放課後、勉強会のメンバーに声をかけた。愛里は当然として、長谷部と三宅も嫌そうな顔はしていない。幸村と愛里なら、特に問題は起きないと思っているのだろう。すぐに勉強会をやることを承諾してくれた。
原作通りに、喫茶店であるパレットで勉強会をするということになり、顔つなぎがてらオレも一緒についていく。しかし、いざ教室を出ようとすると、長谷部がいないことに気が付いた。
「長谷部はどこにいった?」
仲の良さそうな三宅にそう声をかけると、「先に行ったんだろ」と、どうでも良さそうな返事をしている。
それを聞いて、幸村が「逃げたのか?」と、少し怒った様子を見せると、愛里も困ったようにあわあわし始めた。
「長谷部はそういうヤツじゃない。あまり人目を集めるのが嫌だから先に行ったんだよ」
「人目を集める?」
正直、このメンバーが人目を集めるとは――いや、アイドルがいればそりゃ目立つか。
「わ、私のせいかな……」
「いや、佐倉は悪くないさ。仮にここに佐倉がいなかったとしても、あいつは先に行っただろ。集団は目立つからな」
愛里が少し落ち込んだのを見て、三宅がすぐにフォローを入れている。意外と気の使える性格をしているらしい。
「つまり、俺たちと話している姿を見られるのが嫌ってことだろ。それならそれでいい。勉強さえやってくれれば、こちらも文句はないからな」
どうやら幸村は長谷部の行動が気に入らないようで、少し憤った感じで教室を出ていく。勉強会はパレットでやる予定なので、さっさと移動するつもりなのだろう。
まだ落ち着きのない愛里にも声をかけ、三宅と一緒に幸村の後を追っていく。すると、廊下の途中で、壁に寄りかかりながらこちらを待っている長谷部の姿を見つけた。
「先に行くなら、ここで待つ必要もなかったんじゃないか?」
長谷部の姿を見つけるなり、幸村がそう悪態をつく。どうやら、幸村の長谷部に対する第一印象は最悪のようだ。
「別に先に行きたかった訳じゃないよ。クラスの中だと目立ちそうだったからちょっとねー」
「気にするなよ、幸村。長谷部はいつもこんな感じのヤツなんだ。別にお前たちを毛嫌いして先に行ったわけじゃない」
「と、とりあえず、席が埋まる前にいかない?」
「そうだな。愛里の言う通り、とりあえず移動しよう」
幸村と長谷部の仲が変にこじれる前に、三宅が上手く仲裁してくれたので、そのままひとまずは動くことを促す。事実として、放課後の今、時間が経てば経つほど席はなくなるだろう。
「……そうだな。席が埋まると面倒だ。行こう」
幸村も、ここで揉めても意味はないと悟ってくれたようで、憤りを収めて前を歩き始めた。
「お前ももっと発言や行動に気を付けろよ。何も言わずに先に行ったから、佐倉だって自分を責めてたんだぞ」
「そんなに問題になっちゃってたのか。ちょっと反省。佐倉さんもごめんね、別に佐倉さんが気に入らないって訳じゃないから」
「うん、平気。私こそ、目立たせてごめんね」
長谷部も悪気があった訳ではないようだが、アイドルである愛里が人目を引くのもまた事実か。
このままでは勉強にも差しさわりが出そうだったので、愛里には眼鏡をかけて髪型も昔のものに戻して貰うことにした。すると、不思議――まるで魔法にかかったように、誰も愛里を気にしなくなる。
「……知ってはいたけど、本当に別人みたい」
「確かにな。最近はアイドルの姿に慣れてたから、余計に同一人物とは思えない」
長谷部と三宅も、愛里の変貌ぶりに驚いていた。
「そ、そうかな? そんなに変わらないと思うけど……」
いや、正直別人と言ってもいいくらい違う。その証拠に、今までは男性の注目を集めていたが、今はそこまで目を引いてはいない。
これには幸村も驚いたようで、「静かに勉強が出来そうだな」と、気にしないフリをしていたが、顔に凄いと書いてあった。意外と隠し事は出来ない奴らしい。
そんなこんなでパレットにつき、何とか五人で座れる席を確保すると、改めて場を仕切り直すことにした。
「えっと、まぁ、とりあえずよろしく。一応、何か質問があれば先に受け付けるけど」
