ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯072 『現実を見ろ』

 2日目からはクラスが慌ただしく動き出した。大小いろいろなグループが固まって、誰を退学にするべきか、どうやって身を守るかを相談している。今日から3日後には誰かが退学になる以上、当然というべきだろう。

 

 オレも綾小路グループで固まって互いに称賛票を入れようという話になった。また、セフレたちからの票もオレと高円寺に入れるように指示しているので、間違っても退学はない。後は桔梗を上手く使って、山内に批判票を誘導するだけだ。

 

 と、考えていると、深刻そうな顔をした平田から相談を受ける。午後16時半にケヤキモールの南口で集合ということで、空いた時間を真澄とデートすることにした。

 

「綾小路くんではないですか」

 

 30分ほど買い物をして時間を潰そうとすると、Aクラスの坂柳から声をかけられる。お供には山村という女子を連れており、こちらに頭を下げてきた。

 

 真澄も元Aクラスということで、居心地悪そうな顔をしている。だが、ここで坂柳に会えたのは丁度良かった。要件があるから、どこかで声をかけようと思っていたのだ。

 

「偶然ですね。神室さんも、お元気ですか?」

 

 坂柳は真澄がAクラスを抜けたことを気にした様子もなく話しかけてくる。真澄も、「まぁまぁ」と、適当な返事をしていた。

 

「これからどちらに?」

「30分にケヤキモールで友達と合流予定だ。それまではデートだな」

「それはそれは、お邪魔して申し訳ありません。ですが、少しお話があるので少々お時間を頂けないでしょうか?」

 

 いきなりの坂柳のお願いに、真澄は嫌そうな顔をしているが、ここは受けた方がメリットが大きい。

 

「いいぞ、立ち話でいいのか?」

「ええ。ですが、ここでは少々人目につきます。少し移動しませんか?」

 

 頷きを返すと、坂柳が歩き出し、それをサポートするように山村も動き出す。真澄もまた嫌そうな顔をしているが、オレの隣から離れるつもりはなさそうだった。

 

「それにしても、皆さん。今回の追加試験はとても理不尽だと思いませんでしたか? これまで退学者が出ていなかったからと言って、強制的に退学者を出す。そんな試験を学校側が作るなど、常識で考えればおかしなことです」

「まぁね。いつも冷静な茶柱先生も、かなり動揺してるみたいだったし」

「真嶋先生もそうでした……」

 

 坂柳の言葉に、真澄と山村が相槌を打っていく。どうやら、他の教師たちも今回の件には思うところがあるようだ。

 

「それには理由があるんですよ」

「なに、あんた知ってるわけ?」

「これは私事で恐縮なのですが、少し前に父の停職が決まりまして」

「停職って……確かここの理事長よね? あんたの父親って」

「詳しくは知りませんが、父にとって不利になるモノがたくさん出てきたとか。私の知る父は、汚いことに手を染めるような人間ではありません。勿論、娘が知らないだけ――という可能性もありますが、父を引きずり下ろすために様々な画策をしている方がいるのかもしれません」

 

 暗に、自分の父親はオレの父親の関与で停職になったと言っているのだろう。まぁ、ほぼ間違っていないので反論は出来ない。

 

「とはいえ、これは私たち生徒には一切関係のない話。単なる雑談です」

「でも、それと今回の試験とどう関係があるっていうのよ?」

「誰かを退学にさせるために、急遽用意された試験……と、考えることは出来ませんか?」

「誰かって誰よ?」

 

 坂柳が意味深な視線でオレを見る。つられて、真澄と山村もオレへ視線を向けてきた。

 

「前々から思ってたけど、あんたなんでそんなに清隆に目をつけてるわけ?」

「清隆……名前呼びとは、随分仲がいいんですね」

「う、うるさいわね。関係ないでしょ……」

 

 からかうような坂柳の言葉を聞いて真澄がそっぽを向く。弱みを握られたセフレだから――とは、死んでも言えないだろう。

 

