ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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 一年生編は完結したが、更新が終わるとは言っていない。

 と、いう訳で番外編、♯023『駒不足の審議』のIFです。話の大筋はそこまで変わりませんが、この小説で一番もめた部分だったので、ちょっと書いてみました。

 変更点としては、須藤の事件が起きた日に清隆が神室を食べずに動いていたというだけで、他は変わっていません。

 簡単に言えば、清隆にちょっとやる気があって須藤の冤罪事件で無罪を勝ち取るルートです。キリが悪いので最初の9000字はそのままですが、最初の審議は何も変わっていませんので、途中までスキップでも大丈夫です。





IFストーリー、もし清隆に○○があったら。
♯023IF 『もし清隆にやる気があったら』


 遂に審議の日がやってきた。

 

 放課後になると、須藤や佐倉と共に審議に参加するために、一度茶柱の待つ職員室へと行くことになっている。

 原作では審議に参加するのは堀北だったが、堀北は須藤との関係の都合上、参加させるのは難しいので、今回は櫛田が代わりに参加していた。

 

 最初は、雪が一緒に出る予定だったのだが、急遽生徒会の意向で今回の審議で、雪は生徒会側として参加するように通達があったため断念している。

 おそらく、向こうとしては唯一の一年生生徒会員である雪に、事件が起きた時の動きを学ばせようという考えだろうが、こちらとしてはあまりにタイミングが悪すぎた。

 

 こうなってくると、堀北が使えないのがマイナスになってくる。駒不足の状態で審議に参加しなくてはいけなくなってしまった。

 

 とはいえ、嘆いていても仕方ないので、急ピッチで櫛田に代役を頼み、審議での流れや話す内容を叩き込んでいる。しかし、付け焼き刃であることには変わりない。

 一応、オレも一緒に参加して、危なくなったらフォローをするつもりでいるが、ここで目立っては今まで傍観していた意味もなくなる。出来ることにも限界があった。

 

「心の準備は良い? 須藤くん」

 

 審議ギリギリで最悪の状況になった現状を嘆くオレの隣で、櫛田が須藤に対してそう声を上げる。職員室に移動する時間となったことで、改めて須藤に注意を促しているようだった。

 

「ああ、いいぜ。俺は最初から準備できてんだ」

「質疑応答については練習した通りに。もし他に何かいいたいことがあれば、こちらの不利にならなければ言って大丈夫だからね」

「おう」

 

 この一週間、ただ待っているだけだった原作と違って、須藤は自分に出来ることを探し、本番の質疑応答について勉強していたらしい。その顔には自信が満ち溢れていた。

 

「先生には、ちゃんと敬語を使ってね?」

「ああ、わかってるよ。礼儀正しく、だろ」

 

 櫛田ママ。

 

「うん、バッチリだね。たかが敬語一つと思うかもしれないけど、それだけでも須藤くんの印象は大分良くなるよ。当然、印象が有利になれば審議もこっちに有利になる」

 

 原作の須藤は態度も酷ければ、口も酷い、最低最悪と言っても良い状態だったが、今の須藤は頑張って躾けて来た甲斐もあり、遂に敬語まで使えるようになったからな。

 

 ただ、須藤の方は問題ないのだが、もう一人の重要人物である佐倉の方が、あまり顔色が良くない。逃げずには来てくれたが、やはり緊張するようで落ち着かない様子だ。

 

「大丈夫か、佐倉?」

「うん……大丈夫。ありがとう」

 

 大丈夫とは言っているが、想定よりも緊張度合いが高い。このままでは満足に話も出来ないだろうし、ちょっと荒療治してやるか。

 

「佐倉、手を出せ。右、左、どっちでもいい」

「? はい……」

「ほい」

「ふぇあ!?」

 

 右手を出してきたので、がっちり手を繋いだ。

 

 指まで絡めて、しっかりと恋人繋ぎにする。

 

 緊張がぶっ飛んだ代わりに顔が真っ赤になっているが、いずれ落ち着くだろう。櫛田がジト目を送ってきたが、別にただ冗談で佐倉の手を握った訳ではない。

 

「綾小路くん……遊びに行く訳じゃないんだけど?」

「緊張をほぐす荒業だ。人の体温というのは、心に落ち着きを与える。今は驚いているからそうは見えないかもしれないが、そのうち落ち着いて来るだろう」

「……職員室に着くまでだからね」

「わかっている。流石に、これで審議は格好がつかないしな」

「はぁ……じゃあ行こうか。遅れると印象が悪いし」

 

 何だかんだ話し合いまで後10分程しかなかった。応援してくれるDクラスの面々に手を振って応えると、そのまま職員室へ向っていく。

 

 真っ赤になってされるがままに歩いている佐倉の手を引いていると、職員室前でこちらに手を振っている先生が見えた。当然、茶柱ではない。

 

「やっほ~Dクラスの皆さんこんにちは~」

 

 原作通り、星之宮が様子見に来たようだ。挨拶をされたので手を上げて返すと、こちらを見た星之宮が目を輝かせて近づいてくる。

 

「あらあらあらあら~綾小路くん、遂に彼女が出来たのね~?」

「そうだと嬉しいんですが、残念ながら違いますね」

「え~でも、ほらぁ、そんなに見せつけておいてそれは通用しないわよ~」

 

 と、星之宮が大喜びしていると、その後ろから茶柱もやって来た。

 

「また何をやってるんだお前は」

「ありゃ、もう見つかっちゃったか」

「お前がコソコソ出て行く時は、大体私に後ろめたいことがある時だからな」

「ばれちゃった? ねえ、私も参加しちゃ駄目かな」

「ダメに決まっているだろう。部外者が参加できないのは知っての通りだ」

「残念。まあいいか、一時間もしたら結果も出てるだろうし。ねぇ、綾小路くん?」

「ええい! いいから、お前はさっさと職員室へ戻れ!」

 

 茶柱がそう言って無理やり星之宮を職員室へ戻すと、こちらを見ながら「あまり、星之宮に関わるな」という有難い忠告をしてくる。

 

 仕方ないので、「わかりました。サエちゃん」と返すと、いつものクリップボードが飛んできた。咄嗟に、佐倉の手を離して回避する。手が離されたからか、佐倉も正気を取り戻し、恥ずかしそうに自分の手をグー、パーと開いていた。

 

「全く、こいつはいつもいつも……そろそろ行くぞ」

「職員室で行う訳じゃないんですね」

 

