私と貴女と珈琲をめぐる百合掌編です

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私と、貴女と、珈琲と

「30歳までお互い独身だったら、結婚しよう」なんて。

 

貴女とふざけてそう言いあったのは、一体いつのことだったか。高校時代の部活からの帰り道かもしれないし、あるいは大学時代に一緒にお泊り会を開いた時だったかもしれない。はたまた、貴女が就職で京都に行って、休みが被った時に河原町で一緒にお酒を飲んだ時だった時かもしれない。あるいは、また別の時だったかも。

 

思えば、私たちはずっと一緒にいたね。初めて出会った中学のテニス部の時から。私たちは、決して親友というわけじゃなかったと思う。たくさん喧嘩もしたし、たくさんぶつかり合ったりもした。皮肉屋の気のある貴女と、どちらかというと直情型の私では、意見が食い違うこともたびたびあった。そのたびに怒鳴りあい、罵りあったこともたくさんあったように思う。正直なところを言うと、なんだこいつと思ったことも一度や二度じゃなかったし、もう二度と口なんて聞くもんか、なんて思ったことも何度もあるんだよ。

 

それでも、いつの間にか、まあいいかっていう気分になって貴女の隣にいたよ。あなたの隣にいるのは、悪い気分じゃなかったんだ。貴女は決して気配りができない子じゃなかったし、話も面白かった。それに何より博識で、よく私の知らない話をよくしてくれたね。

 

それに。貴女は数少ない小説の話をできる子だった。私と同じく小説を読むのが好きで、小説を書くのも好きだった。たくさん小説についてのアドバイスをもらったし、お互いの小説を見せ合って感想を言いあいっこするのは、すごくワクワクした。覚えているかな、一緒にカラオケに行ったけれど、結局一曲も歌わずにずっと小説の話をしていた時のことを。

 

そして、貴女は珈琲が好きだったね。大学時代、一緒の研究室で家で淹れてくれた珈琲をよく振舞ってくれたことを覚えているよ。生憎私は苦いのが苦手で、砂糖とミルクをドバドバ入れて飲んでいたのを、お子様舌と揶揄ってきたのをよく覚えているよ。

 

でも、そんな私も今では珈琲をブラックで飲めるようになったんだよ。貴女のように。もう30歳も過ぎたからね。

 

でも、貴女は30歳を迎えられなかったね。車にはねられて、病院に運ばれたときにはもう手の打ちようがなかったんだよね。

 

私は一人でも珈琲を入れられるようになったよ。貴女に教えてもらったように。

 

でも、一人で飲む珈琲は美味しくないよ。

 

ああ、どうか神様。もしも願いが一つだけ叶うなら。

 

またいつか、貴女と一緒に珈琲が飲みたいな。


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