ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯077 『絶対に負けない強み』

 今日はチェス三昧――と、決めたオレだったが、予定はすぐに覆ることになった。この日は恵の誕生日だったので、夜に二人でこっそりパーティをしてそのままベッドインしてしまったのである。

 まぁ、試験までまだ二週間あるので、一日くらいは誤差だろうと、自分に言い訳をしながら次の日も何食わぬ顔で恵や雪と一緒に登校していく。

 

 話し合いは放課後にするということで、昼休みに綾小路グループで集まった際に、昨日の話し合いがどこまで進んだのか聞いてみることにした。

 しかし、原作通り、全員ルールを把握するので精一杯だったようで、建設的な話し合いは出来なかったらしい。

 

 まぁ、オレも昨日は予定を変更したから人のことを言えるような状況ではなかった。お互いに、これから頑張っていこうということで、放課後にはどんな種目を選ぶかの話し合いとなる。

 

 原作では、山内の退学を引きずっている平田が合流までに時間をかけるが、この世界では予め覚悟を決めさせていたおかげもあって、今では何とかクラスに復帰していた。

 

 とはいえ、笑顔には陰りがあるし、無理をしているというのは誰の目にも明らかだ。しかし、それでも、前を向こうとしている以上、クラスの全員が平田のことを応援していた。

 

「じゃあ、これから特別試験の話し合いを始めるね」

 

 桔梗が教壇に立って、いつも通りに司会進行していく。珍しく、堀北が書記として桔梗の隣に立っていた。

 

 原作では仲の悪いこの二人も、今や女王様と僕という関係で落ち着いている。堀北も、生徒会で雪の手伝いをすることに慣れてきたのか、桔梗の補佐をしてクラスに貢献しようと考えたのかもしれない。

 

「にしても高円寺、残ったんだな」

「フッフッフ。私はこのクラスの仲間だよ? 試験当日には本気を出すという契約もしているし、今回くらいは参加するさ」

 

 須藤の驚いたような言葉に、当然のようにそう返す高円寺だが、今回くらいと言っているだけあって、気まぐれで来ることにしたのだろう。

 

 オレと高円寺との契約は、あくまで試験である程度の本気を出してAクラスを目指すというものだ。試験前の話し合いに参加しろと強制できるものではない。

 

「しかし、話し合いはこの一回で終わらせて貰いたいものだねぇ。私も多忙なのだよ」

「うーん、難しい相談かな。今回の特別試験は一朝一夕で決められるものじゃないし、種目を決めた後も勝つために練習とかする必要だってあるし……」

「ならば、私は今回だけの参加となりそうだねぇ。まぁ、本番は真面目にやるので、適当に決めてくれたまえ」

 

 桔梗の言葉を聞いて、やはり思っていた通り話し合いに参加するのは今回だけだと高円寺は告げた。桔梗としても、この男を縛り付けるのは無理だと思ったのか、「本番で結果を出してくれればそれでいいよ」と、ある程度の自由を容認している。

 

「そしたら、改めて話し合いを進めようか。とはいっても、長い時間拘束するつもりはないんだ。今日は一先ず、この場にいる全員には、明日までに『自分が得意な種目』と『絶対に負けない種目』を考えてきて欲しいの」

 

 桔梗の言葉を聞いて、堀北も黒板に『自分が得意な種目』、『絶対に負けない種目』と書いていく。

 

「例えば、須藤くんはスポーツ全般が得意だと思うけど、その中でも絶対に負けないのはバスケだよね?」

「おう! バスケなら一年の誰にも負けねぇ!」

 

 ペーパーシャッフルが終わる頃まで松葉杖をついていた須藤も、もうすっかり完治して今ではバスケに勤しんでいる。例えでも、絶対に負けないという自信が溢れていた。

 

「そんな感じで書いてくれればいいの。今は難しいことは何もいらない。とりあえず、意見が出ないことには話し合いもしようがないしね」

「でもキョーちゃん。得意なものが一つもない場合はどうすればいい訳?」

 

 波瑠加からも質問が飛んでくる。実際に、誰にも負けない武器を持っていない生徒だって普通にいるだろう。

 

「自信のない人は白紙でいいよ。今回の試験は、自分の得意を押し付ける試験だから、自信のない種目を採用するのはリスキーだし」

「でもさー、それなら俺らみたいなやつの出番はないんじゃねーの?」

 

