次の競技は棒倒しだ。一応、龍園とは契約を結んであるが、偶然に見せかけたラフプレーを仕掛けて来てもおかしくはない。
当然、須藤には「Cクラスはラフプレーを仕掛けてくる可能性がある。カッとして挑発に乗るなよ」と注意しておいた。須藤も、「おう、10秒!」と返事をしており、覚悟を決めてこの棒倒しに参加しているのがわかる。
赤組はAとDが仲間だが、向こうがこちらを警戒している以上、密接な連携など取れるはずもなく、原作通りに攻めと守りを交互にすることになった。最初はAが守りでDが攻めとなったので、とりあえずサクッと一勝を取ってしまおう。
見ると、龍園と神崎も表向きは、協力する気ゼロのようで、Cクラスがオフェンス、Bクラスがディフェンスと分かりやすく別れていた。
今回、Dクラスは、須藤を始めとした攻撃部隊に殴られるのを覚悟で突っ込ませ、平田のように足が速めの奴で作った少数の遊撃部隊に、須藤たちが敵の視線を集めている間に、敵の敵陣の隙を突いて棒を狙わせるという作戦を立てている。須藤に負担がかかる上、殴られる危険もあるが、今の須藤ならば耐えてくれると信頼しての作戦だ。
「須藤、大変だと思うけど頑張ってくれ」
「心配すんな綾小路。俺が一人でも敵陣に穴を開けてやっからよ」
「平田はなるべく隙を見逃さないように」
「オッケー」
「オレはCクラスの山田アルベルトを止めてくる。あいつを放置して置くと棒が倒されかねない」
本来であれば、オレも遊撃に参加すべきだが、アルベルトを止められる人間がAに居ない以上、代わりに止める人間が必要だろう。
互いの組が配置に着くと、後はスタートのホイッスルを待つだけとなった。龍園が意味深な笑みを浮かべる中、スタートの合図とともにアルベルトが突撃してくる。
こちらも前に出て、アルベルトと組み合っていく。体格では負けているが、力では負けていないので真っ向勝負でも拮抗していた。実際にアルベルトも組み合って押し切れないとわかると目に見えて動揺している。
「驚くのはまだ早いぞ」
そう言って、一歩、アルベルトを押し返していく。「No way!? Unbelievable!」と、悲鳴のような声が出していた。有り得ない、信じられないと、自分が押されていることを認められないようだ。
アルベルトはこちらを舐めて腕の力だけで押そうとしていた。しかし、オレは腰を落として力を入れている。体重移動を使って全身の力を使っている以上、体格頼りのアルベルトには負けない。
一歩、また一歩と、アルベルトを押し返していく。流石の龍園も驚いているようだが、同時に須藤もまた集団にタコ殴りにあっていた。
視線を奥に向けると、平田が隙を突いて棒を狙っているが、神崎が上手くガードしている。須藤も、頑張って前進しているが、その勢いは落ちていた。
後ろを見ると、葛城が何とかCクラスの猛攻を防いでいるが、オレがアルベルトを逃がせば状況は覆るだろう。まさに一進一退という状況だ。
やる気の高円寺がいればもっと楽に勝てるのだが、ここで負ける訳にはいかないので、そろそろこちらも本格的に動こう。
ずっと押し合いになっていた手から力を抜いていく。アルベルトもいきなり押していた相手から力が抜けたことで、勢いがつきすぎて前のめりに倒れてしまった。
同時に、ダッシュで敵陣に切り込んでいく。龍園と神崎はすぐに反応したが、龍園は前線にいるし、神崎も平田を警戒して陣形を広く取っている。この隙間を狙わない手はない。
「須藤、腰を落とせ!」
そう声を上げると、顔を庇いながら殴られまくっていた須藤が腰を落とす。その背中を足場に跳び上がり、一気に赤組の棒の天辺を掴んだ。
