ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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SIDE:10 『坂柳有栖の発見:南雲雅の牙』

 SIDE:坂柳有栖

 

 

 正直、高校の三年間は適当に過ごそうと考えていた。中学の時もそうだが、周りのレベルが低すぎる。最初は、暇つぶしがてら学校を支配してみよう――と、考えたこともあったが、5月の結果を見た瞬間、自分が動けばどうなるかの結末が見えてしまった。

 

 この差を守ってAクラスで卒業するのは、あまりにイージーすぎて面白くない。

 

 ならば、派閥争いと称して葛城くんで遊びながらAクラスのポイントを減らして、底辺から巻き返すくらいが丁度いい難易度だろう。体育祭が行われるその日まで、私はそんなことを考えて過ごしていた。

 

 グラウンドにいたのは偶然だ。

 

 最初は寮で本でも読んで過ごそうと考えていたが、後々のために同学年で運動能力が優れている人間だけでも見ておこうと気まぐれを起こしただけ。

 

 ――そして、私は彼を見つけた。

 

 最初は見間違いかと思った。暇を持て余している自分が、その人物を妄想しているだけではないかと――しかし、彼は1200メートルリレーで、優勝候補と名高い堀北生徒会長と南雲副会長を余裕の表情で置き去りにしていた。

 

 堀北生徒会長と南雲副会長の能力の高さは、この学校にあまり興味のなかった私ですら知っている。その二人を、まるで子供扱いだ。こんな高校生が他にいる訳がない。

 

 幼い頃、父と一緒に見たガラス越しのあの光景が鮮明に蘇る。あの真っ白な世界で、他を圧倒する彼の姿が――

 

 ずっと戦いたいと願っていた。

 

 彼に挑戦するために今までを生きてきた。

 

 天才とは教育で決まるものではなく、生まれた瞬間に決まっているものだと証明するために。

 

「お久しぶりです。綾小路くん」

 

 誰にも聞こえない小さな声で、再会の挨拶をした。当然、グラウンドの向こうにいる彼には届かない。けれど、彼は何かを感じ取ったように振り向いた。

 

 私と視線が合った訳ではない。

 

 それでも、やはり私と彼は運命的な何かで結ばれているのだと、確信するには十分な出来事だった。見つけてしまった以上、もう私は止まるつもりなどない。

 

 体育祭が終了すると、私は山村さんにお願いして彼を特別棟の三階へ連れてくるように頼んだ。綾小路くんは呼び出しに文句を言わずやってくる。しかし、私の姿を見ても、呼び出しの理由がわからないのでしょう。首を傾げていた。

 

 山村さんを下がらせて、早速挨拶をしていく。あの壁越しに見ていた以上、私は彼を知っていても、彼は私を知らない。私だけが一方的に彼のことを知っている。

 

「ホワイトルーム」

 

 この単語を口にした瞬間、綾小路くんの纏っている空気が変化した。私が本当に彼を知っているとわかってくれたのでしょう。

 

「嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるのは……」

「……お前は」

「無理もありません。あなたは私を知りませんからね。でも、私はあなたを知っている。正直、このような場所であなたと再会するとは思っていませんでした」

 

 しかし、これで見えなかった謎も全て解けた。7月のCクラスとDクラスの騒動、無人島、船上、今回の体育祭――Dクラスの活躍の裏には全て彼がいたからこその結果。

 

「安心してください。あなたのことは誰にも言うつもりはありません」

「言えば楽になるんじゃないか?」

「邪魔されたくありませんし。偽りの天才を葬る役目は、私にこそ相応しい」

 

 例え、一之瀬さんだろうと、龍園くんだろうと、譲るつもりはない。彼は私の獲物だ。

 

「この退屈な学校生活にも、少しだけ楽しみが出来てきました」

 

 まずはAクラスを完全に掌握し、彼と戦う舞台を整える。本格的に戦うのはそれからだ。とはいえ、戦うと言っても、他者を介しての争いでは楽しくない。私と彼、その実力が存分に出し切れることが第一条件であり最低条件――と、考えながら、この場を去ろうとすると、いきなり後ろから抱きつかれた。

 

