♯071 『山内退学試験』
口八丁でみーちゃんの初めてを頂いてから少しして、夜の1時に『綾小路清隆』とオレの名前を呼ぶだけという意味不明な電話がかかってきた。確か、原作通りであるならこの相手は石上京という来年入ってくる1年生だったはずだ。
思わず、「呼び捨てにするな石上」と言いそうだったが、それを言ってしまうと、石上を通じて親父殿に不審感を与えかねないので黙って電話が切れるのを待った。
原作と違って、一之瀬苛めが行われない中、それでも目まぐるしく日々は過ぎていく。
バレンタインにはセフレたちからチョコを大量に貰った。正直、糖尿病になるのを心配するレベルだが、今までの人生で女子からチョコを貰ったことがないオレにしてみれば、残すという選択肢はない。
一か月を待たずに、お礼として順番に全員の相手をしてやった。勿論、一月後にしっかりお返しをするつもりではあるが、オレのPPの余力次第では無理かもしれない。
そんなこんなで、新たにBクラスに加わった真澄やひよりが少しずつクラスに馴染み始めた2月の終わり、最後のテストである学期末試験が行われた。
結果、退学者は誰もいないということで、3月8日に最後の特別試験が行われると通達される。
だが、それで終われば苦労はなく、翌日の3月2日――遂にクラス内投票が行われることになったようで、異様な雰囲気を醸し出している茶柱が教室へと入ってきた。
「あの、何かあったんですか?」
教壇に立ち、厳しい視線をこちらに向ける茶柱に、平田が率先して声をかける。
つい、昨日までBクラスに上がって、学年末試験の成績も良かったと茶柱も笑みを浮かべていただけに、この変化は異常と言っていいだろう。
「――お前たちに、伝えなければいけないことがある」
出来れば口にしたくないという表情を浮かべながら、茶柱が重々しく口を開いた。
誰がどう見ても、嫌々話そうとしているようにしか見えないが、それだけの問題が気にならないはずがなく、誰もが黙って茶柱の言葉を待っている。
「1年度における最後の特別試験が、3月8日に始まることは昨日伝えた通りだ……しかし今年は、去年までと少し状況が異なる」
「異なる、ですか?」
不穏な空気を感じながら平田が聞き返す。
「学期末試験を越えても尚、本年度は一人も退学者が出ていない。この段階まで進み、退学者が出なかったのは、この学校の歴史上これまで一度もなかったことだ。通常、これは喜ばしいことだが、『予定と異なる』という点では、問題をはらんでいると言わざるを得ない」
学校サイドとしても、一人でも多くの生徒が卒業してほしい――それに嘘はないのだろう。
もし、この学校にオレがいなければ、こんなことにはならなかったのだろうが、疫病神と一緒になったということで諦めて貰うしかなかった。
「学校側は、お前たち1年生から退学者が出ていないことを考慮し――」
考慮し――で、言葉が止まる。
言いたくないというのは誰の目にも明らかだ。それでも絞り出すように、茶柱が言葉を口にしていく。
「その『特例措置』として、追加の特別試験を今日より、急遽執り行うことになった」
黒板に、今日の日付と追加特別試験という文字が書き記される。当然、クラスメイトたちからは文句が飛んだ。これまで必死に課題をこなしてきたのに、それが予定外だから試験を追加するというのは、明らかにこちらを馬鹿にしている。
「その特別試験をクリア出来た者だけが、3月8日の特別試験へ進むことが出来る」
「納得できないっすよ! 俺たちの時だけ追加試験をやるなんて!」
「お前たちが不満を感じるのも当然だ。予定になかった特別試験の実施――過去と比べて、一つでも多くなってしまうことは、生徒たちの負担になることは避けられない。それは、私や他の先生方も重く受け止めている」
だが、文句を言った所で試験はなくならない。茶柱が本心から申し訳なさそうにしているのは誰が見てもわかる。文句を飛ばしていた池も、渋々と言った様子で矛を下ろす。
「特別試験の内容は極めてシンプルだ。名称は『クラス内投票』。お前たちは、今日からの4日間で、クラスメイトに対して評価を付けて貰う。そして、称賛に値すると思った生徒を3名、批判に値すると思った生徒を3名選出し、土曜日の試験当日に投票する。それだけだ」
