ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯076 『選抜種目試験』

「――では、これより、1年度の最終試験の発表を行う」

 

 山内が退学してから休日を一日挟んで3月8日。

 

 遂に1年最後の特別試験の開始が告げられた。まだBクラスも、山内退学の傷口は癒えていない。しかし、立ち止まっている暇はないとばかりに時は進んでいく。

 

「1年間を締めくくる最後の特別試験は、これまで学んできた集大成を見せて貰うことになる。知力、体力、連携、あるいは運――お前たちの持つ、様々なポテンシャルを発揮する必要があるだろう」

 

 もし、クラス内投票などという追加試験がなければ、Bクラスももっと気合を入れて話を聞いていただろう。だが、今はとてもではないが、集中して話を聞ける状態ではない。

 

 セフレたちですら、気にした様子がないのは、雪や堀北、桔梗、後はクラス移動してきたばかりの真澄やひよりくらいで、他のメンバーは雰囲気に流されて意気消沈していた。

 

「特別試験は、各クラスの総合力で競い合う『選抜種目試験』――ルールに従って、対決クラスを決めて行われることになる。ペーパーシャッフルの時と同じようなものだ」

 

 まぁ、今は腑抜けていてもいい。結果を出してさえくれれば、いくら落ち込んでくれていても構いはしなかった。オレたちだけでも、ちゃんと話を聞いていく。

 

「まず、お前たちには説明の際にわかりやすくするため、10枚の白いカード、そしてクラスの人数に合わせた黄色のカードを用いて話をしていく」

 

 そう言って茶柱は、何も書かれていないカードを黒板に張り付けた。大きさはトランプほどで、10枚の白いカードには何も書かれていない。代わりに、黄色いカードには1枚ずつ生徒の名前が書かれていた。合計で50枚のカードが黒板に貼り出される。

 

「まず、先に説明するのはこの白い10枚のカード。ここには、お前たちが話し合いをし、好きに決めた『種目』を全部で10個、書き込んでもらうことになる。筆記、将棋、トランプ、バスケ、お前たちが勝てると思う種目を好きに書けばいい。どのように決着を付けるかも、お前たちでルールを考えて制定する」

 

 坂柳とは、チェスで勝負をつけるつもりだ。月城もいるし、チェスを選んで互いに勝敗を決めることになる。そこはまず間違いはない。

 

「ただし、自由とは言っても、決まりごとは存在する。極端な話、誰も知らないマイナー競技を種目にすれば、提案者以外誰も勝ち目がないからな。種目もルールも公正でわかりやすいものでなければならない。そのため、種目提出後に学校側が採用するかどうかジャッジを下す。次に引き分けについてだが――」

 

 今、茶柱が引き分けの場合のルールを話しているが、チェスは意外と引き分けが多いゲームだ。

 基本的に今回の試験では勝敗のルールを決めて、しっかりと勝敗を決めなければ採用されないことになっている。

 

 原作ではなぜかスルーされているが、少なくともチェスの場合は引き分け時の裁定を決めなければまず採用されないだろう。

 

 まずはステイルメイト――チェスは将棋と違って、駒が取られる場所に置けないため膠着状態が起きる場合がある。

 チェック(王手)されていないのに動かせる駒がないことをステイルメイトというのだが、まずステイルメイトを意図的に発生させるのは当然禁止だ。

 

 と、いうより、引き分けになるような動きは全て敗北にしてしまえばいい。暴論だが、それですべて解決する。

 

 例外は、50手ルール――50手の間、駒の取り合いが出来ない場合引き分けとなるというものだが、今回は起きたとしても引き分けとはしないことにすればいい。

 どうせ、勝負がつくまでやるのだ。途中、何手駒の取り合いが起きなかろうと関係はない。

 

 次に、互いがチェックメイトできる戦力を失った場合だが、この場合は先にチェックできる戦力を失った方を負けにすればいいだろう。

 そこまで行く前に勝負は付くはずだし、これも蛇足のようなものだ。これで、引き分けについてはおそらく問題ない。

 

「では実際に、わかりやすく再現してみよう。池、お前の得意なものは何だ? 何でもいいから言ってみろ」

「えっと、何だろ……じゃんけんとか結構強いッスけど?」

 