 茶柱が移動を促すと、櫛田がそう質問する。

 

「ああ。この学校には特殊なルールが複雑に存在するが、今回のようなケースでは、問題のあったクラスの担任と、その当事者、そして生徒会との間で決着がつけられる」

「生徒会……だから椿さんが今回参加できなかったんですね」

「直前で決まったことだけどな。こういう審議は然う然う起きないので、一年生に経験を積ませたいらしい」

 

 茶柱の後に続いて、職員室から一気に四階の生徒会室へ向かっていく。正直、最初に言っておいてくれれば、教室から直接向えて距離的に楽だったのだが、茶柱にその辺りの気配りを期待しても無駄か。

 

 そのまま生徒会室に着くと、茶柱を先頭に中へ入って行った。ただ、佐倉だけは声がかかるまで廊下で待機だ。「後でな」と声をかけて、生徒会室に入っていく。

 

 原作通り、中にはCクラスの生徒、担任の坂上。そして、奥の席に生徒会長である堀北兄、そのお付きの橘がいる。例外なのは、急遽参戦が決まった雪だけだ。

 

「遅くなりました」

「まだ予定時刻にはなっていません。お気になさらず」

「ありがとうございます……お前たち、面識は?」

 

 茶柱が坂上と挨拶を交わした後、こちらにそう声をかけてきたが、全員が首を横に振る。

 

「Cクラス担任の坂上先生だ。それから、奥の彼がこの学校の生徒会長だ。まぁ、入学式で見たことがあるか」

 

 紹介された会長はこちらを一瞬だけ見た後、すぐに手元の書類に視線を戻した。堀北がいないから興味を失ったのだろう。

 

「では、全員揃いましたので。これより、先週の火曜日に起こった暴力事件について、生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交え、審議を執り行いたいと思います。進行は私、生徒会書記、橘が務めます」

 

 そう告げると橘が事件の概要を説明していく。

 

 その間に、茶柱が「まさかこの規模の揉め事に生徒会長が足を運ぶとは」と、原作通り、意味深な言葉を会長にかけている。そのまま、「妹がいなくてショックだったんじゃないか?」と、からかうように言葉をかけるも殆どシカトされていた。

 

 そんなつれない反応に、茶柱が含みのある笑みを浮かべていたが、会長も相手にするつもりはないようで、特に反論することなく黙って受け流している。さすおに。

 

「――以上のような経緯を踏まえ、どちらの主張が真実であるかを見極めさせて頂きたいと思います」

 

 さて、遂に来たな。説明を終えた橘は一度前置きすると、Dクラスの面々へ視線を向けた。

 

「小宮くんたちバスケット部2名は、須藤くんに呼び出され特別棟に行った。そこで一方的に喧嘩を吹っかけられ殴られたと主張していますが、それは本当ですか?」

「いいえ。そいつらの言ってることは嘘です。俺……自分が呼び出されて特別棟に行きました」

 

 まだ少したどたどしいが、確かに敬語で話せている。まさか須藤が敬語を使うと思っていなかったのか、Cクラスの面々も驚いていた。

 

「では、須藤くんにお聞きします。真実を教えて頂けますか?」

「自分はあの日、部活の練習を終えた後、小宮と近藤に特別棟に呼び出されました。正直、付いていく理由はありませんでしたが、日頃から絡んできていい加減鬱陶しいと思っていたので止めるように言おうと思ったんです」

 

 今の所は良い感じに練習の成果が出ているな。

 

「それは嘘です。僕たちが須藤くんに呼び出されて特別棟に行ったんです」

「ふざけんなよ小宮。てめえが俺を呼び出したんだろうが」

「身に覚えがありません」

 

 あっけらかんと嘘を吐く小宮に、昔の須藤なら手が出ていただろう。しかし、今は舌打ちもせずに頑張って我慢している。

 

「小宮くん、途中で口を挟む行為は慎んで下さい。今は須藤くんの話を聞いています」

「……すみません」

「双方共に呼び出されたと主張しており、話が食い違っています。ですが、共通することもあるようですね。須藤くんと小宮くん、近藤くんの間には揉めごとがあったんですね?」

「揉めごとというか、須藤くんがいつも僕たちに絡んでくるんです」

「絡む、とは?」

「彼は僕らよりもバスケットが上手いので、その自慢をしてくるんです。僕らも負けないように懸命に練習していますが、それを馬鹿にされるのは気持ちの良いものじゃ無かったので、そういう意味では度々ぶつかっていました」

「……発言、よろしいでしょうか?」

「どうぞ、須藤くん」

「小宮の話は何一つとして本当ではありません。彼らは日頃から、自分が黙々と練習してる時に四六時中邪魔をしてきます。小宮は自分が自慢してくると言っていましたが、逆に調子に乗るなと言われたこともありました」

 

 全てに置いて正反対。当然、このままでは何も解決しない。

 

「両方の言い分がこれでは、今ある証拠で判断して行かざるを得ませんね」

「僕たちは須藤くんに滅茶苦茶殴られました。一方的にです」

「発言、よろしいでしょうか?」

「どうぞ、須藤くん」

「自分は手を出していません。彼らの自作自演です」

「……Dクラス側からの新たな証言が無ければ、このまま進行しますがよろしいですか?」

 

 よろしくないので、ここで櫛田が手を挙げていく。

 

「一年Dクラス、櫛田です。私から、質問させて頂いてもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

 

 櫛田は橘に小さく頭を下げると、Cクラスの方へと向き直った。

 

「先程、小宮くんたちは須藤くんに呼び出され特別棟に行ったと言いましたが、須藤くんは一体誰を、どのような理由で呼び出したのですか?」

「今更どうしてそんな……」

「答えて下さい」

「小宮くん、近藤くんは質問に回答して下さい」

「……俺と近藤を呼び出した理由は知りません。ただ、部活が終わって着替えてる最中に、今から顔出せって言われて。俺たちが気に入らないとかそんな理由じゃないでしょうか?」

「須藤くんは、バスケット部の顧問の先生からレギュラーで使うかも知れないという話をされていました。そんな彼が、問題行動を自分から起こしたというのは疑問があります」

「それは……」

「一年Dクラス、綾小路です。補足をしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、綾小路くん」

「自分は日曜日、バスケットボール部に行き、事件前の様子や日々の様子を聞いてきました。確認のためにICレコーダーにも音声を録音させて頂いています。この場で再生してもよろしいでしょうか?」

「構いませんか? 会長」

「許可する。再生しろ、綾小路」

 