「フフ、私も綾小路くんとは浅からぬ関係なんですよ」

 

 意味深な言葉に真澄が「何も聞いてないんだけど?」と言いたげな目でこちらを見てくる。確かに、坂柳との関係を知っているのは、セフレの中でも雪だけだ。

 

 とはいえ、その雪も坂柳とオレがおしがま選手権をしていることは知らないが――

 

「さて。山村さん、申し訳ありませんが、先に帰宅なさってください」

「……わかりました」

 

 特別棟の近くまで来ると、山村が坂柳やオレ、真澄に頭を下げてこの場を去っていく。真澄も「外しとく?」と視線を向けてきたが、別に知られても困らないのでこのまま居させることにした。

 

 坂柳も、オレが真澄を帰らせないとわかると、やれやれといった様子で口を開く。

 

「混合合宿での約束の件です」

「次の試験でオレと勝負するって話だな」

「ええ。しかし、綾小路くんさえ良ければ、その話を次回に見送りたいんです。他クラス同士の抗争ではなく、仲間内でのふるい落とし。唯一外部に影響を与えるのが称賛票では攻撃することも出来ませんし、勝負は次回に持ち越しということで構いませんか?」

「なら、それと引き換えにオレの頼みも聞いてくれ」

「なんでしょう?」

「今晩、時間が欲しい。19時にオレの部屋まで来てくれないか?」

「それは……何というか、恥ずかしいですね」

 

 夜の相手に呼ばれたとは思っていないだろう。とはいえ、本気ではなく、ただ真澄をからかっているだけのようだ。

 

「清隆? それ、私も行っていい?」

「別にいいぞ」

 

 オレが即答したことでそういうことじゃないとわかったようで、坂柳も「つまらない反応ですね」と残念そうにしている。原作と違って、今まで真澄と坂柳の間に、ほぼ会話はなかったはずだが、まるで長年の友達のように掛け合いをしているな。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 丁度いい時間なので、平田との合流場所へ急ぐ。真澄には坂柳のお守りを頼んだ。山村も帰してしまって一人では大変そうだし、仲が思ったよりも良さそうだったので貸してあげた形である。

 

 凄く嫌そうな顔をしていたが、オレの頼みということで渋々引き受けていた。背を見送った時は、真澄が文句を言いながら坂柳が突っ込むという原作のような姿を見ることが出来ている。オレが関わらなければ、こういう日常もあったのかもしれないな。

 

「今日は来てくれてありがとう」

 

 ――等と、考えているうちに、ケヤキモールの南口についた。既に平田は来ていたようで、オレの姿を見るなり嬉しそうな笑みを浮かべている。まるで彼女だ。

 

「別にたいしたことじゃないさ。オレも平田と話をしておきたかったしな」

「そう言ってくれると嬉しいよ。とりあえず、モールでって話だったけど……思ったより混雑してるし、やっぱり僕の部屋で話さない?」

 

 辺りを見渡しながら平田がそう提案してくる。どうやら騒がしい場所では話したくないらしい。

 まぁ、おそらく今回の試験についての相談だということはわかっている。オレが出来ることは平田の背を押してやることくらいだ。

 

「もうすぐ1年も終わりだね。この1年、綾小路くんは過ごしてみてどうだった?」

 

 寮へ続く道を歩きながら、平田が適当な話題を振ってくる。この1年はこれまで過ごしてきた15年の中で一番楽しい年だった。

 

「楽しかった――というのが一番だな。オレは今まで、こうしてあまり友人と関わる機会もなかったし、クラスメイトたちとの交流はオレにとっても得難い経験を与えてくれている」

 

 特に、セフレたちとの関係は最高だ。まさか、この1年で10人を超えるセフレが出来るとは誰が想像しただろうか。

 

