ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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SIDE:03 『佐倉愛里の目覚め:一之瀬帆波の混乱』

 SIDE:佐倉愛里

 

 

 私は人と触れ合うのが苦手だった。人の目を見て話すのは緊張するし、人が集まっている所で過ごすのは落ち着かない。控えめに言って、人付き合いの上手い方ではなかったけど、別に独りが好きという訳ではなかった。

 

 確かに、いつも一人で過ごしている。孤独にも慣れた。だけど、寂しさを感じない訳じゃない。誰か、心の底から、心を通わせることが出来る人が欲しかった。

 

 中学の時、私は仮面を被っていた。アイドルという偽りの仮面を被って、本当の自分を隠して生きる――その時だけは、私は私ではない私として生きることが出来たから。

 

 でも、それは本当に正しいことなの?

 

 皆も私と同じように、誰かの前では偽りの仮面を被っているの? それとも、偽らずにありのままの自分を見せているの?

 

 いろいろと考えていると、私は仮面を被ることに疲れてしまった。それから逃げるようにこの高度育成高校に入学した。この学校では3年間、外部との接触は禁止される。ここなら新しい自分を始めることが出来るかもしれない。そんな期待もあった。

 

 ――そして、私は運命的な出会いを果たした。

 

 同じカメラの趣味を持つ椿雪さん、そしてその幼馴染で私に変な視線を向けない綾小路清隆くん、この二人と友達となることが出来た。

 

 初めて、人と一緒にいることが楽しいと思えた。つらいことも厳しいことも相談できる。そんな当たり前のことに幸せを感じた。

 

 5月になり、この学校の仕組みが明らかになって中間テストで赤点を取ると退学になると言われ、一人で恐怖していたのを助けてくれたのも二人だ。私が目立つのが苦手だと知っている二人は、マンツーマンで勉強会をしようと声をかけてくれた。

 

 いつもなら、一人で恐怖に怯えているだけだったけど、今の私にはこんなにも頼れる友達がいる。

 

 勉強会をしているある日、私は綾小路くんに、人の前で偽りの仮面を被ることについてどう思うか聞いてみた。彼なら、私がずっと疑問に思っていたことに答えをくれると思ったから――

 

「この世界に、仮面を被っていない人間なんかいない。オレも、お前も、大なり小なり仮面を被って生きている」

 

 ――綾小路くんは、そう即答した。

 

「仮面とは嘘だ。人間は誰しも、嘘をついて生きている。それはオレも、雪もそうだ。他人に話を合わせる、場に溶け込む、それら無くしてコミュニティというものは存在しない。誰もが嘘を使っている。家族の前で、友人の前で、社会の前で、みんな違う顔をしている。だが、それは罪か? 素顔とは何だ? 今のオレが本物なら、先生の前で敬語を使っているオレは偽物か?」

 

 正直、言っていることが難しくて、話は半分も理解できなかった。けど、綾小路くんは仮面を被ることは当たり前で、間違いではないと言ってくれたのだ。

 

「人は仮面なしでは生きることは出来ない。だが、嘘をつくというのは悪いことだけではないだろう。人を救うための嘘もあれば、自分を守るための嘘もある」

 

 自分を守るための嘘――と、聞いて、私の中にいるもう一人が顔を出す。

 

「優しい嘘は人を救う。だから、オレは仮面を被ることは悪いことだと思わないし、仮面を被らない人間が存在するとは思わない。お前の求めている答えかどうかはわからないが、これがオレの考えだ」

 

 初めて、自分以外の誰かに肯定された気分だった。思わず涙が浮かんでしまい、綾小路くんが焦る事態にもなったけど、そんな焦る姿が意外で私は笑い泣きしていた。

 

 ――それから、中間試験が終わって7月になる頃。須藤くんがCクラスに訴えを起こされる事件が起き、たまたま私がその現場に居合わせて証拠となる写真を持っていた。

 