 会長様からのゴーサインも出たので、懐からICレコーダーを出して音声を再生していく。

 

『失礼します。一年Dクラスの綾小路と申します。少しお話よろしいでしょうか?』

 

 誰も喋らず、静かになった生徒会室にICレコーダーの音声が響いた。

 

『ん? ああ、三年の石倉だ。話は聞いている。先生にも協力するように言われているから、質問に応じるのは問題ない。で、何が聞きたい?』

 

 ICレコーダーから聞こえてきた音声を聞いて、バスケットボール部所属のメンバーが全員口を揃えて「キャプテン……」と呟いている。当然だろう。話を聞くなら部を纏める人物に聞くに決まっていた。

 

『では、最初に須藤、小宮、近藤の、普段の練習態度について聞かせて頂いてもよろしいですか?』

 

『あの三人か……そうだな、須藤は上手いな。毎日しっかり練習してるし才能もある。あいつなら夏前にレギュラー入りするかもしれない。小宮と近藤は、実力は何歩か劣るが、それよりも素行があまり良くないな。須藤も五月くらいまで喧嘩っ早い所があったが、最近は垢抜けたのか落ち着いてきた。小宮と近藤ももうちょっと落ち着けばいいんだが……』

 

『素行が悪いというのは?』

 

『他人にちょっかいをかけることが多い。同学年の須藤を目の敵にする気持ちはわかるが、練習中に一々突っかかってたらいくら時間があっても足りないだろうに。他人をうらやむ前に練習しないと上手くなるものも上手くならない』

 

『小宮と近藤は、須藤にちょっかいを出していたんですね?』

 

『ああ、他にも見ている奴はいるだろう。あいつらは声が大きいからすぐわかる。その都度注意はするが、なかなか直らないな。まだ中学生気分が抜けてないという感じだ』

 

『ありがとうございます。では、事件当日、須藤が呼び出しを受けた、または呼び出したのを見た人はいませんか?』

 

『……俺は見ていない。部員にも話を聞いてくるから少し待っていてくれるか?』

 

『はい。もし居たら連れてきて貰ってもいいですか?』

 

 遠ざかる音と共に『ああ』と言う声が聞こえてきた。それからしばらく間が開き、部長が帰ってくると再び音声が生徒会室に響く。

 

『待たせたな。思ったより身近に見てる奴がいた。こいつは副部長なんだが、こいつが須藤が小宮たちに呼び出されてるのを聞いたらしい』

 

『一年Dクラス、綾小路です。お話を聞いてもよろしいでしょうか?』

 

『あぁ、須藤が呼び出された時の話だろ。部活が終わった後、着替えてたら小宮と近藤がなんか声かけてたよ。ちょっと面貸せやってな。あいつらマジで口悪いよな。たまに二年にもため口利くときもあるし』

 

『小宮と近藤が、須藤を呼び出していた、これに間違いはありませんね』

 

『ああ、俺の他にも何人か見てるよ。連れてくるか?』

 

『いえ、その証言だけで十分です。ありがとうございます』

 

 ここで音声を切り、Cクラスの面々に向き直った。

 

「これは当然無加工です。バスケットボール部の方々に確認を取って貰っても構いません」

「ふむ、この音声から判断するなら、Dクラスの主張が今の所正しいな」

「待ちたまえ、音声は加工が出来る。証拠にはならないのではないかな?」

 

 Cクラス担任の坂上が思わず声を上げる。

 

「だから、確認をしてもらって構わないと言っています。それに、まだこちらの質問は終わっていません」

 

 坂上、乱入してきたお前には悪いが、まだオレの質問フェイズは終了してないぜ。

 

「質問を再開させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、綾小路くん」

「この音声だけでも、勿論疑問点は多々あります。ですが、それは一旦置いておきましょう。小宮、近藤は須藤に呼び出されたそうですが、どうしてその場に石崎も居たのですか? 彼はバスケット部員ではありませんし無関係のはずです」

「そ、それは……用心のためだ。須藤が暴力的だというのは噂になっていたし……」

 

 先程の音声で嘘がバレ始め、どう対応して良いかわからないのか、元々の筋書き通りの答えを返したようだな。顔が真っ青になっている。おまけにオレに釣られて敬語も消え始めた。

 

「つまり、暴力を振るわれるかも知れない、そう感じていたと?」

「そ、そうだ」

「成程、それで中学時代に喧嘩が強かったという石崎を用心棒代わりとして連れて行ったんだな? いざという時は対抗できるように」

「じ、自分の身を守るため。それだけだ。それに、石崎くんが喧嘩が強いことで有名なんて知らなかった。ただ、頼りになる友達なので連れて行っただけで」

「おかしくないか? 喧嘩慣れした石崎を含め、お前たちは三人もいたのに、須藤一人に一方的にやられるなんてことがあり得るのか?」

「それは僕たちに喧嘩の意思がなかったから……」

「では、何故石崎を連れて行った? お前たちに喧嘩の意思がないのなら、石崎を連れて行く必要はないはずだ」

 

 そう、そこが、今回の話を聞いたときに思った最大の矛盾点だった。

 

「小宮は先程、自分の身を守るために石崎を連れて行ったと言いました。では、彼まで一方的に殴られているのは何故でしょうか? 本来、ボディガードとして、小宮と近藤に喧嘩をする意思がなくても、石崎だけは戦わなければならないはずです。それが、彼がそこに呼ばれた理由なのですから」

「そ、それは……」

「でも、彼もまた無抵抗で殴られたと主張しています。その腕を見込まれて呼ばれた人間が無抵抗に殴られる。これはおかしくはありませんか? まるで、自ら殴られようとしているようにも思えます」

「喧嘩をすると、クラスポイントに影響が出ると考えたからです! 石崎くんを呼んだのは、彼がいるだけで喧嘩を回避できるんじゃ無いかと考えたからです」

 

 小宮が言葉に詰まると、今度は近藤が庇うようにそう叫んだ。もう破れかぶれになっているな。

 

「話は少し変わりますが、石崎は先月にBクラスといざこざを起こしています。彼がBクラスの生徒に恫喝している姿を何人もの生徒が目撃していました。素行について、彼が噂通りの性格をしている裏付けと言って良いでしょう。そんな問題になった彼の行動を、小宮、近藤の二人は何も知らなかったのですか?」

「それは……」

「はい……」

 

 ここで知っていたと答えれば、石崎が無抵抗で殴られたことに違和感が出る。小宮、近藤も知らないフリをするしかないだろう。

 

