ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯073 『修学旅行について』

「はーい。全員、終わったみたいね。じゃあ、以上でリスト作成は終わり。これから修学旅行について話していくわよー」

 

 と、知恵がテンション高く告げると、ようやく重苦しい空気から解放されたとばかりにCクラスのメンバーからも「待ってましたー!」、「楽しみー!」という声が上がる。

 先程までは全員が真剣な表情で話を聞いていたが、こういうオンオフの付け方もCクラス――と、いうか、帆波クラスの色なのだろう。ひと昔前の佐枝なら、静かにしろと一喝する場面だが、知恵もノリノリで「いえーい!」とクラスの空気に乗っていた。

 

「まずは、前の特別試験である満場一致試験で選んだ各クラスの結果を表示するわね」

 

 修学旅行の行先である北海道・沖縄・京都を三つの中から一つを選んだあの問題の結果か。

 あの時はまだクラス移動前で、オレが沖縄に入れておきながら京都代表としてじゃんけんをするという意味不明な行動をしたが、最終的にはひよりと組んだ真澄の策略で原作通りの北海道になったはずだ。

 

 他のクラスが原作と動きが大きく変わっていないのであれば、おそらくは北海道で変わりはないと思うが――

 

「――各クラスの選択の結果。3票を獲得した北海道が修学旅行先に決定!!」

 

 そう知恵が声を上げると、クラス中から歓びの声が上がる。どうやら、帆波クラスもあの時の選択は北海道に決めたらしい。

 

「はーい、みんな落ち着いてー! わかってると思うけど、修学旅行はただの旅行じゃなくていろいろな見分を広げるための旅行だからね。一般的な高校と違って守ってもらうルールも多いし、あまりはしゃぎ過ぎるとペナルティを受けるから注意してねー!」

 

 ペナルティと聞いて、それまで騒々しかったクラスの面々がまた真剣な表情を浮かべる。

 

「星之宮先生。それは、修学旅行中にも特別試験が行われるということでしょうか?」

 

 先程のリスト作成の時のように帆波がクラスを代表して質問の声を飛ばすが、それを聞いた知恵は一瞬キョトンとした表情を浮かべると、すぐに笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「あー、違う違う。安心して、CPを競うような特別試験はないから。ただ、単純にうちの学校はルールが厳しいから、下手をすると自由行動できなくなるよって意味。心配させてごめんね?」

 

 知恵が可愛くそう謝ると、クラス中からホッとしたように安堵の息が漏れる。ペナルティとは言ったが、いわばルールを破ると自由な行動が封じられるという、どこの学校でもあるような注意だったらしい。

 

「詳しい説明に入る前に、まずは4泊5日のスケジュールについて確認するよ」

 

 と、改めてモニターに、修学旅行のスケジュール一覧が表示されていく。

 

 

【修学旅行スケジュール】

 

・1日目

 学校を出発→羽田空港→新千歳空港→スキー場到着&講習→スキー→旅館へ

 

・2日目

 終日自由行動

 

・3日目

 札幌市中心街にて観光スポット巡り→旅館へ

 

・4日目

 終日自由行動※条件有り

 

・5日目

 帰路

 

 

 こうして見てみると、意外と自由行動が多いのと、初日は詳しく移動が書かれているのに最終日だけは帰路のみなのはどうかとも思ったが、基本的に原作とスケジュールは大きく変わっていなさそうだった。

 

「これだけみると、そんなに特別なルールがあるようには見えないかもしれないけど、今回の修学旅行のテーマは『敵を知り己を知れば百戦危うからず』なんだよね」

 

 そう、知恵が意味深な笑みを浮かべる。

 

 一応、説明する必要すらないと思うが、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』というのは、戦う相手や自分のことを理解していればどんな戦いにも負けないという意味の諺だ。とはいえ、それが――

 

「それが修学旅行とどう繋がるのか? って顔してるねー」

 

 流石に教師だけあって知恵も、一年半担任を務めた生徒の考えくらいはお見通しのようだった。実際、それが修学旅行とどう繋がるのかは謎だ。

 