 何も思いつかなくて適当に言った言葉だったのだろうが、茶柱は真面目な顔で白紙のカードに『じゃんけん』と記入していく。

 

「では、仮にじゃんけんを種目として選んだとして、ルールはどうする?」

「えっと……じゃあ、3本先取?」

「大勢が知る種目、かつ単純明快なルール。学校側が不採用にする理由は一つもない」

「さ、採用されちゃったよ」

「後はこれを9回繰り返せば、10種目の完成だ」

 

 チェスは原作だと、制限時間は1時間、ルールは通常のチェスルールに順ずるが、41手目以降も持ち時間が増えない。司令塔は任意のタイミングから持ち時間を使い、最大30分間指示を出すことが出来る――というものだった。

 

 だが、この世界では持ち時間を1時間半、正確には90分とするつもりでいる。ルールはそのままで、後は司令塔の関与を45分に跳ね上げる。

 普通なら長すぎると却下されるかもしれないが、おそらくは採用されるはずだ。オレが司令塔になりさえすれば、その実力を確かめるために、月城はある程度の我儘は容認してくれるに違いない。

 

 と、考えていると、茶柱が試験の日程を黒板に記していた。原作通り、主に今回の試験は、3段階に分かれて行っていくらしい。

 

 特別試験 選抜種目試験

 

 3月8日・特別試験発表日。同日、対決クラスの決定。

 

 3月15日・10種目の確定。対決クラスの10種目目及び、そのルールの発表。

 

 3月22日・選抜種目試験当日。

 

 原作通り、今日戦う相手を決め、一週間で種目を決め、その後さらに一週間で本番となる。

 

「で、でも先生。20種目もやったら、相当時間がかかるんじゃないですか?」

「それぞれのクラスは選抜種目試験の当日、10種目の中からさらに5種目まで絞り、それを『本命』として提出する。つまり、5種目ではなく、最終的に10種目にまで絞られるということだ」

「つまり10種目の内、5種目はブラフ……嘘の情報が相手に流されるということですね?」

 

 堀北も遂に口を出した。茶柱は「間違ってはいない」と頷いている。

 

「その役目も担うことになるだろう。こうして10種目に絞られた種目たちは、学校側の用意したシステムによって自動的に7種類をランダムに選びだされる。そういう流れだ」

「もし、7種目の内、うちのクラスが4種目を先制した場合はどうなりますか?」

「途中で勝敗が決した場合でも、最後の1種目まで行われる。クラスポイントの変動に関わってくるからだ。どの道、最後まで競い合うことになる」

「はいはーい! 私からも質問いいですか? もし、仮にバスケを選択したとして、1ON1と5対5のチーム戦なんかでルールを選べるわけじゃないですか。その両方を別種目として登録することは可能ですか? 後、7種目に出られる生徒は誰でも、何度でも参加可能ですか?」

「ど、どういうことだよ椿?」

 

 雪の質問に、須藤が反応した。バスケと聞いて、自分の担当に関わってくるから聞き逃さなかったのだろう。

 

「つまり、バスケ(1ON1)と、バスケ(チーム戦)は両立できるのかって話。で、もし可能だったとして、それにバスケ部の須藤くんは参加出来て、両方参加させるのは可能なのかってこと」

「同一クラス内では種目が同じものは二つ登録できない。今の例えなら、5点先取の1ON1をバスケとして登録している場合、チーム戦でのバスケを別種目として登録するのは無効となる。また、参加に制限はなく、各生徒が参加できるのは1つだ」

「つまり、一つの競技は一個だけで、須藤くんを使いまわすのは無理ってことか」

「ただし、例外もある。クラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、2つ以上の参加も可能だ。後、一度決定した種目を取り消すことも出来ないから注意しろ。他の詳しいルールについては書面で用意してあるので、詳しくはそれを確認してくれ」

 

 選抜種目試験、種目を決める際のルール。

 

 ・マイナーすぎる種目、複雑すぎる種目、及びそのようなルールの制限。

 極めて細かなジャンル等は不許可する場合がある。筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題作成を行い、公平性を保つものとする。種目について、基本ルールを逸脱し、改変する行為は禁止とする。

 

 ・使用できる施設に関して。

 特別試験当日は、多目的室にて司令塔が種目進行を行う。また、体育館、グラウンド、音楽室や理科室などの、学校内の施設は基本的に使用可能であるが、一部例外も存在する。

 