「本当にそうだとしたら、坂上先生。先生はその問題についての注意をクラスでしなかったということでしょうか? 他クラスとの問題です。規模こそ大きくはないかもしれませんが、常識で考えるなら生徒に注意を促すのが普通のことでは?」

 

 遂に、問題は坂上にも及んだ。

 

 しかし、坂上は何も言うことが出来ない。オレの言葉に反論すれば、Cクラスの意見に矛盾が出てくる。かといって肯定すれば、自分が無能だと認めているに等しいので口を開くことが出来ないのだ。

 

 黙ってこちらを睨み付けてくる坂上。対する我らがティーチャーは顔を横に向けて笑いを堪えていた。おい、笑ってんな。無能さでいえばお前も同類だぞ。忘れん坊将軍。

 

「何より気かがりなのは、そんな喧嘩っ早い石崎が殴られて反撃一つしないなんてことが本当に有り得るのでしょうか? Bクラスとのいざこざを聞く限り疑問です」

「現に僕たちは怪我をしています! 対する須藤くんは傷一つありません! 彼は非常に暴力的で、無抵抗なこといいことに、僕たちに容赦ない暴力を振るってきた! それが真実です!」

 

 焦りからか、大声が出てきた。余裕が無くなってきた証拠だ。

 

 しかし、オレもこれ以上の発言は目立ってしまう。目線で櫛田に合図を出し、手を上げさせると同時に後ろに下がった。

 

「発言よろしいでしょうか?」

「どうぞ、櫛田さん」

「その怪我についてですが、こちらは否定しています。先に仕掛けてきたのがCクラスであることは先程の音声データが証明していますし、こちらには事件の一部始終を見ていた生徒もいます」

「では、Dクラスから報告のあった目撃者を入室させてください」

 

 声をかけられると、少し緊張した様子の佐倉が生徒会室に入ってくる。手を繋いでいたおかげか、多少落ち着きはないようだが先程よりはマシになっていた。

 

「1年Dクラス、佐倉愛里さんです」

「目撃者がいるというので何事かと思いましたが、Dクラスの生徒ですか」

 

 櫛田が佐倉の紹介をすると、先程の仕返しとばかりに、こちらを馬鹿にした表情を浮かべる坂上。

 

「何か問題でもありますか、坂上先生」

「いえいえ、失礼しました茶柱先生。どうぞ、進めて下さい」

 

 坂上は失笑し、こちらに先を促した。

 

「では、証言をお願いしてもよろしいでしょうか。佐倉さん」

「は、はい。私は確かに見ました。Cクラスの人たちが、須藤くんにいちゃもんをつけていて、須藤くんが呆れて帰って行くのを、間違いありません……!」

「すまないが、私から発言させて貰ってもいいだろうか?」

「どうぞ、坂上先生」

「佐倉くんと言ったね。私は君を疑っている訳ではないんだが、それでも同じクラスからの目撃者となると、どうしても須藤くんを庇うために偽の証言をしていると言わざるを得ない。あの時間に偶然特別棟にいた可能性はゼロではないが、やはりどうしても不自然さが目立つからね」

「そ、それは、写真を撮るためです。あの日、自分を撮るために人の居ない場所を探していました」

「自撮りねぇ」

「しょ、証拠もあります! 私が、あの時特別棟にいた証拠が!」

「では、佐倉さん。その証拠を提示して下さい」

 

 佐倉は「はいっ」と大きな声で返事をすると、証拠写真を机に叩き付けた。

 

「これが、私があの日、特別棟に居た証拠です……!」

「……会長」

 

 佐倉が机に出した写真を橘が、会長の元へ持って行く。写真を確認すると、すぐにこちらにも見えるように机の上に並べ始めた。

 

「私は……あの日、自分を撮るために人の居ない場所を探していました。その時に撮った証拠として日付も入っていますっ」

 

 写真は佐倉の自撮りを含め、須藤を囲む3人や、殴り掛かる石崎、そして帰ろうとする須藤まで、その全てがその写真には収められている。写真内で須藤は殴っていないのでまだ三人は怪我もしていない。

 

「これで……私がそこにいたことを、信じて貰えたと思います」

「だが、写真などいくらでも加工できる。絶対的な証拠にはなりません」

「そうでしょうか? 先程の音声データ、Bクラスからの証言による矛盾、この写真、三つも証拠があるのにそれを否定するのは難しいと思いますが?」

 

 今度は櫛田が、坂上を追い詰めて行く。

 

「むしろ、私はCクラスがした怪我こそが、自分たちの自作自演だと思っています」

「つまり、うちのクラスの生徒がわざと自分で怪我を作ったと? 馬鹿馬鹿しい。何故、そのようなことをする必要があると言うのですか?」

「須藤くんは顧問の先生からレギュラーにするかもしれないという話が上がっていました。停学になれば、その話も白紙になります。十分な動機だと思いますが?」

「そのレギュラーの話も、まだ可能性があるという段階でしょう? 未確定の情報に対して、自演までして妨害する利点がうちにはありません。仮に須藤くんがレギュラーとして活躍したとしても、うちに直接的なデメリットがある訳ではないんですよ?」

「それは、そうですが……」

 

 流石は教師だけあって口が上手い。雪なら、喧嘩っ早い印象がある須藤を利用して、Dクラスのマイナスを狙っている可能性がある――と、上手く反論できただろうが、付け焼き刃の櫛田ではそこまで追及するのは少し厳しいか。

 

「そもそも学生同士であるなら、そんな卑怯な真似ではなく互いに切磋琢磨して勝ち取るのが道理というものです。だからこそ、我々はこうして訴えを出している。学校側も、それを理解してくれたからこそ、うちの被害届が受理されたのですよ」

「それは……」

「とはいえ、お互い怪しい点があるのは確かです。しかし、今まで出た証拠では本当に須藤くんが殴っていないのを証明できない。あの写真にしても、戻ってきて殴った可能性はあるはずです」

「ッ! では、音声は? あれは間違いなくバスケットボール部からのものです。あれを否定できますか?」

「確かに、多少の勘違いはあったかもしれません。ですが、彼が殴った。それはどの証拠でも否定できません」

 

 やはり、そう逃げるか。

 

 佐倉が自作自演のシーンを写真に収めてくれていれば逃げる隙もなかったのだが、世の中そう簡単にはいかない。

 

