♯063 『やる気の出ない試験』
何だかんだで年も明け、早くも3学期が始まった。今日から原作でいう混合合宿が始まるということで、現在は学校から離れてバスで移動をしている。
しかし、気が乗らない。
この混合合宿――言ってしまえば林間学校のようなものなのだが、この試験は男女に分かれて一週間の精神修行をするという特別試験だ。つまり、一週間の禁欲生活を余儀なくされるのである。
この学校に入ってから一週間も女を食べるのを我慢したことはない。無人島試験の時でさえ、場所を見つけてしっかりやることはやっていた。
だが、この試験は割と時間が厳しく管理されている上、無人島試験ほど緩いルールでもない。まず隙を見て女を食べるのは難しいだろう。
何が楽しくて野郎だけで過ごさなくてはならないのか――今から考えるだけでも憂鬱になる。
と、考えていると、運転席の近くに座っていた茶柱がマイクを手に立ち上がった。
どうやら、この試験のルールを説明するつもりなのだろう。万が一、原作とルールが違っても困るので耳だけは傾けておく。
「盛り上がっている最中に悪いが静かにしろ。お前たちも薄々感づいているとは思うが、それでもこれから何をするのかをそろそろ知りたい頃ではないか?」
「そりゃ、気になりますよ。まさか、また無人島じゃないですよね?」
バスの席は名前順ということで、オレの隣に座っている池がそう声を上げた。
「安心しろ。あの規模の特別試験はそう頻繁に行うものじゃない。しかし、既に推察出来ているように、これから新しい特別試験を行うことになっている。これから、お前たちDクラスの生徒に行って貰う特別試験は――」
と、話していると、茶柱が言葉を止める。既に、オレたちは昇級を果たしていた。
「済まない。Cクラスの生徒、だったな。では、改めてCクラスとなったお前たちに特別試験の概要を説明する」
夏の無人島にはギャーギャー騒いでいた池を始め、全ての生徒が今では落ち着いて茶柱の言葉に耳を傾けようとしている。これだけでも大きな成長と言っていいだろう。
茶柱も、面構えが変わったCクラスを見て、満足そうに特別試験の説明を始めた。
「これから、お前たちをとある山中の林間学校へ連れていく。おそらく、後一時間もしないうちに目的地に着くはずだ。今回の試験は、学年を超えての集団行動を7泊8日で行う。体育祭のさらに上のようなものだな。特別試験の名称は『混合合宿』。これから資料を配っていくが、資料はバスを降りる前に回収するので注意しろ」
そう言って何枚かの紙が配られていく。同時に、「質問は最後に受け付けるので、まずは黙って話を聞くこと」と注意をされ、よく質問をする平田や池が頷いていた。
「今回の試験は、精神面での成長を主な目的とした合宿となる。社会で生きていく上でのイロハを始め、普段関わりあわないような人間とも円滑に関係を築いていけるかを確認し、学んでいくことになる」
なら、別に男女で分ける必要はないと思うのだが、それこそ1~3年、A~D、男女混ぜこぜで楽しくやらせて欲しい。
「まず、お前たちには目的地に辿り着き次第、男女別に分かれて貰う。そして、学年全体で話し合いをし、そこで6つのグループを作って貰うことになっている。1つのグループには人数の下限と上限が決められており、詳しいことは資料の5ページに書いてあるのでしっかり目を通しておけ」
文章に目を通す。そこには――一つのグループを形成する上で、その人数には上限と下限が存在する。その人数は、学年及び男女を分けた総人数で算出される。仮に、同一学年の男子生徒が60人以上であれば8人~13人。70人以上であれば9~14人。80人以上であれば10~15人が1グループにおける下限と上限の人数となる――と、書かれていた。
今年の一年生はどのクラスもまだ退学者が出ていない。つまり、必然的に1クラス40人、男女の比率は5:5、男女ともに1年の合計は80人となり、10~15人のグループを6つ作ることになる。
「男女別で6つということは、他クラスの生徒が混合した中でグループを作るということだ。ちなみに、1つのクラスだけでグループを形成することは『ルール』上認められていない。最低でも2クラス以上の混合で、その結成は話し合いにより満場一致の、反対者のいないものでなければならない」
池などは小声で、「強制的に敵と組んで試験することかよ」と呟いているが、条件次第ではこの合宿は普通の特別試験よりも楽なものになる。