ちなみに、席順は奥の端にオレ、間に幸村、その隣に愛里。向かいに長谷部と三宅が並んで座っている。一応、メインは長谷部と三宅の二人なので、幸村と向かい合う形を取ることにした。
しかし、改めて見ても共通点が何もなく違和感しかない組み合わせだな。
「綾小路くんってやっぱり優しいよね」
「……いきなり出て来た言葉がそれか?」
「いや、なんていうか、普通はこんな集まりに手を貸そうとは思わないじゃん?」
確かに、普段オレと長谷部の絡みはゼロだ。損得勘定でいえば、面倒事を背負いこんでいるだけなので、長谷部からすればマイナスにしか見えないのだろう。
「前にも言ったが、同じクラスの仲間だからな」
「仲間、か。前はあまりピンと来なかったけど、少しわかったような気もする」
「体育祭でクラス一丸となったからじゃないか? 俺も、綾小路と一緒に競技に参加して楽しかったし、最後のリレーは応援側でも燃えたからな」
そう三宅が口にすると、長谷部も「そうだね」と頷いた。やはり、あのリレーはいろいろな人に印象を与えているらしい。
「あれには驚いちゃった。殆ど独走状態だったもんね……体育祭が終わった直後は、かなり話題になってたっけ」
「中学の時陸上部だったのか、綾小路? それに、あの姿を見られたらスカウトとか来ただろ?」
「あー……まぁ、多少は勧誘を受けたが断った。部活も、正直したことがないから勝手もわからないしな」
「そうなのか、勿体ないな」
三宅と長谷部を中心にオレの話題が進む中、幸村と愛里は黙ってこちらの話を聞いている。気まずいという感じではないが、話を纏めるべきだろうか?
しかし、そんなオレの内心など知らぬとばかりに、長谷部と三宅は会話を続けていく。
「みやっちは弓道部だっけ? 毎日、弓飛ばして楽しいの?」
「楽しくなければやらない。ちなみに飛ばすのは弓じゃなくて矢だ」
「私は部活には興味ないからなぁ。毎日楽しく過ごせれば、それでいいし……って、みやっち、部活はいいわけ?」
「休んだ」
「あっさりしてんねー」
「優先するものがある時くらいはそうするさ。特にペナルティもない緩い部だしな」
「そろそろいいか? 勉強会を始める前に、一つ言っておきたいことがある」
しばらく待っても止まる様子がなかったからか、長谷部と三宅の会話に入るように幸村がそう口を開いた。そのまま、ジッと隣に座るオレに視線を向けて来る。
「今回、この勉強会は俺に一任する。それでいいんだな、綾小路?」
「ああ、任せる。何か問題があれば言ってくれ。問題作成をしながらだが、答えられることは答えるつもりだ」
実際、全てを幸村に任せてもいいのだが、それでは長谷部との仲が進展しない。それに、愛里も慣れるまではオレが居た方が安心するだろう。
「次はお前たちだが、頼んでいた通り、一学期と前回の中間テストの用紙は持ってきたか?」
「一応ね」
「ああ」
「佐倉はどうだ?」
「うん、持って来てるよ」
今回、愛里も勉強を教えて貰う組なので、言いつけ通りに動いたらしい。普段、オレや雪に勉強を教えて貰っているだけあって、佐倉の学力は平均よりも上だ。
「少し、見させて貰う」
そう言って、幸村がテストの結果を確認していく。愛里については特に問題もないようで、ざっと目を通しただけだったが、長谷部と三宅の結果を見ると段々眉間に皺が寄っていった。
「佐倉は思っていた以上に出来ているな。お前はむしろ、教える側に回ってもいい。逆に長谷部と三宅の二人は見事に理系だな。文系の殆どが壊滅的だ」
俺も横目で見させて貰ったが、二人の数学は70点ほどと比較的高得点だが、国語や世界史に関しては40点台と三馬鹿クラスだ。確かに、退学の不安を感じても不思議じゃない。逆に愛里は殆どの問題が70点を超えていた。
「しかし、二人とも仲が悪いとは思ってなかったが、得意不得意が被ってると良く知ってたな」
オレがそう問いかけると、二人とも苦笑いを浮かべる。
「前に一人で勉強してる時、長谷部に声をかけられてな。その流れだ」
「ほら、私もみやっちも比較的孤独組じゃん? だから、毎回綾小路くんが気を使って問題を作ってくれるんだけど、嘘みたいに結果が一緒だったんだよね」
