ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯055 『見えないマイナス』

 小テストの日はすぐにやってきた。しかし、先週の段階でクラスには小テストによるペアの法則や、今回のテストを乗り越えるための策を伝えており、低得点組は余裕綽々の表情を浮かべている。

 

 だが、テストの前に昨日行われたペーパーシャッフルにおける指名権についての説明をするようで、茶柱が問題用紙を抱えたまま話をし始めた。

 

「これから小テストが行われるが、その前に報告しておく。今回、お前たちが希望してきた期末試験でのCクラスへの指名だが、Bクラスと指名が被ったためくじ引きとなった」

 

 原作ではストレートで龍園クラスと戦えたが、この世界では一之瀬クラスが龍園クラスを指名していたようでターゲットが被ったらしい。

 後で聞いた話によると、体育祭で参加表の内容をCクラスに盗まれたということで、その報復としてCクラスを指名したみたいだった。どうやってBの参加表を手に入れたのか疑問だったが、PPを使って堂々と盗み見たようだな。

 

「代表者である櫛田と一之瀬でくじ引きを行った結果、BクラスがCクラスへの指名権を獲得している。我々DクラスはAクラスを指名することになった」

 

 と、茶柱が口にすると、クラスメイト全員の視線が桔梗に集まった。

 

「ごめんね、運がなかったみたい」

 

 桔梗がそう謝るが責める奴はいない。くじ引きで100%当たりを引ける人間など、漫画やアニメにしか存在しないのだ。

 

「そして、Dクラスに問題を出すことになったクラスだが、Cクラスで決定した。こちらもAクラスと指名が被ったことでくじ引きの結果によるものだ」

 

 やはり、AクラスはDクラスを指名していたか。原作ではBクラスを指名していたはずなので、おしがまへの逆襲なのは間違いないだろう。

 

「つまり、Cクラスの問題で得点を稼げば、Aクラスを倒す可能性はまだある訳ね」

 

 堀北がそう言って桔梗をカバーしているが、厳しい状況なのは変わりなかった。龍園クラスからの攻撃を上手く防御出来たとして、学力の高い坂柳クラスに攻撃を仕掛けても勝ち目はほぼない。

 

 とはいえ、坂柳も本来であればDクラスを狙っていたようだし、最悪の場合はA対Dの直接対決になる可能性も十分あり得た。うちを攻めるのがCクラスになったのは間違いなく朗報だ。

 

 これでAクラスはBクラスを攻め、BクラスはCクラスを攻め、CクラスはDクラスを攻め、DクラスはAクラスを攻めるのが決定した。

 同時に、AクラスはDからの攻撃を防御、BクラスはAクラスの攻撃を防御、CクラスはBクラスの攻撃を防御、DクラスはCクラスの攻撃を防御しなくてならない。

 

「それにしても、今からテストだというのに顔色がいいな。流石に、法則がわかって対策も立てている以上、この小テストは所詮前座――と、いう訳か」

「本番は期末っすよ!」

「へへへ、作戦は決まってますからね!」

 

 茶柱も昨日のホームルームは後ろで話を聞いていたようで、当然だがクラスの対策もわかっているようだった。原作では無駄に煽っていたが、今はオレの指導も有ってちゃんとした先生をしている。

 

 だが、一応念を押しておこう。

 

「もう一度、確認しておくが、成績最上位者10名は85点以上、最下位者10名は0点、上位者10名は80点、下位者は1点で調節してくれ! ミスはないように!」

 

 少し浮ついていた空気を一喝すると、クラスの空気が変わり、全員が気を引き締め直した。オレがクラスに喝を入れるのを見て、茶柱が嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

「さて、では小テストを行っていく。くれぐれもカンニング行為はやってくれるな? 例え成績に関係なかろうとカンニングをすれば容赦ないペナルティを科すぞ!」

 

 ペナルティ=退学なのは、もはや全員がわかっているので頷いていた。そのまま、列の先頭から用紙が配られてくるので後ろに回していく。

 

