ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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SIDE:12 『朝比奈の失敗:星之宮の追及:茶柱の現状』

 SIDE:朝比奈なずな

 

 

 何というか、人の心の隙間に入ってくるのが上手い子だった。

 

 関係を持ったことに後悔はない。

 

 何をどう言い繕おうと、最終的に受け入れたのは私だ。何というか、雅に少し悪い気はしたけど、付き合っている訳ではないのにそこまで気にするのは自意識過剰だろう。

 

 全てはあの12月18日の金曜日――綾小路くんに出会ってしまったのが始まりだった。

 

 体育祭と生徒会総選挙が終わって雅は荒れていた。一年に連敗して、おまけに生徒会長にもなり損ねたのだ。気持ちはよくわかる。

 

 雅も、辺り全てに噛み付くようなことはなかったけど、今にも誰かを怪我させそうな危ない雰囲気を発していた。

 ここで、私に素直に泣きついてきたら、慰めてあげるのもやぶさかではなかった――けど、雅は自分を立て直すのに女を利用した。

 

 勿論、雅がこれまでも何人かの女子と体の関係を持っているのは知っている。しかし、今回は露骨過ぎた。

 ほぼ毎日と言って良いほど、女をとっかえひっかえして遊びまくっている。いくら、周りに弱音を吐きたくないからと言って、女遊びが酷くなるのは正直どうかと思う。

 

 でも、その甲斐はあって、12月頃には雅もようやくいつもの調子を取り戻したのか、軽口を叩いても返ってくるくらいには回復していた。

 

 そして、18日――雅は、電話をしながら、いつもの調子で私を口説いてきた。でも、長い付き合いだからこそわかる。雅は私のことを家族のように愛しているが、本当の意味で女としては見ていない。

 ただ、他の人間に取られるのも嫌――という、言うなれば所有物に近い感覚を持っているだけだ。もし、私が誰かと付き合えば、その人間はきっと雅によって不幸にさせられるのが容易に想像できる。

 

 どうせなら、本気でアタックしてくれればいいのに――とも思う。

 

 雅が本気で私と付き合ってほしいと言えば、きっと私は断らなかった。何だかんだ言いながらも、彼が望むように身を任せていたに違いない。

 

 そう言う意味だと、堀北先輩が羨ましかった。雅は本気で彼に憧れている。多分、純粋な好き度でいえば、この学校で一番だろう。

 勿論、雅が堀北先輩に性的に惚れているというものではなく、それだけ本気で向かい合っているという意味だ。

 

 だからこそ、雅には堀北先輩に勝てたら付き合うことを考えると言った。それくらい、私のことも本気で見てほしかったから――

 

 ――綾小路くんに出会ったのはそんな時だった。

 

 前々から興味はあったけど、接触する機会がなかった一年生。思っていた以上に、冗談が上手くて楽しい子だった。けど、彼が雪を後ろで操って生徒会総選挙で暗躍していたと聞いてから印象は一変する。

 

 もし、それが本当だとすれば、彼は雅を二度も倒したことになる――と、考えていると、私の中の悪魔が囁いた。

 

『もっと彼に雅を倒して貰おうよ。そうすれば、最終的には私に縋りつくしかなくなるかもしれないし』

 

 しかし、私の中の天使が囁く。

 

『これ以上、雅が苦しむ姿を見るのは嫌。せっかく立ち直ったんだし、もう関わらない方が良いよ』

 

 と、私の中では悪魔と天使が五分の状況だった。

 

 彼にこのまま雅を倒して貰いたい気持ちはある。けど、それを表向き強く肯定は出来ないので曖昧な返事をしてしまった。

 しかし、綾小路くんはそんな私の内心を見破ってきた。まるで心を見透かしているかのように、こちらの考えを見抜いてくる。私がどうしてほしいのか、どうしたいのかという気持ちは、あっという間に丸裸にされてしまった。

 

 最終的には、付き合って欲しいと言われた。

 

 とはいえ、今日初めて会ったばかりだし、お付き合いなんて考えられない。

 それに、私は綾小路くんが帆波と付き合っているのを知っていた。彼としても真面目に付き合うつもりはないように見える。

 

 しかし、それでも、お試しでデートするだけと提案された時、思わず迷ってしまった。

 雅に勝ったことがある綾小路くんが傍にいれば、もしかしたら雅の気持ちが変わるかも――そう言われれば、興味がないとは言えない。

 