「問題?」
幸村が何のことだと首を傾げたので、愛里に勉強を教えているついでに、個人で出来る教材を渡していたと話す。
クラスでも長谷部と三宅は特定のグループに所属していない。とはいえ、人の距離感は千差万別だ。だからこそ、オレも無理に二人を輪の中には入れず、自分に出来ることでフォローしていた。
だが、今回の特別試験はその程度でフォローしきれるレベルではない。クラスに馴染めていない二人にとって、今回ばかりは個人では限界だったのだろう。
「何というか、クラスに馴染み切れないんだよねぇ。別に嫌って訳じゃないんだけど」
「そういう意味じゃ俺もお前たちと同じだ。基本的に今存在するグループには違和感がある」
「じゃあ、何で今回はグループを作ることに賛成したわけ?」
「別にグループってほどじゃない。ただの勉強会だ。それに少数なら静かだしな。これ以上、人数が増えるなら問題だが、この程度なら自分の勉強の邪魔にもならない。そういう訳で、これから勉強方法を考えていく。悪いが少し時間を貰うぞ」
「了解。適当にお茶して待ってればいいんでしょ?」
「それでいい。後、佐倉、悪いがお前は後回しにさせてもらう。今は退学の可能性がある、二人を優先したい」
「うん、いいよ。私、自習して待ってるね」
どうやら愛里は前にオレが渡した自習用の問題を解いて待つことにしたらしい。
「それがあるなら、わざわざここに来ることはなかったんじゃないか?」
「あ、これ今回の試験用じゃないんだ。私個人の苦手な問題を集めたやつだから」
幸村の疑問にそう返すと愛里も自習を始めた。長谷部も携帯を出してくつろいでいる。三宅も、携帯を弄りながら時間を潰しているな――と、周囲の様子を見ていると、ふと視線を感じた。
その方向へ視線を向けると、前に須藤に冤罪を仕掛けたCクラスの石崎と他に何人かの男子生徒が、こちらの様子を伺いながらどこかへ電話している。
龍園の指示でオレを監視しているのか? 出来れば面倒事には巻き込まれたくないんだが――と、考えていると、石崎たちはこちらに絡むことなく、パレットの店員に何やら注文をし始めた。しかし、何か問題があったのか、店員が申し訳なさそうな顔で頭を下げている。
「なんとかなんねーのかよ!」
「そう仰られましても……そういった特注のケーキであれば、一週間は早めに言って頂かないと対応が難しく……とても明日中では対応できません」
断片的にしか情報はわからないが、誰かの誕生日に特注のケーキを注文しようとしたが、急すぎて対応できないという感じのようだ。
しかし、ケーキか。
そういえば、明日10月20日はオレの誕生日だったな。とはいえ、別に何かがある訳じゃない。ただ一つ歳を重ねた、というだけのものだ。
勿論、誕生日が家族や恋人、友達に祝ってもらう日だということは知っている。だが、その時の感情が分からない。今まで、そんなことをしてもらったこともないしな。
――と、考えていると、思い出した。
そういえば、原作でも龍園がオレと同じ誕生日だったんだっけか。だから、石崎はケーキを用意しているのだろう。
正直、羨ましい所はある。オレだって、ケーキを買って誰かに誕生日を祝って貰いたい。まぁ、そもそも、オレの誕生日を認知しているやつなんか、この学校にいない以上、祝われるはずもないのだが――
「私、コーヒーのおかわり貰ってくる」
「俺も」
石崎がちょっとした騒ぎを起こしてから30分程が過ぎた。
まだ幸村が顔を上げる様子はなく、愛里も集中して自習を続けている。オレもいい加減、周囲の様子を探るだけでは飽きてきたので、少し幸村にちょっかいを出すことにした。
「大変そうだな」
「俺も人に勉強を教えるなんて殆どやったことがないからな。綾小路たちのように上手くは行かない。教える方にもコツがいるんだと実感している」
ただ勉強が出来るだけで、人に勉強を教えられる訳じゃない。教えるという行為は、幸村が苦手なコミュニケーション能力も関係してくる。伝え方、学ばせ方一つで、相手がすぐ覚える場合もあるし、逆に覚えるまで時間がかかる場合もあるだろう。