「どうでしょうDクラスの皆さん。このまま続けても話は平行線です。確かに、こちらにもいくつかの落ち度はあった。呼び出しの勘違いや、1人は喧嘩慣れしている過去を持っているそうなので、それは問題でしょう。しかし、そちらも須藤くんが殴ったという事実は完全には否定できない」

 

 坂上の言うことは正しかった。確かに、今までの証拠や証言では、かなりCクラスを黒くは出来ても、完全に黒と証明することは出来ない。

 

 後一つ。

 

 後一つ決定的な証拠が出てくれば、完全にCクラスを黒にすることが出来る。

 

「そこで、落としどころを模索しましょう。お互いに悪かったということで、Cクラスの生徒たちに1週間の停学。須藤くんに2週間の停学。それで如何ですか? 罰の違いは、相手を傷つけたどうか、その違いです」

 

 妥協点としては悪くはないが、受け入れれば敗北と同義だ。これが原作ならまだしも須藤は殴っていない。これが成立すれば、冤罪もまた成立してしまう。

 

「申し訳ありませんが、私はDクラス代表として、須藤くんの完全無罪を主張します。何故なら、この事件はこちら側から起こしたものではなく、Cクラス側が仕組んだ意図的な事件だと確信しているからです」

 

 しかし、櫛田も引かなかった。普段の櫛田ならもっとお互いに利のある和解の道を選んだもしれないが、今はオレの命令で徹底的に反論するように命じてある。

 

 だが、このままでは永遠に平行線だ。そろそろ来てもいい頃なのだが―――と、考えていると、ここでようやく用意しておいた最後の切り札が現れたようで外から足音が聞こえてきた。

 

「失礼します!」

 

 ガラッと大きな音が立てられ、生徒会室の扉が開かれる。声の方に振り返ると、そこには息を切らした一之瀬が立っていた。

 

 待っていたぞ――お前が来るのを。

 

「1年Bクラス、一之瀬帆波です。審議中に生徒会室に踏み入る無礼をお許し下さい」

 

 そう一之瀬が名乗りを上げて、生徒会室の中へ入ってくる。手には携帯端末を持っていて、それを堀北兄に見せつけるように差し出していた。

 

「現在、我々一年Bクラスは、須藤健くんの事件に対し、Dクラスに協力をしている立場にあります。それは聞き込みや貼り紙、ネットや掲示板を使った情報収集を主にしていて、今さっき、とても無視できない大きな証拠が私の手元に送られてきました」

「……会長、いかがしますか?」

「構わん。丁度、話も平行線だった所だ。その証拠を見せろ、一之瀬」

「はい。送り主は一年Aクラス、神室真澄さん。内容は事件当日のものと思われる二つの映像データです」

 

 そう言うと、一之瀬は最初のデータを再生した。

 

『――で俺がお前rのいうkとkいてレギュラーのzを蹴らなきゃいけないnだよ』

 

 遠くから撮っているようで、かなりのノイズ音が混じって音が割れているが、須藤と思われる声が途中から聞こえてくる。拡大しているせいか画質も荒いが、映像でも須藤をCクラスの三人が取り囲んでいた。

 

『Dクラスのふりょhんが調子にnるな』

 

『痛いmnたくなkゃ、さtさとバスケ部をやめr!』

 

『ふざけnな! 俺は実ryくでレギyラーに選ばれtんだ! いちゃmんしか付けてこないお前rにmn句を言われる筋合いはnぇ!』

 

『そrが我慢dきねぇって言ってんだ! Dクラスのおtこぼれがレギュラーdと、ふざけるな!』

 

 声は所々途切れて聞こえるが、それでも須藤を三人が挑発しているのは間違いない。

 

 見ると、石崎が須藤に殴り掛かろうとして、須藤がそれを避ける姿が流れている。キレそうになってはいるが、それでも須藤は手を出していなかった。

 

『チッ、付き合ってrんねぇな。俺はkらせてmらうぜ』

 

『待て、この不良品! mジでいtい目見たいようdな』

 

『ケッ、kってにやってろ』

 

 いくら挑発されても、映像内の須藤はそのまま何もせずに帰っていく。その後、動画が一度切られた。

 

「もう一つの方には、Cクラスの三人がその場で殴り合いを始めた映像が入っています」

 

 そう言って、一之瀬は二つ目のデータも再生し始める。

 

『……チッ、須藤g殴っtこnかったのh予想外だtたが、これも想定n範囲だ』

 

『yるのか?』

 

『あぁ、tっと痛いkd勘弁sろよ。俺も痛いnだ』

 

 少しの会話の後、石崎が小宮と近藤を殴って怪我をさせる。続いて、小宮と近藤も、石崎を殴って怪我を作っていた。

 

 二つ目は短い映像ですぐに止まったが、もはや言い逃れは出来ないだろう。Cクラスの面々は映像が荒く音割れがしていても自分たちが言ったことに心当たりがあるのか、顔を伏せて黙り込んでいた。

 

「少しわかりにくいかもしれませんが、これはCクラスの訴えが冤罪であるという決定的な証拠です。本来、他クラスである私がこの場に乱入することは許されないことですが、これを伝えないで須藤くんに罰が下るのを見過ごすわけには行かないと判断しました。もし、この件で罰が与えられるなら、Bクラスでは無く、私個人にお願いします」

 

 そう言って、頭を下げる一之瀬だが、今は堀北兄を含めた全員がそれどころではない。当然だろう。本来ならば、あるはずのない証拠が飛び出してきたのだ。

 

 勿論、これは作り物ではない。実際に、あの場で録画した映像だった。

 

 原作知識があるオレだからこそ、本来ならば手に入れるのが不可能な証拠だって手に入る。事件が起きた日、神室を食べるのを断腸の思いで我慢して特別棟に張り込み、佐倉とは別の場所に隠れて撮った物的証拠だ。これならば、もう逃げることなど出来ないだろう。

 

「映像も荒いし音割れも酷いが、確かに須藤たちだな。それも、Dクラスが主張した内容だ」

 

 堀北兄がそう言って、Cクラスの方を見る。しかし、もうCクラスには反論する気力もないのか、青い顔をして下を向いているだけだった。

 

「え、映像や音声などいくらでも加工できる! 情報提供者がDクラスとグルになってCクラスを嵌めようとしているのです!」

 

 凄いぞ坂上、正解だ。

 

 だが、その言いがかりには証拠がない。オレがわざわざ自分の手で証拠としてこの映像を提出せずに、わざわざ神室を経由させたのは、第三者からの動画という強力な武器に変えるためだ。