これまでのように、学力や体力などは関係ない。いかにも取ってつけたような試験だ。
「そ、それだけ? それが試験なんですか?」
「そうだ。言っただろう? 簡単な試験だと……だが、問題はここからだ。この特別試験の肝は、投票の結果集まった称賛票、批判票にある。1番多くの称賛票を集めた生徒には、特別報酬として『プロテクトポイント』が与えられる。これは、新制度の一つで退学措置を受けた時、それを無効にすることが出来る権利のことだ」
クラスメイトたち――生徒会長の雪ですら知らなかったのか、驚きの表情を浮かべている。
「このプロテクトポイントを持っていれば、テストや試験で退学措置を受けてもポイントの数だけ無効にすることが出来る。ただし、このポイントは他人に譲渡することはできない。このポイントは、実質2000万PPに等しい価値があると言っていいだろう」
だが、いい話には裏があるもので、これだけ報酬が豪華だと、下位に与えられるペナルティはかなりのものだろう。誰もが緊張した様子を見せている。
「また、今回ペナルティの対象となるのは、クラスの中でもっとも批判票を集めた1名のみとなる。この試験の課題は、『首位1名と最下位1名を選出すること』にあるからだ。今回の追加特別試験は、これまでと違って、『退学者の不在』を解消するために実施される。それ故に最下位になった生徒には退学して貰う」
「い、意味わかんないッスよ先生! もし、もし最下位になったら、退学って……マジで言ってんすか?」
「そうだ。断頭台に上がって貰うことになる。だが安心しろ、今回退学者を出したとしても、クラスそのものにペナルティが与えられることはない。そういう試験だからな」
「そんなんありかよ……」
「理不尽だと思うが、決まった以上は抗うことはできない。投票日までの時間は限られているので、ルール説明を続けさせてもらうぞ。クラス内での称賛、および批判の対象となった生徒の結果は試験終了と共に全て公開される。ただし、誰が誰に投票したかについては公開されない匿名形式だ」
匿名にしないと、退学した人間以外の今後の人間関係に亀裂が入りかねない。当然の配慮と言っていい。
「称賛の1票と批判の1票は互いに干渉しあう。仮に10人から批判票を集めようとも、30人から称賛の票を得れば、差し引き20票のプラスということだ。また、称賛批判に関係なく、自分自身に投票をすることはできない。同一人物を複数回記入することも禁止だ」
「……例えば、称賛票のみ記入するといったことは出来ますか?」
「出来ない。称賛票、批判票問わず3名全て記入して貰う。仮に体調を崩し、試験当日に学校を休んだ場合にも、投票は行って貰う」
無記入や棄権は出来ず、誰か一人が確実に退学するシステム。
「投票の結果、最下位が0人もしくは複数人だった場合、再度投票を行う。これは1位も同じだ。それでも尚、結果が出なかった場合は学校が用意した特殊な方法で優劣を決める。その方法は現段階では説明できない」
そうなった場合は、適当な理由をつけて月城はオレを退学にしてくるだろう。女関係を責められたら、いい訳も出来ないからな。予定通り、山内に退学して貰うつもりだ。
「最後に、お前たちには、自分が所属するクラス以外の3クラスから1名、称賛に値すると思った生徒1名を選出し投票して貰う。当然、それは称賛の1票としてカウントされる。万が一、クラスで嫌われていても、他クラスから好かれていれば、批判票を上回る称賛票を手に入れることも可能ということだ」
これで、追加試験の全貌は全て明らかになった。試験内容は、各自に3票ずつ与えられた称賛票、批判票を使って、クラス内で投票を行い、結果を求めていく。
ルール1
称賛票と批判票は互いに干渉しあう。称賛票-批判票=結果。
ルール2
称賛、批判問わず、自分自身に投票することは出来ない。
ルール3
同一人物を複数回記入、無記入、棄権等の行為は不可能。
ルール4
首位と最下位が決まるまで試験は行われ、最下位は退学。
ルール5
他クラスの生徒に投じるための専用の称賛票も各自1票持っており、記入は強制。
