お着替えチートで楽しい人生を   作:河藻 乃月(かわも のづき)

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Skin.2 ヒーロー/ヒロインの変身シーンが悪役に邪魔されない理由

 

 転生してから一週間。

 能力の使い方にも慣れ、ある程度普段使いする皮を選別し、それを『収納空間(クローゼット)』の『メインポケット』へ、それ以外の趣味用の皮を『サブポケット』へと収納し、現在は『メインポケット』の皮を着ている。

 

 この皮を着ている時の俺の名はエータ。

 謎めいた美少女魔法騎士で、冒険者として高難度の依頼をいくつかこなして生活費を稼ぎつつ、それ以外の時間はプライベートに費やすミステリアスな秘密主義者、という設定である。

 

「しかし、中身は平々凡々の高校生だってのに、この皮を着ると身体能力も引く程高くなるなあ」

 

 『少女仮装』は望んだ特徴を持つ美少女の皮を生成できる能力と言ったが、その皮を着ると中身の俺の元々の能力に加えて、その皮に与えた設定通りの能力が使えるようになる。

 つまり運動能力や知能は平凡な男子高校生+着た皮で加算され、魔法などは元々持っていないので着た皮の持つ魔法が使える。

 

 この『エータ』の皮は特に深く考えず生成した皮であるが、堅牢な鱗に覆われた20mはありそうなドラゴンも剣の一振りで豆腐のように真っ二つにできたし、そのドラゴンから音速を超える速さで爪を叩きつけられても蚊に刺された程にも感じなかった。

 

 走れば千里も一瞬で過ぎる走力もあったし、その速さで動きながら過ぎ行く風景の一つ一つを正確に認識することができる反射神経もあった。

 

「上手く使わないと化け物扱いされそうで怖いな」

 

 この世界の人間は鍛えていてもドラゴンを倒せるのは上の下ぐらいの上澄みであり、それも2m程のドラゴンが関の山である。

 20m程のドラゴンを倒すのはそれこそ上の中、人々に人外と称される『勇者』とか『大魔術師』とかそういう猛者の領分である。

 

 別の依頼の解決帰りについでに洞窟から顔を出し俺を捕食しようとしたその20m級ドラゴンを討伐してから、何とはなしに街でそのドラゴンの強さを聞いて、これは冒険者ギルドに伝えたら面倒なことになりそうだと判断し、俺の中の秘密とした。

 

「……とはいえ、いつまで隠し通せるか、だよなあ」

 

 『エータ』は今は中の上程度のB級冒険者で通っているが、現在滞在している街「ウトマール」ではB級冒険者はたった9人。

 しかも風来坊の美少女と来たもんだから、街では俺はちょっとした有名人である(当社調べ。ソースは別の皮を着て盗み聞きした街の人の噂話から)。

 

 ただでさえ目立っているのにさらに目立つと、ただ性癖さえ満たせればいい俺の美少女ライフに支障が出る。そう思った俺は能力を隠し、適度に稼いで適度に快適に暮らすことを決意した。

 

「……そうだな、しばらくは別の皮を着て過ごすか」

 

 そう思った俺は、『収納空間』から別の皮を取り出し着替える。

 

 ────そして、時間が止まる(・・・・・・)

 

「相変わらず便利だよなあ、これ」

 

 時間が止まると形容したが、実際は世界の時間はいつも通り流れている。

 どちらかというと俺の方が「お着替えを開始してから完了するまで」の間に補正がかかり、時間の流れを置き去りにするレベルで一時的に加速した俺が経過時間ゼロでお着替えを完了できる、ということ。

 それが俺にとっては相対的に世界の時間が止まったように感じられるに過ぎない。

 

 これは本当に便利なおまけで、強大な敵が現れた時にその場その場で必要な皮を着替える時に、着替えるための「隙」が生じない。

 さらにお着替え中は誰も俺を認識できないため、中身が……つまり正体がバレることはない。

 

「ほい、お着替え完了っと。確かこの皮はロリ魔女っ娘のイメージだよな」

 

 着替えた俺は魔法で生成したピカピカの姿見に今の俺の姿を映す。

 その容姿は見事にチンチクリンな幼女(ロリ)であり、犯罪級に幼く、犯罪級に可愛い。

 ちなみに名前は「ルナ」である。

 

「うーん、可愛い。……ルナ、おにぃちゃんのことだぁ~いすきっ、うふっ。うわ、クッソあざとっ!」

 

 俺以外誰もいない賃貸の一軒家の広間で、自分で自分のロリ仕草に吐き気を催す。

 これでも少女らしい仕草はこなせるつもりだが、幼い子供の仕草はどうにも苦手である。

 中身の冴えない男子高校生の顔がよぎると、途端に今の自分が情けなくなってくる。

 

「いや、何を考えている俺! これこそ美少女への変身願望を持つ過去・現在・未来の紳士達が憧れた風景じゃないか! それを存分に楽しまず何とする!」

 

 そう謎に自分を奮い立たせ、再び姿見でロリ仕草の練習をする。

 そのたびにそのわざとらしさ、あざとさに吐きそうになりながら、その一日はすっかり家の中で「ルナ」の皮で過ごした。

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