 オレは当然だが満点を取る組であり、中間試験でも満点を取ったことでしっかりと茶柱からPPを頂いていた。今回の小テストも満点を取って、またPPをせびりに行こう。

 

「始め」

 

 合図とともにテストを解いていく。原作通り、難易度は驚くほどに低く、須藤でも70点は軽く取れるレベルだ。何も知らずにやっていれば、須藤&池、山内などの組み合わせは普通に有り得た。

 

 しかし、この世界は既に原作と乖離しつつある。オレのパートナーが佐藤以外の人間になることは十分あった。そもそも、雪が居る時点で原作よりも頭が良い人間が一人多いのだ。そういう意味では、まだDクラスにもチャンスはあるのかもしれない。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 次の日、すぐに小テストは返ってきた。法則は原作と変わらないので予定通り、成績上位者と成績下位者が上手くペアを組めている。

 

 ただ、雪が加わったことで抽選がランダムになったのか、原作とペアの内容は全く別物になっていた。堀北は山内と、櫛田は沖谷と、平田は須藤と組んでおり、雪の相方も井の頭で、残された池はまさかの高円寺と組んでいる。

 

 そんな中、何故かオレだけは原作通りに佐藤とパートナーになっていた。まぁ、佐藤を食べるという意味では悪くない組み合わせではある。

 

 見ると、長谷部も原作通りに三宅と組んでおり、この調子なら綾小路グループはしっかり成立しそうだった。長谷部と仲良くなる機会などそうないからな。出来れば、綾小路グループは作っておきたかったので丁度いい。

 

「この結果を見てもわかる通り、お前たちはしっかりと小テストの意図を理解できていた。それをクラス全体で共有できていたのも見事というべきだろう」

 

 現在、4時間目。ペアの一覧を見ながら、茶柱が感心したような声を出した。

 

「点数の最大点と最小点の差が広い生徒から順にペアを組む。点数が等しく同じ場合にはランダムで選ばれることになっている――まぁ、もはや説明は不要だろうが、決まりなのでな。伝えておく」

 

 そう伝えると、茶柱は教室の後ろに移動した。残りの時間は自由に使っていいということだろう。

 

 当然のように、オレの周りに雪、桔梗、平田、軽井沢、千秋――と、集まってくる。隣には堀北もいるので、Dクラスの主要メンバーはほぼ集まっていた。

 

「で、これからどうするの? とりあえず、組み合わせは問題なさそうだけど……」

「ええ、ここまでは怖いくらいに順調ね。でも、本番はここからよ。どうやって問題を作っていくか、どうやって期末試験を乗り越えるか」

「あっ、クラスの方針なら決まってるよ。雪ちゃんと堀北さんが居ない間に、クラスの平均点を伸ばすために、いつもみたいに勉強会を開こうって話になったんだ」

 

 生徒会活動が忙しくて方針が伝わっていなかった二人に、桔梗がそう伝えていく。この二人も、本格的に期末が近くなれば、クラスのサポートも出来るようになるだろう。

 

「基本的には1日2部制。学校終了後の午後16時から18時の2時間を勉強する1部と、部活動組に配慮した午後20時から22時の2部。ちなみに、私は1部だよ」

「僕は部活動組だから、2部を担当するよ」

 

 と、話していると、雪と堀北も時間がある時は勉強会に参加すると話している。堀北も前よりは人に配慮できるようになったから、もう勉強会で問題を起こすこともないはずだ。

 

 原作では須藤は部活動があるので、平田がいる2部だったが、ここでは体育祭で怪我をした捻挫がまだ治り切っていないので、1部に参加して櫛田に勉強を教えてもらうつもりらしい。「よろしく頼むぜ、櫛田」と、頭を下げていた。

 

「……少し相談したいんだがいいか?」

 

 しかし、全てが順調とはいかない。原作通りに悩みを抱えた三宅と長谷部が困った顔でこちらにやってきた。

 

