ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯065 『終わりの始まり』

 次の日。朝6時になると、室内に軽快なBGMが流れてきた。おそらくは、起床を知らせるアラームなのだろうが、こういうのは眠いと耳障りに聞こえる。

 

 しかし、特別試験である以上、惰眠を貪っている訳にもいかない。他の面々が「うるせぇなぁ」、「まだねみぃ」と文句を漏らす中、オレも仕方なく体を起こした。

 

「清隆、全員を起こした方がいい」

「ああ、わかっている。一人でも欠けていたら減点になる可能性があるからな。おい、退学になりたくなければ起きろ」

 

 啓誠の忠告に従って、全員を叩き起こしていく。明人は普段部活があるおかげか、特に起きるのに苦労していなかった。

 

 Cクラスのメンバーや戸塚も、朝早いことに文句は言っていても素直に着替えて準備を始めている。原作のように揉め事がない分、このグループはまだマシな方だな。

 

「全員いるな? 今から指示された教室に移動するぞ」

 

 全員の準備ができたのを確認すると、指定された教室へと歩いていく。既に先輩たちは先に来ているようで、南雲を始めとした2年生、3年生も既に集まっていた。

 

 1年である以上、上級生へ挨拶しないというのは波風を立てる。軽く頭を下げて、2年、3年に朝の挨拶をすると、程なくして教室に教師が入って着席を促してきた。

 

「3年Bクラス担任の小野寺だ。これより、点呼を行った後、外に出て指定された区画の清掃を行い、その後は校舎の清掃となっている。これは毎朝の日課だ。雨天の場合は、外での清掃は免除するが、代わりに校舎の清掃に倍の時間を使う。また、今日からの授業には教師以外にも、様々な課題を担当する方も来ているので接し方に気を付けるように」

 

 と、説明を受けて清掃を行っていく。

 

 手を抜けば当然減点である以上、しっかり行わなくてはならないが、小学校や中学校のお遊び掃除と違って、まじめに行う清掃というのはかなり体力を使うものだった。

 

 朝の掃除だけでも、体力の少ない啓誠が息を切らせているが、体育祭で多少は体力がついていたおかげか、すぐに呼吸を整えている。

 

 そのまま清掃が終了すると、早速授業ということで、道場のような場所に連れていかれた。どうやら、他グループの一部とも合同で課題を行うようで、博士がいるもう一つの数合わせ小グループの姿も見える。

 

「今日から、ここで朝と夕方に座禅を行って貰う」

「座禅なんて、人生で初めてでござるなぁ」

 

 と、博士が何気なく感想を口にすると、この座禅を担当する男性が近づいていく。

 

 原作通り、モラルやマナーを学ぶ場ということで、個性を出すための行動は禁止するのだろう。

 実際、初対面で博士のようなキャラクター口調で話しかけられれば反応に困る。入学してしばらくはうちのクラスでも奇特な目で見られていたのは間違いではない。

 

「いいか、よく聞くように。自分という存在を認めてもらうため、自分自身が特別だと示すため、相手のことを考えない態度や言葉を使う人間は少なくない。別に個性を出すのは悪いことではないが、社会に出る以上は相手を思いやる気持ちを忘れてはならない。ここではそう言ったメンタルに影響を及ぼす授業を行う」

 

 それが座禅。言葉、動作を止めることで一体化し、集団に解け込んでいく。相手に配慮を示し、最後に自分がどんな人間か、どんなことが出来るかを考える――らしいが、正直よくわからなかった。

 

 しかし、注意された博士は「気を付けないと」と、自分を律している。ござる口調一つでマイナスを作りたくないのだろう。

 とはいえ、博士からござる口調を取ったら、もはやモブと変わらない気もする。没個性だ。

 

 と、注意が終わった所で、グループは各自座らされ、この部屋での簡単な説明を受ける。

 

 この座禅堂と呼ばれる場所では、歩く時だけでなく立っている時にも、左右どちらかで握りこぶしを作り、それを反対の手で包む。そして、それをみぞおちの高さにもっていって固定する――所謂、叉手と呼ばれる姿勢をしなければならないということだった。

 

 また、改めて座禅の説明も受ける。

 

 座禅とは瞑想の一つに過ぎず、頭を空っぽにするのではなく、悟りのイメージをする必要があるらしい。

 何をどうイメージしろと――と、言いたくなったが、悟りに至る道筋を牛の10枚のイラストで表現した十牛図というものがあり、それを見て悟りのイメージをしろと言われた。

 

