SIDE:龍園翔
予定外の追加特別試験――一人を確実に退学にすることが出来るという破格の試験だが、一歩遅かったというのが俺の本音だった。
既に裏切り者であるひよりは、Bクラスに移籍済。かと言って、無意味に適当な生徒を退学させるというのは俺の美学に反する。
俺はこのクラスの王になるに当たって、俺についてくるのであれば、付き従う限り守ってやると約束していた。
無理に誰かを退学にさせるということは、この約束を反故にするに等しい。
勿論、俺には暴君という印象がある。強行も決して不可能ではないが――味方との約束を反故にするというのは、後々内部に敵を作りやすい。出来れば、取りたくない方法だ。
ならば、前科のある真鍋を退学させるか?
いや、それも駄目だ。奴は前回の混合合宿での協力でその罪を許した。そこを追及するのは不義理となる――それに、せっかくCPを消費して助けた真鍋を切れば、何故前回真鍋を救ったのだという話になる。
流石に、無意味にCPを減らしただけという結果は、クラスメイトたちも受け入れられないだろう。
正直、意外と難しい試験だ。
暴君としての俺しか知らない連中には、このくらいの試験なんて楽勝に見えるかもしれないが、この仲間を切る試験は今までの中でも一番難しい。
とはいえ、表面上迷いは見せられなかった。
さも、切る奴は決まっているという態度は崩さない。その上で、誰を退学にするかを、クラスメイト全員が納得できる形で作らないといけなかった。
チッ、改めてひよりが逃げたのが痛すぎる。
あいつさえいれば、退学させる人間は一択で済んだ。いや、だからこそ綾小路も、この中途半端な時期にひよりを移動させたのだろう。いずれ、俺がひよりを退学にさせると読み切って。
勿論、こういう試験が来たのは偶然だ。流石の奴も未来予知など出来るはずがない。だが、それが今回はピシャリと当たってしまっていた。
ひよりがいない今、切るのは誰だ?
能力の低い人間か。
それとも、心のうちに裏切りを秘めている奴か。
いや、仮に裏切りの心を秘めている奴がいたとして、まだ何もしていない段階で切ることは出来ない。疑わしきは罰せよとは言うが、そこまで疑う行動すらまだ起こしていないのだ。切るのは難しい。
ならば、能力の低い雑魚処理――いや、これも難しい。元Cクラスである俺のクラスには、Dクラスのように全く使い道のないクズはいなかった。
俺が調べた所、入学時点での振り分けは、Aクラスが平均能力が高い生徒が中心。Bクラスが平均的な能力を持つ生徒が中心。Cクラスは一つ突出した能力を持つ代わりに他が足りない生徒が中心。Dクラスがもっと能力がピーキーな生徒か、器用貧乏な生徒が中心といったイメージだった。
まぁ、Dクラスに綾小路や雪みたいなやつらが隠れているくらいだ。他にも何か基準点があったんだろうが、問題は元Cクラスである俺たちのクラスはDクラスの馬鹿みたいに何にも出来ない奴ってのがいない点である。
基準を学力に当てれば下位は決まっているが、体力や運動能力に当てた場合はトップクラスの成績を持つ――なんて生徒はざらだ。
つまり、簡単に要らない生徒というのは出せない。そういう意味でも、やはり裏切り者を切りたいが、真鍋が切れない以上他を切る必要がある。真鍋の取り巻きである、藪や山下に適当な罪を擦り付けるか?
あいつらも、一歩間違えれば綾小路の駒になっていた可能性はある――が、明確な証拠がない。話をでっち上げるにしても、他クラスの協力なしに表向き従順なあいつらに裏切りの証拠を作るのは意外と難しいことだった。
◇◆
SIDE:一之瀬帆波
せっかく、みんなで頑張って退学の危機を乗り越えたというのに、今度は学校側から誰かを退学にするという理不尽な試験が執り行われることになった。
星之宮先生も全身で不本意を表していたけど、学校側の決定である以上、どんなに騒ぎ立てても覆ることはない。退学を阻止するには、前回同様に2000万PPで退学者を救済する以外にはなかった。
けど、前回の試験でPPを吐き出した私たちには、どうやっても150万PPを用意するのが限界だ。3年Aクラスの橘先輩の御厚意で、200万を融資して貰ったけど、それでも2000万PPには程遠い。
それでも諦めたくなかった。
もし、南雲先輩が停学になっていなければ、彼に縋りついてでもPPを集めていただろう。けど、今の私に縋りつける人間は一人しかいなかった。
私の仮初の彼氏である綾小路くん。
彼なら、きっと、私には出来ないような方法で2000万PPを集めてくれる――そう信じて、私は自分の全てを彼に捧げることで助けをお願いした。
この先、もう彼女ではなく、奴隷として扱われることになったとしても、私は今のクラスメイト全員でこの学校を卒業したい。仮に、その時Aクラスでなかったとしても、クラスメイトが全員そこに居さえすれば問題なかった。
私はクラスのリーダーでありながら、クラスメイトを守るために、自分だけでなくクラスを彼に売りつけた。
この先、綾小路くんはうちのクラスを上手く使って特別試験を乗り越えていくだろう。けど、その結果、彼が私たちを守護してくれるのであれば、私はそれでいいと思った。
靴を舐めろと言われれば舐める。
裸で街を歩けと言われれば歩く。
クラスを裏切れと言われれば裏切る――それが彼の奴隷になるということだ。私はそれを全面的に受け入れる。それ以外に、私に出せる対価はなかった。
そして、彼はそれを受け入れてくれた。
私の全てと引き換えに、クラスメイトを救済すると約束してくれたのだ。2000万PPのうち、1000万PPは借金になるということだが、元々無償で助けて貰えるとは思っていない。