以上のルールで進行し、首位と退学者を決める。週末には、各クラスから1名『誰か』がいなくなる過酷な試験だ。
「抜け道は存在しないが救済はある。前回も話したがPPを2000万支払えば、退学を取り消すことが出来るのはいつも通りだ。今回に限り、CPのマイナスはない。PPを用意さえすれば無傷で試験を突破できる」
茶柱がそう告げるが、そんな簡単に2000万が用意できれば苦労はない。オレも持っていた4000万を使ってしまったばかりだし、大きく動くような余裕はなかった。
正直、この試験前に真澄やひよりをBクラスに移動出来てホッとしている。坂柳はともかくとして、龍園ならばこの試験を通じて当たり前のようにひよりを退学にしてきただろうからな。
「ま、待ってくださいよ。2000万ポイントなんて……」
「Bクラス全員のPPを集めても不可能だな。他のクラスから集めるか。あるいは上級生からの援助を受けるか。頑張れば決して届かない額ではない。これが学校のルールに抗うことの出来る唯一の方法だ。それ以外に手はない。後は、お前たちが判断し、決断することだ」
ホームルームが終わると同時に茶柱の話も終わった。突然の事態に、茶柱が教室を去って尚、クラスは動揺に包まれている。
「ど、どうすんだよ。マジで最悪な試験が始まるじゃんか!」
「男子うるさい!」
「何だようるさいって! お前、俺に批判票入れる気じゃないだろうな!」
「だったら何よ!」
「許さねぇ! こっちだってお前に批判票入れてやる!」
とてもBクラスとは思えない争いだ。男女関係なく、敵意を振りまき、誰もが自分の身を守ろうとしている。
そんな中、高円寺だけは特に慌てた様子も見せず、いつも通りに過ごしていた。
「醜いねぇ。ここでジタバタしてもどうにもならないだろう?」
「テメェだって余裕こいていられる立場かよ高円寺! 体育祭でクラスに迷惑かけたお前だって退学者候補の一人だろうが!」
無人島試験はともかく、体育祭で欠席した事実は取り消せない。須藤はその時のことを忘れていないと声を荒らげる。だが、それでも高円寺は余裕を崩さなかった。
「わかっていないのは君だよ、レッドヘアーくん。この試験は、これまでではなくこれからを見据えた特別試験だ」
「あ? 何言ってんだお前?」
「いいかい? この試験は文字通り特例なのさ。退学者を出したクラスは大きなペナルティを食らうのが通例だが、今回はそれが一切ない。つまり、『不要な生徒』をデリートするのに適した機会ということだよ」
「だから、それがお前だって言ってんだよ、この厄介者が!」
「いいや、それはないね。何故なら、私は優秀だからさ。筆記試験では常にクラス上位。身体能力でも私は君を凌駕している。やろうと思えば、特別試験でクラスを1位に導くことだって造作もない」
「だからなんだよ! そんなもん真面目にやらなきゃ意味ないだろうが!」
「そうだね。だから、これからは『心を入れ替える』よ。私はこの試験を境に、様々な試験でクラスに貢献し、役立てられる生徒となるつもりだ。クラスにとってそれは、大きなプラスになると思わないかい?」
これまでの高円寺の態度を見ればとても信じられたものではない。実際、須藤も「んなの、誰が信じるってんだよ!」と文句を言っている。
しかし、おそらく原作を全て通しても、ここが高円寺を縛る最後の機会だ。この男が見せた最初で最後の隙――ここを逃す手はなかった。
「では、逆に聞こう。仮に、君が私以上に役に立てると言って、それを皆は信じられるのかな? いや、彼だけじゃない。これまで役に立っていなかった生徒が、この先役に立つ保証などどこにもないだろう。しかし、私のように秘めた実力が備わっていれば、その言葉にも説得力が出るはずだ」
この男も、突然の出来事に焦っている。今はまだ自分が退学にならない方法が見えないのだろう。だからこそ、こうして命乞いに近いアピールをしている。
「高円寺、心を入れ替えるという話は本当か?」
「勿論だとも、ホームズ」
「お前がこの先2年間、うちのクラスでその実力を発揮してくれるというのなら、今回オレはお前を退学にさせないと確約してやる」
