ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯023 『駒不足の審議』

 遂に審議の日がやってきた。

 

 放課後になると、須藤や佐倉と共に審議に参加するために、一度茶柱の待つ職員室へと行くことになっている。

 原作では審議に参加するのは堀北だったが、堀北は須藤との関係の都合上、参加させるのは難しいので、今回は櫛田が代わりに参加していた。

 

 最初は、雪が一緒に出る予定だったのだが、急遽生徒会の意向で今回の審議で、雪は生徒会側として参加するように通達があったため断念している。

 おそらく、向こうとしては唯一の一年生生徒会員である雪に、事件が起きた時の動きを学ばせようという考えだろうが、こちらとしてはあまりにタイミングが悪すぎた。

 

 こうなってくると、堀北が使えないのがマイナスになってくる。駒不足の状態で審議に参加しなくてはいけなくなってしまった。

 

 とはいえ、嘆いていても仕方ないので、急ピッチで櫛田に代役を頼み、審議での流れや話す内容を叩き込んでいる。しかし、付け焼き刃であることには変わりない。

 一応、オレも一緒に参加して、危なくなったらフォローをするつもりでいるが、ここで目立っては今まで傍観していた意味もなくなる。出来ることにも限界があった。

 

「心の準備は良い? 須藤くん」

 

 審議ギリギリで最悪の状況になった現状を嘆くオレの隣で、櫛田が須藤に対してそう声を上げる。職員室に移動する時間となったことで、改めて須藤に注意を促しているようだった。

 

「ああ、いいぜ。俺は最初から準備できてんだ」

「質疑応答については練習した通りに。もし他に何かいいたいことがあれば、こちらの不利にならなければ言って大丈夫だからね」

「おう」

 

 この一週間、ただ待っているだけだった原作と違って、須藤は自分に出来ることを探し、本番の質疑応答について勉強していたらしい。その顔には自信が満ち溢れていた。

 

「先生には、ちゃんと敬語を使ってね?」

「ああ、わかってるよ。礼儀正しく、だろ」

 

 櫛田ママ。

 

「うん、バッチリだね。たかが敬語一つと思うかもしれないけど、それだけでも須藤くんの印象は大分良くなるよ。当然、印象が有利になれば審議もこっちに有利になる」

 

 原作の須藤は態度も酷ければ、口も酷い、最低最悪と言っても良い状態だったが、今の須藤は頑張って躾けて来た甲斐もあり、遂に敬語まで使えるようになったからな。

 

 ただ、須藤の方は問題ないのだが、もう一人の重要人物である佐倉の方が、あまり顔色が良くない。逃げずには来てくれたが、やはり緊張するようで落ち着かない様子だ。

 

「大丈夫か、佐倉?」

「うん……大丈夫。ありがとう」

 

 大丈夫とは言っているが、想定よりも緊張度合いが高い。このままでは満足に話も出来ないだろうし、ちょっと荒療治してやるか。

 

「佐倉、手を出せ。右、左、どっちでもいい」

「? はい……」

「ほい」

「ふぇあ!?」

 

 右手を出してきたので、がっちり手を繋いだ。

 

 指まで絡めて、しっかりと恋人繋ぎにする。

 

 緊張がぶっ飛んだ代わりに顔が真っ赤になっているが、いずれ落ち着くだろう。櫛田がジト目を送ってきたが、別にただ冗談で佐倉の手を握った訳ではない。

 

「綾小路くん……遊びに行く訳じゃないんだけど?」

「緊張をほぐす荒業だ。人の体温というのは、心に落ち着きを与える。今は驚いているからそうは見えないかもしれないが、そのうち落ち着いて来るだろう」

「……職員室に着くまでだからね」

「わかっている。流石に、これで審議は格好がつかないしな」

「はぁ……じゃあ行こうか。遅れると印象が悪いし」

 

 何だかんだ話し合いまで後10分程しかなかった。応援してくれるDクラスの面々に手を振って応えると、そのまま職員室へ向っていく。

 

 真っ赤になってされるがままに歩いている佐倉の手を引いていると、職員室前でこちらに手を振っている先生が見えた。当然、茶柱ではない。

 

「やっほ~Dクラスの皆さんこんにちは~」

 

 原作通り、星之宮が様子見に来たようだ。挨拶をされたので手を上げて返すと、こちらを見た星之宮が目を輝かせて近づいてくる。

 