「正直な話、今までは人に勉強を教えるなんて馬鹿のすることだと思ってた。そもそも、赤点を取る奴は勉強が嫌いなヤツが殆どだ。そんな奴らに勉強を教えたってすぐ忘れる。無駄なことをするくらいなら自分の勉強をした方が良いと考えていた。一学期に櫛田や平田が赤点組に勉強会を開いた時も、無駄なことをしてるって内心では笑ってたよ」
「じゃあ、何で今回は教えることにしたんだ?」
「意識が変わったのさ。お前たちを見ていて、この学校では勉強が出来るだけじゃ駄目だと思った。だからって運動が出来るだけでも駄目だ。勿論、必要なことに変わりはないが、本質はそこじゃない。結局、人間一人に出来ることなんて限界があるんだ」
「限界ね……」
「櫛田や平田だってそうさ。あいつらは勉強も運動も出来る。リーダシップだって持っているだろう。けど、それだけではこの学校は乗り越えられない。他にも必要なものが多いんだ。それこそ一人ではどうにもならないくらいにな。そうなると、個人じゃもうお手上げだ」
無人島、干支試験、体育祭、全てがクラスメイトの力を纏めることが重要だった。幸村も個人で乗り越えることの無意味さを悟ったのだろう。
「一人で出来ないなら誰かとやるしかない。じゃあ、その誰かは誰だ? 決まっている、クラスメイトだ。俺に出来ないことは仲間に助けて貰い、俺は俺に出来ることを貢献する。だから、今回は協力することにした」
それに――と、言葉を続ける。
「俺だってランニングを続けて体力が付いてきたんだ。勉強だって、少しずつでも継続すれば覚えられる。少なくとも、無駄にするかどうかを決めるのは俺じゃない。三宅にしても、長谷部にしても、今回は相手にやる気がある。それも大きいな」
勿論、佐倉もだ――と、幸村が言葉を足すと、静かに話を聞いていた愛里も「そ、そんなことないよ」と謙遜している。実際、オレたちとマンツーマンでずっとやってきただけあって、愛里の勉強への集中力は大したものだ。
「おまたー。それでチェックは終わった?」
「もう少しだ」
少し話してはいたが、幸村は作業の手を止めてはいなかった。誤魔化しではなく、本当にもう少しで出来るのだろう。
「あ、そういえばさ、綾小路くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「やめとけ長谷部」
「いいじゃん。聞いたって減るもんじゃないしさ」
「そういう問題かよ。時と場所を考えろよ」
「今は放課後で、ここはカフェ。話を振るには絶好のポイントだけど?」
「そうじゃねぇよ……」
三宅が頑張って止めようとしてくれたが、長谷部の方は止まる気がないようで、そのままオレに質問を飛ばしてくる。
「綾小路くんって一之瀬さんと本気で付き合ってんの?」
オレと一之瀬が恋人関係だというのは、もう結構な人間が知っているが、同時にそれが上辺だけじゃないかというのも噂されていた。実際、隠す意味はゼロなので首を横に振る。
「恋人のフリを頼まれただけだな」
「あ、やっぱり? 全然デートとかしてないからそうじゃないかと思ってたんだよね」
「たまにデートのフリはするけどな」
デートよりも、夜の営みの方が多いのは内緒だ。
「じゃあ、本命はやっぱり椿さん?」
「いや」
「即答? なんか随分手慣れた感じだね」
「色んなヤツに聞かれるからな。雪とは幼馴染ってだけだ」
「ふーん。じゃあ、今はフリーなんだ」
長谷部にはオレに興味を持って貰う必要がある。「ああ」と頷きを返していく。
「でも、綾小路くんはそうでも、椿さんはどうかな? 私から見ても、もう隠しようがないくらい好きだと思うけど」
「や、やっぱり、そうなのかな?」
長谷部が恋愛話に興味津々なのも意外だったが、愛里まで釣れるのは想定外だった。
「それに、キョーちゃんとか堀北さんも、他の人には見せない顔を綾小路くんだけには見せてる感じがするんだよね」
「た、確かに、桔梗ちゃんも堀北さんも甘えてる感じする!」
「でしょ? 椿さんほどじゃないけど、やっぱりあの二人も怪しいよね。当人はどう思う?」
「ノーコメント」
