ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯029 『ヒントは三つ』

 Tレックスが咆哮を上げてから数時間が経過し、落ち着いたオレと伊吹はDクラスのベースキャンプに戻って来た。伊吹のことは原作通りに龍園と敵対してクラスを放り出されていたのを保護したことにしている。

 

 一晩を一人で過ごしたと話すと、伊吹が本気で離反していると思われたらしく、伊吹は原作よりもDクラスに馴染んだようで、申し訳なさそうにシャワーを借りていた。

 

 また、オレが帰ってきたことで、雪と櫛田から、他のクラスの偵察に行かないか誘われる。他クラス――という言い回しをしているが、やはりCクラスが気になるのだろう。まぁ、オレも龍園がどんな豪遊をしているかは興味があった。

 

 と、いう訳で、3人で行こうとすると、珍しく堀北が「私も行くわ」と声をあげる。

 

 どうやら堀北はリーダーとしてやる気に満ちているようで、体調不良を無視してでも他クラスの様子を見に行きたいらしい。まぁ、体力を減らしてくれる分には大歓迎なので、堀北も連れて4人でCクラスがいると思われる砂浜まで歩いていった。

 

 海が視界に映ると、原作通りCクラスがポイントを使って豪遊しているのが目に入ってくる。

 

 オレとしてはやっぱこうなったか、くらいの感想しかないのだが、どうもこの策は上昇志向の強い堀北には気に入らないようで眉を顰めていた。

 そんな中、チェアーに寝そべっている龍園の姿を見つけると、側に居た男子生徒がこちらの方に寄って来る。別に来てもらわなくても、こちらから行くんだが――

 

「あの、龍園さんが呼んでます……」

 

 何か、雑用係みたいで可哀想だ。龍園も側に置くなら、もう少し強そうなやつにすればいいものを。

 

「まるで王様ね。クラスメイトを使いにするなんて」

「で、私たちはその王様に歓迎されているみたいだけど……どうする? 綾小路くん」

「行くさ」

「行かなきゃ来た意味がないしねー」

 

 気の弱そうな男子生徒に「連れて行ってくれ」と返事をし、後についていく。

 歩いていくと、水着姿でチェアーに寝そべり余裕を見せつける龍園の姿と同時に、テーブルに堂々と置いてある無線機を発見した。罠かと疑うくらいに堂々と無線機が置いてある。

 

「よう。こそこそ嗅ぎまわってると思ったらお前らだったか。俺に何か用か?」

「そんな、私たちが勝手に来たみたいな言い方されても……龍園くんの所の犬が私たちの所に来て、ご主人様が呼んでるってキャンキャン鳴くからわざわざ足を運んだんだけど」

「い、犬……」

 

 雪が、小宮と近藤を犬と称したことが堀北のツボにはまったのか、後ろを向いて笑いを我慢している。しかし、この学校に来てこなれたのか、雪もなかなか挑発が上手になったな。入学時は須藤の恫喝にも怯えていたというのに。

 

「クク、そんなこともあったか? まぁ、ゆっくりしていけよ。見ての通り、俺たちは夏のバカンスって奴を楽しんでいるのさ」

「みたいだね。夢のような体験をさせてくれるんだっけ?」

「龍園くん。これは試験なのよ? それがどういうことだかわかっているの? この羽振りのよさを見ると、ルールそのものを理解してないんじゃないかと呆れてものも言えないのだけれど……」

「呆れてじゃなくて、笑っての間違いじゃないのか?」

 

 思わぬ龍園からのカウンターに堀北が黙り込んだ。まぁ、敵との話し合いで隙を見せた堀北が悪い。

 

「しかし、まさかお前らが敵である俺に塩を送るとはな」

「……トップが無能だと、下が苦労する。それが不憫なだけよ」

 

 そっぽを向いたままそう答える堀北に、龍園がただ笑っているだけだった。そのまま、無線機の側に置いてある水のペットボトルに手を伸ばす。

 