「そうだね。いろいろ大変なことはあったけど、僕も楽しかった。クラスメイトとの信頼関係も、入学当初から考えればよく構築できたと思っているんだ」

「そうだな。オレもそう思う」

「ほんと……この試験が始まるまでは、問題なかったんだけどね」

「やっぱりその話か」

「うん。昨日、君が言った。誰かを退学にする覚悟っていうのを、どうしても聞きたくてね」

 

 と、言われても、坂柳が山内を退学にしようとしているからそれに便乗しようとしているだけだ。まぁ、仮に山内が存在しなかったら、池辺りが代役になっていただろうが。

 

「僕は今回の試験、出来れば退学者を出したくないんだ」

「だが、抜け道はない。退学を防ぐには2000万PPを貯める以外にないだろう。実現の可能性はあるのか?」

「僕もいろいろと計算してみたけど、到底届く金額じゃないね。船上試験で貯めた160万に部活の先輩たちからの援助を含めても200万が限界だ」

 

 3年はもう格付けが済んでしまっているが故に、もう卒業ムードだ。帆波もそうだったが、だからこそある程度の援助を受けられたのだろう。

 

「綾小路くんは、誰かが退学になってもいいと考えてる?」

「聞き方が酷いな。オレだって、可能なら誰にも退学になってほしくないさ。だが、オレたちのようにクラスを引っ張る側が迷えば、クラスも迷う。オレたちはこういう時に、率先して覚悟を決める責任がある」

「……そうだよね。誰だって、退学なんか望んでない。だからこそ、きっと何か方法が――」

「平田」

 

 現実逃避をするように、何か方法があるという平田の言葉を遮る。あれば、既に行っているというのはわかっているはずだ。

 

「お前もわかっているはずだ。だから夜もまともに眠れないんだろう? オレだって、他に方法があればそれを選んでいる」

 

 嘘だ。山内を残す方法はあるが、それを山内に使うよりも帆波に使った方がオレへのメリットが多いから、オレは山内という人間を切り捨てようとしている。まぁ、あいつの場合は坂柳の恨みを買ったということもあるがな。

 

 と、話していると、ようやく寮の入り口に辿り着いた。ロビーでは数人の生徒が雑談しており、その奥のソファーには高円寺が座っている。

 

 高円寺もこちらに気づいたようで、やってくれたな――と、言いたげな視線を向けてきた。

 

 おそらく、高円寺も落ち着いたことで、自分の身を守る方法に気づいたのだろう。何てことはない。この世界では南雲にPPのリアルマネートレードを禁止されていないのだから一気に上級生からPPを借り受けてしまえばいいのだ。

 Aクラスで卒業するためのPPは足りなくなるかもしれないが、少なくとも退学しないという一点だけでいえばそれで解決する。

 

 しかし、昨日の時点で、既に契約は済んでいた。それに、もし似たような試験があった時の保険にもなるし、オレとの契約はそこまで悪いものではないはずだ。

 

「やぁ、ホームズ。それに平田ボーイ、君は浮かない顔をしているね。これから私が守護していくクラスのリーダー格である以上、嘘でも笑顔を浮かべていないと他の皆が不安がるのではないかな?」

「……やぁ、高円寺くん。そうだね、気を付けるよ」

「しかし、ホームズ。君にはしてやられた。上手く首輪をかけられてしまったよ」

「外す手段はいくつかあるさ。お前がそれを望むかどうかは別としてな」

 

 高円寺との契約は、卒業までの間、今のクラスをAクラスに上げる手伝いをすることだが、高円寺が別のクラスに行ってしまえば契約は強制解除となる。

 

 来年にはおそらく、クラス間移動チケットが配布されるだろうし、高円寺もBクラスから移動する可能性は少なくない。

 しかし、今BクラスとAクラスとのポイント差は約400――本気になった高円寺なら、特別試験1回か2回で逆転できる範囲内だ。

 

 Aクラスになってしまえば、他のクラスに行くメリットは薄い。何しろ、このクラスがAクラスになったら、その時点で高円寺は本気を出す必要はなくなる。約束はAクラスに行く手伝いをするだから、Aクラスにさえなってしまえば高円寺が本気を出す理由はないのだ。