「ほら。普通の学校なら、学年で最大160人しか生徒がいない場合、もっと交友関係が広まってるでしょ? でも、うちの学校はクラス同士での競い合いって仕組みのせいでそういう関係作りが出来ていない。ううん、もっと言うと悪化してる」

 

 いきなり、君たちはクラス以外の人と仲良くないでしょう――と、言われ、クラスメイトたちも反論できずにいる。このクラスで唯一反論できそうなのは、それこそ帆波くらいだが、当の帆波もここで話を途切れさせるのではなく素直に話の続きを黙って聞いていた。

 

 とはいえ、各クラスの関係性の悪さについては、オレも地味に気にしていた部分ではある。

 特にこの世界では、原作と動きが変化した結果、帆波クラスと龍園クラスは交流断絶状態であり5月の事件では坂柳クラスとも揉めかけた。

 

 まぁ、5月の件は、無人島サバイバル試験の際に桔梗が各クラスを駆け回って仲裁した結果、龍園クラス程の大きな亀裂にはならなかったが、このクラスが鈴音クラス以外の各クラスにしこりのようなものがあるのは事実だろう。

 

「みんなにとって一番大事なのは、勿論Aクラスで卒業できるかどうかだと思うけど、それだけだとどうしても日頃の学校生活で他クラスの生徒のことを知る機会はおのずと限られてしまう。この修学旅行では、そういう確執を取り除くのが目的なの」

 

 そこまで言うと、雪や帆波のような一部の頭のいい生徒は知恵が何を言おうとしているのか理解したようで、各々独自に表情を変化させている。雪は嫌そうな顔、帆波は納得したような表情だった。

 

「結論を言うと、普通の修学旅行ではクラス内で複数のグループを作って行動するのが一般的だけど、今回の修学旅行ではグループはクラス内だけじゃなくて学年全体からグループを作りまーす! これを機会に、みんな仲良くなりましょー!」

 

 と、言うが、知恵自身もそんなことに意味があるのかは懐疑的な様子だ。こいつ自身、自分がAクラスで卒業できるなら、他人の犠牲など気にしないタイプだし、各クラスで仲良くなる必要性など感じてはいないのだろう。

 

 とはいえ、仲良くなるというより敵情視察という面で言えば、この修学旅行は相手クラスの実情を知るチャンスではあった。オレには原作知識があるが、やはり生の声というのは戦う上では大きな武器になると言って良い。

 

「ありゃー、一気にテンション下がっちゃったねー」

「そりゃそうですよ。もし龍園なんかと組むことになったら、楽しい修学旅行が一転してただの地獄ですって」

 

 柴田が嫌悪感を隠さずにストレートに龍園の名前を上げる。原作ではここまでの確執はなかったが、柴田ほどではないにしろ、やはり知らない相手と一緒に修学旅行に参加しても楽しめるかは怪しいというのはクラス共通のようだった。

 

「まぁ、言いたいことはわからなくもないけど、こればっかりは学校が決めたことだからね。私は決まり事を説明するだけ――ってことで、話を続けるわよ。修学旅行の間は、各クラスの生徒を平等にグループ分けすることになってるの。1つのグループは基本8名構成で、各クラスの男女がそれぞれ1名ずつ選出されると思って貰えばわかりやすいかな」

 

 とはいえ、原作同様に今の2年生の総数は156名であり、8では割り切れない。そのため、8人グループを18、6人グループを2つ作ることで調整するとのこと。

 ここまでは原作通り――だが、この世界では退学しているのが全員男子の為、男女の人数はどうしたって偏りが出そうだった。しかし、これはどうしようもないだろう。

 

 と、思っていると、モニターやタブレットに、新たにグループでのルールが追加表示される。

 

 

【グループ行動が必要な状況】

・現地において学校が指定する場合

・自由行動

 

【グループ行動が不要な状況】

・宿泊先施設内

 

 

