ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯035 『始まりのディスカッション』

 そんなこんなで、一回目のディスカッション。

 

 指定の時間になったので、竜グループの部屋に行くと、オレと雪以外は既に揃っていたようで視線が一斉にこちらを向いた。何と、あの龍園までもが既に座っている。

 

 別に遅刻した訳ではないのだが、このまま視線を集めているのも嫌なのでそそくさと席に着く。桔梗の隣に座ると、オレの隣に雪が座る。

 それと同時に、『では、これより一回目のグループディスカッションを開始します』というアナウンスが流れ、試験が本格的に始まった。

 

 とはいえ、突然ディスカッションして下さいと言われても誰も率先して口を開こうとはしない。

 本来なら、桔梗辺りが動く所だが、今回のディスカッションではオレの指示でDクラス代表として動かないといけないため、場を支配するような余裕はなさそうだった。

 

「はいちゅうもーく。大体の名前はわかっているけど、一応は学校の指示もあったことだし、自己紹介した方がいいと思うな。初めて顔を合わせる人もいるかもしれないしね」

 

 桔梗が動かないとわかると、様子を見ていた一之瀬が代わりにこの場を仕切り出す。

 

 原作では兎グループを引っ張っていたのを見れば不思議ではない。誰も意見を出さないこの状況を打開すべく、率先して声を上げようと思ったのだろう。

 

「そうだな。学校からの唯一の指示だ。破れば罰則もあるかもしれない。自己紹介をすることに、こちらも異論はない」

 

 同意したのはAクラスの葛城。

 

 まぁ、保守的な考えを持っている葛城としては、ここで反論するようなことはしないと思っていた。

 AクラスとBクラスの意見が一致したことで流れが決まり、こちらも桔梗が「Dクラスも問題ないよ」と返事をしている。

 

「Cクラスはどうかな? この部屋のどこかに音声を拾うマイクがセッティングされているかもしれないし、そうなった時に不利になるのは自己紹介をしなかった人だと思うけど」

「クク、素直に言えよ一之瀬。グループ全体での罰則が怖い、ってな」

「そうだね。それも否定しない。ただ強制は出来ないから、自己紹介をするしないは龍園くんたち、Cクラス次第だよ」

「まぁ、拒否する理由はねぇな」

 

 龍園が遠回しに自己紹介をすることを認めると、言い出しっぺの一之瀬から順に自己紹介が始まった。

 

「じゃあ、私から時計回りで行こうか。Bクラスの一之瀬帆波です。クラスでは学級委員長を担当しています。よろしくね」

 

 言い出しっぺの一之瀬が挨拶を終える。

 

 同時に、次の神崎が立ち上がり、簡潔な自己紹介を終えた。その次の津辺という女生徒も神崎に続いて自己紹介をし、そのままB、A、D、Cという順番で回って行くことになり、続いてはAクラスの番になる。

 

「Aクラスの葛城康平だ。よろしく頼む」

 

 葛城が自己紹介を終えると、西田、的場、矢野と続き、Dクラスも平田、桔梗、オレ、雪と自己紹介を終えていく。

 続いて、Cクラスの番になると、鈴木と園田がまず名乗り、最後の龍園が、「龍園だ」という一言で自己紹介を終わらせた。

 

 短すぎる。堀北でももう少し喋るぞ。

 

 いや、そうでもないか。多分、「Dクラスの堀北よ」くらいだろうからそんなに変わらない気もする。まぁ、何はともあれ、自己紹介が無事に終わった以上、特に文句をつける気はないけどな。

 

「さてと、これで学校からの言いつけは果たせたかな? それでこれからのことだけど、どうやって進めて行こうか。私が進行役をするのが嫌なら言って貰える?」

 

 全員の自己紹介が終わると、再び一之瀬が立ち上がり場を仕切り始めた。当然、今更面倒な進行役を買って出るような物好きがいるはずもなく、そのまま一之瀬が進行を続けることになる。

 

「特に希望者がいないようだし私が進めるね。まず今回の試験を始めるに当たって、わからない点や疑問点、気になる部分があったらみんなで話し合うべきだと思うの。そうじゃないといつまでもシーンとした状況が続いちゃいそうだし。誰か質問か意見はある?」

「では、俺から一つ言いたいことがある」

 

 一之瀬の言葉に間髪入れずに反応したのは葛城だった。おそらく、原作通り話し合いをしない方向に持って行くのだろう。

 