いくら下を支えていても、上から体重をかけられては耐えられるはずもなく、赤組の棒が倒れる。アルベルトもすぐに立ち上がったみたいだが、その頃にはもうこちらは跳び上がっていた。赤組の棒に向かうだけの時間は残っていない。
「ケッ、アルベルトを止めた上に、簡単に棒を倒しやがって……お前は猿じゃなくてゴリラだったみたいだな」
立ち上がって自陣に戻ろうとすると、龍園がそう声をかけてきた。流石にアルベルトが止められたのは計算外だったのだろう。けど、ゴリラはやめてくれ。
「アルベルトに増援を送ってオレを倒すべきだったな。須藤にちょっかいを出しているから状況を見誤るんだ」
「須藤も、もっとキレるかと思ったけどな。どうやら、ちゃんと躾はしているらしい……」
防衛のBクラスに紛れて、3、4人ほどCクラスの生徒が須藤を挑発するように殴っていたのは原作通りだったが、須藤はもう成長しているのでその程度ではキレない。
そのまま自陣に戻ると、満面の笑みを浮かべた須藤が手を挙げた。どうやら、殴られたことは微塵も気にしていないらしい。いいことだ。こちらもまた両手を上げて、ハイタッチをした。
「やったな、綾小路!」
「須藤が粘ってくれたおかげだ。勿論、相手の防衛を広げてくれた平田たち遊撃部隊。みんなの力があってのことだが」
原作では、Dクラスの欠点は、やる気のなさと連携だと言っていたが、この世界では全員がやる気に満ちている。それは博士が、原作では参加していなかったこのひと月の練習に参加していることからも明らかだろう。
やる気、つまりモチベーションを上げるのはそう難しいことではない。この年頃の少年少女は、多かれ少なかれ、桔梗程ではないにしろ承認欲求を持っている。
博士で言えば、自分が女子に気に入られるような人間ではないとわかっているからこそ、やっても無駄だと二次元に逃げている訳であり、桔梗や愛里といった可愛い女子から応援されればコロッと手のひらを返した。池や山内も同じだ。
上のクラスを目指す上昇志向の強い幸村の場合は、自分で悩んでいた通り、運動がこの先にも役に立つと理論的に説明してあげれば努力するのを拒まない。
篠原のようなギャル系は、平田のようなイケメンが、体育祭が済んだら一緒に遊びに行こうと言ってやれば一発だし、井の頭のような気弱系は小さなことでも褒めて自信をつけさせることが大切だ。
そうやって、各々のモチベーションに火をつけてやれば、後は流れに乗せるだけでいい。
後は桔梗や平田のカリスマを使って全員を引っ張り、悲しみも喜びも共有することで一体感を覚えさせるだけ――そうすれば、もう手を抜こうなどと考える奴はいなかった。他人の結果にすら一喜一憂する、一之瀬クラスにも負けないやる気を手に入れることが出来た訳だ。
連携については、モチベーションを上げるついでに行っていた、このひと月の練習が解決してくれた。一つのことに全員が向かい合う以上、必然的に連携は磨かれて行く。だからこそ、今の棒倒しもBとC相手に互角の立ち合いを見せることが出来た。
「とはいえ、このまま素直には行かせてくれないか……」
棒倒しは、先に二勝した方の勝ちであり、まだ試合は残されている。当然、向こうも先程の結果を見て対策を練ってくるはずだ。
どうやら、変わらず攻撃はC、防御はBのようだが、こちらは攻めと守りを交代している。Dクラスが棒の周りに集まっているのを見て、龍園もDが防衛だとわかったのか、さっきとは攻める形が微妙に変わっていた。
先程のやり取りで、龍園も須藤を狙っても無駄だと判断したらしく、その分をアルベルトの護衛にしている。こうなると、先程のように簡単にはアルベルトを抑えられない――いや、龍園のことだ。オレとは組み合うなという指示をしている可能性は十分にある。
