♯072 『信頼と言う名の副産物』
文化祭が終了し、体育祭で手に入れたCPを含め、2年はAクラスが1318、Bクラスが1006、Cクラスが819、Dクラスが700――と、CクラスとDクラスが追い上げを見せる結果となっている。
ぶっちゃけ、そんなことよりもオレは文化祭の次の日に行ったメイドさんスペシャルコースの方が楽しかったのだが、どうやらBクラスのセフレたちはCクラスに負けたこともあって最初の方は元気がなかった。
勿論、祭りが始まれば、そんなこと関係ないとばかりに楽しんでいたようだが、やはりわかっていてもオレのクラス移動は受け入れられるものではないらしい。別にクラスが変わった所で関係性が変わる訳じゃないから、今までと大きく変わるとも思えないんだけどな。
そんなこんなで、明けの月曜日。
文化祭でのBクラス対Cクラスの戦いの結果、勝利したCクラスはオレこと綾小路清隆のクラス移動を要求。
本来であれば不可能なその要求も、クラス間移動チケットの存在のおかげで可能となり、期末試験が行われる前にオレは2年Cクラスの綾小路清隆となった――が、そこまで何も問題がなかったのかと言われればそう言う訳でもない。
セフレ以外のクラスメイト――特に、オレと親しい綾小路グループの啓誠や明人、また池や須藤なんかの意外と仲間思いな一面のあるメンツは、オレのクラス移動を強く引き留めてきた。
「待て、清隆! 確かに、俺たちは負けた……けど、クラス移動は自分の意志で行われるものだ。お前が拒否すれば向こうだって強制はできない」
「ああ、啓誠の言う通りだ。個人を景品にするような要求は拒否できるだろう」
「幸村や三宅の言う通りだ! そんな要求反故にしちまえよ!」
「そうだそうだ。ずっと一緒に戦ってきたじゃねぇか!」
勿論、強制ではないので、彼らの言う通りオレに拒絶の意志があれば移動は不可能だ。が、当然ながらオレに向こうの要求を拒否するつもりはない。
何せ、元々移動しようと思っていたのだ。この誘いは逆に有難いくらいだった。
「……前々から、オレはこのクラスにいるべきではないのではないかと考えていた」
なので、彼らをそれっぽく説得するために、心にもない適当な言い訳を並べていく。
「なっ!? 何を言ってるんだ清隆! そんなことあるはずが――」
「そうかな? この前の体育祭の結果を見ると、とてもそうは思えないよ。私も当事者だから言えた義理じゃないけど、みんな心の中で……いざとなれば清隆がなんとかしてくれるって甘えがあったんじゃない?」
啓誠の言葉を遮るように、雪が鋭い言葉を突きつける。それを聞いて、誰も反論は出来ないようでクラス内は静かになってしまった。
まぁ、あの無様な結果では文句も言えまい。
「ハッキリ言えば、オレはこのクラスをAクラスにするのはそこまで難しくないと思っている。仮に力足りずとも、協力すれば補えると思っているからだ……けど、その考えがお前たちの成長を阻害しているのなら、実力が足りていないままAクラスになって果たして本当にそれでいいのかと思うようになった」
高円寺なんかは結果的にAクラスになりさえすれば過程はどうでもいいと思うかもしれないが、あいつも何だかんだでしっかりとAクラスになるだけの能力は持っている。
しかし、オレの力だけでAクラスになっても、それに見合った力がなければ、将来苦労するのはオレの力に甘えたクラスメイトたちだ。
出来るならば、各々がAクラスになるに相応しい力を持って欲しい――と、いう適当に考えた理由を語ると、オレの本心を知るメンバー以外は感動したような様子を見せている。
当然ながら、本心――と、いうか、裏の理由としては、他クラス女子攻略のために、もうこのクラスにいる意味があまりないというのも大きかった。
「クラス移動をしても、このクラスの貯金があればすぐにでもオレを引き戻せるだろう。けど、これを機にお前たちにはオレがいなくてもAクラスになれるだけの実力を付けて欲しいんだ。オレがクラス移動をしたのが間違いだったと思わせるくらいに成長してほしい」