能力の高い他クラスの生徒と組めれば、それだけいろいろと楽が出来るからな。一概にマイナスとは言えない。いや、男だけで一週間過ごすのはそもそもマイナスか――
「グループはいわば、この合宿の間だけの臨時クラスのようなものだ。この一週間、作ったグループで特別試験を乗り越えて貰うことになる。勿論、それだけではなく、一緒に授業を受けることを始めとして、炊事に洗濯、入浴から睡眠まで、殆どの日常生活を共にすることになるだろう」
改めて聞くと、もっとやる気がなくなるな。
「特別試験の結果をどのように求めるかだが、それは最終日に行われる総合テストによって決められる。大まかなテスト内容は資料7ページに記載してあるから一読しておけ」
見ると、今回の試験は精神面での成長を主にした一週間の合宿であり、『道徳』、『精神鍛錬』、『規律』、『主体性』という、通常では考えられない科目を行っていくらしい。
おまけにスケジュールもバッチリ決まっており、起床した後、朝の課題、その後は道場で座禅を組み、清掃などを行って朝食。それから教室で様々な心得を学び、昼食。午後の課題を受け、再び座禅。そして夕食と入浴を行い、就寝――と、面白味の欠片もない一日を、一週間も強要されるという地獄が書かれていた。やる気がどんどん萎えていく。
「いいか、このグループ決めは非常に重要だ。6つのグループは一心同体で一週間の合宿を乗り越えなければならない。途中でメンバーの脱退、入れ替えは認めておらず、生徒が病気や怪我で離脱する場合は、その穴埋めをグループ内で対応しなければならない」
オレのやる気なさを感じ取ったのか、茶柱が念を押すようにそう話す。
「1年生の中で6つのグループを作り終えた後は、同じくグループを作っている2年、3年生と合流することになる。つまり、最終的には1年から3年を合わせた約30~45人で構成された6つのグループが出来上がるということだ。わかりやすく言えば、同学年で作るグループを小グループ、全学年で作るグループを大グループと呼称すればいいだろう」
同学年で6つの小グループを作り、2年、3年の小グループと合わせて、6つの大グループを作る。ここまで特に変わったことはないし、問題はなさそうだな。
「肝心の結果だが、それは6つに分けられた大グループのメンバー全員の試験結果の『平均点』で評価される。他学年の良し悪しも大きく影響するということだ。平均点が1位から3位の大グループには生徒全員にPPとCPが与えられる。4位から最下位の大グループは逆に減点されると考えてくれればいい」
結果に関する詳細に目を通す。
1位を取ったグループは、メンバー一人ずつにプライベートポイント10000ポイント。クラスポイントを3ポイント。
2位を取ったグループは、メンバー一人ずつにプライベートポイント5000ポイント。クラスポイント1ポイント。
3位を取ったグループは、メンバー一人ずつにプライベートポイント3000ポイント。
4位を取ったグループは、メンバー一人ずつにプライベートポイント-5000ポイント。
5位を取ったグループは、メンバー一人ずつにプライベートポイント-10000ポイント。クラスポイント-3ポイント。
6位を取ったグループは、メンバー一人ずつにプライベートポイント-20000ポイント。クラスポイント-5ポイント。
以上の報酬を、生徒一人一人に配布する――と、書かれていた。
「一見、報酬が少なく見えるかもしれないが、小グループ内のクラスの人数や、小グループの構成する総人数によって報酬の倍率が増加していく仕組みだ。これは、1位~3位までに適用されるルールであり、4位以下のマイナスには適用されないので安心しろ」
倍率の欄に目を通すと、小グループを構成する生徒のクラス数が2クラスであれば、倍率は等倍のままだが、3クラス構成ならば倍率は2倍、4クラス構成ならば3倍に上がると書かれている。
また、総人数は10人を1倍として、15人の1.5倍が最大、一年には関係ないが9人の場合は0.9倍になるらしい。
「それから、最下位になった大グループにはペナルティとして『退学』して貰う――とはいえ、最下位の大グループを全員退学にする訳じゃない。退学となるかどうかは、学校側が用意した平均点のボーダーラインを小グループの平均点が下回ってしまったかどうかで決められる」
つまり、総合順位は大グループの平均点を元にするが、退学の場合は小グループの平均点が参考にされるということだ。
「ボーダーを下回った場合、小グループの『責任者』に退学して貰うことになる。責任者については予め小グループ内で話し合って選任して貰うが、勿論マイナスだけでなく大きなメリットもある。責任者と同じクラスの生徒は報酬が二倍となる仕組みだ」
