放課後。予定通り3年のクラスを回っていく。しかし、1年の時とは違い、信者の多いDクラスから訪問していくことにしたようで、Dクラス、Cクラスとお昼休みの時と同様に各クラスで自分のことをアピールしている。
とはいえ、放課後ということもあって、Bクラス、Aクラスに向かう頃には殆どの生徒はもう帰宅した後でそこまで多くの生徒は残っていなかった。それでも、新3年Aクラスには桐山が残っていたので無駄足という訳ではない。
桐山も2年の時には生徒会に所属しており、帆波のことも知っていたのでスムーズに演説をすることが出来ていた。
そんな累計8度目となる帆波の演説を聞いていると、桐山がこそこそとこちらにやってくる。どうやら、帆波には聞かれたくない話があるようだ。
「綾小路」
「どうしました、桐山先輩?」
「……今さら敬語なんか使うな。それより、お前が一之瀬帆波と一緒に居るということは、今回の生徒会総選挙でお前は堀北鈴音ではなく一之瀬を選んだ――と、そう解釈しろということか?」
ああ。確かに、今の生徒会の裏にオレがいるということを知っている桐山からすれば、オレが一之瀬を生徒会長にしたがっているように見えるのか。
これはこっちの配慮が足りなかった。桐山には少し説明しておいてやった方がいいだろう。
「いや、今回オレはどちらにも肩入れしていない。帆波はクラスメイト兼彼女だからな。特別試験で他に動けるやつもいないからオレが付き添いをしているに過ぎない」
「……つまり、俺も好きにしていいってことか?」
「ああ。帆波に票を入れろと強制はしない。帆波か鈴音、お前が票を入れたいと思った方に入れればいいんじゃないか」
そう言うと、桐山は少しホッとした表情を見せた。そういえば、裏切ったとはいえ桐山は元々堀北兄の陣営だったっけか。
もしかしたら尊敬する先輩の意志を妹に継いで欲しい――なんて考えがあるのかもしれない。オレも似た気持ちがない訳ではないが、今は帆波クラスの一員だし、やはり鈴音だけを贔屓するというのは面白くなかった。
こういうのは勝ち取るからこそ意味がある。
「しかし、まさかお前がクラス移動をするとは予想外だった……」
桐山も視線は演説をする帆波に向けながら、まるで世間話でもするかのようにそう話しかけてきた。オレも視線は帆波に向けたまま、その疑問に答えていく。
「少し思う所があってな」
「いや、別に責めている訳じゃない。俺だって、お前が手を貸してくれなかったら、今頃は南雲の慈悲にすがるようにAクラスに移動していたかもしれないしな」
実際、原作の桐山がそんな状況だったので、あながちその推測も間違いとは言えない。
「オレが気になったのは、何故下位クラスに移動したかって点だ。せっかくのクラス移動ならAクラスを選ぶべきじゃないか? お前たちの代も、Aクラスが独走しているんだろう?」
原作ほどクラスポイントが並んではいないので、2年AクラスとBクラスだけでもCPは約400もの開きがある。Dクラスに至ってはダブルスコアだ。
そう言う意味だと桐山も凄く余裕がある訳ではないだろう。体育祭で巻き返してAクラスになり、その後もAの座をキープしてはいるものの、元AクラスであるBクラスとのCP差はそこまで大きくはない。何かの間違いで逆転は十分に有り得た。
「オレはAクラスに興味はありません。クラス移動も別の目的あってこそです」
「……何だかんだ、お前も南雲と同じタイプって訳か」
「同じタイプ?」
「自分に自信があるから、将来への不安なんか抱えてない。だからAクラスで卒業することにも固執しない。今、自分が一番楽しいことをしたいと考えている」
確かに、言われてみれば当てはまる。
「気に入りませんか?」
「いや、前は気に入らなかったが、今はそこまでの忌避感はなくなった。Aクラスに戻って余裕が出来たからか、そういう生き方もあるのかと思える。鬼龍院とも、前ほどは衝突しなくなったしな」
そういえば、その鬼龍院の姿が見えない。まぁ、基本的に誰かとつるむタイプじゃないし、早々に帰宅してしまったのだろう。
「そういえば、朝比奈についてだが……」
「なずながどうかしましたか?」
「いや、予定通り終業式の日にクラス移動チケットを使って貰うことになっている。一応、お前にも報告しておこうと思ってな。まぁ、本人からもう聞いているだろうが」