 気付けば、私は彼の提案を受け入れていた。

 

 勿論、彼に惚れた訳ではなく、私を放置して女と遊んでいる雅への当てつけと言う意味合いが大きい。綾小路くんなら雅に潰されないし、たまには私だって雅を心配させてみたかった。

 

 正直、最初は緊張したが、彼はこういうことに慣れているのか、すぐにこちらも悪くない気分にさせられている。

 いや、本音を言うのであれば楽しかった。打算で始めた関係とは思えないくらいに、彼は親身になってくれたし、私の話もいろいろ聞いてくれる。

 

 気が付けば、私は彼に日頃のストレスをぶつけてしまっていた。こんなこと、クラスで仲の良い子にだって話さないのに、気が付けば彼には話せてしまっている。

 何というか、距離感を詰めるのが上手い。まるで、昔からの知り合いのように、私は彼に安心感を覚えてしまっていた。

 

 そして、それが最大の油断だった。

 

 次の日の土曜日も、彼に呼び出しを受けた。しかし、それをどこか悪くない気分で受けている自分がいる。

 男子と付き合ったことがない私にとって、初めての雅以外の異性との付き合いは想像以上に楽しいものだった。

 

 今日も綾小路君は私の話を聞いてくれる。

 

 彼は、こちらの心の隙を狙い撃つように、私に優しい言葉をかけてきた。

 まるで、魔法のように私の心を的確に掴んでくる。同じ場所にいることがこんなにも心地よいと思ったことは生まれて初めてかもしれない。気が付けば、私は自分から次を望んでしまっていた。

 

 事が起きたのはその帰り道。

 

 遅い時間ということで、二年の寮まで送ってくれた綾小路くんが、いきなり私の頬にキスをしてきたのだ。

 

 最初は何をされたのかわからずにキョトンとしてしまったが、次第に頬に熱いものを感じて思わず手を当ててしまう。嫌だとは思わなかった。ただ、恥ずかしさだけが体を支配し、綾小路くんの顔すら見られなくなる。

 

 けど、彼はそんなこと知らないとばかりに、ぎゅっと私の体を抱きしめてきた。

 

 言葉にしなくても、名残惜しいと、このまま離れたくないという気持ちが伝わってきて、私はされるがままになってしまう。

 

 抵抗などする気も起きなかった。

 

 暖かくて、男性らしいしっかりとした体に包まれながら、「寒いから、風邪を引かないように気をつけて下さい」と言われた時には、もう何がなんだかわからず、ぼんやりと彼が去っていくのを見送っており、一人になったと気づいたら少し心が寂しくなった。

 

 ただの後輩だった綾小路くんを、明確な男子として意識したのはこの日からだ。

 

 連日でデートをしたからか、日曜日の今日は呼び出しがない。しかし、彼と会っていないのに、私の中で綾小路くんという存在が雅に匹敵するくらい大きくなってきていた。

 

 何もしていないと、ふと綾小路くんは今何をしているんだろうと考えてしまう――同時に、昨日の帰りの出来事を思い出して、私は恥ずかしさで顔をブンブン横に振っていた。

 

 綾小路くんは帆波の彼氏だ。私が本気になっていい相手じゃないし、そもそもあんな恥ずかしいことはもうしてはいけない。

 

 と、思いながらも、もし相手が雅だったら、私はこんなにドギマギしただろうかとも考える。

 相手を雅に変えても、私の心は動かなかった。綾小路くんだからこそ、私はこんなにも反応をしている――駄目だ。これ以上、考えては。

 

 でも、相手はまだ会って二日の男子。それこそ、お試しでデートを二回しただけ。なのに――何故、自分はこんなにも心を揺さぶられているのだろう。

 

 一日空けて月曜日になると、再び綾小路くんからデートの誘いが来た。そのことに言いようもない喜びを感じる。思えば、平日なのに、私は携帯を見ながらメールが来るのをずっと待っていた。

 

 約束の場所に着くと、今か今かと彼が来るのを待っている自分がいる。

 まるで恋する乙女だ。ついこの間、初めて会話をしたばかりの後輩に、なんで自分はこんなにも一喜一憂させられているのだろう。

 

 綾小路くんがこちらにやってくるのを見ると、会えて嬉しいと感じてしまった。

 一昨日、あんなことをされたのに、私の中には欠片も不快感が存在していない。そんな私に気を良くしたのか――今回の綾小路くんは露骨に体を求めてきた。

 