「あらあらあらあら~綾小路くん、遂に彼女が出来たのね~?」

「そうだと嬉しいんですが、残念ながら違いますね」

「え~でも、ほらぁ、そんなに見せつけておいてそれは通用しないわよ~」

 

 と、星之宮が大喜びしていると、その後ろから茶柱もやって来た。

 

「また何をやってるんだお前は」

「ありゃ、もう見つかっちゃったか」

「お前がコソコソ出て行く時は、大体私に後ろめたいことがある時だからな」

「ばれちゃった? ねえ、私も参加しちゃ駄目かな」

「ダメに決まっているだろう。部外者が参加できないのは知っての通りだ」

「残念。まあいいか、一時間もしたら結果も出てるだろうし。ねぇ、綾小路くん?」

「ええい! いいから、お前はさっさと職員室へ戻れ!」

 

 茶柱がそう言って無理やり星之宮を職員室へ戻すと、こちらを見ながら「あまり、星之宮に関わるな」という有難い忠告をしてくる。

 

 仕方ないので、「わかりました。サエちゃん」と返すと、いつものクリップボードが飛んできた。咄嗟に、佐倉の手を離して回避する。手が離されたからか、佐倉も正気を取り戻し、恥ずかしそうに自分の手をグー、パーと開いていた。

 

「全く、こいつはいつもいつも……そろそろ行くぞ」

「職員室で行う訳じゃないんですね」

 

 茶柱が移動を促すと、櫛田がそう質問する。

 

「ああ。この学校には特殊なルールが複雑に存在するが、今回のようなケースでは、問題のあったクラスの担任と、その当事者、そして生徒会との間で決着がつけられる」

「生徒会……だから椿さんが今回参加できなかったんですね」

「直前で決まったことだけどな。こういう審議は然う然う起きないので、一年生に経験を積ませたいらしい」

 

 茶柱の後に続いて、職員室から一気に四階の生徒会室へ向かっていく。正直、最初に言っておいてくれれば、教室から直接向えて距離的に楽だったのだが、茶柱にその辺りの気配りを期待しても無駄か。

 

 そのまま生徒会室に着くと、茶柱を先頭に中へ入って行った。ただ、佐倉だけは声がかかるまで廊下で待機だ。「後でな」と声をかけて、生徒会室に入っていく。

 

 原作通り、中にはCクラスの生徒、担任の坂上。そして、奥の席に生徒会長である堀北兄、そのお付きの橘がいる。例外なのは、急遽参戦が決まった雪だけだ。

 

「遅くなりました」

「まだ予定時刻にはなっていません。お気になさらず」

「ありがとうございます……お前たち、面識は?」

 

 茶柱が坂上と挨拶を交わした後、こちらにそう声をかけてきたが、全員が首を横に振る。

 

「Cクラス担任の坂上先生だ。それから、奥の彼がこの学校の生徒会長だ。まぁ、入学式で見たことがあるか」

 

 紹介された会長はこちらを一瞬だけ見た後、すぐに手元の書類に視線を戻した。堀北がいないから興味を失ったのだろう。

 

「では、全員揃いましたので。これより、先週の火曜日に起こった暴力事件について、生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交え、審議を執り行いたいと思います。進行は私、生徒会書記、橘が務めます」

 

 そう告げると橘が事件の概要を説明していく。

 

 その間に、茶柱が「まさかこの規模の揉め事に生徒会長が足を運ぶとは」と、原作通り、意味深な言葉を会長にかけている。そのまま、「妹がいなくてショックだったんじゃないか?」と、からかうように言葉をかけるも殆どシカトされていた。

 

 そんなつれない反応に、茶柱が含みのある笑みを浮かべていたが、会長も相手にするつもりはないようで、特に反論することなく黙って受け流している。さすおに。

 

「――以上のような経緯を踏まえ、どちらの主張が真実であるかを見極めさせて頂きたいと思います」

 

 さて、遂に来たな。説明を終えた橘は一度前置きすると、Dクラスの面々へ視線を向けた。

 

「小宮くんたちバスケット部2名は、須藤くんに呼び出され特別棟に行った。そこで一方的に喧嘩を吹っかけられ殴られたと主張していますが、それは本当ですか?」

「いいえ。そいつらの言ってることは嘘です。俺……自分が呼び出されて特別棟に行きました」

 