 続けて池が手を挙げる。俺らというのは、クラスの中でも特別能力が高くない奴らのことを指しているようだ。

 

「合計7種目で戦うって話だけどさ、俺らみたいに運動が得意な訳でも、勉強が得意な訳でもない生徒はさ、出番なんてこないんじゃね? 7種目全部が全部、大人数の種目になる訳でもないだろうしさ」

 

 仮に、少数精鋭で勝てる種目だけを選んだ場合、殆どの生徒は何もしないという話になる。池はそのことを言いたいのだろう。

 

「池くんの言いたいことはわかるよ。自分は役に立ちそうもないから別に頑張る必要なんてないんじゃないかって話だよね」

「い、いや、そこまでは言わないけどさ……」

「でもね、相手が決めるルール次第では、どうしても人数が必要になるの。仮に、相手が野球を選んだとするね。野球は9人で行うけど、途中で全員を交代しなきゃいけないってルールがあったとしたら、それだけで18人が参加することになるでしょ?」

「確かに……」

「須藤くんの得意なバスケだってそうだよ。もし、向こうがバスケを選んできて、途中でレギュラーは全員交代しろってなったらフルタイムで須藤くんは使えない。そうなったら、残りのみんなで頑張らないと勝てないよ」

「そうか、わざと相手の得意種目にしてルールで動けなくさせるってのも出来んのか……」

 

 須藤も、バスケであればどんなルールでも勝てると考えていたようだが、ルール次第で無双はできないと理解したのか頷いている。

 

 しかし、桔梗が言いたい本質は違う。ルール次第で、人数の消費が早くなる危険がある以上、全員の協力が必要不可欠だと言いたいのだ。

 

「今はまだピンと来ないかもしれないけど、種目が出揃ったら多分わかってくると思う。少なくとも私は池くんの力が必要だと思ってるし、他のみんなの力も必要だと思ってる。それだけ覚えていてくれたらいいよ」

 

 美少女に期待されて嬉しくない男などいるはずもなく、池が調子に乗って「そ、そこまで言われたら頑張るしかねーな!」と場を盛り上げている。

 

「しっかし、得意な種目か……格ゲーとかカラオケでもいいのかな?」

「うん。種類は問わないよ。勝てればそれこそじゃんけんでもいい。みんなも、好きなものを考えてきてね」

 

 池が昨日例題に出していたが、運ゲーというのはどうしようもない状況になったら悪くない選択肢だ。原作でもチョイスされていた程である。

 

 以上とばかりに、桔梗は話し合いを終わりにした。あまりの速さに、クラスメイトたちももう終わりでいいのかと首を傾げている。それは高円寺も同じだった。

 

「……いいのかね? こんなに早く話し合いを終わらせても?」

「長々とするとだれちゃうしね。それに、長時間の話し合いは、Aクラスに情報を与えかねないしこれくらいが丁度いいと思う」

「だが、1回は1回だ。私はもう参加するつもりはないよ」

「さっきも言ったけど、結果を出してくれればそれでいいよ。高円寺くんなら、どんな種目でも一番を取れるでしょ?」

「確かに、私は出来ないことなどない、パーフェクトヒューマンだからねぇ」

「なら、私から文句はないかな。高円寺くんのやる気を削いで、結果を出して貰えない方が損だし」

 

 予め桔梗には、高円寺をあまり縛らないように言ってある。これが堀北なら、ガチガチに論理で縛ろうとしたのだろうが、高円寺はある程度自由にさせておくくらいが丁度いい。

 

「フフフ、ホームズの入れ知恵か……君も私のことを理解してくれているようだ。安心したまえ、参加した種目での勝利は約束しよう。それが契約でもあるからね」

 

 そう言って、高円寺は教室を出ていった。それを皮切りに、今日の話し合いは終了となり、クラスメイトたちも各自教室を出ていく。

 

「清隆、大丈夫?」

 

 そんな中、久しぶりに雪がオレの所へやってきた。最近は生徒会活動が忙しいのか、なかなか時間が合うことが少なくなっていたが、流石に最終特別試験中は生徒会活動も自粛しているらしい。

 

「そんなに心配そうな顔をするな」

「でも、相手はあの坂柳さんだし、清隆にはプロテクトポイントもないんだよ? もし、万が一負けるようなことがあれば……」

「負けるつもりはない。お前もいるしな」

 