クラスメイトたちには、1000万ではなく、足りなかったPP全てを請求しよう。PPを貯めておけば、また綾小路くん――いや、ご主人様が何かする時の役に立つかもしれない。
改めて契約を結ぶ。
――契約。
・一之瀬帆波は、一生をかけて綾小路清隆の奴隷となる。
・一之瀬帆波は、その力が及ぶ限り、今後綾小路清隆に協力をする。
・綾小路清隆は、今回の特別試験である『クラス内投票』を始めとした、退学を強制する試験で一之瀬帆波のクラスを救済する。
・Cクラスは毎月配られるPPの75%を月末までに一之瀬帆波経由で綾小路清隆へ送り、1000万PPを今年中に返済する。返済後は、PPの徴収は終わるものとする。
後悔はない。元々好きだった人のものになれるのだ。それが望む形でなかったとしても、私の中にある愛情は変わらない。それでクラスメイトが守れるなら安いものだ。
水着プレイでも。
裸エプロンでも。
それが彼の望みならば全てを受け入れる。契約が結ばれた時点で、私はもうクラスメイトが助かると安心しきっていた。
彼が一度した約束を反故にするなど有り得ない。その証拠に、取り急ぎある程度のPPを集めてしまっていた。これで不安になる方がおかしい。
後は、私の覚悟。意外と彼がえっちなのは知っている。果たして、彼が私にどんな変態プレイを要求してくるのか――
◇◆
SIDE:坂柳有栖
少し前に、学校経由で私に綾小路清隆を退学させろというメールが送られてきた。そのメールには、今回行われる追加特別試験の内容が記載されており、どうやら父を失脚させた人間の手のモノと思われる。
馬鹿なことを――こんなメールに私が従うはずがありません。むしろ、彼との決着を付けるためにも、是が非でも彼には生き残って貰う必要がある。
いや、これはこれで使えますね。
脳裏に浮かんだのは、前回の特別試験である『混合合宿』で私に恥をかかせた一人の男子生徒――山内春樹。
彼には、大勢の人間の前で転ばされるという屈辱と、その後に綾小路くんからのイタズラを受けるキッカケを生んだという許されざる罪が存在している。いつか、退学にさせてやろうと2月頃から接触を図ってはいたものの、測らずもそれが有効に使える機会がやってきました。
2月から週に一度程度ですが、彼とは付き合いを続けている。正直に打ち明ければ、時間の無駄としか言えませんが、細かな積み重ねが彼を優秀なスパイへと変える可能性があります。
まぁ、結果的にその時間も今回の試験でおしまいになるのですが、彼が退学するのであれば何も問題はありません。
追加特別試験の説明を受けた3月2日――私はどうやって山内くんと連絡を取ろうか悩んでいた。流石にこちらから話を持ち掛けるのはあからさますぎる。いくら彼が馬鹿でも疑いを向ける可能性はゼロではない。
出来れば、彼から連絡をくれるのが一番――と、考えていると、まるでこちらの心を読み切ったように、山内くんは私に電話をかけてきた。
思わず、口角が上がる。
電話に出ると、今から会いたい――と、まるで、恋人同士のようなことを口に出し始めました。適当な場所で待ち合わせをして、山村さんと共に集合場所へ向かいます。
綾小路くんとの初邂逅から、男性と二人きりになった場合、私だけではどうにもできない以上、盾となるべき生徒は必須。彼はなかなか関係が深まらないことを気にしているようですが、どうせすぐに退学する以上、今を適当に凌げれば問題はありません。
それとなく、山内くんに探りを入れる。
すると、彼は待っていたかのように、抱えていた悩みを吐き出した。彼曰く、クラスで嫉妬されているから批判票が来るんじゃないかと心配ということだが――直訳すると、クラスメイトから嫌われているから批判票が集まりやすいということらしい。
ならば、策を授けましょう。
彼にAクラスの称賛票を全て与える。その上で、クラスの約半数を、櫛田さんの手を借りて勧誘すること――その上で、誰かをターゲットにして退学に追い込めば、あなたは退学せずに済む。そう唆すと、山内くんは面白いように上手く乗ってくれた。
おまけに、どうも今日綾小路くんがクラスで大きくヘイトを買うことがあったようで、山内くんの口から「なら、綾小路を退学させよう」という言葉が出てきている。
あまりにも上手く行き過ぎていて少し不安ですが、いくら何でも山内くんが私を騙す――など不可能。今の喜びも心からの喜びなのは間違いありません。
ただ、念のために、私が彼に称賛票を入れるという話は内密にすること、今後盗聴、盗撮の類をしないことを約束させた。
ついでに、彼の不安を拭うために、この試験が終了したら2000万PPを使用してAクラスへ引き入れるという約束をする。
証明のために契約書も書いた。当然、退学する以上、この契約が果たされることはないので意味のない契約だが、彼には私が自分を救う気があると思うだろう。
さらに、思わせぶりな雰囲気を見せて、この試験が終わったらあたかも私が彼に告白をする――と思わせる。馬鹿な彼にはこちらの方が有効だったのか、生唾を飲んで私の体を眺めていた。
汚らわしい視線だが、今は耐える必要がある。
山内くんは私の話を聞くと、すぐに櫛田さんを呼び出していた。流石にご一緒する訳にはいかないので、後は彼の手腕に任せる。泣き落とすのか、それとも脅すのか、どちらにしろここで彼女を引き入れられないことには始まらない。
出来れば、この程度はこなしてほしいものだと思いつつ、彼からの報告を待つことにした。
SIDE15は、今回の試験への他クラスリーダーの心境。
龍園は意外と悩んでいて、一之瀬はもう覚悟を決めました。
坂柳だけは原作通りに動いていますが、清隆がヘイトを買ったことで上手く行き過ぎていると首を傾げています。