ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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原作3巻:豪華客船~無人島試験終了まで
♯026 『素晴らしい景色だ』


 夏休みに入ると、オレたちは無人島でバカンスをするという学校側の嘘に誘われて豪華客船の旅をすることになった。朝早くからの移動で少し眠かったが、船の上で初めて嗅ぐ潮の香りは意外と気分を解放的にしてくれる。

 

 この学校はPPで何でも買えるということで、オレは茶柱を通じて豪華客船で個室を借りる契約をした。一泊2万と少々お高いが、その分部屋は広くベッドも大きい。何より防音設備がしっかりしているというのが気に入った。

 

 と、いう訳で、早速雪を可愛がりながら個室の巨大ベッドの感触を味わっていると、原作通り『お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』という、意味深なアナウンスが流れてくる。

 

 つまり、もう時間がないということでラストスパートをかけていく。当然ながら、景色を見る時間などない。今は雪がオレを求めて乱れる景色を見るのにとても忙しいからな。

 

 その後、身嗜みを整えるために、雪と一緒にシャワーを浴び、無人島に上陸するので準備をしろというアナウンスを確認すると、何食わぬ顔でクラスに合流した。その際、堀北の様子を確認すると、原作通りに体調を崩しているようだったので内心で笑みを浮かべる。

 

 ただでさえ、精神的に追い詰められている中、体調まで崩している――堀北をへし折るには絶好の機会と言っていいだろう。この時をずっと待っていたのだ。雪を置いて、一人で堀北に話しかけに行く。

 

「今まで何をしていたんだ?」

「……部屋で本を読んでいただけよ。『誰が為に鐘が鳴る』……あなたは知ってる?」

「アーネスト・ヘミングウェーの名作だな。前から思っていたが、お前は本の趣味が良い」

「そ、そうかしら……?」

「ああ。入学した時に呼んでいた『罪と罰』もいい本だからな」

 

 久しぶりに人から褒められたからか、普段なら「そう」で済ませることも嬉しく感じているらしい。隠してはいるが、笑みが浮かんでいる。

 

 こうして、話しかけてくれるのも今ではオレだけ。

 

 櫛田には、前に三馬鹿の勉強会が失敗した後に、堀北には接触しないように命令してあった。雪も、今では世間話くらいで堀北をほぼ無視している。あいつの場合、オレ以外はどうでもいいというスタイルだから、正確には本心を出しているだけだけどな。

 

「続きが気になっているのだけれど、私物の持ち込みが禁止されているなら仕方ないわね」

 

 そう言っているが、本当に本を読んでいた訳ではないはずだ。原作通りなら、体調不良で眠っていたはず――話を早々に打ち切ったのは、褒めてくれたオレに嘘をついている現状を継続したくなかったからだろう。

 

「ねぇ。妙に慎重というか警戒してない? 携帯を没収するなんてテストの時にだってやってないことだわ」

「確かにな」

「それに、余計な私物の持ち込みを禁止する理由はなに? ただ遊ぶだけであるなら、禁止するような理由はないはずよ」

 

 周りを見ながら堀北が不自然さを察知する。

 

「さっきのアナウンスは聞いたか?」

「ええ。非常に意義ある景色を~とか言っていたものよね? 私は寝て……いえ、本を読んでいて見なかったのだけれど」

 

 本を読んでいた嘘は貫き通すつもりのようだ。まぁ、そこは別に指摘しなくてもいいだろう。

 

「オレも見てはいないが、話によるとペンションが見えなかったらしい」

「……学校側が何かを考えているってことね」

 

 堀北もきな臭さを感じたようで何か考えている。

 

 しかし、すぐに自分が考えても何も出来ない――という、五月からかけて来た呪いのような刷り込みによって、暗い顔をして俯いていた。そう、自分がやっても無駄。でも、兄に追いつきたい。その二つの気持ちがお前の精神を摩耗させる。

 

 心の中が見える訳ではないが、様子や態度から見て、堀北を支えている精神力も、もう限界が近い。いつポッキリ折れてしまっても不思議ではないだろう。

 

 後は仕込みをするだけだ。

 

 堀北に「じゃあ、後でな」と、声をかけて櫛田と合流する。櫛田には事前に、学校が不意打ちでイベントを仕掛けてくる可能性を話しておいた。追加の命令として、「もし、無人島で何か起きた場合、リーダーには堀北を推薦しろ」と、指示を出しておく。