「相当豪遊しているようだけど、どれだけ使ったの? これだけの娯楽を堪能するにはかなりのポイントが必要なはずよ」

「はっ。さぁ、いくらだろうなぁ? ちまちま計算なんてしてねーよ」

 

 堀北も原作と違って龍園のポイントゼロ作戦には気付いているのだろうが、わざと反応を見るために知らないふりをしているようだ。

 

「ちっ、もう温くなってやがる。おい石崎。キンキンに冷えた水持ってこい」

 

 そう言ってペットボトルの水を捨てると、近くで待機していた石崎にそう命令した。

 石崎も慌ててテントの中へ水を取りに行くが、その際テントの中に食料と水の段ボールが無造作にたくさん積み上げられているのが見える。随分と食料や水を買い込んでいるじゃあないか。

 

「見ての通り、俺たちは夏のバカンスを楽しんでいるだけさ。つまり、この試験中お前らの敵にはなりようがないってことだ。わかるだろ?」

「敵とか言う以前の問題ね。あなたの策は既に見えているし、私からすれば馬鹿にしか見えないわ」

「馬鹿なのはどっちだ? 本当に俺の方か? それともお前らか? 俺の策が見えていると言ったな。是非、聞かせて欲しいものだ」

 

 ちらっと堀北がこちらを見てきたので、頷いて任せることにした。

 

「あなたはクラスに与えられたポイントを全て使い切って、そのままリタイアするつもりなのでしょう?」

「……ほう、気付いてたか」

 

 原作ではリタイアまでには気づいていなかったが、ここでは龍園の余裕を見てちゃんと気付けたらしい。協調性は駄目駄目だが、洞察力や思考力は原作よりも成長している。

 

「ま、そういうことだ。こんなクソ暑い無人島でサバイバルだと? 冗談じゃない。100だか200だかの小さなクラスポイントを拾うために、お前らは飢えに耐え、暑さと虚しさに耐える。想像するだけで笑えてくるぜ」

 

 ようやく水を持ってきたのか、石崎が汗だくで走って来た。しかし、ペットボトルを受け取ると、即座に石崎に投げ返す。

 

「俺はキンキンに冷えた水を持って来いって言ったはずだが?」

「うっ……で、でも」

「あ?」

 

 反論は許さない。そんな目だった。

 

 まさに蛇に睨まれた蛙。石崎はペットボトルを拾い上げると、再びテントへ向かって走って行く。

 

 おっ、よく見ると、波打ち際で、水着の椎名が遊んでいるのが見える。こちらに気付いているようなので、小さく手を振っておこう。振り返してくれた。

 

「……今回は、耐え、工夫し、協力し合う試験よ。あなたには無理そうだけれど」

「協力? 笑わせんなよ。人なんざ簡単に裏切る。嘘をつく。信頼関係なんざはなから成り立つことはない。信じられるのは自分だけさ。偵察が済んだのなら帰りな。ま、お前らが望むなら歓迎してやってもいいぜ? 肉を食おうが、水上スキーを楽しもうが好きに遊んで行けよ。それとも俺と別の遊びをするか? 専用のテントくらい用意するぜ」

「とても、Cクラスのリーダーとは思えないだらしなさね」

「俺は努力が大嫌いなんだよ。我慢? 節約? 冗談じゃねぇ」

 

 石崎が再び水を持ってくると、今度は龍園も素直に受け取って水を飲み干している。

 

「これが俺のやり方だ。これ以上もこれ以下も存在しない」

「そう。なら好きにするのね。私たちからすれば好都合よ」

「ふん。他のクラスの状況を知るために汗水たらして動き回るとは、ご苦労なことだな」

 

 用は済んだとばかりに堀北が口を閉ざす。それと入れ替わるように、今度は雪が口を開いた。

 