 オレが今回退学のリスクを背負ってまでこの勝負に臨もうと思った理由の一つが雪だ。

 原作では存在しない堀北すら超える存在。それに加えて、今回は高円寺までいる――いわば、オレが複数人いるようなものだ。それで負けたら逆に恥ずかしい。

 

 一つ一つの持ち駒は、Aクラスの方が性能が上だろうが、個々の能力で特化した駒はうちの方が多いのだ。使い道を間違えなければ負けるようなことはまずないだろう。

 

 後はオレがチェスで坂柳に勝つだけだ。

 

 と、いう訳で、雪と一緒に時間の限りチェスを打ちまくっていたのだが、気が付くとTレックスが出動する事態になっていた。

 

 待て、おかしい。オレは純粋にチェスをしていたはずなのに、何故雪を食べているんだ?

 

 状況に流されているような自覚はあったが、一度やる気になったTレックスが何もせずに撤退するなどあり得ない訳で、気が付けば二人で一緒にピロートークをしていた。まずい、もしかしたら負けるかもしれん。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 3日目。各々が『自分が得意な種目』、『絶対に負けない種目』を考えて持ってきた。平田もそろそろ復活したようで、今ではいつもと変わりない笑顔でクラスを纏めている。

 

 女子と話すのが苦手な男子や、桔梗と反りが合わない女子などは、どうしても平田の手を借りないと纏められないので、桔梗も平田の復帰にはホッとした様子を見せていた。

 

 そんなこんなで改めて、クラスの意見を纏めていく。今回からは他クラスのスパイ対策に、携帯電話のチャットを使うことになった。

 

 クラス全体のグループを作って、そこで特別試験専用の議論を行うらしい。口頭でも意見を交わしながら、重要なことはここでやり取りをする。そうすれば他クラスが何をしてこようとも問題は生じないという訳だ。

 

 普通、クラス全員の連絡先を知っている人間などそうはいないかもしれないが、うちには桔梗がいるのでその辺りの問題はなかった。オレにもすぐに招待が来てグループラインが作られる。

 

 参加の証として、全員が一言ずつ文字を入力していく。オレも「よろしく」と打っておいた。堀北は最低限の文字で十分と判断したのか、「あ」としか打っていない。こういうのは性格が出るな。

 

 そのまま、堀北が桔梗のサポートとして、クラスメイトたちが書いてきた種目を黒板に羅列し始めた。数が数だけに、仮に見られたとしてもどれが10種類に選ばれるかなどはわからないだろう。

 

 勿論、本命の種目についてはグループチャットで決めていくが、流石にクラスメイトの意見一つ一つをチャットで書くのは見づらいので、こういう所は使い分けだ。

 

 黒板には様々な種目が書かれていた。須藤のバスケ、平田のサッカー、小野寺の水泳に明人の弓道、他にもリレーや綱引きなど、体育祭で自信をつけた種目もある。

 

 運動以外だと、やはり筆記テストなどもあった。堀北や啓誠などはこちらを選んだようで、自分の得意科目を挙げている。他にも、カラオケ、ボーリング、ダーツ等、一見遊びにしか見えない科目もあり、原作以上にごちゃごちゃしていた。

 

 なまじクラスとして原作以上に固まっているのと、平田が離脱していないことも相まって、原作以上にやる気があるのだろう。他にも、山内の退学のショックを試験に打ち込むことで振り切ろうと思っている奴もいるのかもしれない。

 

 オレもここからは真剣にやらねば本格的に退学してしまう――と、いうことで、ようやく本格的にチェスの練習を始めた。数年のブランクがあるため、最近の棋譜を見ながら自分自身をアップデートしていく。

 

 まぁ、ブランクがある状態でも雪には負けなかったが、それでも相手が坂柳である以上は油断できない。原作ではオレと五分だったらしいし、一瞬の緩みが死に繋がりかねなかった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 4日目。朝、いつも通り雪と一緒に登校していると、珍しく星之宮に絡まれた。

 

 思えば、こいつは茶柱に誘われて二回くらい食べた訳だが、もしかしたら相手がオレだということに薄々勘付いているのかもしれない。そうでなければ、この時期にオレに接触する何てことないだろう――いや、原作でも探りを入れていたっけか。

 

 恋愛がどうとかルームシェアがどうとか――みたいな話だったような気がする。と、思いながら適当に話を聞き流していると、茶柱もやってきて星之宮をけん制していた。

 