 まずいというのはわかっている。でも、綾小路くんの触れた箇所が熱を帯びるように、痺れを与えて来て、私の体から反抗する力を奪っていく。

 

 素直に言えば気持ちよかった。

 

 今でさえ気持ちいいのに、このまま彼を受け入れればどんなに気持ちがいいだろう――と、無意識に頭が考えて、思わず下着を濡らしてしまう。

 

 このまま流されちゃダメだ。

 

 綾小路くんから一瞬、雅に似たような気配を感じた。このまま流されたら、私は行く所まで行ってしまう。だからこそ、何とか手だけの奉仕で許して貰うことにした。

 

 手だけならまだ許せる。

 

 正直、手だけでも恥ずかしい。けど、今のまま本気で体を求められたら拒否する自信が無かった。ギリギリ残った理性で、何とか貞操だけは守る。

 

 夢うつつの状態で、記憶にある父のモノよりも大きなそれを一生懸命奉仕していく。

 最初は恥ずかしいだけだった。しかし、綾小路くんが気持ちよさそうにしているのを見ると、私の女としての本能に火が付きそうになってくる。

 

 雅に勝てる後輩、それもこんなに格好いい子が、今は私を求めて下半身を晒している――女としての自尊心が満たされるのを感じた。

 

 綾小路くんが呻くように可愛い声を出すと、噎せ返るような濃い匂いが部屋中に広がる。

 その匂いを嗅ぐと、何もされていないのに気持ち良さそうと思ってしまった。この大きなモノを受け入れたら、どんなに――と、考えた所で顔を横に振る。

 

 今求められたら多分断れない。

 

 しかし、綾小路くんは約束を守ってくれた。それ以上はせず、ぼんやりしている私を気遣ってくれる。

 もし、綾小路くんが欲に任せて私を抱いていたら、そこで彼との縁は切れていただろう。今にして思えば、その方がよかったのかもしれない。

 

 私がまともに歩くことすら出来ないせいで、綾小路くんは食事もせずに私を寮まで送り届けてくれた。先程の行動から考えて、綾小路くんが打算有り気で優しくしてくれているのは分かる。

 けど、今は何より恥ずかしくて、彼の顔を見られなかった。まだ手には綾小路くんの固い感触が残り続けているのだ。そのせいで、また会おうと言われた時、拒否することが出来ずに頷いてしまった。

 

 ここで拒否していれば、私はまだ元の生活に戻ることが出来ただろう。

 

 でも、私には無理だった。このままではまずいのはわかっている。もし、次に会えば、きっと私は綾小路くんに抱かれてしまう――その確信があった。それでも、彼と関係を断ちたくないという自分がいるのもまた事実だったのだ。

 

 体が熱い。

 

 自分で慰めても足りないくらいに体は熱を帯びており、頭の中では綾小路くんとした今日の行為が延々と繰り返される。自分が何を求めているかなど一目瞭然だった。

 

 いや、駄目だ。流されるな。

 

 何を考えているんだ、私は――相手は後輩の彼氏。こんな関係は止めにして、今までの生活に戻らないと行けない。デッドラインは既に越えている。一時の欲に身を任せるなど馬鹿のすることだ。

 

 そう、馬鹿のすることだとわかっている。なのに、次の日である終業式の日も、私は呼び出しに応じてしまった。つい先日まで、私の中にいたのは雅のはずなのに、今では綾小路くんのことしか考えられなかった。

 

 勿論、内心では良くないことだとわかっている。それでも、あの時の私は自分を求めてくれる彼に確かな満足感を覚えてしまった。

 それもこれも、雅が他の女に目移りしているせいだ。もし、雅が一度でも私を女として求めてくれれば、きっと私は道を間違うことはなかった。

 

 そして、私は綾小路くんが求めるままに、体を許してしまう――

 

 当然ながら、綾小路くんの優しさが、私を抱くための演技だったということなど既に理解していたし、思わず口に出して「はぁ、やっちゃった……」というくらいには後悔している。

 

 ただ、頭で理解はしていても、体が彼を拒否することを拒んだのだ。私は雅よりも、綾小路くんを選んだ――それだけのことだった。

 

 恨む気はない。油断した私が悪いのだ。それに、彼に甘えたことで多少スッキリしたのは嘘じゃなかった。一年にしてやられたのだけは悔しいが、思えば彼は雅を倒した男だ。私なんかが勝てる相手じゃない。