クラス移動チケットの使用期限は2学期が終わるまでの間。その日の放課後に使えば、クラスに気付かれないままクラス移動して新学期を迎えることが出来る訳だ。
勿論、新学期以降はいずれ裏切り者扱いされるだろうが、卒業まで残り3か月なら罵詈雑言にも耐えられよう。それに桐山たちだって、なずなを守ってくれるだろうしな。
◇◆
そうして3年生への顔見せも終わると、今日はこのままクラスの勉強会に顔を出すと言い出した。帆波としては選挙も大切だが、クラスのことも同じくらい大切なのだろう。
オレとしても雪が頑張っているかどうか確認のためにも、帆波と一緒に様子を見に行くことにした。どうやら図書室で勉強会をしているようで、顔を出すと雪が去年も付けていた謎の伊達メガネをつけて勉強のコツをわかりやすく教えているのが目に入って来る。
「みんな、お待たせー」
図書室ということで、少し声のボリュームを落としながら帆波もクラスメイトたちと合流。
しかし、流石は帆波クラスだ。勉強会には、私用で休んだメンバーを除いても2/3は参加している。前のクラスも、後半は出席率が良かったがそれでもここまでとは行かなかった。
「あ、清隆。おかえりー!」
雪もオレが来たことに気が付くと、満面の笑みを浮かべて迎え入れてくれる。それを見て、ヒソヒソと女子が内緒話する姿も、去年の鈴音クラスを思い出す。
今はもう完全に慣れてそういうモノ扱いになったが、最初は付き合っている、付き合ってないと騒ぎになったものだ。まぁ、突き合ってはいるんだが――と、下世話なことを考えていると、神崎が申し訳なさそうな顔でこちらに寄って来る。
「綾小路。すまないな、俺の代わりに」
「いや、こっちも雪を任せたからな」
「椿は流石に生徒会長だけあってコミュニケーション能力が高かった。俺なんかがいなくても変わらなかっただろう」
「そんなことないよ。女子はともかく、やっぱり男子相手は少し緊張するもん。神崎くんが居てくれてよかったよ」
と、雪にも褒められて神崎が照れる様子を見せた。とはいえ、当然リップサービスであり、雪がその気になれば女子だろうと男子だろうと上手く手玉に取るだろう。
「選挙の方はどうなんだ? 今回、俺はクラスの方にかかりきりで全く手を貸せていないが……」
「1年生や3年生に、とりあえず顔見せがてら挨拶回りして来たよ。3年Bクラスだけは殆ど人が居なかったから本当に顔見せだけだったけど、他のクラスには決意表明は伝えられた感じかな」
リーダーと補佐としてこの1年間組んできただけあって、帆波と神崎の間には信頼関係のようなものが感じられる。神崎としても、今回は特別試験の方を任せられたが、それでも帆波のことが心配のようだ。
「帆波は顔が広い。いろいろなクラスに知り合いがいたから邪険にされることもなかったぞ。あの宝泉ですら素直に話を聞いていた」
「あの宝泉が、か? 意外……というのは失礼か。それでも、イメージに合わないな」
「それに、天沢や七瀬と言ったメンバーも帆波には興味を示していた。顔見せという意味なら今日の活動は文句なしと言っていいはずだ」
「えっへへ。それほどでもあるかな」
「おー、流石帆波ちゃん! これなら安心して私も後を託せますなぁ」
雪によいしょされて帆波も照れた様子を見せる。
一見、美少女同士の可愛いじゃれ合いだが、逆に周りは二人の掛け合いを見て、「そういえば、どうしてまだ2年生なのに椿さんは生徒会長を辞めるんだろう?」と、気になってしまったようで、話題がそっちに移ってしまった。
改めて、雪が生徒会に入った表向きの経緯を説明していく。前堀北生徒会長の意向があったこと。前南雲副会長が退学したことでその意味も無くなったこと。何より、元々生徒会長になんか欠片も興味なかったこと――本当なら帆波を指名しても良かったのだが、前のクラスとの兼ね合いもあって選挙という形をとったこと。隠さずに全部話した。
「なるほど、時期外れの生徒会総選挙にはそんな裏が……」
「そういえば、1年の3人目を決めなかったのもわざとなのか?」
前にも言ったかもしれないが、今1年生の生徒会役員は1年Bクラスの八神と、Aクラスの阿賀という生徒だけだ。