セフレです――とは言えないので、ここは好きに話させておくに限る。
だが、女子同士で気が合って嬉しいのか、これまで会話が無に等しかった長谷部と愛里も楽しそうにお喋りしていた。もう火種は十分だろうし、ここはオレも三宅を見習って空気になっておこう。
「よし――」
そんな感じで女子トークが盛り上がっているのを聞いていると、ようやく幸村が顔を上げた。どうやら全ての確認が終わったらしい。
「何となくだが、二人の苦手な部分が把握できた。でも、詳細はここから詰めていきたい」
そう言って、今までいろいろ書いていたノートをひっくり返して三宅と長谷部に向ける。
「文系問題をいくつか作ってみた。俺のノートには直接答えを書かず、自分のノートに書いてみてくれ。制限時間は10分、全10問だ」
流石にこちらが本題だからか、長谷部も真面目な顔で向き直った。三宅もノートを出して問題を解いていく。愛里も暇だからか、反対側から逆文字を解読して問題を解くことにしたようだ。
それから10分が過ぎ、幸村が採点を始めるとすぐに頭を抱える。
「全く、お前らは……」
見ると、互いに正解していたのは三問で、残りの六問は間違い。部分的にあっているのが一問だった。しかし、凄いのは正解も不正解も全て同じであるということだ。
ちなみに、愛里は問題を逆から見ていたので全部は解けなかったようだが、解けた問題は全て合っている。
「得意な科目が似ているだけじゃなくて、覚え方や傾向まで全部同じだ」
「凄いね、こんなに結果が同じになることってあるんだ」
愛里も感心した声を出していた。実際、正解不正解だけなら全部一致はなくはないかもしれないが、部分的に正解しているのまで一緒だと感心するしかない。
「すっご、なんか運命感じるくない? みやっち」
「感じねぇ。むしろヤベェだろ」
「なんかノリ悪いけど、これって確かにピンチってヤツ?」
「いや、この場合は好都合と取るべきだろう。労力が半分で済む」
これだけ学力や傾向が同じなら、実質一人を教えているようなものだ。
「楽勝な感じ?」
「それはこれからの努力次第だな。難易度の低い順に問題を作ったが、やはり不安の残る正答率だ。定期的に、勉強をする機会を設ける必要があるだろう」
「どれくらい?」
「期末テストから逆算して、7、8回は集まりの場が欲しい。短期集中よりも、間をおいて勉強するのが理想的だな。その辺、お前たちは大丈夫なのか? 三宅は部活の問題もあるだろうし」
「期末が近付いたら部活も休みになるけど、時間の相談はさせてくれ」
「私は大丈夫だよ」
「オレも今の所は問題ない」
勉強を教える訳じゃないし、集まりにいるだけならば問題はないだろう。定期的なら、クラスの勉強会の邪魔にもならないし。
「あー、答える前に一ついい? 普段通りに勉強する感じなわけ? 私、勉強は好きじゃないけど、一人で予習復習くらいは出来るつもりだし、こうやってグループで勉強するメリットってあるの?」
「俺の教え方に不安がある――って、だけじゃなさそうだな」
「そうだね。勿論、頭のいい人に教えて貰った方が効率がいいのは承知してるんだけどさ。みやっちの進言で付いてきたものの、まだ半信半疑なんだよね」
「答えは簡単だ。普通の勉強会はしない。今回の試験は普通じゃないんだ」
そう言って、幸村が方針を説明する。
「今回、本来なら学校側が作る試験問題を、他クラスが作ることになっているだろう。普段、学校が作る問題は、進学を見据えての問題や基本を抑えることに特化している分予習しやすいが、生徒が作る問題はおそらくそういうセオリーを守って来ない。だから、それを考慮した勉強が必要になる」
「そうだよな。Cクラスなんて、絶対捻くれた問題出してくるだろ」
「ああ。だけど、全く対策が立てられない訳じゃない。Cクラスが問題を作ると考えると想像できないかもしれないが、作る人間を個人に特定出来たらどうだ? 綾小路が昼休みに探りを入れていたおかげで、問題を作るのは金田と椎名だとわかっている」
金田は、無人島試験で一之瀬のクラスに潜入していたスパイだ。金髪にメガネで、ひょろい印象がある。