 まだ少したどたどしいが、確かに敬語で話せている。まさか須藤が敬語を使うと思っていなかったのか、Cクラスの面々も驚いていた。

 

「では、須藤くんにお聞きします。真実を教えて頂けますか?」

「自分はあの日、部活の練習を終えた後、小宮と近藤に特別棟に呼び出されました。正直、付いていく理由はありませんでしたが、日頃から絡んできていい加減鬱陶しいと思っていたので止めるように言おうと思ったんです」

 

 今の所は良い感じに練習の成果が出ているな。

 

「それは嘘です。僕たちが須藤くんに呼び出されて特別棟に行ったんです」

「ふざけんなよ小宮。てめえが俺を呼び出したんだろうが」

「身に覚えがありません」

 

 あっけらかんと嘘を吐く小宮に、昔の須藤なら手が出ていただろう。しかし、今は舌打ちもせずに頑張って我慢している。

 

「小宮くん、途中で口を挟む行為は慎んで下さい。今は須藤くんの話を聞いています」

「……すみません」

「双方共に呼び出されたと主張しており、話が食い違っています。ですが、共通することもあるようですね。須藤くんと小宮くん、近藤くんの間には揉めごとがあったんですね?」

「揉めごとというか、須藤くんがいつも僕たちに絡んでくるんです」

「絡む、とは?」

「彼は僕らよりもバスケットが上手いので、その自慢をしてくるんです。僕らも負けないように懸命に練習していますが、それを馬鹿にされるのは気持ちの良いものじゃ無かったので、そういう意味では度々ぶつかっていました」

「……発言、よろしいでしょうか?」

「どうぞ、須藤くん」

「小宮の話は何一つとして本当ではありません。彼らは日頃から、自分が黙々と練習してる時に四六時中邪魔をしてきます。小宮は自分が自慢してくると言っていましたが、逆に調子に乗るなと言われたこともありました」

 

 全てに置いて正反対。当然、このままでは何も解決しない。

 

「両方の言い分がこれでは、今ある証拠で判断して行かざるを得ませんね」

「僕たちは須藤くんに滅茶苦茶殴られました。一方的にです」

「発言、よろしいでしょうか?」

「どうぞ、須藤くん」

「自分は手を出していません。彼らの自作自演です」

「……Dクラス側からの新たな証言が無ければ、このまま進行しますがよろしいですか?」

 

 よろしくないので、ここで櫛田が手を挙げていく。

 

「一年Dクラス、櫛田です。私から、質問させて頂いてもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

 

 櫛田は橘に小さく頭を下げると、Cクラスの方へと向き直った。

 

「先程、小宮くんたちは須藤くんに呼び出され特別棟に行ったと言いましたが、須藤くんは一体誰を、どのような理由で呼び出したのですか?」

「今更どうしてそんな……」

「答えて下さい」

「小宮くん、近藤くんは質問に回答して下さい」

「……俺と近藤を呼び出した理由は知りません。ただ、部活が終わって着替えてる最中に、今から顔出せって言われて。俺たちが気に入らないとかそんな理由じゃないでしょうか?」

「須藤くんは、バスケット部の顧問の先生からレギュラーで使うかも知れないという話をされていました。そんな彼が、問題行動を自分から起こしたというのは疑問があります」

「それは……」

「一年Dクラス、綾小路です。補足をしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、綾小路くん」

「自分は日曜日、バスケットボール部に行き、事件前の様子や日々の様子を聞いてきました。確認のためにICレコーダーにも音声を録音させて頂いています。この場で再生してもよろしいでしょうか?」

「構いませんか? 会長」

「許可する。再生しろ、綾小路」

 

 会長様からのゴーサインも出たので、懐からICレコーダーを出して音声を再生していく。

 

『失礼します。一年Dクラスの綾小路と申します。少しお話よろしいでしょうか?』

 

 誰も喋らず、静かになった生徒会室にICレコーダーの音声が響いた。

 

『ん? ああ、三年の石倉だ。話は聞いている。先生にも協力するように言われているから、質問に応じるのは問題ない。で、何が聞きたい?』

 

 ICレコーダーから聞こえてきた音声を聞いて、バスケットボール部所属のメンバーが全員口を揃えて「キャプテン……」と呟いている。当然だろう。話を聞くなら部を纏める人物に聞くに決まっていた。

 

『では、最初に須藤、小宮、近藤の、普段の練習態度について聞かせて頂いてもよろしいですか?』

 