しかし、アルベルトを放置できない以上、オレという最大の戦力はどうしてもアルベルトに寄せざるを得ない。こちらが防いでいる間に、Aが勝ってくれるのが一番いい展開ではあるが、Bクラスは、須藤と平田のコンビでも崩せないくらいには、防御力が高い。
「……どうするか。Cはまだラフプレーをしてくるだろう。龍園も前の結果を警戒して、アルベルトに護衛をつけている。さっきのように簡単にはいかない」
「オレが死んでも棒は守ってやるぜ」
「僕と三宅くん、牧田くんで綾小路くんを守るよ。向こうも山田くんを抑えれば、大分攻め手が緩むはずだ」
「それしかないか……いや、逆だな。ここは敢えて守りは捨てよう」
「守りを捨てる?」
平田が首を傾げた。下手に守るだけじゃ勝てない。やはり、何としても棒を倒す必要がある。
「須藤、アルベルトを止められるか?」
「Cクラスのでかいハーフヤローか」
「オレは警戒されているから、先程のようにはいかないだろう。何人か攻撃部隊を見繕ってやつを止めてくれ」
「でもよ、俺が抜けたら棒はどうすんだ?」
「仲間を信じる」
「……わかった。俺が死んでもあいつを止めてやる」
「平田、三宅、牧田を中心に棒を守ってくれ。少しでも時間を稼いでほしい」
そう指示を飛ばすと、二試合目のスタートを意味するホイッスルが鳴り響き、再びCクラスが突っ込んできた。今回は龍園も攻めに出るつもりなのか、アルベルトの横に陣取っている。そこから指示を飛ばすつもりなのだろう。
こちらもAクラスが前進し、再びフィールドが砂塵に包まれて行く。須藤がアルベルトを止めに行ったのを確認すると、腰を低くしてAクラスの後ろに張り付いた。
「綾小路はどうした? アルベルトを止めるのに、お前じゃ役者不足だろ須藤?」
「どうだろうな? 俺はここを止めるように言われただけだ」
そういう二人の会話が聞こえてくる。須藤も受け流しが上手くなったな。
「隠れて不意を打つつもりかい?」
そのまま、隠れて進んでいると、最後尾にいたAクラスの橋本という生徒が小声で話しかけて来た。どうやら、オレが隠れて攻撃に参加するつもりでいることに気づいたようで上手く姿を隠してくれている。
「ああ。悪いが、そのまま上手く誤魔化してくれ」
と、返しながら進むと、AクラスがBクラスにぶつかり乱戦となっていった。
「綾小路を探せ! どこかに隠れているはずだ!」
どうやら、神崎もオレを探しているようで、辺りをキョロキョロしている。どうやら、オレが隠れていることは察しがついているらしい。
このままでは見つかるのは時間の問題か――ならば、敢えて見つかりに行こう。
橋本の後ろから離れて、腰を低くしながら一気にBクラスの左側に回っていく。
「いたぞ、綾小路だ!」
「一之瀬の彼氏だからって手加減しないぞ!」
「むしろ、羨ましいから手加減しないぞ!」
「回り込んでいるぞ! 防御を固めろ!」
しかし、いくら隠れても20人もいれば見つかるのは当たり前。一人が声をあげると同時に、Bクラスの視線がこちらに向く。
当然、白組は先程の敗北を覚えている以上、オレはこの上ない警戒対象だろう。龍園ですらこちらに視線を向けており、防御の意識が一気にこちらに偏った。
――今だ。
「突っ込め!!」
こちらが声を上げると同時に、白組の棒が『右側』から押されて行く。慌てて神崎が視線を戻すと、葛城が一気に突っ込んで棒を押していた。
嫌でも目立って視線が集まるのであれば、敢えて相手のヘイトを集めて隙を作る。真っ向勝負では互角でも、隙が出来れば話は別だ。オレの方に意識が集まれば、自ずとAクラスが棒の根元まで突っ込むチャンスが生まれる。
オレ対策で、意識を左に傾けたのが仇となり、右側からの突撃を受けて棒が斜めに倒れた。
