ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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SIDE:11 『龍園の再認:椎名の本心:坂柳の挑戦』

 SIDE:龍園翔

 

 

 全ては順調に進んでいた。Dクラスへ試験問題を売るという行為こそ失敗に終わったが、Bクラスの雑魚を脅して、Bクラスはこちらが用意した簡単な問題を教師に提出させている。

 

 これで、あちらがどんなに頭を使った問題を出したとしても、こちらの勝利は確定――だが、くさい動きをしているのは綾小路だ。Aクラスを攻めることになったというのに、特に大きな動きを見せていない。

 

 この試験は、攻撃と防御に分かれてこそいるが、防御側に出来ることは殆どなかった。勝つには、攻撃側へ仕掛けをして、有利な条件を作り出す以外にない。

 

 つまり、うちがBクラスに仕掛けをしたように、Dクラスが勝つにはうちに仕掛けてくる以外にないのだ。しかし、既に奴の駒だった真鍋とその取り巻きには制裁を加えている。奴だって、同じ手が二度通じるとは思っていないだろう。

 

 にも関わらず、動きを見せないのはどういうことだ? まさか、本気で自分が作った精度の高い問題ならば、Aクラスを倒すことが出来るとでも考えているのか――いや、あり得ない。あいつは、オレの同類だ。平然と勝つ算段を立てているとみてまず間違いない。

 

 事実、体育祭で俺に参加票を渡しても、学年2位を取って、一年の中で唯一マイナスを防いでいた。その上、生徒会総選挙ではあの南雲を下している。まさか、無効票を利用した攻撃を仕掛けるとは俺でも見抜くことが出来なかった。

 

 悔しいが認めるしかない。綾小路は、今の俺より上の存在だ。

 

 その奴が、この試験で何もしてこないなんてあり得ない。つまり、動きを見せないのは、既に動きを終えているから――遅れてその思考に辿り着いたのは11月も終わりが見えてきた頃だった。

 

 もし奴が俺の策を見破り、予め一之瀬にアドバイスをしていたとしたらどうだ? 裏切り者が受理させた問題は、本当は受理されていないという可能性も十分にあり得る。

 そうなれば、本番でうちは予想外の難易度の問題に太刀打ちできずどうしようもない点数を取ることは確実――いや、だとしても、うちからの攻撃を凌げたとして、Aクラスへの攻撃は成功しない。

 

 まだ見落としている何かがある。

 

 だが、今はそれよりも最悪を想定すべきだった。念のために、金田やひよりを始めとした勉強が得意な連中を使ってCクラスで勉強会を開かせる。したくはないが、俺自身も勉強をするしかないだろう。最悪の場合に備えないと、退学者が山のように出る可能性がある。

 

 ――そして、本番はやってきた。

 

 予想通り、Bクラスからの攻撃はこちらが用意した問題とは違ってかなり難易度が高いものになっている。やはり、綾小路が口を出していたんだ。何故、もっと早く気が付かなかった。

 

 退学という最悪は回避できたが、勝負は敗北に終わる。Cクラスは-100CPで、Dクラス落ち――いや、それはいい。だが、Dクラスが+100CPというのが解せなかった。

 

 いくら、難しい問題でAクラスの総合点を落としたとしても、Dクラスの学力はうちとそう変わらない。Aクラスの力を90とするなら、Dクラスは良い所60だ。逆立ちしたって勝てるはずがなかった。

 

 しかし、Dクラスは総合点でAクラスを上回っている。つまり、うちからの攻撃に対し、高得点を取ったという証拠だ。

 

 坂上に確認したが、俺以外に問題文を提出しに来た生徒はなかった。なら、俺からの提案を拒否した奴らが高得点を取るには、Cクラスの問題文を不正に入手するしかない。

 

 つまり、いるのだ。

 

 真鍋以外に、クラスを裏切っている人間が――

 

 クク、面白ぇ。真鍋の件を優しく済ませたことでつけあがったか。まだ、俺に逆らおうなんて度胸のあるやつがいるとはな。

 