 これを見る限り、原作通りに基本的にはグループでの行動が多く決められており、クラスメイトと交流できるのは宿泊先の施設内だけといって良いだろう。

 つまり運よく同じグループになれない限りオレと一緒に行動できないということであり、そんな都合よく同じグループになれないとわかっているからか、今の段階で雪はすでに修学旅行への興味を無くしていた。

 

「北海道に到着し次第、グループで行動。自由行動も、個人が好き勝手するのは禁止で、グループ内で話し合って行動すること。もし、話し合いで行き先が纏まらない場合は旅館から出られないから注意してね」

 

 それこそ、意見が食い違うことがあれば、どこにも行けない可能性も十分あるということだ。

 

「唯一、宿泊先の施設内ではグループで行動しなくても大丈夫だから、クラスで行動するならこの時間かな。施設内は自由行動が許可されて、好きな時間に大浴場に行ってもいいし、部屋でくつろいでも遊んでもいいし、食事だって既定の時間内なら自由にしてOKよ!」

 

 これまで苦痛としか思えないようなルールが羅列されて、雪だけでなくクラス内にもかなり重苦しい空気が漂っていたが、ようやく気分が変わるような楽しい決まりが聞かされてクラス内に少しだが笑みが戻っていく。

 

「ちなみに、もしグループ単位での行動が守られていないと判断した場合、さっき言った通り自由行動が剥奪されるかもしれないから注意してね」

 

 高円寺のように自分勝手に行動するようなタイプには死ぬほど効果的なルールだが、それであの自由人の行動が縛れるかどうかは疑問が出る。

 まぁ、このクラスは基本的に良い子ちゃんが多いし、自分勝手に行動するという観点からすれば問題はないだろう。とはいえ、それも組み合わせ次第なので、他クラスの問題児と組んだ場合、どうなるかは謎と言って良かった。

 

「最後に、グループ分けの方法についてだけど、ランダムじゃなくてさっき作って貰った表を基に作成します。また、普段使用している携帯もそのまま使用してOK。ただ、電話をかけていい範囲は変わらないから注意してね。学校は発信履歴も管理しているから、下手に外部に連絡を取ったら……って、これ以上は野暮か。とりあえず、注意してねー」

 

 緊急時に警察や救急への発信は認められているが、それ以外の家族や学校外への人間へ連絡するのは変わらず禁止。もし破れば退学の可能性もあるだろう。

 

 もう1年半もこの学校にいるのだ。わざわざ言葉にしなくても、全員が理解していた。

 

「はい、じゃあこれで説明終わり。わからない所や質問がある人ー!」

 

 と、知恵が声を上げると、神崎が手を上げた。

 

「はい、神崎くん」

「今回の修学旅行のグループ分けは、自分のクラス以外の生徒との交流を図るため……という理解であっていますか?」

「そうね、その認識で問題ないわ」

「では、旅行中にずっとグループ行動をするのは疑問があります。他クラスの生徒との交流を図るのであれば、グループはこまめに変えるべきでは?」

「もっともな指摘ね。実際、学校側としても、日替わりのローテーションでグループを分けるべきという意見もあったわ。でも、今の各クラスの関係性では1日で関係が深まるか怪しいというのが学校側の意見なの」

 

 つまり、君達が仲良くないから、1日でローテーションしても効果がないでしょう――と、いうことだ。

 

「無為に大勢と触れあえば相手を知れる訳じゃないしね。1日じゃ上辺の付き合いが精々でしょ? それなら、4泊で仲良くなる時間を作るべきっていうのが学校側の結論よ」

「……理解しました」

 

 神崎としては、4日で他クラス――特に龍園クラスとの溝が修復されるかは怪しい部分があるのだろう。とはいえ、これ以上、知恵にくってかかっても意味がないので、とりあえず矛を収めたという感じだった。これも、理解と納得は違うといういい例だな。

 

「意見、いいですか?」

 

 このまま微妙な空気のまま終わらせてもいいが、一応能力を期待されて引き込まれた以上、最低限のフォローはすべきだろうということで手を上げる。

 

