SIDE:櫛田桔梗
この修学旅行で、クラス移動した綾小路くんと同じ班になれたのはラッキーだった。
ラッキーついでに、今抱えていた悩みを相談してみたが、どうやら彼は私を捨てるつもりではなさそうでホッと一安心している。
相変わらず、表情から何を考えているかはわからないが、私に期待してくれているというのは本当のようだった。
一日目の行動が終わり、Aクラスの六角さんから恥ずかしいから一緒に来て欲しいと頼まれてやってきた露天風呂に入りながら考えを纏めていく。
彼は本当にクラスの成長を考えているのだろうか? いつもの気まぐれで、誰かを狙うついでにクラスが成長すればいい程度の考えのような気もするが、実際にクラス移動をしてしまった以上は私も今までとは立ち回りを変えないといけない。
ハッキリ言おう。
このクラスのリーダーとして、私は力不足だ。
彼は私を褒めてくれたが、誰よりも私が私のことを一番よく知っている。櫛田桔梗という女は、言ってしまえば器用貧乏で、人よりも承認欲求が強いだけ――それが、本質。
今までクラスのリーダーをやってこられたのも、裏で綾小路くんが支えてくれたからだった。
去年の5月にリーダーという大役を任されたが、最初の中間テストや須藤くんの事件、無人島試験や船上試験、ペーパーシャッフルや混合合宿、学年末試験に至るまで、私は彼の指示でリーダーを演じていたに過ぎない。
それは2年に上がってからも同じだ。4月に宝泉や七瀬が2年生のフロアに来た時も私はただしてやられるだけだったし、無人島試験も彼の指示で動いていただけに過ぎない。
満場一致試験でも最終的にクラスを纏めたのは彼であり、体育祭や文化祭に至っては彼の意志に従って堀北を中心に動くようにした。私は何一つとして自分で動いてはいないのだ。
「……これで自信を持てというのは無理だよ」
「ん? 何か言った櫛田さん?」
「ううん。温泉が気持ちいいなぁって……」
とはいえ、泣き言ばかりも言っていられない。彼が私を信じてくれると言ったのだ。私もその期待に応えなくてはいけない。
今までの通りに彼の人形として動くだけでは足りないというのなら、その足りない部分を別のピースで埋める必要があった。
そして、そのために必要なピースこそ――
「あ、堀北さん」
――今、露天風呂にやってきた堀北鈴音だ。
軽く手を振ると、向こうも頭を下げて端の方に向かった。おそらく、私が六角さんと一緒に居るから気を使ったのだろう。
いや、仮に私が一人だったとしても、あいつが私の傍に座るということはなかった。何故なら、あいつは私が自分を嫌っていると知っているからだ。
表向き、誰とでも仲よくしようとしている私が言うのもなんだが、人間どうしても合わない相手は存在すると思っている。
私にとって、それが堀北だ。
向こうはきっと私のことなど何とも思っていないのかもしれない。中学で起こした事件のことだって、もう忘れてしまっているだろう。それでも、私の黒歴史を知っているというだけで、私はこいつのことが好きではなかった。
いや、そうじゃない。
私の持っていないものを持っているから、私はこいつが嫌いなんだ。私が望んでも手に入らないものを持っているこいつが、心底羨ましい。
こうして言い訳せずに自分と向き合ってわかった。ずっと私は堀北に嫉妬していたんだ。
勉強も出来て、運動も出来て、本来ならクラスを率いるだけのカリスマも持ち合わせている。私が持ち合わせていない全てをこいつは持っていた。だから、気に入らないんだ。
「……どうして六角さんと出なかったの? 盛り上がっているように見えたけど?」
「そう見えたなら、まずは眼科に行った方がいいよ。私は合わせてただけ……ってか、考え事しててそれ所じゃなかったし」
気が付けば六角はいなくなっていた。いや、「上がるね」と言われて見送ったのは覚えている。
だが、今は六角のことなんかより、この女をどう利用するか――どうすれば綾小路くんの期待に応えられるのかを考える方が重要だった。
「それにしても、そっちから声をかけてくるなんで珍しいね。もしかして、体育祭、文化祭と二連敗して慰めて欲しかった?」
「……別にそんなことは思っていないわよ」
