時間の限りスキーを楽しむと、19時前には旅館に戻ってきた。午後からは啓誠も合流してくれたおかげで、男女差もマシになり上手く白石ともコミュニケーションが取れている。
今日はこのままグループで食事を取ろうと約束したので、その前に大浴場を1時間程堪能すると、食堂に向かう途中で仲良く手を繋いで歩いている須藤と小野寺の姿が目に入ってきた。
須藤もこちらに気付くと、少し照れたような様子で親指を立てて来る。対する小野寺は少し恥ずかしそうに須藤の後ろに隠れていた。
どうやら、須藤は上手くやったらしい。
原作では鈴音に振られる場面だが、この世界での須藤は彼女持ちのリア充に進化していた。まぁ、元々運動神経抜群でこの一年で勉強も出来るようになり、喧嘩もしなくなった須藤がモテない方がおかしいといえばおかしいのだが。
とはいえ、オレは他人の恋路を冷やかすほど恋愛に興味はないので、軽く手を上げて返事をするとそのまま食堂に向かって再び歩き出した。
今はこのままもう少し泳がせて置いて、もっとあの二人の関係が深くなったタイミングで小野寺を呼びだそう。
まだ何でも言うことを聞く券は三枚あるもので、彼氏が出来てオレの相手を嫌がるであろう小野寺に、無理やりにでもオレと須藤のどちらがいいかを比べさせてやる。恋愛に興味はないが、そういうプレイには興味津々だったりするのだ。
と、未来の楽しみが増えたことに満足しつつ、今日はグループで夕食を楽しんでいく。
しかし、このまま雪を放置しておくと、またストレスを貯めそうだったので、夕食の後は須藤を見習って少しデートで気晴らしをしてやった。
すると、たまたま鈴音が一人で歩いているのを見つけたので声をかける。まさか声をかけられるとは思わなかったのか、鈴音も少し動揺したような様子を見せていた。
「あ、綾小路くん、雪さん……ひ、久しぶりね」
「こんな所で何をしてるんだ?」
「少し、一人になりたくて……」
「ふむん? まだクラスを率いて戦う覚悟が出来ない感じ?」
雪がバッサリと鈴音に斬りかかっていく。
辻斬り顔負けの一刀で情け容赦なく鈴音の内心を切り裂くと、そのダメージを我慢するかのように鈴音も声を張り上げた。
「そ、そんなことはないわ! 綾小路くんや雪さんがクラスを移動したのも、私が甘えすぎている状況を改善させて実力を付けさせるためだってわかっているもの!」
「そうして実際にクラスを率いる立場になってみて、清隆の凄さを理解した……で、自分は本当にクラスを率いてAクラスに出来るのか不安になってる。って感じ?」
遠慮なく斬り続ける雪に、鈴音はほぼノーガードでその斬撃を受けているという状況。
流石に一年半付き合っていただけあって、雪も鈴音の心境をこれでもかというくらい簡単に見抜いている。
「だって……桔梗さんは相変わらずだし、私じゃクラスを動かせない……」
空元気もすぐに剥がされ、隠れていた本当の鈴音が顔を出す。だが、桔梗が相変わらずと思っているのは少し頂けないな。
「本当に桔梗は何も変わっていないか?」
「え?」
「何か、アクションがあったはずだ。桔梗から、お前に歩み寄ろうとする何かが……」
昨日、夜の10時まで時間をかけたのは誰の為だ? オレとの約束を伸ばしてまで、桔梗が執着する相手なんてこの場には一人しか存在しない。
「もしかして……いえ、でも、本当に?」
「鈴音。オレはお前と桔梗なら、あのクラスをAクラスに引っ張っていけると思っている。けど、お前一人では無理だ。勝ちたいなら、もっと素直に自分の気持ちを桔梗にぶつけてみろ」
「もっと、素直に……」
「桔梗ちゃんだって、このままでいいだなんて思ってないはずだよ。でも、桔梗ちゃんに歩み寄ってほしいなら、鈴音ちゃんからも歩み寄りの姿勢を見せないとね」
まぁ、本来ならこんな面倒なことをしないで、あのクラスをAクラスにすることだって出来た。実際、鈴音との契約はこいつをAクラスに連れていくことであり、こいつがオレに体を開いたのだって、全てはAクラスに行って兄に認めて貰うためだ。
しかし、この一年で鈴音を取り巻く環境は大きく変化した。兄への執着心は消え、オレへの依存心が育ち、オレと共にAクラスを目指すことを至上の喜びと感じている――事実、鈴音も仮にオレの実力不足でAクラスになれなくても文句など言わなかっただろう。
だが、それは鈴音がオレの操り人形のまま、原作のように成長しないでAクラスになるということだ。
今までなら、オレが満足ならそれでいいと思っていたが、体育祭の結果を見てオレの鈴音が原作以下というのは面白くないと感じた。クラス移動は前々から企画していたが、それを利用して鈴音や桔梗の成長を促しても面白いかもしれないと思ったのも本当だ。
