坂柳と遊んでからしばらくして、消灯時間の午後22時まで残り1時間となると、各々が雑談をしているオレたちの部屋に客人がやってきた。
部屋をノックされ、こんな時間に誰だろうと全員が首を傾げている。どうやら、誰も思い当たる節はないようで、ドアを開けると同じ大グループの上級生――二年の南雲や桐山、三年生の津野田、石倉という生徒たちが並んで立っているのが見えた。
「まだ起きてたか」
「南雲副会長、何か御用ですか?」
「同じ大グループとして様子を見に来たのさ。悪いが、入ってもいいか?」
余程のことがなければ、わざわざ上級生を追い返す人間はいないだろう。オレとしても別段問題ないので先輩たちを部屋の中へ迎え入れていく。
どうやら、部屋の中は特に変わらないらしく、室内の様子を見ながら、「部屋の作りは先輩たちと同じようですね」と、南雲が感想を口にしていた。
「さて、わざわざ来たのは他でもない。普段、上級生と絡む機会もない一年と交流を深めようと思ってな」
南雲がそう言うと、他の上級生も頷いている。逆に一年生は「交流、ですか?」と首を傾げていた。
「言っただろ、同じ大グループとして様子を見に来たって。この学校にはテレビもパソコンも携帯もない。娯楽らしい娯楽は殆どないが、それでも全く遊ぶものがない訳じゃない」
娯楽と言いながら、南雲がジャージのポケットから、小さな箱を取り出す。
「トランプ、ですか?」
「携帯ゲームがブームになっている今、レトロ感はあるかもしれないが、それでもこういう合宿じゃ定番中の定番だろう」
そう言って、南雲が腰を下ろして未開封と思わしきトランプの箱を開封していった。
「先輩方もどうぞ座ってください。一年は悪いけど、スペースがないからベッドにでもいてくれ」
「はぁ、わかりました……」
他の上級生が座れるスペースを作るために、一年が各々のベッドに戻っていく。オレも近くのベッドに座って様子を見ることにした。
「これからゲームをしていくわけだが、ただトランプをするだけってのも味気ない。そこでどうだろう、朝に食事当番を決めたろ? あれをなかったことにして、この賭けで決めるというのはどうだ?」
「おいおい、ちょっと待て南雲。もし連敗すれば最悪全部の朝食を作る可能性だってある。グループで話し合いもせずに決めていいことじゃないだろう」
「いいじゃないですか、石倉先輩。たかが朝食当番ですよ。これくらいの融通は利かせてくれてもいいと思いますけど?」
南雲がそう訴えると、三年の石倉は「わかった」と言って、すぐに矛を下ろす。おそらく、昨日の3年Aクラスとのやり取りを見て、あまり南雲の不興を買いたくない――と、いう風に見せたいのだろう。
「一年はどうだ?」
当然、一年に反対意見などあるはずがなく、南雲の言葉に全員が頷いている。どうやら各学年2人ずつでやるつもりのようで、「んじゃ、一年も二人来てくれ」と呼び掛けてきた。
「ルールはシンプルにババ抜き。最後にジョーカーを掴んでいたやつが負けだ。参加する生徒の交代は自由だが、ゲーム中の交代はやめてくれ」
そう言って、南雲がカードをシャッフルし始める。だが、まだ一年が誰も出てきていない。視線を向けると、誰もかれも委縮している。
仕方ないのでオレが出た。それを見て、渋々と言った様子で啓誠もベッドから降りてくる。オレを一人には出来ないと思ったのだろう。仲間思いのいいやつである。
「黙ってゲームをしても面白くないからな。適当に雑談しながらやろう。一回目は俺が配るが、二回目以降は負けたやつがカードを集めて配っていく」
効率的なルールだ。特に異論はないので全員が頷いた。どうも、南雲は体育祭でやられたオレに興味があるのか、事あるごとに意味深な視線を向けてくる。
「ゲームに参加していない一年は、適当に過ごしてくれていい。いつまでも先輩相手に緊張していたら明日に影響するからな」
とはいえ、それで先輩を無視できるほど心臓は太くないようで、変わらずこちらの様子を見ている。これが龍園や高円寺だったら、真っ先に自由行動を取っていただろう。
そんなこんなでババ抜きがスタートしていく。