「なら良かった。私の慰め方だと、可愛い可愛い鈴音ちゃんは泣いて嬉ションしちゃうもんね」
「今日は、珍しく良く喋るのね」
確かに、ご主人様を交えてなら普通に会話もするが、こうして二人で会話することなど基本的にはそう多くなかったか。
「あなたは、本当に交友関係が広いのね。私なんて、六角さんとは話をしたこともないわ」
「あいつが恥ずかしいから一緒に来て欲しいって泣きついてきただけ。まぁ、あんな貧相な体してるんだから無理ないけど」
と、誰も居ないことを良いことに毒を吐きながら、視線を改めて堀北に向ける。
「あんたは当然だけど、流石に整ってる……ってか、少し大きくなった? 去年とは明らかにボリュームが違うように見えるけど」
「……最近、サイズが一つ上になったわ」
胸は揉めば大きくなるというが、この一年間ご主人様に触られ続けて育ったのかもしれない。かくいう私も、この一年でサイズが一つ上になった。
「何? 私に何かするつもり? ここが公共の場だということはわかっていると思うけれど」
私が少し距離を詰めると、胸を隠すかのように体を横に向ける。とはいえ、流石の私もこんな場所でおっぱじめるつもりはない。
「何もないよ。ただ、距離が不自然に空いてるのも変じゃない? 私と堀北さんはクラスメイト同士。本来の私なら、もっと詰めて話をしていないと変でしょ?」
六角がいるならともかく、今は私と堀北しかいないのだ。この広い露天風呂で、露骨に距離を開けていれば新しくやってきた来訪者に不仲だと思われる危険がある。
「あなたは本当に凄いわね……それだけの苦労をして、今の関係性を作って維持する。改めて、それがどれだけ大変なことかが分かった気がする……」
「は? 何それ、馬鹿にしてんの?」
「本心よ。あなたは私にないものをたくさん持っている。ご主人様が、あなたにクラスを託した意味がよくわかったわ……私じゃ、あのクラスは支えられない」
「……意味わかんない。そうやって柄にもなくしおらしくすれば、まさか私が優しくするとでも? てか、その私が世界一不幸ですみたいな顔止めてくれる? 鬱陶しいから」
駄目だ。ご主人様には歩み寄れと言われたが、口を開けば憎まれ口しか出てこなかった。
「あんたさ、マジで気付かない訳? ご主人様が本当に期待してんのはあんただってことに……クラスを移動したのも、あんたを成長させるためだってことに……!」
他の誰がわからなくても、私にはわかるのだ。勿論、私に期待してくれているというのは嘘ではない。
でも、彼が本当に成長を望んでいるのは、私ではなくこの女なのだ。選ばれたのはこいつであって、私ではない。
「何を……? クラス移動が私のため?」
「あんたのためって言うと、ちょっと言い過ぎか……本当の目的はいつもの女漁り。でも、そのついでに、自分のいなくなったクラスを率いさせて経験を積ませようくらいには考えてるはずだよ」
どうしてそんなことをさせようとしているのかわからないと言わんばかりに、堀北が不思議そうな表情を浮かべる。
こいつはなんでわからないのだろう。こんなにも恵まれているのに、私が欲しいものを全部持っているというのに、今自分は負けたショックでそれ所ではないです――みたいな顔をしているのが心底気に入らない。
「いい? あのクラスはご主人様のもので、私たちはその駒。でも、主がいなくなった今、代わりにその駒を動かす指揮者がいる。でも、指揮者だけじゃ盤面は動かせない」
「それはわかるけど、桔梗さんがいるじゃない……」
「そうだけど! そうじゃなくて……あー、マジで死ぬほどムカつく! なんで、私がこいつのお守りみたいなことしなくちゃいけないのよ。ご主人様はね――」
と、ここで露天風呂に誰かが入ってきたのがわかった。咄嗟に視線を向け、話を一時中断する。
同時に、ガラリと引き戸が開かれると、そこにいたのは肩にフェイスタオルをかけた伊吹だった。
「あ、堀北!」
「……またあなたなの、今度は何の用?」
話を中断させられたこともそうだが、体育祭で負けた相手ということで堀北も少し邪険にした様子だ。
しかし、伊吹はそんなの気にしないと言わんばかりに近づいてくると、そのまま飛び込むように露天風呂に入って来た。当然、近くにいた私や堀北にもお湯が飛び散り、もう話し所ではなくなる。
