってるからさ」

「そうだな。むしろ、俺たちが信じてやらなきゃ、誰が須藤を信じるんだっていう話だぜ」

 

 須藤がメンタルトレーニングを頑張っているのを知っている三馬鹿の二人も賛成に回ったことで、クラスからポツポツと賛成の意見が出てくる。

 

「僕も信じるよ。須藤くんがCクラスに嵌められたんだったとしたら、これはもう須藤くんだけの問題じゃない。僕ら全員で協力をしなきゃいけない問題だ」

「あたしもさんせー! 濡れ衣だったら問題だし、無実だっていうなら可哀想じゃない」

 

 クラス内でも発言力の高い平田と軽井沢までもが賛成側に回ったことで、クラスが完全に団結し始めた。各自知り合いに連絡を取ってみると口々に話している。

 

「待って。確かに、須藤くんはハメられたのかもしれない。けれど、この問題の本質はそこではないわ」

 

 だが、クラスが賛成で纏ろうとした瞬間、堀北がそう言って立ち上がった。

 

「どういうこと、堀北さん?」

「みんなが須藤くんのために奔走するのは自由よ。それを止める権利は私にはない。けれど、どうして今回彼が事件に巻き込まれたのか、その根本を解決しない限り、この問題はまた繰り返されるだけだわ」

「その、根本って……?」

「今回の件、本当に殴ったかどうかは関係ないの。彼が人を殴るというイメージを持っている。それだけで問題が起きるキッカケとなり得るのよ」

 

 そう言って、堀北は昨日オレが説明したのと同じことを話し始める。

 

「気に入らない相手には暴言を吐く。手を出す。そんな印象がある人間が冤罪だと言っても普通は信じられないでしょう? 今は櫛田さんが理論立てて説明してくれたから全員納得しているけれど、その前は彼が本当に殴ったかを疑っていた人は少なくないはずよ」

 

 堀北の言葉を聞いて、何人かの生徒が目を逸らした。実際に、疑問の声を上げた奴もいたので言い返せないのだろう。

 

 事実、学校側がCクラスからの被害届を受理したのも、須藤なら殴ってもおかしくないという印象があったからに違いない。

 

「普段の行いや積み重ねが、こういう事態を招いた。仮に、ここで彼を救ったとして、この印象を変えない限り、この問題は再び起こるわ。そこをどう考えているのか、出来ればそこでふんぞり返っている本人から聞きたいのだけれど?」

 

 と、挑発するように堀北が言葉を上げる。須藤は「10秒」と呟いて怒りを耐えていた。

 

「……これだけ言って、よく黙っていられるわね。ハッキリ言わないとわからないようだから言わせてもらうけれど、どちらが先に仕掛けたのかは些細な違いでしかないわ。問題は、あなたの普段の行動のせいでクラスに被害が出そうになっているという点よ」

 

 耐える須藤を追撃する堀北。

 

 対する須藤は、今にも飛びかかりそうになるのを必死に耐えている。今までなら間違いなく喧嘩になっていた。が、これだけ耐えられれば十分と言っていいだろう。

 

「堀北、お前は須藤が中間テストから今までの態度を改善しているのを知っているはずだ」

 

 須藤に代わり、オレが声を上げる。今の須藤は耐えるので一杯一杯で、理論立てて話すことも出来ないだろうしな。

 

「そうね、そこは認めるわ。けど、実際にこういう問題が起こった以上、彼の努力が足りなかった。そういうことでしょう?」

「違うな。足りなかったのは努力ではなく時間だ。お前は何も気づいていないのか? 今、こうしてお前の挑発を受けている須藤が、必死に怒りを耐えていることに」

 

 握りしめた拳は爪が食い込んで血が出ている。それでも、須藤は堀北に殴り掛からなかった。

 

「確かに、お前の指摘は間違っていない。元は須藤の態度が悪かったからこそ起きた問題だ。だが、須藤はそれを改善しようとしていた。もし、問題が起きたのが、数か月後ならばこの問題はここまで大きくはなっていなかっただろう。それは今の須藤の姿が、まさに証明しているはずだ」

 

 須藤は喧嘩っ早い――という印象が、須藤は喧嘩っ早かったに変わるにはもう少し時間がいる。けど、それは努力だけではどうしようもない問題だ。人の印象が変わるには、どうしたって時間がかかる。