「けどよ、捻くれた問題を出すなら、龍園とか石崎が作ることもあるんじゃないか?」
「それはないな。どんな引っ掛け問題を作るにしても、地力がなければ問題は作れない。二人の苦手な文系で想像してみろ、簡単に解けない引っ掛け問題が思い浮かぶか?」
「……いや、さっぱりだ。そもそも問題すら浮かばない」
「私も同意。社会とかどんな問題がテストに出るっけ?」
「そういうことだ。難しい問題や引っ掛け問題は、作ろうと思って簡単に作れるものじゃない。仮に適当に難しい問題を出したとしても、学校側が弾くだろうしな」
その考察は悪くないが、確信を持つには根拠が弱い。ここは少しだけ割り込んでおこう。
「だが、問題が成立するかしないかは最終的に学校が決めることだよな? なら、学校側が問題として成立すると判断している明確なラインを知る必要があるんじゃないか?」
「それはそうだが、それが分かれば苦労しないだろう」
「いや、分かると思うぞ。うちのクラスから幾つかの際どい問題を用意して、それを学校側に審査して貰えばいい。その問題が受諾されるかどうかで明確な答えも見えて来るんじゃないか?」
「成程な。それは確かにいいアイディアだ」
「凄いね、綾小路くん」
「と、するなら、一日でも早く仮問題を出して学校の基準を見極める必要があるな」
「ああ。今日の夜にでも作って、明日聞いてみるよ」
ぶっちゃけ、やろうと思えば、この手の問題は三日もあれば作りきれる。仮問題など、この場の余った時間でも余裕で作れるだろう。
「うん。成程ね」
長谷部も原作通りに納得してくれたようで、笑みを浮かべている。最初から愛里がいるというイレギュラーはあったが、問題なく原作通りに進んでくれたらしい。
「私の方は部活してないし、いつでもいいよ。佐倉さんが問題ないなら、みやっちを基準に決めてあげて」
「意外だったな。長谷部はてっきり断ると思ったぜ。普段、男子とは絡もうとしないしな」
「今回は結構勉強しないとヤバそうだし。私だけならまだしも、みやっちまで巻き込むわけにはいかないからね」
それに――と、言葉を続ける。
「幸村くんの説明にも納得できたから。今回は一人でやるよりも、みんなでやった方が利点が多いってもわかった」
「それは何よりだ」
幸村も長谷部が納得して良かったと思っているのか一安心していた。ここで割れるようならオレも困っていたので本当に助かる。
「それじゃあ、今日の所は解散にしよう。一回目の勉強会は明後日からするつもりだ」
幸村がそう締めくくった。今日と明日で対策を立ててくるつもりだろう。愛里も、今回は後回しにされる形になってしまったが、特に嫌というわけではないようで笑顔でパレットを出て行った。
オレはこのまま、2部の勉強会に参加しよう。平田に連絡を取ると、図書室でやるつもりでいるということなので、足早く図書室へ向かうことにした。
原作との変化点。
・佐倉が最初からグループにいる。
が、特に違和感なく過ごせている。
・清隆は問題作成兼場繋ぎとして参加。
いずれ、五人でいても気にならなくなるだろう。
・長谷部が清隆の女関係を気にしている。
今の所はフリーだと言われたが、いろいろと気にした様子を見せた。意外と佐倉も乗っかって二人で仲良くしている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆。
勉強の方針は幸村に一任。手を貸して欲しい時だけ助けるスタイルで、佐倉が馴染めるように気を回している。
・佐倉愛里。
セフレたちのおかげで、少しずつ会話に慣れてきている。今回も佐倉なりに頑張って話をしていた。
・長谷部波瑠加
慣れない勉強会だが、意外と居心地が悪くないと感じている。メンバー間を繋いでいる清隆の恋愛事情が気になっている。
・三宅明人
今の時点ではまだ長谷部には惚れていないが、長谷部共々、勉強をしなければまずいとは感じている。
・幸村輝彦
綾小路がいるなら自分はいらないのではないかと思いながらも、やる以上は自分の出来ることをしようと前向きにとらえることにした。