「なっ、そんなことしていいのかよ、綾小路!?」
「悪いがオレは既に覚悟を決めた。2000万PPを貯めるのが不可能な以上、誰かを退学にする必要がある。そして、高円寺がこれから本気を出すと確約するのであれば、その対象は高円寺にはならない」
須藤を言い含めていく。高円寺も「そうだろうとも」と笑みを浮かべた。
これで、このクラスのヘイトもオレに向くだろう。坂柳の策の後押しにもなるはずだし、マイナス要素は何一つとして存在しない。
「流石はホームズ。話がわかる」
「ただし、契約書は書いて貰う。契約を破った場合、自主退学。本気を出しているかどうかは、クラスメイト全員が判断する。過半数以上が本気を出していないと判断した時点で、退学になると思ってくれ」
「いいとも。ただし、この先、同じような試験が起きた場合の身の保証も確約して貰うが、構わないね?」
それでこの男が本気を出してくれるのであれば安い買い物だ。
「わかった。契約成立だな」
「待てよ、綾小路! いくら参謀だからって、お前にそんなこと決める権利はないぜ!」
「そうだな。だが、オレは別にクラスを代表して高円寺と取引した訳ではない。オレはオレ個人で高円寺と取引をした。それを妨害する権利は誰にもないはずだ」
「それは……」
池の文句も止まる。別にオレは称賛票を高円寺に入れろと言った訳ではない。文句を言うのはお門違いだとわかったのだろう。
「で、でも、どうやって高円寺を助けるんだよ」
「別に助ける必要はない。高円寺以外の人間を退学にすればいいだけの話だ」
「だ、だから、それをどうするかって!」
「それはクラスの民意で決まるだろう。高円寺の言った通り、このクラスで不要な生徒か、もしくは一番嫌われている人間か、それが誰になるかはわからない。オレの可能性だってある」
「お、お前になったらどうするんだよ」
「その時は、オレの代わりに高円寺が頑張ってくれるさ」
勿論、オレは退学するつもりはない。しかし、ここでそれを言えば、余計な反感を買いかねなかった。
もう言うことはないと席に着く。池や須藤はまだ憤っているが、後は坂柳や一之瀬、龍園と取引をして、いろいろ調節をするだけだ。
「みんな、落ち着いて。ここは冷静に話し合う必要があるんじゃないかな」
「何が冷静にだよ平田。お前はいいよな、絶対に最下位にならないんだからよ」
「なっ!? ぼ、僕だってどうなるかはわからないよ」
「聞いたかよ寛治。平田がどうなるかわかんねーって」
「いやいや、これまでクラスに貢献してきた平田様だけはセーフっしょ」
この試験では、安全圏にいる生徒の声は届かない。そういう意味ではオレもそうだが、オレの場合は今買ったヘイトがある。誰かがオレを退学させようと誘導するには十分な餌だろう。
「ストップ! とりあえず、争いはそこまで! 今ここで揉めたって、精神的に疲労するだけだよ。池くんや須藤君の言い分なら、私だってセーフなんだろうけど、それでも万が一の不安がない訳じゃない。この試験は、結託してしまえば誰だって好きに退学させられるんだから」
平田が責められている間に、桔梗に指示を飛ばしてクラスを落ち着かせた。
流石の池や須藤も、日ごろからお世話になっている桔梗に文句を言えるほど神経は図太くない様で、仕方ないといった様子で席に着く。
「櫛田さん、助かったよ」
「たいしたことしてないよ。でも、この試験は本当に大変だよ……」
一瞬、桔梗が不安そうな表情でこちらを見た。オレが高円寺を救済すると宣言したことで、クラスのヘイトがオレに向いているのが気になるのだろう。
問題はない。既に結果は見えている。
後は一之瀬がどう動いてくるかだが、大体想像はついた。あいつは今回も退学者を救済するために2000万を集めようとするだろう。だが、混合合宿で2000万を叩き出したあのクラスに2000万を集める余力はない。
最終的に、一之瀬はオレを頼ってくるはずだ。その時、一之瀬帆波という女は完全に堕ち、オレのためにしか生きられない女になる。
◇◆
連絡が来たのは夕方のことだった。一之瀬から、今日時間を作ってほしいとお願いの連絡が来る。当然、来るのはわかっていたので今日はフリーにしていた。