それとなくいいことを言うと、池や須藤が「わかったぜ、俺たちの力だけで絶対にAクラスになってやる!」、「またお前をこのクラスに引き戻してやるから覚悟しとけよ!」と、上手くこちらの掌で踊ってくれている。
これまでクラスで築き上げてきた信頼という名の思わぬ副産物が、オレをクラスの裏切り者にしてくれなかった。
「要求は受け入れる。出来ることを出来ないと嘘はつけない……それでも、お前たちがオレを仲間だと思ってくれるのであれば、いつかAクラスになってオレをまたクラス移動させてくれ」
と、言って、オレはクラスを移動した。
何だかんだAクラスとはCP差がそこそこあるし、2年の間にオレがまたクラス移動することは多分ないだろう。その間に、他クラスの女子との交流を深めていかないとな。
また、雪もオレのクラス間移動と共に、Cクラスへの移動を願い、こちらもクラス移動チケットを使用することで受理された。
オレと雪のCクラスへのクラス移動は瞬く間に学校内に周知され、Cクラスからは大歓迎で受け入れられている。オレだけでなく雪まで移動することに、Bクラスのメンバーはかなり動揺していたが、雪の性格を知る友人たちはそこまで驚いていなかった。
他のクラスメイトたちも、Aクラスになる難易度が上がって、必要なPPが4000万になっただけ――と、思ったよりも前向きに考えてくれているらしい。
まぁ、今の時点で2000万PPはあるし、頑張ればもう2000万くらい貯められると思っているのだろう。
実際、CPが豊富なおかげで月のPPはかなり余裕があるし、2000万を貯めるのは不可能という訳ではない。むしろ、Aクラスになるという条件を達成する方が難しそうだった。
何せ、これからは敵にオレがいるのだ。基本的にBクラスとCクラスは同盟を組んでいるとはいえ、オレがいなければ今までのように事は進まない。
果たして、あのクラスが坂柳や龍園を敵にしてどこまで戦えるのか。オレがあのクラスに戻れる日はやってくるのか――まぁ、原作のようにクラスメイトたちに恨みのようなものを買うことなくクラス移動できたので、最悪は戻らなくても問題はないのだが。
とはいえ、Bクラスの手綱を手放す気はないので、裏ではしっかりとオレがあのクラスを支配したままだった。しかし、星之宮はオレというキーパーソンを手に入れて死ぬほど喜ぶ姿を見せている。
逆に佐枝は、オレを奪われたことにショックを受けていたが、また取り返せばいいとやる気を見せていた。もうクラス間移動チケットはないが、PPは何とかなりそうなので、自分が星之宮に勝ちさえすればいいのだと別の方向でも気合が入っている。
実際、佐枝が星之宮――いや、知恵に勝つことがあれば、クラス移動をし直すのも検討しても良かった。それだけ二人の差は今現在だと隔絶したものがある。
しかし、隔絶しているのは二人の夜の技能差だけでなく、オレと雪がCクラスに移動したことによって発生した各クラス間の学力の変化もそうだった。
改めて、文化祭が終了してすぐにクラスを移動したので、オレと雪はCクラスで期末試験を受けることになる。
当然ながら、その結果はCクラスに反映されるため、これまでとはクラス間の学力の平均が大きく変化することになった。ただでさえ、成績のいいCクラスにオレと雪の力が足されたらどうなるのか――
◇◆
――そんなこんなで始まった期末試験。
途中でしっかりと和風メイドさんプレイを楽しみつつも、オレと雪は早速と言わんばかりにCクラスで実力を発揮することとなった。
去年はペーパーシャッフルが期末試験に被って特別試験として扱われたが、今年の期末試験はもっとシンプルなルールで行われる。
基本的にはいつもの期末試験と同じで、学校側が作成したテストに挑み、クラスの平均点が高いクラスが勝利という簡単なものだ。1位のクラスは50CP、2位のクラスは25CP、3位のクラスは-25CP、4位のクラスは-50CPと、そこまで大きくはないがCPも変動する。
また、今回の赤点は全教科の平均点で39点以下を取ることとなっており、当然ながら赤点を取れば退学になってしまう。しかし、今回の期末テストはどの教科も授業を真面目に受けていれば、決して赤点を取るような難易度にはなっていなかった。
