♯084 『今から皆さんには殺し合いをして貰います!』
修学旅行も無事に終了し、2年の2学期もそろそろ終わりが見えてきた。
とはいえ、このまま素直に冬休みに入るほどこの学校も甘くはなく、当然のように2学期の最後には、原作通りに特別試験が実施されることとなっている。
ルールは他クラスとの1対1の学力勝負であり、負けても退学などのペナルティはなし。
勝者は敗者のクラスから50CPを奪い取れるという一見すると学力の高いAクラスやCクラスが有利に思える試験だが、そんな単純な話で済むはずがなく下位クラスにもしっかりと勝てる可能性が考慮されていた。
原作の南雲曰く、この時期の特別試験は下位クラスが上位クラスに下剋上出来るように調整されている可能性があると言っていたが、それも満更推測だけとは言い切れないのかもしれない――改めて、ルール一覧が表記されていく。
【2学期末特別試験・協力型総合筆記テスト】
概要
クラス全員で全100問のテストを解く。
ルール
・予め、決めた順番で一人ずつ生徒が問題を解いていく。1人の生徒は最大5問を解くことが許されているが、成否に関わらず最低2問を解かなければいけない。
・生徒が解いた問題は成否に関係なく、別の生徒が訂正することはできない。
・各生徒に与えられる持ち時間は入退室の時間を含めて最大10分間とする。
・試験に挑戦している生徒以外は別室で待機。次の順番を待つ生徒のみが入り口の前に待機できる。
・制限時間を過ぎた場合、その生徒は失格となり点数は得られない。
・問題の回答に関するヒントや答えを書き残す、あるいは口頭で伝えるなどの行為は違反し、違反行為が判明した場合は強制的に試験を打ち切り0点とする。
・残り時間に応じて以下の特別ボーナスが加点される。
1時間以上残した場合――10点
30分以上残した場合――5点
10分以上残した場合――2点
・全ての問題は難易度に関係なく解いた者の実力によって以下の点数が与えられる(解いた者の実力は、12月1日時点のOAA学力に準ずる)。
学力A――1点
学力B――2点
学力C――3点
学力D――4点
学力E――5点
学力の表記にはA~Eまでの他に+や-も存在するが、この試験ではあくまで+-は取り扱わないらしい。
学力の高いクラスの方が不利という独特なルールではあるが、学力の低い生徒が問題を解けるかどうかはまた別問題なため、最終的にどうなるかはやってみないとわからなかった。
日程は12月22日が特別試験日。次の23日が特別試験の結果発表日兼2学期の終業式となる。
テストまでの残り期間は約3週間。しかし、オレと雪にはその特別試験以外にも行わなくてはいけない一大イベントが待ち構えていた。
この大変な時期に周囲を騒がせるのはあまり本意ではないのだが、この機を逃すともう来年まで時間が取れなさそうなので、ここが最後のチャンスと言える。
という訳で、特別試験の説明がされた日の放課後――生徒会長である雪の命令によって、鈴音と帆波が生徒会室へと呼び出された。当然ながら、オレも一緒に居り、この時点で何をするつもりなのかは想像に容易いだろう。
「今から皆さんには殺し合いをして貰います!」
と、最近一緒に見た映画のセリフで場を温めながら、雪がやってきた鈴音と帆波を笑顔で迎え入れる。当然、ギャグなのはわかっており、二人とも苦笑いを浮かべていた。
「それで、私と一之瀬さんを呼び出したということは……そういうことと判断していいのね?」
「そうだよ。前々から言ってたけど、私は生徒会長としての役目を、今期をもって終了しまーす! 次は、君の番だ!!」
ずっと背負っていた重荷を脱ぎ捨てられて雪もテンションが上がっている。しかし、当の鈴音と帆波は簡単には受け入れられないという表情を浮かべていた。
「あの、雪ちゃん。私たちじゃ、雪ちゃんの代わりは難しいと思うんだ。私にしろ、堀北さんにしろ、雪ちゃんみたいに先を見据えた指示は出せないし……」
雪はこれでも能力だけはあるので、南雲のOAAを代わりに作り上げたり、原作のようにクラス間移動チケットの発案をしたりと、これでもかと働いていた。
実際、4月の一件も雪が生徒会長だったからこそ物理的に宝泉をわからせることが出来たし、満場一致試験でも上手く学校側の譲歩を引き出せている。オレとしても雪が生徒会長でいてくれた方が楽なのは確かなのだが――
「そもそも! 私が生徒会長になったのはあくまで堀北前生徒会長の意志であり、南雲前副会長を危険視していたからであって、当の二人がいなくなった以上! もう私が生徒会長を続ける意味はありませーん!」
――やりたくないというのを無理に勧めてもメリットはない。下手にストレスを溜めて爆発されても処理が面倒だしな。