「三宅と長谷部か、確か二人は今回の試験でペアだったか」

「それなんだが……俺たち、どっちもテストの得意不得意が被ってるんだよ。それでちょっと困ったからアドバイスが貰いたくてな」

 

 そう言うと、長谷部と三宅が中間テストの答案用紙を見せてくる。二人の平均点は三宅が65点で長谷部が63点だが、原作通り正解不正解の傾向が酷似していて危険な状態となっていた。

 

 櫛田も二人に一言声をかけて、後ろからテストを覗き込んでいる。どうやらすぐに問題に気付いたようで「これは、危ないかもね」と呟いていた。

 

「正直、こういう事態は想定外だね。後で他のペアの確認も取ってみる」

 

 流石は桔梗。こういう時は頼りになる。

 

「済まないな綾小路。普段からいろいろ助けて貰ってるのに、今回も迷惑かけて」

「別に謝ることはない。クラスメイトなんだから当然のことをしているだけだ」

 

 一学期の中間テストの頃から、長谷部と三宅にそれとなく勉強の教材を渡していた。愛里のついでのことだったが、それでも塵も積もれば感謝も山になる。

 

「僕が見るよ。三宅くんは部活も有るし、2部に来てくれれば何とか……」

「私の方でもいいよ。勿論、三宅くんと長谷部さんが良ければだけど」

 

 1部も2部も歓迎ムードだが、逆に長谷部の方が微妙な反応をしていた。

 

「私はパスかな。1部は男子が多そうだし、2部は女子が多そう……それに大勢で勉強会って柄じゃないしね」

 

 男子が多いということは、当然そういう視線に敏感な長谷部としてはよろしくないのだろう。かといって、女子には女子の得意不得意がある。下手に苦手な女子がいる2部も、長谷部にはあまりいい環境ではないらしい。

 

「けれど、二人の不得意な部分は相当似ているわ。このままだと、総合点はクリアできても各科目に必要な60点を下回る可能性も出てくる……」

「そうなんだけどね……」

 

 堀北の言うことは尤もだ。

 

 とはいえ、それでもやはり合わないと思っているのだろう。こちらから視線を外すと、長谷部は背を向けて自分の席に戻って行った。

 

「どこ行くんだよ?」

「みやっちー、誘ってもらったとこ悪いんだけどさ、やっぱ私には向いてないやり方かなって」

 

 そう謝ると、長谷部は自分の席に座り直す。

 

「……悪いな、堀北」

「いえ、私は構わないけれど、あなただけでも勉強会に来る?」

「いや、俺もパスだ。2部も女だらけになりそうだしな。何とか自分でやってみるよ」

 

 そう言って三宅も下がっていった。まぁ、三宅も女子に混ざってってタイプじゃないので、2部にも来ないだろう。やはり、綾小路グループ作成は必須だな。

 

「俺が面倒を見る」

 

 桔梗や堀北があの二人をどうするか悩んでいると、話を聞いていた幸村が名乗りを上げた。これで、グループ作成に必要なメンバーは全員揃ったな。

 

「幸村くん、いいの? あなたは、こういった馴れ合いは好きじゃないと思っていたのだけれど」

「……少なくとも、協力しなきゃ今回の試験は完璧には乗り越えられそうにないからな。俺の目から見ても、教師役が足りてないのは明らかだ」

「それは、そうね……」

「ただ、一つ問題がある。俺は勉強なら教えられるが、三宅や長谷部との繋がりはない。二人を説得して勉強会に誘い出す方法は、そっちで考えて貰いたい」

 

 そう言って、離れていった二人に目を向ける。この距離では声は聞こえていないだろうが、そもそも長谷部はイヤホンをつけて音楽を聴いているようだった。

 

「わかった。二人を呼び出す方法はオレが考えておく」

「……よく考えたら、綾小路がいるなら俺はいらないか?」

 

 原作よりも、オレが手を抜いていないからか、幸村が謙遜するようにそう自嘲する。これは下手に返すと、幸村が撤退してしまいかねなかった。

 