「用件がもう一つあるんだけどさ。龍園くん、当然だけど伊吹さんは知っているよね?」

「ああ、うちのクラスの人間だ。それがどうかしたか?」

「彼女、クラスを追い出されたみたいなんだけど、何か知ってる?」

「はっ。威勢よく飛び出していったと思ったら何だ、あいつは結局他のクラスの連中に助けを求めたのか? 情けない女だな」

 

 呆れたように笑っている。原作でも思ったが龍園はなかなか演技が上手だな。

 

 そうだ、丁度いいので少し櫛田に耳打ちをしておこう。これで龍園の策が多少は透けるはずだ。

 

「世の中、どうしようもない馬鹿はいるもんだ。支配者の命令に背く手下はいらねぇ。俺がクラスポイントを好きに使うと決めた以上、それに反抗するなど許すはずがない」

「……つまり、伊吹さんはポイントの使い方について、ぶつかり合ったってこと?」

「ま、平たく言えばそう言うことだ。だから軽く仕置きをしてやったのさ」

 

 そう言って、龍園は自分の頬を叩く仕草を見せた。それだけで、伊吹の頬にあった傷は龍園がつけたのだと全員が理解する。

 

「伊吹さんの気持ちもわからなくはないわ。私が同じ立場でも反抗するでしょうね」

 

 話を聞いていた堀北もそう返した。

 

「同じ考えの奴は意外といるもんでな。もう一人逆らった男がいたから、そいつ共々追い出してやったんだよ。死んだって報告はきいてねぇから、どこかで生き延びてはいるだろうさ」

 

 金田のことだろう。原作通りならBクラスにいるはずだ。追い出した生徒は合計で二人――これも、重大なヒントだな。

 

「伊吹がお前らの所に居るならさっさと追い出した方がいいぜ。下手な同情心で助ければ、水も食料も余計に消費するんだ。どうせ、耐えられなくなればリタイアすればいいんだしな。助けるメリットはゼロだぜ?」

「それはこっちが判断するよ。とりあえず、伊吹さんはうちで保護してるから」

「椿さん、戻りましょう。これ以上、ここにいても気分が悪くなるだけよ」

 

 堀北が雪にそう声をかける。雪も「そうだね」と呟いて帰ろうと振り返った。しかし、最後の櫛田が動かない。流石の龍園も帰ると思っていたのだろう。怪訝な表情で櫛田を見ていた。

 

「まだ、何か用でもあんのか?」

「龍園くん。さっき、肉を食おうが好きにしろと言ったよね? Dクラス40人分のお肉、お土産に欲しいんだけど、いいかな?」

 

 まさか、櫛田がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。龍園もそうだが堀北までもが絶句している。

 

「……どういうつもりだ?」

「どうもこうも、龍園くんが夢のような時間を見せてやると言って呼びだしたんでしょ? 偵察がどうのこうの言ってたけど、私は一言もCクラスを偵察に来たとは言ってないよ」

「本当に遊びに来たとでも?」

「そこまでは言わないけど、椿さんの言う通り呼ばれたから来ただけだよ――けど、結局、夢のような時間は見せて貰えなかったしね。お肉くらいもらってもいいでしょ? 肉40人分。龍園くんに言わせれば別にたいしたものでもないはずだけど?」

 

 こちらが何を考えているか読めないのだろう。堀北や雪を相手にしていた時とは打って変わって、厳しい表情で櫛田を睨んでいる。

 

「……流石に、それだけの肉をくれてやる程お人よしじゃない。ここで食っていく分には構わないが、持ち帰りは厳禁だ」

「なんだ、案外ケチだね龍園くん」

「俺たちが食うために買ったもんだ。そこまでしてやる義理はねぇ」

 

 本当に余裕を見せつけるのが目的なら、意見を受け入れるべき場面だが、どうやらそれ以上にこちらへの警戒心の方が強いようだ。しかし、その警戒で見えることもあった。

 

「まぁ、駄目ならいいや。帰ろっか」

 

 今度こそ、用は済んだとばかりに櫛田も帰ろうとする。つい先ほどまで余裕そうにこちらを見ていた龍園も、軽口を叩くこともなく無言で帰るオレたちを見送っていた。

 