それに、鈴音にしろ帆波にしろ、どちらかが生徒会長として働いてくれるのであれば、裏でオレが支配している事実はそこまで変わらない。
「最初は堀北前生徒会長の意志を汲んで、鈴音ちゃんを会長に推薦しようかと思ったんだけど……私もクラス移動したし、それだと帆波ちゃん含めクラスへの裏切り行為になっちゃうからね。とはいえ、鈴音ちゃんへの義理もあるので、こうして集まって貰った訳」
「つまり、私と一之瀬さんで生徒会総選挙を行え……と、いうことね」
「勝った方が生徒会長ってことで。ルールとしては簡単でしょ?」
「……詳しいルールを聞いても?」
「堀北さん!?」
「一之瀬さん……こうなったら何を言っても無駄なの。あなたも同じクラスになったし、すぐにわかると思うけど……椿雪という女はね。綾小路くん以外の人間の言うことは一切聞かない人間なのよ」
オレと雪が結託している以上、何を言っても無駄だと鈴音も覚悟を決めたらしい。帆波はまだ揺れているようだが、少なくとも話を聞こうとはしてくれている。
「とはいえ、別にそんなに凄いルールがある訳じゃないよ? 基本的には私の時と一緒で、全校生徒の前で演説をしてどちらが生徒会長に相応しいかを生徒たちに判断して貰って投票。得票数が多い方が次期生徒会長って訳」
「……正直に言うわ。私は、兄の背中を追うという意味でも、生徒会長になるのは嫌という訳ではない。でも、一之瀬さんが生徒会長になっても問題ないと考えている」
生徒会長と、それ以外の役員には権限の差はあるが、それでも南雲のような危険思想がなければ帆波と一緒に生徒会を切り盛りしていけると鈴音は思っているのだろう。
「わ、私は……私だって、堀北さんが生徒会長でも問題ないと思ってるよ。生徒会長という椅子をそこまで求めてる訳じゃないし……」
そして、帆波もまた同じことを思っている。だからこそ、二人は競い合うことに前向きじゃない。
「ふむん? 思ったよりもやる気ないね」
「そもそも、私たちは雪さんに生徒会長を続けて欲しいのよ。あなたが無理やり戦わせようとしているだけであって、私たちはそんな戦いは求めていない」
「そうだね。私自身、誰かを率いるなんてタイプじゃないって自覚してる。できれば、このまま誰かをサポートする立場で居たいって言うのが本音かな」
「一応、生徒会長には後継を指名する権利がある。勿論、周囲も納得するだけの結果を残した相手という条件はあるけど、二人はそれを満たしていると言ってもいい。だから、それを望むならこっちで決めることも出来る――でも、本当にそれで後悔しない?」
雪だって別に意地悪で選挙を開こうとしている訳ではなかった。その証拠と言わんばかりに、彼女達の内心以外のポイントを厳しく追及していく。
「ここで、仮に私が帆波ちゃんを生徒会長に任命して、本当に鈴音ちゃんは後悔しない? 逆に鈴音ちゃんを生徒会長に任命したら、帆波ちゃんは後悔しない? 生徒会長はしがらみも多いけど、やれることが多いのも確かだよ。Bクラス、Cクラスを率いる二人が、本気でAクラスを目指したいなら欲しい椅子だと思わない?」
鈴音や帆波の気持ちはともかく、生徒会長という椅子が持つ力は二人ともわかっているはずだ。ここで生徒会長の椅子を手に入れられれば、Aクラスを目指すに当たって大きな一助となるのは間違いない。
鈴音としては、他クラスに渡った生徒会長という椅子を取り戻すチャンスであり、帆波からすればそれを阻止しなければいけないという状況。本人たちの意志とは別に、二人には戦わなくてはいけない理由があった。
「二人がそれで良いって言うならいいけど、後で後悔しないでね? 私は忖度しないよ。決めるなら公平にくじ引きで決める」
次期生徒会長はくじ引きで決めましたー! と、雪なら辞める時に素直に言いかねない。
結局、戦う以外の選択肢など残っていないのだ。
それがわかると、鈴音と帆波も抵抗を諦めて戦うことを決意する。こうして、原作ではカットされた鈴音VS帆波の、次期生徒会長を決める戦いの幕が明けた――
◇◆
2年は特別試験でただでさえ忙しいのに、そこに追加で生徒会総選挙もするということで、これまでのゆったりとした空気は一瞬で掻き消えた。
逆に、3年や1年は完全な傍観モードとなっており、次の生徒会長は誰になるのかと興味深そうな視線で見物している。実際、当事者以外はほぼお祭りのようなものだろう。
そんな中、現在のオレの評価的には、圧倒的に帆波が有利という状況だった。
春から作っていた一之瀬帆波教は今もしっかりと根を張っており、3年Dクラス3年Cクラスは約半分。3年Bクラスはまだ未回収だが、桐山率いる新3年Aクラスにも信者はいる。