 しかし、今回は的が絞れる。

 

 俺以外に問題文の横流しが出来る生徒は片手で数えるくらいしかいない。金田、ひより、その他の数名だ。

 

 俺の目から見て、その中で怪しい動きをしていたやつはいなかった。だが、逆を言えば、それだけポーカーフェイスが上手い人物ということでもある。

 

 いや、金田かひよりの二択だ。それ以外は、俺に歯向かえるだけの度胸なんか持っちゃいない。そして、綾小路が前に真鍋や伊吹という女を利用した前科を考えれば、確率がより高いのはひよりだ。

 

 比率としては金田3、ひより7という所か。

 

 だが、確証はない。強引に圧力をかけたとしても、あいつらは真鍋みたいに簡単にはボロを出さないだろう。どちらもそれだけの根性がある。だから、どちらにも目をかけていた。

 とはいえ、俺を裏切った以上、このままで済ませるつもりはない。必ず、見つけ出して俺を裏切った報いを受けさせてやる。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:椎名ひより

 

 

 綾小路くんと仲良くなったのは入学してからしばらくしてのことでした。

 いつものように図書館で本を読んでいると、偶然彼が推理小説を探しているのを見つけ、初めて同好の士を見つけた私からアプローチをかけたのがきっかけです。

 

 正直、Cクラスの生徒は、あまり本を読む人がいないようで、私としては身の置き所がありません。

 おまけに、5月に入って学校のシステムが明らかになってからは、龍園くんが暴力でクラスを支配して、元々なかったやる気も底辺まで下がりました。

 

 それでも、私と綾小路くんの関係が変わらなかったことは幸運と言って良いでしょう。

 

 クラスで友達がいない私にとって、綾小路くんとの会話はとても楽しく、彼とする本の話は私にとって数少ない楽しみとなっていました。

 

 恋愛経験のない私が、これが恋心だと気づいたのはもう少し後のことです。

 無人島試験で退屈な日々を過ごし、干支試験では多少の暇つぶしが出来ましたが、総じて楽しいとは言えない時間を過ごして私は萎えていました。

 

 そんな時、夏休みということで、たまたまよく当たると評判の占い師が来ているらしく、興味本位で綾小路くんと一緒に占いをして貰ったのが、全ての始まりでした。

 

 占いと聞いて、綾小路くんも意外そうな顔をしていましたが、私だって女子ですし、占いに人並みの興味はあります。それが男女のペアでないと駄目だというのなら、私の相手はもう綾小路くん以外に思い浮かびません。

 

 そんなこんなで二人で占いに行くと、『幸せは身近にある。もっと自分の欲求に従うのが吉』――と、言われました。

 

 隣に綾小路くんがいたこともあり、私はこれを彼に本を読ませて、もっと仲良くなれということだと判断しました。 

 自分の好みの本を渡して、もっと私のことを知ってほしいと思ったのです。それが、どんな感情から来ているのか、この時の私はよくわかっていなかったというのに。

 

 私は部屋にある大量の本を抱えて、綾小路くんの部屋に行きました。流石に量が多すぎたので、彼にも持って行くのをお手伝いして貰っていたのですが、事が起きたのはその時です。

 

 本を持ちすぎて前が見えなくなっていた私は、当然のように躓いて転んでしまいました。

 一瞬、怪我をすることも覚悟しましたが、咄嗟に綾小路くんが私を庇うように抱き止めてくれたことで、何とか転ばずに済んでいます。

 

 正直、まるで恋愛小説のヒロインのような状況に思わずドギマギしてしまいました。しかし、真剣に私のことを心配する綾小路くんは、物語以上の頼もしさを感じます。

 

 幸い、怪我はありませんでしたが、私はされるがままに綾小路くんに抱き上げられ、部屋まで連れていかれました。

 

 男女の機微に疎い私ですが、それでもこういうことに憧れがない訳ではありません。

 強引にベッドに横にさせられ、彼が落とした本を彼が回収しに行くのを見ながら、このままここで綾小路くんとそういう関係になることも考えました。

 