「この試験、結果1で終わらせたい者、結果3で他クラスを出し抜こうと考えている者、様々な思惑があると思うが、俺たちAクラスは話し合いには参加せず全員沈黙させてもらうことにする」

「それはつまり、結果2の優待者の逃げ切りを目指すということかな?」

「そうだ一之瀬。この試験には4つ結果が存在するが、その中で一番避けたいものは何だと思う?」

「結果3か結果4の優待者の正体を裏切り者に報告されること、だね」

「その通りだ。裏切り者を生み出すことは敗北に繋がる。裏切り者が正解しようと失敗しようと、どちらにせよどこかのクラスはマイナスになるということだ。では、逆にそれ以外の答えの場合はどうなる?」

「……結果1と結果2にはマイナスの要素が存在しない」

「そうだ。残りの二つの結果にはデメリットがない。クラスポイントにこそ差は出ないが大量のプライベートポイントが手に入る。だが、結果1は常に裏切り者を誘発する危険が付きまとう。多少、貰えるポイントが下がるとしても結果2を目指すのが利口だ」

 

 違うか――と、葛城が視線で問いかけてくる。一之瀬は首を縦にも横にも振らなかった。

 

「では、結果2にするにはどうすればいい? 簡単だ、優待者を見つけなければいい。話し合いなどすれば、周囲の人間を優待者と疑い裏切り者を生み出してしまう。だからこそ、我々は話し合いを拒否し、この試験中は沈黙を貫かせてもらおうと思っている」

 

 朝に龍園も言っていたが、この竜グループが各クラスのリーダー格が揃えられたクラスというのは、各々既にわかっていると見ていい。

 当然、優待者が均等に割り振られているのも推測できているだろうし、そのような低レベルな質問は議題にも上がらなかった。

 

「待て。確かに葛城の案は、一見問題が無いように聞こえる。だが、Aクラス以外のクラスには見えないデメリットが存在する。それを無視することは許容出来ない」

「……では、聞くが神崎。お前の言う見えないデメリットとは何だ?」

「お前もわかっているはずだ。結果1、結果2は確かに大量のプライベートポイントを手に入れることが出来る。だが、お前が今言ったようにクラスポイントに差が出ない。つまり、下のクラスの人間は上のクラスに上がるチャンスを一つ無駄にすることになるということだ。この先、特別試験が何回行われるかわからない以上、俺は貴重なチャンスを簡単に捨てるつもりはない」

 

 そんなBクラスの神崎の言葉に同意するように、一之瀬が「私も同意見かな」と声を上げる。

 

「今、AクラスとBクラスの差は、無人島試験の結果を踏まえて200ちょっと。この試験の結果次第では、うちがAクラスになってもおかしくない。葛城くんが守りに入ろうとするのも、その危険を避けたいからでしょ? 悪いけど、こっちはそれを許すほど優しくないつもりだよ」

「だとしても、Aクラスとしての方針に変更はない。既にAクラス全員に今話した方針で試験を進めるように通達してある。如何なる理由があっても話し合いには応じないことを覚えておけ。それでも、お前たちが結束して話し合うなら好きにすると良い。俺にそれを止める権限はない」

 

 そう言うと、葛城は目を閉じ、宣言通り口を閉じた。残り三人も同様のようで葛城同様に完全に動かない構えだ。

 

「さーてと、どうしたものかなー」

 

 流石の一之瀬も困った様子を見せている。龍園も黙っているようだが、手堅い戦術を取ってきた葛城に馬鹿にしたような視線を向けていた。

 

「話し合いに参加したくないって言うなら無理に誘うことはないんじゃないかな。耳を塞いでいる訳じゃないんだから、こっちの話は聞こえるだろうし」

 

 桔梗がそう纏めると、一之瀬も「まぁ、そうだね」と頷く。

 

「あまりのけ者にするのは避けたいけど、クラスの方針じゃ仕方ないね」

 

 続けて、「話し合いに参加したくなったらいつでも言ってねー」と声をかけたが、葛城は文字通り沈黙を貫いている。

 

 動くならここだな。桔梗に目で合図を送った。

 

「じゃあ、話し合いを続けようか、他に意見のある人はいる?」

「なら、私からいいかな?」

「いいよ、櫛田さん」

「葛城くんたちが話し合いを拒否しちゃったけど、私はこの試験を全てのグループで結果1にして終わらせたいと考えてるんだ。みんなはどうかな?」

 

 まるで当たり前のような桔梗の発言に、即答できる人物はいない。それはそうだろう。やりたくてやれるなら誰だってやっている。

 