 

 まぁ、その結果、またクラスが落ちるようなら本気を出してもらう必要があるが、ガチガチに契約で動けなくしても高円寺の恨みを買うだけだろう。それなら、多少隙があるくらいの契約の方が丁度良い。

 

「そうだね。君は私の性格を良くわかっている。実に考えられた契約だった」

「これがCクラスやDクラスだった時なら、お前も嫌がったんだろうがな。今は幸か不幸か、天辺を狙える位置にいる」

「……何の話だい?」

「改めて、私はこのクラスで頑張るよ――と、いう話さ」

 

 オレが勝手に高円寺の生存を確約したことは、平田の耳にも新しいだろう。全員の救済を願う平田にとって、唯一オレに救われる高円寺は何とも言えない存在のはずだ。

 

 しかし、それでも池や須藤のように、文句をぶつけることなくスルーしている。そのまま、平田は黙ってエレベーターのボタンに手を伸ばした。

 

「君も思う所があるだろうが、高みの見物をさせて貰うよ」

 

 後ろからかけられた言葉に、平田の手が止まる。

 

「……楽しそうだね、高円寺くん。クラスメイトが退学するかもしれないのに」

 

 その言葉が癇に障ったようで、平田が珍しく少しイラついた様子を見せた。

 

「友達思いな君には申し訳ないが、私はあのクラスで退学すべき生徒は存在すると考えている。今まではペナルティがあったために切り捨てられなかったが、それがないのであれば上を目指すために切るべきものは切り捨てるべきだとね」

「僕にはそんな生徒はいないと思うけど」

「そうか……まぁ、これ以上この話題を続けても口論になるだけだろう。互いに互いの意思を曲げない以上、対話に意味はない。君は君で、精々知恵を振り絞って今回の試験を頑張ってくれたまえ」

「君は、変わらないね。高円寺くん」

「私は生存が約束されているからね。変わる必要などないのさ。まぁ、仮に約束がなかったとしても、私が変わるような試験ではないけどね」

「……そう」

 

 もう特に語ることもないようで、平田は無言でエレベーターのスイッチを押した。

 

 無事が約束されてしまった以上、どんな言葉ももう高円寺には届かない。Aクラスを目指すための大きな武器を手に入れはしたが、今平田が必要としているのは退学者を出させないための武器だ。

 高円寺が約束したのはあくまでAクラスを目指すために本気を出すことであって、この試験の問題はAクラス行きには関係ない。だからこそ、もう話すこともないのだろう。

 

「仲間同士で傷を舐めあいながら、是非不要なゴミを処理してくれたまえ」

 

 そんな高円寺の言葉を聞きながら、平田は黙ってエレベーターに乗り込んだ。オレも無言でそれに続く。

 流石の平田も、散々クラスメイトを貶されては怒りを覚えずにはいられなかったようで、落ち着くために深い深呼吸をしている。

 

「ふぅ……ごめんね。ちょっと格好悪い所を見せちゃった」

「気にしてないさ。あれは高円寺の言い方に問題があった」

「……本当はわかっていたんだ。君や高円寺くんの言い分が正しい。不要な生徒云々はともかくとして、退学者を出させないことは現実的じゃないってことは」

「だが、理解と納得は違う」

「そうだね。心のどこかで最初から諦めていたのは認める……でも、君の言う通りだ。納得できた訳じゃない」

 

 そう平田が口にすると、エレベーターが止まった。そのまま、二人で平田の部屋へと入っていく。

 

「どうぞ入って。コーヒーでいいかな?」

「悪いな」

「別に何も悪くないよ」

 

 と、軽口を叩きながら、手慣れた様子で平田がコーヒーを入れ始めた。

 

「さっきの続きなんだけど、本当にクラス全員が助かる方法はないのかな」

「もしかしたら、オレが思いついていない可能性はある。だが、思いついていない時点でないのと変わらないだろう」

「君に思いつかないのなら、他に思いつく人なんていないと思うよ」

「随分な買い被りだな」

 