 ・種目制限、時間制限に関して。

 同じ内容と判断される種目は、各クラス一つまでしか採用できない。また種目の消化にかかる時間が長すぎる場合や、制限時間のない種目などは見送られるケースもある。

 

 ・出場人数に関して。

 種目に必要な人数は、交代要員を除き、申請する10種全てで違っていなければならない。最少人数は1人であり、最大人数は20人まで(交代も含め、20人を超えてはならない)。1クラスの出場する人数が交代を含め、10人を超える種目は最大で2つしか登録できない。

 

 ・参加条件に関して。

 各生徒が出場できる種目は1つであり、2つ以上の種目に参加することは出来ない。ただし、クラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、2つ以上の参加を可能とする。

 

 ・司令塔の役割に関して。

 司令塔は7種目すべてに関与する権利を持つ。どのように関与するかは、種目を決めるクラスが定めること。学校側が承認して、初めて関与の採用となる。

 

 と、俺の記憶にある原作知識だと、確かこんなルールだったはずだ。おそらく、特に変わっていることもないだろう。司令塔については、おそらく今から説明してくれるはずだ。

 

「種目を決める以外にもう一つ重大な部分がある。それは、大人数を束ねるために、この試験では『司令塔』を一人用意しなくてはならないという部分だ。この司令塔は種目には直接参加することは出来ないが、臨機応変な対応を求められる重要な役割となる」

「司令塔、ですか……」

「全部の種目に関与し、補佐をするライフラインだと捉えればいい。生徒の交代や解けない問題を解くなど、スポーツに限らず、囲碁や将棋であっても、司令塔には介入できる余地が与えられることになるだろう」

 

 オレと坂柳が司令塔になるのは、もう決まっている。後は、どうクラスを説得するかだが、他に立候補がいなければまずオレが司令塔になれるはずだ。

 

「司令塔が『関与』する方法も、お前たちで決めることになる。そうだな。じゃんけんであれば、『任意のタイミングで司令塔が参加し、一度だけじゃんけんをすることができる』や『じゃんけんする生徒を入れ替えることが出来る』などだな」

 

 チェスだけでなく、残りの6種目を有利に運ぶためにも、この司令塔の『関与』は重大な役割を持ってくる。相手が坂柳である以上、仮に雪でも任せるのは不安だ。

 

「司令塔は勝利した際、個別にPPが与えられることになっているが、敗北の時の責任も持つことになる。クラスの敗北時には責任をもって退学して貰う」

 

 毎度お馴染みの退学――だが、少し前に山内が退学したこともあって、今回の退学という言葉には重みがある。

 

 クラスメイトの視線が雪に集まった。前回プロテクトポイントを得た雪が司令塔をやるのが丸いと全員考えているのだろう。雪自身も、自分が司令塔をやるものだと思っているようだ。

 

「対決するクラスはどのように決められるのでしょうか?」

「司令塔になった生徒には今日の放課後、多目的室に集まって貰うことになっている。おそらくはくじ引きで選択権を一人に与え、クラスを選んでもらうことになるだろう。どのクラスを選ぶのかは、予め相談しておくことだ」

 

 今のうちのクラスが勝てるとすれば、まずDクラスかCクラスだろう。Dクラスならば、筆記系の種目で攻撃すればおそらく勝てるし、Cクラスなら逆に体力系の種目で攻撃すれば勝てる。

 しかし、Aクラスに勝てるビジョンが浮かばないのか、誰もAを攻撃しようとは言わない。残念だが、今回戦うのはそのAクラスなんだが――

 

「それからクラスポイントの変動に関してだが、1種目に付き30ポイントが増減する。7連勝なら210CP、6勝1敗なら150CP、5勝2敗なら90CPが相手のクラスから移される。そして、勝利したクラスには報酬として100CPが与えられる」

 

 3月1日の時点で、各クラスのCPは、Aクラスは973CP、Bクラスは630CP、Cクラスは313CP、Dクラスは235CPとなっている。Aが突出し、Bはそれから少し離れて中位、CとDは下位で僅差という感じだ。

 

 しかし、全勝すれば、最大で310CPが得られるというのは大きい――仮にAクラス相手に全勝すれば、晴れてうちがAクラスだ。まぁ、そんな簡単にいけば苦労はないのだが。