 正直、すぐにでも名乗りを上げるべきだと思ったが、恐怖で手を挙げることが出来ずに俯いてしまう。友達が出来ても、私は何も変わっていない。人前で声を上げるなんて出来る訳がなかった。

 

 でも、このままではいけないと思い、綾小路くんと椿さんに相談した。この二人なら、こんな私の背中を押してくれるかもしれない――私も、変わることが出来るかもしれない。そんな期待を持ってのことだ。

 

 結果は、変わる所の騒ぎではなかった。

 

 ま、まさか二人と、大人な関係になってしまうとは思っていなかった。けど、嫌な気分じゃない。何というか、恥ずかしさが一周して、今まで自分が怖がっていたことがちっぽけなことに思えてしまったのだ。

 

 べ、別にえっちなことが好きになった訳ではない。いや、嫌いじゃないし、求められれば受け入れるのもやぶさかではないのだが、そうではなく――大人の階段を上ったことで、いろいろなことに変化が起きた。

 

 今まで灰色だった世界に、ようやく色がついた――そんな感覚だ。

 

 私は須藤くんの審議に参加する決意をした。ずっと迷っていた雫としての自分も少しずつ受け入れることが出来ている。

審議では、自分から声を上げて証拠となる写真も突きつけた。結果的には、大した力にはなれなかったけど、それでも今までの自分と決別するいいキッカケになったと思う。

 

 変わるついでに、悩みも解決してしまうことにした。綾小路くんに、ずっと私をストーカーしてくる人がいるので何とかできないか相談する。

 犯人の当てはあった。私が入学直後にカメラを買った時の店員さん――あの時、保証書に名前や住所を書いてから、変な手紙が送られるようになってきたし、他に心当たりがないので多分間違いない。

 

 綾小路くんは「当てがあるなら簡単だ」と言って、電機屋の店員さんに会いに行った。

 

 私を彼女だと言って、夜の生活では凄いと、自慢げに話していく。正直、とっても恥ずかしいけど、綾小路くんが無意味にこんなことするはずがない。これは必要なことなんだと思って、私は彼の言う通りに動いた。

 

 結果、綾小路くんが店員さんに殴られた。

 

 思わず悲鳴を上げる。店員さんはすぐに周りの大人に押さえつけられたが、綾小路くんの頭からは血が流れていて顔も凄く腫れていた。

 

 本人は「たいしたことはない」と、いつもの調子だが、私は彼が死んでしまうのではないかと思うと、物凄い恐怖に包まれた――同時に、理解する。私はもう、この人がいないと生きていくことが出来ないのだ。

 もし、私の世界に綾小路くん――清隆くんがいなくなってしまうと考えると、生きている意味を感じなかった。私は彼と一緒に、彼のために生きたいとそう思った。

 

 後日、椿さん――雪ちゃんも、そんな私の内心に気づいたのか、見たこともないような妖艶な笑みを浮かべながら、「良い顔になったね愛里ちゃん。こちら側へようこそ」と、声をかけてくる。

 それを聞いて、雪ちゃんも私も同じなんだと理解した。彼女も、清隆くんがいないと生きていけない。彼のために生きたいと思っている人間だ。

 

 私は基本的に騒ぎが嫌いだった。もし、変化を受け入れる前なら、学校側に事を大きくしないように頼んでいただろう。

 

 しかし、雪ちゃんに、今は事を大きくすることこそが清隆くんのためになると言われた。彼のためになるのなら、いくらでも事を大きくする。最終的には慰謝料200万PPが振り込まれ、久しぶりに顔を見た両親と共に学校側から謝罪を受けた。

 

 きっと、この200万PPが大事なんだ。なら、これは清隆くんに上げよう。私には必要ないし、私は清隆くんの所有物なんだから渡すのは当然のことだ。

 

 これからはもっと頑張る。

 

 もっと頑張って、清隆くんの役に立つ――それが、私がここにいる理由であり、私が生きる理由だ。求められれば、何でも受け入れた。清隆くんは意外と胸が好きなようで、大きいだけで無駄に視線を集める自分のコンプレックスも今では逆に感謝している。