 また、何となくだけど、雅の気持ちも少しだけ分かったような気がした。人と肌を重ねると、何となく嫌な気持ちがなくなってくる。

 

 結論として、綾小路くんからは、雅が他の女と寝ているなら、私も他の男と寝てしまえばいいという格言を貰った。

 同時に、彼がまた私の体を求めてきたのでそれを受け入れる。どうせ一度寝てしまった以上、もう二度も三度も同じだ。

 

 まぁ、彼の言うことを全面的に受け入れる訳ではないが、たまには私だってこういうことをしたい時だってある。

 その相手が雅でないというのが少し思う所ではあったが、溜め込みすぎるよりはこうして定期的に吐き出した方が良いというのは間違っていない気がした。

 

 数日の経験を得て、私は雅の下に戻る。

 

 結局、私は綾小路くんと付き合うことはしなかった。彼も多分、元々そんなつもりもなく、私と体の関係を作りたかっただけなのだと思っている。

 

 そして、私はそんな関係を受け入れてしまった。

 

 あのまま、流されて綾小路くんと無理に付き合っても、どこかで雅のことを忘れられずにきっと長続きせずに終わる。なら、たまに肌を重ねて、悩みを聞いてくれる関係――それがきっと、私と綾小路くんにとって理想の関係だったのだ。

 

 だからこそ、クリスマスに私が今の自分の気持ちを確かめるために雅とデートをして、彼が別の女の子とデートをしていても互いに咎めることは出来ない。

 ただ、彼はどうかわからないが、私の中には言いようのないモヤモヤが出来ているのもまた事実だった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:星之宮知恵

 

 

 最初に違和感を覚えたのは、夏休み前のことだった。別に化粧品や服を変えた訳じゃない。けど、確実に同期である茶柱佐枝が美しくなっていると思った。

 

 同じく教師をしている同期の真嶋くんに話を聞いても、「そうか?」と首を傾げるだけ――けど、間違いなく綺麗になっている。もしかしたら女にしかわからないのかもしれないが、ほぼ間違いなかった。

 

 無人島試験の説明をしている際、それとなく様子を見ていたが、やはり変わっている。

 

 何というか、これまであか抜けていなかった子が、ひと夏の経験で大人になったような感じだ。まさか、男でも出来た? あのサエちゃんが?

 

 そこからも、私はそれとなくサエちゃんに探りを入れた。男性と付き合っているという感じはない。けど、何か余裕のようなものを感じる。前まで感じていた、あの切羽詰まった感じが消えつつあった。

 

 同時に、Dクラスは異常な成績を見せ始める。

 

 無人島試験では、ほぼダントツと言って良い好成績。干支試験では各クラスがAクラスを落とそうと画策していたので大きく目立つことはなかったが、体育祭でも4クラスの中で唯一マイナスを逃れている。そして、ペーパーシャッフルでの勝利。

 

 関連がないとは思えなかった。

 

 まさか、生徒に情報を流している? いや、流石にそれはない。いくら、あの子がAクラスを夢見ていると言っても、ルールを破って手に入れた勝利に意味なんてないはず――と、すると、Aクラスを目指せるだけの何かを手に入れたとみるべきだ。

 

 今年のDクラスは、能力が高い子が多い。リーダーの櫛田さん、一年で生徒会長となった椿さん、女子人気の高い平田くんに、クラスの補佐をしている綾小路くん――綾小路くんに至っては、どうもうちのクラスの一之瀬さんと付き合っているということだけど、一之瀬さんからはそこそこ優秀としか聞いていない。

 

 けど、この四人か、もしくは高円寺くんのようにまだ隠れている実力者がサエちゃんの望みを叶えようとしているとすれば、あのDクラスの好成績も納得がいった。

 

 そして、サエちゃんのあの変化――まさか、体で生徒を買収した? いや、まさか、あの行き遅れのサエちゃんに、そんな度胸あるはずがない。

 

 だが、あの妙な色気は多分男を知った女特有のものだ。これまでの人生で、何度も似たような空気を放った女を見てきた。ほぼ間違いない。まぁ、佐枝ちゃんはその中でもかなり遅い方ではあるが――でも、本当に? 相手は? 平田くん? 高円寺くん? 綾小路くん?

