天沢と七瀬に、原作通りお土産はチョコレートのコーティングされたポテトという要望を貰いつつ、何だかんだ修学旅行の日はすぐにやってきた。
学校からクラス毎にバスに乗り、そのまま羽田空港へ向かい、飛行機で新千歳空港に降り立つ。そこから現地のバスに乗って初日のスキー場へ行く訳なのだが――その当日の朝、オレは学校から送られてきたグループの一覧を確認した。
そこには、原作の6番とは違う8番グループに、オレや班員となる生徒たちの名前が記載されているのだが、そのメンツは意外な纏まりを見せている。
Aクラスからは鬼頭隼人、白石飛鳥。
Bクラスからは幸村輝彦、櫛田桔梗。
Cクラスからはオレと、網倉麻子。
Dクラスからは龍園翔に、西野武子。
ぶっちゃけ、もっと大々的に変わるかと思ったが、半数以上は原作通りと言って良かった。
原作ではOAAを基準に番号を振っていたオレだが、この世界ではオレと肉体関係がある生徒を上位に名前を書き、そこからOAAを基準に適当に番号を振り分けて書いている。
また、雪がいることや、オレ自身が原作違って能力を制限していないこと。既にCクラスに移動していることも含めて、もっとグループ分けにも変化があると睨んでいたのだが、実際は山村と白石が入れ替わり渡辺の代わりに啓誠が入っただけという微妙な変化だった。
いや、正直、山村とはもう坂柳を通じて会話をする程度には関係性を作っているので、まだとっかかりのない白石と組めたのは死ぬほど有難いのだが、こうもドンピシャで狙っている女が同じグループになるのはどこか作為的なものを感じなくもない――
と、思いながらバスに乗って移動していく。
原作通り、バスは4台あり、クラス毎に乗車して羽田空港まで向かう。オレは少し前にクラス移動したので、この修学旅行ではCクラスのバスに乗って移動する。
これがBクラスなら、オレの周辺に座るセフレたちが喧嘩を始める場面だが、Cクラスはまだそこまで深いセフレも多くないということもあって、雪が隣で反対側に帆波という形で落ち着いていた。
道中もまた他愛ない世間話をしていたのだが、どうもオレと帆波が付き合っているというのはもう嘘だとバレてしまっているようで、一応は付き合っているという状況にも関わらず、「やっぱ、椿さんと付き合ってるの?」と、割とノンデリな質問も飛び交っている。
帆波が「ちょっと! 一応、私と清隆くん、付き合ってるんですけど!?」と声を上げるも、クラスメイトたちも、「あー、はいはい」と言うような様子で簡単に流していた。
こりゃ、もう完全に意味がなくなってるな。
一応、念のために「もう付き合ってるって言うのやめるか?」とも聞いたが、何故か帆波はプクーっと頬を膨らませるだけで、「絶対やめない」と何やら怒っている。雪が「無駄な意地張らなくてもいいのに」とツッコミを入れると、「張ってないもん」憤っていた。
そんなこんなで羽田空港に着き、そのまま新千歳空港まで空の旅を楽しむと、ここからは遂にグループ行動の時間となる。
1番~5番までのグループはAクラス担任の真嶋が、6番~10番までのグループはBクラス担任の佐枝が、11番~15番までのグループをCクラス担任の知恵が、16番~20番までをDクラス担任の坂上が担当することとなり、オレと網倉は佐枝の元へと向かった。
「グループが全員揃った所から席決めを行うように。それぞれに割り振られた席を話し合って決めてくれ」
ここからはまたバスに乗ってスキー場へ移動となるが、席はもう決まっているようで、指定された8席にどう座るかを話し合いで決めろと言われる。
まずはグループメンバーが揃わないとどうしようもないな――と、考えていると、背後から近づいてくる気配を感じた。が、特に敵意などは感じないので気付いていないふりをしていると、ポンと優しく肩を手で叩かれる。
「一緒のグループになったみたいだね、綾小路くん」
振り返ると、そう声をかけてきたのは桔梗だった。オレと一緒のグループだということでわかりやすく喜んでいる。また、その近くには啓誠もおり、「よろしくな清隆」と、クラスが違えど変わらぬ様子で声をかけてきてくれた。