『あの三人か……そうだな、須藤は上手いな。毎日しっかり練習してるし才能もある。あいつなら夏前にレギュラー入りするかもしれない。小宮と近藤は、実力は何歩か劣るが、それよりも素行があまり良くないな。須藤も五月くらいまで喧嘩っ早い所があったが、最近は垢抜けたのか落ち着いてきた。小宮と近藤ももうちょっと落ち着けばいいんだが……』

 

『素行が悪いというのは?』

 

『他人にちょっかいをかけることが多い。同学年の須藤を目の敵にする気持ちはわかるが、練習中に一々突っかかってたらいくら時間があっても足りないだろうに。他人をうらやむ前に練習しないと上手くなるものも上手くならない』

 

『小宮と近藤は、須藤にちょっかいを出していたんですね?』

 

『ああ、他にも見ている奴はいるだろう。あいつらは声が大きいからすぐわかる。その都度注意はするが、なかなか直らないな。まだ中学生気分が抜けてないという感じだ』

 

『ありがとうございます。では、事件当日、須藤が呼び出しを受けた、または呼び出したのを見た人はいませんか?』

 

『……俺は見ていない。部員にも話を聞いてくるから少し待っていてくれるか?』

 

『はい。もし居たら連れてきて貰ってもいいですか?』

 

 遠ざかる音と共に『ああ』と言う声が聞こえてきた。それからしばらく間が開き、部長が帰ってくると再び音声が生徒会室に響く。

 

『待たせたな。思ったより身近に見てる奴がいた。こいつは副部長なんだが、こいつが須藤が小宮たちに呼び出されてるのを聞いたらしい』

 

『一年Dクラス、綾小路です。お話を聞いてもよろしいでしょうか?』

 

『あぁ、須藤が呼び出された時の話だろ。部活が終わった後、着替えてたら小宮と近藤がなんか声かけてたよ。ちょっと面貸せやってな。あいつらマジで口悪いよな。たまに二年にもため口利くときもあるし』

 

『小宮と近藤が、須藤を呼び出していた、これに間違いはありませんね』

 

『ああ、俺の他にも何人か見てるよ。連れてくるか?』

 

『いえ、その証言だけで十分です。ありがとうございます』

 

 ここで音声を切り、Cクラスの面々に向き直った。

 

「これは当然無加工です。バスケットボール部の方々に確認を取って貰っても構いません」

「ふむ、この音声から判断するなら、Dクラスの主張が今の所正しいな」

「待ちたまえ、音声は加工が出来る。証拠にはならないのではないかな?」

 

 Cクラス担任の坂上が思わず声を上げる。

 

「だから、確認をしてもらって構わないと言っています。それに、まだこちらの質問は終わっていません」

 

 坂上、乱入してきたお前には悪いが、まだオレの質問フェイズは終了してないぜ。

 

「質問を再開させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、綾小路くん」

「この音声だけでも、勿論疑問点は多々あります。ですが、それは一旦置いておきましょう。小宮、近藤は須藤に呼び出されたそうですが、どうしてその場に石崎も居たのですか? 彼はバスケット部員ではありませんし無関係のはずです」

「そ、それは……用心のためだ。須藤が暴力的だというのは噂になっていたし……」

 

 先程の音声で嘘がバレ始め、どう対応して良いかわからないのか、元々の筋書き通りの答えを返したようだな。顔が真っ青になっている。おまけにオレに釣られて敬語も消え始めた。

 

「つまり、暴力を振るわれるかも知れない、そう感じていたと?」

「そ、そうだ」

「成程、それで中学時代に喧嘩が強かったという石崎を用心棒代わりとして連れて行ったんだな? いざという時は対抗できるように」

「じ、自分の身を守るため。それだけだ。それに、石崎くんが喧嘩が強いことで有名なんて知らなかった。ただ、頼りになる友達なので連れて行っただけで」

「おかしくないか? 喧嘩慣れした石崎を含め、お前たちは三人もいたのに、須藤一人に一方的にやられるなんてことがあり得るのか?」

「それは僕たちに喧嘩の意思がなかったから……」

「では、何故石崎を連れて行った? お前たちに喧嘩の意思がないのなら、石崎を連れて行く必要はないはずだ」

 

 そう、そこが、今回の話を聞いたときに思った最大の矛盾点だった。

 

