SIDE:南雲雅
全ては完璧に進んでいた。生徒会長になれなかったことで、いろいろと面倒は増えたが、雪はまだ生徒会に慣れきっていない。1年、仕事をした俺に大部分の仕事を任せざるを得ない状況だ。
そんな中で、俺は一つの特別試験を企画した。学校側もそれと気づけない巧妙な特別試験――事実、オレの企画は受け入れられ、1月に『混合合宿』が行われることになった。
生徒会を介した情報で、今年の3年の最終試験はPPの多さがモノをいう試験だということはわかっている。だからこそ、AとBの差が300程しかない今、AクラスのPPを削れるのであれば3年Bクラスは俺の提案に乗ってくるだろう。
今回の策は堀北先輩自体を狙うものではない。その隣にいる橘先輩を退学させることが目的だ。
予め、3年Bクラスに2000万を振り込んでおき、Bクラスの女子のグループを橘先輩と組ませる。その上で、適当な人間を責任者にし、わざとボーダーを下回ることで退学することで橘先輩を道連れにする。子供でもできる簡単な仕事だった。
退学者を出した場合、一人に付き-100CP。救済する場合、さらに-300CPと2000万PPが必要になる。この試験でAとBの差を詰めることは出来ないが、PPを俺が補填してやればBクラスは最終試験前に大きなリードを得ることが出来た。
これにより、3年Bクラスは完全に俺の配下となり、俺は表向き堀北先輩を挑発してこちらに注意を引き付けておくだけでいい。後は予定通りに進めれば何も問題はなかった。
しかし、ルール説明を受けてからすぐに予定が変更になる。1年Dクラスの龍園が俺に接触してきたのだ。
1年の間じゃやんちゃをしていると聞いたことはあったが、雪や綾小路ほど興味があった訳じゃない。だが、こいつは俺と同じことを企んでいた。そして、それに気づいていた。
『クク、もう一度言うぜ? あんたが誰かを退学にさせようとしていることはわかっている。俺も同じ手で一年を退学させるつもりでいる。手を貸してやるから、救済のための2000万PPを融資してくれ』
まだルール説明を受けてから30分も経っていないが、こいつはこの試験の本質を見抜いて俺に融資を申し入れに来ている。当然、その言葉の裏にあるのは、提案を飲まない場合、俺の邪魔をする――と、いう脅しだ。
「どこで嗅ぎつけやがった? 3年との接触時ですら、周りに人はいなかったはずだ」
『確かにな。あんたが何か動いているという情報は得られなかった。だが、この試験のルールを聞いてすぐにピンと来たぜ。この試験は、被害を補填できるのであれば、好きな奴を退学させることが出来るからな。PPを多く持っているお前なら、何か仕掛けていてもおかしくはないと思ったのさ』
つまり、半分はカマかけか。しかし、ほぼ確信を持っていた以上、勘だけという訳ではない。
「……いいだろう。一枚、噛ませてやる。俺は3年Aクラスの橘を退学にさせるために、3年Bクラスと組んでいる。2年も既に纏めてあるから、お前も好きに動け」
『そいつはどうも。それで、融資の件は?』
「3年に2000万を渡したから2000万は無理だ。良い所、半額の1000万が限界だな」
『1500万だ。それが無理なら、今回のことを堀北元生徒会長にチクらせて貰う』
「チッ、わかった。だが、これ以上は何もしない。お前も、試験では俺に関わるな。それが条件だ」
『わかってる。んじゃ、1500万PP、よろしく頼むぜ。南雲先輩よぉ』
予想外の出費だが、これで橘先輩を確実に退学できると考えれば悪いものではなかった。それに、龍園との繋がりも出来たのは大きい。
『そうだ。貰ってばかりだから、代わりに良い情報を教えてやるよ。生徒会長の椿雪の後ろには、奴を操っている黒幕がいる』
「黒幕……だと?」
『あんたにわかりやすく言えば、真の生徒会長って所か。そいつこそが、陰で生徒会総選挙を操って、あんたから生徒会長の座を奪った』
「馬鹿な。そんな奴がいる訳……」
『おいおい、俺は善意で話してやってるんだぜ。嘘を吐く意味なんてないだろう。まぁ、別に信じなくても構わないが、後で足を掬われても俺は知らねぇぜ』
「……誰だ? その陰にいる奴は?」
『クク、素直に教えて良いのか? あんたにも心当たりくらいあるんじゃないか?』
心当たり? そういえば、前に雪や綾小路のプロフィールを探っていた時、あの二人が幼馴染だという情報があった。まさか、雪の後ろにいる人物というのは――
『そいつだよ』
「……まだ俺は何も言ってないぞ?」
『あんたが思い浮かんだ人物が誰かくらいわかるさ。雪を操っているとすれば、そいつと近しい人間でなければならない。その中で、雪以上の能力を秘めている可能性がある人物なんて一人しかいねぇだろ』
――綾小路清隆。
いつか、雪のついでに片付けようとしていた一年――まさか、あいつが黒幕、俺が真に戦うべき相手だというのか?