 原作では龍園が堀北の名前を呼び、セクハラをする場面だが、櫛田を警戒し過ぎてそんな余裕もないようだ。堀北も困惑していたが、特に意味の無い会話だと判断したのか、すぐにいつもの調子に戻っている。

 

 雪は真意に気付いたのか、「成程ね」と呟いていた。

 

 しかし、当の櫛田は、今の会話に何の意味があるかはわかっていない。オレに耳打ちされたことを、ただそのまま話していただけだからだ。

 それでも、私全てわかっています――という演技をしているのは流石と言えるだろう。それでこそ、Dクラスのリーダーだ。

 

 

 

◇◆

 

 

 

「論外ね。Cクラスは。完璧な自滅をしてくれて助かるわ」

 

 Cクラスのベースキャンプから離れると、堀北がそう口にした。原作より成長しているとはいえ、流石に今の堀北では龍園の意図は察せないようだな。

 

「堀北、本当に龍園がポイントを全部使ってリタイアするだけだと思っているのか?」

「えっ……?」

「気付けなかったみたいだな。ヒントはあったんだが……」

「ちょっと待って。どういうこと? あなたには何が見えているの?」

 

 今回ばかりは本当に何もわからないようで、堀北も完全に混乱していた。

 

 普段の堀北なら違和感くらいは気付きそうなものだが、もしかしたら体調不良が思考の働きを妨害しているのかもしれない。それはそれでいいことだが――

 

「最初の疑問点。龍園は何故、オレたちを自分のベースキャンプに来るように仕向けたのか」

「それは、私たちを挑発するため……」

「本当にそれだけか? 挑発した所で、リタイアするあいつに何のメリットがある? わざわざDクラスのベースキャンプまで来る意味は薄くないか?」

「それは――」

「龍園の三文芝居に引っかかったな。あいつは、自分たちが豪遊している、豪遊し終わったらリタイアする、ってことをアピールしたかったんだ」

 

 オレがそう話すと、雪も続く。

 

「龍園くんがさ。ポイントを全部使ったって言ってたけど、見た感じ精々150~200ポイントって所だったんだよね。それも、半分は水と食料」

「もっと言えば、水はジュースでもない普通の水で、食料は肉や魚じゃなくて栄養食だ。豪遊をアピールするクラスに必要な物資とはとても思えない」

 

 堀北が龍園と言い合っている最中、石崎が水を取りに行った時にテントの中身が見えた。あれは見せてはいけない情報だ。

 テントの中には、昨日オレたちも買った水と栄養食のセットの段ボールが入っていた。おそらく今日の夜にでもAクラスに届けるつもりだったのだろう。

 

「リタイアはフェイクで、もっと滞在するつもりってこと?」

「それはない。浜辺のスポットだけで長々と滞在するのは限界がある。あいつらはテントも買ってないみたいだしな。まず、今日明日でのリタイアを視野に入れているのは間違いない」

 

 だとすると、疑問が出てくる。何故、豪遊をアピールしてきたのか。残りのポイントは何に使ったのか。残った食料はどうするつもりなのか――堀北も思考し始めた。

 

「二つ目の疑問点。何故、伊吹はDクラスの近くにいたのか? この広い無人島で、たまたまオレたちのベースキャンプの近くにいるなんて明らかにおかしくはないか?」

「……伊吹さんは、Cクラスのスパイってこと?」

「それ以外にないだろう。Cクラスがポイントを全て使いきるという作戦で揉めたと龍園は言っていたが、だからといって伊吹やもう一人がわざわざ島に残る意味はない。減るポイントなどないのだからさっさとリタイアしてしまえばいいんだ」

 

 にも関わらず残っているということは、別の目的があると言っているようなもの。

 