結果だけを先に言ってしまうと、どのクラスも赤点を取って退学になる生徒は出ていない。
しかし、学年での順は大きく変化しており、いつもならば1位は坂柳率いるAクラスだが、今回の試験での1位はオレと雪のいる2年Cクラスだった。
2位は僅差で2年Aクラス。
3位はオレと雪が抜けたことでガクッと平均点が下がった2年Bクラス。そして、最下位はこの手の試験を得意としていない龍園のいる2年Dクラスとなった。
これにより、CPはAクラスが1343、Bクラスが981、Cクラスが869、Dクラスが650とさらに変動していく。
変わらずAクラスが独走する状態ではあるが、BクラスとCクラスはCPの差が112とかなり詰まる結果となっていた。
勿論、無人島サバイバル試験前に星之宮と新規契約を交わしたことで、これまでCクラスにCPを融通するように動いたのも影響しているが、目に見えて差がなくなってきたことで知恵も一層オレに忠誠を誓う素振りを見せている。
「はーい! じゃあ、期末試験の振り返りはここまで! ここからはみんなが楽しみにしている修学旅行について――の前に、ちょっとみんなにやって貰うことがありまーす!」
と、期末試験についてクラスでも振り返っていると、あからさまに機嫌のいい知恵がモニターに表示された映像を見ろと声を上げた。
しかし、こうして改めてCクラスの一員としているのはまだ少し慣れなくてむず痒いな。
普段だと、池なんかがすぐに質問を飛ばすことも有り、静かに教師の話を聞いているのは違和感を覚える。いや、これが正しい姿なのはわかるのだが――
「はい、注目。今、モニターやタブレットにも表示されているその表には、2年Cクラス……つまりはこのクラスの生徒一覧が載ってるの。名前と性別の横にある小さな番号と書かれた項目に空欄があるのはわかるわよね? そこに、クラスの人数である“42”人から自分を除いた41番までを振ってほしいの」
やけに、42を強調するな。それだけオレや雪がこのクラスに移籍したのが嬉しいのだろう。
ちなみに、前方のモニターと、オレたちのタブレットに表示されているのは全く同じものであり、氏名、性別、番号の3項目が並んでいる。その内、使命と性別は既に埋まっており、知恵の言う通り番号と書かれた箇所だけ空欄だった。
「あっ、同じ番号は二回使えないから注意してね。まずは、わかりやすく自分の名前の番号欄に『本人』って打ち込んでみて」
原作通りならば、これを基準に修学旅行のメンバーが決定される。原作のメンバーは、桔梗、龍園、西野、鬼頭、山村、渡辺、津辺だが、オレが帆波クラスにクラス移動したことでその辺りのメンバーも変わってくるかもしれない。
そもそも、原作にいない雪がいたり、退学しているはずの愛里や真鍋が無事だったり、逆に退学していないはずの時任や橋本が退学していることから、既に原作とはかなり流れが変わってしまっていた。
それにより、どうメンバーの組み合わせが変わるかは、流石のオレにも予想がつかない。
「今からつけて貰う番号の意味だけど、これは自分から見た相手への評価だと思って。単純に能力が高いとか、尊敬しているからとか、仲がいいからとか、面白いからとか、とにかく自分の基準に照らし合わせてプラスの評価をして欲しいの」
つまり、仲間に順位を付けろということだ。
それを聞いて、今まで黙っていた帆波が、質問と言わんばかりに綺麗に手を上げる。
「先生。それは、最近クラス移動してきた綾小路くんや椿さんはどうなるんでしょうか? 勿論、私たちは彼らを仲間だと思っていますが、やはりまだ来たばかりでまだわからないことも多いのは確かです」
「そうね。でも、そこもあなたたちの主観で決めて欲しいの。もしかしたら気付いている人も居るかもしれないけど、この順位付けはこのクラスだけじゃなくて2年全体でやって貰う予定なんだ。中には話したことすらない生徒もいるかもしれないけど、それもそのままの認識で決めて――あっ、ちなみにOAAを見るのは禁止だからね」
「つまり、綾小路くんと椿さんの評価は、現時点で私たちの認識している情報から判断してつけろ……ってことですね」