つまり、先程の倍率と掛け合わせて、最大報酬を手に入れる場合、グループ内を自クラスの生徒12人で固め、他の3クラスから1人ずつ生徒を引き入れる。その上で、責任者を自クラスの誰かがやって1位を取れば、PP108万、CPは336も得ることが出来る訳だ。
他のクラスの成績次第では、Cクラスが一気にAクラスになることもあり得る。茶柱が興奮するのもわからなくはない――が、今回ばかりは全然やる気が出なかった。
「また、責任者が退学することになってしまった場合、グループ内の一人を連帯責任として退学を命じることが出来る。しかし、当然だが誰でも好き勝手に連帯責任に出来る訳じゃない。あくまでボーダーを割った原因の『一因』だと学校側に認められた生徒だけだ」
遂に来たか。これが今回の合宿の一番の目玉と言っていいルール。原作では、このルールを悪用して、南雲が三年の橘を退学させようとする。
茶柱は誰でも好き勝手に道連れにはできないと言っているが、そんなものグループの半数以上を自クラスで固めてしまえば、多数決でどうにでもできた。実質、好きな人間を退学させることが出来るシステムだ。
今回は龍園も生きているので、最悪の場合はあいつも似たようなことをしてきてもおかしくはない。ひよりは出来るだけ、こちらで守ってやった方がいいだろう。仮に、それでひよりがスパイだとばれるとしても、退学させられるよりはマシだ。
「最後に、退学者を出してしまったクラスはそれ相応のペナルティが課せられる。ペナルティの内容は試験に応じて常時変化しているが、今回の特別試験で退学者が出た場合、1人につきCPが100減少する。仮にCPが不足している場合は以後加算されたタイミングで清算されるので注意しろ――以上で説明は終わりだ。何かあれば質問を受け付ける」
当然のように平田が手を挙げた。
「もし、退学者が出てしまった場合、救済の方法はあるんですか?」
「ある。この学校はPPで何でも買うことが出来る。当然、『退学を取り消す権利』もPPで買うことも出来るが、その対価は高いぞ。退学の取り消し――つまり、『救済』は原則として、PP2000万、CP300を支払わなければならない。また、これはあくまで救済措置であり、退学時に受けるペナルティは消失しないから注意しろ」
つまり、退学となった生徒を救うには、最低PP2000万と合計でCP400が要求される訳だ。余程、クラスにとって重要な人物でなければ躊躇ってしまうポイントである。
「その2000万PPはクラス全体で補填しても構わないんですよね?」
「ああ。クラス全体だけではなく、他クラス、他学年から集めても構わない。それが出来ればの話だがな」
今、Cクラスの共有財産は干支試験で集めた160万PPしかない。とてもではないが、2000万には程遠いし、仮に今Cクラス全員の手持ちPPを全て集めたとして、オレ以外の総PPは良い所500万か、600万と言った所だろう。
Cクラスになったとはいえ、元Dクラスに貯金の概念はない。仮に、オレの手持ちである約900万を足したとしても2000万には到底届かなかった。
しかし、聞いておきたいことはある。
「オレからも質問いいですか? もし仮に、他クラスで退学者が出たとして、その人物にPP2000万、CP300を使えばうちのクラスで救済してあげることは可能ですか? 仮に可能だったとして、救済された後、その人物はどのクラスに所属する扱いになりますか?」
この学校ならまず有り得ない他クラスの生徒を救うという発想――茶柱も、この質問は流石に想定外だったのか、「少し待て」と言って教師用のマニュアルを確認していた。おそらく、あれにPPで買えるものの一覧でも書いてあるのだろう。
「……他クラスの生徒を救済することは可能だ。その場合、救済した生徒は元のクラスではなくCクラス所属に変更となる」
「つまり、クラス移動と退学取り消しを一回で行うことが出来る訳ですね?」
「ああ。退学すると、その生徒は一度元のクラスから『いなくなった』という扱いになる。つまり、クラスの枠組みから外れる訳だな。そこから救済した場合、救済したクラスに所属する権利を得る」
もし、仮に何かの間違いで、他クラスのセフレたちが退学することになっても救済は可能――それも、Cクラスに編入する形を取れる。CP300さえどうにか出来れば一考に値するルールだ。