「……つまり、櫛田さんはクラス間の差を詰めるより、プライベートポイントを集めたいってこと?」

「うん。もし、この試験を全部のグループで結果1にして終わらせることが出来れば、全てのクラスに2000万PP以上のポイントが手に入る。これが何を指しているかは、当然知ってるよね?」

「2000万PPでクラスを移動する権利が手に入る……」

「勿論、抜け駆けしろって言ってる訳じゃないよ。私が言いたいのは、全クラスに2000万PPっていう膨大なポイントが手に入る状況を作りたいってこと。この先、PP次第でいろいろな取引だって出来るようになるかもしれないし、いわば活動資金を貯めるって感じかな」

 

 桔梗の話を聞いて、一之瀬や龍園だけでなく、あの葛城すら思案する表情を浮かべた。

 

 未だかつて、2000万PPを溜めた生徒はいないとされているが、それはあくまで個人での話――原作でもそうだが、クラスや学年で力を合わせれば、2000万は不可能な数字ではない。

 

 だが、それでも2000万は安い金額ではないのは全員がわかっているだろう。その2000万が、一年生夏の時点で全てのクラスに手に入るということになれば、この先のクラス間での争いも大きく変わってくる。それがわかったのだ。

 

「クク……面白ぇ。少なくとも、そこのチキンハゲの沈黙作戦よりは数段マシな提案だ」

 

 三クラスの中で、我先にと龍園が桔梗を肯定する。

 

 原作でも、龍園はクラスポイントより、プライベートポイントを重視する考えを持っていた。

 結果1を目指せるのであれば表立って否定してこないであろうことはわかっていたが、龍園のことだ、裏でこちらを出し抜く策を考えていてもおかしくはない。油断はしない方がいいだろう。

 

「でも、口で言うほど簡単じゃないよ? 相手を裏切らないのは当然として、それを一年生全員が守らなきゃいけない。欲に負けて裏切者が出る可能性は決して低くないと思う」

「だから、この場で提案したんだよ。ここにはクラスを率いるリーダーが揃ってる。当然、クラスを一つにまとめるくらいできるでしょ? そうじゃなくちゃ、こんな提案しないよ」

「なかなか言うな。だが、一之瀬の言葉もあながち間違っちゃいない。落ちこぼれのDクラスが一番裏切りの危険をはらんでると思うが、その点はどう思うんだ桔梗?」

「そうだね。だから、契約で裏切ったときの罰則を決めようと思うんだ。それこそ、一時の好奇心で裏切るのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの罰則をね」

 

 オレは基本的に契約には罰則をつけるようにしているが、原作の契約には罰則がない。教師立ち会いの下で契約をすれば、契約違反=重い罰則になるからだ。

 

 オレは重い罰則には興味が無いから、契約違反でも相手を奴隷にするために罰則を作っている。それと同じく、目に見えてわかる罰があれば、自分を制御できない生徒たちの裏切りも妨害出来るだろう。

 

「罰則は単純。裏切りを行ったクラスは、所属する生徒全員が現在持っている全てのPPと試験で手に入れたPPを裏切った相手のクラスに譲渡する。その上で、この先学校から入手する全てのPPも、他の3クラスに割って譲渡する――つまり、裏切ったクラスはこの先卒業するまでPP0で生活するってこと」

 

 仮に裏切って450CPというポイントを手に入れたとして、それで手持ちのPPがなくなるのであれば意味は半減する。

 その上、契約を違反するということは、この先他の三クラスを敵に回すに等しい。少し考えればデメリットの方が多いのはわかるはずだ。

 

「ず、随分と重い罰則だね……」

「そうかな? 裏切らなければいいだけの話だよ。それだけで全員が50万、優待者なら100万PPが手に入るんだもん。そんなに気にすることじゃないと思うけど?」

「だが、それには全部のクラスの協力が居る。だんまりを決め込んでいる、そこのハゲ率いるAクラスはどう説得するつもりだ?」

「Aクラスとしても悪い話じゃないと思うけどね。やることは今と殆ど変わらないんだし。基本的には最後のディスカッションまではだんまりを決めて、終わるギリギリに優待者が名乗り出るだけ」

 

 と、桔梗が話すも、葛城は反応しない。

 

「まぁ、葛城くんが嫌なら、もう一人のリーダーに協力を仰ぐだけだよ。坂柳さんの連絡先は知ってるし、Aクラスの内情的にも坂柳さんの指示なら聞くって生徒も出てくるだろうしね。そうなれば、葛城くんだって、今のままだんまりは決め込めなくなるんじゃない?」