『んじゃ、情報は渡した。そっちも油断してヘマしないように頼むぜ』
そう言って、龍園は電話を切る。俺は1500万PPを龍園にも送金した。それだけの情報があいつの言葉にはあった。
もし、本当に綾小路が黒幕だとしたら、あいつは俺の目から上手く隠れていたことになる。その正体を知ることが出来たヒントだ。1500万所か、2000万出しても良かった。
「フ、ハハハ……面白くなってきたな」
この合宿も、後は適当に流すだけだと思っていたが、思わぬ拾いものが出来た。綾小路、お前の実力、この試験で測らせて貰うぜ。
◇◆
SIDE:橘茜
最初は全然気づけなかった。でも、三日も過ぎればわかる。このグループにはやる気がない。どんなに頑張ろうと声をかけても、反発的な言葉しか帰ってこないし、逆に私をきつく罵ってくる。
このままではボーダーを下回るのは時間の問題――けど、私一人が頑張っても、どうにもならなかった。
もし、ボーダーを下回れば、多分責任者の猪狩さんは私を退学にしてくる。きっと、それが目的なんだ。私を退学にしてAクラスのCPをマイナスにさせようとしている。
けど、それではBクラスのCPもマイナスになる。仮に救済するとしたら、さらに-300CPと2000万PPだ。損得でいえば、損が大きい。とてもBクラスに利のある策とは思えなかった。
勘違い? いや、そんなことはない。
日にちが経つ毎に、猪狩さんたちはあからさまに私を狙い撃ちにしてくるようになった。暴言は当然、集団で見えないように囲んで責め立て、酷い時は暴力まで振るう――勿論、傷が残るようなヘマはしない。けど、見えなきゃ問題ないとばかりに、髪を引っ張られた。
一日が過ぎる度に、精神的に疲労していく。
さらには退学の危険が、私を追い詰めていた。このままではどうにもならなくなる。けど、堀北くんだって大変なんだ。ここで、私のために余計な危険を背負わせるわけにはいかない。
六日目には、もう終わりだと思った。
私が退学になっても、Aクラスは-100CPで済む。もし、堀北くんたちが1位を取ってくれさえすれば、上手く相殺することだって出来る。だから、このまま退学した方がいい――そう心が弱い方へと流れていた。
けど、そこに現れたのが綾小路くんだった。
彼は的確に私の現状を言い当て、救うことが出来ると言ってくる。私だって、別に退学したい訳ではない。もし助かるのなら――と、その救いに手を伸ばした。
けど、それは悪魔の契約だった。
気が付けば、私は初めてを奪われ、あの手この手で恥ずかしい目に合わされていた。後半は自分から求めたと言われれば、確かに首を横には振れない。あの圧倒的な快楽に溺れたのは認める。しかし、それでもあれはほぼレ〇プだった。
私にも好きな人がいる。出来れば、初めては彼に渡したかった。勿論、彼にその気はなく、私が夢を見ているだけと言われればそれまでだが、それでも無理やりに初めてを奪われて思う所がない訳ではない。
綾小路くんは、「最後まで諦めずに結果を出せ」と言って去っていった。私も帰ろうと思ったが、想像以上に痛みが酷い。まともに歩けないので、カエルのようにぴょこぴょこ跳びながら部屋へと戻っていく。
これだけの代償を支払ったのだ。
明日、もし私が退学することになったら、このことを学校側に訴えて彼も道連れにしよう。もはや、あの男の人生など気にするものかと、私はそう強く心に決めた――
◇◆
SIDE:南雲雅
一週間は予定通りに過ぎた。綾小路の実力も、この一週間である程度測り終えている。あいつが雪の裏にいる黒幕かどうかは別として、只者じゃないということは確かだった。
結果発表を聞いていく。男子の一位は堀北先輩のグループ。二位は俺――一応、俺もやれる限りの結果は出したつもりだが、もし一年を上手く統制出来ていたら一位も十分にあり得たかもしれない。想像以上に僅差だった。
だが、今回の目的はこの勝負ではない。
男子の結果はあくまでもおまけだ。本当に確認したいのは女子の結果――そして、予定通りに事は進んだ。猪狩先輩の大グループが最下位となり、橘先輩のグループと龍園が仕込んだグループが平均点を割っている。
見たかったのはこれだ。
自分の大切なものを守れず失った時、堀北先輩がどんな表情をするか――これが見たくて、これまでの信頼や約束を全て捨てて計画を練ってきた。龍園が噛み付いてきたのだけは計算外だったが、それでも全ては想定通りに進んでいる。
結局、俺の手を読める人間なんてそうはいない。龍園という想定外があったが、それでもあの堀北先輩ですら、俺の掌の上で踊るしか出来なかった。