 原作では知っていたが、こうして実際に経験するのは初めてなので少し楽しいかもしれない。

 

「胡坐を組んだ後、それぞれの足を太ももの上に置いてもらう。試験では、この結跏趺坐も結果に影響するので極力できるようになっておくように。最初からできない場合には、片足だけで組む半跏趺坐もあるからそちらをやってみると良い」

 

 そう言われたが、両足で組む結跏趺坐の方がポイントが高いのだろう。オレは特に問題なく組めたので、そのまま結跏趺坐を組んで周りの様子を見ていく。

 

 そんなに難しいことではないと思うが、意外と出来ていない生徒は多かった。

 

「苦戦している奴が多いな」

 

 オレと同じく、結跏趺坐が出来た組である時任が小声でそう話しかけてくる。少し優越感を感じているようにも見えた。

 

「まぁ、やっていくうちに慣れるだろう。最終試験で出来れば、今は出来ていなくても問題ない」

「確かにな」

 

 ふむ、どうやら時任としては、オレをどうこうしようという思惑はなさそうに見える。

 こいつは原作でも龍園のやり方に反発してはいるが、こいつ自身、自分の器が大きくないのは自覚しているからか、無理にクラスを率いようとはしていない。いい意味で自分の分というものをわかっているタイプの人間だ。

 

 こういうタイプは、無駄にプライドを傷つけてやらずに上手く手のひらで転がせばいい結果を出してくれる。「お前はそのまま結果を出してくれ」と、誉め言葉を残すと、強面の時任も少し嬉しそうな表情を見せた。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 朝の清掃と座禅を終え、朝の7時になると朝食の時間となる。朝食は、夕食に使用した食堂ではなく、外の食事スペースで各自作って食べるらしい。

 今日は初回ということで、学校側が用意してくれたが、明日からは自分たちで用意しろと言われ、料理などしたことがない奴らはどうすればいいのかわからずに困っている。

 

 おまけに食事の内容はシンプルで、一汁三菜を基本とした内容であり、食欲旺盛な高校生にしてみれば少し物足りない。一応、ご飯のお代わりは自由ということなので、それで腹を膨らませるしかないだろう。

 

「無人島を経験していて良かった。アレに比べたら、俺はこっちの方が良い」

 

 啓誠的には満足できる内容のようで、笑顔で食事を進めていく。そういえば、啓誠は前にどこかで、無人島試験の後に調子を崩して、それからは健康志向に目覚めたと言っていたような気がする――いや、原作知識か?

 

「平等にやるなら、各学年が1回毎に交代ということでどうだ?」

 

 食事の最中、3年生の責任者らしき男が、南雲に向けて朝食をローテーションする提案をしている。

 

「そうッスね。こっちは異存ありませんよ。1年からってことでお願いします」

「どうだ、1年。異論あるか?」

 

 異論はない。残りの期間、朝食を作る回数は6回。作る順番が違うだけで、全学年2回ずつ回る以上、早いか遅いかの違いでしかないのだ。ここで反発するよりも受けてしまった方がお互いのためだろう。

 

「問題ありません」

 

 と、オレが返事をすると、他の一年は嫌そうな顔を浮かべた。

 

「飯を作るってことは、明日は何時に起きるんだ?」

「……余裕をもって2時間は早く起きたい所だ」

 

 明人の質問に、啓誠がそう答える。今日は6時に起きた。2時間早くということは4時には起きて活動しなければならない。Dクラスの生徒が流石に嫌そうな表情を浮かべる。

 

「先輩たちもやるんだ。オレたちだけやらない訳にはいかない。明日、飯を食べたい奴は早起きしてくれ。起きなかった奴の分を作るつもりはない」

 

 と、オレが無慈悲に告げると、渋々といった様子で受け入れていた。流石に朝飯抜きは嫌だろう。

 

「この中で、食事を作れる人間はどれくらいいる?」

 

 そう質問すると、手を挙げたのはオレ、啓誠、明人の他に、時任を始めとしたDクラスの数人と戸塚だった。半数近くが作れるのであれば、そこまで大きな問題はないはずだ。

 

 嫌そうにはしているが反抗する様子はないし、思った以上に纏めやすいグループなのは間違いない――と、思いながら、朝食を食べ終えると、本格的な授業に移っていく。大グループ全てが、普段使っている教室よりも少し広い教室に集められた。

 