「盛大なマナー違反よ」
「知らないし、そんなことより勝負よ勝負!」
「勝負って……こんなところで何を競うのよ。じゃんけんでもするつもり?」
「はぁ? 泳ぐに決まってんでしょ! こんなに広いお風呂なんだから、どっちが早く端から端まで泳げるか勝負よ!」
「……泳ぐのは飛び込む以上にマナー違反と言っていいわね」
どうも自分の知らない間に堀北と伊吹は仲良くなったらしい。いや、仲良くなったというよりは伊吹が一方的にじゃれているだけだが、堀北も心なしか態度が他の人を相手にするよりも気安かった。
「いいんじゃない? 一般のお客さんがいる訳でもないんだし、やるなら私が公平に見てあげるけど」
「あなたまで何を言い出すのよ……」
普段の私なら止めに入る場面だが、伊吹はご主人様の奴隷の一人でもある。本性を見せなければ、多少はっちゃけても問題はない。
「櫛田も良いって言うなら勝負よ!」
「しないわよ」
「はぁ? せっかく勝負できると思ってこっちに来たのに。損した」
「……あなた、体育祭で勝ったじゃない。それで満足ではないの?」
「あの時の勝負は2勝2敗で引き分けでしょ。私はその決着を付けたいだけ」
と、言いながら伊吹がさっさと湯船から出ていく。勝負が出来ないなら興味はないと、引き戸が強く閉められた。何のために露天風呂に来たんだか。
「バカだねー、伊吹さんって」
「引き分けね……結果や内容を見ても、誰がどう見ても彼女の完勝なのに。物好きな人……」
「つか、あんたもいつまで昔の負け引き摺ってんのよ」
確かに、今まで大きな負けがなかったからこそ体育祭の敗北が気になる気持ちはわからなくはない。でも、終わったことをいつまでも気にしたって何も始まらなかった。
「体育祭だけじゃないわ。文化祭も、私は負けた……」
「……その、私のせいで負けましたって言う態度がムカつくんだけど。体育祭も文化祭も、別にあんた一人のせいで負けた訳じゃない。自意識過剰過ぎじゃない?」
「そう、かしら……?」
「あんた、今までご主人様の何を見てきたの? あの人はいつも、全部を一人でやろうとはしてなかったでしょ。使えるものを全部使って勝てる盤面を作ってきた。あんたはただ一人で何でもやろうとしてから回ってるだけ」
自分一人でクラスを支えようなんてのは驕りだ。いくらこいつが期待されていても、こいつはご主人様の代わりにはなれないし、私もこいつにそんなことは求めてなどいない。
「それにしても、あんたって本当に運がいいよね」
「運? 一体何の話……?」
「入学して早々、綾小路くんが隣の席だったこと。もし、隣が綾小路くんじゃなければ、あんたは多分一生腐ったまま終わってた。今みたいに、チャンスを貰う機会だってなかったんじゃない?」
それこそ、無人島試験で奴隷にせずそのまま精神を叩き壊して、ただの駒として扱われていた可能性だってあった。
まぁ、堀北の容姿やスタイルを考えれば、ご主人様が堀北のことをずっと放置するなんて有り得ないだろうけど――
「そう、ね。確かに、クラスの運営に関わらせて貰えたのも彼のおかげ……それが幸運だったと言われれば否定はできない」
「なら、そのチャンスを逃すなって話。まだ全部終わった訳じゃないでしょ。私たちにはこの先、約1年ちょっとの時間が残されている……違う?」
「……違わない。でも、どうすればいいか――」
これからどうすればいいか、なんて私だってわかっていない。そんなものは自分で解決するしかないのだ。
私も、改めて立ち回りを考えた――ご主人様は、鈴音を使えと言った。それは、私に出来ないことがあれば、こいつに任せろという意味だ。
堀北が成長しようがしまいが、こいつの力も使って私がクラスを導いていかないといけない。多分、ご主人様が望んだ形は、私たちのどちらかが欠けても駄目なはずだから。
だから、こいつにはここで多少なりとも立ち直って貰う必要があった。私のために。
「……まぁ、それとこの女と和解するのはまた別の話だけどね」
「ごめんなさい、聞き取れなかったわ。何か言ったかしら?」
「うん。とりあえず、甘えんなって言ったのメス豚ちゃん」