「小宮は先程、自分の身を守るために石崎を連れて行ったと言いました。では、彼まで一方的に殴られているのは何故でしょうか? 本来、ボディガードとして、小宮と近藤に喧嘩をする意思がなくても、石崎だけは戦わなければならないはずです。それが、彼がそこに呼ばれた理由なのですから」

「そ、それは……」

「でも、彼もまた無抵抗で殴られたと主張しています。その腕を見込まれて呼ばれた人間が無抵抗に殴られる。これはおかしくはありませんか? まるで、自ら殴られようとしているようにも思えます」

「喧嘩をすると、クラスポイントに影響が出ると考えたからです! 石崎くんを呼んだのは、彼がいるだけで喧嘩を回避できるんじゃ無いかと考えたからです」

 

 小宮が言葉に詰まると、今度は近藤が庇うようにそう叫んだ。もう破れかぶれになっているな。

 

「話は少し変わりますが、石崎は先月にBクラスといざこざを起こしています。彼がBクラスの生徒に恫喝している姿を何人もの生徒が目撃していました。素行について、彼が噂通りの性格をしている裏付けと言って良いでしょう。そんな問題になった彼の行動を、小宮、近藤の二人は何も知らなかったのですか?」

「それは……」

「はい……」

 

 ここで知っていたと答えれば、石崎が無抵抗で殴られたことに違和感が出る。小宮、近藤も知らないフリをするしかないだろう。

 

「本当にそうだとしたら、坂上先生。先生はその問題についての注意をクラスでしなかったということでしょうか? 他クラスとの問題です。規模こそ大きくはないかもしれませんが、常識で考えるなら生徒に注意を促すのが普通のことでは?」

 

 遂に、問題は坂上にも及んだ。

 

 しかし、坂上は何も言うことが出来ない。オレの言葉に反論すれば、Cクラスの意見に矛盾が出てくる。かといって肯定すれば、自分が無能だと認めているに等しいので口を開くことが出来ないのだ。

 

 黙ってこちらを睨み付けてくる坂上。対する我らがティーチャーは顔を横に向けて笑いを堪えていた。おい、笑ってんな。無能さでいえばお前も同類だぞ。忘れん坊将軍。

 

「何より気かがりなのは、そんな喧嘩っ早い石崎が殴られて反撃一つしないなんてことが本当に有り得るのでしょうか? Bクラスとのいざこざを聞く限り疑問です」

「現に僕たちは怪我をしています! 対する須藤くんは傷一つありません! 彼は非常に暴力的で、無抵抗なこといいことに、僕たちに容赦ない暴力を振るってきた! それが真実です!」

 

 焦りからか、大声が出てきた。余裕が無くなってきた証拠だ。

 

 しかし、オレもこれ以上の発言は目立ってしまう。目線で櫛田に合図を出し、手を上げさせると同時に後ろに下がった。

 

「発言よろしいでしょうか?」

「どうぞ、櫛田さん」

「その怪我についてですが、こちらは否定しています。先に仕掛けてきたのがCクラスであることは先程の音声データが証明していますし、こちらには事件の一部始終を見ていた生徒もいます」

「では、Dクラスから報告のあった目撃者を入室させてください」

 

 声をかけられると、少し緊張した様子の佐倉が生徒会室に入ってくる。手を繋いでいたおかげか、多少落ち着きはないようだが先程よりはマシになっていた。

 

「1年Dクラス、佐倉愛里さんです」

「目撃者がいるというので何事かと思いましたが、Dクラスの生徒ですか」

 

 櫛田が佐倉の紹介をすると、先程の仕返しとばかりに、こちらを馬鹿にした表情を浮かべる坂上。

 

「何か問題でもありますか、坂上先生」

「いえいえ、失礼しました茶柱先生。どうぞ、進めて下さい」

 

 坂上は失笑し、こちらに先を促した。

 

「では、証言をお願いしてもよろしいでしょうか。佐倉さん」

「は、はい。私は確かに見ました。Cクラスの人たちが、須藤くんにいちゃもんをつけていて、須藤くんが呆れて帰って行くのを、間違いありません……!」

「すまないが、私から発言させて貰ってもいいだろうか?」

「どうぞ、坂上先生」

「佐倉くんと言ったね。私は君を疑っている訳ではないんだが、それでも同じクラスからの目撃者となると、どうしても須藤くんを庇うために偽の証言をしていると言わざるを得ない。あの時間に偶然特別棟にいた可能性はゼロではないが、やはりどうしても不自然さが目立つからね」