「……それは脅しのつもりか?」

「やっと返事をしてくれたね。ううん、脅すつもりはないよ。ただ、葛城くんには一度クラスメイトを集めて今の提案をしてもらいたいだけ。一之瀬さんや龍園くんも同じ。もし、一つのクラスでも嫌だって生徒が出れば、諦めてうちも他の策にシフトするつもりだしね」

 

 あくまでもお願いであって、命令ではない――と、桔梗は告げる。実際に、一つでも協調しないクラスがあれば、実行できない策だからな。

 

 その時は、状況次第ではあるが、ある程度のCPを確保するために一之瀬のクラスを巻き込んで、AとCの優待者を狙い撃ちにでもすればいいだろう。

 

「だから、このディスカッションが終わったら、A、B、Cの三クラスには、今の考えをクラスメイトに伝えてみてくれないかな? 次のディスカッションで答えを聞きたいんだ。わかってると思うけど、裏切り者が出た時点で契約も何もなくなるから、出来るだけ早くお願いね」

 

 そう言って、桔梗は返事も聞かずに席に着いた。龍園辺りが茶々を入れてくるかとも思ったが、ニヤニヤと桔梗を見ているだけで黙っている。葛城、一之瀬も黙って思考を働かせているようだった。

 

 桔梗もとりあえず役割を終えてホッとしているようだが、表面上は真剣な表情を保っている。ここで油断して笑みでも浮かべようものなら、この緊張感も台無しになるからな。

 

 結局、その後は特に何か意見が出るようなことはなく、一回目のグループディスカッションは終了となった。Aクラスは葛城を筆頭に即座に部屋を退出し、続いてCクラスも龍園に続くようにして部屋を出て行く。

 

 残されたBクラスも、神崎や津辺が席を立ち上がると、一之瀬も苦笑いを浮かべながら一緒に部屋を出て行った。その後、誰も居なくなると、「疲れた~」と桔梗が緊張を解いたように伸びをする。

 

 平田も「お疲れ様。リーダーは大変だね」と、桔梗を労っており、雪も「良い緊張感だったよ」と、桔梗が上手く場を支配していたことを褒めていた。オレも頷きを返す。文句なしに、今回の桔梗は良い仕事をしてくれた。

 

 だが、これで終わりではない。

 

 ここからどうなるにしろ、オレたちもとりあえず結果1を目指すためにクラスメイトたちを集めて事情を説明する必要がある。

 そして、クラスメイト全ての連絡先を知っているのは桔梗だけだ。もう一度、桔梗には頑張って貰う必要がある。

 

 桔梗もオレの考えはわかっているようで、「ご主人様は人使いが荒すぎるよ~」と、聞こえない声で呟くと、携帯を取り出してクラスメイト達に連絡を取りだした。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・竜グループでのディスカッションについては基本的に原作の兎を踏襲している。
 Aクラスが守りに入り、Bクラスが追撃するまでは一緒。違うのは、そこから櫛田のターンで場を支配したこと。もはや、この小説において、リーダー櫛田は必要不可欠。

・PPの重要性を各クラスに訴えた。
 龍園は割と乗り気。一之瀬は困惑。葛城は無視できずにとりあえず話だけ聞いている。これからどうなるかはこの三人の行動次第。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 今回は何もしていない。基本的に全て櫛田にお任せ。

・椿雪
 今回は何もしていない。基本的に全て櫛田にお任せ。

・櫛田桔梗
 Dクラスリーダーとして、清隆の指示通りに動いた。内心では、「怖いんだけどー」とガクガクブルブルしている。

・一之瀬帆波
 持ち前の気質で場を仕切ったが、後に主導権を櫛田に奪われた。Dクラスからの予想外の提案に驚いている。

・平田洋介
 清隆から今回は櫛田に全て任せろと言われていたので静かに龍園や葛城の様子を見ていた┌(^o^┐)┐

・龍園翔
 櫛田の提案には驚いたが、学年に8000万PPが集まるのはメリットが多いので全面的に肯定的。これが櫛田自身の案か、裏に誰かいるのかを考えている。

・葛城康平
 原作通りにだんまりを決め込んだが、櫛田の脅しに屈している。坂柳派が一斉に反旗を翻したら試験所ではなくなるため、渋々櫛田の意見を飲んだ。

・神崎隆二
 Dクラスの予想外の提案に驚いたが、理に適った提案であるとも理解していた。自分は上のクラスを超えることしか見ていなかったが、この先を見据えた選択をした櫛田に尊敬の視線を向けている。


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