基本的に各学年最低3人は役員をやっており、今2年は雪、帆波、鈴音。3年は南雲が抜けてからは補充していないので2人だけだが、3年生は任期的な問題もあるし雪の能力なら補充は不要と言って良い。
何より、雪は前々から退任する決意を決めていた。だからこそ、無理に1年生のメンバーを補充しようとはしていなかったのだろう。
「うん、そうだよ。私も抜けるから、2年生と1年生の欠員を埋めるのが新生徒会長の最初の仕事になるかもね」
「だとしたら、帆波は誰をスカウトするか今の内に考えておいた方がいいかもな」
「えっ、まだ気が早いと思うけど……」
「仮に生徒会長になれなかったとしても生徒会役員を辞める訳じゃないだろう。意見を求められることだってあるかもしれない」
と、言うと、誰を選ぶべきか頭を悩ませている。原作の鈴音だと、桔梗と七瀬というチョイスだったが、果たして帆波はどういう人選をするのか。
「2年なら神崎くんかなぁ。やっぱり、ずっと一緒に居るから頼りがいもあるし、生徒会役員を同じクラスで固めるメリットも多いし」
「選んで貰えて光栄だが、俺が生徒会役員になったらクラスを纏める人間が……いや、椿がフリーになるとするなら、その選択肢も悪くないか」
まぁ、やはり神崎は鉄板と言って良い。仲の良い女子から選ぶ線もあるが、能力的にはやはり神崎くらい高いやつの方が推薦もしやすいだろうしな。
「1年生は……逆に聞きたいんだけど、お勧めの子とかいる? 私の知っている子たちって、あまりそういう表立った活動は得意じゃない子が多いって言うか……」
信者たちの大半は、自分に自信のない生徒だ。勿論、それでも帆波の為なら喜んで働くだろうが、能力的な意味でも八神や阿賀と並ばせると少し物足りない部分はある。
「桜子ちゃんとか? 1年Cクラスだけど、私の妹で超絶可愛い美少女で頭も良くて天才だよ!」
超絶可愛いと美少女はまだしも、頭も良くて天才は頭痛が痛いと表現が同じだった。
「清隆くんは?」
「そうだな……1年Dクラスなら七瀬か巻田。Cクラスなら椿か宇都宮。Bクラスなら堂上、Aクラスは天沢……は、生徒会ってタイプじゃないな。三井か石上って所じゃないか」
巻田、堂上、三井については、椿と無人島サバイバル試験で同じグループメンバーだった生徒だ。あいつが選んだだけあってOAAの成績もいいし、実際椿が抜けた後も着順報酬が得られないのにグループを下位に落とさなかったという実績もある。
「石上? 石上京のことか?」
しかし、気まぐれに優秀な人物として石上の名前を出したら、神崎が思わぬ反応を示した。
「知り合いなのか、神崎?」
「むしろ、お前の口から石上の名前が出てきたことに驚きだ。あの男は無意味に他学年に関わるタイプじゃない。あるとすれば、トラブルがあった場合くらいのもの……だが、龍園ならまだしも、綾小路はそういう無為なことをするとは思えないしな」
そういえば、原作でも神崎は石上と知り合いだったっけか。確か坂柳もそうで、財界人のパーティなどで知り合ったとかなんとか。
「うちの親父があいつの知り合いのようでな。挨拶をされた」
「お前の父親と知り合い? ……いや、待て綾小路……まさか、お前は――」
どうやら神崎もオレと親父殿が親子だということにここに来て気付いたらしい。まぁ、初めから隠すつもりなどなかったが。
「……そういうことか。お前があの人の子供だったなんてな」
「神崎も、うちの親父と知り合いなのか?」
「俺の父が綾小路先生を慕っていて、パーティなどでは何度か直接お会いさせて頂いたことがある。もっとも、ちゃんと話したことがあるのは一度だけだがな」
実際、実の息子であるオレですら、あの男とまともに会話したのは片手で数えられる程度しかなかった。元ホワイトルーム生の雪でも、まともに顔を見たことすらないだろう。
「ただものじゃない訳だ。あの人の息子なら……優秀でないはずがない」
「そうか? まぁ、褒めて貰えるのは嬉しいが……」
随分と親父殿を持ち上げるな。思えば、石上も親父殿に心酔していたんだっけか。
「俺の中でも、元々お前の評価は高かった。だが、元Dクラスに綾小路先生の子供がいたのなら手強い筈だ。あのクラスが現Bクラスになった陰の功労者はお前だったんだな」
「さてな。ただ、そのオレは何の因果かお前と同じクラスにいる」