こうなれば、もうオレに構っている場合ではなくなり、Bクラス全員が防御に回る。同時に、オレへのヘイトが外れて再びフリーになった。そのまま勢いよく助走をつけて跳び上がると、斜めになった棒を掴んで再び体重をかけていく。
流石に垂直の棒は難しいが、ここまで斜めになった棒ならば、オレの跳躍力があれば掴める。結局は、先程と同じ流れになり、白組の棒が倒された。
「……チッ、神崎の奴もだらしねぇ。ろくに守りも出来ねぇのか」
と、悪態をつきながら、龍園も自陣に戻っていく。どうやら今回の須藤は無事だったようで、特に何かされたようには見えなかった。
「大丈夫だったか?」
「ああ、向こうは取っ組み合いがしたかったみたいだけどよ。こっちは避けて、棒に行けないように通せんぼしてやったぜ。そっちはどうやって勝ったんだ?」
「綾小路が助けに来てくれた。正直、俺たちだけでは間に合わなかっただろう」
葛城が「隙を作ってくれて感謝する」と頭を下げてくる。とりあえず、「仲間だからな」と返しておいた。実際、Aクラスの参加表を龍園に渡しはしたが、団体競技で協力しないとは言っていない。
向こうも、勝って悪い気がしないはずもなく、「次もよろしく頼む」と言って自分たちの陣営に戻って行く。葛城も、今のAクラスが孤立している状況に思う所はあっても、Dクラスが協力の姿勢を見せている限り敵対行動はしてこないだろう。
こちらも、白組に2連勝を決めたということで、先程までの負けも幾分取り戻せたはずだ。特に須藤はニコニコで、目に見えて機嫌が回復していた。
◇◆
男子の棒倒しが終了すると、女子の玉入れが始まった。これは小細工のしようがないので、純粋なエイム勝負となる。運よく勝つことを祈るしかない。
「勝てー、勝ってくれぇ……!」
実際、須藤は切実に祈っていた。
先程大勝して勢いに乗りたいのか、須藤が女子を応援しながら手を合わせている。一人が声を出せば、誰かが続き、気が付けばDクラスは全員で赤組を応援していた。
「合計54個で、白組の勝利です」
しかし、応援の甲斐なく、赤組は2対1で負けてしまう。こればかりは運なので仕方ない。切り替えていくしかなかった。
「おっしぃー!」
「玉入れにも必勝法があればなぁ!!」
常識や恥を捨てていいのであれば、ジャージの上着に球を詰めて、袋にして投げるという荒業もあるにはある。球が物理的に大きくなるので入れやすくなるし、ジャージの中に詰めた球で数も稼げる――が、ジャージに球を詰める作業で時間を使うので必勝法という訳でもない。
女子が帰ってくると、櫛田が苦笑いで「負けちゃってごめんねー」と謝ってきたが、男子の中で女子を責めるような馬鹿は流石にいなかった。あの山内ですら、気を使って「ドンマイ」と声をかけている。
「まずいわね……」
「何がだ?」
「競技の結果よ。組同士の戦いには勝っているけれど、今の負けでまたB、Cクラスとの差が開いたわ」
堀北の独り言に疑問を返すと、周りに聞こえたらまずいと思ったのか、声を潜めてそう話しかけてきた。そういえば、堀北にはCクラスに参加表を渡したのを話していなかったっけか――まぁ、別に教えなくても問題はないが。
「体育祭の練習覚えている?」
「練習?」
「AクラスやBクラスが私たちの様子を伺っていた中、Cクラスだけは我関せずを貫いていた。一人くらい興味本位で見てもおかしくない場面で、全員が統一されたように見ていないのは明らかに不自然だったからおかしいと思っていたのだけれど、今回の競技の結果を見て確信に変わったわ。Cクラスに、私たち赤組の参加表の内容が漏れている……」
教えなくても自分で気付いたか。
「正解だ」