こればかりは運――と、言いたいが、原作知識で南雲がジョーカーに傷をつけているのは知っている。オレだけなら勝つのは容易だが、オレだけが勝っても啓誠が勝てなければ一年の勝利にはならない。
「どうだ、綾小路。自信のほどは?」
「こればかりは運なのでどうにも出来ませんよ」
「俺はこれでもお前に少し期待してるんだ。体育祭で、俺や堀北先輩を倒したのは偶然じゃないというのを見せてくれ」
仮にオレの足の速さが偶然じゃないにしても、それをトランプで証明するなどおかしな話だ。
結局、南雲はオレにどれだけの能力があるのか、図りたいのだろう――と、考えていると、自然と三年の先輩と視線が交わった。地味に、この人とは初対面ではない。
「そういえば、お前とは前に一度会ったな。綾小路」
「ええ、その節はお世話になりました石倉先輩」
須藤の冤罪事件の折、バスケットボール部に話を聞きに行った時に対応してくれたのが石倉だった。バスケ部キャプテン――いや、引退しているから元キャプテンというべきか。
「あの時、お前の運動能力の高さがわかっていれば、俺もお前をバスケ部に誘ったんだがな」
「いや、バスケは殆ど初心者なんで、オレが入部しても迷惑をかけていただけですよ」
「そうか? お前くらいの能力があれば、すぐにでもレギュラーになれそうなものだけどな。歴代初DクラスからCクラスに上がったというのは伊達ではないだろう」
「クラスが上がったのも、オレじゃなくてクラス全員が努力した結果ですから」
と、会話していると、オレの手にジョーカーが入ってきた。丁度いいので、不自然に見えないように、南雲がつけたであろうマーキングを確認していく。
一見だとわかりづらいが、場所さえわかってしまえば誰にでもわかる。まさか、上級生がイカサマなど仕掛けてこないであろうという心理的盲点を突いてきた訳だ。
「あがりだ」
石倉が手札を全部場に出すと、続けて二年の桐山、南雲と続けて上がっていく。ジョーカーがオレの手にある限り、もう一年の勝ちはほぼないだろう。
4番手で啓誠が抜けると、三年の津野田とオレの一対一となる。オレの手札は2枚で、津野田は1枚――勝ちに行くのであれば、ジョーカー以外のカードにも似たようなマーキングをつけて津野田を惑わせるという手もあるが、ここで三年の不興を買ってもいいことはない。
「よし、これで終わりだ」
津野田が当たりのカードを引いていくのを素直に見送り、一回戦は1年生の敗北に終わった。オレが最下位だったので、カードを集めて配り直していく。
とはいえ、ハンデ付きで4VS2をやっているようなものだ。この状況で1年が勝つには、余程の運か、イカサマを見抜く以外にない。が、素直な性格をしている啓誠にそれを求めるのは酷というものだろう。
結局、二回戦も最後までオレの手にジョーカーが残り、再びカードをシャッフルしていく。
「そういえば、綾小路……生徒会長の椿雪がお前の彼女だっていうのは本当なのか?」
オレがカードを配っていると、南雲がそう探りを入れてきた。しかし、その手の質問はもう飽き飽きだ。
「雪は幼馴染ですよ、南雲先輩。先輩でいう朝比奈先輩みたいなものです」
「何だ、なずなと知り合いなのか?」
「前に話しかけられました。雅が調子に乗ってるから倒しちゃってよーって、言ってましたよ」
「ハハハ、なずならしい。丁度いい、俺を倒してみてくれ」
「さっきも言いましたけど、ババ抜きばかりは運なので」
と、思っていたが、予想外に運が良かったようで今回は一番に上がってしまった。続いて石倉、桐山と上がっていく。啓誠も今回はジョーカーを引かなかったようで4番手で上がり一年が初勝利を決めた。
「やるじゃないか」
「偶然ですが、ありがとうございます」
勝てと言われた所で勝ってしまうのは目立つので嫌だったのだが運では仕方ない。結局、南雲は先輩の顔を立てたのか、ここは最下位を引き受けていた。
「そういえば知っているか綾小路。椿雪は生徒会長をしているが、その裏には彼女に指示を出している真の生徒会長がいるっていう話だ」
最下位になったことで南雲がカードを配りながら、今度は先程よりも深く探りを入れてきた。しかし、南雲が本来知りえるはずのない情報だ。朝比奈辺りから漏れたか?