 

 原作通りにリーダーを失敗させ、その責任で心を折るつもりだ。

 

 櫛田はいきなりの指示に首を傾げていたが、こいつはもうオレには逆らわない。当然のように「うん、わかった」と、満面の笑みを返してきた。オレが無意味に堀北をリーダーにする訳がないというのもわかっているだろう。特に嫌がる様子も見せていない。

 

 と、考えていると、ようやくDクラスが降りる番になったようで、検査が終わると同時に無人島へ上陸していくことになった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 教師の指示に従って、各クラスに別れて名前順に並んでいく。

 

 原作のおかげで、ここが学校の管理する島だというのはわかってはいるが、そんな情報がなくても無人島にしてみれば自然のゴミがなさすぎた。普通の無人島ならば、海からもっと漂流物が流れて来ていてもおかしくない。

 

 他にも、作業着に身を包んだ職員たちが、特設テントの設置を始めているのも見える。どこからどう見てもバカンスではないな――と、思っていると、先程拡声器でアナウンスをしていたAクラス担任の真嶋が前に出てきて壇上に上がっていった。

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 当然だが、全てのクラスから疑問の声が上がった。

 

 中には察していた生徒もいるかもしれないが、殆どの生徒が不意打ちに近い特別試験の宣告に動揺を隠せずにいる。

 

「期間は今から一週間。君たちは、この無人島で集団生活を行って貰う。試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。この島での生活は、眠る場所から食事の用意まで全て自分たちで考える必要がある」

 

 全生徒が困惑を隠せない中、真嶋は淡々とルールを説明していく。これから、地獄の無人島サバイバル生活のスタートだ。

 

「まず、スタートの時点で、クラスにテントを二つ。懐中電灯を二つ。マッチを一箱支給する。また、日焼止めの制限は無く、歯ブラシに関しては各自一つずつ配布する。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。必要な場合は各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

「はああ!? もしかしてガチの無人島サバイバルっすか!? そんな無茶な、アニメじゃないんすから! 飯とかどうするんですか! 常識的に考えてあり得ないっすよ!」

 

 オレの後ろにいる池がそう叫ぶ。

 

 だが、真嶋はそんな池の声を聞いても顔色一つ変えていなかった。

 

「君は常識的に考えてあり得ないと言ったが、事実無人島での研修を行っている企業は実在する。それも誰もが知っている大手企業が試みとして行っているものだ」

「う……そ、それは、その、一部の企業さんが特別なんじゃないですかね?」

「池、みっともないからもうやめろ。今、真嶋先生が言ったものはほんの一部だ。世の中には様々な企業が存在する。世の中はお前が知るより広いんだ」

「佐枝ちゃんせんせー……」

「お前が文句を言っても何も変わることはない。もう逃避は止めて、しっかり話を聞け」

 

 原作ではもっと暴走していた池だが、オレの奴隷となったことで若干マシになった茶柱の教師らしい一言で、とりあえずは静かになった。しかし、文句があるのは池だけではない。言葉にはしていないが、他にも納得がいかないという顔をしている生徒は多かった。

 

「しかし、先生。今は夏休みのはずです。そして我々は旅行という名目で連れてこられました。企業研修ではこのような騙し討ちのような真似はしないと思いますが」

 

 無毛が特徴的なAクラスの葛城でさえ、そう苦言を呈している。

 

「成程、その点に関しては間違っていない。不平不満が出るのは当然だ。だが、安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だが、特別試験と言っても難しいものではない。今からの一週間、君たちは好きに過ごしてくれ。海で泳ぐのも、バーベキューをするのもいいだろう。夜にキャンプファイヤーをしたっていい。この特別試験のテーマは自由だ」

「え? え? 自由がテーマ……? バーベキューも出来るって……んんんっ? 混乱してきた……それって試験って言えんの?」

 

 池は騙されているが、奇麗に論点をすり替えていた。旅行と言って騙されたことには変わりはない。少なくともペンションらしきものは何も見えないし、謳い文句に間違いがあることは確かだ。

 

 ぶっちゃけ、その点を突いてまた学校側の不備を指摘してやってもいいのだが、少し前に700万PPをぶん取ったばかりだった。

 あまり悪目立ちして学校側の印象が悪くなり過ぎると、後に月城と敵対した際、理事長や教師たちの助けが借りれない可能性もある。ここは、オレが大人な態度を見せてやるべきだろう。