 この様子だと、やはり星之宮は薄々茶柱の後ろに俺がいるということを勘付いているのだろう。下手に弱みを握られても面白くないし、しばらく星之宮には近づかない方がいいかもな。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 5日目。どうやら龍園が動き出したようで、Cクラスが文句を口にしていた。聞けば、石崎やアルベルトのような柄の悪い奴らが柴田たちをつけ狙ってきているらしい。

 

 帆波には、動画や音声を録音していつでも訴え出られるように命じた。証拠をいくつか集めてしまえば、向こうも簡単には動けない。

 

 ついでに、クラスメイトたちへカラオケやカフェなどで飲食はせず、携帯電話は必ず肌身離さず持つよう指示を飛ばさせた。下剤を仕込まれる可能性はゼロじゃないし、つけ狙っているのも携帯電話から情報を狙うための一環だろうからな。

 

 また、龍園の狙いが、力にモノを言わせた格闘技責めであることもばらした。もしかしたら別の手段を講じてくる可能性もあるが、DクラスがCクラスに勝てる種目など他にはないだろう。

 

 逆にCクラスはおそらく筆記テスト責めで来る。おそらく、それは龍園も読んでいるはずだ。

 だからこそ、どんな奴がどのテストに参加するかの情報を知り、Dクラスの中でも数少ない頭脳派チームでの逆転を狙っているに違いない。

 

 と、龍園の考えを教えてやれば、逆に帆波も上手く相手の種目に対応できる生徒をチョイス出来るだろう。これで、帆波と龍園の状況は五分――どうなるかは神のみぞ知るというやつだな。

 

 このままいけば、だが。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 そんなこんなで3月14日。10種目を確定させる締切日がやってきた。同時に、今日はホワイトデーということで、前にバレンタインでセフレたちにチョコを貰ったお返しをしていく。

 

 セフレたち以外にもチョコは貰ったので、ただでさえ残り少ないPPが一気になくなるという事件もあったが、最近塞いでいた気持ちも少しはリフレッシュできただろう。

 

 当然、オレもしっかりリフレッシュさせてもらった訳だが、帆波を奴隷にしたことで、今まで恥ずかしがって出来なかったプレイも強要させることが出来て楽しかった。

 愛なんて曖昧なもので繋ぐよりも、やはり契約で繋いでしまった方がいろいろできて良い。

 

 そういう意味では、朝比奈も最近は少し変わってきた。混合合宿で南雲に手酷い裏切りを受けた結果、オレの玩具にされた朝比奈だったが、今では自分から望むかのようにプレイを楽しんでいる。

 

 また、試験についての話を聞いてみると、やはり南雲が停学中で、Aクラスも纏まりを欠いているのか、今回の試験もBクラスに押されっぱなしだということだった。

 

 しかし、改めて見ると、最近の朝比奈は、南雲への依存が少しずつ薄れているように感じる。一緒にいても、オレが聞かないと前ほど南雲の話はしなくなった。

 

 とはいえ、仲が悪くなったというよりは、以前ほど執着がなくなっただけという感じで、話をすれば以前のように気の合った掛け合いをしているようではある。少なくとも、数日おきに電話はしているようで、特に険悪と言う感じではなさそうだった。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 3月15日。今日は対戦相手の10種目が発表される日だが、おそらくはどちらも原作とそう変わらないと見ている。

 まぁ、仮に変わるようなことがあっても、残り一週間もあれば対策も打てるし問題はない――と、考えていると、雪と一緒に登校中、通学路で堀北兄と橘に出くわした。

 

 橘は何も言わずに一歩下がっている。どうやら、オレを視界に入れたくないらしい。同時に、雪も一歩下がった。オレが話すべきということだろう。

 

「特別試験の方は順調か?」

「どうかな。あんたはもうAクラス卒業が決まって暇そうだが……」

「そうだな。仮に、今回の試験で敗北したとしても結果は変わらないだろう。まぁ、だからといって負けるつもりはないが」

 

 三年生にしてみれば出来レースのようなものだ。Aクラス以外の試験へのモチベーションは余程低かったに違いない。

 かといって、学校側もどこかのクイズ番組のように、この試験で勝ったら100万CP――みたいなことは出来ないので仕方ないだろう。もし、そんなものがまかり通れば、これまでの三年間は何だったんだという話になる。

 

「時に、鈴音はどうだ? お前の役に立っているか?」

 