いや、朝比奈には、オレのことは秘密にしておくように頼んだ。ああ見えて、朝比奈は義理堅い性格をしている。秘密と言った以上、オレのことを南雲に話すことないはず――と、すると、坂柳か龍園辺りか?
坂柳は今回スルーするとは言っていたが、完全に関与していないとも言っていない。情報だけ流した可能性はなくはなかった。
「真の、生徒会長……ですか?」
「ああ。知らないか? 一年の間で噂になっているという話だが?」
しかし、凄いネーミングセンスだ。
啓誠に視線を向けると首を横に振っている。後ろに振り返ると、時任を始めとしたDクラスや戸塚も、知らないと首を横に振っていた。
「すみません、ちょっと聞いたことはないですね」
「そうか、お前じゃないかって少し期待したんだけどな」
「オレにそれだけの能力があれば、素直に生徒会員になってますよ」
「そうか? 堀北先輩の勧誘を断ったって聞いたけどな?」
「あの時はDクラスの現状を立て直すのに必死だったんで……何せ、うちは80CPしかなかったですし」
「それが、今ではCクラスか」
「って言っても僅差ですけどね」
実際、この混合合宿の結果次第では、またDクラス落ちすることも十分あり得る――と、考えていると、オレと啓誠以外の4人が上がっていた。
「残ったのは1年二人か、決着はつけなくてもいいだろう」
ここで幸村が「誰か交代してくれないか?」と声を上げる。オレももう飽きてきたので出来れば交代したいが、反応したのは明人だけだった。
「啓誠、俺が変わる」
「悪いな、明人」
「清隆も変わってやりたいが、俺の体は一つしかない。諦めてくれ」
この負けムードの中、交代したいという奇特な人物は仲間以外にはいないようで、オレはこのまま続行となる。
しかし、啓誠と明人が変わったことで流れが変わったのか、3回戦のようにジョーカーを引くことなく、1年がワンツーフィニッシュで上がりを決めていく。結局、残ったのは3年の2人ということで初めて3年に土をかけた。
「次で最終ゲームだな」
「配るぞ」
石倉がカードを配っていく中、南雲がまたもオレに視線を向けてくる。どうも、原作以上に興味を持たれてしまっているらしい。
「一年としては、出来れば負けたくない場面だよな。最終ゲームの結果、どうなると見ている?」
「どうもこうも、ババ抜きは運ゲーですよ」
「本当にそうか?」
「それ以外あります?」
「それを決めるのは俺じゃない」
そう言って、南雲がカードを引いていく。今回、ジョーカーは配られた段階で、オレの手元に来ていた。こいつをどうにかしないと一年の勝ちはない――が、別にどうしても勝ちたいという訳でもなかった。最悪は朝当番を4回やればいい話だ。
「悪いな一年、先に上がりだ」
「俺もだ」
一番手に上がったのは三年の津野田。続いて二年の桐山――そこからしばらくして、明人が上がり、残るは各学年一人ずつとなる。
「綾小路、楽しくないか?」
「まぁ、負けが多いですからね」
「その手元のジョーカーをどうにかしないと勝ち目はないからな」
まるでジョーカーの位置がわかっていると言いたげな物言いだ。オレが気づいているか探っているのだろう。
「そういう南雲、お前も最下位候補だけどな」
と、言いながら、石倉が上がり、オレと南雲の一対一の状況が出来上がった。南雲の手札は1枚、オレは2枚で、南雲がオレからカードを引いていく番となる。
原作では南雲はオレの様子を確認するために勝ちを譲ってくれていたが、この世界ではオレは頭からババ抜きに参加しているため、様子見をやめて勝ちに行くパターンもあり得た。