「桔梗も啓誠も久しぶりだな。実際、クラスが別れてからそこまで時間は経っていないはずなんだが……」
「それだけ常に一緒に居たということだ。愛里や波瑠加も寂しがっているし、たまにはチャットだけじゃなくてリアルでも顔を出せ」
「悪いな、Cクラスに馴染むのに必死だった」
「居心地が悪いならすぐに帰ってこい。うちはいつでも大歓迎だ」
啓誠としても半分は冗談だろうが、それを聞いた網倉が、下手にこのまま話を続けさせると里心が着くと思ったようでグイッと割と強引にこちらの腕を引いてきた。
「お生憎様。うちのクラスでも綾小路くんは大人気なんだから。ねっ、綾小路くん」
「……まぁ、良くしてはくれているな」
まるで自分たちのものだと言わんばかりに、網倉がこちらの腕を抱きしめてくる。意外に網倉もいいおもちを持っている――と、考えていると、桔梗がジト目を向けてきた。
げふんげふん、別に腕に幸せを感じてなどない。
と、心の中で意味のない言い訳をしていると、網倉と啓誠の牽制もそこそこに、Aクラスから鬼頭と白石がやってきた。が、声をかける気がないのか、二人とも静かにしている。
「鬼頭。白石も、今日からよろしく頼む」
とはいえ、このまま何も話さないのは時間が勿体ないので、何度か顔を合わせたことのある鬼頭に話しかけるフリをして、白石にも挨拶をしていった。
鬼頭は特に返事をしなかったが、白石は「よろしくお願いします」と頭を下げてくる。そのやり取りを見て、他のメンバーもAクラスが来たことに気付いたようで、とりあえず意地の張り合いを止めにし、各々挨拶を始めていた。
これで後は、Dクラスだけ――と、思っていると、西野が姿を見せ、そこから少し遅れて龍園もやって来る。
「おはよう西野さん。それから龍園くんも」
当然ながら、この世界では桔梗の正体はバレていないので、いつものように仮面を被った笑顔で桔梗がDクラスの二人に声をかけにいく。啓誠や網倉、白石もそれに続いた。
「……よろしく」
しかし、西野は少し緊張した様子を見せている。一応、桔梗とも面識があるはずだが、他のメンバーとはそれほど交流がないせいか少し人見知り気味だった。
龍園の方はそもそも返事をするつもりがないようで、他のメンバーと少し距離を取ったまま黙ってこちらを見ている。
「じゃあ、全員揃ったみたいだし、早速だけど席を決めていこっか」
と、桔梗が当たり前のように仕切り始めた。
こういう時、たまに意味もなく反発する生徒もいるが、基本的に桔梗は人当たりが良い善人で通っていることも有り、誰も桔梗の言葉に口を挟む様子を見せない。あの龍園ですら、黙って様子を見ているだけだった。
「どうする? なにか席の希望とかあるかな?」
「やっぱり、男子は男子。女子は女子で固まるのがいいんじゃない? 最初だし、いきなり知らない異性と隣になるのも微妙でしょ?」
桔梗の言葉に乗っかるように、網倉がそう意見を出す。本心としては龍園の隣は避けたいということだろう。
「他のみんなはどう? 異論ないかな?」
桔梗がそう確認を取りながら、目で「なんとかして」と訴えてくる。どうやらオレの隣に座りたいようだが、流石にこの状況では男女で一緒に座ろうとは言えない。
オレだって出来れば白石とコミュニケーションを取りたいが、ここで変に下心を匂わさずに女子と座れるような都合のいい意見は出せなかった。黙って首を横に振ると、桔梗もすぐに諦めたように首を竦める。
「じゃあ、女子は女子。男子は男子で話し合って貰う方向性でいいかな?」
暗に、龍園は任せた――と言われ、桔梗が女子を連れて席についていく。残されたオレと啓誠は、どうにかしてこの組み合わせで最善を見つける必要があった。
「で、どうするんだ清隆」
「オレはどこでもいい。とりあえず、各自意見を聞かせてくれ」
と、ここまで一言も話さない所か、一歩も動く気もない龍園と鬼頭に声をかける。
「俺は龍園の隣でなければ文句はない」
鬼頭はボソッとそう呟いた。原作でもこの二人は特に仲がいい訳ではなかったし、こうなるのは最初から分かっていたと言える。
「龍園は特に意見はないんだな?」