 そんな私の心境を見抜くかのように、戻ってきた綾小路くんがさりげなく隣に座ります。

 横目で見える彼が格好いいと思えてしまった時点で、きっと私は負けていたのでしょう。

 

 ドキドキ――と、綾小路くんにも聞こえてしまうのではないかと思うくらい、心臓の鼓動が高鳴っていく。

 

 自分でもわかるくらい顔は熱くなっており、「――ひより、いいか?」と、耳元で問いかけられたら、もう拒絶することなど出来ませんでした。

 

 いいです――とも言えず、目を閉じることで返事をします。

 

 知識でしかなかった男女の営みは、想像以上の快楽を私に与えてくれました。初めては痛いと聞きますが、私は痛みが少ないタイプだったようで、すぐに綾小路くんの虜になっています。

 

 私はそこでようやく自分が綾小路くんのことが好きだったということに気が付きました。彼に抱いてもらうことに幸せを感じました。もっと一緒にいたいと願いました。

 

 しかし、綾小路くんにとって、私は自身の周りにいる女子の一人でしかありません。当然でしょう。彼くらいの人間になれば、その寵愛を受けたいと考える女子がいるのは不思議ではありません。

 

 私はそれでもいいと思いました。

 

 彼と今の関係を継続できるなら、体だけの関係も悪くない。いずれ、自分に振り向かせてみせればいいだけの話です。今は使い勝手のいい女でも、いつかは私がいないと生きられないようにしてみせる――その自信がありました。

 

 まぁ、彼がいないと困るのは私の方なのでそういう意味では最初から私は負けているのですが、それはそれです。

 

 私は私の出来ることで、彼の関心を買うことにしました。彼の寵愛を得るためには、Cクラスであることはやはり壁です。出来れば、Dクラスに移動して同じクラスにならないと、他の人たちに比べてやはり時間という差が生まれてしまう。

 

 今回の特別試験は、まさに見せ場でした。

 

 ペーパーシャッフルという学力がモノをいう試験で、私はクラスの問題文を担当し、何よりもCクラスはDクラスを攻撃する。つまり、問題文を横流しすればそれだけで彼の役に立つことが出来ると言うことです。

 

 しかし、問題もありました。龍園くんが何やらDクラスに問題文を売るつもりでいるようで、もし彼の交渉が成功してしまえば、私の出番がなくなってしまいます。多少、強引でしたが、自分も要件があると言って私もDクラスについていきました。

 

 とはいえ、ここで馬鹿正直に私がCクラスの問題文を横流ししますとは言えません。

 

 気が付いてくださいと願いながら、本を貸しに来たと言葉を口にしました。しかし、実際には渡した本の中に、メモが隠してあり、私がCクラスを裏切って問題文を横流しするつもりであることが記されています。

 

 龍園くんは一週間は様子を見ると言っていたので、5日以内に返事をするようにお願いしました。仮に言葉でのニュアンスが伝わらなくても、中身を見てさえくれれば問題ありません。

 

 ですが、最後に彼が私に問題文を作っているのが誰かを確認してきたことで、こちらの要件は上手く伝わっていると確信しました。もしかしたら、メモは蛇足だったかもしれませんが保険は重要です。

 

 次の日には、『了解した。よろしく頼む』という返事がきました。とはいえ、馬鹿正直に裏切って、真鍋さんのような目に合うのはごめんなのでいろいろと策を打ちます。

 

 問題文の出来を判断するために、Cクラスでも数少ない成績優秀者に問題を解かせて容疑者を増やし、私が裏切ったとは一見してわからないようにしました。勿論、この程度の策、龍園くんならすぐに見抜くでしょうが、裏切り者が私だと確証が得られなければ問題ありません。

 

 しかし、今回は大きく動き過ぎました。おそらく、龍園くんも私が裏切り者だと睨んでいるとみて良いでしょう。綾小路くんからもしばらく潜伏しているように言われました。彼も、龍園くんが私を疑っているとわかっているのだと思います。

 

 それにしても2000万は大金です。

 