ふと、後ろを見ると、一年たちが勝ってくれと言いたげな目でこちらを見ている。彼らにしてみれば、6回の朝当番中、4回も担当になるのは嫌なのだろう。声には出ていないが、視線がオレのことを応援していた。
「……どうした、綾小路? 顔つきが少し変わったか?」
負けようかと思っていたが気が変わった――もうここまで疑われているのだ。疑う材料が増えようと増えまいと変わらないだろう。なら、グループの安定を取るべきだ。
「そうですね。少しやる気になりました」
と、言いながら、南雲の視線がカードに向いていない隙をついて、もう一枚にジョーカーと同じ傷をつける。そして、南雲に見えるようにカードを目の前に突き出していく。
「どうぞ」
「……やっぱ、気づいてやがったな」
「何のことですか?」
二枚のカードに同じマーキングをしたことで、南雲もどちらがジョーカーで、どちらが本物かがわからなくなった。しかし、ここでネタ晴らしすれば、今までの勝利に難癖がつく以上、南雲も詳しいことを説明するわけにはいかない。
だが、オレがマーキングしたことで先輩たちには動揺が走った。やれやれ、これではイカサマをしていましたと白状しているものだ。
「面白い、その二択。勝ち切ってやる!」
そう言って南雲がカードを引いていく。掴んだのは――ジョーカーだった。
「チッ、外したか。よかったな綾小路。お前にも活路が出来たぞ」
そう言いながら、南雲もまた自身のカードに素早くマーキングを施す。これで状況は五分――と、思っているのなら甘い。
「では、これで上がりです」
サクッとジョーカーの隣を引いて終わりにした。このジョーカーには、南雲がつけた傷とは別の傷が下の方につけてある。
南雲が引いたときは、もう一枚のカードで隠していたので気づくことはなかったかもしれないが、南雲は普通にカードを持っていたため、オレから見るとマーキングが丸見えだった。
南雲はオレがもう一つのカードにマーキングをしたことに気を取られ、ジョーカーに別のマーキングをした可能性を見落としたのだ。
しかし、それも仕方ない。南雲にしてみれば、ジョーカーを引いた段階で、手札の残り一枚にマーキングを仕込まなくてはいけなくなっていた。ジョーカーに細工がしてあるか確認する余裕などない。
「負けたな。南雲」
「……そうですね。でも、元々2回は朝当番だったわけですし、構いませんよ。それに、見たいものも見れました」
そう言って、南雲はオレに向けて好戦的な笑みを向けてきた。ジョーカーに仕掛けた二段階の仕込みに気づいたのだろう。
対する一年は、オレが何とか朝当番の回数を3回に抑えたことで称賛の声が飛んでくる。あの状況から二連勝を決めたことで、少しはこのグループの連中もオレを認めようと思ってくれたらしい。
とはいえ、当番が1回多くなったことに変わりはないが、それを責めようとする人物はこのグループには存在しなかった。
◇◆
早朝の当番は一年からやるということになったので、今日から三回も朝飯を作っていかなくてはならなくなった。朝早くということで、眠そうな顔をしている我がグループだが、前と同じく朝の早さや眠気に文句を言うことはあっても作業はしっかり行っている。
原作では死ぬほど揉めていたが、昨日の一件もあって、オレも少しは認められたのだろう。実際、昨日まではDクラスの生徒間でもぽつぽつとしかなかった会話が広がって、オレや啓誠、明人や戸塚にも話しかけてくる姿が増えてきた。
特に、時任は良くオレに話しかけてくる。
一見は怖い顔の男子だが、話してみるとなかなかいい奴だ。だからこそ、龍園が独裁政治を敷いていることに納得できないのかもしれない。