「いや、オレも問題作成があるから、付きっ切りでは教えられないし助かる。むしろ、愛里も一緒に見てやってくれないか?」

「佐倉も?」

「ああ。普段はオレが見ているんだが、今回は時間が取れるかわからないからな。問題を作成しながらだと、どうしても教えるのが難しい」

 

 咄嗟にそう言い訳する。ぶっちゃけ、問題を作る予定など欠片もなかったが、こうでも言わないと今回のように幸村でなくてオレが勉強を教えればいいということになって、綾小路グループが出来上がらない可能性が出てくる。

 長谷部攻略のためには、綾小路グループの存在は必須なので、多少の苦労を買っても原作通りに進める必要があった。

 

 それに桔梗や平田はクラスの勉強会もあるし、テスト期間に入るまでは雪や堀北も生徒会で忙しいので、実質オレ以外に問題を作れる奴はいないだろう。

 

「わかった。引き受ける」

 

 アイドルとはいえ、基本的に愛里は物静かなので幸村も問題ないと思ったようで、幸村もこちらの頼みを快諾してくれた。

 愛里も、もうそろそろセフレたち以外の友達を作っても良い頃だし、ここで長谷部との距離を詰めて雪のように上手くオレに誘導して貰おう――と、考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。

 

 同時に、茶柱が教室から出ていく。

 

 オレもまたいつものように、雪や桔梗と一緒に昼飯を食べようと席を立つ――と、同時に、アルベルトと石崎を従えた龍園がDクラスにやってきた。

 

 よく見ると、アルベルトや石崎の影に隠れて椎名と金田も一緒に居る。原作ではXであるオレを探しに付き合っていた椎名だが、この世界では既に正体をばらしているので龍園と一緒に行動する理由はないと思うのだが――

 

「よう、綾小路。今日も元気に女を侍らせてるみたいだな」

「そういうお前も、今日も元気に男を侍らせているのか?」

「綾小路くん、私は女の子です」

「比率で言えば、男子の方が多いだろう」

 

 少しむくれたように文句を言ってくる椎名を宥めつつ、龍園から視線は外さない。こいつは、仮にカメラがあろうと隙あらば手を出しかねないからな。

 

「クク、この間は世話になったな。まさか、あんな手土産を貰えるとは思いもしなかったぜ」

「楽しんで貰えたなら何よりだ」

 

 どうやら、真鍋たちとの宴は喜んでくれたらしい。お膳立てした甲斐があったというものだ。

 

「こいつ――」

「それで、何をしに来たのかしら龍園くん?」

 

 龍園との会話に割り込むように堀北も前に出て来た。一瞬、顔をしかめる龍園だが、堀北の顔を見ると役者が揃ったと言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「その前に聞かせろ。今回のペーパーシャッフル、表向き指揮を取ってるのは誰だ?」

「私だよ。これでも一応、Dクラスのリーダーだからね」

「なら、お前に話を持って行くのが筋か」

 

 そう言って、龍園は桔梗に向かい直った。

 

「今回のペーパーシャッフル、お前たちは一番学力のあるAクラスへ攻撃を仕掛けることになった訳だが、このままで勝てると思っているか?」

「Cクラスの問題次第だけど、私たちは勝つつもりで行動してるつもりだよ」

「で、明確な策は? まさか、頑張って勉強して乗り越えますじゃねぇだろ?」

「……学力を上げることは、この試験を乗り越える一番の方法だと思うけど」

「違うな。この試験には攻略法が存在する。綾小路ならわかってそうなもんだが、お前らを試しているのか……教えてはいないみたいだな?」

「何のことだ?」

 

 勿論、理解している。

 

 この試験は、攻撃と防衛に分かれてはいるが、基本的に防衛側に出来ることは殆どない。勝つためには、攻撃側にちょっかいを出す必要があった。

 例えば、原作で桔梗がやっていたように、裏切り者に問題を先に提出させるという手だ。

 