 

 これだけは雪ちゃんにも負けない。どうも、ライバルとして一之瀬さんも参戦したという話だけど、まだ彼のために生きられない人間に負けるつもりは毛頭なかった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:一之瀬帆波

 

 

 今にして思えば、他にやり方もあった気がする。場に流された自覚はあるし、こんな関係をズルズル続けるのはよろしくない。けれど、自分から頼んでおいて、都合が悪くなったら撤回するのはあまりに身勝手すぎるという言い訳で、私は彼との関係を続けてしまっていた――

 

 始まりは7月のある日のことだ。

 

 朝、ポストを確認すると可愛らしい手紙が入っていた。最初は何だろうと首を傾げたが、中身を確認すると思わずため息をついてしまった。

 

 勿論、私も女である以上、異性から告白されるというシチュエーションを夢見たことくらいある。けれど、まさか初めての告白が同性、それもクラスメイトになるとは思わなかった。

 

 正直、どうすればいいか皆目見当がつかない。私はノーマルなので、断るつもりでいるが変に断って彼女を傷つけたくはなかった。かといって、下手に相談すれば事が大きくなる可能性がある。とてもじゃないが、クラスメイトに相談など出来ない。

 

 ネットで告白の断り方を検索すると、彼氏がいる――と、いうのが、あまり相手を傷つけずに済むと書いてあった。

とはいえ、クラスメイトの男子に彼氏役をお願いするのは無理がある。手紙を送ってくれたのが同じクラスの女子である以上、簡単に嘘が露呈するのは目に見えていた。

 

 ならば、他のクラスの男子――と、考えたが、自慢ではないが、私の交友関係はクラス内ならともかく外ではそんなに大きくはない。

 

 そんなこんなで、どうしようと悩んでいる所に現れたのが、Dクラスの綾小路くんだった。

 

 Dクラスは今、須藤くんの事件でCクラスと揉めており、我がBクラスもそれに協力するという関係になっている。その中で、綾小路くんと言えば、私の耳にも入ってくるくらい女子の中でも人気のある男子生徒だった。

 

 話してみて紳士的だし、彼ならば彼氏役として適格だ。しかし、彼には彼女がいる。彼氏役をお願いするのは難しい――と、思いながら相談してみると、まさかのフリーだということが判明した。

 

 試しに彼氏役をお願いすると、即答でOKしてくれている。これで、全て解決だと、手紙を送ってくれたクラスメイトの白波千尋ちゃんに、綾小路くんが彼氏だと紹介する。

 

 しかし、千尋ちゃんは私の言葉を全然信じてくれなかった。どうも、最近の私の動きも知っていたようで、綾小路くんと付き合っている様子がないこともばれてしまっている。どうするか――と、困り果てていると、突如として綾小路くんの顔が私の視界を塞いだ。

 

 同時に、唇に感じる柔らかい感触。

 

 キスをされたというのはすぐにわかった。おそらく、綾小路くんが意地を張る千尋ちゃんに業を煮やして実力行使に出たのだろう。正直、恥ずかしかったけど、ここで突飛ばせば全てが台無しになる。彼の気遣いを無駄にすることは出来なかった。

 

 しかし、体感でかなりの時間が経っても、千尋ちゃんは根を上げる様子を見せない。

 

 続けて、綾小路くんは舌を入れてきた。彼の舌は生き物のように私の口内を動き回り、歯や歯茎を刺激する。まるで、電撃が走ったかのような感覚が私を襲った。思わず引っ込めてしまった舌に、彼の舌が交わると、痺れるような快感が体を走る。

 

 それが性的快感であるということに、経験のない私は気付けなかった。ただ、されるがまま、綾小路くんは私の口内を蹂躙し、その度に私は初めての感覚に溺れていく。

 

 永遠とも思える長い時間が経過すると――いつの間にか千尋ちゃんはいなくなっていた。

 