そんなこんなで、何とか朝飯当番を乗り越えた午前の3時間目――道徳の勉強をしている時のことだ。窓から外を覗いていると、女子のグループが活動しているのが目に入ってきた。
オレが関係を持っている女子は全員が同じグループに纏まっており協力しているため、まず間違いなく平均点のボーダーを割るようなことはないだろう――が、原作と違って、龍園がリーダーを続けていたり、ひよりがDクラスを裏切っていたりするので安心はできない。
「これから、お前たちには自己紹介をして貰う。だが、これは単なる自己紹介ではなく、授業の一環であることを覚えていてほしい。これから毎日、お前たちにはスピーチをして貰うことになる。学年毎にテーマは違うが、判断基準は『声量』、『姿勢』、『内容』、『伝え方』の4つとなっている」
と、考えていると、教師からそんな言葉が発せられた。原作でもあったスピーチのくだりだ。
これは最終日の試験の一つであり、一人一人がスピーチを披露しなければいけないという、コミュニケーションを苦手とする生徒には地獄のような試験となっている。
一年生のスピーチテーマは、この一年を通じて学校で何を学び、これから何を学んでいきたいかというものだった。二年や三年は、進路や就職などの将来に関する内容を含んだテーマだったらしい。
「うげぇ、やりたくねぇ」
「人に見られながらスピーチとか最悪じゃん」
他のグループもそうだが、うちのグループからも何人かが文句を口にした。しかし、教師は特に咎めてこない。結局、ちゃんとやらなければ痛い目を見るのは自分ということだろう。
そのまま、休み時間になると、2年Bクラスで現生徒会員である桐山が、オレたちの小グループに近づいてきた。南雲に反旗を翻そうとしたが、オレや雪を信じられずに南雲に付いた裏切り者――一応は繋がりを持っているが、それが生きる日が来るかは未定だ。
「もう少し、授業に対する態度を改めた方が良い」
「えっ、いや、別に騒いでないっすよ」
「先ほどもそうだが、子供のような文句は控えろ。先生方が注意してこないからといって、授業をしてくださる方への敬意を忘れて良い訳ではない。それに、評価がマイナスされる可能性だってある」
堀北兄曰く、総選挙では南雲に入れないと裏切っているのがばれるというのが向こうの言い分だったが、そもそも雪が生徒会長になれば南雲の暴走はかなり抑えられる。結局、Aクラスで卒業したいという欲が上をいったのは間違いない。
「で、でも、この特別試験は最終日に行われる試験で評価されるって言っていたじゃないですか」
「林間学校中の態度による印象点も評価の対象になる可能性があると考えることはできないのか? お前の下らない愚痴一つで、グループの評価が下がった場合、お前はどう責任を取るつもりだ?」
「そ、それは……」
「そこまでにしておいてやれ桐山」
桐山が一年に余計な指導をしていると、三年の石倉が見かねたようで助け舟を出してきた。
「あまり行き過ぎた指導は、苛めと受け取られることもある。妙な噂が広がれば困るのはお前たちの方だぞ。一年は十分に状況を理解したはずだ、そうだな?」
見事な飴と鞭だ。これに頷かない一年がいるはずもなく、全員が真剣な表情を浮かべている。実際、この学校はいじめに厳しいというのは、事ある毎に言われていた。おそらく、いじめと判断されれば退学に近い判断を下されるのは間違いない。
「お見事ですね、石倉先輩。ちゃんと状況をわかってるじゃないッスか」
最初から桐山が叱り、石倉が救済するのは決まっていたのだろうが、南雲はさも素晴らしいとばかりに石倉に話しかけた。
「Bクラスにしておくには勿体ない人ですね。そもそも、石倉先輩には運がない。先輩はAクラスに堀北学という天才がいたせいで、これまでずっとAクラスに上がることが出来なかった」