 

 いや、綾小路くんはない。彼は一之瀬さんと付き合っているし、いえ、それを言えば平田くんも軽井沢さんと付き合っているという話をどこかで聞いた覚えがある。

 なら、高円寺くん? いや、流石のサエちゃんだって、体を売った程度で変人が言うことを聞くなどとは考えないはず――あの目ぼしい男子にはお相手がいる以上、佐枝ちゃんが入り込むような隙間はないはずだ。

 

 なら勘違い? いや、そんなはずがない。

 

 少なくとも、何か変化があったのは間違いなかった。そして、Dクラスのあり得ないほどの躍進にも必ず種がある。それにサエちゃんが関係しているかはわからないが、私の直感は関係があると言っていた。

 

 年末、探りの意味も兼ねて、久しぶりに二人で飲みに行こうと誘う。私の方が酒には強いし、ベロベロにして隠していることを全て吐かせてやる――と、考えていたら、先に眠ってしまったのは私の方だった。

 

 いえ、正確には“多分”私の方が先――朝には二人ともサエちゃんの部屋で倒れていたからわからないけど、少なくとも私がサエちゃんに何かした覚えはない。

 

 そして、私の方は多分何かされた。

 

 うろ覚えだが、何か妙にえっちな夢を見た気がする。今まで体験したことのないようなモノを受け入れる夢――いや、夢ではない。まだ微かにだが、私の体には違和感があった。

 

 同時に、思い出す。物凄い快感で何もできなくなったあの感覚――長く、男をとっかえひっかえしている私でも初めての経験だった。あれが、とても夢とは思えない。多分、寝ている間に誰かにされたのは間違いなかった。

 

 けど、誰が? サエちゃんがいたのに?

 

 ――いや、サエちゃんも、多分グルだ。

 

 誰だかわからないけど、サエちゃんを利用して私を抱いた人間がいるのは間違いない。そして、多分その人が、Dクラスをここまで引っ張ってきた立役者。サエちゃんはその人物に体を預けた――それを、今日確信した。

 

 なら、次はそれが誰かだ。

 

 もし、その誰かの正体を暴くことが出来れば、上手くすればその人物の弱みを突いて、BクラスをAクラスにすることだって出来るかもしれない。

 

 このまま好きにさせるものか。佐枝ちゃんがAクラスになるなど許されない。あの子はずっと下のクラスでいい。ずっと、私の下にいるべきなんだ。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 SIDE:茶柱佐枝

 

 

 無人島試験、船上試験が終了し、私が綾小路の奴隷となってからしばらくして経った頃、同じ教師であり腐れ縁でもあるBクラス担任の星之宮知恵が今まで以上にちょっかいを出してくることが増えてきた。

 

 そして、終業式が終わり、我々教師も僅かながらの休日になると、その行動は顕著になる。あからさまに探りを入れていますという態度で、こちらを飲みに誘ってきた。

 

「ねぇ、サエちゃん。最近、化粧品変えた?」

「……お前には私が変わったように見えるのか?」

「見えなきゃこんな質問しないわよ」

「変えてない」

 

 こいつ――チエとは学生時代から因縁があった。

 

 それが私のせいだということは理解しているし、だからこそ私もこいつの恨みを受け入れている。綾小路に抱かれて、昔の男の影は振り切っても、私が行った失敗がなくなる訳ではない。

 

 改めて考えてみると、私がこうしてこいつの我儘に付き合って酒を飲んでいるのも、そういう罪悪感から来ているのかもしれないな。

 

「ふーん。化粧品が変わってないってことは、変わったのはサエちゃん自身ってことね」

「何を言っている?」

「自覚あるでしょ? 最近、化粧のノリがいいなぁとか、調子がいいなぁとか、感じない?」

 

 それは――確かに感じる。

 

 綾小路の奴隷となり、Dクラスの結果が出るようになってから、私の中にあった言葉に出来ない重りが軽くなっているのを感じていた。

 こいつの言う通り、それは表面にも出ていて、教師として余裕のある振る舞いや、身だしなみが整うようになっている。

 

「……男でもできた?」

「出来たように見えるか?」

「見えない。けど、そうじゃないと納得できない変化は感じる」

 

 余程のハイペースで飲んでいるのか、チエの目が据わってきた。普段はあまり酒に呑まれることはない奴だが、今日は何というか気合が入っているように感じる。

 

「私に、お前に自慢できるような男はいないよ」

 

 事実だ。綾小路との関係は、そんな甘ったるいものではない。あいつにとって、私はただの奴隷であり、ただ体を貪りあうだけの軽い関係だ。

 