 今回でいえば、こちらを攻撃するのはCクラスなので、Cクラスの誰かを裏切らせて簡単な問題文を先に提出させてしまえばいい。とはいえ、真鍋たちはもう龍園に目をつけられているし、伊吹はクラスを裏切る行動はしないので難しいだろう。

 もし、うちを攻撃してくるのがAだったら、真澄経由で出来たかもしれないが、葛城派を警戒している坂柳が見落とすとは思えないし、やはり机上の空論と言っていい。

 

 と、すると、次に考えられるのは――

 

「いいか、この試験で重要なのは総合得点だ。仮にお前たちが全員満点を取れば、お前たちの問題次第だがAクラスよりも総合得点は高くなる。つまり、攻撃に成功って訳だな」

「だから学力を――」

「もっと頭を使え。何のために俺が来たと思っている?」

「あなた、まさか……」

「気付いたか鈴音? そう、そのまさかさ。俺はお前らDクラスにCクラスの問題と解答を売りに来てやったんだよ」

 

 やはり、問題文を売りに来たか。

 

 攻撃してくるCクラスの問題と答えが予めわかっていれば、馬鹿でも高得点が取れる。体育祭ではオレがCPを捨てて票を取ったが、今回の龍園はCPを捨ててPPを奪いに来た――ということだろう。表向きは。

 

「あなた、正気? 攻撃に失敗すればクラスポイントがマイナス50されるのよ?」

「だからこそ、それに見合った報酬を頂くさ。内容としては簡単だ、こちらは今回の試験の問題と答えを全てお前らに渡す。代わりに、Dクラスは卒業まで毎月一人25000PPを俺宛に振り込む。毎月5万近く貰ってんだ、25000でCPが買えるなら安いだろ?」

 

 無人島試験で葛城相手に仕掛けてきたのと同じパターンだな。額が微妙に違うのは、8教科分の問題と答えを渡すからということだろう。受けるかどうかは別にして、アイディア自体は悪いものではない。

 

「ふざけないで。そんなもの受ける訳が――」

「本当に断っていいのか? 仮にこのまま俺たちの攻撃を凌いだとしても、Aクラスに攻撃を仕掛けて勝てる保証はないんだろう? だが、この契約を受ければ、攻撃も防御も成功して100CPを得、お前たちはCクラスに上がれる上、他クラスとの差も埋められる。悪い話じゃないと思うけどな」

 

 Cクラスに上がれるという声に、堀北も迷いを見せた。実際、学力の低い、池や山内も受けた方がいいと思っているのか、悩む素振りを見せている。

 

「それは、確かに――」

 

 まぁ、この契約には裏があるだろうし、受けるつもりはないけどな。

 

「黙っているけど、お前はどう考えている綾小路?」

「却下だな。無駄なことになるだけだろうし」

「無駄だと? どういうことだ、綾小路?」

 

 ニヤニヤ笑みを浮かべながら龍園が疑問を返す。こいつはもうオレが気付いていることに気付いているのだろう。

 

「もし仮にその提案を受けたとして、龍園はうちと約束をしたあと、Aクラスに行ってこう言うはずだ。『今、俺はDクラスに行って毎月25000PPを払うことで、問題文と解答を売る約束をした。撤回して欲しければ、毎月30000PPを払え』とな」

 

 その言葉を聞いて、堀北が声も出せずに驚きの表情を浮かべた。龍園の考えを理解したのだろう。

 

 そう、Aクラスに口止め料を払わせた後、今度は再びDクラスに来て、「今Aクラスからの提案で、30000PPでテストを売るのを止めにしろと言われた。お前らが35000出すならテストを売るがどうする?」と言ってくるだろう。後はいたちごっこだ。

 