「運だと? 認めたくはないが、実力の差だ」
「いいや、俺はそうは思いませんね。3年間、Bクラスが大健闘してきたことは知っています。今の3年AクラスとBクラスのCPでの差は312。卒業間近とはいえ、肉薄していると俺は思っています」
「だったら、お前がこのグループを勝たせてくれるとでもいうのか?」
「そうッスね。石倉先輩が俺に全てを託してくれるのなら、この試験に勝つ――なんて、小さな満足ではなく、Aクラスに上がるためのお手伝いをさせて貰います。堀北先輩を排除することだって出来るかもしれませんよ?」
「残念だが、今回堀北は責任者についていない。道連れに出来るような材料をあいつが作るはずがない」
「責任者がどうとか道連れがどうとか関係ないんですよ。潰す方法はいくらでもあります」
「悪いが、お前のことは信用できない。Bクラスの命運を託すなど到底無理だ」
「それは、残念ッスね」
これも、自分と石倉は仲良くない――と、いうのを周囲にアピールするためのようだが、仮に原作知識がなかったとしても、このくさい演技を見落とすようなことはないだろう。
そもそも、生徒会総選挙の時点で3年Bクラスは南雲に買収されている。事情を知る人間からすれば、何をいまさらとしか思えない掛け合いだ。
いや、だからこそか、オレが本当に雪の裏にいると考えているのであれば、この茶番を見せてまた何か反応を探ろうとしているのかもしれない。
別に実力は隠さなくてもいいのだが、下手に南雲の反感を買うのは面倒だ。南雲個人ならどうとでもなるが、奴が他の生徒をターゲットにしてきた場合、防ぐのはとてつもなく面倒くさい。
セフレたち以外なら、特に誰が退学になろうと気にはならないが、CPが減るとAクラスに上がるという契約にも不都合が出る。ここは、どうしようもない盤面になるまでは知らんぷりをしていくのが無難だろう。
原作との変化点。
・トランプで南雲に勝利した。
最初は負けることも視野に入れたが、負けるデメリットと勝つデメリットに大差がないことから勝つことを選んだ。どの道、南雲は自分を疑っているので、ここで実力を見せても見せなくてもあまり変わらないと判断。
・マーキングについて。
原作でもマーキングとしか書かれていませんが、未開封のトランプに付けられる目印なら爪で軽い傷をつけるくらいだと判断。独自解釈ですが、それ以外に思いつかなかったので違和感があったらごめんね。
・多分、初めて女性キャラが出なかった。
だが、平田はいない。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
南雲が自分を探っていることを察した。情報筋として、本命龍園、対抗坂柳、大穴朝比奈くらいに考えている。無視しても良かったが、龍園と同じで自分が決めたら他が何を言っても諦めなさそうだったので、トランプで実力を示し食事当番の回数を減らした。
・三宅明人
途中から幸村とトランプを変わった。当然、イカサマには気付いていない。
・幸村輝彦
トランプに参加した。当然、イカサマには気付いていない。
・時任
いつの間にか、清隆を応援していた。トランプを通じて、少しずつ仲良くなってきている。清隆みたいなリーダーがクラスを纏めてくれればいいと思い始めている。
・南雲雅
陰の生徒会長なる人間、つまり清隆を探し始めている。トランプのトリックで、清隆がかなり知恵が回る人物だと理解した。
・桐山
南雲と普通につるんでいる。どの面下げてやってきたのか。
・石倉
まさかの再登場。バスケ部元キャプテン。
・津野田
モブ。