 しかし、この場には私と綾小路くんしかいない。必然的に、私を抱きしめたのは綾小路くんということになる。

 

 何故――と、こちらが困惑していると、彼は「オレは知らないが、せっかくの再会なのだろう? なら、もっと盛大に祝わないとな」と言って、今度はこちらの唇を奪ってきた。

 

 驚きはしたが、嫌ではない。私は昔から彼に好意を抱いていたのだ。いきなりすぎて思考が追い付いていないが不思議と不快感はなかった。

 ただ、終始ペースを持って行かれている。こちらの反論も、彼は余裕で受け流してきた。どうやら意外にもこの手の行為には慣れているらしい。

 

 服を脱がされる。力や武器がない私には抵抗など出来ない。仮に大声を出したとしても、今日は体育祭で教師は出払っている。監視カメラもないこの場所に助けなど来ない。

 

 私に出来ることは、負けないことだけだった。

 

 あの手この手で、私を絶頂させてくる綾小路くんに対して、決して敗北を認めないこと。それこそがされるがままの私に唯一出来る反抗だ。

 

 正直、私にここまで性行為を行える体力があったことに自分自身が一番驚いている。勿論、本番を行えば、どうなるかはわからない。彼も、その辺を気にして、私を抱こうとはしてこないが、その分ねちっこくこちらを責め立ててくる。

 

 しかし、耐えるのにも限界があった。声を漏らしてはいけない、反応してはいけないと思っても、彼のテクニックの前には手も足も出ない。それでも、意志さえ折れなければ何とでもなる――だが、そんな私の考えはすぐにへし折られることになった。

 

 この炎天下の中、私はここに来るまでかなりの水分を取っており、トイレに行ったのも随分前の話だ。人間である以上、時間が経てば尿意を催すもので、私もそれは例外ではなかった。

 

 無粋だと思いながらも、綾小路くんに中断を申し出る。彼はすぐに私を抱えてトイレに連れて行ってくれた。ただ、抱え方が――私の背中から膝を抱えるようにしているので、前から見ると全てが丸見えになってしまっている。

 

 まぁ、他に誰もいないので問題ないと言えばそれまでだが――と、考えていると、彼は女子トイレではなく、男子トイレに連れて行き、便器の上にカメラを置いて私の耳を甘噛みし出した。

 

 痺れるような感覚が私を襲う。当然、我慢している力は緩みかけ、このままいけば綾小路くんに見られたまま大恥をかくことは確定。いや、彼はそれを狙っているのだ。彼は私に痴態を晒させることで、精神的に屈服させようとしている。

 

 しかし、だからといって、もはや反抗は出来なかった。流石の私も、気になる男性の前で、それもこんな恥ずかしい恰好で用を足す姿を映像に撮られるのは嫌だ。恥も外聞もかなぐり捨てて降参するも、綾小路くんは聞き入れてくれない。

 

 焦りと快感が体を蝕む。

 

 限界だった。私は声にならない悲鳴を上げながら、彼の目の前で女性としての威厳を剝ぎ取られ屈辱を味わわされた。

 

 そこからは記憶があまり残っていない。屈服した私が再び性的に責め立てられ意識を失わされた後、気が付けば私は生徒会総選挙で私が操作できる全てのAクラスの票を椿雪さんにのみ投票することを契約させられていた。

 

 だが、そんなことをしなくても、彼は今回の映像を武器に私を従えることだって出来る。勿論、されるがままでいるつもりはないが、少なくとも私が対策を講じる間は、彼は私を支配できたはずなのに彼はそれをしなかった。

 変わりに、神室真澄さんを退学にはさせないように頼まれている。どうやら、私が彼女がスパイだと気づいていると思ったようで、そちらに保険をかけてきたらしい。

 

 まぁ、神室さんがどこかのクラスのスパイなのは知っていました。ただ、それが綾小路くんの手の者だとは知りませんでしたが――まぁ、それであの痴態を隠せるのであれば、安い買い物と言って良いでしょう。

 

 しかし、彼はこの一度で全てを終わらせるつもりはないようだった。この学校の戦いとは別に、またこういうことをしようと誘われる。

 勿論、拒絶することも出来たが、私も負けたままでいられるほど安い女ではない。次こそは必ず彼を屈服させてみせると改めて誓った。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:南雲雅

 

 

 歯車が崩れたのはどこからだ?