 私も足腰に力が入らず、立つことが出来ない。

 

 彼に体を預けるように座り込んだ時、私は自分の下着が濡れていると言うことに気づいた。流石の私も、これがおもらしではないことくらいは知っている。それだけ、彼とのキスで感じてしまったと言うことだ。絶対にばれないようにしないと――

 

 と、考えていると、彼は凄いことをカミングアウトしてきた。彼は、椿さんを始め、佐倉さんや櫛田さんとも体の関係を持っており、今のキスも彼女たちとの交わりで学んだものだと暴露してきたのだ。

 

 私は常識的に、そういうことはいけないと思ったが、彼は当たり前のようにそれを否定してくる。むしろ、私の方が非常識だと言いたげな様子だ。

 

 いやいや、常識的には彼の方が間違っているはず――と、考えていると、彼の手が私のスカートの中に入ってきた。

 後から思ったことだが、そもそも百戦錬磨の綾小路くんに処女の私が隠し事など出来るはずがなかったのだ。彼は私の様子を確認すると、今回の件の報酬が欲しいと言って顔を近づけてくる。

 

 それが何を指しているのかわからないほど、私は初心ではなかった。勿論、拒否することは出来ただろう。綾小路くんも、嫌なら拒否していいと言っていた。けれど、私はもう先程の感覚を知ってしまっている。

 

 あの逃げ場のない快感が洪水のように襲ってくるあの感覚――もう一度知りたいと思ってしまったのが運の尽きだった。

 

 気が付けば、私の頭は真っ白になっていて、彼の部屋に連れていかれていた。これが、俗にいうお持ち帰りというやつか――等と、ぼんやり考えていると、流石にこれ以上はまずいという、私の理性がギリギリでストップをかける。

 

 しかし、そんなギリギリの理性など、彼のキスの前には通用しなかった。砂の城が蹴破られるように、私の理性は決壊し彼を受け入れてしまう。そこからは転げ落ちるようにあっという間だった。

 

 気が付けば私は自ら彼を求めていて、いつの間にか居たAクラスの神室さんと三人で夜まで綾小路くんの部屋で過ごした。約束や用事も、全部キャンセル。ただ、彼らとの行為に溺れていた。

 

 私は、割と身持ちが固い方だと思っていたし、仮にいつか男性と付き合うことになってもそういう関係になるビジョンなど見えなかった。それが、このざまだ。一応、恋人役をお願いはしているが、私と彼の間に愛がある訳ではない。にも関わらず、淫らな関係は続いた。

 

 彼が私を求めればそれに応えてしまったし、私も別に悪い気はしなかった。

 

 勿論、この関係がいけないことだというのは理解している。でも、頭では理解していても抜け出すことが出来なかった。

 

 チョロいと思われるかもしれないけど、多分私は綾小路くんのことが好きになってしまったんだと思う。一緒にそういう行為をした神室さんによると、「こいつは人の心の隙間にスルっと入ってくるのよ」ということだった。きっと彼女も私と同じなのだろう。

 

 私は一応、仮でも彼と恋人関係だ。

 

 なら、その関係性を使えるだけ使おうかとも思う。彼は私が好きではないかもしれないけど、好きになって貰えるように努力してみたいと思うのは悪いことではないはずだ。

 

 夜、2人でベッドに入って話をする度に、私の中で彼の存在が大きくなっていくのがわかる。この気持ちを少しでも彼に理解して貰うためにも、私は頑張って行こうと思った。

 

 

 

 




 SIDE3は佐倉と一之瀬。

 佐倉については自身の迷いを吹っ切るまでの流れ。

 一之瀬は絶賛混乱中。自分は清隆が好きなのだと思い込んでいるが、実際の所は初めての人を好きになるはしかにかかっているような段階。


 ※前回は愚痴のようなものをこぼして申し訳ありませんでした。いろいろ言いましたが、この作品の本質はよう実の女性キャラを美味しく食べることであり、そこはぶれないのでこれからもよろしくお願いします。

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