「その言い方、あなた……もしかして、最初からこうなることがわかってたんじゃ?」
「正確にはオレが龍園に参加表を売った」
「……クラスを裏切ったってこと? いえ、あなたがそんな短絡的な行動をするはずがない」
「体育祭はどんなに頑張っても+50ポイントしかクラスポイントが増えない。なら、ここでの勝ちは捨てて、別のメリットを貰った方がDクラスのためになる」
「別のメリット?」
「生徒会について、お前はどれだけ知っている?」
「生徒会? 兄さんが所属しているくらいしか知らないけれど……?」
仕方ないとはいえ、やはり視野が狭い。そろそろ上級生の情勢もしっかり把握させないと堀北は使い物にならないな。
「いいか? 今、生徒会ではお前の兄率いる穏健派と、2年の南雲副会長が率いる革新派に二分されている。お前の兄は、この学校の伝統を守り、今の学校を継続する考え。対する南雲は、完全実力主義――つまり、能力の低いものは切り捨てて、優秀な生徒だけを残すという過激な考えを持っている」
「この学校の伝統……」
「何だかんだ言って、この学校は救済措置を用意している。退学に関してもCPやPPを支払えば取り消せるのはお前も知っているはずだ。南雲は、そういう温い学校の考えを否定しているのさ」
「……それで?」
「うちの雪がお前の兄の派閥で、今回の生徒会総選挙では南雲と争うことになる。今回の体育祭の勝利よりも、生徒会総選挙での勝利の方が、後々得られるメリットが多い。生徒会長になれば、特別試験にも関与出来るらしいしな」
「だから、参加表と投票権を交換したのね……」
50CP等、目じゃないメリットだと堀北も気付いたようだ。
「お前も、雪が生徒会長になったら、生徒会に叩き込むつもりだ」
「わ、私を!?」
「クラスを牽引するのは桔梗がいる。お前は雪のサポートで、クラスに貢献しろ」
「……ご主人様の命令なら従うしかないわね」
「まぁ、お前が入る頃には、もうお前の兄はいないだろうがな」
「別にそれは構わないけれど、私の力で椿さんのサポートが出来るかが少し心配よ」
「そこは心配していない。お前は優秀だ。雪も新体制になればどうしても手が回らない部分が出てくる。あいつをサポートしてやってくれ」
兄の話はさらっと流したが、優秀だと言われて少し嬉しいのか、頬を赤くしながら「了解よ」と返して、堀北が離れていった。
同時に、2年女子の玉入れが終了し、3年女子の玉入れが始まる。そろそろ、男子は次の綱引きについて説明を受けるため移動を始める――のだが、須藤が体の調子を確認するようにストレッチをしているのが目に入った。
「体、痛むのか?」
「ん? ああ、いや……そりゃ、殴られた所はいてーけど、とりあえず競技が続けられないほどじゃねーよ」
「気を付けろよ。お前が抜けたらDクラスは終わりだ。そういう意味だと、騎馬戦や障害物走なんかでお前を潰すためにラフプレーを仕掛けてくる可能性は十分ある」
実際、挑発が効かないと判断した龍園が何を仕掛けてくるかまでは読めない。Dクラスの勝利を防ぐために須藤を潰しに来ることも十分あり得た。
「おう、気を付ける。大丈夫だ、心配すんなって。綱引きは接触する要素もないし、ラフプレーもしようがねーんだから」
「……それでも、注意はしておけよ」
「おうよ、勝とうぜ。綾小路!」
綱引きに関しては、全身を使った引き方を既に伝授してある。当然、Aクラスにも教えており、最初は信じていなかったAクラスも、練習でDクラスに全敗したら流石に信じざるを得なくなっていた。これで、余程イレギュラーがなければ負けはしないはずだ。
綱引きも、前の棒倒しや玉入れと同じく二本先取となっており、先に二勝した方が勝ちとなっている。三年女子の玉入れが終了し、綱引きの縄が入ってくると、AとDで弓なりになるように、身長の高い生徒、低い生徒、高い生徒の順に並んでいった。