でも、これ以上、堀北を励ますような言葉を続けられなかった。そもそも、私はこの女の親でも友達でもなんでもないのだ。
ただ女王様とメス豚の関係ってだけ。ご主人様の頼みだったから、多少は歩み寄ってやったけど、これ以上の譲歩をするつもりはなかった。
後はもう一人で勝手に考えればいい。
と、言ってお風呂から出られれば良かったのだが、何というか先に出たら負けな気がして動けずにいる。どうも、堀北も同じ気持ちなのか、もう話すつもりもないだろうに一向に立つ様子を見せなかった。
「……お邪魔しまーす」
そんな2人きりの時間が終わったのは、伊吹が去ってから少しした頃。Cクラスリーダーの帆波ちゃんが、遠慮がちに露天風呂に姿を見せたタイミングだった。
「帆波ちゃん一人? なんだか珍しいね」
「あはは……ちょっと、何となくね」
「誰にだって一人になりたい時くらいあるんじゃないかしら。お邪魔なら行くわ」
堀北もはやりそろそろ限界だったようで入れ替わるように立ち上がる。顔が大分赤くなっているし、タイミングとしては帆波ちゃんの介入は渡りに船と言えた。
「あ、ううん! 全然そういうのじゃなくって! 気にしないで……っていっても、二人からすると私は敵みたいなものだし気になるよね……」
「別に敵だなんて思ってないよ。あのクラス移動は、元々ご主人様が決めたことだったんだし」
「そうね。仮にあの勝負がなかったとしても、あの人はクラス移動していた。別にあなたを恨む理由はないわ」
と、自分で話して自分で落ち込む帆波ちゃんをフォローしていると、堀北もまた上がり時を見失ったようで近くの岩場に腰を下ろした。そのまま、プチ女子会が始まる。
「逆に聞きたかったんだけど、あの文化祭の賭けって帆波ちゃんの提案? それともご主人様の提案?」
「私の提案だよ。正確には、私と星之宮先生。ご主人様がクラス移動チケットを欲しがってたのは知ってたから、橋渡しをしてあげたらいいんじゃないかって」
「負けたらどうするつもりだったのかな?」
「その時はBクラスの言うことを聞いてたんじゃない? 退学しろーとか言われない限りは素直に要求に聞いていたと思うけど」
「あ、そうじゃなくて、ご主人様がどうするつもりだったのかなって」
結果的に私たちは負けてしまった訳だけど、何かが違えば勝っていた可能性は十分にあった。その場合、彼はどう言い訳してCクラスに移動するつもりだったのだろう。
「そうだね、修学旅行前の移動はしなかったんじゃないかな? 移動する気はあると思うから、最終的にはクラス移動を選択したとは思うけど……」
「そうね。クラス移動チケットの期間は、2学期が終わるまでの間。まだ使う時間は残っているし、ほとぼりが冷めてからしれっと移動していた可能性は十分あるわ」
この3人が集まれば、話の中心は当然ご主人様になる。そのまま流れるように、彼の話は続いた。
「そういえばさ……二人とも聞いてくれる? ここに来るまでのバスの中で、清隆くんってば大人気でさ。『誰か付き合ってる人とかいるの?』とか、聞かれてるの。隣に、彼女役の私がいるんですけどって話だよ……」
「自分で役って言ってしまっているじゃない。もう、形だけの恋人なのは2年共通の事実よ」
「そうだね。恋に疎そうな堀北さんすら知ってるんだもん。それはもう諦めた方がいいと思うよ」
「……絶対諦めないもん」
「っていうか、帆波ちゃんは誰か好きな人とかいないの? クラスメイトとか?」
「ええっ、いないよー。ってか、いたとしたら清隆くんとの関係続けてないと思うし」
まぁ、ご主人様って有望株を知ってしまえば、他の男子に魅力を感じなくなる気持ちはわからなくはない。
「まぁ、だよね。最近、いろいろなクラスの男子から、帆波ちゃんと綾小路くんの関係を無視してでもアタックしたいって相談を受けるからさ。一応、聞いてみよっかなって」
「あぁ、そういえば私も桔梗ちゃんのこと、男子からいっぱい聞かれるよ。フリーなのかとか、どんな相手が好きなのかとか」
「夢見がちな男子諸君には申し訳ないけど、私の心を動かしたいならご主人様以上のスペックになってから出直してきてもらわないと無理かなぁ……」
「つまり、一生無理ってことね。ご愁傷様」