一応、声をかけてみるが、特に希望はないようで黙ってどこか別の方向を見たままだった。
「じゃあ、鬼頭と龍園は分けよう。啓誠、どっちの隣が良い?」
「俺が選んでもいいのか?」
「正直、オレはどっちでもいい」
「……なら、鬼頭で。どうも、龍園の隣は落ち着きそうもないからな」
実際、鬼頭は顔こそ怖いが、黙っていれば大人しそうなやつだ。今も、最低限の会話だけしかしないし、バスの中で落ち着きたいなら龍園よりも鬼頭だろう――と、いうことで、意見が纏まったので男子も席に座っていく。
「不本意かもしれないが、このバスではオレが隣だ。一応、出来る限りの配慮として、窓際を譲ろうと思うんだが、それで文句はないか?」
「好きにしろ」
原作通り、龍園としてもこの修学旅行は情報収集の場として割り切っているのだろう。とはいえ、原作と違い、学年末試験で龍園と坂柳は戦わない。組み合わせは、AクラスVSCクラス、BクラスVSDクラスなので、龍園の相手はオレのいない鈴音クラスとなる。
「しかし、お前がCクラスに移動するとはな」
「予想外だったか?」
席に座ると、これまで黙っていた龍園が話しかけてくる、視線こそ窓の外に向けているが、声の感じからしても興味はしっかり持っているようだ。
「いや、結局。あのクラスの裏にお前がいるのは変わらねぇ。メインのクラスが変わったってだけだろ」
「そう見えるならそうかもしれないが、学年末試験でお前と鈴音の邪魔をするつもりはないから安心しろ」
案にオレが手を出すつもりはないと告げると、龍園も少し意外だと言わんばかりの様子を見せる。
「いいのか? お前が手を出さないと、鈴音に勝ち目はないぞ」
「どうも、オレはあのクラスを甘やかしすぎていた。オレがあまり手を出し過ぎると、あいつらはあれ以上成長しない」
「クラスの成長を促すために、一年半つるんだ仲間を捨てるとはな……」
「まだ卒業までは時間がある。もしかしたら、またオレが成長したあのクラスに戻ることだってあるかもしれない」
「逆を言えば、別のクラスに移動することだってあり得る……ってことか?」
「なんだ? 引き抜きか?」
「お前を顎で使うのも悪くなさそうってだけだ」
と、話していると、全員が揃ったとらしくバスが動き出した。引率である佐枝が話を始めたことで、龍園との話も途中で遮られてしまったが、龍園としても別に本気で言っている訳ではないだろう。
変に蒸し返す気もないようで、そのまま各々が軽い自己紹介をしてバスに揺られること約30分――少しずつではあるが、グループ同士で雑談をするような様子が見受けられた。
桔梗のようにコミュニケーション能力が高い生徒を筆頭に、適当な世間話レベルではあるがちらほら話し声が聞こえてくる。そんな中、何か思い出したかのように龍園も、変わらず窓の外を向いたまま再びこちらに声をかけてきた。
「そういえば、あの1年と揉めてるらしいじゃねぇか」
あの1年――と、言われ、最初は誰のことかわからなかった。宝泉かそれとも八神か、石上か。ぶっちゃけ、オレと揉め事を起こす1年は意外と多い。
とはいえ、宝泉ならゴリラと呼ぶだろうし、石上はそもそも目立とうとするタイプではないので、消去法で龍園のいうあの1年とは八神のことだと推察する。
「別に揉めているのはあいつとだけじゃない。今はもう解決したが、一時期は1年全員がオレの敵だった」
「お前を退学させたら2000万なんていう面白いゲームか。俺も参加したかったぜ」
肘をついたまま外を見ているので表情は見えないが、さも楽しいと言わんばかりの声色だった。実際、もし龍園があのゲームに参加していたら、攻略難易度はかなり上がっていただろう。
「だが、もうそのゲームも主催者がいなくなってなくなっちまったんだろ? けど、八神はまだお前を狙っている」
「あいつとはちょっとした知り合いでな。昔から何かと張り合ってくるんだ」
「知り合いねぇ……飄々とした様子だが、底知れない何かを感じた。お前の弟だと言われても俺は驚かねぇぞ」
確証がある訳ではなさそうだが、どうやら龍園は原作とは違った理屈でオレと八神の関係性を疑っているらしい。