 午前は座学をメインに行っていくようで、普段と違う道徳の授業を受けて過ごしていく。

 Dクラスはやはり勉学はからっきしのようで難しそうな顔をして授業を受けている。対するCクラスは啓誠や明人が余裕の表情を見せていた。

 

 昼食を食べると、午後は体育をメインに授業をするようで、主に持久走を行い、最終日には駅伝を行う予定らしい。

 

 体育祭の練習で少しは体力がついた啓誠だったが、ペーパーシャッフルの期間で少しサボったこともあり持久力は落ちている。前は2キロ走っても話す余裕があったが、今では肩で呼吸をしていた。

 逆にDクラスは体を使う授業の方が得意と言わんばかりに駆け回っている。啓誠もこれを機に、失った体力を取り戻すと言っていてやる気が入っていた。

 

 その後は『社会性』を身に着ける授業を行い、最後の授業である座禅を行って、今日の授業は終了となる。

 

 改めて一日を振り返ってみると、初めてだからまだいろいろ楽しめたが、これが毎日続くのであれば、やはり苦痛というべきだろう。

 

 流石に昨日の今日で雪に甘えるのは情けないし、食堂でするのはリスクが高いのでやる気もないが、やはりどうにかしてストレス発散のための隙を探す必要はあるかもしれない。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 夕食の時間。昨日と同じくセフレたちと合流し、一日の感想を聞いていくと、どうもオレの予想通りに事は進んでいるらしい。

 と、なると、助ける対象が増える可能性がある――が、そちらは別にオレが手を出してまで助ける必要性がある人間ではないのでスルーでもいいだろう。

 

 と、考えながら食事を終え、一足先に部屋に戻ろうとすると、廊下でトラブルがあったようで、数人の男女が集まっているのが見えた。

 

「悪い悪い。大丈夫か?」

「ええ……心配いりません」

 

 ――その声を聴いて全てを察する。

 

 どうやら、原作通りに山内が坂柳を突き飛ばして転ばせたらしい。山内が申し訳なさそうに手を伸ばすが、坂柳はその手を取らずに自分で起き上がろうとしている。

 

 意地でも山内の手など取りたくないという気持ちが全身からあふれ出していた。

 

「心配するのが普通だろう」

 

 自力で立つのも難しい坂柳をお姫様抱っこで抱き上げていく。「ちょっ、綾小路くん!?」と驚いた様子を見せるが、このまま周囲に起き上がるのを見守られるよりも、オレに抱き上げて貰った方が注目度的にはマシなはずだ。

 

「保健室に行くぞ」

「いえ、そこまでしてもらう必要は……わかりました。お願いします」

 

 恥ずかしそうに顔を伏せるが、オレが有無を言わせない表情をすると、坂柳もすぐに白旗を上げた。文句を言っても無駄だと思ったのだろう。

 

「えっと、じゃあ行くけど?」

「ええ、どうぞ。お気になさらず」

 

 山内がこちらを探るようにそう言うと、オレもまた坂柳を連れて歩き出す。すると、後ろから山内の声が聞こえてきた。

 

「いやさ、坂柳ちゃんって可愛いけどさ、どんくさいよな」

 

 終わったな――この時点で、山内春樹の退学は決定した。仮にクラス内投票がなかったとしても、坂柳はどこかで必ず山内を退学にしてくる。

 

「済まないな。後で山内には言っておく」

「彼も意図的ではなかったわけですし、たかが一度転ばされただけです」

 

 そう薄く笑う坂柳だが、目が笑っていなかった。さらば、山内。お前のことは忘れるまで忘れない。たぶん、きっと、めいびー。

 

「そうだ、丁度いいので綾小路くんと少しお話がしたいのですが……」

 

 保健室に向かって歩いていると、坂柳がそう声を上げた。もうお姫様抱っこには慣れたようで特に恥ずかしそうにもしてない。

 

「別に構わない」

「この試験で、暗躍している人がいるのはご存じですか?」

「南雲と龍園だな」

「ご存じでしたか。流石ですね」

「南雲の存在は、この試験の説明を受けた段階で気づいた。龍園の方は、女子のグループ分けを聞いた瞬間に気づいたよ」

「私も詳しくは存じ上げませんが、説明やグループ分け時に不審を感じました」

 

 どうやら、今回坂柳は嚙んでいないらしいが、不審な素振りには気づいたようだ。後は、誰がどう動いているのかを推測すれば、後ろに誰がいるかを予想するのはそう難しいことではない。

 