「他のクラスの子もね。そうやって、全員に番号を割り振って欲しいの。勿論、ここでどんな番号を割り振ったか一切生徒たちには情報を漏らさないし、私たち担任教師でもどう評価したかは見られないから安心して」
質問が終わると、帆波は静かに席に座り直した。前のクラスであれば、ここらで私語は禁止と注意することが多いが、このクラスはわざわざそんなことを言わなくてもいいくらいに態度がいい。改めて、クラスのレベルの違いを見せつけられたような気がした。
「これを今から制限時間1時間以内に終わらせること。万が一、時間内に終わらなかった場合は修学旅行の説明時間を削ることになるから頑張ってねー」
と、知恵の応援を受けながら、改めて全員がタブレットに他人の総評を記入し始める。
しかし、帆波が言ったこともそうだが、逆を言えばオレや雪もこのクラスのことを全員知っている訳ではなかった。OAAの内容は記憶しているので名前や能力は知っているが、実際にどういう人間なのかをしっかり把握している訳ではない。
まぁ、でもこのクラスなら帆波が1番なのは間違いないだろう。オレの評価は帆波より雪の方が上なので1番は雪だが、多分雪の方も1番はオレの名前を書いているはずだ。
続けて2番に帆波、3番に小橋、4番に姫野、5番に白波――と、オレと関係を持った生徒を上位に書いていき、そこから6番に神崎、7番に柴田とスペックが高い生徒を男女問わずに羅列していく。
おそらくだが、雪もOAAの内容は暗記しているはずなので、オレが1番以降はOAAの成績順に適当に番号を振っていると見た。あいつは、オレ以外の人間に興味がないから、この手の作業は悩まない分オレより早い。
実際、40分が経過して、全てのクラスの生徒の評価を記入し終えて顔を上げると、既に雪は記入を終えて退屈そうに首を左右に振っていた。まぁ、だろうな。
原作との変化点。
・クラスメイトたちに引き留められた。
セフレたちは既に納得済みではあるが、他のメンバーは何となく察していてもやはり引き留めてきた。清隆本人は、自分にここまで人望があったことに驚いている。が、おかげで円満にクラス移動が出来た。馬鹿は乗せやすくて助かる。
・メイドさんプレイ。
文化祭後から衣装を返すまで愉しんでいる。本文には記載しなかったが、衣装を交換しても楽しんでいるため、実はかなりの回数楽しんだ。
・期末試験。
元々帆波クラスは坂柳クラスに僅差レベルだったが、そこに清隆と雪の学力A+(カンスト)組が来たことでパワーバランスが変化した。流石の坂柳も、清隆と雪の二人がかりではどうしようもない。もし、ここに橋本がいたら、「やっぱ、綾小路を引き入れるべきだったんだって!」と騒いでいただろう。
・修学旅行の準備。
原作と違って、帆波クラスで説明を受けている。もはや、修学旅行の組み合わせがどうなるかは清隆にもわからない状態。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
元のクラスとは円満に終わった。正直、言いくるめるのは難しくなく、あまりのチョロさに少し心配している。
・椿雪
清隆と一緒で機嫌がとてもいい。
・一之瀬帆波
クラスに移動してきた清隆と雪を歓迎している。当然ながら、帆波も事前にクラス移動については清隆から説明を受けており、クラスメイトにも表向きの事情を説明済なので全員が大喜びで2人を迎え入れた。地味に一番喜んでいるのは神崎。
・星之宮知恵
佐枝を出し抜けて人生の絶頂中。与えられた飴の甘さに溺れながら、より一層の忠誠を誓っている。
・幸村輝彦
啓誠。綾小路グループ解散の危機に引き留めに出たが、清隆と雪に言いくるめられた。自分が無意識に清隆に依存していたと言われて何も言い返せなかったからこそ成長を誓っている。
・三宅明人
清隆のことは仲間だと思っているし、引き留めた気持ちも本当だが、心のどこかで清隆がクラス移動したことにホッとしている節がある。とはいえ、それで恋が実る訳ではないのだが。
・須藤健
クラスの光。お前がこのクラスの柱になれ。
・池寛治
実は彼女が寝取れつつあるが、気付かずに犯人を引き留めている。しかし、池から見れば清隆は恩人なのでそれも当たり前のことではあった。