「そ、それは、写真を撮るためです。あの日、自分を撮るために人の居ない場所を探していました」

「自撮りねぇ」

「しょ、証拠もあります! 私が、あの時特別棟にいた証拠が!」

「では、佐倉さん。その証拠を提示して下さい」

 

 佐倉は「はいっ」と大きな声で返事をすると、証拠写真を机に叩き付けた。

 

「これが、私があの日、特別棟に居た証拠です……!」

「……会長」

 

 佐倉が机に出した写真を橘が、会長の元へ持って行く。写真を確認すると、すぐにこちらにも見えるように机の上に並べ始めた。

 

「私は……あの日、自分を撮るために人の居ない場所を探していました。その時に撮った証拠として日付も入っていますっ」

 

 写真は佐倉の自撮りを含め、須藤を囲む3人や、殴り掛かる石崎、そして帰ろうとする須藤まで、その全てがその写真には収められている。写真内で須藤は殴っていないのでまだ三人は怪我もしていない。

 

「これで……私がそこにいたことを、信じて貰えたと思います」

「だが、写真などいくらでも加工できる。絶対的な証拠にはなりません」

「そうでしょうか? 先程の音声データ、Bクラスからの証言による矛盾、この写真、三つも証拠があるのにそれを否定するのは難しいと思いますが?」

 

 今度は櫛田が、坂上を追い詰めて行く。

 

「むしろ、私はCクラスがした怪我こそが、自分たちの自作自演だと思っています」

「つまり、うちのクラスの生徒がわざと自分で怪我を作ったと? 馬鹿馬鹿しい。何故、そのようなことをする必要があると言うのですか?」

「須藤くんは顧問の先生からレギュラーにするかもしれないという話が上がっていました。停学になれば、その話も白紙になります。十分な動機だと思いますが?」

「そのレギュラーの話も、まだ可能性があるという段階でしょう? 未確定の情報に対して、自演までして妨害する利点がうちにはありません。仮に須藤くんがレギュラーとして活躍したとしても、うちに直接的なデメリットがある訳ではないんですよ?」

「それは、そうですが……」

 

 流石は教師だけあって口が上手い。雪なら、喧嘩っ早い印象がある須藤を利用して、Dクラスのマイナスを狙っている可能性がある――と、上手く反論できただろうが、付け焼き刃の櫛田ではそこまで追及するのは少し厳しいか。

 

「そもそも学生同士であるなら、そんな卑怯な真似ではなく互いに切磋琢磨して勝ち取るのが道理というものです。だからこそ、我々はこうして訴えを出している。学校側も、それを理解してくれたからこそ、うちの被害届が受理されたのですよ」

「それは……」

「とはいえ、お互い怪しい点があるのは確かです。しかし、今まで出た証拠では本当に須藤くんが殴っていないのを証明できない。あの写真にしても、戻ってきて殴った可能性はあるはずです」

「ッ! では、音声は? あれは間違いなくバスケットボール部からのものです。あれを否定できますか?」

「確かに、多少の勘違いはあったかもしれません。ですが、彼が殴った。それはどの証拠でも否定できません」

 

 やはり、そう逃げるか。

 

 佐倉が自作自演のシーンを写真に収めてくれていれば逃げる隙もなかったのだが、世の中そう簡単にはいかない。

 

「どうでしょうDクラスの皆さん。このまま続けても話は平行線です。確かに、こちらにもいくつかの落ち度はあった。呼び出しの勘違いや、1人は喧嘩慣れしている過去を持っているそうなので、それは問題でしょう。しかし、そちらも須藤くんが殴ったという事実は完全には否定できない」

 

 坂上の言うことは正しかった。確かに、今までの証拠や証言では、かなりCクラスを黒くは出来ても、完全に黒と証明することは出来ない。

 

「そこで、落としどころを模索しましょう。お互いに悪かったということで、Cクラスの生徒たちに1週間の停学。須藤くんに2週間の停学。それで如何ですか? 罰の違いは、相手を傷つけたどうか、その違いです」

 

 妥協点としては悪くはないが、受け入れれば敗北と同義だ。これが原作ならまだしも須藤は殴っていない。これが成立すれば、冤罪もまた成立してしまう。

 