思えば、去年の冬に龍園にはオレの本気を少し見せている。その時の威圧感から、ホワイトルーム生独特の空気感というのを、感覚的に理解しつつあるのかもしれない。
「残念ながら、オレは一人っ子だ」
「そうかい。まぁ、オレとしては、お前と八神のぶつかり合いを見るのも一興だと思ってる」
「他学年と関わる特別試験はそう多くない。それよりも、お前もオレも、今はクラスの状況をどうにかした方がいいんじゃないか?」
龍園クラスのCPは650。対するAである坂柳クラスのCPは1343と二倍以上の差がある。うちのクラスは869と約400CP差、龍園クラスに至ってはBクラスも981と約350CP差があり、今は坂柳クラスの独走を許しているという形だ。
しかし、そんなの関係ないと言わんばかりに笑う龍園の表情がバスの窓に反射する。
「ハッ、坂柳のクラスは、確かに今はトップだがもう手足がもがれかけてる。お前の女の神室に、うちの葛城、そして橋本……不穏分子を処分したと言えば聞こえはいいが、能力のある生徒を次々と切って、あいつの手元にはもうろくな戦力も残っちゃいねぇのさ」
一応、クラス内投票で退学した戸塚のことも名前を出してやれ。可哀想だろう。まぁ、別にどうでもいいが。
「だが、その分、クラス間の結束力は上がってきている。今までのように、坂柳だけを警戒していると痛い目を見るかもしれないぞ?」
「あの坂柳が、本心で心を許せるような人間がいるとでも? あいつは俺と同類だ。どこまで行っても、他人と分かり合うような人間じゃない」
どうかな? その偏屈な坂柳の心を、また偏屈な女が切り崩しつつある。龍園にとって、その読み違えが致命傷にならなきゃいいけどな。
「まぁいい。どの道、坂柳とやるのはもう少し先の話だ」
修学旅行が終われば冬休みに入り、残る期間は3か月。その間に行われる特別試験は、学年末試験を含めても2つか3つくらいだと思っているのだろう。学年末試験で鈴音クラスと戦う以上、残る特別試験はその前哨戦扱いと言った所か。
まぁ、原作知識のあるオレは、冬休み前に協力型筆記テストがあることや、新年度に生存と脱落の特別試験を行ってから学年末試験をするという流れを知っているが、流石に堂々と披露は出来ないのでここは黙って龍園の話に頷いておく。
また、敢えて龍園は口に出さなかったが、あいつが学年末試験で鈴音クラスと戦うということは、自ずと坂柳とオレが戦うということでもあった。
とはいえ、オレは去年の学年末試験で坂柳に勝っていることもあり、今更勝算はあるのか――なんて野暮なことを聞く気にはならなかったのだろう。実際、今の所、特に対策は考えていないが、負けるつもりは毛頭ないしな。
また勝って、見事なおしがまを披露させるつもりだ。
原作との変化点。
・修学旅行の班が変わった。
とはいえ、変化したのは白石と啓誠だけ。ついでに班の番号が違うが、清隆が考えたほどの変化は起きていない。
・龍園と話をした。
関係性が原作と違うので、話の内容も大きく変化している。龍園は龍園で、八神の異常さを感じ取っている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
修学旅行が始まって少しワクワクしている。これを機に白石攻略とはいかずとも距離を詰めたいと考えている。
・椿雪
新千歳までは修学旅行を楽しんだ。ここからは仕事と割り切っている。
・一之瀬帆波
自分と清隆が恋人だと全く信じられていなくて膨れている。
・櫛田桔梗
清隆と同じグループで死ぬほどハッピー。
・西野武子
地味に、清隆と同じグループで内心ガッツポーズしている。
・網倉麻子
自分が清隆を守らないとと使命に駆られている。が、それはそれとして、龍園の隣は嫌なので逃げた。
・白石飛鳥
七瀬ばりに攻略が難しい。とりあえず、白銀先生is誰?
・幸村輝彦
原作と違って関係が変化していないのでクラスが変わっても仲良しのまま。
・鬼頭隼人
別に仲良しではないが、知らない相手でもないレベルの関係。当然、話をするのは今回が初めて。
・龍園翔
意外と話をした。とはいえ、半分は探りだったが。