 オレが普段、こいつと話すときに妹のことを話さないからか、とうとうストレートに探りを入れ始めた。気になるなら、素直に妹に会いに行けばいいのにとも思う。

 

「雪の役には立っているみたいだな。クラスでも、少しずつ馴染んできているようには見える」

「そうか」

「そんなに妹が気になるなら声をかけてやればどうだ? 今の堀北は、もうあんたの幻影なんか追っちゃいないぞ」

「俺にはそうは思えない」

「何故だ? 悪いが、ブラコンはもう卒業している。最近ではお前の話題を振っても反応が鈍いくらいだ」

「……そんなことはない。鈴音は昔と変わっていない」

 

 何か、意地でも自分を気にしてほしい感じがするが、やはり原作通りに髪型がロングのままだから認めることが出来ないのだろう。

 

 とはいえ、それは地味にオレに原因がある。それを説明するためにも、何とか堀北兄から髪型についての話題を引き出さないと――

 

「話もせずにわかるものか?」

「わかる。元々、今の鈴音と昔の鈴音は大きく異なる。もっと笑顔を見せる子供だった」

「つまり、あんたの影響を受けてクールキャラを演じてるってことか? まぁ、仮にそうだったとして、性格なんて成長の過程で変わる。むしろ、今笑顔になれって言ったって、子供の時のように振舞うのは無理だろう」

「それはわかっている。だが、鈴音はずっと俺の模倣をしていた。あれは俺の真似なんだ」

「真似も、突き詰めれば自分のモノになる。今のあいつを構成した原因はあんたでも、今のあいつは別にあんたの真似をしようとは思っていないと思うが?」

「……髪型だ」

「髪型?」

「これは鈴音には言うな。昔、冗談で髪の長い女が好みだと言ったことがあった……短い髪型を好んでいた鈴音は、俺の言葉を真に受けて髪の毛を伸ばし始めた。それは今でも続いている」

 

 ようやく話してくれたな。

 

 堀北は今も長い髪を維持している。だからこそ、自分の呪縛から抜け出せていない――というのが、こいつが堀北を認められない理由だ。しかし、それは微妙に違う。

 

「あー……それに関しては、オレのせいもあるというか」

「なに?」

「実は夏休み頃に、髪を切ろうと思っていると堀北に相談されたんだが、オレが長い髪の方が好きだと言ってそのままにさせたんだ」

 

 つまり、堀北の髪が長い理由は、もう兄のためではなくオレのため――そうわかると、堀北兄が、今まで見たこともないような変顔に変わった。

 

 まさに百面相と言っていい。南雲にも見せてやりたいくらいだ。橘も雪も、角度の問題で見えていないらしい。最終的にはチベットスナギツネのような顔をしていた。

 

「そうか、そうか……そうか……」

 

 まさか、妹の髪型の理由が、自分ではなく他の男にあるとは思わなかったのだろう。あの冷静さを体現した男が、「そうか」しか言えなくなっている。

 

 あれだけ認められなかった妹が既に変わっていた現実。それを見た目だけで受け入れようとしなかった自分。そんなことがあるはずがないと思っていた固定概念――全てが土台から崩れ落ちているような感覚がこの男を襲っていた。

 

「時に、なんだ……お前は、鈴音とは、どうだ……?」

 

 まさか、この男からこんな俗物的な質問が来るとは――後ろで話を聞いている橘も、あり得ないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

「オレとお前の妹が付き合っているように見えるか?」

「……いや、まだ椿との方が可能性があるだろう」

「そういうあんたこそどうなんだ? 後ろの橘と付き合ってないのか?」

「俺と橘が付き合っているように見えるか?」

「そりゃ、これだけいつも一緒にいればな。オレと雪がそう見えるのと一緒だ」

「なら、答えは一緒だ。見えるだけだ。俺と橘にそのような事実はない」

 

 そう断言した堀北兄だが、対する橘は複雑そうな表情を浮かべていた。橘が堀北兄に好意を抱いているのはまず間違いないのだが、こいつはそれに全然気づいていないらしい。

 

「この3年間は、良くも悪くも学校のことだけを考えてきたからな」

「なら、残りの時間くらいは学校のことだけじゃなく、自分のことや周りのことを考えてみたらどうだ? もしかしたら、今まで見えていなかったものが見えてくるかもしれないぞ」

 

 あまりにも橘が哀れだったので、思わず背中を押してしまった。これで、堀北兄と橘がどうなるかはわからないが、可能性が0でない限り橘も諦めないだろう。

 