「AクラスとDクラス、出せる資金の限界までPPを搾り取ろうって算段なのね……」

「クク……面白い推測だな。もし、そうだとしてどうする?」

「坂柳もすぐに気付くだろう。そして、あの女は受けない。自分に絶対の自信を持っているからこそ、別の手を考えるはずだ」

「確かに、あの女は人の情けを受けるようなヤツじゃねぇ。葛城も二度目も同じ提案は受けないだろう。それに、お前が口にしたことで、その策は使えなくなった。まぁ、元から使うつもりもなかったが――」

 

 よく言う。オレが指摘しなければ、100%やっていた癖に。

 

「契約自体を引くつもりはない。お前らにしてみれば、CPは何より欲しいだろうしな」

 

 実際、契約自体は悪くない。だが、何も問題がない訳ではなかった。この取引には見えないマイナスが存在している。

 

「まぁ、今すぐ決める必要はないさ。とりあえず、一週間は待ってやる。毎月25000、払う気になれば俺の所に来い。いつでも、問題と答えを売ってやるぜ」

 

 そう言って笑うと、龍園は部下を連れてDクラスを出ていく。その後、椎名だけが教室に残っていた。どうやら、オレに用があるようで、柔らかい笑みを浮かべながら、とことこと近くに寄ってくる。

 

「久しぶりだな。元気だったか?」

「最後に会ったのは、この間の中間テストの勉強の時でしたか。確かに久しぶりですね」

「それで、ここへは何の用で?」

「いえ、少し綾小路くんに会いたいと思ったので付いてきただけです。やはり別のクラスとなると、なかなか声もかけられませんしね」

 

 可愛いやつだな。食べてやろう。

 

「これ、よろしければどうぞ。最近、二年生の間でレイモンド・チャンドラーのブームが起き始めたとのことで、図書室は品切れ状態になりそうだったので先に借りておきました」

 

 と、渡されたのは、後に原作で堀北が図書室で借りることになる『さらば愛しき女よ』だった。

 

「いいのか?」

「ええ。是非、受け取ってください。私は昨日、読み終えましたので。内容について、綾小路くんの感想を聞かせてください。ただ、返却日は五日後ですのでそれまでにお願いします」

「じゃあ、オレが返しておこう」

「ありがとうございます。もし、綾小路くんがよろしければ、今度デートをしませんか? 内容についての感想もその時お願いします」

「わかった。詳しいことは後程メールする」

「では、これ以上はお邪魔でしょうし、私はこれで失礼します」

 

 椎名はオレへの用事を済ませると、堀北たちに頭を下げて教室を出て行こうとする。丁度いいので、少し椎名に質問をすることにした。

 

「そうだ、一つ良いか?」

「なんでしょう?」

「今回のペーパーシャッフル。お前も問題作成を手伝っているのか?」

「ええ。文系は私です。理系は金田くんにお願いしました」

「成程、ありがとう。龍園にもよろしく伝えておいてくれ」

 

 そう、礼を言うと、今度こそ椎名が教室から出ていった。やはり、椎名も問題作成に関わっていたか。金田一人では大変だろうし、そうではないかとは思っていた。

 

「清隆、あの子と知り合いなの?」

「ああ。前に愛里と図書室で勉強していた時に知り合ってな。結構な読書家で、本の趣味が合うから良く話をするんだ」

「……『さらば愛しき女よ』ね。なかなかいい趣味してるわ」

 

 原作では堀北も読んでいたからな。

 

「……綾小路くんはどう思う? 龍園くんの提案について」

 

 本当に聞きたかったのはこちらのようで、探るようにそう堀北が声をかけてきた。

 

「悪い提案ではないだろう。勝つだけなら、奴の提案を受けてもいい。まぁ、PPの額や期間は調整して貰う必要があるだろうけどな」

「勝つだけなら?」

「ああ。その方法を取れば確定で勝てるが、代わりに今出来上がりつつあるクラス一丸で協力するという空気は消える。それをマイナスと取るかは人次第だが、オレはマイナスだと思うけどな」

 

 それこそ、一学期の中間テストと同じだ。もっと早く過去問という答えが手に入るとわかっていたら、三馬鹿もあれほどは勉強しなかった。

 特に今回は、多くの生徒が龍園の提案を聞いている。受けるとなれば隠すのは不可能だ。龍園も、それを見越してこんなに早く接触してきたのだろう。

 