いつでも来ていいと返信すると、今度は桔梗から連絡が来る。携帯を確認すると、『山内くんから、綾小路くんを退学させる手伝いをしてほしいって頼まれたよ。答えは保留にしてるけど、どうすればいい?』という報告が来た。
動き出したか。
桔梗には受けるようにと返事をした。このまま、山内には調子に乗って自爆して貰う必要がある。桔梗自身の悪評が立たないレベルで手伝いをし、最後に脅されていたとクラスメイトに話せば桔梗を恨む人間もいないだろう。
最悪の場合は、オレの指示でやらせていたことにすればいい。他クラスに寝返った相手を炙り出すためだったとでもいえば、クラスメイトたちも納得するはずだ。
と、考えながら過ごしていると、一之瀬がやってきた。どうやら、今日は食事を作ってくれるようで、一之瀬が作ったハンバーグを美味しく頂きながら相談を聞いていく。
「あのさ、今回の試験についてなんだけど……誰も退学させずに終わらせる方法はないかな」
「ない。救済するには2000万PP用意するしかないだろう」
一縷の望みも断ち切られて、一之瀬が「そう、だよね」と落ち込んだ様子を見せる。
「綾小路くんのクラスはどうするの?」
「オレは既に不要な生徒を退学させることに決めた。今回の試験では特に動くつもりはない」
「そうなんだ……」
「言っておくが、お前が退学することは認めない。お前が自身の退学を視野に入れているのであれば、それは不可能だと思っていい。オレのセフレたちは全員がお前に称賛票を入れるだろう」
「えっ? や、やだな……そんなこと一言も」
「顔を見ればわかる。どれだけ抱いてきたと思ってる」
「や、約半年……です……」
一之瀬がお手上げとばかりに、乾いた笑みを浮かべた。
「はぁ……みんなには内緒にしておいてね。別に犠牲になるつもりはないから」
「ならどうする? お前のことだ、最後の最後まで諦めるつもりはないんだろ?」
「……綾小路くんは今回、救済をしないんだよね? じゃあさ、PPを貸してくれないかな?」
おそらく、これが本題だろう。申し訳なさそうに一之瀬が言葉を続ける。
「私はね、出来るだけ退学者を出させたくないんだ。けど、混合合宿で2000万PPを使ったから今のCクラスに余裕はない。全PPを集めても、良い所150万PPが限界」
混合合宿を終えて、一之瀬率いるCクラスはCPが319まで下がっていた。月に与えられるPPは31900PP、仮に1/3を貯蓄に回していたとしても2か月で80万。残り70万を回収する見込みがあるだけ凄いことだ。
「けど、これじゃ全然足りない。だから今日、上級生にPPを貸して貰えないかお願いしに行ったの。2年生は殆ど駄目だったけど、3年生の先輩が少し援助してくれて……何とか200万PPは貸して貰えた」
3年Aクラスは殆どのPPをオレが徴収し、Bクラスは停学中。CクラスとDクラスは財力的にそこまで余裕があるとは思えないが、それでも何とか口説き落としたらしい。
しかし、Bクラスの150万PPと合わせて、それでも350万PP――2000万PPには程遠かった。
「綾小路くんなら、ここから2000万貯められるかな?」
「ああ、不可能じゃない」
嘘ではない。やろうと思えば、ここからでも2000万を貯めるビジョンがオレには見えている。
「……私の全部を綾小路くんに上げるから、私を助けてくれないかな」
「全部っていうのは?」
「全部は全部だよ。この学校を卒業した後も、私は綾小路くんに一生を捧げる。奴隷になったっていい。何でも言うことを聞く」
「仮にオレが自分のクラスを裏切れと言えば?」
「……裏切るよ。ただ、全員揃って卒業したい。仮にそれがAクラス卒業じゃなかったとしても」
どうやら一之瀬は原作と違って、守りの覚悟を決めたらしい。Aクラスに固執するのではなく、誰も欠けずに卒業するという覚悟を持って、オレに契約を突き付けてきた。
「いいだろう。契約を結んでやる。ただし、オレの指示には絶対に従え。反抗した時点で、オレはお前の敵に回り、お前のクラスメイトを順番に退学させる」
「……わかった」
「残り1650万……どうにかして集めないとな」