「さて、目的地に着くまで時間はそう残っていないが、この時間をどう使うかはお前たちの勝手だ。資料は到着後に回収、それから携帯は一週間使用禁止だ。その他、個別に持ち込んだ日用品や遊び道具は持ち込みに制限はないが、食料品の持ち込みは禁止する」
「カメラやICレコーダーの類の持ち込みは?」
「禁止だ。持ち込めるのは簡単な日用品や遊び道具ぐらいだと思っていい」
つまり、予め橘に録音機器を持たせて身を守るという手段は取れないということか。余程、南雲は堀北兄を虐めたいらしい。
まぁ、問題ないだろう。橘を救済するための策は既に考えてある。携帯を操作して、今回の試験で重要となる人物たちに指示のメールを送っていく。
ついでに、堀北兄にも一応忠告のメールを送っておくことにした。もし、原作と違ってオレの言葉を信じるようであれば、あいつが橘を救う可能性もある。
「俺からも質問があります!」
と、考えていると、隣の席の池がビシッと手を挙げた。今まで頑張って黙っていただけに聞きたいことがいろいろあるのだろう。携帯に目線を向けていた茶柱も苦笑いを浮かべながら、池の発言を許可していた。
「男女別々ってことですけど、具体的にはどれくらいバラバラなんですか?」
「合宿で使用する林間学校が2棟建っている。本棟の方を男子が使い、分棟を女子が使う。二つの建物は隣同士だが、基本的には一週間バラバラになると思っていい。休み時間や放課後に許可なく外へ出ることも禁止だ」
「ってことは、ろくに話も出来ないってことですか?」
「いや、一日一時間だけ本棟の食堂で男女同時に食事を取る。その時だけは好きにしてもいい。わかったか?」
「うす!」
好きにしてもいいと言った所で、人の多い食堂では何も出来やしない。改めてやる気がなくなるクソ試験である。
茶柱からマイクを受け取り、桔梗や平田が、この試験をどう乗り越えるかを話し出すが、オレはもう指示を終えているのでどうでも良かった。目を閉じて、残り少ない時間を睡眠に充てる。
あからさまにやる気がないとわかると、茶柱が心配そうな視線を向けてくるが、オレにやる気を出させたいならそれ相応の見返りを用意してくれ。
◇◆
目的地に辿り着くと、名前順にバスを降りていく。この時点で携帯は没収されるようで、電源を切って茶柱に預ける。
降り立った先にはグラウンドらしき広い場所と、その奥に古めかしい校舎が二つあった。山岳地帯ということで、周りは自然だらけであり、無人島とは違う意味で別世界だ。
ここからはもう男女別に分かれるということで、バスから降りると別々の校舎に向かうことになった。建物の中を進み、体育館のような場所に着くと、既にAクラスやBクラスは到着している。
あの落ち着いた様子を見るに、バスの中である程度の作戦や方針は固まったのだろう。まぁ、どちらにしろ、今回のオレは大きく動く気はさらさらないのだが――
「バスの中の説明で、試験の内容は理解できていると判断させて貰う。では、これより小グループを作るための場と時間を儲ける。各学年、話し合って6つの小グループを作るように。また、大グループを作成する場は、本日の午後8時に設けてある、以上だ」
1年だけでなく、2年や3年の生徒も全員集まると、他学年の教師と思われる男がそう告げた。
当然だが、グループ決めに関しては大小を問わず、学校側は一切関知しないらしい。仲裁することもないということで、好き勝手に喧嘩しろということだった。
「皆さん、少しお時間いいでしょうか?」
グループ決めがスタートしてすぐ、Aクラスが動きを見せる。的場という生徒がAクラスを14人集めながら、そう他クラスに声をかけてきた。
「僕たちAクラスは、見ての通りこのメンバーで1つのグループを作るつもりです。現在の人数は14人で、後1名が参加して頂ければ必要な人数が揃います。今から参加してくださる方を募集しますので、その気がある方は声をかけてください」
それを聞いて、須藤が「それはずるいだろ」――と、声を上げそうになったが、オレや平田が黙っているのを見て口を閉ざしている。
Bクラスも様子見という感じで、龍園率いるDクラスも、特に動く様子を見せていなかった。それなら、サクッとその枠を頂いてしまおう。
「だ、そうだ。誰か行きたいなら行った方がいいと思うぞ」
「い、いいのかよ、綾小路。あんな好き勝手させて……」
「問題ない。あいつらの提案では、1グループを構成する人間が最大で2クラスにしかならない。1位を取った時の倍率も低いし、残ったAクラスの6人を好きに使っていいというのであれば特に咎めるようなことでもないだろう」