「文化祭での女子の功績は大きいな。勝利という意味では勿論だが、結果的にお前を引っ張ってくることが出来たのは目に見えない大戦果と言って良い」
あの神崎が、それだけオレを評価している――そして、それを成した女子に賛辞の言葉を送った。オレの評価やクラスのモチベーションが上昇するいい結果だ。
まさか、気まぐれに出した石上の名前からこんな成果が得られるとは予想外と言って良かった。どうも親父殿はやけに尊敬されているようだが、オレからしてみればただの無能者だというのに。
「それで神崎くん。その石上くんっていうのはどういう子なのかな?」
「そうだな……俺はあいつと同じ塾に通っていたが、まさに天才と言って良いだろう。俺には考えの及ばない発想をいくつもしているし、綾小路先生にも深く心酔していて俺と違って積極的に声をかけていた。もしかしたら、何か薫陶を受けているかもしれない」
帆波の質問に答えるように、神崎が石上について語っていく。勿論、オレにとっては既に既知の情報ではあるが、帆波にとっては新鮮な情報のようで「そうなんだ」と頷いている。
原作では、八神を通じて鈴音が石上に興味を持つが、この世界では何故か神崎を通じて帆波が石上に興味を持ったようだった。
「しかし、あの人の息子であるお前と同じクラスになれたのは本当に幸運だ。お前には聞きたいことが山のように出来たぞ」
「生憎、オレは親父とはずっと離れて生活していてな。下手をするとお前の方が詳しいまである。年に一度顔を合わせれば多いと思えるくらいの回数しか会ったことがない」
「なんと……まぁ、綾小路先生の忙しさならそれも仕方ないのかもしれないな」
と、少し話は逸れてしまったが、おかげでクラスメイトたち――特に女子のモチベーションは上がったようなので良しとする。
そのまま勉強会は再開され、各自勉強に取り組んでいくが、やはり元Bクラスだけあって池や本堂のような生徒はいない。わからない所もすぐに理解してくれるし、これならば協力型筆記試験もワンチャンスあるかもしれなかった。
出来るだけ学力C前後の生徒たちには多く問題を解いて貰いたいからな。オレや雪も教え側に回って、なるべく取りこぼしが減るようにわかりやすく教えていった。
原作との変化点。
・桐山と話をした。
地味に堀北兄を裏切った負い目を感じている。なので、心情的には鈴音派。
・クラスの勉強会に参加した。
雪が勉強を教えている。仲を深めるいい機会ではあったが、去年のDクラスを思い出す光景となっていた。
・1年生について。
あまり情報がほぼないので、原作知識で名前を知っている奴を適当に上げた。
・神崎が気づいた。
原作では修学旅行で坂柳から教えられるが、このSSでは石上の名前経由で教える形となった。神崎が原作と違って暴走していないので、素直に清隆に興味を持っている。神崎くん、ワクワクで草w
・試験の対策。
学力C辺りの生徒を勉強会で一時的なブーストをかけ、取りこぼしを減らすことで得点を狙う。結局、学力の高いクラスは一発逆転の機会がない分、間違いを減らす方向にシフトした方が総合的な得点は多いと判断した。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
この話以降、神崎がまた一段と馴れ馴れしくなり、事ある毎に親父殿の話を振ってくるようになった。一部の女子から関係を怪しまれている┌(^o^┐)┐
・椿雪
せっかく生徒会長をやめられるのに、清隆と離れ離れで残念がっている。とはいえ、ここで手は抜けないので、『魅惑の美人教師眼鏡(命名雪、二代目)』をかけて無理やりモチベーションを上げていた。
・一之瀬帆波
3年生のクラスに挨拶をして勉強会に合流した。そこそこの手応えはあったが、油断はしていない。
・神崎隆二
綾小路先生の息子だって!? と、驚いている。原作では、敵としては厄介だという感情だが、このSSではクラスメイトなので、先生の息子と同じクラスになれるなんて、文化祭での女子の頑張りは偉業だと褒め称えていた。
・桐山生叶
隙に投票していいと言われて少し安心している。清隆に恩はあるが、鈴音には兄への罪悪感があるため、雪の時にできなかった協力をするつもりでいた。