 

 最初は間違いなく順調に進んでいた。体育祭の結果でも堀北先輩に勝利し、生徒会長になってこの学校を変革する――そのビジョンは完全に見えていた。

 

 全てはあの体育祭の敗北からだ。

 

 見知らぬ一年生――綾小路清隆。

 

 いや、顔だけは見たことがあった。前に雪や桔梗と一緒に行動していた男子だ。とはいえ、そこいらにいるモブのような男子であることに変わりはなく、まさかそいつがリレーで俺や堀北先輩の後ろから俺たちをぶち抜いてゴールを決めるなど誰が想像した?

 

 そして、雪。

 

 確かに、優秀な女であることは認める。あの堀北先輩が自らスカウトしただけの能力はあったし、全ての能力において俺や堀北先輩に並ぶ実力は持っていた。

 

 だが、それでも奴はまだ一年。それに女だ。半年では学校の仕組みを理解するので手一杯で、上級生との関わりだって薄い。生徒会長になるためのまともな基盤など出来ているはずがなかった。

 

 最初、あいつが俺の悪評を流した時だってそうだ。惨めな努力をしていると思った。しかし、どんな噂が流れようと、生徒の2/3の票を確約してしまえば俺の勝ちは揺るがない。

 

 仮にあいつが一年を全て纏められたとしても、3年の3/4を俺が握ればどうとでもなる。

 

 あいつには俺と戦えるようなPPはない。仮に堀北先輩が融資するにしても、自身のクラスの戦いがある以上、上限だって限られてくる。2年を支配している俺には決して敵わないはずだった。

 

 だが、結果は僅差での敗北。

 

 いや、票差は関係ない。問題なのは、俺が絶対に負けてはいけない勝負で負けてしまったことにあった。生徒会長と副会長では、その権限に決定的と言える差が存在する。例え、雪が年下でも、会長である以上、俺はあいつの意向に逆らえなくなってしまった。

 

 確かに、俺には油断や慢心があった。負けた以上、それは認めよう。しかし、それでも俺の圧倒的に有利な状況で、負けるはずのない勝負だったはずなのだ。

 

 仮に相手が堀北先輩だったとしても、今回の勝負で勝つことは不可能――そう確信できるくらいの下準備はしていた。

 

 だが、誰が想像できる? 自分で票を集めることが出来ないならば、相手の票を下げようなどと。常識で思いつくようなことではない。勿論、これが普通の選挙で、相手を悪く言って投票率を下げるなどという行為をするなら話は別だ。

 

 しかし、物理的に無効票を作ることで、票自体の存在価値をなくすなど、簡単に考え付くものではない。

 

 あれだけ大口を叩いて、俺は結果を出せなかった。これからは一年に負けた生徒副会長として後ろ指を指されていくことになる。いや、百歩譲ってそれはいい。これから先、雪に勝負を挑んで、俺の方が上だと証明してやればいいのだ。

 

 問題は、堀北先輩に俺のユートピア実現を見せることが出来なくなってしまったこと――俺が散々語って聞かせた世界が、完全な夢物語になり、堀北先輩は一安心しているのかもしれないが、俺としては結局大言壮語で終わることに恥しか感じない。

 

 いや、正直に言おう。怒りが隠せなかった。この気持ちを何かにぶつけないと、俺は平常心を保つことが出来なかった。

 

 幼馴染のなずなにだって、こんなことは打ち明けられない。年下に二度も負けて悔しいから慰めてくれ――なんて、とてもではないが言い出すことが出来なかった。

 

 自ら恥を晒す前にストレスを発散する。こういう時には女を抱くのが一番いい。いずれ、雪や帆波も、俺の私物として可愛がってやる。

 

 楽しみにしていろよ。今は伏して従ってやる――けど、これくらいで俺を倒せたと思っているなら、すぐにでもその喉元食い破ってやるぜ、雪。

 

 

 




 SIDE10は坂柳と南雲。

 坂柳は原作通りの内心と、綾小路への印象など。

 南雲は、清隆も認識しつつも、復讐の矛先は雪に向いているという感じ。


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