「そう言う堀北さんは? 惚れた腫れたみたいな話ないの?」
「ないわ」
「そうなんだ。堀北さんもモテそうだけどなぁ。ほら、須藤くんとか親しそうな感じもするし」
「須藤くんは……どうかな。ちょっとタイミング的に話題にするのは可哀想っていうか」
「須藤くんには小野寺さんって言う立派な彼女がいるわ。それに、私も何だかんだあなたたちと同じで、もう理想像が出来上がってしまっているから」
結局、私たちはもう彼から逃げられないということだった――と、思っていると、堀北は今度こそ切り上げ時だと思ったようで立ち上がろうとする。
が、どうもその表情にはまだ迷いのようなものが見えた。こいつ、まだうじうじ悩んでるのか。こうなったらもう実力行使でわからせるしかないかもしれない。
「私はそろそろ行くわ」
「あ、もう行っちゃうんだ。そうだよね、いい加減限界だもんね」
「……何のことかわからないわね」
「気にしないで。熱くて限界なんだったら仕方ないよね。私としては、まだまだ堀北さんとお喋りしたかったけど無理は体に悪いもんね」
「あなた……本気?」
本気じゃなかったら、そもそも引き留めなどしなかった。帆波ちゃんが乱入して来て話が中途半端になってしまったが、私のためにもこいつには最低限ここで外面を取り繕えるくらいには立ち直って貰う必要があるのだ。
「勿論、帆波ちゃんだってそうなんじゃないかな?」
「うん。私も良かったら、もう少し堀北さんと喋りたいな。生徒会だと私的なお話をする機会ってそうないし」
ここまで言われて逃げるほど弱気にはなっていないようで、堀北は「なら、そうしましょうか」と言って再び腰を下ろした。
どうやら負け犬からメス豚に立ち直るくらいは出来たらしい。とはいえ、私も一応はBクラスのリーダーだ。そう簡単に負けるつもりはない。
「本当に平気? のぼせて倒れちゃったら大変だよ?」
「心配してくれてありがとう。でも、あなたも心配よ桔梗さん。顔も赤いようだし」
「顔が赤いのはお互い様じゃない? 恋の話をしてたんだもん」
「そうね。ご主人様が魅力的過ぎると奴隷は苦労するわ……」
そうして、私対堀北の我慢大会が始まった。
帆波ちゃんも交えて、恋愛話から普段はしないようなディープな話まで会話は続き、やがてはどうでもいいような世間話にまで話は移っている。堀北はやはり限界なようで、途中から話す側ではなく完全に聞き手に回っていた。
その後、帆波ちゃんは食事を終えてやってきた友人に呼ばれて屋内に戻っていったが、私たちは変わらず我慢比べを続けている。
さらに別の女子たちが露天風呂に押し寄せたことで、堀北とは距離を取ることになったが、それでも勝負は膠着状態に入ったまま――さらに10分程の時間が過ぎた。
「2人ともそろそろ上がった方がいいんじゃないかな? 凄く真っ赤になってるよ?」
私も堀北も意地を張り続けているのを、屋内から見ていて心配してくれたらしい帆波ちゃんが止めに入って来る。当然、引くつもりは欠片もなかった。
「だって、堀北さん」
「あなたこそ……一之瀬さんの言葉が聞こえなかったの?」
聞こえているが、それよりもプライドが勝る――のだが、ここで食事を終えた他の生徒たちが集団となって露天風呂に入ってきた。
こうなってしまっては、流石に勝負の続行は難しい。今回は引き分けということで、同時に立ち上がってこの勝負は終わりになった。
「いい湯だったね」
「本当にそうね。もう十分すぎるくらいに……」
「少しは頭が冷えたんじゃない?」
「逆に熱のせいで回らないわ……」
そう言いながら湯船を後にすると、そんな私たちの様子を見て帆波ちゃんが「二人とも何かあった?」と首を傾げている。
しかし、どうやら無理して体を張った甲斐はあったようで、最初に見た時に比べるといつもの太々しさが戻っているような気がした。
原作通りの流れではあるけど、原作とは違う関係性であるが故に会話なども変わっています。でも、澪が来て帆波が来て我慢比べする話はそのまま。
澪とは原作ほど仲良くはないけど、じゃれる程度の仲。逆に帆波とは原作よりも仲が良いのと、帆波側に悩みがほぼないから話が原作よりも弾んでいる。
鈴音と桔梗がどうなるかはまた別の機会で。