「鈴音……オレは今、お前の隣にはいない。けど、お前がAクラスに進むための道は作ったつもりだ。契約違反だというなら、それを受け入れよう。だが、後はお前次第だ。お前がオレをあのクラスに連れ戻したいなら、それだけの力を示すしかない」
鈴音も、ここにいない佐枝も、契約内容はオレがあのクラスをAにすること――だが、佐枝の場合は同じ契約を知恵にしたことで勝負という形に内容が変化しているし、鈴音の場合はもうオレの力に甘える形でのAクラスは望まないだろう。
それこそ、自分の力でAクラスへ行き、オレを取り戻して一緒に卒業をする。それくらいの力を付けないと、胸を張ってオレと一緒にはいられない。そう考えているはずだ。
――否、そう考えるように思考を誘導した。
「……ええ、わかったわ!」
とはいえ、契約は白紙にはならない。
何故なら、既に鈴音は何をしてもオレから離れられない変態になっているからだ。その証拠に、「いい子だ」と軽く額にキスをしてやるだけで鈴音は体を震えさせている。
いつもなら「子ども扱いしないで」と文句を言う場面だが、クラス移動してからオレは鈴音を始め、オレのクラス移動に納得できていないセフレには手を出して来なかった。
勿論、わざとでありマンネリ化しつつあった関係に、新たな刺激を求めてのことだが、そのせいもあって鈴音側ももう我慢できずにいるらしい。
後は、美味しく頂くだけだった。
当然ながら、この旅館では個室をPPで買うことは禁止されているのでそういう行為を大っぴらに行うことはできない。
だが、教師の部屋は生徒たちと違う場所にあり、佐枝と知恵が同室なのでそこが使用できるという裏技があった。今の時間なら教師陣も仕事で部屋にいないだろうし、少しの間だけでも雪と鈴音でスッキリさせて貰うことにする。
流石に大きな声は出せないが、逆にそれが見つかってはいけないという刺激になるようで、雪も鈴音も普段はない背徳感で体をビクンと跳ねさせる。
北海道にいるというのに暑さで汗は玉のように浮かび、室内の光で部屋のふすまには背を反らして胸を弾ませる女の影が色濃く浮かび上がっていく。Tレックスも、ようやく火を噴くことが出来てとても満足していた。
◇◆
佐枝と知恵に後の片づけを任せて、オレたちは再び大浴場で汗を流して二日目を終えた。時間が短くてTレックスも物足りなさそうではあったが、久しぶりに運動できたことでスッキリした気分にはなれている。
とはいえ、他人がいる中で熟睡などできるはずもなく、今日も今日とてショートスリープ状態で元気に3日目を迎えた。朝の準備をして朝食を食べ、9時になるとバスが出発し、1時間もしない内に札幌駅の近くにバスが停車する。
当然ながら、今日もグループでの行動だが、今回は学校から指定されたルールがあった。
それは、午後5時の制限時間までに、事前に決められた15か所の目的地から、どの組み合わせでもいいので合計6か所のスポットを巡るというもの。
また、各スポットには指定された撮影場所があり、グループ全員で記念写真を撮ることで初めてそのスポットを巡ったと認められる。メンバーを各地に散らして巡ったりは出来ず、そもそものグループ行動が出来ていないグループにはクリアは出来ない仕組みだった。
ちなみに、この条件をクリアできずに失敗で終わった場合、4日目の自由行動がはく奪され、午後4時までの勉強会が旅館内で実施されるので失敗はあまりしたくはない。
また、遊び心として各スポットには得点が設定されており、6か所で合計20点以上を取ることが出来たグループは、全員が3万PPを得られる報酬が付いていた。
勿論、得点が20点に満たないからと言って失格という意味ではないので、PPを狙いに行くかどうかはそのグループ次第であり、学校側の指定したルールはあくまで時間内に6か所のスポットを回ることだけだ。
ただし、タクシーの使用だけは禁止されている。
他の公共機関の利用はOKだが、タクシーだけはかなり移動時間の短縮が出来るので駄目なのだろう。
原作では、龍園が改めて8億PPを目指すと決めたばかりなこともあって、PPを狙いに行く意思を示すが、鬼頭が当然のようにそれに反対する。
グループ内も基本的にはPP狙いはしない方針であり、最終的には4日目の自由行動を捨てる代わりに3日目に時間一杯自由行動をしようというオレの意見のおかげで、龍園が折れてPPを狙わずに各地の観光巡りをすることになったのだが――
「何かビックリしたね。この学校らしいっていうか……」
バスから降りると、桔梗が真っ先にこちらに駆けてくる。特別試験ではないので、緊張する必要はないのだが、失敗は出来ないので少し気負っている感じだ。
しかし、妙に顔というか頬が赤い気がする。上手く化粧で誤魔化しているようだが、虫にでも刺されたのだろうか?