「クラスの空気か。確かに、目先の欲に釣られてポイントを手に入れてCクラスに上がれたとしても、実力が伴わなきゃすぐに下のクラスに落とされちゃうよね」

 

 雪も見えないマイナスを理解したようで、この取引を受けるべきか迷っていた。

 

「でも、100CPは大きいわ。ここでマイナス100CPになれば、せっかく詰めた差がまた広がってしまう……」

「そう言っても、相手はあの龍園くんだからね。素直に約束を守るかどうか……」

 

 堀北は若干賛同派、桔梗は否定派か。クラス内も、賛同派と否定派で分かれており、ポイントが欲しい奴や、勉強をしたくない奴が賛同派に回っていて、疑り深い奴や先を見据えている奴は否定派に回っていた。

 

 実際、賛同派の気持ちもわかる。毎月25000PPというマイナスは大きいが、代わりに100CPが得られる上、特別勉強しなくてもいいというのは、馬鹿にはこの上ない飴に見えるだろう。しかし、この飴は後々毒となってDクラスを殺しに来る可能性がある。

 

 そもそも、1000を超えるCPを持つAクラスと、500もないDクラスでは前提条件が違う。

 

 もし、この契約を受けたとして、仮にこの先の特別試験でDクラスのCPが250を下回れば月のPPがゼロになるのと同義。そうなれば、あの時契約なんかしなければ良かった――と、言い出すのは火を見るよりも明らかだ。

 

 既に原作の輪から外れている今、この先のCPが下がらない保証はない。一時のプラスに血迷うよりも、マイナス要素はできるだけ排除しておいた方がいいだろう。と、いうことで、龍園の提案は却下する方向で話を進めることにした。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・ペーパーシャッフルで対決するクラスが変わった。
 原作では、AVSB、CVSDというわかりやすい構図だったが、AがBを攻撃、BがCを攻撃、CがDを攻撃、DがAを攻撃という変則的な組み合わせになっている。

・綾小路グループ作成のために動き出した。
 無駄に能力を見せてしまっている弊害で、危うく幸村が勉強を教えるフラグをへし折ってしまう所だった。

・龍園がDクラスに問題文を売りに来た。
 毎月25000PPと少々割高。

・椎名が本を貸しにやってきた。
 返却が5日後の本を貸しに来ている。どうやらブームに乗じて上手く本を借りられたらしい。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆。
 とりあえず、綾小路グループを作りつつどうやって動くか考え中。

・椿雪
 授業中の時間は出来るだけクラスに貢献しているが、放課後は生徒会の基盤作りで一杯一杯になっている。

・堀北鈴音
 生徒会の仕事をしつつも、勉強を教える準備をしている。今度は絶対に失敗しないと、地味に気負っている。

・櫛田桔梗
 自分がリーダーじゃないことは龍園にバレているが、それでも頑張ってリーダーを演じている。

・長谷部波瑠加
 三宅を退学にさせたくないので、頑張って顔を出したものの、やはり気乗りしないということで諦めた。

・椎名ひより
 清隆に本を貸しに来た。原作と違って知り合いの為、既に仲良し。

・平田洋介
 夜の勉強を担当。三宅を招待したが振られてしまった┌(^o^┐)┐

・三宅明人
 清隆に悩みを相談しに来た。綾小路グループメンバーの一人。

・幸村輝彦
 生徒会で雪や堀北が動けないと言うこともあり、勉強を教える側が足りないと判断して手を挙げた。綾小路グループのメンバーの一人。

・龍園翔
 Dクラスに問題文を売りに来た。原作と全く違う動きを始めており、何をする気なのか今はまだ不明。


 ※アンケありがとうございました。いつも通りいきます。それで、また書いていて困ったので、アンケばかりして申し訳ないんですけど、また助けて頂けると有り難いです。


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