 

「一之瀬については罰を与えるつもりはない。これは審議に値する理由だった」

「……ありがとうございます」

「しかし、情報提供者が1年Aクラスの神室真澄か――この中で、神室と知り合いの者はいるか? 実際に話が聞きたいので連絡をつけたいのだが……」

「あっ、私が連絡先を知っています」

 

 と、櫛田が手を挙げる。すると、そこを勝機と見たのか、坂上がそれ見たことかと言わんばかりに声を上げた。

 

「敵であるAクラスの生徒の連絡先を知っているなどおかしくはないかね!? その神室という生徒と協力してCクラスをハメようとしているんだろう!」

「坂上先生、証拠もない言いがかりは止めてください。私は、他のクラスの子とも仲良くしたくて連絡先を交換していただけです」

 

 ほら――と、櫛田が携帯の連絡先一覧を見せる。そこには、神室以外のAクラスの生徒や、Bクラス、Cクラスの生徒の名前までびっしり登録されていた。

 

 これには坂上も反論できないようで何も言えなくなる。まぁ、実際には坂上が正しいんだけどな。

 

「櫛田、本人から話が聞きたい。連絡を付けられるか?」

「電話してみます。出てくれるかどうかはわかりませんが……」

 

 堀北兄のお願いで神室に連絡を取る。

 

 当然ながら、神室は全ての事情を知っているのでワンコールで電話に出た。

 櫛田も、こうなることはわかっていたので、多少の説明をすると、すぐにスピーカーモードにして携帯をテーブルに置く。これで、神室の声が全員に聞こえるようになった。

 

『神室ですけど。何かあるなら、どうぞ』

 

 言葉数少なく神室がそう言うと、坂上が早速とばかりに身を乗り出す。

 

「一年Cクラス担任の坂上だ。君かね、こんな巫山戯たデータを送ってきたのは」

『巫山戯たデータ? 何を言っているのかわかりません。私は、冤罪をかけられた可哀想な生徒の無罪を証明したかっただけですよ』

 

 嘘くさいことこの上ないな。

 

『まぁ、本当は関わる気など全くありませんでしたけどね。ただ、たまたま掲示板で情報をポイントで買い取るという書き込みを見つけたから送っただけです。遠くから撮影したから多少映像は悪いですが、これを二万で買ってくれると言うなら送らない理由はありません』

「君があの場に居た証拠はない。これは作られた映像です」

『笑わせないで下さい、坂上先生。私は、この事件の誰とも関わりがないんですよ? 会ったことのない人物の声をどうやって作るんですか?』

 

 そう、神室は須藤にも小宮にも近藤にも石崎にも会ったことがない。それは奴ら自身が証明するだろう。そして、坂上が神室の交友関係を知らない以上、推測でしかものを言えなかった。

 

「君とDクラスの櫛田くんは知り合いのようではないか。二人で共謀して、Cクラスをハメようとしているのだろう!」

『確かに、私と彼女は友達ですが、それが共謀する理由にはなりません。先生もご存知だと思いますが、今Aクラスのクラスポイントは1000を超えています。対するCクラスは500以下、Dクラスに至っては200以下です。わざわざDクラスと共謀してCクラスをハメる必要などないのでは?』

「友達である以上、情で動く可能性だってある!」

『それは憶測ですよね? それに実際、私は掲示板でポイントが貰えると知ってから動きました。もし最初から共謀していたのなら、私自身がそこに赴いてDクラスの無罪を訴えた方が有利なのは先生にもお分かりだと思いますけど?』

 

 そう、仮に協力していたのなら、こんな一か八かの手段に出る必要などなかった。

 

 神室が動画を送っても一之瀬が気付かない可能性もあるし、一之瀬がこうして審議の場に来ない可能性もある。そんな賭けをするくらいなら、神室の言う通り直接彼女をこの場に呼んだ方が安全で確実――それが、迷彩となる。

 

 実際は、一之瀬はギリギリまで証拠を探すだろうし、証拠が手に入ればこうしてやってくることは、原作の性格からわかり切っていた。

 

 だが、坂上にはそれがわからない。

 

 だからこそ、神室の言葉が真実に聞こえてくる。こんな状況で一か八かの賭けをする必要もないという常識が、この不完全な証拠を完全な証拠に変化させた。

 

 この証拠をオレ自身がそのまま提出しても大した効果は発揮されない。佐倉の写真同様、Dクラスが作った偽物呼ばわりされるのが落ちだろう。

 

 しかし、表向きは他人である神室を経由することで、この証拠は力を持つ。おまけに、神室から一之瀬を経由することで、他人から他人へ証拠が動き――全員が繋がっているとは思いにくくなる。

 事実、一之瀬は繋がっていないし、裏で繋がっているのはオレとセフレたちだけだが、それが坂上には迷彩として強く働く。常識ではまず有り得ない理のない行動が、坂上の反論を防いだのだ。

 

「坂上先生。決定的な証拠が出てきた以上、それを偽物だと言っても説得力がありません。今までの証拠は確かに決定打になり得ませんでしたが、この映像が偽物だという証拠がない以上、今回の証拠は証拠足り得ます。あなたたち、Cクラスの怪我が本当の怪我と処理されたようにね」

「ぐっ!」

 

 堀北兄がそう結論付けると、坂上も言葉が出ないのか、反論できずにいる。

 

 結局、坂上の推測には証拠がない。

 

 須藤が殴っていないということをこちらが証明できないように、今の坂上にはこの証拠を偽物だと証明することが出来なかった。まぁ、映像自体は本物なので証明できなくて当然なのだが――

 

 神室も、もう要件は済んだと判断したのか、通話を切断したらしい。スピーカーから、ツーツーという、電話が切れた音が聞こえてきた。

 

「………………」

 

 しばらく目を閉じ、何かを考えていた坂上だが、どうあがいてもこの状況を引っくり返すことなど出来ないと悟ったのだろう。諦めたように、堀北兄の方へ向き直った。

 

「……今回の件、生徒を正しく指導できなかった私の責任でもある。温情を期待したい」

「では、Cクラスは自分たちの非を認め、今回の件は冤罪だったと認めるのですね?」

「せ、先生……」

「小宮くん、近藤くん、石崎くん、これ以上の抵抗は退学も有り得ます」

 

 助けを求めるような声を出した小宮たちだが、坂上が突きつけた現実に心が折れたのか、ガックリと頭を下げる。これで、チェックメイトだ。

 