「白組も同じ並びか……」
「どうやら、向こうもこの陣形の強さをわかっているようだな」
須藤と共に、白組の様子を見ていく。向こうも、龍園が指示を飛ばし、身長の高い生徒を前に、低い生徒を真ん中にし、それを身長の高い生徒で挟むスタイルに変えていた。
Bクラスは身長の低い順に並ぼうとしていたようだが、龍園の指示でCクラスが前に出て大きい順に並ぶことで、必然的に向こうもこちらと同じ陣形となっている。神崎が文句を言っているが、龍園は当たり前のように聞く耳を持っていない。
向こうが同じ陣形を敷いてきたことで、赤組内でも驚いたような声が出ているが、ちょっと綱引きについて調べればこの陣形のメリットは理解できる。原作でも使っていたし、向こうが使っても何も不思議はない。
しかし、こちらは陣形だけでなく、綱の引き方もしっかり伝授している。向こうは縄も普通に持っているだけだし、このまま行けば勝てるはずだ。
「へッ、付け焼刃の陣形で勝てるほどこちとらヌリィ練習はしてねぇんだよ! いくぞ、お前らぁ!!」
先頭の須藤がそう声を上げると、クラスメイト達も『おう!!』と声を張り上げた。
同時に、スタートの合図がされ、互いに綱を引いていく。先程、男子が応援していたように、Dクラスの女子達も桔梗や軽井沢を先頭に男子を応援してくれていた。
『いち! に! さん! いち! に! さん!』
と、声を出しながら、後ろに体重をかけて行く。最初は拮抗していた勝負もすぐに赤組優勢となり、一試合目は赤組の勝利と判定された。
「オラァ! 余裕だぜ!」
須藤がそう吠えると、白組の後ろに居た神崎が苦しそうな顔をしながらも黙って次の準備を始める。対する龍園はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「へっ、たいしたことねーぜ! これなら女子も楽勝だな!」
実際、事綱引きに関しては、普通に引いている以上、向こうに勝機はない。龍園もこちらが後ろに体重をかける策だとは気づいても、この短期間では対策など打てないはずだ。
「だが、余裕は禁物だ。何をしてくるかわからないんからな」
「何もしようないだろ。綱引きで反則は不可能だからな」
「だと、いいんだけどな」
全体の気が緩んでいたので、「油断すると負けるぞ!」と声を上げた。これで多少は気が引き締まるだろう。
数分のインターバルが終わると、二回戦の準備が始まった。お互いに陣形は変わりないが、龍園は何やら意味深な笑みを浮かべている。おそらく、原作通り、綱を放して尻もちでもつかせようとしているのだろう。
「っしゃ! 次も勝つぜ!!」
と、須藤が吠えると同時に、二回戦が始まった。再び、『いち、に、さん』の掛け声で後ろに体重をかけて行くが、その瞬間縄から伝わる力が緩くなり、そのまま尻餅を突く形で赤組全員が後ろに倒れる。やはり、手を放してきたか。
混乱の赤組だが、見ると白組もBクラスがつんのめるように前に倒れていた。無事なのはCクラスだけで、奴らがわざと手を離したのは明らかだ。
「何をやっている龍園! ふざけているのか!?」
これには神崎も怒り心頭なようで、龍園に掴みかかる勢いで詰め寄っていた。
「勝ち目がないのに頑張るのは体力の無駄だろう? だから、手を休めたんだよ」
しかし、龍園は相手にするつもりはないようで、神崎にそう返すとすぐに自陣に帰ろうとする。
「おっと、そうだ。よかったなお前ら、ゴミみたいな勝ちを拾えて。這いつくばる姿はなかなか面白い見世物だったぜ」