逆に1年生は1年Cクラスが、2/3近く。1年Dクラス、Bクラス、Aクラスは約1/4前後が既に信者となっている。2年は流石にCクラスだけだが、総人数で言えば150人近くが帆波に票を入れることを確約してくれている状況だ。
各学年の生徒が約160人として全学年で420人。その1/3近くの票を既に得ている帆波に対し、これまで雪の影に隠れていた鈴音を知る人間はそう多くない。真っ向からの人気勝負では、鈴音にまず勝ち目はなかった。
だが、鈴音も馬鹿ではない。
去年ずっとオレや雪の戦い方を見ていて、これが単純な票取り合戦ではないことはわかっているだろう。
否、鈴音だけでなく、帆波もそれは理解しているはずだ。何せ、帆波は去年雪が南雲を下した瞬間をその場で見ているのだから――
結局、この生徒会総選挙は事前に票をどれだけ買えるか、手に入れられるかにかかっている。
PPを始めとして、相手にメリットを作ることで票を入れさせれば勝ち――そういう意味では、帆波は何もしなくても票が確約されているので、鈴音からすればまずそこを崩す必要がある。
逆に帆波の方は、鈴音の妨害を防ぎつつ、新しい層の票を獲得すれば勝利だ。当然ながら、去年雪が使用した無効票のトリックは、今年は無記名投票にするということで無効になっている。
クラスの指揮を執りながら、生徒会総選挙の準備もしなくてはいけないという鬼スケジュールだが、幸運なのは今回の特別試験でぶつかるのはAクラス対Bクラス、Cクラス対Dクラスで鈴音と帆波のクラスが直接対決をしないという点だろう。
とはいえ、この試験でオレが特別に動く必要はなかった。龍園のDクラスは元々学力の低い生徒が多いため、一発逆転を狙うだけの学力があるかどうかも怪しい。
龍園は原作通りに、Cクラスを外から崩す策略を立ててくるはずだ。しかし、今回はオレが後ろにいるのがハッキリわかっている状況で、あの龍園が無駄なことをしてくるかどうかと問われると怪しい部分もある。
それこそ、葛城や金田のような学力の高い生徒を上手く利用してクラス内の学力を上げ、最大打点を狙うという奇策を立ててくることだってあり得た。
原作では、Dクラスの学力では勉強しても意味がないと言って学力勝負を避けていたが、この世界では去年の学期末試験でその学力勝負で一か八かの賭けに出ている。
去年、ひよりという学力の高い生徒を引き抜かれたのもあり、龍園も学力での最低限の勝負が出来るくらいにはしているのだろう。
実際、この学校は学力試験がそこそこ多いので、今回のようにワンチャン狙える試験ならば、最低限の学力があるだけでも勝ちの目はあった。
逆に、今のCクラスは学力が低くてもC、他はB以上の生徒が多いこともあり、この試験での得点は稼ぎにくい。龍園が本気でDやEの生徒に試験範囲内の特定の一部のみの勉強だけさせて、1問だけでも確実に解かせに来るのは十分にあり得た。
学力BやAだと1問解いても2点や1点だが、学力DやEの生徒が1問でも解けば4点や5点が貰える。アドバンテージとしては十分に期待していいだろう。
こちらの最大点数が制限されている以上、龍園が一か八かの学力勝負を仕掛けてくる可能性はゼロではない。結局、この試験は学力の高い生徒のいるクラスが不利になるようにデザインされており、坂柳やうちのクラスが圧倒的に不利な状況だった。
原作との変化点。
・生徒会総選挙が始まった。
原作では生徒会長の南雲が清隆に、どちらが生徒会長になるかという賭けをふっかけてくるも、桐山によって帆波が生徒会を抜けて勝負は有耶無耶に終わっている。このSSでは、雪がもう生徒会長に飽きたので交代となった。
・鬼龍院事件が起きていない。
犯人の桐山が今はクラスの指揮に忙しいのと、南雲関係が変化していることで原作と立ち位置が違うのでカットされている。
・現状は帆波有利。
原作でもそうだが、単純な人気勝負で鈴音に勝ち目はゼロ。また、原作通りに今回の投票は無記名投票なので、去年雪に使わせたトリックも使えない状況。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
Cクラスで特別試験を受けている。クラスの最低学力がC-で、最高獲得点数が3点止まりなので、もし龍園が本気で学力勝負を仕掛けてきたら勝敗は怪しいと考えている。
・椿雪
ようやく生徒会長という役を終えられそうで大満足。オールマイトに負けない勢いで、二人を指さしていた。
・堀北鈴音
次期会長候補その1。やると決めた以上はやる。兄の後を継ぐ意味でも、清隆は最初鈴音を後押ししていたが今は肩入れしていない。
・一之瀬帆波
次期会長候補その2。あまり乗り気ではなかったが、それでも会長になれば無慈悲な退学を減らせるかもと思って前を向こうとしている。