「どうぞ、綾小路くん」

「みんなの言いたいことも良くわかる。雪や帆波のように、他クラスに友人が多くいる生徒にしてみれば、どんなグループを組まされても仲良く過ごせるかもしれない。逆に、オレのように友人の少ない者にしてみれば、こういう時は苦しいことになりかねない――でも、オレはこれをチャンスだと考えている」

 

 ぶっちゃけ、仲良くしろという気など欠片もなかった。オレ自身もそうだが、知恵も本心ではそんなことを望んではいない。

 しかし、他クラスと関われるこの機会は、この先戦っていく上で情報収集としては最高と言って良かった。どうせ無理をするなら、クラスの為に無理をするという意識の方が苦痛は少ないだろう。

 

「オレは綺麗事を言うつもりはない。だからハッキリ言う。この修学旅行は、他クラスの情報を引き出すいいチャンスだ。4日間、相手に寄り添えば向こうは勝手に心を開いて、オレたちの知らない情報を話してくれる可能性がある。そうなれば、この先の特別試験でも有利に立てる」

 

 だから、媚びへつらってでも相手を立てろ。それが後々、このクラスがAクラスになるための力になる――そう言うと、苦痛だと思っていたグループ行動が、クラスの為の情報収集という認識に変わり、クラスメイトたちの表情も少し明るくなった。

 

 運よく、楽しい班になれればそれはそれでよし。そうでない場合は、もう情報収集と割り切ってしまった方が心持ちも変わって来る。

 

「情報は武器だ。それこそ、たいしたことないと思うような世間話が、クラスを勝利に導く可能性だってある」

 

 誰が誰を好きだ。こいつは地味に、あいつが嫌いだ。そんなどうでもいい話ですら、相手に亀裂を入れる一手になりかねない。

 元々、クラスへの想いが人一倍強いこのクラスだからこそ、クラスの為という大義名分さえ用意してやれば、忌避感を減らすのはそう難しいことではなかった。

 

「……綾小路の言う通りだ。この修学旅行は特別試験ではないが、この修学旅行で相手の情報を得られれば、この先の戦いを優位に進めることが出来る」

「そうだね。勿論、本当に仲良くなれるのが理想ではあるけど、友達になるのと情報を集めるのは矛盾しないし、清隆くんの言うことは正しいと思う」

 

 神崎や帆波が、感銘を受けたようにオレの言葉を聞いて拍手を送ってきた。それにつられて、クラス中からオレへの称賛の声が送られる。

 やはり、綾小路を引き抜いてよかった――そういう風に思わせるくらいのことは出来たらしい。これで、次の特別試験でもオレの意見は聞いて貰える下地は出来ただろう。

 

 雪としても、オレが目立つのは嬉しいようで、先程までの暗い表情が一転して笑顔で、クラスメイトたちと一緒にオレへ拍手を送っていた。

 

 

 




 原作との変化点。

・修学旅行の説明を受けた。
 基本的な説明に変更はない。ただ、雪や帆波は、グループ分けの仕組みにすぐに気付いたため、特に雪は清隆と組めない可能性が高いとわかって面白くなさそうな顔をしている。

・クラスに戦術を与えた。
 原作の龍園、坂柳同様に、他クラスからの情報収集の場でもあると教え込んだ。やる気のない雪も仕事を与えられてやる気を出している。


 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 鈴音クラスと帆波クラスの違いを見ながら楽しんでいる。

・椿雪
 清隆と一緒になれなくてちょっとショック。

・一之瀬帆波
 クラスが安定しているのが嬉しい。清隆と同じ班になれなさそうなのは少し残念に思っている。

・星之宮知恵
 修学旅行はCPに関係ないので、こいつも息抜き予定。

・神崎隆二
 何やかんや質問していたが、要は龍園と同じ班になりたくないだけ。自分が子供のように嫌がっているのを自覚して一歩引いた。

・柴田颯
 原作でもそうだが、言いたいことは割と口にする。


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