 

「この無人島における特別試験では、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することになっている。このポイントを上手く使い、特別試験を楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

 そう言って、真嶋がマニュアルを取り出す。同じものを、各クラスの教師も持っていた。

 

「このマニュアルにはポイントで入手できるモノのリストが全て載っている。生活で必需品と言える水や食料は当然、バーベキューがしたければ必要なモノは全て用意しよう」

「つまり、その300ポイントで欲しいものは何でも貰えるってことですか?」

「そうだ。あらゆるものをポイントで揃えることが可能になっている。無論、計画的に使う必要はあるが、堅実なプランを立てれば無理なく一週間を過ごせるようになっている」

「でも先生。試験って言うんだから難しい何かがあるんでしょ?」

「いいや、難しいものは何もない。二学期以降への悪影響もない。保証しよう」

「じゃあ、本当に……一週間遊ぶだけでも良いってことですか?」

「そうだ。全てお前たちの自由だ。勿論、集団生活を送る上で最低限のルールは存在するが、難しいものは何一つとしてない。ただ、この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算して夏休み明けに反映する。それは覚えておくと良い」

 

 その一言に、全ての生徒が言葉を失った。

 

 Aはともかくとして、B以下はポイントが団子状態である以上、この試験の結果でクラスは大きく変動する。前に一之瀬が言っていた通り、今のBクラスがA、うちがCになることも有り得た。

 

 まぁ、今回も基本的には原作通りに事を進めるつもりだから、クラスが変動するようなことはないだろうが。

 

「マニュアルは一冊ずつクラスに配布する。紛失の際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。また、特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。今回、欠席者はAクラスの生徒なので、Aクラスは270ポイントからスタートとする。以上解散」

 

 真嶋の解散宣言と共に、補足説明がされるということで、Dクラスのメンバーが茶柱の元へと集った。

 

 他のクラスも距離を取って集まっているようで、話し合いが誰かに聞かれると言うことは無さそうだ。これからDクラスはポイントを巡ってかなり揉めるからな。聞かれないに越したことはない。

 

「これ、一週間我慢したら、来月から俺たちのお小遣いも大幅に増えるってことだよな!?」

「それだけじゃないぜ! 下手したら俺らがAクラスになっちゃうかも」

 

 175に300足しても1000には行かない。馬鹿か山内。馬鹿だった、すまん。

 

「補足説明をするから話を聞け。いいか、今からお前たち全員に腕時計を支給する。これは試験終了まで外すこと無く身につけておくように。許可無く外した場合はペナルティが与えられる」

 

 そう言って、茶柱が各生徒に腕時計を配り始める。同時に、テント等の支給品も用意され、段々サバイバルが現実味を帯びてきた。

 

「この腕時計は時間の確認だけでは無く、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサーやGPSも備えており、学校側に非常事態を伝える手段も搭載してある。緊急時には迷わずそのボタンを押せ」

「非常時って、熊とか出たりしませんよね?」

「これは試験だ。結果に関係するような質問には答えられない」

 

 池の質問に、茶柱が即座にそう答える。まぁ、仮に熊が出たとして、学校側に非常事態を伝えてどうにかなるものではないと思うけどな。

 

「危険な動物は流石にいないと思うよ。もし襲われて生徒が怪我でもしたら大問題だ。単純に僕たち生徒の健康管理だけを目的としてるんじゃないかな? 無人島で放り出す以上、学校も安全性を確保しなきゃいけないだろうし」

 

 平田がそう言って皆を安心させる。おそらくだが、身の危険以外にも遭難した場合などの問題もあるのだろう。

 

「これ、身につけたまま海入って大丈夫なんすか?」

 

 須藤が腕時計を付けながら、そう茶柱に問いかけた。これまでの努力もあってか、原作と違ってため口を利いていない。

 

「問題ない。完全防水だ。それにもし壊れても、すぐに交換できるようになっている」

「茶柱先生。僕たちは今からこの島で一週間生活するとのことですが、ポイントを使わない限り、全て自分たちで何とかしなければならないということでしょうか?」

「そうだ平田。学校側は一切関与しない。食料も水も、お前たちで用意して貰う。足りないものの解決方法を考えることも試験のうちだ」

 