「申し訳ありませんが、私はDクラス代表として、須藤くんの完全無罪を主張します。何故なら、この事件はこちら側から起こしたものではなく、Cクラス側が仕組んだ意図的な事件だと確信しているからです」

 

 しかし、櫛田も引かなかった。普段の櫛田ならもっとお互いに利のある和解の道を選んだもしれないが、今はオレの命令で徹底的に反論するように命じてある。

 

 このままでは永遠に平行線だ―――と、考えていると、ここでようやく写真を見てからずっと口を閉じていた堀北兄が動きを見せた。

 

「そこまでだ。これ以上、この話し合いを続けても時間の無駄だろう。今日の話し合いでわかったのは、互いの言い分が逆で、どちらかが非常に悪質な嘘をついていることだけだ」

 

 堀北の兄は既にCクラスが嘘をついているとわかっているのだろう。しかし、完璧な証拠がない以上、Dクラスが正しいとわかっていても味方をすることは出来ない。

 

「Cクラスに聞く。今日の話に嘘偽りはない、そう言い切れるな?」

「も、勿論です」

「Dクラスはどうだ?」

「俺……自分も嘘なんかついていません。全部本当のことです」

「では、明日の16時もう一度再審の席を設けることにする。それまでに相手の明確な嘘、あるいは自分たちの非を認める申し出がない場合、出揃っている証拠で判断を下す。勿論、場合によっては退学という措置を視野に入れる必要がある。以上だ」

 

 原作通り、一日の猶予が与えられ、今日の審議は終了となった。しかし、勢いで押し切れなかったか。

 

 雪が審議に出られていれば、もしかしたら上手く押せたかもしれないが、櫛田は基本的に善人を演じているからこういう審議はあまり向いていない。

 

 オレもこれ以上目立つと後が面倒なのであまり大きく出られないし、こうなればやはり原作通りに特別棟にカメラを仕掛けて、石崎たちに訴えを撤回させるしかないだろう。

 

 カメラに詳しい博士に連絡を取り、特別棟への設置を依頼していく。佐倉はオレが特に不安そうにしていないのをみて、何か策があると信じてくれているらしい。その期待に応えるためにも、サクッと問題を解決してしまうことにした。

 

 

 




 原作との変化点。

・審議に堀北が参加していない。
 須藤との仲が悪いままなので当然のことだった。本来であれば雪が出る予定だったが、急遽生徒会側として出ることになったため、櫛田に代わりを頼んでいる。

・審議でCクラスを追い詰めた。
 しかし、完全に追い詰めきれなかった。雪がいたらもっと上手く行けたかもしれないが、清隆も今の時点で龍園に睨まれるのは嫌なので矛盾を突くくらいしか出来ていない。結局、原作と同じ手段を取ることにした。

・ジェバンニ(博士)が一晩でやってくれた。
 偽カメラの取り付けを頼んだ。また、原作では一之瀬の力を借りているが、この世界では櫛田に代役を頼んでいる。



 今話の登場人物一覧


・綾小路清隆
 審議でCクラスの矛盾を指摘するも追いつめきれなかった。勿論やろうと思えば押せたが、あまり印象を強く残すと早い段階で龍園に目を付けられる可能性があったため、すぐに原作の偽カメラ作戦に切り替えている。

・椿雪
 声は発しなかったが、生徒会室で審議の流れを見守っていた。

・櫛田桔梗
 雪の代わりに審議に参加した。しかし、付け焼刃のため、清隆のサポートを受けて対応するのが精いっぱいだった。

・佐倉愛里
 頑張って自分の目撃証言をアピールした。清隆が何とかしてくれると信じている。

・茶柱佐枝
 他人のミスで笑う悪い先生。そのうち天罰が下る予定。

・星之宮知恵
 他人の恋路で興奮していた。Dクラスの行く末に興味津々。

・須藤健
 今回の審議のために頑張って敬語や話し方を勉強していた。動けない中で、自分に出来ることをしっかりやっている。

・堀北学
 妹がいなくて内心がっかり。それでも、清隆の能力の高さや証拠などから今回の件がCクラス側の自作自演だと見抜いた。

・橘茜
 雪に格好いい所を見せようと少し張り切っていた。この時点で清隆との絡みがほぼない稀有な人物。

・坂上
 嫌なメガネ。話し方が敬語だったり、普通だったりで書きにくいからもう出てほしくない。

・石崎、小宮、近藤
 討論で石崎は物置。小宮、近藤がメインで応対していた。


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