「三つ目の疑問点。何故、通信機を持っていたのか」

「通信機?」

「気付かなかったか? 龍園が寝そべっていたチェアーの側の机に通信機があっただろう。だが、Cクラス内で生活するだけなら、通信機などいらないはずだ。先程のように、何かあれば部下に命じれば良い。つまり、あれは他に使う目的があるってことだ」

 

 ここまで説明すれば流石に堀北もわかってきたのか、黙って思考を働かせている。

 

「……つまり、龍園くんはリタイアすると見せかけて、島に残って他のクラスのリーダーを探すつもりなの?」

「そう考えていいだろう。豪遊しているとアピールしたり、リタイアをほのめかしたりしたのは、自分から疑いの目を外すためだ」

「……待って。だとしたらおかしいわ。何故、Cクラスは大半の生徒がリタイアするのに、あんなに大量の食料を用意したの? 龍園くん一人が残るだけなら、そんなに食料はいらないはずよ」

「気づいたか」

 

 大量の食糧に、余ったポイント、そして二人のスパイ――状況証拠は揃ったと言っていい。

 

「ここからはあくまで推測だが、龍園はこの試験でAクラスかBクラス、どちらかと手を組んでいる可能性がある」

「過剰な食糧、それに使用が不明なポイント、伊吹さんともう一人の離反者……確かに、そう考えるのが自然だね」

 

 雪はすぐにオレの考えに理解を示した。しかし、堀北と櫛田はわからなかったのか、驚いたような表情を浮かべている。

 

「堀北、お前の言う通り、仮に龍園が島に残るつもりでも、一人なら過剰な食糧は必要ない。あれは別に使うから用意したと考えるのが自然だ。40人が一週間を過ごせるだけの備蓄を自分たちで使わないのであれば、横流しする以外に使い道はないだろう」

「それに、豪遊以外で何に使ったかわからないポイントも、他のクラスの支援に使ったと考えれば不思議じゃなくなるよね?」

「一番の鍵は、スパイが二人という点だ。他のクラスは3つあるのに、クラスから離れたのは二人しかない。つまり、残り一つのクラスにはスパイを送る必要がないということ――手を組んでいる証拠だ」

 

 ここまで説明すれば、二人もわかったようで納得した様子を見せている。特に堀北は悔しいような、感服したような、複雑な顔をしていた。

 

「……ちょっとした違和感から、よくそこまで推測できるわね。龍園くんがリタイアするフェイクには気付けたけど、流石にそこまでは推測できないわ」

 

 堀北も頭を無理に使ったことで頭痛がするのか、少し頭を押さえている。どうやら、体調は思った以上に良くないらしい。しかし、それでも思考することは止めていなかった。

 

「……でも、ようやくわかったわ。だから、櫛田さんはお肉をお土産に欲しいと言ったのね」

 

 そう納得の声を出す。それを聞いた櫛田も「気付いちゃった?」と返しているが、こいつはまだあの発言の真意がわかっていないはずだ。あたかも知っているフリをしているだけである。

 

「ええ。あの時、龍園くんはいきなり意味不明な要望を出されて困惑したでしょうね。でも、すぐにこちらの意図を探ったはず……何故、櫛田さんがそんなことを口にしたのか、何を考えているのか――反応は劇的だった。私や椿さん相手にあれだけ余裕をかましていた男が一瞬でこちらを警戒したのだから」

「龍園くんは当然考えるよね。何で櫛田さんはいきなりこんなこと言い出したんだ――って、そしてこう考える。もしかしたら、櫛田さんは自分たちの食糧備蓄を探ろうとしているのかもしれないって」

「こうなると食料は渡せないわ。渡せば、豪遊に見合わない食料の備蓄を確認されるかもしれないもの。それらしい言葉で誤魔化していたけれど、あの場で食べるのは良くて持ち帰りが駄目なのは明らかにおかしいわ」

「禁止にする意味がないもんね。つまり、龍園くんは自分から情報が洩れるリスクがあると考えて櫛田さんのお願いを拒否したってこと」

 