 茶柱がマニュアルを指さしながらそういうので、そのマニュアルを持っている平田にお願いして中を見せてもらった。ざっと目を通して、何にどれだけPPがかかるかを記憶していく。

 

「大丈夫だって。魚でも適当に捕まえてさ、森で果物でも探せば良いじゃん。最悪、体調崩しても頑張るぜ」

「残念だが池。お前の目論見通りにいくとは限らんぞ。配布されたマニュアルを開け」

 

 丁度マニュアルを見せてもらっていたので、茶柱に従ってページをめくっていく。

 

「最後のページにマイナス査定の項目が載っている。まずはそこを読んで見ろ。この特別試験において重要な情報になる。生かすも殺すもお前たち次第だ」

 

 最終ページに書いてあるのはペナルティについてだ。

 

 ・著しく体調を崩したり、大怪我をし、試験続行が難しいと判断されたりした場合、リタイアの上、マイナス30ポイント。

 

 ・環境を汚染するような行為をした場合、マイナス20ポイント。

 

 ・毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合、一人につきマイナス5ポイント。

 

 ・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損等を行った場合、その生徒が所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントを全没収。

 

 つまり、元気で環境に優しく規則正しく生活し、他のクラスに迷惑をかけるなよってことだ。

 

「池、お前が無茶をするのは勝手だが、もし10人が体調不良になったら、その時点で努力は全て水の泡だ。一度リタイアと判断されれば、もう復帰することは出来ない。強行する時は覚悟しておくんだな」

「つまりさ、ある程度のポイント使用は仕方ないってことじゃない?」

「最初から妥協するのは反対だぜ篠原。やれるとこまで我慢してやるべきだ」

「池くん、気持ちはわかるけど、体調を崩したら大変だよ?」

「平田ぁ、萎えること言うなよ。まずは我慢あっての試験じゃねぇの?」

 

 人間である以上、意見の対立は必然だろう。原作通り、池と篠原を中心に、クラスが妥協派と我慢派で分かれていった。

 

「茶柱先生。仮に300ポイント全て使用してしまった後にリタイアする者が現れた場合はどうなるんでしょうか?」

 

 クラスが険悪なムードになっていく中、どちらの派閥にも与していない堀北がそう質問する。

 

 新たな質問が出たことで、クラスの視線が今度は堀北に集中した。

 

「その場合、リタイアする人間が増えるだけでポイントはゼロから変動しない」

「つまり、この試験ではマイナスに陥ることはない、ということですね?」

「そうだ」

「もう一つ、この与えられた300ポイント、プライベートポイントのように譲渡することは可能ですか?」

「不可能だ。これはクラスポイントと扱いが同じなのでポイントを譲渡することは出来ない」

 

 もし、それが可能であれば、ポイントを一時的に他クラスへ預け、サバイバルに向かない生徒をリタイアさせた上、ポイントを返還してもらうという行為が可能になる。

 それが出来るなら、龍園だって原作のようにポイントを物資に変えて渡す――なんて面倒くさい契約はせずに、もっと上手く立ち回っただろう。抜け道はないということだ。

 

 しかし、着眼点は悪くなかった。

 

「時間が無いので先に進めるぞ。支給テントは一つが8人用の大きさとなる。かなり重いから運ぶ際は注意しろ。また、支給品の紛失に関して学校側は一切手助けしない。新しいテントが必要な場合はポイントを消費することを覚えておけ」

「僕からもよろしいですか先生。この点呼というのはどこで行うんですか?」

「担任は各クラスと共に試験終了まで行動を共にする決まりになっている。お前たちでベースキャンプを決めたらそこを報告しろ。私はそこに拠点を構え、点呼はそこで行う。一度ベースキャンプを決めた後、正当な理由無くベースキャンプの変更は出来ないのでよく考えるように。これは他のクラスも同様の条件となる」

「……なぁ先生。話の途中悪いんっすけど、ちょっとトイレに行きたいんだけど、トイレはどこにあるんすか?」

 

 どうやら原作のように事前にトイレにいかなかったようで、尿意を我慢していた須藤が茶柱にそう質問する。

 

「丁度いいタイミングだな。トイレについてだが、この簡易トイレがクラスに一つずつ支給される。トイレの際にはこれを使うので、大事に扱うように」

「もしかして、私たちもそれを使うんですか!?」

 