一之瀬――いや、帆波を確実に手に入れると考えれば1650万は安い買い物だ。
「だが、1650万のうち、1000万は有償だ。クラス全体の借金として支払ってもらうぞ」
「わかった。クラスメイトが退学しなくて済むなら何でもいい」
契約は成立した。まずはセフレたちからPPを集めていく。雪、真澄、桔梗、愛里、堀北、伊吹、恵、千秋、ひより、佐藤、波瑠加、朝比奈から持っているだけのPPを徴収する。
雪が25万、真澄が10万、桔梗が15万、愛里が10万、堀北が20万、伊吹が5万、恵が5万、千秋が10万、ひよりが5万、佐藤が5万、波瑠加が10万、真鍋、藪、山下、諸藤が5万で、朝比奈が50万、橘はどうやら一之瀬に先に支援したようで持っていなかった。
残りのオレの手持ちと合わせて200万――これで残りは1450万だ。
残り450万は当てがある。
しかし、残りの1000万は、少々面倒くさい手を使わざるを得ない。それでも、他に2000万を貯める手段がない以上やるしかないだろう。
ここで一旦手を止める。
後は明日以降に行っていけばいい。今日はもうこれで終わりということで、帆波を食べていく。帆波自身、こうなるのは覚悟の上だったようで、視線を向けただけで理解したように服を脱ぎ始めた。
「よろしくお願いします、ご主人様」
一糸まとわぬ姿で、そう土下座する。
元々、オレとの関係を続けていたのは、原作同様にオレに好意を持っていたからだろう。奴隷になったからと言って、その思いがなくなるわけでもないし、その思いを無下にするつもりもない。
むしろ、これを機に、ますますオレへの依存を深めてやる。もはや、オレなしじゃ生きられなくなるくらい。オレに一生を捧げたことを幸福だと思えるように――
原作との変化点。
・高円寺を救う契約をした。
原作を読んでいて、ここが唯一高円寺を縛るチャンスだった。とはいえ、ガチガチの契約をしても萎えさせるだけなので、適度に息抜きが出来るレベルで穴を作っている。
・クラスのヘイトを買った。
坂柳策の後押しのために、ここでクラスからのヘイトを買っておくことにした。基本的にクラスに貢献しているため、こうでもしないと批判票が集まりにくい。
・一之瀬が清隆に助けを求めてきた。
南雲が停学しているため、一縷の望みを賭けて全てを差し出してきた。まぁ、仮に南雲が停学していなくても、生徒会総選挙から混合合宿の散財のせいで、2000万工面は出来ない。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
個人的な契約で高円寺に本気を出す約束をさせた。高円寺を救うと勝手に決めたことでクラスのヘイトを集めている。おまけに、一之瀬を助ける契約もした。
・櫛田桔梗
清隆が無意味にヘイトを買い出したので焦ってクラスを落ち着かせた。この日の夕方に、山内から清隆を退学させる手伝いをしてくれと相談を受けている。
・茶柱佐枝
過去に似た試験を経験しているが故に、このクラスでこの試験を行うことを快く思っていない。今は、クラスのことを考えられないくらいに心が乱れている。
・一之瀬帆波
もし、清隆が駄目だった場合、南雲に股を開くことも覚悟していた。しかし、誰でもいい訳ではないので、清隆が受け入れてくれてホッとしている。まだ契約が果たされた訳ではないが、信頼しているので今の時点から奴隷になっている。
・高円寺六助
流石の自由人もいきなり退学と言われて結構焦っている。そのため、不用意に契約をしてしまった。落ち着いた後に、こんなに焦らなくてもどうにでもなることに気づいたが、既に契約をしてしまっている形になっている。
・平田洋介
誰も退学させたくないと原作のように悩んでいる。が、一之瀬のように、自分を売ってまでどうにかしようという覚悟はない。清隆の覚悟を聞いて動揺している┌(^o^┐)┐
・須藤健
ずっと頼りにしていた清隆がクラスの敵になる形になって驚いている。しかし、それでも高円寺を守ると言った清隆には納得できていない。
・池
清隆の独断に納得できていない。
・山内
このままでは自分が退学するかも、と心配してとある人物(おしがま)に相談。助言を受けている。結果、櫛田に協力を求めた。