「まるで、お前の方が先輩だな」

「別に先輩風を吹かせるつもりはないが、妹のことだってあんたはちゃんと見えていなかったんだ。自分のことだって、まともに見えているとは限らないだろう」

「……鈴音の件は考えておく」

「自分の周りのことも考えておけ。特に、今までお前を支えてきてくれた人間の気持ちくらいは理解して――」

「か、会長! じゃなかった、堀北くん! そろそろ行かないと遅刻してしまいます!」

 

 黙って話を聞いているだけだった橘だが、オレが少し踏み込んだアドバイスをしようとすると、顔を真っ赤にして話に乱入してきた。これ以上は余計なお世話か。

 

 橘があたふたしているのを見て、不思議そうな顔をしながら、堀北兄も「そ、そうか」と頷いている。

 

 雪もまた、話の終わりを察して、「行こうか」と声をかけてきた。そのまま、堀北兄と別れて教室へと向かう。

 とりあえず、オレに出来ることはしたつもりだ。後、あの二人がどうなるかは、残り時間の使い方次第だろう。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・クラスが原作よりも纏まっている。
 原作よりも種目の意見が活発に出てきた。しかし、本命であるチェスの練習があまり出来ていない。

・堀北と櫛田でクラスを纏めている。
 原作なら、堀北主導で、櫛田が書記だろうが、この世界では当然逆。堀北も来年に備えてクラスでの印象を良くした方がいいと判断して、清隆が書記に推薦した。

・星之宮が絡んできた。
 原作通りにたまたま出会ったが、雪が一緒だったことと、途中で茶柱が来たことで、上手く本題に入ることが出来なかった。清隆に警戒されて、距離を取られそうになっている。

・龍園クラスが動き出した。
 原作通りに一之瀬クラスに探りを入れに来ている。しかし、既に清隆経由で忠告はしてあるので、原作のように上手くは行っていない。

・朝比奈から徐々に南雲への執着心が消えつつある。
 それだけTレックスに記憶を上書きされている証拠。

・兄北が妹の変化を理解した。
 今までで一番無能になっている。



 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 地味にチェスの練習が出来ていなくてピンチ。ただ代わりに、周囲の状況や他クラスの状況などは良くなってきている。

・椿雪
 清隆が退学したら一緒に退学するつもりでいる。もう二度と離れるつもりはない。

・堀北鈴音
 櫛田をサポートして、クラスの意見を纏めている。最近、雰囲気が良くなっているため、クラスでも地味に人気が出てきている。

・櫛田桔梗
 いつものようにクラスを纏めている。堀北とは関係性が決まったおかげか、原作と違って割と仲がいいため、二人で協力して試験に当たっている。

・軽井沢恵
 誕生日のお祝いをして貰った。ちなみに表記していないだけで、セフレの誕生日は常にお祝いしている。もしもに備えて、チェスのルールを覚えさせている。

・長谷部波瑠加
 試験には頑張って望むつもりではあるが、自分の強みがないのであまり表には出られなさそうではある。ミスコンがあれば優勝候補だったかもしれない。

・茶柱佐枝
 何だかんだクラスが纏まってホッとしている。隙あらば勝手な行動をする同期に頭を悩ませている。

・一之瀬帆波
 清隆の指示でクラスを動かしている。試験は全て筆記試験で臨むつもりで、番外戦術にも上手く対応している。

・星之宮知恵
 ようやく清隆に接触できたが、邪魔が入って本題は切り出せなかった。

・朝比奈なずな
 一之瀬と二人でプレイさせられている。南雲とは変わらず仲がいいが、それ以上に変わる可能性もなくなってきている。

・橘茜
 表向き、兄北に自分の痴態がバレたくないので知らんぷりを決め込んでいる。しかし、この約ひと月半で結構な回数Tレックスに捕食されている。が、未だに兄北大好き。

・高円寺六助
 気分でクラスの状況を見ていた。これなら、もう参加の必要はない(原作だと悪い意味だが、こちらではいい意味)と判断し、本番に全力で臨むことを決める。

・平田洋介
 何とか復帰した。これからは頑張ってクラスに貢献するつもりでいる┌(^o^┐)┐

・堀北学
 妹が変わっていないと思っていたら、既に変わっていた件について。髪型が変わっていないから何も変わっていないという、まさに意味不明な理論を崩されて無様を晒している。南雲が見たら泣くぞ。


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