「ちゃんとやらないと勉強会で一日が潰れる。昨日、何の制限もなく丸1日自由行動をさせてくれたのも、このスポット巡りが関係していたからなんだろうな」
とはいえ、こういうのは敢えて声に出さないのがデリカシーだとこの1年で学んでいるのでこちらから触れることはしなかった。
どうやらその判断は正解だったようで、桔梗もその件には全く触れずに今日のグループ行動についての話を続けている。とりあえず、選択肢は正解だったらしい。
「そうだね……一度、甘い蜜を吸ったら離れられないのと一緒で、昨日自由行動の楽しさを知っちゃった以上、勉強会なんて進んでしたいものじゃないし」
と、話していると、我が8グループの他のメンバーも少しずつバスから降りて来るのが見えた。
他のグループも集合を終えると、とりあえずは近場に行こうとする動きが見られる。ジッとこの場に留まっても時間の無駄だと判断したのだろう。
「やっぱり、すぐ近くにある札幌市時計台に向かうグループが多そうだね」
「歩きながら話し合いをした方が効率も良いしな。だが、込み合えば写真撮影も時間がかかる。敢えて別の場所に向かうというのも悪い手じゃない」
ルートとしては桔梗の提示した、札幌駅から時計台に向かい、大通公園からTV塔前に向かうのが最短で無駄がない。PPを気にしないなら、王道と言って良い手段だ。
「今、地図アプリで少し検索してみたんだけど、仮にタクシーが使えたとしても高得点の6か所を巡ってたら数時間は軽くかかっちゃうみたい」
最後の網倉もやってくると、時間を無駄にしないようにルートを模索してくれたみたいで、全員に見えるように携帯の画面を見せてくる。
この計算はあくまで現場に着くまでの時間であり、ここからさらに撮影場所へ行って撮影をする時間を含めると、やはりPPを狙うのはあまり現実的ではない――いや、おそらく学校側もPPを取らせるようにポイントを設定していない。
おそらく、PPという欲に惑わされず、グループ行動をしろという学校側のちょっとした試練だ。
「最短ルートなら、もしかしたらいけるのかもしれないけど、地図アプリでルートを出そうにも、どこに何があるかも良くわからないから順番が滅茶苦茶になっちゃうんだよね」
各スポットは、今居る現在地から東西南北に散らばっている。そのため、高得点を狙うなら計画的に移動する必要があり、それこそ各スポットの位置関係から調べる必要があるだろう。
それに、そこを公共機関が通っているかどうかは網倉の言う通り謎であり、車と徒歩ではかかる時間も変わって来る。おまけに、辿り着いた場所での写真撮影条件が厳しいものである可能性だって十分あった。
「労力と成果が見合わないな。これが5万、10万ならまだチャレンジしても良いが、3万では割に合わない。オレはもう報酬のことは忘れて観光地巡りを楽しむべきだと思うが?」
やはりPPを狙うとなると、ずっと走り回って移動する必要性が出てくる。それでPPが得られる確証もない以上、下手にトライするよりも楽しみを優先するのは悪くないはずだ。
「俺も清隆に同意だ」
「私も、個人的には行きたい所に行く方がいいと思う。動物園とか行きたいし」
啓誠と西野はこちら派のようで、すぐに肯定の声を返してきた。白石も、ここでPPを選ぶべきとは言わないようで、「私も、綾小路くんの意見に同意です」と乗って来る。
「それなら、みんなで行きたい所の希望を聞いて、まずは組み立ててみようよ」
と、網倉が全員の意見を求める。オレや啓誠、西野、白石は先程の通り、得点を無視する派であり、桔梗や網倉も当然のようにオレと意見を合わせてきた。
とはいえ、グループ行動である以上、多数決で結果を出す訳にもいかないので、鬼頭や龍園にも意見を聞いていく――と、鬼頭はオレたちに合わせてくれた。
後は、龍園だが――
「得点を取りに行く」
やはり、原作通りにPPを拾いに来たか。仮に8億貯める計画が有ろうと無かろうと、こいつの性格上、PPを捨てることはしてこないとはわかっていた。