後は、橘先輩を救済するかどうかだ。俺の考えでは五分。しかし、この調子なら、救済してもおかしくはない――と、考えていた時だ。学校側から物言いが入った。
まさか、猪狩先輩たちが橘先輩を精神的に追い詰める所を学校側に見られていたとは――失態としか言いようがない。
まさか教師が介入してくるなんて想定外もいい所だ。それも、いじめ問題として証拠まで押さえられている。これでは反論する余地などなかった。
ふと、堀北先輩と橘先輩が、どこか別の方を向いている。視線を追うと、その先には綾小路が立っていた。
まさか、こいつが裏で手を引いて、俺の策を読み切っていたというのか? いや、それ以外にあり得ない。茶柱は、確か1年Cクラスの担任だ。綾小路との関わりがあってもおかしくない。
この試験が始まる前、バスの中での電話で龍園が言っていたことを思い出す。『んじゃ、情報は渡した。そっちも油断してヘマしないように頼むぜ』――あいつは、綾小路がこちらに手を出してくる可能性すら読んでいたというのか。
事がいじめ問題となれば、追及は3年Bクラスだけでは済まない。綾小路の指示だろう。雪が表に出てきて、俺を追及してくる。
こうなれば3年Bクラスに俺を庇う理由もなくなり、当たり前のように裏切りを見せてきた。退学となれば、膨大なPPのマイナスなどどうでもいいのだろう。犯人は俺だと名指ししてきた。
逃げきれない。PPを支払った履歴を確認されれば、俺が3年Bクラスに関与していたことはすぐにばれる。
結局、俺は立場もプライドも、全てを失うことになった。生徒会長になり損ねた男から、生徒会から追放された男に代わり――半年間の停学に、AクラスはCPのマイナスも受ける。
けど、これで済ませる気はない。
俺は必ず這い上がってAクラスに復権する。そして、綾小路を必ず倒して見せる――改めて、そう誓った。
だが、この勝負によって、俺は一番大切にすべきモノを失ってしまっていたことに、この時はまだ気がついていなかった。
◇◆
SIDE:龍園翔
全ては想定通りだった。南雲が負けることも、俺がBクラスを道連れすることも。
ただ一つ想定外だったのは、南雲が想定以上に馬鹿だったことと、学校側がいじめ問題を大きく取り上げて退学対象だった橘が悲劇のヒロインになってしまったことだ。
今回の試験は、裏切り者のひよりへのけん制として、先に裏切りを見せた真鍋を切ることで動きを制限することが目的だったが、この状況で救済しないとは口が裂けても言えねぇ。
もしこの状況で、俺が真鍋を救済しなかった場合、真鍋は猪狩と同じように全てを暴露するだろう。
普通の状況なら、退学のショックで正気を失っている――と、適当に誤魔化せたかもしれないが、今の状況だと俺が裏で真鍋を操ってBクラスを退学にさせようとしたことが公になる。
そうなった場合、南雲の印象もあって、学校側も俺への疑いを強くしてくるだろう。下手に探りを入れられた場合、真鍋が何もかも暴露して、俺自身にも大きな被害が出る可能性もあった。
幸いにして、今回の試験でCPはある程度稼げている。マイナスにはなるが、この状況では真鍋を救済した方がメリットが大きい。一之瀬を焚きつけるように、俺は真鍋を救済した。
想定外ではあるが、マイナスばかりではない。一度救済されたことで、真鍋はより一層俺に感謝の気持ちを持つ――そうなれば、二度と裏切ろうなどと考えないだろう。裏切りの可能性がない駒が増えるのは、この先の戦いでは大きい。
それにBクラスのポイントが400減ったのはでかかった。まぁ、結果としてはうちも同じだが、今までは、361ポイントもあった差が、僅か76ポイント差になっている。
その分、坂柳と綾小路のクラスには差を付けられたが、まだ二年ある以上、差などいくらでも埋められる――それに、Bクラスの貯蓄である2000万PPを吐き出させたのも大きかった。
南雲の融資がある俺と違って、Bクラスは全てのPPを吐き出して何とか2000万を工面している。つまり、今の奴らは素寒貧ということだ。対するこちらは、毎月Aクラスからの支援でPPは潤っていく。これで、一之瀬クラスとはほぼ決着がついたと言って良いだろう。
次は坂柳だ。あの女を天辺から引きずり落として、綾小路との再戦を果たす――勝利のための道筋は、既にできている。後は、勝つだけだった。
SIDE12は南雲、橘、龍園。
基本的には南雲は裏でどう動いていたか、どういう経緯で龍園を手を組んだか。
橘は自分視点での混合合宿の記憶。
龍園は、今回の試験についてと、これからの考えでまとめています。