「流石はCクラス参謀の綾小路くんです。勿論、Aクラスで残った6人は、あなたがたのどのグループにどんな配置でも喜んで参加する方針です」
「聞きたいんだが、仮にCクラスから一人そちらに送ったとして、そいつに無理やり責任者をやらせる。また、わざと最下位を取って道連れにする――と、いう心配はしなくてもいいんだよな?」
「はい。僕らのグループに入ってくれるのであれば、その生徒には一切のリスクを負わせません。このグループは葛城くんがリーダーを務めますが、万が一最下位を取っても責任を負うのは彼のみと約束します。勿論、意図的に悪い点数を取ったり、仲間を傷つけたりした場合、話は変わりますけどね。純粋に試験の成績については全て許容します」
能力の低い退学を恐れる生徒にしてみれば願ってもない条件だろう。そして、うちはCクラスに上がったとはいえ、元々は不良品の集まりだ。当然、能力の低い生徒も多く抱えている。
他のクラスが動いていない今がチャンスということで、うちから山内をAクラスへと送り込むことにした。
これで、1つのグループは完成ということになる。Aクラスは教師への報告を終えると、早々に体育館を出て行った。
「んじゃ、俺も好きにさせてもらうぜ。Dクラスは12人、4クラス制にする予定だ。A、B、Cの中から一人こっちにこい。条件はAと同じでリスクは一切背負わせねぇと約束してやる」
Aのグループが完成するのを見て、龍園も動き出す。しかし、約束という言葉がこれほど似合わない男もそういなかった。
とはいえ、既にAクラスは残された6人は、どんなグループにも参加すると明言してしまっている。龍園は、坂柳の駒である橋本を指名して自分のグループに入れ込んだ。
「悪いが、BクラスはDクラスと組む気はない。当然だが、そちらからの生徒を受け入れるつもりも毛頭ない」
龍園の意見に反発したのは神崎だった。体育祭での裏切り、ペーパーシャッフルでは、結果的に危機的状況は回避出来たがクラスメイトを恫喝されている。恨みつらみが積み重なっているのだろう。
「ハッ、そうかい。それならそれで構わねぇ。別に頭を下げて頼んでいる訳でもないからな」
龍園は特に気にした様子もなく、Dクラスのメンバーを13人にして募集を再開した。
Bクラスの気持ちはわからなくもないが、ここでCクラスまで龍園を否定してしまうと、まともな小グループが出来上がらない。
「どうする? BとDがあの調子じゃ、4クラス合同のグループは作れない……かといってずっとこのままじゃ小グループは永遠に完成しないよ?」
平田がそう耳打ちしてきた。実際、Bクラス程ではないが、龍園と同じグループになりたくないという生徒は多い。
「まぁ、4クラス合同のグループは無理でも3クラスなら可能だろう。とりあえず、うちも13人グループを作ればいい」
「けど、残りの6人はどうするんだい?」
「オレは外してくれていい。それに、Dクラスに関しても問題はない。うちには、誰にも気後れすることのない自由人がいるじゃないか」
そう言って、高円寺に視線を向ける。
「高円寺、龍園のグループでも問題ないか?」
「そうだねぇ。リスクがないというのであれば、どのグループでも問題ない。君がそういうのであれば、ドラゴンボーイのグループに参加しようではないか」
高円寺ほどの能力を持つ生徒を手放すのはデメリットもあるが、仮に龍園の手に渡ったとしてもあいつを操作できる人間など存在しない。
事実、龍園も高円寺が「よろしく頼むよ。ドラゴンボーイ」と笑みを向けると、若干嫌そうな顔をしていた。まさか自由人の高円寺を寄こされるとは思わなかったのだろう。
しかし、我儘を言える立場ではないことは理解しているようで、黙って高円寺を受け入れている。
残るBクラスとCクラスも13人ずつ固まって、他のクラスから1名ずつ受け入れることにした。BクラスはAとCから一人ずつ、CクラスはAとDから一人ずつ受け入れている。
これで残るは、Aが3人、Bが7人、Cが4人、Dが6人となり、残るグループの枠は二つとなった。
Cクラスで残っているのは、オレ、啓誠、明人、博士の4人だ。啓誠と明人はオレに気を使って残ってくれたようで、オレと同じグループになる気満々だ。
とはいえ、BクラスとDクラスが同じグループになるのを拒否している以上、必然的にBのグループに3人、Dのグループに4人が合流する必要がある。
少しでも高得点を狙うのであれば、3クラス制にして倍率を高めたい――と、いうことで、BのグループにはCの博士とAクラスの生徒が2名。