「……いつまで昔の男引きずってんのよ」

「引きずってなんかいない」

 

 事実、昔一日だけ恋人になった彼との甘酸っぱい思い出は、綾小路の手によって上書きされてしまった。今あるのは、あの時正解を選べなかった後悔だけだ。

 

「引きずってなきゃ、この年まで処女守り通さないでしょ」

「処女じゃない」

「あ、やっぱ、そうなんだ」

 

 いかん。酒のせいか、口が滑った。

 

「誰と寝たの? まさか生徒じゃないわよね?」

「……別に誰だっていいだろう。私だって、そういう関係になることだってある」

「濁すってことはやっぱり生徒か。まさか、あのサエちゃんが体で生徒を買収するなんて」

「買収なんかしていない。お前の勘違いだ」

 

 むしろ、買収された方だ。

 

「嘘。ここ最近のDクラスの結果から見て、サエちゃんとその子には何らかの秘密がある」

 

 本当に鋭い奴だ、こいつは。

 

 思えば、当時もこの聡明さに助けられてきたっけか。まだ、明確に誰かまではわかっていないようだが、私と綾小路の関係を見抜きつつある。

 

「秘密があったとして、それが私の体とは何の関係もない。飛躍しすぎだ」

「そう? サエちゃんの変化と、Dクラスの結果が出始めた時期が同じなのは十分な根拠だと思うけど?」

「……そんなに言うほど変わったか?」

 

 正直、私自身に特に変わった自覚はない。

 

「真嶋くんはともかくとして、他の男子教師の視線感じないの? あからさまに見られてるじゃん」

「そう、か? あまり、気にならなかったが……」

 

 見るどころか、無遠慮に触ってくるやつのせいで、その手の視線はもう毛ほども気にならなくなってしまっている。チエが気づくレベルのことを気づけないくらい視線に鈍感になっていたとは――

 

「いい? 女ってのはね、男を知るとエロく見えるの! 最近のサエちゃんは、そりゃもうフェロモンむんむんなんだから!」

「そんなことはないだろう……」

「あるったらあるの! なのに、真嶋くんは真面目に話聞いてくれないし、何が『あいつにも、そういう気分の時があるんだろう』よ! 適当に流してるくせにしったかぶったフリして!」

 

 そう言いながら、チエが酒を空にしていく。まだこの店に着いてから30分も経っていないはずだが、既にチエは私の三倍以上飲んで出来上がりかけていた。

 

 それに比例して、今まで核心を突いていた話が、チエの愚痴へとシフトしていく。こうなると話が長いんだよなぁ――と、考えながら、適当に話に付き合っていると、珍しくこいつの方が先に潰れてしまった。

 

 ここまで羽目を外しているのは船上試験以来か。

 

 仕方なく、私が会計を済ませ、チエを担いで教員寮へ帰る――が、ぶっちゃけ、重かった。

 いや、チエの体重は標準なのかもしれないが、私自身そこまで力のある方じゃない。女一人担いで歩くのはかなりきつかった。

 

 これはヘルプを呼ぶしかない。

 

 確か、前にボソッとチエに興味があるようなことも言っていたし、いい機会だろう。ここまで泥酔していれば、何かあったとしても夢だと思うはずだ。

 と、いうことで、綾小路に連絡して助けに来てもらう。地味に、私から呼び出しの電話をするのは初めてだった。

 

 しばらくすると、綾小路がいつもの無表情でやってくる。事情を説明すると、嫌そうな顔をしながらもチエを私の部屋まで運んでくれた。

 

 お駄賃として、チエを好きにしていいと言うと、態度が一変して私のことを褒めてくる。

 長い付き合いの友人を売ったというのに、私の心は褒められたことの悦びがあった。ああ、私はもう心底こいつの奴隷なのだと、こういう時に感じる。

 

 ――気が付けば私も、チエと一緒に、朝までご主人様に可愛がられてしまっていた。

 

 

 




 SIDE12は朝比奈、星之宮、茶柱。


 朝比奈は食べられるまでの心理状態と、その後の心境。

 星之宮はDクラスの秘密と茶柱の変化についての探り。

 茶柱は、茶柱視点での会話と一部始終。


 ※アンケありがとうございました。皆さんの温度感が大体わかったので、基本的に変な方向には行かず、ちょっぴり過激な感じで行こうと思います。まぁ、まだ櫛田出た所なんで、アップがいつになるかは全くの未定ですが(笑)


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