お着替えチートで楽しい人生を 作:河藻 乃月(かわも のづき)
────結論から言うと。その日、麗しの勇者フェイはウトマールの役所で行う魔物対策会議に大遅刻した。
時は数十分前に遡る。
「憑依……転生?」
「ああ、俺はこのフェイって女の子の身体に乗り移る形で転生したんだよ。あんたも同じ転生者だろ?」
「いや……俺は俺だ。確かに転生したって点じゃあ俺はそっちと同じだけど、この美少女の姿は誰かに憑依したとかじゃなくて、自分で『皮』を作って着込んでるってことだから」
「……え?」
俺は美少女勇者フェイの正体が同じ転生者であることを本人の口から明かされたことで知り、今こうして対峙していた。
しかしフェイがその少女の身体に男が憑依している形での転生者ということも知り、何やら誤解しているのであろう相手に俺がどういう存在か明かすことにした。
同じ転生者ならバラしても良かろう。そう思って顔の皮をぐいと引っ張り、隙間から覗く中身の『俺』を少し見せる。
フェイはそれを見て鳩が豆鉄砲でも食らったかのような深い困惑の色を顔に出して訝しげに見つめてくる。
「え、それってつまり……あれか、皮モノってやつか。それで今、そうして女の子になってるのか、あんたは」
「まあ、そういうことになるけど」
「…………」
黙りこんだフェイは何か考え込んでいるようだ。
というかやっぱり顔が良いな……今度フェイそっくりの皮を作って着たいところだ
「あんたはさ、男が女になるにあたって、憑依と皮モノはどっちが優れていると思う?」
「は?」
いきなり何を言い出すのだろう。性癖に優劣などないというのに、戦争を起こしたいのか?
「いやさあ、やっぱりTSジャンルにおいてメジャーなのは憑依だし? 霊体になって他人に乗り移るってオカルトでもありがちでイメージしやすいじゃん。
でもさ、皮モノって女の子を一旦皮にするとか、女の皮を作る、ってシチュだけど、それって憑依と比べるとマイナーっつうか、まあメジャーではないよな」
…………どうやらフェイの中の人は極まった憑依好きらしい。
マイナーであるのは分かるので今更キレたりはしないが、しかし何かと比べられて劣っているとみなされるのは我慢がならない。
「まあ、確かにメジャーではないかもしれないけど、人を皮にして着込む怪異の逸話とか探せばわりと世界中にあるし、そこまで見ないシチュではないと思う」
「いや~~~確かにマイナーって程マイナーじゃあないけどさあ~~~でもなあ~~~『憑依』っていうジャンルと比べるとなあ~~~」
────前世、俺はスマートフォンでネット掲示板に入り浸り、他の愛好家と共にTSシチュについて語らうことにハマっていた。
その中で他のシチュを蔑ろにしてとにかく憑依シチュこそが「
その時に似た感覚がぼおっと湧き出し、この男──今は女だが──に他のシチュを認める心に気付かせてやりたいと思い始める。
「皮モノはね」
「おん?」
「皮モノはねえ……まず何よりもぺしゃんこにされた女の子『だったモノ』とそれを持つ男が、最終的に可愛い女の子になるというギャップにこそ魅力があるんだよ」
「…………」
「中身のない抜け殻なでろでろの皮が、むさい男でも何でも中身を得ると美少女になる。でもその皮一枚を隔てた中には男がいる。そんな倒錯したシチュエーションが皮モノの最大の魅力だ。
対して憑依は霊体が女の子の肉体にそのまま取り憑くことで男
もうこうなったらヤケだ。既にこの人は俺の家に上がっているんだし、いっそ全てぶちまけてしまおう。
そうして皮モノ好きの
結果、フェイはウトマール役所の魔物対策会議に遅刻することになった。
────あれから、俺とフェイは互いに互いの性癖を尊重し合う親友となり、気が向けば会いに行く程度には仲を深めた。
『麗しの勇者』フェイ
男女を問わず見惚れさせる美しさと可愛らしさを共存させた見事な貌と、圧倒的な戦闘能力を持つ勇者。
中身は元地球人の男。
「憑依(憑依転生)」という形での転生であり、器となった少女は既にある事情から絶望したことで精神的に死んでおり、男はその空っぽな身体に乗り移った。
フェイ(中身)
麗しの勇者……の中身。フェイの肉体から抜け出して別の肉体に憑依することも可能な浮遊霊タイプの霊体。
別人に憑依する時はフェイの肉体の中身が失われる。
そのため器が無防備になるという弱点があった(現在はとある魔法により克服済み)。
憑依シチュのTSが大好きな憑依フリークであり、このシチュで自分だけではなく他人が美少女になることにも興奮する生粋の変態。