Dのグループには、オレ、啓誠、明人の綾小路グループ(男子)とAクラスの戸塚が合流してグループが完成した。
「さて、このグループの面々に聞きたいんだが、誰か責任者をやるつもりはあるか?」
出来上がった小グループのメンバーを見ながらそう問いかける。しかし、誰も手を上げようとしない。どうやら、このグループにいるのは、Dクラスでも比較的温厚な性格の人間が多いようだ。
「もし、誰も責任者をやるつもりがないのであればオレがやる。それで問題ないか?」
「なっ、待て清隆! それはリスクが有りすぎる!」
啓誠が慌てたようにそう声を出す。確かに、過半数がDクラスのこのグループならば、わざと平均点を下げて相手を退学にする――と、いうことも可能だ。
「問題ないさ。こいつらが意図的に平均点を下げるような動きを見せれば、オレはこいつらを道連れにする。悪いがオレは、他のグループと違って、他にリスクを負わせないと確約するつもりはない。嫌なら、誰か責任者になってくれ」
「……俺たちは今回自由に動いていいと言われている。お前が責任者をしてくれるのであれば、それに逆らうつもりはない」
そう声を上げたのは時任という生徒だった。確かこいつは龍園に反抗している生徒の一人だっけか。どうやら、龍園は今回自分に反抗する生徒や、能力の高くない生徒を弾いてグループを作り上げたらしい。
「そうか。オレも、お前たちがしっかりやってくれるのであれば、特に何かをするつもりはない。一週間、よろしく頼む」
改めて、これで全ての1年生は全ての小グループが出来上がった。内訳としては――
1グループ――Aクラス14人、Cクラス1人=15人。責任者、葛城。
2グループ――Bクラス13人、Aクラス1人、Cクラス1人=15人。責任者、神崎。
3グループ――Cクラス13人、Aクラス1人、Dクラス1人=15人。責任者、平田。
4グループ――Dクラス13人、Aクラス1人、Cクラス1人=15人。責任者、金田。
5グループ――Bクラス7人、Aクラス2人、Cクラス1人=10人。責任者、森山。
6グループ――Dクラス6人、Aクラス1人、Cクラス3人=10人。責任者、綾小路。
――と、なっている。原作と違って、龍園が元気だったり、BとDが揉めていたりするため、グループの内訳はかなり変わってきていた。
しかし、揉め事があったにしては、予想以上に早くグループが出来上がっている。BとDが揉めたことで、逆に組み合わせの択が少なくなったのが功を奏したらしい。
教師に小グループの完成を報告すると、先に外へ出て行ったはずのAクラスのグループが戻ってきた。残りのグループの様子を探るため――ではなく、どうやら上級生に呼び出しをくらったようだ。
その証拠に、既にグループを作り上げていた上級生もこの場に残っている。こちらの動きが落ち着いたと判断すると、2年の中でも特に目立つ南雲が1年のいる方へ歩いてきた。
原作と変化点。
・清隆が橘救済のために動いている。
それ以外のやる気はゼロ。仮に誰が何をしようと、自分側に実害がなければ無視するレベル。
・龍園がリーダーを辞退していないため、原作とグループが変化している。
また、これまでの関係から、Bクラスと龍園クラスは犬猿の仲に等しく、とても協力的に試験を乗り越えるなど出来ないレベル。
・清隆のグループメンバーも変わった。
原作では石崎や橋本などもいたが、大半が龍園クラスのメンバーに変わっている。目立つキャラとして時任がいる。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
一週間の強制禁欲生活でやる気ゼロ。目的のために橘を救済するつもりでいるが、今の所それ以外に動く気はない。
・茶柱佐枝
試験の説明をした。目に見えて清隆のやる気がないので少し心配している。
・平田洋介
Cクラスの小グループリーダーとして頑張るつもりでいる┌(^o^┐)┐
・須藤健
今回は平田のサポートに回った。
・池
女子と一週間会えなくて寂しい。地味に、清隆と同じことを考えている。
・龍園翔
原作と違ってバリバリ現役。何かしらを企んでいる。
・時任
清隆と同じ小グループになった。今回の試験では特に命令を受けていないため、問題がなければ清隆の指示に従うつもりでいる。
・神崎隆二
Dクラス、特に龍園を強く警戒している。Dクラスと協力する気はなし。
・葛城康平
原作通りにクラスで浮き始めている。
・的場
今回のAクラスのまとめ役。当初は葛城派だったが、坂柳派に寝返った裏切り者。