こうなれば、原作通りに明日の自由行動を捨てて、今日はグループを無視した完全自由行動をすることで龍園の意見を無駄にする以外に手はないだろう――
「――と、言いたい所だが、民主主義が多数決を希望するなら、俺の意見なんて聞いたって無駄だろう。好きにしろ」
と、考えていると、龍園はすぐ掌を返してきた。
それはつまり、こちらに意見を合わせるということであり、普段からPPに固執する龍園からすれば絶対に出ないであろう言葉に思えた。
「いいのか?」
「いいも悪いもねぇだろ。個人的には落ちている金を拾わない手はねぇ……が、そうなればお前らは当然反発する。さっきお前も言ったが、労力に結果が見合ってねぇからな」
「……反発するから諦めるのか?」
「いーや、仮にお前らが反発しても強引に意見を推し進めることもできる。だが、そうなってもお前だけはオレに屈することなく、自分の意見を通してくるはずだ」
どうやら、この世界の龍園はオレの思考を先読みしたようで、原作で出すであろう結果を予測したらしい。
「お前は、オレがどうすると思ったんだ?」
「明日の自由行動を捨ててくる」
当たり前のことのように断言してきた。
「代わりに、今日のスポット巡りも完全に放棄して、ルール度外視で門限の午後9時まで個人で好き勝手に行動しようと提案するはずだ。そうなれば、俺が我を通してもPPも手に入らず、明日の自由時間も失うだけ……反発するメリットは何もない」
原作では、オレに負けたことでリーダーを降り、立ち直るまでにしばらくかかるが、この世界では俺に屈することなく戦い続けたことで読みが原作以上に磨かれている。
他にも、オレや八神のような特異な存在に対する嗅覚など、原作とはまた違った部分が成長しているようだった。これなら坂柳に勝つのも、満更不可能ではないかもしれない。
「結果がわかっている以上、ここで揉めても時間を無駄にするだけだ。だから、好きにしろって言ったんだよ」
思わぬ龍園の成長に驚かされたが、グループの意見が無事にまとまったのは悪いことではなかった。
全員が得点を無視して観光を回ることに同意したので、学校の指定した観光名所や希望が出た動物園を回りながら、のんびりと旅行を楽しんでいく。
当然ながら、集まった得点は20点を超えることはなかったが、この日も順調に網倉や白石との仲を深めることが出来た。この数日のおかげで、今ではすれ違えば軽く挨拶をして世間話をするくらいには仲良くなれている。
修学旅行もなかなかいい仕事をしてくれるが、こうして北海道を満喫した後だと、沖縄で水着を堪能するのも悪くなかったかもしれん――という、罰当たりな考えも出てきた。
原作との変化点。
・鈴音と話をした。
原作では鈴音に須藤が告白してその後に鈴音と話をするが、このSSではもう須藤が小野寺と付き合っており、関係性から会話の内容も変わっている。少し背中を押してやった。
・3日目の外出。
原作では龍園が最後まで抵抗するが、清隆の動きを先読みして白旗を上げた。原作以上に読みや直感が冴えてきている。屈しなかったが故の成長。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
Tレックスも元気になった! やっぱ、我慢は体に毒だ。
・椿雪
デートして貰ってご機嫌。ご褒美も貰った。
・堀北鈴音
桔梗の行動の意味を理解し始めた。少しずつ前を向き始めている。
・櫛田桔梗
頬が少し赤くなっていた。が、化粧で隠せる範囲内。
・西野武子
原作通り。
・網倉麻子
清隆のサポートしようと必死。
・白石飛鳥
今回は控えめにしている。余り前に出ないように軽く意見を言う程度。
・幸村輝彦
頭がいいので、すぐに清隆と同じ結果を導き出した。
・鬼頭隼人
原作では龍園の言うことなど聞かんと徹底抗戦の構えだが、思った以上に簡単に白旗を上げたので拍子抜けしている。
・龍園翔
終わりが見えているので無駄なことはしなかった。原作通り8億を貯める計画はしているのでPPは欲しかったが、自分の人望のなさもしっかり理解しているため無駄なことはしないでいる。