 

「最後に、敢えて現実を突きつけよう。もし、お前たちが敗北し、かつDやCクラスが勝つことがあれば、再びお前たちが最下位に転落することもあり得る。気を引き締めていけ」

 

 山内の退学を引きずって、まだどこか覇気のないBクラスへ茶柱が活を入れていく。だが、それでも反応はイマイチだった。

 

 池や平田も笑みを浮かべようとしているが苦笑いになっている。この調子で大丈夫か――と、茶柱も頭を抱えながら、朝のHRは終了していく。同時に、坂柳へ一騎打ちのための詳細を記したメールを送った。後は時が過ぎるのを待つだけだ。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 後は時を過ぎるのを待つだけ――と、言ったが、問題が発生した。茶柱が教室を去った後、落ち着かないクラスを桔梗や雪たちが上手くまとめていたのだが、いざ司令塔を誰にするかという話になった時、オレが手を上げたら却下されてしまったのだ。

 

 理由としては、前回のクラス内投票で、高円寺だけを確定で救済する約束をした結果、クラスを荒らすことになったことへの贖罪――と、適当な理由をでっち上げたのだが、どうも山内の退学でクラスメイトたちは過敏になっているのか、プロテクトポイントを持つ雪が司令塔になるべきだと譲らない。

 

 雪も雪で、この状況で下手にオレの意見に賛同するのは流石に無理なので困ったような顔をしている。心情的には自分が司令塔になるべきと思っているが、オレの命令は絶対ということもあって、どうすればいいのかわからないという感じだ。

 

 とはいえ、いつまでもこのままではいられない。オレが司令塔になるメリットをごり押しして、何とかクラスを納得させる。

 

 この試験は、今までの試験の中でも、うちのクラスの実力を活かせる試験だ。今までは運動だったり、勉強だったりと、必要な能力が偏った試験が多かったからうちも苦戦していたが、自分の強みを全面的に押し付けられるこの試験は、実にうちのクラス向きである。

 

 そして、オレは原作知識やこの一年で、誰をどういう風に動かせば一番有効的に使えるかを理解していた。オレほど、この試験で司令塔に向いたやつはいない――そう言って、何とかクラスメイトを説き伏せて司令塔の役を奪い取った。

 

 危うく、司令塔になり損ねる所だったが、何とか司令塔の役割を手に入れて放課後に多目的室で対決クラスの決定をしていく。とはいえ、既に誰と戦うかは決まっているので茶番でしかない。

 プロテクトポイントを持たないオレが司令塔と聞いて不安そうにする茶柱と共に、特別棟へと移動する。やはり、ここは人が少ないからか、足音がやけに響いた。

 

「たかだかクラスの対戦決めに、特別棟まで行くのか」

「当日のシステム、その使い方の説明もあるからな……しかし、いいのか? プロテクトポイントを持たないお前は負ければ退学となる」

「退学は今に始まった話じゃない。これまでも、そしてこれからも同じだ。プロテクトポイントがあろうとなかろうと、それは変わらない」

「それは……そうだな……」

 

 変にプロテクトポイントなるものがあるせいで誰もが退学に恐怖している。だが、デメリットは今までと何も変わっていない。嫌なら勝つしかないのだ。

 

「……それでも、お前が退学になればBクラスは終わりだ」

「桔梗や雪だっている。それに、高円寺もこれからは真剣に試験に参加すると約束した。まぁ、種目決めなどは試験ではないから、今は自由行動をしているが」

「それでも、お前はこれまで退学のリスクを出来るだけ回避していたはずだ。わざわざ自分から退学の可能性を上げる理由がわからない」

「勝つ自信があるから――と、いうのは当然だが、来年南雲が復活した時のために、雪のプロテクトポイントは残しておいた方がいいと思っただけだ」

 

 南雲が生徒会長所か、生徒会からも追放された今、二年度からはまず原作通りに進まなくなる。それこそ、特別試験の内容すら変わってもおかしくなかった。

 

 そうなれば、生徒会長である雪は、どこかで南雲に狙われかねない。プロテクトポイントは温存しておいた方が吉だ。

 

「……まぁ、勝つ自信があるというのは結構なことだ。頼むぞ、お前の実力を見せてくれ」

「ご主人様が勝つところを楽しみにしているといい」

 