 妥協派筆頭の篠原が、簡易トイレを見て大声を上げた。

 

「男女共用だ。安心しろ、着替えにも使えるワンタッチテントが付いている。誰かに見られるようなことはないだろう」

「そう言う問題じゃ無くて! 段ボールなんて絶対無理です!」

「段ボールというが、これはよく出来た優れもので、災害時にも用いられるものだ。今から使い方を見せるからちゃんと覚えておくように」

 

 現代トイレになれた子供に、いきなり段ボールを使えと言われて受け入れられる方が少数だろう。篠原の気持ちはわからなくもない。

 

 茶柱が簡易トイレを組み立てながら、ビニールと吸水ポリマーシートの説明をしていくが、女子の半数以上は殆ど話を聞いていなかった。とりあえず、このビニールとシートは無制限に使えるらしいので応用が利くだろう。原作でもBクラスも使っていたしな。

 

「無理に決まってます! 絶対無理!」

「トイレくらい我慢しようぜ。揉めるようなことじゃないだろ篠原」

「ふざけないで。男子には関係ないでしょ。段ボールのトイレなんて絶対無理」

「決めるのはお前たちだ。だが、海や川は勿論、森の中で適当に用を足すことは認められていない。それは忘れるなよ」

「だ、段ボールなんて絶対無理だし! それに男子も近くに居るんでしょ? 無理!」

「んだよそれ。だったらどうすんだよ。一週間トイレ我慢するのかよ、絶対無理だろ」

「それは……そうだけど。でも、段ボールだけは絶対無理!」

 

 結局、出来る出来ないの話では無く、無理と言っている以上、対立するしかない。

 

 揉めているのは池と篠原だが、二人の意見に賛成できるクラスメイトたちもまた、一触即発空気を出していた。

 

「やっほ~」

 

 クラスが揉める中、場違いに呑気な声がかけられる。

 

 茶柱の表情が見覚えのある不機嫌面に変わると同時に、オレの背後からBクラス担任の星之宮がやってきた。

 

 星之宮は堂々とDクラスの話し合いの中に入ってきて茶柱の背後に回り込んで行く。回避することも出来たのだろうが、茶柱は特に抵抗することも無く、星之宮の背後からの抱きつきを受け入れていた。

 

「……何してる」

「何って、スキンシップ? どうしてるかなーって思ったから」

 

 星之宮がそう言って茶柱の体を触って行く。

 

「サエちゃん……最近ちょっと奇麗になった?」

「お前はルールをちゃんと理解しているのか? 他クラスの情報を盗み聞きするのは言語道断だぞ」

「私だって教師の端くれよ。仮に何か情報を耳にしたって教えたりしないわよ。それより、何か運命みたいなものを感じちゃうよね。私たち二人揃ってこの島に来るなんてさ」

「うるさい。お前はさっさとクラスに戻れ」

「あっ、綾小路くんじゃない。久しぶり~」

 

 茶柱の声を無視するように、星之宮がこちらに話しかけてくる。最後にあったのは、須藤の審議前なので確かに久しぶりといえば久しぶりだった。

 

「夏は恋の季節、この間の可愛い子との仲を深めるなら、こういう奇麗な海が効果的かもよ~?」

「前にも言いましたが、彼女じゃ無いので」

「なら、好きな子に告白する良いチャンスかも~?」

「では、星之宮先生。一緒に海でも見ませんか?」

「あら~お上手ね。でもざ~んねん。流石に生徒相手に恋愛は出来ないなぁ」

 

 告白(嘘)のおかげか、星之宮の好感度が上がったようでニッコニコしている。しかし、代わりにもう一人の先生は、顔に青筋を立てていた。

 

「おい。これ以上は問題行動として上に報告するぞ? それに時間が無い」

「う、そんなに睨まなくてもいいじゃない……わ、わかったわよぉ。じゃあね~」

 

 茶柱に気圧され、星之宮はそそくさとBクラスに戻っていく。星之宮がある程度離れるのを確認すると、茶柱は時計を確認し、すぐに口を開いた。

 