「……僕たちが須藤くんを呼び出しました。殴られたのも嘘です。すみませんでした」

 

 目撃者、証拠、そして自白――全てが揃い、Cクラスは敗北を認めた。

 

 その言葉を聞き、須藤がざまあみろという顔をして、佐倉も勝ったことを喜んでいる。一之瀬もやったという表情を浮かべ、櫛田や雪もやりきった――と一息をついていた。

 

「では、これにて審議を終了する。Cクラスの小宮、近藤、石崎の三人は、明日から三週間の停学、そしてCクラスは150のクラスポイントの削減。被害者であるDクラスには削減した150のクラスポイントを付与する。以上だ、解散」

 

 思った以上に軽い罰則だ。冤罪をしかけようとしたのだから、もっとマイナスがあるかと思ったが、最後の坂上の言葉が余計だったな。しかも、明日から三週間だと三人はギリギリ無人島編には参加出来る計算だ。

 

 代わりに、坂上には何らかの処罰が下されるのだろうが、坂上に罰が下ってもDクラスとしては別に旨味は何もないので意味がない。

 

 こちらにとって最高のパターンだったのは、この三人を退学させ、Cクラスからポイント奪った上で退学のマイナス300でCPを0に追い込み、Dクラスのポイントを大幅にプラスしてもらうことだったのだが、坂上の機転で逃げられてしまった。だが、それでも勝ちには変わりはない。

 

「これで須藤くんの無実は証明されました。今日から部活動にも参加できますよね?」

 

 Cクラスの生徒と坂上が退出していく中、櫛田が茶柱にそう確認する。

 

「勿論だ。青春に励むと良い。良かったな須藤」

「へへっ、当然だぜ」

「おそらく、綾小路辺りに言われているだろうが、私からも一応言っておく。今回の事件は、お前のこれまでの行いが招いたことだ。一歩間違えば、お前の停学も有り得た。だが、中間テスト以降、お前が態度を改めようとしているのは知っている。これからもその気持ちを忘れるな。いずれ、結果は付いてくる」

「あぁ、わかったっすよ先生」

 

 茶柱の言葉に真剣に頷くと、改めて須藤がこちらに向き直った。続けて、今までの須藤ならまずしないと思うほど深々と頭を下げてくる。

 

「綾小路、椿、櫛田、佐倉、本当にありがとな」

「一之瀬にも礼を言え。こいつが来てくれたのが決め手になった」

「あぁ、ありがとう」

「いいのいいの、困ったときはお互い様だよ」

「俺、絶対レギュラー取るからよ。期待しててくれよな」

 

 そう言って須藤は「じゃあ、部活行くからよ」と、生徒会室を出て行く。原作の面影が殆どなくなって、ただのバスケ少年になってしまったな。

 

「佐倉もお疲れ様。お前のおかげで助かった」

「綾小路くんも、お疲れ様……逃げなくて良かった」

 

 全てが解決して安堵したのか、佐倉も小さく笑っている。しかし、すぐに真顔に戻り、何やらふっきれたような表情でこちらを見てきた。

 

「あの、綾小路くん、今度相談したいことがあるんだけど……いいかな?」

 

 おそらくは、原作でもあったストーカーの件だろう。断る理由はないのですぐに頷いた。

 

「勿論、いつでも話を聞く」

「ありがと。今日は大変だったから、また今度ね」

 

 そう言うと、佐倉が笑って生徒会室を出ていく。どうやらもうここも閉めるようなので、オレたちも一緒に外に出ていくことにした。

 

「綾小路」

 

 そのまま、櫛田や一之瀬と一緒にこの場を去ろうとすると、堀北兄が声をかけてくる。後ろでは橘が雪と一緒に生徒会室の戸締りをしていた。

 

 無視してもいいのだが、向こうからこちらに来られても面倒くさいので仕方なく呼び出しに応える。オレが合流すると同時に、橘や雪もこちらにやってきた。

 

「どうした? 生徒会長」

「こら! 敬語を使いなさい、相手を誰だと思っているんですか!」

 

 と、初対面の橘がオレの言葉遣いを諫めてくる。しかし、当の堀北兄は気にした様子もなく話を続けた。

 

「いや、今回の審議での動き、見事だった。よくぞあそこまで証拠を取りそろえたものだ」

「正義は必ず勝つんですよ」

 

 一応、橘に気を使って敬語を使う。すると、雪も嬉しそうな顔でオレの傍に寄ってきた。

 

「だから言ったじゃないですか会長。清隆なら大丈夫だって」

「正直、お前たちが動いている以上、Dクラスが勝つとは思っていた。だが、まさか事件の映像を用意してくるとはな」

「運が良かったんですよ」

「だろうな。しかし、お前も事件現場にいたとは思わなかった。偶然とは本当に恐ろしいものだ」

「あれは神室が撮ったものですよ?」

「あの映像は地面から170㎝ほど離れた位置から取られていたものだった。もし、女子があの動画を撮ったのだとしたら、余程高身長でない限りカメラを持った手を頭より上に持って行かないと無理だろう。わざわざそんな高さでカメラを構える意味などない」

 

 カメラの映像と地面の位置から高さを逆算したのか。確かに、神室がバンザイしながら映像を撮るなんて有り得ない。この手のことに精通している男子で他に当てはまる人間などオレ以外にはいないという推測は間違っていなかった。

 

 流石はお兄様。さすおに!

 

「……どうだ綾小路、改めて生徒会に入る気はあるか? 今なら副会長の席を用意する」

「ちょっ! 前代未聞ですよ! 1年のそれもDクラスで、こんな失礼な男の子がいきなり副会長なんて!」

「雪がいれば十分でしょう?」

「しかも遠回しに断ってるし!」

「使える人間は多ければ多いほどいい。それに生徒会長のオレが言うことではないかもしれないが、来年からこの学校は望まない方向に変わるだろう。その時に規律を守るため、今から対抗できる勢力を作っておかなくてはならない。椿やお前のような実力者を入れてな」

「会長、それって南雲くんが生徒会長になった場合のお話ですよね? 私には彼が悪い学校を作るようには思えませんが……」

 

 実際、南雲はそこまで悪いことはしない。橘は危うく退学にさせられるが、原作でも生徒会長としてそこそこ優秀に仕事をしていたしな。

 

「何であれ、オレはやらない。あんたは卒業してこの学校を出る、それだけだろう。残された生徒の心配なんてする必要はない。それとも――妹が心配だから手を貸してくれ、と言うなら相談に乗る余地はあるかもしれないけどな」