 そう話している間に多目的室が見えてきた。そのまま教室のドアが開けられると、既にオレ以外の3人は到着しているようで全員の視線がこちらに向く。

 

 坂柳、帆波、龍園――その全員が、プロテクトポイントを持たないオレの参戦に驚きの様子を見せなかった。坂柳にもオレが司令塔になるとは言っていなかったが、オレが来ると何となく察していたのだろう。

 

「各クラスの司令塔が集まった所で、対決するクラスを決めたいと思う。このくじを1枚ずつ引いて、赤い丸がついた生徒に選択権が与えられる」

 

 Aクラス担任の真嶋が、そう説明しながらAクラスの坂柳から順に、くじを引くように促していく。

 しかし、坂柳はそれを拒否した。箱に手を突っ込むという行為は、体のバランスが崩れかねないので嫌なのだろう。

 

「残り物には福があると言いますし、私は最後で構いません。どうぞ、一之瀬さん」

「じゃあ、遠慮なくー」

 

 原作では、当たりのくじを引くのはDクラスだったが、ここでは帆波が引き当てたようで「花丸!」と言いながら、赤い印がついた紙を見せてくる。

 

「クク、残り物には福はなかったようだな」

「それはどうでしょうか。必ずしも私が引くことが幸福とは限りませんし」

「やっぱりAクラスはどこと当たっても余裕なのかな?」

「そんなことはありませんよ、一之瀬さん。出来れば、あなたのクラスは避けたいと思っています」

 

 それは苦戦するから――と、いう訳ではなく、オレと戦えなくなるからという理由だろう。

 

「指名するクラスを教えて貰おうか」

「じゃあ、遠慮なく。Cクラスは――Dクラスとの対決を希望します」

「Dクラスでいいんだな?」

「はい」

 

 真嶋が帆波に確認を取ると、対決クラスが決定する。とはいえ、先程も言ったが、予めどのクラスと戦うかは決まっていた。坂柳も、帆波も、龍園も、当然という表情をしている。

 

「クク、余程CクラスはDクラスに恨みがあるみたいだな」

 

 前回の混合合宿、帆波クラスは龍園クラスへの悪感情を逆手に取られて退学という罠にかかり、CPやPPを大きく減らしたのは記憶に新しい。龍園は、その逆襲だと言いたいようだ。

 

「そうだよー! 今回は、うちも本気で叩くつもりだからね! 油断してると痛い目みるかもよ?」

 

 これまでの帆波だったら「どうかなー?」とか言って匂わせる場面だったが、今回は真正面から倒すと宣戦布告している。後ろにオレというご主人様がいるからか、気が大きくなっているのかもしれない。

 

 帆波がオレの奴隷となり、クラスを売り渡した今、Cクラスはもはや属国のようなものだ。ある意味で独裁クラスであるからこそ、帆波を通じて自由に動かすことが出来る。

 

「それは怖ぇな。こっちも気を引き締めていかねぇと」

「正々堂々と勝負だよ?」

 

 暗に番外戦術は効かないと言っていた。この調子なら、原作のように下剤を仕込まれるようなヘマはしないだろう。

 

「フフ、熱い勝負になりそうです。私たちも負けていられませんね、綾小路くん」

「オレとお前はああいうタイプじゃないだろう」

「残念です。少し、ああいうことをするのも悪くないと思ったのですが……」

 

 その結果が、全て台無しになった前回の第五回おしがま選手権である。ウルトラマンダイナシだ。

 

「では、特別試験当日に向けてのシステム説明を行う。この多目的室では、このようなパソコンを2台使用する。このパソコン上で、どの種目に誰を割り当てるかを司令塔がリアルタイムで選んでいく」

 

 大きなモニターに、左側のパソコンの画面が大きく映し出される。茶柱がそのパソコンを操作し、真嶋が説明を続けた。

 

「これはAクラスの生徒の一覧表だ。マウスを操作し、選ぶ生徒の顔写真をドラッグし、種目の枠にドロップする。間違えたり、変えたりしたい場合は、マウスを枠外にドロップすれば再度選択可能だ。あるいは、指先で画面にタッチする方法でも構わない」

「なんかテレビゲームみたいですね」

「ほんとよねー。ハイテクだわー」

 