 

「お前は須藤が何も理解していないような口振りだったが、お前こそ須藤の何を知っている? 今の須藤の努力を見ずに、偏見でものを口にするだけなら、Cクラスの冤罪と何も変わらないぞ」

「……綾小路、もういい。ありがとな」

 

 堀北に反論していると、ようやく怒りを飲み込んだ須藤が立ち上がった。そして、クラスメイトたちの姿を確認するなり、真っすぐに頭を下げていく。

 

「悪い、俺のせいでみんなに迷惑かけてる。ちょっと前までの俺は確かにお世辞にも良い態度じゃなかったかもしれねぇ。すぐにキレて、今までクラスに迷惑かけまくってた。でも、これからはもうキレねぇ。喧嘩も卒業する。だから……助けてくれ。頼む。このまま泣き寝入りなんてしたくねぇんだ」

 

 原作のように、自分が悪くないなどとは思っていない。堀北の言っていた問題など、須藤はしっかり理解していた。

 

 あの須藤が頭を下げてまで頼み込む姿は、クラスメイトたちの良心をくすぐるだろう。「当然だぜ」、「手伝うよ」、そういう声が、クラス中から上がっていく。

 

「堀北、これを見ても、まだ須藤を信じられないか?」

「……本人が問題を理解しているのは認めるわ。改善されるかどうかまではわからないけれど、変わろうとしているのも」

 

 そう言うと、堀北は再び席に座った。

 

 須藤は変わった。しかし、自分自身は何も変わっていない。見下していた須藤が、自分よりも前に行ったことで、堀北はまた一つ、精神的に追い詰められていく。

 

 だが、追い詰められているのは堀北だけではない。今回の事件を見ていたであろう佐倉もまた、須藤が変わったのを見て、自分も変わりたいという決意を胸に秘めていた――そのことをオレが知ったのは、この日の放課後のことだった。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・須藤の事件を聞いてクラスメイトたちが全面的に協力の意思を見せた。
 原作では須藤の素行が悪いせいでボロクソに言われるが、この世界では中間試験から態度改善に乗り出しているため、クラスメイトたちも割と信じてくれている。

・堀北が率先して須藤の問題点を上げた。
 別に嫌がらせではなく、堀北なりに須藤の問題点を気にした結果。しかし、須藤が自己弁護しないことで少しいつもの口が悪い癖が出ている。そのせいもあって、またクラスメイトからの印象が悪くなった。

・須藤が頭を下げた。
 俺は悪くねぇ! と、アクゼリュス崩落の原因を認めなかった原作と違って、さっさと断髪式して罪を認めた(自分の喧嘩っ早さを認めて謝罪した)。

・佐倉が須藤をずっと見ていた。
 原作通り、佐倉は現場にいたが、手を挙げるのが怖くて縮こまっていた。そんな中、クラスメイトの批判を受けながらも自分の非を認め、受け入れられた須藤を見て、自分も変わりたいという意思が芽生えている。



 今話の登場人物一覧


・綾小路清隆
 須藤を擁護しながら堀北を追い詰めている。成長した須藤と、成長していない堀北というのが今回の本題。

・堀北鈴音
 須藤の行動を咎めたら、須藤自らがその罪を認めたことで憤りをぶつける場所をなくしている。須藤が成長したのに、自分は何も変わっていないということを、何となくわかってしまうが故に精神的に追い詰められている。

・櫛田桔梗
 クラスメイトたちの説得に回った。原作よりも櫛田がリーダーとして表に出ていること、須藤の態度が改善されていることで、クラスメイトたちの協力も簡単に得られている。

・佐倉愛里
 須藤のために動きたいと思っているが、大勢の前で目立つことを恐れて動けずにいる。そんな中、須藤の謝罪を見て凄いと感じた。

・茶柱佐枝
 原作よりも須藤が悪くないので、Dクラスにも配慮している。

・軽井沢恵
 クラスが須藤を助ける動きをしているので、とりあえず乗っている。

・須藤健
 自分の非を認めてクラスで頭を下げた。アニメのジャイアンが、劇場版になった感じ。

・平田洋介
 須藤が冤罪をかけられて絶対に解決したいと奮起している┌(^o^┐)┐


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