「……そうか」

 

 そう言うと、完全に諦めたようで、堀北兄はそのままこちらに背を向けてくる。

 

「何かあったら、いつでも連絡しろ。生徒会長である前に、俺もここの一生徒でお前の先輩だ。何かと手を貸してやることも出来るだろう」

「それは嬉しいな」

「また言葉遣いが元に戻ってる……君、もう少し発言には気を付けた方がいいですよ。この方をどなたと心得てます? 恐れ多くもこの学校の生徒会長ですよ!」

「橘先輩っ! 会長もう行っちゃってますよ!」

「えっ!? あっ、待ってください会長!」

「じゃあ、清隆また後でね!」

 

 慌てたように堀北兄を追う橘と、ウインクをして走っていく雪を、手を振って見送る。それを見て、こちらの話し合いが終わったとわかったのか、櫛田と一之瀬が歩いて来た。

 

「一之瀬も、改めてありがとな。しかし、罰が与えられるかもしれなかったのに、わざわざ乱入までしてくるとは……」

「正直、無謀だよね」

「にゃはは、でもあんなに凄い情報が手に入ったんだもん。黙ってるなんて出来ないよ」

「だが、おかげで助かった。坂上が無理な言い訳で逃げようとしていて決定打が欲しい所だったんだ」

「でも、まさか神室さんを経由してくるとは思わなかったよ」

「表向き、オレたちとあいつは無関係だからな。Cクラス担任の坂上が、こちらの裏を知っているはずもない。あれのおかげで証拠に信憑性が出た」

「でも、あんな映像どうやって撮ったの?」

「そうだよね。須藤くんが呼び出されるってわかってないと絶対に撮れないと思うんだけど……」

 

 と、一年でも二大天使と名高い美少女二人が疑問の視線を向けてくる。しかし、原作知識だという訳にもいかないので、ここはスルーしておくことにした。

 

「そういえばあの映像、一つ二万で買ったんだろう? 他にもポイントは使っているはずだ。今回の件でかかった費用はDクラスで補填するから、後で使ったポイントを請求してくれ」

 

 無表情で話を逸らす。オレが話す気がないとわかると、二人が同時にため息を吐いた。

 

「……別にいいって言ってるのに」

「でも、ただでさえ借りがあるのに、これ以上増やす訳には行かないのは確かだね。この手の清算はきっちりしないと、後で問題になるし」

「櫛田さんも同じタイプかぁ……わかったよ。今度、綾小路くんにメールする」

 

 渋々一之瀬が納得する素振りを見せる――と、同時に、カツカツカツと、わざと廊下の音をさせて一人の男がやってきた。

 

 肩まで伸びた長髪に、気の強そうな強面――それを見た一之瀬が驚いた表情をして、小さく「龍園くん……」と呟いている。当の龍園は、櫛田と一之瀬の姿を見ると、口元をニヤつかせてこちらに歩いてきた。

 

「まさか、あそこまで証拠を取りそろえてくるとはな。どこまでが本物だかわかったもんじゃねぇが、こっちも嘘をついていたんだ。嘘をつかれても仕方ない。Dクラスが思ったよりも楽しめそうでよかったぜ」

「それはどうも。でも、こちらは少し歯ごたえがなかったかな。今回は龍園くんが出てこなかったし。次はもう少し面白いものを期待してるね」

 

 櫛田が一歩前に出て相対する。オレがこの場で目立たないように、自分に注意を惹きつけようとしてくれているのだろう。

 

「ハッ、言うじゃねぇか。流石はDクラスのリーダーってことか」

「私だけじゃないよ。今回は、一之瀬さんや神室さんたち、他のクラスも助けてくれた。でも、適当に考えた冤罪なんか、そう簡単に通用しないってことは覚えておいた方がいいかもね」

「ハッ。言うじゃねぇか。いずれ、お前も一之瀬も俺が片付ける。精々楽しみにしておくんだな」

 

 櫛田のおかげもあって、オレという存在には特に反応もなく龍園はそのまま通り過ぎて行った。ここで目立つのは避けたかったので嬉しい誤算だ。

 

「まさか龍園くんが直接来るなんて……」

「龍園? それがさっきの男の名前か」

「うん。前にBクラスがCクラスと揉めたって話はしたでしょ? その時、裏で手を引いていたのが、あの龍園くん」

「知ってるか?」

「一応ね、Cクラスを支配しているリーダーで、結構暴力的なことも多用するタイプってくらいだけど」

 

 こちらが知らないフリをすると、櫛田がざっくりとした情報を教えてくれた。

 

「そうなんだよ。でも彼自身は、目立った行動はしてないからね。綾小路くんが知らなくても無理はないよ」

「一之瀬がそんな顔をするってことは、かなりのやり手ということか」

「私が一年生の中で最も警戒してる生徒の一人だよ。須藤くんを嘘つきに仕立て上げようとしたことも、Bクラスの時と同じで全部彼の仕業だと思う。自分の利益の為なら他人を陥れようとすることも迷わない人物……相当手ごわいよ」

「まぁ、龍園くんが危ない人っていうのは話していてわかったけどね」

 

 櫛田も地味にプレッシャーを感じていたようで苦笑いを浮かべている。しかし、最後までハッタリをバレずに済ませたのは流石としか言いようがなかった。

 

 しかし、堀北兄、龍園と、今日は千客万来だな。

 

 ぶっちゃけ、男からの求愛などノーセンキューだが、櫛田と一之瀬がいるというこの状況を逃す手はなかった。

 

 雪経由で最近オレが3Pも普通にやることを聞いていたのか、櫛田と一之瀬の肩を抱くと、二人とも恥ずかしそうにしながら一緒にオレの部屋に帰っていく。今日は須藤の無罪を勝ち取った記念に、頑張った二人にはTレックスというご褒美を上げることにした。

 

 

 




 本文の変化点。

・清隆が特別棟に張り込んでいた。
 本文では神室を食べているが、断腸の思いで証拠を取りに行った。これを一之瀬経由で神室に送らせて切り札としている。

・審議でCクラスを倒した。
 結果、Cクラスの三人を三週間の停学、CPを150奪っている。退学が-100CPなので、停学で-50CPにしています。独自解釈です。


 ※もしも、Cクラスを審議で倒した場合のIFでした。このルートを進んだ場合、CPの辻褄合わせで干支試験の話が多少変化しますので、そちらも2話更新します。


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