 帆波と星之宮ののほほんとした会話を聞きながら、真嶋がさらに説明を続けていく。

 

「各種目ごとの生徒選択画面には時間制限があり、種目に必要な人数が多いほど選択の時間が与えられる。1人に付き約30秒だと思っていい。もし時間内に選びきれなかった場合には、不足している生徒の数だけランダムに選択されてしまうので注意するように」

 

 そう言いながら、真嶋がモニターの画面を切り替える。次は将棋の対局映像がモニターに流れ出した。

 

「これはサンプル映像だが、試合が始まると大型モニターには、その様子がリアルタイムで映し出される。司令塔による関与だが、試合開始後、常に自分のモニターで確認できるように文字で表示されている」

 

 見ると、パソコンの画面には『待ったをかけ、一手司令塔が指し直すことが出来る』と表示されている。これが『指令塔の関与』――ゲームでいう必殺技に該当する項目だ。クリックで発動となる辺り、かなりゲームっぽさがある。

 

 また、今回は月城が関与するつもりがないからか、原作であったチャットの文章を読み上げるという妙な仕組みはなく、司令塔からの指示方法は素直に通話形式になっていた。

 

「ただし、司令塔が関与を逸脱した行動を取れば、その時点で反則負けを宣告する場合があるので注意するように。また、インカムは1つの競技に付き1人までしか身につけられない。団体戦であっても、指示を受けられるのは一人だけだ。誰にインカムを装着させるかも司令塔が決定する」

 

 司令塔の役割は、おそらく想像していた以上に大きく多い。もし、プロテクトポイントを持っていたのが池だったとしても、池に司令塔は出来なかっただろう。こうなるのがわかっていたから、退学を覚悟でオレが司令塔に立候補したのだ。

 

「司令塔の指示は、各々ルールに沿った上で自由なタイミングで差し込み可能だ。以上が、司令塔の役割、その操作方法だ。何か質問は?」

 

 ここにいる全員が、クラスを率いるリーダーということもあって、当然のように全てを理解している。疑問を口にする人間はいなかった。

 

「では、本日はこれで終了とする。操作方法の再確認等がしたい場合は、試験一週間前までなら、多目的室にて教師立会いの下行うことを許可する。以上だ」

 

 解散を告げられ、各自が帰路に就く。ここからは真剣勝負なので、流石に帆波や坂柳を呼んで楽しむような余裕はなかった。

 

 今回の試験はオレも退学をかけて戦うことになる。本当はごめんだが、月城がいる以上は雪を身代わりにするのは得策ではない。

 

 何とかして、坂柳に勝つ必要がある。そのためにも、雪を使ってブランクを埋めていく。とりあえず、チェスを100戦ほどして雪をガン泣きさせていこう。

 

 

 

 




 原作との変化点

・プロテクトポイントのない清隆が司令塔になった。
 クラス全員から引き留められるという予想外の事態もあったが、雪や櫛田にも扇動させて何とか納得させている。

・原作と違って龍園が最初から参加している。
 ここではリーダーを降りてないので、当たり前のようにプロテクトポイントを持って普通に参加していた。

・チェスのリハビリを始めた。
 能力は原作とほぼ変わらないが、最近の棋譜を終えていないので少しブランクがある。原作の棋譜を知らないので、原作通りにさせるかどうかは不明。坂柳も実力はあるので負ける可能性もある。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 月城の介入はないと判断して、プロテクトポイント無しで司令塔になった。入学してから地味に初めての退学を賭けた戦いだが、俺小路くんの原作知識からの自身の推察を信じているため不安はない。

・茶柱佐枝
 もし、ご主人様が退学してしまったらと考えて不安になっている。Aクラスになれないのもそうだが、これから自分はどうすればいいのかと迷子のような心境。

・坂柳有栖
 ようやく一騎打ち出来るとワクワクしている。現段階ではほぼ互角。

・一之瀬帆波
 清隆の指示でクラスを動かしている。原作知識から龍園の番外戦術を注意させた。

・星之宮知恵
 それとなく清隆を探っている。どこかで二人きりになれないか思考中。

・龍園翔
 ここで徹底的に一之瀬を叩きのめすつもりでいる。もはや、対等には見ていない。

・真嶋
 試験の説明をした。二年生編でBSSされます。


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