 ここまで説明されれば、櫛田もオレの頼みの真意に気付いたようで、「その通り」と、あたかも最初からわかっていましたとばかりに、雪と堀北の推理を褒めていた。

 

 オレからも、少し補足してやろう。

 

「そもそも、龍園が本当にリタイアするつもりなら警戒なんてする必要はない。警戒心を出した時点で、警戒する何かをするつもりですって白状しているようなものだ」

 

 龍園がオレたちを呼んだ目的が、自分たちは戦う意思がないと思わせるために余裕を見せつけることなら、あそこは食料を渡す以外の選択肢はなかった。渡さないなら何のために呼んだんだって話になる。見せかけの余裕に違和感が出てしまう。

 

 だが、その違和感を抱えてでも、龍園はこちらに食料を渡すことを拒否した。オレたちに情報を渡したくなかったのだ。

 

「でも、綾小路くんの推測が正しかったとして、AとB、どちらと手を結んでいるかが問題だよね……」

「オレの予想だとAが9割、Bが1割だ。Bクラスは前にCクラスと揉めているし、一之瀬は龍園をかなり警戒している。性格的にも合わないだろうし、そう簡単に手を結ぼうとは思わないはずだ」

「なら、Bクラスにスパイがいる可能性が高いのね……」

「丁度良いからBクラスへ顔を出してみようか? それで大体の答えは出るはずだよ」

 

 雪がそう提案してくる。どうやら、Bクラスのベースキャンプの場所を知っているようだ。

 

「雪、Bクラスのキャンプ地を知っているのか?」

「朝、男子が顔を洗いに行った時に、こちらの様子を見に来たんだって。その時に、キャンプ地の場所を教えて貰ったみたいだよ」

「あ、それは私も聞いてる。いつでも遊びに来て貰って構わないって言ってたらしいね」

「……ますますBとCが手を組んでいる可能性は減ったわね。もし組んでいるのなら、そんな無警戒に他クラスを自分のキャンプ地に呼び込むとは思えない」

 

 と、話しながら、雪と櫛田の案内でBクラスに向かう。原作通りならば、金田が既にスパイとして潜入しているはずだ。それを見れば、今の予測も大分信憑性が出てくるだろう。

 

 

 




 原作との変化点。

・伊吹が合流するのが一日遅れた。
 そのおかげで、Dクラスからは原作よりも受け入れられており、伊吹も素直にお世話になっている。

・龍園にちょっかいをかけに行った。
 テント内の食料や水については独自解釈ですが、原作でも食料と水が無造作に沢山詰まれているという文脈はあるので、Aクラスに渡すための物資だと推測。違和感があったらごめんね。

・肉40人分。
 Aクラスに渡す食料を確認されるのを恐れて要求を拒否。しかし、拒否した時点で、自分は相手を警戒する何かをしますと自白したようなものだった。

・堀北と櫛田に原作知識からのこじつけ推理を披露した。
 仮に原作知識がなくても気づいていた。その証拠に、雪も同じ推測をしている。



 今話の登場人物一覧


・綾小路清隆
 伊吹を食べて機嫌がいい。龍園の隙だらけの策を完全に見抜き、原作通りに行くことを確信した。

・椿雪
 肉40人分を聞いて、大体のことを理解した。ただの都合がいい女ではなく、出来る女である。

・堀北鈴音
 龍園の策略にまんまと乗せられた。その後、清隆、雪経由で龍園のたくらみを理解する。体調はかなり悪い。

・櫛田桔梗
 清隆の考えていることは理解できていなかったが、その素振りを欠片も見せなかった。推論を聞いて、あたかも知っていましたと振舞っている。肝が太い女。

・龍園翔
 中盤までは調子に乗っていたが、櫛田の肉40人分で一気に警戒を見せた。質問の真意を理解できなかったため、それらしい言い訳で誤魔化している。

・石崎
 前回のミスもあって龍園のお使いをしている。二度目の水を取りに行く際に、「冷たくなってくれぇ」と祈っていた。


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