最後に挑発も忘れず、龍園は自陣に戻っていった。Bクラスの生徒も、仲間であるが身勝手な行動をする龍園に怒りを隠す様子もなくクラスに戻っていく。
「あの野郎!」
「10秒!」
須藤が一瞬キレそうだったのでそう声をかけると、すぐに落ち着きを取り戻した。
「悪い、綾小路。サンキュ」
「向こうは負けた事実を有耶無耶にするためにこちらを挑発しているだけだ。実際、勝ち目がないと口にしていただろう? 対策を練ることも出来ずに負けを認めるしかなかった証拠だ」
そう言うと、龍園の負け惜しみだということはわかったようで、赤組も文句を言いつつも引き下がっていく。勝ったことに変わりはない。
どうやら女子は二回戦の間に綱引きの準備を始めたようで、入れ替わるようにバトンタッチしていった。
先頭の桔梗が手を挙げて、「おめでとう!」と声をかけてきたので、ハイタッチを返すと、続く軽井沢も手を挙げ、全員が手を挙げてハイタッチをしている。男子も、先頭のオレに続き、全員が女子とハイタッチして、今の後味の悪い勝利を払拭していた。
続く女子の綱引きも、練習で学んだ引き方で二勝して赤組の勝利となっている。
団体競技で勝ち越したおかげもあり、学年の順位も大分詰まって来ていた。次の団体競技である騎馬戦の結果次第では、学年2位も視野に入ってくる。Bクラスとの差は、もう僅かなものとなっていた。
原作との変化点。
・棒倒しで2連勝した。
原作のように殴られても須藤が耐えた。その隙に棒を倒している。
・堀北が違和感に気づいた。
ちゃんと成長している。ここで生徒会についての知識を入れ、いずれ雪の補佐にすることを命じた。
・綱引きで圧勝した。
原作のように龍園に転ばされ、思わず須藤が切れそうになった。が、10秒コールで耐えている。雰囲気の悪さを察した櫛田と軽井沢が、ハイタッチで空気を入れ替えた。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
棒倒しでかなり活躍したが、坂柳は丁度席を外していて見ていなかった。
・堀北鈴音
清隆がいずれ自分を生徒会に入れるつもりと聞いて驚いている。その頃には兄はいないが、もう特に気にした様子も見せなかった。兄離れがかなり進んでいる。
・櫛田桔梗
綱引きの結末を見て、すぐに悪い空気を入れ替えた。状況をよく見た素晴らしいサポートである。
・軽井沢恵
櫛田の行動を見てすぐに意図を察した。櫛田、軽井沢と続いたおかげで、クラスにハイタッチの雰囲気が生まれた。
・平田洋介
清隆の活躍に大興奮している┌(^o^┐)┐
・須藤健
Cクラスからの攻撃で体を少し痛めたが、少しずつ結果が出て来て喜んでいる。
・龍園翔
いろいろと悪だくみをしているが、思ったよりも成果が出ていない。特に、須藤が挑発に耐えたのは予想外だったようで驚いている。清隆の力が自分の想定した以上のものだとわかり、真正面からのぶつかり合いは分が悪いと判断した。ちなみに、Bクラスの参加表は、教師にPPを支払って確認している。
・山田アルベルト
清隆に力負けして地味にショックを受けている。棒倒しの二度目も、須藤を囮に清隆がどこからか不意打ちしてくるのではないかと警戒して思い切りいけなかった。
・神崎隆二
棒倒しでは守りを指揮していたが、清隆に隙を突かれた。綱引きでは龍園の身勝手な行動に憤っている。また、Cクラスがやけに有利に体育祭を進めていることに疑問を感じつつある。
・葛城康平
清隆のおかげで窮地を救われた。夏のこともあり、少しずつ清隆には心を許しかけている。
・橋本正義
地味に初コンタクト。棒倒しでは、清隆の意図を察して自分の背中で姿を隠した。
・Bクラスモブたち。
アイドルの一之瀬の彼氏ということで、清隆へのヘイトが高い。