 こんなことなら、もっと本を買うのを我慢してPPを貯めておくべきでした。今は、良い所6万PPしか貯蓄がありません。

 

 ですが、塵も積もれば山となると言いますし、出来るだけ早くクラスを移動できるように今からしっかりPPを貯蓄しようと心に決めました。気が付いたら、部屋の本が増えていましたが、今度からしっかり頑張ります。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:坂柳有栖

 

 

 今回のペーパーシャッフル。本来ならBクラスを攻めるつもりだったが、例の屈辱の腹いせにDクラスを狙うことにした。

 私がDを狙うと口にすると、葛城くんが意外そうな顔をしながらも同意してくる。彼としても勝つ可能性が高い最下位クラスへの攻撃に否はないということだろう。

 

 とはいえ、私が本気で攻めたら学力で勝るAクラスが勝つのは目に見えている。この試験は攻撃側へちょっかいを出すのがセオリーだが、ただでさえ有利なAクラスがDクラスにちょっかいを出すのは少し大人気ない。

 もし、向こうの攻撃もうちのクラスになり、一騎打ちとなるのであれば、本気を出して相手をしても良かったのですが、こちらが一方的に仕掛けるのは面白くありません。

 

 私も彼との勝負は出来ればこんなつまらないものではなく、もっと互いの力をぶつけ合えるもので決着を付けたかった。彼との勝負に、こちらが一方的な条件で仕掛けてもつまらないだけ。

 やろうと思えば、Dクラスの生徒を操って妨害する――という方法も取れましたが、今回は素直に綾小路くんのお手並みを拝見することにしました。

 

 結果はDクラスの一人勝ち。

 

 まぁ、悔しくないと言えば虚勢に見えるかもしれませんが、今回は動かないと決めていた以上、結果自体に文句を言うつもりはありません。特にマイナスになっている訳でもないですしね。

 

 しかし、DクラスがAクラスを超える総合点を叩き出した。これはつまり彼がCクラスの攻撃に仕掛けをしたということです。

 

 考えられるパターンはいくつかありますが、おそらくは綾小路くんがCクラスの誰かから問題文を横流しして貰ったのでしょう。逆にCクラスの総合点が低すぎる所から、龍園くんはBクラスの問題文を差し替えようとして失敗したと見て良い。

 

 いくらCクラスの学力が低いからと言って、ボーダーギリギリの点数が多すぎる。おそらく、龍園くんは先にBクラスに仕掛けて問題文を簡単なものを受理させたが、Bクラスは先に対策をしていてすり替えは失敗した――そうでなければ、この点数はあり得ない。

 

 龍園くんが問題文の差し替えを考えていたのであれば、自身のクラスの裏切り者を警戒しているはずです。つまり、この時点で綾小路くんが差し替えをした可能性はなくなり、先程の推測通り横流しの線が強くなる。

 彼は他のクラスにも友人が多いようですしね。うちのクラスの神室さんも、体育祭の時には怪しい動きをしていました。まぁ、あの時は興味がなかったので止めませんでしたが。

 

 結果的に、改めて綾小路くんの実力を確認できたので良かった――のですが、問題文提出の際に、また別の勝負をしたのですが、再び敗北してしまいました。

 

 私の想像以上に、綾小路くんはその手の経験が豊富すぎます。しかも、またあのような屈辱を――いつか必ず、私の手で屈服させて見せましょう。その時までに技術を磨かなければ。

 

 とりあえず、ネットで調べてみたら、バナナや棒の飴を使った練習法があるみたいなので実践していきましょう。

 

 しかし、綾小路くんとそういうことをしてから気づいたのですが、私は意外と体力がある方なのかもしれません。上手くすれば、本番も出来る可能性もありますし、今度病院に行った際には、先生に少し相談してみるのもいいかもしれませんね。

 

 

 

 




 SIDE11は龍園、椎名、坂柳。

 龍園はペーパーシャッフル中の思考と、現状の再確認。

 椎名はこれまでの自分語りと、今回やこれからについて。

 坂柳は、チョロイン。


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