 湯が沸いて、コーヒーを作り終えた平田がこちらに戻ってくる。「買い被りなんかじゃないさ」と言葉を続けた。

 

「君はあまり表に出たがらないようだったから今までは追及してこなかったけど、僕から見て櫛田さんの後ろに君がいるのは丸見えだった。椿さんだってそうだ。何かをする度に、確認するように君を見ていた。彼女たちを使って、君がクラスを纏めようとしていたのはすぐにわかったよ」

 

 どうやら、想像以上にバレバレだったらしい。

 

「誰かが退学にならなきゃいけない試験……こんなの理解しようと思っても出来るものじゃない。クラスメイトにいなくなっていい人なんて誰もいやしないんだ」

「気持ちはわかるが、だからといってこのままでは不安が蔓延するだけだ。覚悟を決めて答えを出すしかない」

「覚悟、か。綾小路くんは、もう誰を退学にするかを決めたの?」

「いや、まだだ。お前の言う通り、誰にも退学してほしくないという気持ちはオレにもある。だが、いざという時の覚悟は決めた」

 

 大嘘である。山内を退学させる気満々だ。

 

「冷静だね。僕はこんなにも迷っているというのに……」

「迷うことが悪いことだとは言わない。ただ、迷うだけじゃ駄目だ。結果を出さないと、その迷いに意味はない」

「結果か……この先、僕はどうすればいいのかな。この試験にどう向き合えばいいんだろう?」

「それはお前が出すべき結論だが、一つだけ言っておく」

 

 厳しいことかもしれないが、これは今の平田に必要なことだろう。とてもアドバイスとは言えないかもしれないが、これだけは言っておかなければならない。

 

「お前は今、『誰を切るか』で悩んでいる。おそらく、その結果は出ないだろう。何故なら、お前は全ての生徒を救いたいと思っているからだ。生徒に優劣をつけるようなことはしない。だから、最終的に自分が退学になって全員を救おうと考える」

 

 心の中を言い当てられたように、平田の表情が固まった。やはり、考慮のうちには入れていたか。

 

「しかし、お前は残された生徒のことを考えるべきだ。仮に、ここで自身を犠牲にして一人を救済したとして、残された41人はお前という大きな戦力を失った状態で進まなければならない。それに、お前を信じてついてきてくれた人たちは、お前を失って笑っていられると思うか?」

「それは……」

「全員とは言わない。だが、クラスの半数以上はお前がいなくなったことでショックを受けるだろう。その結果、立ち直れずに落第していく生徒もいるかもしれない。いや、そういう生徒がいなかったとしても、お前がいなくなったことでこの先退学になる生徒だって出てくるかもしれないんだ」

 

 たらればの話ではある。それでも、平田がいなくなることで、Bクラスが大きな戦力を失い、特別試験を乗り越えられずに退学者を出すことだってあるかもしれない。

 

「お前は安易に自分を犠牲に出来ない。それは忘れるな」

「でも、僕は退学者を選ぶなんて……」

「選べないか。なら、『誰を切るか』ではなく、『誰を残すか』を考えろ。クラスメイト一人一人に優先順位をつけて、とりあえずの結論を出せ。別に、そこで最下位になった奴を切り捨てろとは言わない。まずは結論を出せ。話は全てそこからだ」

 

 貰ってからずっとそのままだったコーヒーを頂いていく。平田も、オレの言葉を聞いて、「まずは結論」と小さな声で繰り返していた。

 

「……そうだね。うん、そうかもしれない。僕は今、逃げ出したい気分で一杯だ。でも、自分の退学という逃げですら、誰かを傷つける結果になる。少しずつでも、何か答えを出すべきなんだ」

 

 それが例え、自分の意にそぐわないものだったとしても、最終的に暴力に訴えることになるとしても、ここでの経験は平田を一歩前へ進める。

 