「では、これより最後の追加ルールを説明する」

「まだ何かあるのかよぉ……」

「この島の各所にはスポットと呼ばれる箇所がいくつか設けられている。それらには占有権というものが存在し、占有したクラスのみ使用の権利が与えられる。どう活用するかは権利を得たクラスの自由だが、効力は8時間、それを過ぎると自動的に権利が取り消される。そして、スポットを一度占有するごとに1ポイントのボーナスを得ることが出来、試験終了時に清算され加算される仕組みだ。あくまで精算時に加算されるので、試験期間中は使用できない。また、学校側は常に監視をしているため、このルールにおける不正の余地はない。その点は注意するように」

「それすっげぇ大事じゃないすか! ポイントまで付いて来るなんて美味しすぎる! 俺たちで全部取ってやろうぜ!」

「焦る気持ちはわかるが、このルールにも大きなリスクがある。そのリスクを考慮した上で利用するか決めるんだな。それもマニュアルに全部書いてある」

 

 大騒ぎの池だったが、その言葉を聞いて落ち着いたようで、改めて追加ルールのページを開いていく。

 

 ・スポットを占有するには専用のキーカードがいる。

 

 ・一度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは好きに使用できる。

 

 ・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合50のペナルティを受ける。

 

 ・キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物だけである。

 

 ・正当な理由なく、リーダーを変更することは出来ない。

 

 ・7日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利を与えられる。その際、的中させることが出来たなら、当てたクラス1つにつき50ポイントを得る。逆に外した場合や、他クラスから当てられた場合、50ポイントを支払う。

 

 ・リーダーを見破られたクラスは、ボーナスポイントを全て失う。

 

 原作通りで、特に変わったことは書いていない。おそらく、キーカードを持つリーダーも、Aは戸塚、Bは白波、Cは龍園、Dは堀北になるだろう。

 

「リーダーは例外なく、必ず一人決めて貰う。だが、最後のリーダー当てに参加するかは自由だ。リーダーが決まったら、私に報告しに来い。その際にリーダーの名前が刻印されたキーカードを支給する。制限時間は今日の点呼まで。それまでに決まらない場合は、こちらで勝手に決めることになる。以上だ」

 

 茶柱が説明を終えると同時に一歩後ろに下がった。これから先は自分たちで考えろと言うことだろう。

 

 とりあえず、須藤はもう我慢が出来ないようで、茶柱が組み立てた簡易トイレの中に入っていった。ベースキャンプやトイレ、決めることは山積みだな――と、考えていると、茶柱がこちらに熱い視線を向けている。

 

 体を許した以上、それに見合った結果を出せ――と、いうことだろうな。まぁ、原作通りに動けば225ポイントは固いのだ。後は少し節約を心がければ、もう少しポイントは増やせる。茶柱としても文句は言わないだろう。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・船で個室を借りた。
 ヤリ部屋。当然、必要なので購入している。

・試験説明の際に茶柱が教師っぽくしている。
 清隆に指摘されたことで、少し真面目になった。



 今話の登場人物一覧。

・綾小路清隆
 原作の船のくだりは全カットして、船で雪を食べていた。無人島試験なのに、肝心の無人島の景観を見ていない。ヤる気はあるが、やる気はない感じ。

・椿雪
 清隆と一緒に個室のベッドを堪能した。ここ数か月で、胸がまた大きくなってきている。現在C寄りのD。

・堀北鈴音
 久しぶりに人に優しくされて、無自覚に饒舌になっていた。五月からずっと仕込んだ甲斐があって、もう折れる寸前まで来ている。

・櫛田桔梗
 清隆から、無人島で何かがあると示唆されていたため、特別試験が来てもそこまで驚かなかった。どうやってクラスを纏めるかを考えている。

・茶柱佐枝
 新規奴隷。清隆の指示で、いろいろなものを船に持ち込んでいるが、基本的に特別試験に関わることには手出しをしない方針。清隆としても、何の理由もなく教師を使ってズルをするつもりはないため、その点では同意している。あくまで体のいい雑用係。

・星之宮知恵
 茶柱のちょっとした変化から、茶柱が食べられたことを無意識に察している。

・平田洋介
 無人島試験を頑張ろうと決意するも、クラスがトイレで揉めて困っている。「僕がトイレだ┌(^o^┐)┐」とは、流石に言わせられなかった。

・須藤健
 トイレマン。簡易トイレを使って片づけをしなかった。

・池
 トイレ要らない派筆頭。

・篠原
 トイレ要る派筆頭。

・真嶋
 Aクラス担任。ルール説明をした。


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