「成程、だから合流させたのか……」

「はい。パワープレイを防ぐにはそれが確実ですしね。Cクラスを罠にハメた所で、あなたはすぐに気づくでしょうし、私まで容疑者に入りかねません。なら、ここは確実な利益を取る方が無難だと判断しました」

「で、自分は関わっていないと釈明して、お前はどうするつもりだ?」

「ご褒美を頂けたらと思いまして」

「ご褒美?」

「今回、私はあなたにつきました。ですが、やろうと思えば、龍園くんの側について、あなたをハメることも出来ました。あなたなら対処できるでしょうが、余計な手間がかかるのも事実。その手間を防いだ報酬を頂けると嬉しいです」

 

 ふむ、確かに手間が省けたのは事実か。なら、ここで確約してしまおう。

 

「次にあるであろう学年末の最後の試験で、お前と勝負してやる」

「素晴らしいご褒美です。やはり、あなたについて正解でした」

「よく言う。どうせ、オレがお前と勝負すると言わない限り、ごねるつもりだったんだろう?」

「フフフ、いい加減。遊ぶのにも飽きてきましたからね。そろそろあなたを全力で叩きたいと思っただけですよ」

 

 坂柳がそう笑みを浮かべると、保健室に着いた。中には誰もいないということで、坂柳をベッドに寝かせていく。

 

「後は自分で何とかできます。帰って貰って構いませんよ」

「そう言うな」

 

 と、言いながらカーテンを閉める。

 

 せっかく誰もいないのだ。少しくらい楽しんでも罰は当たらないだろう。

 

「……まさか、ここでするつもりですか?」

「何、ちょっと遊ぶだけだ。心配しなくても、誰かが来たらすぐに終わらせるさ」

 

 動けない坂柳に拒否権はない。

 

 そのまま、坂柳の下のジャージを脱がせて体をまさぐっていく。「んっ、くっ……」と、我慢する声を聞いて、昨日から我慢をしているTレックスが即座に戦闘態勢に入った。

 

「……んっ、この試験っ、思ったよりも……んくっ、あなたには、つらい試験のようです、ね……あっ、く……っ」

 

 坂柳がジャージの上から臨戦態勢になったTレックスを見ながら、そう嘲り笑うが、既にこいつの下着もびしょ濡れでスケスケになっている。この状況で、よくマウントを取ろうと思えるものだと思わず感心してしまった。

 

 二度の戦いを得て、既に坂柳の弱点は熟知しており、食事の後ということで尿意も早く、既に足をすり合わせている。

 

 我慢できないと訴える坂柳を足から支えて、窓から第三回おしがま選手権を開催することにした。

 もし、誰かいたら確実にアウトだが、運よく外には誰もいないようで、坂柳も即座に自身の黄金水を地面へ向けて解放していく。

 

 どうやら、誰かに見られるかもしれないという状況に興奮したのか、坂柳は触ってもいないのに限界を迎えているようだった。おしがま癖がついた変態を生み出してしまったが、それはきっとオレのせいではないと信じたい。

 

 その後、すぐに保健の先生が帰ってきてしまったため、オレはTレックスに我慢をさせたまま部屋に戻ることになってしまった。

 勿論、最後までするつもりはなかったが、奉仕くらいは頼むつもりだった――遊びすぎて微妙に、お預けをくらってしまったな。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・石崎や高円寺がいないので、グループが比較的落ち着いている。
 逆に問題がなさ過ぎて退屈するレベル。

・山内に転ばされた坂柳を助けた。
 山内はもう退学という運命が決定付けられた。もうこれに抗うことは出来ない――

・第三回おしがま選手権を開催した。
 三連覇している。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 無難にグループを纏めている。山内が終わる瞬間を見てしまったついでに、坂柳と遊んでいたが、遊びすぎて自分がスッキリするのを忘れた。

・坂柳有栖
 山内に転ばされた。おまけに、馬鹿にもされ、いずれどこかで退学させる決意をする。動けない所を、清隆に翻弄されて三連覇を果たした。

・三宅明人
 清隆のサポートとしてグループを纏めているが、Dクラスが意外と大人しいので拍子抜けしている。

・幸村輝彦
 清隆のサポートとしてグループを纏めている。頭脳的なことは大体こいつの担当。

・山内
 バイバイ(@^^)/~~~

・時任
 グループを指揮する清隆を見て、文句なくリーダーとして受け入れている。

・南雲雅
 今はまだ特に何もしていない。


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