「……ありがとう、綾小路くん」

「別に礼を言われることじゃない。それに、もしかしたら状況が変わる可能性だってある」

「状況が?」

「この試験は、意図的に誰かを退学させることが出来る。もしかしたら、退学したくない誰かを操って、他のクラスの奴がうちのクラスの誰かを退学にしようとすることだってあるかもしれない」

「それって、退学を防ぐために誰かが裏切るかもしれないってこと? そんな、まさか……」

「絶対にありえないとは言い切れない。人間、追い詰められれば何でもする。もし、そうなった時、お前にそいつを切れるか?」

 

 暗に山内のことを少し話してみたが、これで平田が山内を庇わなければ全てが解決する。

 

 だが、おそらくそれは無理だろう。

 

「………………」

「切れないか? 明確にそいつが悪だったとしても、クラスメイトであるというだけで? 何故だ? 何故、お前はそこまで誰かを守ることに固執する?」

「………………」

「話したくないなら別にいい。だが、オレは切るぞ。そうなれば、このままでは誰も救えない。守りたいと願うのであれば、それに見合った力がいる。何とかしたいなら、何を犠牲にしてでも2000万を用意するしかない」

 

 そう言って、オレは平田の部屋を後にした。

 

 おそらく、平田はこれくらいでは考えを改めないだろう。原作のように、暴力性を見せるかもしれない。しかし、それを乗り越えなければ、平田は成長しないのだ。

 

 今のオレに出来るのは、いざという時の覚悟を決めさせるだけ――しかし、それでも、事前にわかっていれば、原作ほどは動揺しないだろう。後は、平田がどう受け止めるかだけだ。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・意図した訳ではないが、神室と坂柳が仲良くなった。
 原作と違って山村が途中までいるが、神室と坂柳は原作通りのやり取りをしている。話の内容自体は原作と同じだが、神室の立ち位置が違うが故にちょっと新鮮に見えた。

・平田の相談に乗った。
 須藤と同じく、男子の中で数少ない使える存在の為、わざわざ時間を割いて相談に乗っている。原作通りに、誰も切り捨てたくないと言っているが、2000万集めるのは最初から諦めている。

・高円寺との契約
 縛ろうと思えばガチガチにも縛れたが、わざと緩めの契約にしている。内容については、特別試験やテスト等で本気を出し、Aクラスへいく手伝いをすることという一点のみで、高円寺がクラスから移住しても解除、今のクラスがAクラスに行っても一時解除になる。しかし、高円寺も、今から他のクラスで今程の自由が得られないとわかっているため、さっさとこのクラスをAクラスに上げるつもりでいる。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 一之瀬との契約を果たすために坂柳に接触した。神室と坂柳のやり取りを見て、原作を感じ取っている。

・神室真澄
 久しぶりのデートでちょっと喜んでいたが、邪魔が入ったことで少しガッカリしている。坂柳のことは嫌いではないが、Aクラスを裏切ったという負い目があるので、あまり率先して話したくはない。が、向こうがちょっかいをかけてくるので突っ込まずにはいられない形。

・坂柳有栖
 たまたま綾小路に出会ったのでちょっかいをかけている。神室については特に恨みなどはなく、普通に話が出来ればいいと思っている。思ったより、面倒見がいいため、もしAクラスのままだったら従者にしたかったと感じている。

・山村美紀
 神室の代わりに坂柳のお世話をしている。原作と違って駒になってから長いので、割とサポートが上手。しかし、気分で振り回されるのだけはどうにかしてほしいと思っている。そんなに話すタイプではないので、セリフも少ない。

・高円寺六助
 契約の後、少しして清隆にハメられたことに気づいた。しかし、それは自分のミスであるため、清隆を恨んではいない。むしろ、自分相手にしっかり隙を突いてくる手腕を評価している。

・平田洋介
 原作通りに、誰も退学にさせたくないマン。清隆と部屋で二人きりになって悩みを相談している┌(^o^┐)┐


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